皇女戦記   作:山本 奛

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(五体投地+フライング土下座)


誤算と誤解

統一歴1928年 8月25日夕刻

帝都ベルン 統合作戦本部

 

西()()()()()()()()、だと?」

「はい」

 

そう答えつつ、手元の書類に視線を落とすレルゲンの頬には一筋の汗。

 

「本日早朝のパ・ドゥ・カレーとの通信途絶、及び同方面での巨大な爆発音を除き、西方戦線は特に変わったことはないとの報告が…」

「砲撃と空襲こそ行われているようですが、西方方面軍司令部曰く、『いつも通り』とのことで…」

「つまり、パ・ドゥ・カレー以外異常なしということか?」

「御意」

「…空軍の方はどうか?」

 

上座からの問いかけに、本土防空を総括するガーラン()空軍准将が答える。

 

「こちらも平常通りであります。しいて言えば、ここ最近は工業地帯への爆撃が減少している事くらいでしょうか」

「その分がこっち(陸軍)に来ているのだが?」

 

不機嫌そうな顔でルーデルドルフがぼやく。

 

「西方方面軍から要請があっているはずだが?『至急邀撃を請う』と」

「無論、対応しておりますとも。…しかし西方方面上空は敵戦闘機が多い。現下の迎撃態勢は敵重爆撃機邀撃に最適化した部隊編成が大半ですから、編成と装備を変更してからでないと効果が薄い」

「ではそれまでの間、我々に敵重爆に爆されろということかね?」

「そうは言いませんが…。なにしろ敵機が多すぎます。最適な編成でなければ返り討ちに合うだけです。減り続けている戦闘機パイロットを、これ以上無駄にしたくはない」

「そのためならば、陸軍将兵はいくら死んでも構わないと言うのかね!?」

「そうは申し上げていない!なにより、『ジークフリート』ならば多少爆弾が直撃しても問題ないはずだ!」

 

『西方防衛線』あるいは『ジークフリート線』。

 

その存在は統合作戦本部に参集している高級幕僚ともなれば知っていて当たり前。

連合軍が上陸する()()()()()()()用意されていたソレの、常軌を逸した強度もまた然り。 ゆえに、彼らの視線は一人の少女に集中する。

 

 

「――落ち着き給えルーデルドルフ。准将の言うとおり、あれのべトンはそう易々とは貫けん」

 

 

帝国第4代皇帝、ツェツィーリエ・フォン・プロイツフェルン。

 

 

『奴らは必ず海を渡ってくる』

そう言って、なんと対連邦戦勃発()()()()、この要塞陣地を構築し始めていたと知らされたとき、三軍関係者は揃って絶句した。

陸軍作戦部長、ルーデルドルフ大将らが起草し、膨大な資材が西方に送られた、対連合王国上陸作戦『ゼーレーヴェ』。

 

 

――それがまさか、ジークフリート線構築をカモフラージュするためだったなど、誰が想像できようか。

 

 

…否。当のルーデルドルフですら、最近になって自身の『ゼーレーヴェ』がそのような使()()()()をしていたことを知らされたのだ。

 

『どうして教えてくれなかったのです!?』

『すまんすまん。敵を騙すには、まず味方からというだろう。それも帝国陸軍が誇る作戦屋、ルーデルドルフ大将肝いりの作戦と来れば、より敵も騙されてくれる。

 

そうは思わないかね、ゼートゥーア?』

 

『陛下の仰るとおり。 ルーデルドルフ、貴様のお陰でだいぶ防諜が楽になった。礼を言うぞ』

『…二人とも、煽てれば儂が納得すると思っているのではあるまいな?』

『『滅相もない』』

『窓ではなくこちらを見て言ってほしいものですな、全く…』

 

 

 

 

しかし、それは本来の届け先…特にパ・ドゥ・カレーにとっては裏切り以外の何物でもなかっただろう。

 

 

「敵に包囲されたとて、なんら問題は無い」

「然り。ここには『ゼーレーヴェ』に備えて武器弾薬が大量に集積されておる」

「参謀本部のオーダーは『西方防衛線完成までの遅滞戦闘』だったか?」

「何を弱気な。我等第六軍と親衛師団を以てすれば、西方軍と協力しての逆包囲すら可能だろう」

「面白い提案だ。いっそ参謀本部に上申してみるか?」

 

