統一歴1928年12月10日早朝。
帝都ベルン、帝国陸軍参謀本部は喧騒の只中にあった。
「何が起こっている!」
「東部の状況は!?」
「連邦軍、各所で大規模な攻勢を開始!」
「馬鹿な!早すぎる!!」
作戦課の会議卓にクルト・フォン・ルーデルドルフ元帥の怒鳴り声が響き渡る。
遡ること1928年の春。
帝国は東部戦線において、連邦軍の春季攻勢『マエヌス』を受けた。
合州国の参戦に伴う帝国軍の西部戦線への移動を突く形で行われたこの攻勢は、しかし政治的理由――合州国や連合王国に後れを取りたくない――による無理があったことも手伝い、多少戦線を西に移動させはしたものの、損害から言えば連邦軍の敗北に終わった。
「あれで相当な打撃を与えたはずだ。直後にバクーも爆撃したのだぞ!?立ち直るには早すぎる!」
「ルーデルドルフ、現実を見たまえ」
そう言って、紫煙を盛大に吐き出しながらゼートゥーア参謀総長が地図を指さす。
「連中が
「クソッ、東部方面軍司令部は何をしておる!?」
「東部方面軍司令部、混乱している模様。矛盾する報告が幾つも届いています」
「現地部隊と直接連絡は取れるか?」
「可能ですが、お聞きになりますか?」
喧噪の只中にあると言っても、そこは陸軍参謀本部。
帝国陸軍の、言うなれば帝国が誇る灰色の脳髄が詰め込まれた叡智の殿堂であり、となれば、元帥閣下が何を「命じたか」ではなく「命じるか」予想出来て当たり前。
つまり、通信参謀が元帥閣下のオーダーを予期し、先んじて東部方面の通信をメモに取るなど、至極当然の事なのだった。
ちなみに、その隣では航空参謀が視察に回せる司令部偵察機がないか確認している。
「辛うじて聞き取れたものになりますが」
「…これはまた、酷いな」
「…混乱ここに極まれり、だな」
ルーデルドルフが溜息と共に放り投げたメモ書きには、びっしりとこんな文言が。
『第五師団と通信途絶』『有線通信途絶、無線に切り替えろ!』『通信規則違反だ!別の周波数でやれ!!』『駄目だ!繋がらない!』『繋ぐ先が違う!ここは司令部だ、貴様のところの砲兵隊ではない!!』『無線がつながらない!有線に切り替えろ!!』『交換手、何をしている!早くつながないか!』『ラウドン大将閣下の所在は!?』『やむを得ん、次席司令のカレル少将を…何、そちらも安否不明!?』『電波妨害です!連邦国歌が流れています!!』『第七航空艦隊より支援要請!飛行場に連邦軍部隊が接近していると!』『前線部隊に一時後退命令だ!呑み込まれるぞ!!』『こんな時に発電機の調子が!予備はどこにある!?』『東部空軍司令部を呼び出せ!さっきから連絡が断続的になって――』『背後から撃たれた!?…くそっ、どこの砲兵隊だ!?友軍を誤射しているぞ!』『違う、浸透してきた連邦軍の山砲だ!?』『友軍はどこにいる!?』『展開状況は!?』
雑音だらけの通信。
そもそも戦場において、言葉の誤解は許されない。故に、堅苦しくて定型的な、すなわち極限まで誤解の余地を削ぎ落した文言が軍隊では用いられるのだ。
「これはどういうことだ参謀総長。ラウドン大将はこのような状況を許す御仁かね?」
ラウドン大将。
知らぬ者は、彼を「老歴故に予備役であったが、開戦劈頭の『大規模な人事刷新』を埋めるために現役復帰したロートル」と評価するだろう。
――だが、ルーデルドルフは知っている。かの御仁がゼートゥーアの元上司で、『ゼートゥーアの元上司を何度かやれていた』と言うことを。そしてそもそもの予備役編入自体、戦前の平和な時代に、平和な時代であったがゆえにポストが足りなかったからのもので、ロートルなんてとんでもない、バリバリの現役であることを。
何より、目の前の食えない参謀総長閣下が東部を託した相手なのだ。
あまり自分とは知己を得なかった相手とはいえ、こんなお粗末な状況を許すわけが無い。
