皇女戦記   作:山本 奛

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例によって思い付きの一発書きなので、後日修正するかも


帝国印のヤバイ奴(1)

統一歴1928年7月16日

ルーシー連邦首都モスコー クレムリン

 

「…拍子抜け、としか言いようがあるまい」

 

上座に座る男の声に、居並ぶ面々も皆同意の声をあげた。

 

「仰るとおりです、同志書記長」

「まさか無血上陸とは…驚きですな」

「『無防備都市宣言』とは、共和国も考えましたな」

 

そういう彼らの表情は、書記長も含めて実に明るい。なんとなれば――

 

「ようやく、『第二戦線』が構築されますな」

 

 

『第二戦線』

 

 

それは合州国参戦以前から、連邦が求め続けてきたもの。

統一歴1926年の参戦以来、連邦は帝国との戦いの最前線に立っている。

連合王国だって航空消耗戦をやっている?――連邦首脳部に言わせれば噴飯ものだろう。「我々が失った1,000万の将兵と国土を思えば、貴国のそれは誤差に過ぎない」と。

彼らは言う。

「帝国は強い」、と。

戦前の楽観的見通し――多分にイデオロギーに支配されたモノ――は最早跡形もなく、血の束脩を払った連邦こそ、帝国軍の一番の理解者であった。

 

「…だからこそ、資本主義者の力を借りてでも『第二戦線』の構築が必要だ」

 

戦前ならば「反動主義者」のレッテルを貼られ、ラーゲリに叩きこまれたに違いないその発言は、今や連邦の規定事項。

――彼らは学んだのだ。

帝国という総力戦の怪物を退治するために必要なのは、「綱領」ではなく「鋼鉄」、「主義」ではなく「必要」であると言うことを。

ゆえに、彼らは『第二戦線』の構築を要求し続けてきたのだが…。

 

「連合王国め、何が『大陸反攻は慎重に行う必要がある』だ。ふたを開ければ何の妨害も無かったではないか」

「全くだ」

 

――連合王国には失望するばかりだ、と我らが書記長は昨年暮れに宣った。

何しろ連中、『ティー・パーティー作戦』のような襲撃作戦にはご熱心なくせ、肝心の『第二戦線』は待てど暮らせど出来やしない。

 

「よほど海の上がお好きらしい。ならばいっそ国土を放棄して、船上生活に移行しては如何かな?」

 

そんな嫌みが共産党員から漏れたのも宜なるかな。

 

――そして、蓋を開けてみればどうだ?

 

「合州国、連合王国軍部隊とも、順調に共和国北部への展開、軍政を開始した模様です」

「実に呑気なことですな。さっさと帝国に攻め込めばよいものを」

「共和国政府との交渉に手間取ったようです。なにしろかの国は一応『中立国』ですからな」

「面倒な…」

 

誰かが言ったとおり、『共和国』はいまや実に面倒な存在であった。

 

…確かに敵ではない。

なるほど帝国軍を駐屯させているが、あくまでも北部の一部地域のみ。いや、あれだけの大敗の代償としては頑張った方だろう。

加えてその休戦条約以来、共和国政府としては今次大戦に一切不介入の立場を貫いていると来ている。

 

…では、味方なのか?

そうではないだろう。連中の魂胆は見えすぎている。

『もう戦争はこりごりだ、勝手にやってくれ』

共和国政府を抱き込み、帝国本土のすぐ西側に「第二戦線」を構築したいと願う連邦としては許しがたいことに、連中、本気で戦争から足抜けしたいと思っているらしい。

…あの地政条件で、である。

おかげで連合国があらゆるチャンネルを動員してきたラブコール作戦も完全なる不発に終わる。

「…このままでは、第二戦線構築がさらに遅れる」

「まずいぞ、シルドベリヤ方面からの原油供給が始まったとはいえ、バクーの穴埋めには全く不足しているというのに…」

今年の厳寒期はどうにかなるだろう。

春先の泥濘も我々の味方だ。

そして夏ごろまでは何とかなるかもしれない。

 

…では、その後は?