意気軒高な彼らの表情は、しかし地下弾薬庫にて一変する。

 

「…どういうことだ!?」

「話が違うぞ!?」

「閣下、こちらの箱は中身が空です!」

「何ィ!?」

 

 

――そこにある弾薬箱の半分は、空だった。

 

 

「…この量では攻勢など不可能だぞ、参謀長…」

「…防御陣地、トーチカは堅牢ですし、防衛戦には十分な弾薬量かと…」

「閣下、さしあたり飛行爆弾を撃ち尽くすべきです。収容できる場所も設備も、ここにはありません。このままでは敵の良い的にされ、誘爆するだけかと」

「確かにその通りだな。それに、士気の向上にも使えそうだ。直ちにかかってくれ」

「ハッ!」

「閣下!朗報です!この近くに、本土への後送が間に合わなかった列車砲が放置されているとのこと!」

「列車砲だと?そんなものが帝国にまだあったのかね*1?」

「いえ、共和国から接収した24センチ列車砲だそうです」

「…エスカルゴのものと言うのが気にくわんが、この際贅沢は言っておられんか…。宜しい。人員含め貴官に一任する。直ちにその列車砲を接収せよ」

「ハッ!」

 

そんな一幕もあったが、彼らは『見捨てられた』存在。

 

――否、帝国最上層部から言わせれば、『さっさと始末されてほしい』存在。

 

 

 

 

 

 

 

 

なればこそ、統合作戦本部において、彼らの安否が俎上に上がることはない。

 

 

「確かに『ジークフリート』本体は無事ですが、重砲の不足が深刻化しております」

「迫撃砲は定数の倍以上ありますが、射程の差で撃ち負けるおそれがあります」

「先日、重砲、弾薬の搬入を始めたと聞いたのだが?」

「それを直撃されました」

 

ゼートゥーアが首を振る。

 

「運の悪いことに、今回の空襲で鉄道から降ろした直後…無防備な状態の火砲、弾薬類集積所が被爆しました。なにより鉄道施設への被害が甚大です。復旧、搬入再開には時間を要するとの報告が――」

「3日」

「…はっ?」

「3日以内に再開させろ。最早一刻の猶予もない。帝国内のあらゆるリソースを投入してでも急がせろ」

「し、しかしそれは」

「――明後日までに復旧させましょう」

「閣下!?」

 

ゼートゥーア参謀総長の発言に、レルゲンの胃が悲鳴を上げる。

なにしろこう言う案件を担当するのは……自分だ。――ああ、鉄道部のウーガ中佐に依頼する(丸投げする)としよう。鉄道の事は鉄道屋に任せるに限る。

レルゲン大佐が脳内の片隅でそんな現実逃避をしている間にも会議は進んでいく。

 

 

「しかし…、パ・ドゥ・カレーとの通信はまだ復旧しないのか?」

「参謀本部、西方方面軍ともパ・ドゥ・カレー司令部と一切通信できていない状態です」

「司令部以外を呼び出してみては?」

「すでに試みましたが、そちらも不通です。信じがたいことですが、パ・ドゥ・カレー守備隊全てが一斉に無力化、もしくは通信設備を破壊されたものかと…」

「そんなことがあり得るのかね?…空軍の偵察機のほうはどうか?」

「哨戒が厳しく、高々度偵察機以外は撃墜されるか追い払われました。こちらが高々度からの偵察写真ですが…」

「…雲しか写っておらんな」

「申し訳ございません」

「天候ばかりはどうしようもあるまい。しかし、弱ったな…」

 

ツェツィーリエの呟きに、ルーデルドルフもまた同意する。

 

「敵が何を使ったのか、早急に把握する必要があります。敵が地下防御陣地を破壊する兵器を保有しているとなれば、『ジークフリート』の運用について再検討する必要があります」

「…それは最悪、放棄もありうるということかね?」

「考えたくはありませんが、機動防御に力点を移す必要があるやもしれません」

 

いずれにせよ、と彼は続ける。

 

