【冒頭】統一歴1950年代の再現VTR
【途中から】実態(白目
統一歴1950年代作成
連合王国公共放送作成 再現VTRより
統一歴1928年12月10日夕刻、帝都ベルンの統合作戦本部。
その大会議室に陸海空三軍の首脳部が勢ぞろいしました。
作戦名『鉄槌』。
その実行を前にした
『諸君。連邦軍が動き出しましたぞ』
そう言って元帥が指さすテーブル上の地図には、東部戦線全域で大規模攻勢を開始した連邦軍の動きがプロットされています。
大戦始まって以来の、否、人類史上未曽有の鉄の津波を示すそれを目の当たりにしながらも、列席者の表情に何らの動揺も見られません。
当然の事でしょう。何故ならそれは――
『
『やっとですか。待ちくたびれましたぞ』
連邦軍が7月のノルマンディア上陸作戦に呼応し、何らかの攻勢を発動することは十二分に予想されていました。故にそれから4カ月、帝国軍は入念に準備を進めていました。
『ゆえに予定通り、わが東部軍は後退を開始しております』
『万事順調、そう捉えて宜しいのですな?』
問いかける空軍次官に、しかし、陸軍参謀総長はほんの少し表情を曇らせます。
『そうであれば良かったのですが。運悪く東部方面軍司令部が打撃を受けてしまいまして。しかし、万事予定通りに事が運ぶことなどありますまい。戦時ともなれば尚の事。――ゆえにご安心を。状況を改善すべく、人員と物資を手配しております。
元帥は続けます。
『こちらも歓迎の宴を準備せねばなりますまい…。聞けば連中、新大陸から
『参謀総長の仰るとおり』
『海軍はいつでも行けます。久方ぶりの全力出撃だ。腕がなります』
『空軍も準備万端であります』
『肝心の魔導師部隊の状況は?』
『それについては担当者から説明させましょう。デグレチャフ大佐』
『ハッ』
参謀総長に促されて立ち上がるのは、小柄な一人の少女。
しかし外見に惑わされてはいけません。この少女こそ、鉄槌作戦の要にして、帝国陸軍の勲章という勲章を総なめにした伝説の魔導師。後に統合作戦本部長にまで上り詰める参謀将校、ターニャ・フォン・デグレチャフ大佐なのです。
『臨時混成第一魔導連隊長を拝命いたしました、ターニャ・フォン・デグレチャフであります。師団は既に集結を完了、命令あらば即時出撃可能です。…ところで、我々の乗る
『それについても抜かりない。一等上等なモノを用意しています』
『エスコートもあると嬉しいのですが?』
『心配ご無用。シュワルベを用意している』
『…それは、確か空軍自慢の新鋭機では?…驚きました。至れり尽くせりではありませんか』
『覚えておくと良い大佐。宴の主催者、しかもレディーならば主賓を貶めない程度に着飾るのが礼儀というものなのだよ』
『大変勉強になります。…ただまぁ、小官の年では実践は当分先になりそうですが』
少女の冗談に列席者がひとしきり笑い声を上げるのを待って、ハンス・フォン・ゼートゥーア元帥は告げます。
『それでは諸君、――宴を始めよう』
時に統一歴1928年12月10日 午後10時25分。
後に『帝国陸軍最後の勝利』と謳われる鉄槌作戦の幕が、切って落とされたのです。
※このVTRは各種記録、証言より構成しています
◇――◇――◇ ◇――◇――◇
統一歴1928年12月10日夕刻
帝都ベルン 陸軍参謀本部作戦局長室
「大佐、状況は把握しているな?」
「ハッ、レルゲン大佐、ウーガ大佐より伺っております」
ターニャ・フォン・デグレチャフ大佐の答えに、
「ならば話は早い。――
そう言って、大将閣下が指さすテーブル上の地図には、東部戦線全域で大規模攻勢を開始した連邦軍の動きがプロットされている。大戦始まって以来の、否、人類史上未曽有の鉄の津波を示すそれを目の当たりにして、ターニャは思わず生唾を呑み込んだ。
『バグラチオン作戦』
彼女の脳裏に浮かんだのは、それだ。
それは4つの戦線への同時攻撃に始まり、ドイツ国防軍に再起不能な損害を与え、実に400キロ以上も戦線を西に移動させた、縦深攻撃の成功例。