 

『自軍への装備、大陸上陸作戦に必要なため』と言って、合州国がレンドリース拡大を渋りだしたのを見て、モスコーはとある計画の実行を決意する。

 

 

『パリースィイ革命』

 

 

それは、連合国軍の共和国上陸作戦と同時に発動する「筈だった」革命計画。

東洋人には意外なことに思われるかもしれないが、実はフランソワ共和国、特にパリースィイには共産党員がかなり多い。

考えてみれば、世界初のプロレタリアート独裁政権、『パリースィイ・コミューン』が成立した場所なのだ。ゆえに共産主義はかの地に深く根を下ろしており、モスコーの共産党も彼らを様々な形で援助、指導してきた。結果、今やフランソワ共産党は『モスコーの長女』と揶揄されるほど。

 

「連合国軍の上陸作戦と相前後して蹶起し、共和国政府を瓦解せしめる」

「北部『安全保障地域』においても同時に蹶起し、各種破壊工作をもって帝国軍及びその後方連絡線に痛打を与える」

「新政権樹立後は直ちに連合国側に立って参戦し、帝国軍を背後から攻撃する」

 

なればこそ、モスコーはこれくらいの仕事は出来て当然(失敗するだろうが、まぁ損にはならない)と考えたし、「長女」もまた父の期待に応えようと準備を整えた。

 

 

 

――そしてそのタイミングで、振り上げた拳の振り下ろし先を失った(共和国が無防備都市を宣言した)

 

 

 

「タイミングが良すぎるのではないのかね?」

 

暗に情報漏洩を咎められ、居並ぶ党首脳陣の額を冷や汗が伝う。

 

「まぁ、それについては同志ロリヤに頼むとしよう。出来るかね?」

「無論、既に取り掛かっております」

「実に結構」

 

その発言に何人かの党員が真っ青になり、更にそのうちの数人が数日後に『失踪』するのだが、まぁ、連邦においてはありふれた日常である。『実際には白だろうが、不祥事を擦り付けて政敵を消す』など、この国では呼吸と同じくらいに普通のやり取りに過ぎないのだから。

 

「それで、例の『革命』はどうするのだね?」

「合州国、連合王国とも共和国の『宣言』を受け入れ、合法的に進駐を開始しました。つまり、フランソワの現政権を正統政府と承認している訳であります。つまり…」

「武力革命は不可能と?」

「恐れながら同志書記長、可能でしょうがその場合、共和国内の動揺を鎮めるのに時間を取られる恐れがあります」

「なるほど。では、フランソワ共産党は通常業務に戻すのかね?」

「そのことについては書記長、私めに一つ考えが」

「ほう?何かね?」

 

首を傾げた書記長に対し、ロリヤ内務人民委員長は()()()にこやかに発言する。

――なにせ彼の心中は、いなくなった『妖精さん』への嘆きと帝国軍への憎悪で埋め尽くされているのだから。

 

「内務人民委員会としては、これまでの局外的立場から転じて、積極的に閣内協力に移行させるべきと愚考いたします」

「理由は?」

「共和国政府は狡猾にも合州国、連合王国の、いわば『承認』を取り付けた訳です。かくなる上は内部から『誘導』していくほかありますまい」

「出来るのかね?」

「お任せを。何しろ今の共和国政府は人手不足ですから」

 

その点に関してはあのド・ルーゴとか言う軍人に感謝せねばなるまい。

ロリヤは脳内で呟く。

彼とその一派が「心あるフランソワ高級官僚」を道連れにした結果、今の共和国政府閣僚は慢性的に人手不足。その最たるものが大統領兼陸軍大臣兼外務副大臣フィリップ・ペッタン『老』将だろう。

なればこそ、フランソワ共産党が入り込む隙は幾らでもあるのだった。いざとなれば現閣僚の何人かがスキャンダルにまみれるか、失踪するだけの話である。

 

「良いだろう。許可する」

 

ありがとうございます、と謝辞と共に腰を折ろうとしたロリヤだったが、そのタイミングで会議室の扉が開け放たれる。

見れば、そこには顔面を蒼白にし、走ってきたのか息を切らせた内務人民委員の姿が。

…誰だったかな、と脳内人名リストを照合するロリヤ達に、その知らせはもたらされる。

 

 

「きゅ、急報です!共和国政府が同志フランソワ共産党の一斉摘発を開始したと!!」

 

「何だと!?」

 

 

思わず椅子を倒して立ち上がったのは誰だったか、あるいは書記長その人だったかもしれない。

ただ言えることはただ一つ。

 

 

「やられた!」

 

 

ロリヤは臍を噛む。

そもそもどの国の政府も共産党を嫌っている。

ロリヤ達共産主義者に言わせれば、腐りきった旧勢力が理論的に正しい我々共産主義に抵抗するのは分かり切った事であり、しかしてそれに打ち勝つことは『マルケス史観』で示された人類史上当然の帰結。