「パ・ドゥ・カレーで何が起こったのかを解明せねば、手の打ちようがありません」

「通信も偵察も出来ないのですぞ、一体どうやって?」

貴殿ら(空軍)のところにあるという高速偵察機、それを使ってはどうかね?」

「…何故それを、とは言いますまい。しかしあれは試作段階。万一エンジントラブルでも起こして敵の手に渡れば大変なことになります」

「しかしほかに方法があるまい?」

「…そもそもパ・ドゥ・カレーの防衛は陸軍の責任の筈。その尻拭いを我々が、それも貴重な新型機を投じてまで行う理由がありますかな?」

「何だと?そもそも貴殿らが敵爆撃機を迎撃できていないのが原因だろう!」

「それを言うならば、陸軍が『ゼーレーヴェ』に成功していれば、今日のような事態は招かなかったのでは!」

「それもとて空軍の支援能力が貧弱過ぎるのが原因だろう!」

「何ですと!」

 

「双方やめんか!」

 

まったくもう、と演算宝珠を使って諍いを止めた少女は溜息をもらし、そして窓の外を見上げる。

 

「…なんにせよ、もうすぐ日が暮れる。明日のパ・ドゥ・カレーの気象状況は?」

「気象班の予想によれば…、当分の間、曇りか雨とのこと」

「それでは航空偵察は出来んな。フム…」

 

そこでしばし思案した後、皇帝はニヤリと笑う。

 

 

「ゼートゥーア、演算宝珠なら、夜間でも鮮明に記録できたハズだな?」

「使用する魔導師の技量にもよりますが、出来ますな」

 

ハンス・フォン・ゼートゥーア参謀総長もニヤリと笑って続ける。

 

「夜間ならば、敵戦闘機の活動も低下するでしょう」

「航法が難しくなるが、なに、練度次第でどうとでもなる」

「陛下、()()()()先日、ライン戦線経験者があの方面に配備されております。()()の練度ならば、たとえ星のない夜でも偵察可能かと」

「何と素晴らしい偶然もあったものだな。ハッハッハッ」

「ふっふっふっ…、直ちに手配いたしましょう」

 

 

このとき、ルーデルドルフとレルゲンは偶然にも全く同じことを思っていた。

 

 

 

 

――デグレチャフに幸あれかし、と。

 

 

 

 

◇――◇――◇ ◇――◇――◇

 

同日 日没後

帝国西方戦線-パ・ドゥ・カレー中間点付近 高度3,000m

 

「――新たな魔導師反応!9時の方向、下方より接近中!!」

「爆裂術式用意!斉射ののち振り切る!!」

「「「了解!!」」」

 

どうしてこうなった!!

 

ターニャ・フォン・デグレチャフ大佐は心の中で叫ぶ。

 

決まっている!あのクソッたれ上司のせいだ!

 

通信が途絶したパ・ドゥ・カレーへの強行偵察。

参謀本部のゼートゥーア元帥から直接、しかも有線電話、口頭で告げられたそれは、しかもこんなおまけまでついていた。

 

『ああ、そうそう。それと貴官に言付けだ』

『言付け、でありますか?』

 

首を傾げるターニャに、親愛なる上司元帥閣下は笑いながら告げる。

 

――よろしく頼む。貴官ならやってくれると信じている――、だそうだ。全く羨ましいことだ、統合作戦本部の席上でそんなお言葉を賜るとは』

『き、恐縮であります』

『無論、本官も貴官の任務達成を疑ってはいないがね』

『光栄であります!』

 

半分やけくそ気味にターニャが叫んだのは無理もない話だったろう。

何しろ――

 

「クソッ!ヴィーシャ、分かるだけで良い。敵の数は!?」

「後方に約50、右に約60、先ほどの新手が20であります!」

「逃げるの一手だな。連中、よほどコレを見られたくないらしい」

 

そう言ってターニャは自分の首元に目をやる。

それには、10分前に撮影したばかりの写真が記録されている。

 

『大佐殿!このままでは追いつかれます。いっそ反撃に転じては?』

「魅力的な提案だがね、ヴァイス中佐。敵の数を忘れたかね?」

『ですが連中、練度はさほど高くありません』

 

確かに、彼の言うことも間違いではない。

往路もしかり、今まさに敢行している復路でも、予想以上にあっさりと敵は蹴散らされている。

…だが、しかし

 

「大佐殿!さらに新手です!!」

「…だ、そうだヴァイス中佐。踏みとどまっても呑み込まれるのがオチだ。なによりこんな偵察ごときで損耗したくない」

『申し訳ありません』

「構わん。目的は達しているのだ、さっさと帰って休もうじゃないか」

『了解であります!』

「…しかし大佐殿、()()は何だったのでしょう?」

 