ただその時の国防軍と違い、帝国軍には希望がある。
「我が軍は全面後退を開始したと聞いておりますが?」
「その通りだが大佐、外では『転進』と言うように。最近は繊細な政府要人が多いようでな、皆神経質になっている」
「御忠告、ありがたく。それで、小官が呼ばれた理由は?」
ターニャの問いかけに、作戦局長は一瞬悩んだ表情を見せたが、ぼそりと呟く。
隠しても無駄か、と。
「閣下?」
「正直に言おう大佐、我々は窮地に立たされている」
何しろ―― ルーデルドルフは続ける。
「
「閣下、さりとて問題は無いのでは?後退が予定より早まっただけでしょう」
ターニャは思う。連邦軍が7月のノルマンディア上陸作戦に呼応し、何らかの攻勢を発動することは十二分に予想されていた。実際、西部戦線にいるターニャの耳にだって噂は入っていたのだ。それから4カ月、準備期間は十分にあった筈。
「大佐、貴官も東部の鉄道と道路の状況は分かっているだろう」
『その作戦は、常に一本の絹糸に掛かっている』
対連邦戦の初期、当時のゼートゥーア中将がクデーリアンの部隊運用を評して宣った言葉である。
しかしその数年後、東部査閲官として現地に赴いたゼートゥーア大将は、この発言を訂正することとなった。
『東部には一本の絹糸しかなかった』
それほどの兵站事情。
まともな街道が指折り数えるほどもなく、鉄道設備も帝国基準では考えられないほど脆弱と来れば、戦務局のゼートゥーアがそう評価するのは至極当然の事だった。
――そんな東部で、往年程の規模はないとはいえ、帝国東部軍が一斉に後退しようとすれば何が起こるか。
「如何に高名な楽団とて、指揮者がいなければ交響曲を奏でることは出来ん」
「つまり、後退が上手く行っていないと?」
「左様。予定ではこれほど滞留するはずではなかったのだが」
予定は、どこまで行っても予定である。
その事を現在進行形で理解させられる戦争屋の表情は、苦い。
「ゼートゥーアや戦務局が状況を改善すべく奔走しているが…、一度壊滅した方面軍司令部だ。立て直すのは簡単ではない」
「しかも全軍が後退中…、落ち着いて立て直すこともままならない、と」
「その通りだ大佐。結果として
本来ならば作戦用務命令37号による全面後退により、帝国東部軍は連邦軍の攻勢からくる衝撃を和らげ、予定されたライン――言いかえれば、入念に準備された新しいねぐら――で多少は暖かいクリスマスを迎える筈だったのだ。
――それが、実際はどうだ?
地図をよくよく見れば、運悪く連邦軍に追いつかれ、取り残され、絶望的な抵抗を余儀なくされたと思しき部隊の印があちらこちらに見えている。
攻勢発起から24時間足らずでこれなのだ。この先どうなるかなど、想像するだけで背筋が凍る。東部軍はクリスマスはおろか、師走を迎える前に溶けてしまうだろう。
「そうなれば最後、帝都まで連中の進軍を阻むものはない。ゆえに参謀本部は方面軍司令部が機能を回復し、統制を取るまでの時間を創出する必要があると判断した。――そこでだ、大佐」
…ああ、なるほど。ターニャはそこで自分が呼ばれた理由を悟る。
苦悶に満ちた表情で、
「貴官らには、敵後方への強襲降下をやってもらう」
◇――◇――◇ ◇――◇――◇
同刻 帝都ベルン
統合作戦本部本部長執務室
「お疲れのところ、申し訳ございません」
「構わないよゼートゥーア。むしろ助かった」
「そう言っていただけると助かりますが…。陛下の場合、それは本音ですな」
クスリと笑うゼートゥーア参謀総長の視線の先には一体のトルソー。
それには、見るからに金がかかっていると分かる――実際、ちょっとした家一軒分の価値がある――豪奢なドレスがかけられていた。
不機嫌そうな顔を隠そうともせず、先ほどゼートゥーアから差し出された『作戦計画』の頁をめくる己が主君に、参謀総長は好々爺然とした表情で続ける。
「晩餐会が楽しみですなぁ」
「…そう言える君が羨ましいよ。今から気が滅入る」
「おやおや、必要な事ですぞ」
「分かっているとも」
このご時世に晩餐会!