 

――だが、それは100年単位のスパンでの話であることも、歴史は証明している。

 

そして現状は『最悪』の一言に尽きる。

 

フランソワ共産党自体は合法的存在である。

無論、帝国からは幾度となく『摘発』を求められてはいたが、そこは「自由」を国是とするフランソワ共和国政府の美点と言うべきだろう。積極的に閣僚に登用することは帝国を刺激したくないからか行わなかったが、非合法化、摘発はして来なかったのだ。

 

――だが、今の『フランソワ共産党』は完全にアウトである。

 

『蹶起』に向けた武器弾薬の準備。

ちょっとしたピストルの一つや二つだったなら、「自衛目的」で通せただろう。

だが、今のフランソワ共産党各支部に積み上げられているのは、逆立ちしても「自衛用」と言い張れるものではない。

 

――そしてなにより問題なのは、『革命計画書』の存在。

 

でっちあげだと騒いだところで、誰も聞く耳を持たないだろう。

積み上げられた自動小銃に迫撃砲、爆弾に狙撃銃を見れば、誰だって「そのつもり」だと思うだろうし、実際そのつもり「だった」のだから。

 

 

「クソッ!どこから漏れた!?」

 

 

書記長の前だと言うことも忘れてロリヤが叫ぶが、それを咎めるものはない。

なにしろそれは、この場にいる全員の総意でもあったのだから。

 

「同志書記長、直ちに徹底した調査と、フランソワ共産党には地下活動のご指示を」

「許可する。直ちにかかってくれたまえ」

「ハッ!」

 

――慌てふためく彼らには知る由もない。

自分達が戦っている「帝国」、その元首が(前世で)何の研究者だったのかなど。

そして帝国軍があっさりと撤収すると同時、駐パリースィイのイルドア大使が大統領とひそかに会談していたなど。

その手に握っていた書類をわざとらしく忘れて帰っていたなど。

 

なによりも。

 

西暦世界のフランスにおけるレジスタンス活動に、フランス共産党が関わっていたことを知る人物が、それを野放しにするなどありえるだろうか?

 

 

 

――その答えが今、連邦とフランソワの共産党員に降りかかる。

 

 

「急げ!機密書類に火を点けろ!」

「早くしろ!政府め、警察じゃなくて軍を投入してきやがった!」

「畜生、どこから情報が漏れた!?」

「文句を言う暇があったらさっさと動け!撤収だ!!」

「撤収と言ってもどこに!?」

 

そう叫びつつ、室内に転がり込んだ――直後、彼が射撃していたベランダは蜂の巣になった――戦闘員に、その拠点を取り仕切っているリーダーは告げる。

 

「『連合軍』進駐地域だ!あそこは現状、一種の治外法権になっている!」

「!そうか!!」

「分かったらありったけの弾丸を叩きこめ!連中が怯む隙に撤収だ!!」

「了解」

 

 

――しかし、余裕のない彼らには、考えの及ばなかったことがある。

 

それは占領側とはいえ「現地部隊の一司令官」に過ぎない立場で、『正当』政府たるペッタン大統領からの「要請」を拒否できる人物がいるだろうかということ。

 

しかもそれが「連合国進駐地域に逃げ込んだ、テロリストの引き渡し」だとしたら?

 

ある程度機転の利く将官ならば、「証拠はあるのですかな?」と時間稼ぎを図っただろうが、それに対して即座に「このような『革命計画書』を持ち、武器弾薬を山のように積み上げていた連中です」と答えられたら?

 

「…それは野放しに出来ませんな」

「ご理解いただけたようで何よりです。我々はそちら(連合軍進駐エリア)に入れませんので」

「状況は理解いたしました。しかし、彼らが亡命を希望してきた場合は話が別です。ご承知願えますかな?」

「………その場合は致し方ありませんな」

 

 

苦虫をたっぷりと嚙みつぶしたような共和国担当者の表情に、思わずほくそ笑んだ連合王国軍人だったが。

 

 

――現実とは非情である。

 

 

「撃ってきた、だと!?」

「ハッ!」

「どういうことだ!?」

 

合州国欧州派遣軍第3軍司令パッテン将軍は天を仰ぐ。

 