爆裂術式を叩きこみながら、ヴィーシャが尋ねる。

 

「射撃しながら質問とは余裕だな、中尉」

「もっ、申し訳ありません」

「構わんよ。連中、数はあれだが練度は…まぁ、普通だからな」

「それに連邦軍ほど堅くないですね」

「だからこうやって無事に帰投出来ている訳だ」

 

口ではそう言いつつも、ターニャの心中は暗い。

装備からして、いま交戦しているのは合州国の魔導師だろう。彼らは欧州戦線ではまさに「ピカピカの一年生」であり、ヴィーシャの言うとおり、容易くあしらえる存在。

だからこそ、ヴァイス中佐もあんな具申をしたのだろうが…。

 

(あれだけの数の魔導師を、訓練だけで一定レベルに育成して、海を越えた欧州に送り込めるとは、何とも羨ましいことだ)

 

今の帝国では望むべくもない環境だ。

先日聞いたところによれば、帝国の新兵魔導師の平均訓練飛行時間は100時間にも満たず(!)、おかげで配属された部隊では「僚機に追随してまっすぐ飛ぶ」ところから叩き込まなければならないという。

戦前ではありえない状況だというのに、合州国ときたら!

 

「なかなか奇麗に飛んでいるじゃないか。お行儀が良くて実に当てやすい」

「乱数回避機動らしきものもしていますが…?」

「訓練でそこまで教えてもらえるとは、連中は実に恵まれている。…もっとも、規則正しい乱数回避機動など、乱数でも何でもないが」

 

だが、それも時間の問題だろう。

連中だって馬鹿じゃないのだから、これからの戦訓で強化されるであろうことは明白。なにより戦争は数である。

西暦世界の米兵だって、最初は「ウチのボーイズは戦争が出来ないのか!?」と嘆かれつつも、最後には第三帝国を圧倒したではないか。

 

「…全く、ままならんものだなぁ…」

「大佐殿…?」

「何でもない…さて、あの()()だったか」

「ええ…あんな巨大な穴、見たことがありません」

「まぁ、普通はそうだろうな」

「大佐殿はおありなのですか?」

「見たわけではないが、思い当たる節はある」

「えっ!?」

 

セレブリャコーフ中尉が驚いているが、さてなんと説明したものか。

正確には『前世で』見たことがある、なのだが。

 

「今は帰ることに集中するぞ。――もう一度、今度は後方だ。爆裂術式、用意!!」

「ハッ!」

 

 

 

 

 

――なにしろ、あんな()鹿()()()()()()()()()、早々お目にかかるものではない。

 

 

 

◇――◇――◇ ◇――◇――◇

 

 

 

――その兵器が開発されたきっかけは大戦初期、連合王国参戦の直前まで遡る。

 

「あれだけの砲弾、帝国軍は一体どうやって調達しているのだ!?」

 

共和国が誇る大陸軍、その精鋭部隊が帝国軍陣地を突破できないばかりか、あっという間にすり減り、そしてとうとう大戦から脱落した原因を調査した連合王国情報部は、一つの結論に行き着く。

 

 

「帝国軍の無尽蔵とも思える弾薬は、『規格化』と『西方工業地帯』に支えられている」

 

 

――ライン戦線、そは地上に開かれたる地獄である――

 

帝国軍の高級参謀が宣ったとされるその言葉を聞き及んだ時、連合王国情報部の職員は口をそろえて叫んだ、「どの口が言うか!?」と。

 

「なんだこの弾薬製造量は!?」

「馬鹿げている!我が国と共和国の製造量、それを合計した量の数倍だと!?」

 

ゆえに、共和国が脱落した以上、今後帝国と直接対峙せざるを得なくなった連合王国にとって、その力の源泉――すなわち、帝国の工業生産力――を削ぐことは必須不可欠な事項となった。

 

「艦砲射撃、もしくは航空攻撃でしょうが…」

「低地工業地帯はともかく、ルールゥ工業地帯の中心部までは艦砲では届きませんぞ」

「となると航空攻撃だが…」

「既存の爆撃機では効果が薄い。『ティー・パーティー』の結果を見たまえ」

「あれは搭載量の少ない空母艦載機だったからだ。『ランカッシャー』ならば効果が見込める」

「…そう言えば」

 