「…いいや。大将閣下がご健在ならば、このような事態にはなっておるまい」
ならば何故、と問いかける朋輩に、ゼートゥーア参謀総長は続ける。
「あの人は机を磨く暇があるなら、全ての砲兵隊陣地を視察するような御仁だ」
「そう言えば少し前の報告でそんな話が……あぁ、畜生。そういう事か!」
思わず、帝国陸軍の二大巨頭は天を仰ぐ。
そう、ラウドン大将という人物は、古き良き、ある種理想的な帝国軍人だった。
人事案を即時了承するや、持参してきた将校行李に辞令一つ突っ込んでそのまま東部へ飛び、休む暇もあればこそ、
流石はゼートゥーア閣下の元上官だった御仁だけの事はある、とゼートゥーアを知る者ならば納得したであろうその人物は、しかし、おそらく、もうこの世にはない。
「…つまり、元帥閣下に昇進なさったと?」
「未だに所在不明、司令部混乱ときている。そう思って行動すべきだろう」
間違いだったら詫びの電文一つでも送れば良いさ、と総長閣下はニヤリと笑う。
東部方面総司令官の――そして、状況からして高級参謀も諸共に――消失と言う危機的状況。
しかし、であるにもかかわらず、陸軍の巨頭は顔を見合わせ、悪童でも逃げ出しそうな笑みを浮かべる。
「――少し早いが、始めるとしよう」
◇――◇――◇ ◇――◇――◇
東部方面軍司令部、通信部門担当当直者のクレーマー大佐は、ハッキリ言って運が無かった。
…いや、運が良かったのかもしれない。
本当に運が悪いのはラウドン大将閣下に連行され、折角の参謀徽章を泥にまみれさせ、挙句の果てに大将閣下と共に肉片と化した将校連中だろう。
司令部に留守番として取り残されたハーゼンクレファー中将以下は、要するに、「連れていく価値なし」と大将閣下から見なされていた連中であり、その程度の能力なればこそ、二階級特進を免れた面子だった。
そして、流石と言うべきか、ラウドン大将閣下の人を見る目は確かであった。
「第8師団より事後の指示を乞うと!」「航空艦隊より緊急電です」「駄目だ!繋がらない!」「繋ぐ先が違うぞ!ここは方面司令部だ!!」「無線がつながらない!有線に切り替えろ!!」「交換手、何をしている!早くつながないか!」
ただただ、ひたすらに混乱。
ここに何の慰めにもならない事実を付け加えるならば、ラウドン大将閣下以下首脳部を刈り取った連邦軍の砲撃は、それを狙ったものでも何でもない、『事前の準備砲撃』であった。連邦ですら予想していない事態に、当の被害者たる東部方面軍司令部が即応できるわけが無し。
加えてラウドン大将にとって不運なことに、万が一に備えて別の場所に置いていた次席司令にも連邦軍襲撃機が襲い掛かり、こちらは事前に把握されていた司令部壕を文字通り吹き飛ばした。
『500キロの爆弾に耐えうる?じゃあ、1トン爆弾なら破壊できるよね?』
実に単純な原理により、次席指揮官までもが二階級特進。
本来ならば予備の予備でしかないハーゼンクレファー中将に、現下の状況は少々荷が重かった。彼がどうにか状況を把握しようする間にも矛盾する情報が入り乱れ、行間に連邦軍の偽電が紛れ込む。
「射撃やめ!その座標は友軍陣地だ!」
「怪しい帝国語を話す通信は偽電だ!通信を切れ!!」
そう誰かが言えば、即座に流暢な帝国公用語で欺瞞情報が流される始末。
「クソッ!周波数が完全に割れている!」
反撃どころか、東部方面の掌握すらおぼつかぬ有様。
だからこそ、そんなところに飛び込んだ
「用務命令37号2の即時実行だと!?」
「この状況で!?」
◇――◇――◇ ◇――◇――◇
陸軍参謀本部 参謀総長私室
「用務命令37号2の即時実行。貴様にしては即断したな、ルーデルドルフ」
「フン、伊達に貴様と陛下の戦争指導を見ておらんよ」