「『亡命希望者』と言う形で保護する、共和国政府には引き渡さないと言ったのだろうな?」

「拡声器で呼びかけましたが、連中興奮状態なのか聞く耳を持ちません!」

Fu●king Shit!! これだから共産主義者は!!」

「それから…」

「今度は何だ!?」

「なんとか落ち着かせて投降してきたのを取り調べたところ、連中、我々のことを『自分達を見捨てて悠々と上陸してきた卑怯者』と…」

「ふざけるな!予定が狂ったのはこっちの方なんだぞ!!」

 

共和国革命政権樹立による南北挟撃、それ自体はパッテンも聞き及んでいた。

そしてこう毒づいたものである、「共産主義者と共闘なんて、上手く行くものかね?」と。その懸念は見事に当たり、フランソワ共産党は盛大に自滅しつつある。

――しかも、こっちまで巻き込みつつ。

 

「…かくなる上はやむを得んな」

「閣下?」

 

首を傾げる参謀長を一瞥しつつ、パッテン将軍は口を開く。

余談だがこの将軍、合州国陸軍きっての「戦争好き」「戦争狂」として知られており、おかげで上層部の受けも悪いことで知られていた。

そんな西暦世界のパットン将軍のような人物が、このような状況に立たされて決断するとなれば、何が起こるか。

 

「先の保護命令は撤回!自軍の安全を最優先とし、話を聞かない馬鹿は撃ち殺せ!」

「閣下!?」

「帝国本土を前に、こんな馬鹿げた話で部下を犠牲に出来るか!!」

「か、閣下!お待ちください、これは『本国』からの最優先――」

 

 

「政治の都合なんぞ知った事か!」

 

 

――事態に気付いた上級司令部が止めにかかるも後の祭り。

パッテンの命令は民間人と区別のつかない、何より訳の分からない教義を叫ぶ武装集団相手に、『可能ならば保護』などというふざけた命令に苦労していた将兵から熱狂的支持を持って受け入れられた。

訓練とは言え、帝国軍との正面戦闘を想定して訓練を積んだ、なにより圧倒的物量を有する「正規軍」と、地下活動と武力闘争はお手の物とはいえ、あくまでも非正規戦や後方破壊活動を得意とする、なにより拠点を失った「非正規軍」の衝突である。馬鹿げた『保護命令』さえなければ、結果は火を見るより明らかであった。

そして同じように苦労させられていた現地部隊は次々とパッテン戦車軍団に倣い、後年『東西冷戦の前触れ』とも呼ばれる一大騒動へと発展していったのである。

 

 

 

 

 

 

 

――そして、いかなる史料にも記されない事であるが。

ベルン宮殿の最奥で、この騒動の報を受けた少女はニヤリと笑っていた。

 

 

 

 

◇――◇――◇ ◇――◇――◇

 

 

統一歴1928年7月22日

連合王国首都ロンディニウム 首相官邸

 

「…宜しかったのですか?」

 

先日、閣僚たちの喜色があふれていた会議室。

だが、今日その席を占めるのは、揃いも揃って苦虫をかみつぶした表情の三軍関係者。

彼らを代表する形で問いかけたマールバラ海相の問いに、官邸の主もまたブルドック面を更にゆがませて答える。

 

「あれくらい言っておかねば蔵相は同意せん」

「しかし…」

「他の連中も同様だ。『サイレン(空襲警報)』に嫌気がさしたと見える」

「それと戦費に毛根が死滅されたのです。かの御仁が心配性になるのもやむなしかと」

「そういうモノかね。私には無縁の悩みだから分からん」

 

その首相閣下の頭頂部を見て、ハーバーグラム少将がぽつり。

 

「…戦線後退とは無縁でいらっしゃると?」

「どこを見て言っておるのだね?無論だとも。戦友を見捨てて後退などありえんよ」

 

――戦前の写真と照合してみる必要があるな、と脳内の雑記帳に書き記しつつ、ハーバーグラムは告げる。

 

 

 

「しかしながら、ライン方面の帝国軍の情報は不十分です」

 

 

 

閣僚らが聞いたならば卒倒しそうな発言だが、しかし居並ぶ軍人たちに()()()()()

 

「諜報活動は上陸作戦を予定していたノルマンディア海岸、そして『保障地域』に集中しておりました」

 