――そのとき、一人の連合王国空軍関係者が思い出す。

 

「…たしか先日、工場だろうが何だろうが、あらゆる構造物を一撃で吹き飛ばす爆弾の論文を出してきた奴がいたような」

「なんだって!?」

「早く、早くそいつを呼び出せ!」

 

 

――その名は、バンズ・ヴォリス。

 

 

 

「――従来の爆弾では、コンクリート製の巨大な構造物、即ちダムや工場施設の完全な破壊は不可能です。なぜなら、現在あるそれらは炸薬の量に対して外殻が薄く、硬い目標に対しては『表面で派手な花火を咲かせる』に過ぎないからです」

「では、どうすればよいのだ?」

 

連合王国空軍の問いかけに、ヴォリスは明快に答えた。単純な話です、と。

 

「戦艦同士の撃ち合いと同じです。

『徹甲弾』、それも既存のものを大幅に超える巨大な徹甲弾があれば、いかなる強固な構造物、コンクリートだろうが貫通し、目標内部で炸裂して破壊することが可能です」

 

加えて、と彼は言った。

 

「いま、私は硬目標、トーチカやコンクリート構造物について述べましたが、それ以外の工場や橋梁についても、この爆弾が地中深くで起爆することで生じる地震波で、文字通り根底から破壊することが可能です」

 

 

 

『地震爆弾』

 

 

 

自らの提唱する爆弾をそう銘打った彼の理論は、連合王国空軍内部で大きな反響を生んだ。なんとなれば、当時行われていた各種の帝国領域への空襲の結果、工場というのが意外なほど空襲に強く、その破壊が困難であることが明らかとなっていたから。

だから、ヴォリスの提唱した『重さ10トンの超巨大徹甲爆弾』などという、当時の航空技術、飛行機技術を考えればバカバカしい提案であっても、検討する価値は十分すぎるものであった。

帝国が共和国ノルマンディア地方に設けた安全保障地域、そして大西洋沿岸に沿岸要塞、砲台を建設中であるとの情報も、それに拍車をかけたのは言うまでもない。

 

 

 

――そして更なる拍車をかけたのもまた、帝国自身だった。

 

 

 

「その情報は本当かね!?」

「ハッ、間違いないとの事です」

「…信じられん。『セバスチャン・ト・ホリ』の主砲が一撃で粉砕されただと!?」

 

実際には帝国軍が誇る新兵器『カメラ内蔵有線式誘導爆弾(サーベラス)』が、比較的薄い要塞砲砲塔天蓋(それでも厚さ200ミリのアーマーだが)を貫いたものだったのだが、当時の連合王国に知る由もない。

 

 

――ゆえに。

 

 

「状況からして地下弾薬庫が誘爆したのは間違いない」

「航空攻撃というのは間違いないのだな?」

「ハッ、帝国の重砲はそもそも射程外だったとのことです」

「あの要塞のコンクリート厚は?」

「…革命前の古い情報でも、4mは超えている、とあるな…」

「それが貫通されたということは…!」

 

――帝国は、既に超巨大徹甲爆弾を実戦配備している!?

 

「しかも弾薬庫の誘爆だ。その厚さを十二分に貫通し、内部で起爆したと見るべきだろう」

「こちらも開発を急がねば…!」

 

当然のように予算は倍増。

帝国がそれを手にした――繰り返すが、勘違いである――以上、それに対抗できる兵器は必須と見なされたからである。ゆえに。

 

「――以前申し上げた通り、ランカッシャーでも5.5トンが限界です!その大きさで妥協するという決定だったのでは!?」

「状況が変わったのだ。やはり理論値通り、重さは10トンとする。これは決定事項だ」

「そんな…!?」

「無理は承知している。しかし、必要なことなのだ」

「…社に帰って検討しますが…。最早別の機体と言って良いレベルの改造、もしくは新造となってよろしいのですか?」

「構わない。大陸反攻は1928年以降だろうから、それまでに間に合えばよい」

「…分かりました」

 

結局、統一歴1927年には特殊徹甲爆弾『スラム』試作型が、翌28年春には量産が開始される。

 

 