たった二人しかいない空間を紫煙で埋め尽くしながら、帝国陸軍参謀本部参謀次長兼作戦局長は呟く。
「帝国の終焉は近い」
その言葉に、ゼートゥーア参謀総長は目を見開いた。
その内容ではなく、それを目の前の朋輩が発言したことに対して。
「…驚いたな。言ったことがあったか?」
「連日連夜、空襲警報で叩き起こされれば嫌でも実感するとも」
「…まぁそれもそうか」
「ああ。覚悟はしていたが、これほどとは」
合州国の物量。
数字の上では分かっていたが、――否、分かったつもりになっていたが、実際に体感したのはとてつもない『鉄の嵐』。
「覚悟しておけと言われたが…いやはや、あれを覚悟できる人間などいるのかね?」
「同感だが、少なくとも一人、貴様もよく知るお方は覚悟していただろう。…その上でロンディニウムを火の海にするとんでもない御仁だが」
「全く…。我ら両名、とんでもない主君を持ってしまったようだな」
「おや?今日はいつになく気が合うな。…どうだルーデルドルフ。これが終わったら一杯やらんかね?」
「良いだろう。秘蔵のワインを浴びるほどくれてやる」
ただし、肴は貴様が出せよ、とひとしきり笑い、そして笑い終えてからルーデルドルフ大将は呟く。
「東部方面軍は見る影もない。…いや、そもそも足りていなかったが」
『茫漠たる東部戦線』
それは比喩表現でも詩的表現でもない、ただただ帝国軍が置かれた環境を指す適切な用語。
東部は兎にも角にも、広い。広すぎた。
その上鉄道も道路も貧弱極まりないと来れば、カンネーの信者にして機動戦の権化たる――否、そうならざるを得なかった――帝国軍が最も苦手とする戦場。それが東部戦線だった。
そもそも帝国は周囲を仮想敵国に囲まれるという最悪の条件にあり、故に、財源の許す限り軍事力を強化したところで不足していた。その難題を克服するため、帝国軍は機動戦を重視する傾向にあったのだが、東部戦線の広さは、もはやどのような努力を以てしても兵力の不足を来すしかなかった。
――そう、オーバーロード
「西部に兵力を回しすぎたか?…否、これでも可能な限り抑えた。それですら東部戦線は歯抜け状態としか言いようがない」
『足りぬ足りぬは工夫が足りぬ』と言うが、実際問題全く足りないのだ。ほかにどう表現しろと?
「今の東部はやせ衰えて腕を伸ばし切ったボクサーのようなものだ。最低でも、腕を引かねばどうしようもあるまい」
本当は休養も取りたいが、と冗談交じりに呟くルーデルドルフ。
つまるところ、それが『作戦用務命令第37号』。
「とにかく下がれ、ただひたすらに下がれ。友軍との連携は可能な限りで良い。最悪
『作戦』とは名ばかりの退却命令。それが『第37号2』だった。
ちなみに37号1は先だってノルマンディア地方で実施したような、計画的破壊措置込みの理想的撤収を意味し、当初はこちらを来春初頭、泥濘期の前に実行する予定
「それくらいは連邦も大人しいと思っていたのだが」
「油田を破壊したからな。自分もそう思っていたのだが…」
『大地が凍る厳冬期に念入りに準備し、泥濘で足止めする』
それこそ、陸軍参謀本部の考えた東部戦線の仕舞い方。
何しろ二正面戦争なのだ、そうでもしないと兵員も物資も足りぬ。さらに東西の戦線が近ければ兵力の融通もしやすくなるし、兵站状況も劇的に改善されるだろう。
兵力は集中した方が良く、物動は
…だが、その計画も今となっては絵に描いた餅。
「…原因を探るのは後だ。現実として、連中は押し寄せてきている」
「作戦局では敵の狙いをどう見ている?連中、全面的に攻撃を仕掛けているが?」
「そこが悩みの種だ。腹が読めん」
クルト・フォン・ルーデルドルフ元帥をして、悩ましい問題はそこにある。
「連中がよほどのバカなら、物資消費量を考えない『全面攻勢』だろう」
「同感だ。それで?」