予算と人員は有限である。

そして『オーバーロード』が連合王国初、いや人類史上類を見ない「敵前大規模上陸作戦」であることを思えば、情報収集の力点がどこに置かれるかなど明白である。

むしろこの状況下、戦線(予想地域)のはるか後方、共和国-帝国国境間の情報収集を多少なりとも進めているだけ、ハーバーグラム以下の情報部は極めて優秀であった。

――しかし、である。

 

「ライン方面で判明しているのは、帝国軍の第一防御ラインのみです」

 

テーブル上に、先日ついに開陳されなかった地図を堂々と広げ、陸軍参謀総長が嘆息する。

 

「第一ラインについては、概ね共和国戦で使用したものを改修しているようです」

「それより後ろの防御については?」

「航空偵察から、相当な縦深をとった全面陣地が構築されている様です」

 

そう言って、陸軍航空参謀が広げた数枚の写真に写し出されているのは――

 

「…これが第一防御ラインかね?貧弱に見えるが…」

「いえ、閣下。それは警戒陣地です。本格的な防御陣地はその後ろ、この付近とみております」

「まばらにしか見えんが?」

「高度な隠蔽が施されている模様です」

「目下、情報収集に努めております。そのため、時間を戴くことになるかと――」

 

「なに?」

 

チャーブルの形相が変わる。

 

「すまないが諸君、悠長に構える余裕はない」

「しかし閣下!情報収集もないまま、敵陣地に突っ込むのは無謀――」

「分かっている。分かっているとも」

 

だが、と宰相は苦虫をかみつぶす。

 

「諸君は表通りを見たかね?上陸作戦成功、それも無血上陸に沸く市民の姿を」

「「「……」」」

「彼らの喜びは当然だろう。この2年間、我が国が目に見える形で帝国に勝利をした例は数えるほどしかない。特に陸上においては皆無だ」

 

そんな連合王国が、連合国が大陸に第一歩を刻んだのだ。

それも損害皆無、敵軍をその本土に追い込んだという最高の形で!

出来すぎなのは百も承知。帝国軍は敗れたのではなく、後退したのも分かっている。

 

だが、反撃の輝かしい第一歩であることも、また事実なのだ。

 

「しかも帝国が撤退したおかげで、連合国は労せず帝国国境まで進出できる。そしてここまで損害はゼロ。…諸君、これで立ち止まることを世論が許すと思うかね?」

 

――無理だ。

 

「加えて共和国で起こっている騒動、これまた厄介だ」

「沈静化出来ると聞きましたが?」

「確かに問題は無い。――連邦が激怒していることを除けば、だがね」

 

そう言ってニヤリと笑ったチャーブルに、軍人たちも苦笑を漏らす。

帝国は嫌いだが、共産主義はもっと嫌いな彼らのことである。『共闘相手』として評価はしても『仲良くできる相手』だとは露ほども思っていない。

故に彼らの心中は単純明快、勝手に先走って事態を面倒なことにしたのは連邦の方だろうに、である。

 

「とは言え、おかげで我々が共和国で足踏みしているのも事実。これ以上の遅延は国民が納得せんよ。…ここまでは分かるね?」

「…それは、確かにそうですが…」

「やはり敵情が不足しています」

「そう言っていては、いつまでも攻撃できまい?何より強行偵察と言うのもあるじゃないか」

「閣下、いささか強行が過ぎるのでは」

「海相の言うとおりです」

 

場の面々が口々に声をあげ、会議室は騒音にまみれると思われたが――

 

 

 

バーン!

 

 

握りしめた葉巻ごと、流れを叩き折ったのは言うまでもなく我らが首相閣下。

 

「諸君の懸念は理解した、しかしこれは決定事項なのだ」

「しかし――」

 

ドン!

 

「…一度でいい。一度偵察も兼ねてライン方面へ進撃してもらいたい」

 

その声に、軍人たちからどよめきが漏れる。

あのチャーブル首相ともあろうものが、「しろ」ではなく「もらいたい」などとは!

一体全体何事かと顔を見合わせていく中で、彼らは自分たちの中に約2名、顔色の悪い人物が紛れ込んでいることを発見する。

 

その人物こそは――

 

「この場にいる諸君には隠す事でもあるまい。…ハリス君、状況を開陳してくれたまえ。

 

 

 

 

――先日の、夜間爆撃隊の大損害を」

 

 

 

 

 

 

時に、統一歴1928年の夏。

欧州戦線は大きく動こうとしていた……。

 

 




某陛下「 計 画 通 り 」
デ「うわぁ…」
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