皇女戦記   作:山本 奛

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またの名を、シュワルベデビュー戦


鉄槌

統一歴1928年12月12日 12時32分

 

 

「…まさか、またここに来る日がこようとはな」

 

 

ターニャ・フォン・デグレチャフは呟いた。

 

ティゲンホーフ

 

帝国東部の歴史ある街にして、ターニャら第203航空魔導大隊をして血みどろの死闘を繰り広げた因縁の地である。

あれから2年半余り。未だに戦争の爪痕があちらこちらに見受けられる古都を飛び越えて、203大隊は郊外の野戦飛行場に降り立っていた。

 

「そして、再びここも戦場となるのだろうな」

 

ターニャは呟く。

何故ならば、自分たちが今から実行しようとしている『鉄槌』作戦。

これが成功したなら、…否、成功しなくとも、連邦はこの地に遮二無二押し寄せてくるに違いない。――それも、開戦直後のアレとは比べ物にならないほどの兵力で。

それだけのことを、これから自分たちはやろうとしているのだ。

 

「一度は救った街を、今度は地獄に叩き落とす、か…。やはり軍人とは因果な商売だな。好き好んでやる仕事ではあるまい」

 

そこまで独り言ちたところで、ターニャは側にいる筈の副官がいない事に気付く。

 

「…ヴィーシャ?どうした、そんなところで突っ立って?」

 

いや違う。セレブリャコーフ中尉のみならず、ヴァイス少佐やほかの連中も一様に立ち尽くしていた。

 

「あっ、失礼しました大佐殿。『アレ』があまりにも異様だったもので…」

「セレブリャコーフ中尉に同じく、であります大佐殿。()()()()()()()()など、見たことがありませんから」

「ああ、なるほど」

 

彼らの視線を追いかけて、ターニャは納得した。

確かに、あれは初見時のインパクトが凄まじい。自分とて前世が無ければ同じように口をあんぐりと開けていたに違いない。

 

「あれは『ミステル』だ。上が母機、下は爆弾満載の無人機になっている」

「はへぇ~。それであんな形をしているんですね」

「――その通り。よく知っているな」

 

聞きなれない声に振り返った203の面々は、即座に姿勢を正す。

 

「ちゅ、中将閣下に敬礼!」

 

空軍のパイロット服を伊達に着崩したその男は、フランクな答礼を返す。

 

「アドルフ・ガーランデだ。――流石はデグレチャフ大佐と言うべきかな。我が空軍の秘匿兵器なんだが」

「挨拶が遅れました閣下、ターニャ・フォン・デグレチャフであります。……閣下こそ、小官の事をご存じで?」

「その体躯で銀翼突撃勲章持ち。しかもミステルを知っている。そんな人物、帝国軍広しと言えど、貴官くらいしか居らんだろう」

 

言われてみれば、確かに。

思わず苦笑するターニャに顔を寄せて、ガーランデはニヤリと笑う。

 

「要するに、どこぞの姫様に振り回された同志という訳だ。違うかね?」

「全く、全く相違ありません、閣下」

 

即答するターニャにガーランデは一瞬あっけにとられ、そして大笑いした。

 

「実に実感がこもった返答をありがとう、大佐。全く、あの方の思い付きはどうしてこうも突拍子もないのかね」

「共感する事ばかりでどこから同意すべきか判断しかねるほどでありますが、…ちなみに閣下の場合、どのような?」

「ウム、そうだな…。貴官ならばよく分かるだろうが、それこそどこから話せばいいのか判断がつきかねる。そうだろう?」

「…閣下。非常に失礼な発言をお許しください。…小官は今、共感と隣人愛、その二つの感情に打ち震えております」

「貴官がもう少し年長であったならば、一晩中でも語り明かせそうだ。…とは言え時間は有限だ。差し当たり、アレを見てくれ。俺が()()()()()機体なんだが……」

 

そう言って、ガーランデが指さした先。

丁度ミステルの陰に隠れていたその機体を視界にとらえて、203の面々が硬直する。

 