「…これは本当に爆弾かね?ちょっとした家じゃないか」

「同感です、首相。しかしこれならば厚さ6メートルの鉄筋コンクリート、または地下40mの目標まで貫徹することが可能です」

「つまり、いかなる要塞でも破壊可能という訳だね」

「左様です。尤も、こいつの目的は敵軍需工場の根底からの破壊ですが」

「ほぉ…、工場相手には少々贅沢ではないかね?」

「正直、小官もそう思わなくはありませんが…。帝国の兵器製造、それを根こそぎ消し飛ばせるならば、それに優る戦果はないかと」

「確かにその通りだ。よろしい、一日でも早く量産、実戦投入に繋げてくれたまえ」

「ハッ!」

 

 

このときの会話を、チャーブルは覚えていたのだろうか。

実戦投入直前になって、攻撃目標は変更される。

 

 

 

――目標、パ・ドゥ・カレー。

――新型特殊徹甲爆弾を以て、かの要塞を完全に破壊せよ

――なお、投弾数の制限はなし

――繰り返す、完全に破壊せよ。投弾数の制限なし。

 

 

 

 

 

 

時に、統一歴1928年8月25日。

史上最大の爆弾は大空に放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

特殊徹甲爆弾『スラム』要目

長さ 7.70m

尾部 4.11m

直径 1.17m

全備重量 10,000kg

炸薬量 4,300kg

 

<以下、『アカシック・ペディア』より>

スラム(Slam)は、大戦中の1928年以降連合王国空軍が用いた超大型爆弾(徹甲爆弾)。

今日の地中貫通爆弾の一種に分類され、その始祖とも言われる。

重量は10,000kgであり、小型爆弾では有効な打撃を与えられない巨大な建造物や堅牢な構築物を破壊するために製造された。

 

開発当初、この爆弾は「地震爆弾」と呼ばれており、この構想は、連合王国の航空エンジニア、バンズ・ヴォリスが大戦の開戦直後から持っていた。

 

設計は空力を重視し、長い尾部にはフィンが取り付けられている。このフィンは、爆弾を回転させ、銃のライフリングと同じ原理で安定性と命中精度を高めた。その重量と空力的に洗練された形状から、投下されたスラムは空中で音速を超えるが、フィンによる安定性で音速障壁に左右されなかった。

目標の障害物を貫徹する時点で起爆、もしくは破壊されないよう、コンクリート型でサンドモールド鋳造された高張力鋼の外殻を持っていた。この構造は地上に巨大な穴を掘り、そこにコンクリートで鋳型を作り、鋳造するという工程で製造されたが、そのあまりの大きさゆえ、外殻は炸薬装填前に約一か月安置して冷却する必要があった。

その後、炸薬を熱く溶融した状態で注入したが、その後も冷却工程を必要とした。これらの製造工程は極めて複雑であり、ひとつひとつの爆弾に膨大な材料と人手が必要なため、この爆弾はたいへん高価なものとなった。このため、作戦が中止になったような場合でも、安全のために海中に投棄するようなことはせず、爆弾を搭載したまま帰投した。

 

理論上、高度12,000m(40,000フィート)から投下することで、地下40mまで到達することができるとされたが、あまりの重量ゆえにそこまで上昇して投下できる爆撃機が存在しなかった。

このため実戦では高度6,000~7,000mから投下されたが、この場合でも十分な貫徹力を発揮した。結果的に対壕地雷のような形になり、上部の構築物の基礎を揺るがして崩壊させる効果があった。これは、まさにスラムの最初の標的となったパ・ドゥ・カレー要塞で起こった事であり、堅牢な要塞を文字通り完全に崩壊させた。

 

*1
統一歴1917年の武器規格統一令以降、帝国において列車砲の新規開発、製造はほぼ行われていない




あとがき①

連合王国「あんな分厚いべトンの砲台がやられるなんて!帝国はきっととんでもない徹甲爆弾を保有しているに違いない!」

帝国「いや、あの、精密誘導爆弾をピンポイント投下しただけ――」

連合王国「そうとも、戦艦主砲の砲塔天蓋にピンポイントで爆弾を当てれるわけがない!きっと大量の投下したもののどれかが、地下弾薬庫に直撃したいに違いないんだ!」

帝国「えぇ…」


あとがき②

デグ「半年以上放置していた理由は」

リコリコとか、水星の魔女とか、特に後者のトマトケチャップ事件が最近の一番大きな理由です、ハイ。

ツェ「面白い言い訳だ。粛清するのは最後にしてやろう」

ひぇっ
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