「連中とて潤沢ではない筈だ。全面攻勢など、まともな神経ならやらんだろう」
バクー油田。
それはこの時代世界最大クラスの油田にして、連邦の動力源。
――なにより、帝国が偏執的に叩き続けてきた最優先目標。
「油田は叩いた。兵器も春先に大分破壊したはずだ。クデーリアンの奴が作戦局まで来て大はしゃぎだったからな。貴様にも見せてやりたかったくらいに」
「それは勿体ないことをした」
ハンス・クデーリアン装甲兵総監。
帝国陸軍機甲部隊の親玉にして、極端すぎるほどの機動戦の信奉者。
その信仰心故に兵站を無視した突進を繰り返すこと甚だしく、とうとうゼートゥーア参謀総長の手によって前線から引きはがされたという噂の持ち主。…そしてその噂が殆ど事実であることを、ルーデルドルフは知っている。
そんな彼が、どういう訳か手に入れた新しい役職、それが『装甲兵総監』。
当然、誰もが体のいい窓際人事だと誤解したのだが、――とんでもない。それは帝国軍の機甲部隊、その装備から錬成、果ては作戦運用に至るまでに口出しできる権限を持つ、まさにハンス・クデーリアンの、ハンス・クデーリアンによる、ハンス・クデーリアンのためにあるような机だった。
『奴にこんな役職を与えたのは、誰だ!?』
ルーデルドルフが思わずそんな声をあげ、半ば覚悟していたとはいえ答えを知るや天を仰いだほどである。嗚呼、やはり貴女ですか!と。
「戦務としても
「作戦に一々口出しされるこっちの身にもなって欲しいものだ。――話を戻すぞ。この状況で全面攻勢に出れるほど、連中が立ち直っているはずがない」
「つまり?」
「どれかが本命で、それ以外は陽動だろう」
――それが、帝国軍の頭脳で、帝国式帰納法で導き出される結論。
彼らは知る由もない。
自分達が相手にしているのは、こことは別の世界戦において、『ノルマンディー上陸作戦』と『マリアナ諸島上陸作戦』を同時にやってのけた怪物だということを。
かたや史上最大の作戦、もう一方は空母15隻を基幹とする機動部隊を運用しての大海戦。
その両方を地球の両側で行い、そして勝ってしまう巨人を相手しているなど、統一歴世界の人間が想像できるはずも無かったのである。
◇――◇――◇ ◇――◇――◇
同刻 連邦首都モスコー
「――故に、帝国軍は崩壊するだろう」
内務人民委員長、ロリヤは満足そうにうなずく。
「これほどの物量。連邦製でないのは頂けないが、物質こそ力だ」
共産主義とは、マルケス主義とは、畢竟『唯物論』である。
神だの宗教だのと言った『唯心論』から脱却し、事象と事物、それを生み出す労働に拠って立つ国家。それがルーシー連邦である。
であればこそ、モスコー中央駅と操車場、あるいは各基地に溢れるほど――実際に溢れている――積み上げられた物資の山は、たとえそれに張られたラベルに書かれているのが資本主義の総本山の言葉であり、あるいは如何わしい裸婦像がペイントされた軍用機であろうとも、愛すべき武器弾薬であることに変わりないのだった。
「思えば我々は、帝国軍に倣い過ぎていた」
そう反省の弁を述べるのは、連邦軍上級大将デューコフ。
機動戦、機甲戦力、航空撃滅戦。どれも帝国軍がその効用を示し続け、連邦をして血の束脩を収め続けているやり方。
――そう、それはどれも『帝国軍が誰よりもお上手な戦争のやり方』なのだ。
「ゼートゥーアにしてもルーデルドルフにしても、連中は戦争が上手過ぎる」
思えば、連邦は連中に魅せられ過ぎた。
なるほど電撃戦、機甲戦力の集中投入による戦線突破からの包囲殲滅ほど美しい戦争芸術はそうそうあるまい。帝国が幾度も見せたその妙技、模倣したくなるのも無理からぬ話。
だが、それでは駄目なのだ。
「蝶のように舞い、蜂のように刺す」。言うのは簡単だが、実際にやるのは極めて困難なそれを、息を吸うようにやってのけるのが帝国軍なのだ。