近視的な軍人ならばそう叫んだことだろう。実際、ゼートゥーアと同様に招待状を受け取ったルーデルドルフはぼやいたのだ。そんな金があるならこっちに回せ、と。
しかし、違うのだ。
「こんなご時世でも、いえ、こんなご時世なればこそ、『帝国は健在なり』と示さねばなりませんからな」
「……当日吹雪にでもならないかな。それか影武者に頼むか」
「そこまで仰いますか」
思わず呆れた表情になるゼートゥーアだが、ツェツィーリエにだって言い分はある。
「宮内省の魂胆は明白だ。…あ奴ら、晩餐会にかこつけて私の婿を探す気だぞ!」
四代皇帝ツェツィーリエ・フォン・プロイツフェルン。
御年21歳。
浮いた話、なし。
今まで噂になったお相手、なし。
部外者で私室に入ったことのある異性、なし。
部外者で複数回以上私室に入ったことのある人間、ターニャ・フォン・デグレチャフ大佐のみ。
『これで深刻な懸念を抱かずにいられる宮内省があるだろうか、いや、ない!』
宮内省の知人からそう愚痴をこぼされ、ハンス・フォン・ゼートゥーア元帥ともあろう者が反論できなかったということ自体、事態の深刻さを物語る。
なれば内務省と典礼省がこの晩餐会に並々ならぬ情熱を傾け、家一軒分のお値段がするドレスが新調されるのも無理からぬ話だった。
「無駄な金は使うなと言ったら、『帝国の威厳を見せるための必要経費です』と。全く、どう見ても見合い衣装ではないか!」
「まぁまぁ陛下。それだけではありますまい」
ゼートゥーアは教え子を宥める。
「ここ数年、時局故にこの手の催しは自粛されて参りました。多くの貴族令嬢、令息にとって、此度の晩餐会は福音でありましょう」
「それが分かっているから無下にも出来んのだ。全く…」
狡猾な奴らめ!と、皇帝ツェツィーリエは臍を噛む。
実際、妙齢の貴族令嬢、令息にとって、社交の場とはすなわち出会いの場である。然るに大戦勃発以来、その手の催しは絶無に等しく、彼らの主君たる『帝室』、その実務機関たる宮内省、典礼省にとって頭の痛い問題だったのだ。
「加えて代替わりの後だ。去年は父上の喪に服すということで逃げ切ったが、今年こそはと連中張り切ってやがる…。くそう、こんなことなら即位と同時に潰しておくんだった」
物騒なことをつぶやく女帝陛下に、ゼートゥーアは肩をすくめた。
…半分以上本気だろうなぁ、と。
「おかげで今日も朝早くからドレスの採寸だの招待客の確認だの当日の段取りだの…まだ一か月も先なのだぞ!?」
「それだけ気合が入っているということでしょう。良いことではありませんか」
「…ゼートゥーア。君、私がパーティー嫌いなの知っていて楽しんでいるだろう?」
「滅相もございません」
「鏡を見て言いたまえ。全く、酷い部下を持ってしまったものだ。…決めた。当日君は出禁とする」
「なっ!それは横暴ですぞ陛下。小官とて教え子の晴れ姿を見たいというのに」
「教官殿の魂胆は分かっている。大方、慣れぬドレスに四苦八苦する教え子を肴に、ルーデルドルフと帝室秘蔵のワインで一献やる腹だろう?」
「…。…それで、如何でしょうか。その作戦案は?」
「誤魔化しすらしないだと!?」
なんてひどい奴らだ、と笑いながら、ツェツィーリエは雑談の間に目を通していた作戦書を机に置く。
作戦名、『鉄槌』。
それが、ルーデルドルフら作戦局が立案し、先ほどゼートゥーアが上程した東部戦線起死回生の一手である。
「敵後方、兵站上の要地3か所にそれぞれ一個、合計3個魔導大隊を投射。以て連邦軍の舌鋒、衝撃を緩和し、東部軍立て直しの時間を創出する。実にシンプルだ、分かり易くて結構だとも」
「急場ゆえ、微に入り細を穿つ作戦は不可能だろうと」
「ルーデルドルフらしからぬ堅実さだが、やむを得んか…。三カ所に分けた理由は?一カ所に集中投入した方が良い気がするが?」
「残念ながら、現時点で敵の主攻線が判断できておりません。それどころか、北部、中部、南部全てで突破を図っている節があります」
「だからそれぞれに投射すると。なるほどね。…それで?私にこれを見せる理由は?」
「採点を賜りたく」
「採点だって?…ふつう逆じゃないかね、教官殿」
「いえいえ、本心ですとも」
そう、本心である。
帝国第四代皇帝ツェツィーリエ・フォン・プロイツフェルン。
幼いころから『プロイツフェルンの最高傑作』と謳われたその才を、ゼートゥーアは士官学校教官だった時から幾度も目撃してきた。あるいは帝国の誰よりも、その才を目の当たりにしてきた
例えば『衝撃と恐慌』。
共和国大陸軍を撃滅し、共和国を休戦と言う名の事実上の敗北宣言に追いやったその作戦は、しかし、参謀本部立案段階では『衝撃と畏怖』であった。否、過ぎなかった。