「信じられるか?アレで戦闘機だぞ?」」

「し、失礼でありますが、閣下。アレで、でありますか!?」

「そうともヴァイス少佐。おまけに名前は『シュワルベ()』と来たもんだ」

 

こちらの方が素なのか、砕けた口調のガーランデに副長が震えた声で尋ねる。

無理もないよなぁ…、とターニャは思う。自分だって模型で知らなかったら同じ反応をする自信がある。

 

「…あの、閣下、あれはツバメ(Schwalbe)と言うよりどう見ても――」

「皆まで言うなセレブリャコーフ中尉。口にしたが最後、そうとしか見えなくなる」

 

だがな、とガーランデ。

 

「許しがたい事に、あれで性能はピカ一だ。帝国空軍最速にして、機首に()()装備した新型機関砲(グスト式)から20ミリを毎秒100発叩き出す」

「「毎秒100発!?」」

 

ヴァイス少佐らが絶句するのも宜なるかな。

この時代、一般的な20ミリ機関砲の発射速度は毎秒10発から12発(毎分600~720発)が良いところ。その10倍の発射速度ともなれば、戦闘機に詳しくない魔導師とてその異常性は理解できる。

 

――しかも、である。

 

「…ところで閣下、その格好でもしやと思ったのですが…。まさか、直率なさるので?」

「その通りだとも、少佐」

 

やっぱりそうだよなぁ、と思ってしまうのはターニャが転生者だからだろう。

普通、中将が自ら操縦桿を握って戦闘機隊を指揮するなどあり得ないのだから。

そしてそのあり得ないことをやってのけた『ガーラン()』という人物を、その部隊を、伝説を、ターニャ・フォン・デグレチャフと言う少女は知っている。

 

「護衛がつくとは聞いておりましたが、まさかJV44にエスコートしていただけるとは」

「なんだ、そこまで知っているのか。ならば話は早い。

お嬢さん方を会場までエスコートする騎士団員を紹介しよう。――野郎ども、出てこい!」

 

「…騎士なのか野郎どもなのか、どっちかに統一してくださいよ隊長」

「全くです」

「お腹すいた…眠い」

「そこは『あら淑女もいるのよ』と言うところだぞ、少佐」

 

ぞろぞろと出てきた空軍の戦闘機乗りたちの顔ぶれに、今度こそターニャも固まった。

――正確には、その胸にぶら下げた勲章の数々に、だが。

 

「まずは第一飛行隊隊長、クルピンズキー少佐。スコアは確か170」

「182ですよ、閣下。…クルピンズキーだ、よろしく」

「続いて第二飛行隊隊長、バルクホルン少佐。スコアは250」

「どうも」

「そして第三飛行隊隊長にして戦闘団の紅一点、エーリカ・ハルトマン少佐。スコアは先日300を突破。実に縁起が良い」

「…隊長、ギリギリまで寝てちゃだめですか…?」

「駄目に決まってるだろう。…御覧の通り、極度の寝坊助さんだが腕は確かなので安心してほしい」

 

他の面子も紹介したいんだがね、時間がない、とからからと笑うガーランデだが、ターニャたちからすれば既にお腹いっぱいである。

それにターニャは知っている。このクラスの化け物がゴロゴロいるのがJV44だということを。…と言うかハルトマン少佐はいなかった筈じゃ(どこぞの誰かが手を回した結果)…。

故に出撃前だというのに、ターニャは東の空に向かって黙祷をささげる。

連邦空軍よ、己の運のなさを恨んでくれ、と。

 

「とまぁ、護衛の面子はこんな感じだ。…時に大佐、貴官は作戦内容をどこまで知っているのだね?」

「極めて大まかな内容しか。『ミステルとともに目標まで飛び、ミステルに続いて目標に突入せよ』とだけ聞いております」

「なるほど、つまり()()()()()()()訳だな。結構、結構!」

 

豪快に笑うガーランデの発言に、ターニャのみならず全員の目が点になる。

え、これで全部なの…!? と

 