その典型例が今年の春。
ノルマンディア上陸作戦に呼応し、連邦が発動した春季攻勢『マエヌス』。
その作戦において、連邦は遂に「機甲戦力の集中投入による戦線突破」を果たした。
――そして、いつの間にか脆弱な側背面を帝国軍に蹂躙され、手痛い損失を被った。
「いったい何が起こった!?」
攻勢が頓挫した当時、連邦軍の将校らは揃ってそう叫んだという。
なにしろ、いつの間にか側面に帝国軍機甲師団が出現し、あっという間に食い破られたのだ。自分たちが何をされたのか、正確に把握するのにさえ一か月を要したほど。
「機動戦という土俵では帝国に、あの化け物どもには勝てない」
分かっていたことではあるが、とデューコフは口には出さない。
何しろ『マエヌス』は、政治的動機で発動を無理に早めた作戦だった。
本来夏以降にやるはずだった反攻作戦を、ノルマンディア上陸作戦に間に合わせるため、兵力も武器弾薬も不十分な状態で繰り上げ、そのために南方戦線に限って実行した結果が、あれだ。
…尤も、命令したのがこの国の最高権力者であるため、指摘する阿呆はいないだろうが。
「帝国相手に
ならば、どうするか?
どうやれば帝国軍に勝てるのか?
その命題に取り組んできた連邦軍首脳部は、至極単純な解法を導き出す。
「全戦線縦深攻撃。この手に限る」
圧倒的兵力と武器弾薬を用いての力押し。
点でも線でもない、文字通り『面』での圧殺。
重点目標?欺瞞のための陽動?
そんなものを必要としない、機動戦も脆弱な側面もない、実にシンプルな、それでいて圧倒的な『鉄の津波』こそ、帝国軍を食い破る最善手なのだ。
「これならば、連中お得意の機動戦も不可能だろう」
「第一梯団、第二梯団も十分に揃えた。唯一の懸念はガソリンだったが…」
「持つべきものは友と言うべきでしょう。これだけあれば何の心配もいらない」
「同志の言うとおり」
口々に安堵の溜息を漏らす連邦の高級軍人ら。
油断禁物ではあるが、山のように積みあがっていく武器弾薬なれば仕方のないことなのかもしれない。
…しかし、彼らは分かっているのだろうか? ロリヤは首を傾げる。
なるほど今は戦友かもしれない。
しかし彼らは合州国で、つまり『資本主義の総本山』なのだ。
本来相いれない筈の連邦と合州国が友でいられるのは、『帝国』と言う共通の敵が、倒すべき巨悪があるからこそ。
――では、帝国を打ち倒した後は?
打倒帝国と言う労農人民の夜明けを前にしながら、ロリヤの表情は暗い。
なるほどこの攻勢は連邦の「黎明」となるだろう。帝国と言う闇は去り、世界は光に満ちるに違いない。…だが、その後は?
記念すべき連邦の黎明。しかしそれを支えるのは合州国の物量!
憂慮しなければならない事態だというのに、軍人共ときたら!
「戦争が終わったら、我々は
なるほど帝国の存在は、連邦建国以来ずっと悩みの種だった。
けれども、今になって思うのだ。
その存在は『共産主義』と『資本主義』の間の緩衝材、ある種のフィルターになっていたのではないか、と。
「これほどの物量、同志諸君を惑わせるには十分すぎる」
そもそも共産主義、あるいは社会主義は資本主義へのアンチテーゼである。
一部資本家による独占、支配から大多数の労働階級を解放するという崇高な使命が、そこにはある。
…けれども、これほどの豊かな実りを前に、使命に殉じることの出来る人間が、一体どれだけ残ることだろう?
「…5か年計画を再始動する必要がありますなぁ」
今日も今日とて、内務人民委員長の悩みは尽きない。
連邦も、帝国も、相手の思惑を絶妙に勘違いしたまま、11月20日の夜は更けていく。
鉄の津波とともに
連邦「押せ押せ!押しまくって殲滅しろ!」
帝国「逃げるんだよォ!スモーキーーーーーッ!! 」