それを一瞥しただけでダメ出しし、自ら手直しを施して『衝撃と恐慌』に昇華せしめたのが、ほかならぬ目の前の女帝なのだ。
それだけではない。
思えばそれ以前、協商連合との講和に際し、帝国は兵力をほとんど駐留させることなく、協商連合屈指の港湾を獲得した外交手腕。
あるいはダキア公国との戦いに際し、その首都どころか、更に後方にあった油田を航空魔導師に無傷で確保させるという奇想天外な発想。いずれも参謀本部に詰める綺羅星ですら思いつかなかった一手である。
トドメとばかりに現下のフランソワ戦線。
昨年末、参謀本部が想定していたのは「大西洋岸から誓約同盟国境まで、直線距離でも300キロの防衛線」。
それが蓋を開けてみればどうだ。
本当に一体全体どんな策を弄したのか、実際には正面200キロ足らずの防衛線。それも地下陣地化完了済みのジークフリートラインに拠っての防衛線ときている。
「これでは小官の仕事はありませんな」
西部方面軍司令に任命されたロメール大将が、冗談交じりにそう言ったのも宜なるかな。
まぁ、そう言いながら、さらに凶悪な仕掛けを施していくのがロメールと言う男であり、だからこそ西部を任されたのだが。
更に付け加えると、目下共和国はイルドアと共に講和テーブル設営に向け鋭意努力中ときている。
「…一体全体、何をどうすればこうなるのだ?」
一番困惑し、当惑しているのが帝国陸軍参謀本部なのだから笑うほかない。
少なくとも教範には出来るまい、と言う一点で参謀本部の見解は一致している。
――そして、これら全てを創出したのが、目の前の人物なのだ。
政戦両略、神算鬼謀。
これが『プロイツフェルンの最高傑作』かと、ゼートゥーアをして戦慄するほかない!
……実際は
『今となっては、むしろ私が教えを請いたいくらいだ』
そして、参謀総長が作戦書を持ち込んだのにはもう一つ理由がある。
「作戦には東部方面軍、西部方面軍、そして参謀本部から各一個、魔導大隊を投入いたします」
皇帝の手がピクリと動いたのを、ゼートゥーアは見逃さなかった。
「…203だな?」
「はい」
ゼートゥーアが答えれば、皇帝は作戦書に目を落としながら続ける。
「行きは輸送機。帰りは自力。間違いないね?」
「相違ありません」
なるほど、と首肯して皇帝陛下はぽつりと言う。
「…半分も帰って来れれば御の字だろうな」
そうなのだ。
なるほど、帝国空軍は西方防空戦と比べれば『かなりマシ』なレベルで東部の空を保持している。だが、それは戦闘機の性能とパイロットの技量によるところが大きく、その上『戦闘機同士での戦い』に限定しての話。
「輸送機護衛任務」となると、途端に難易度が跳ね上がる。それが東部の現状。
しかもそれは「行きの時点」でそうなのだ。
鉄槌作戦が成功した時、つまり東部軍が統制を取り戻して
――つまり、連邦軍が充満した距離を、戦い疲れた魔導師諸君は飛ばなければならない。
「…参謀本部でも、その様に考えております」
「……。それでも東部軍が全滅するよりはまし、と」
「御意」
要するにスターリングラードだな。声に出さずツェツィーリエは思う。
『スターリングラードの第六軍』
それは、西暦世界でも指折りの
包囲された第六軍は、しかし彼らが抵抗している間にコーカサスのA軍集団が撤退できるという理由で見捨てられた。なるほど、損得勘定で行けば実は正しい選択だったかもしれない。
「…まさか自分がその立場になるとはね。実に皮肉な話だ」
「陛下?」
「こっちの話だ、気にするな。…それに、既に動き出しておるのだろう?」
「参加部隊への命令を発出し終えたところであります。明日中には発動できるかと」
「…つまり、それまでなら手直し可能なのだな?」
「その通りであります、陛下」
ゼートゥーア参謀総長は心の中で喝采を上げた。
何故ならば、目の前の彼女がこういう言い方をする場合、彼の期待は裏切られたことがないからだ。
――そして、ゼートゥーア自慢の教え子は、恩師の期待を裏切らない。
「ならば、言わせてもらおうか」
執務机の電話に手を伸ばしながら、ツェツィーリエ・フォン・プロイツフェルンはニヤリと笑う。
「遊び心が足りないね、ゼートゥーア。折角のご来訪だ。もっと賑々しくやろうじゃないか」
時に統一歴1928年12月11日、午前零時。
後に発見されることとなる手記において、ゼートゥーアはこの日のことを極めて簡潔に、次のようにだけ書き残している。
『黎明は来たれり。されど、払暁あり』
>鉄槌
原作と違ってこの世界では未使用の作戦名
>皇帝陛下の遊び心
誰とは言わないが被害者が出るのは確定的に明らかである