「『鉄槌作戦』などとご立派な名前こそついているがね、ハッキリ言ってぶっつけ本番、事前偵察も無しの大博打だ。目標まで飛んで、爆破し、引き上げる。使う道具は色々あるが、中身はそれくらいしか無い」

 

いっそ単純で良いじゃないか、と笑うガーランデ。

 

「そもそもミステル自体、威力は素晴らしいが鈍重すぎて使い物にならんと半年近くたな晒しになっていた代物だ。聞くところによれば、保有全機を本作戦に投じるらしい」

「そうなのですか?」

「ウム。貴官らの出撃に合わせて半数。帰りに合わせて残り半数、それで全部使いきると聞いている」

「勿体ない気もしますが…」

 

そう言ってはいるが、ターニャとて使い切った方が良いという意見には大賛成だ。

何しろ西暦世界ではその鈍重さゆえ、遂に真価を発揮できずに終わった『珍兵器』と言う烙印を押された代物なのだ。JV44という護衛がある時に使い切った方が良い。

 

…それはそうとして…。ターニャは思う。

あの御仁が関わった結果だから仕方ないとはいえ、上が雷電(ブリッツ)で下が銀河(ガラクシー)なミステルと言うのは違和感しかない。…いや、こっちの世界ではこれがミステルの標準になるのか、なんか嫌だなぁ…と。

 

「そして諸君らを乗せるカボチャの馬車は、アレだ」

「SB-2ではありませんか?4発重爆を輸送機替わりとは!」

「全く同感だが、仕方ないのだよ」

 

何しろ――ガーランデはそこで申し訳なさそうな表情を作る。

 

「邀撃を避ける都合上、全行程を高度9,000メートル以上でやることになったからな」

「…つまり?」

 

ターニャの問いに、ガーランデは重々しく頷く。

 

「魔導師諸君には電熱服と酸素ボンベを用意した。…気圧については、すまないが各自で対処してくれたまえ」

 

◇――◇――◇ ◇――◇――◇

 

『さてさてお嬢さん方、乗り心地は如何かね?』

「どうしてなかなか結構な乗り心地であります、閣下。――まさか爆弾倉に詰め込まれるとは思ってもみませんでしたが!」

『魔導大隊を一度に運ぶ方法がそれしかなかったのでな』

 

無線越しにゲラゲラ笑うガーランデの声に、ターニャは苦笑するしかなかった。

一個増強魔導大隊、兵員数48名。それが3つでざっと140名。

なるほど歩兵大隊と比べれば少数精鋭の極みだが、専用の輸送機でもないSB-2、それも5機で運ぶのは無理があったらしい。

無理やりロック機能を後付けされたと思しき爆弾倉扉の上に、これまたありあわせの鉄板と板で作ったらしいベンチをポン付け。なるほど、ぶっつけ本番と言うガーランデの言葉は本当らしい。

 

『ちなみに降下の際は事前ブリーフィングのとおり、指揮官席横のボタンを押せば床が丸ごと抜け落ちるからそのつもりで』

「…実に効率的な仕掛けですな閣下。魔導師だから許される仕掛けでしょうとも」

『ハッハッハッ、違いない!ちなみにそいつを考案したのは君もよく知るお姫様だ!』

「そうだろうと思っておりました!!」

 

ターニャ・フォン・デグレチャフがげんなりした表情になるのも宜なるかな。

昨晩遅くルーデルドルフの下を、即ち参謀本部を辞去しようとしている所に掛かってきた直通電話。

 

『やぁ友よ。今しがたルーデルドルフから聞いたであろう作戦だがね。ちょっとだけ待ってほしい。――私に良い考えがある♪』

 

入電を伝えるため、全力疾走で息を切らしたレルゲン大佐と目が合った瞬間を、ターニャはきっと忘れないだろう。

――それが、全ての始まりだった。

出撃前にガーランデから聞いた話だと、空軍の方も似たような感じだったらしい。

 

『保留にしてるミステルだけど、今すぐ出せるのって何組ある?』

 

そこからはもう、上を下への大騒ぎだったらしい。

さらに付け加えると、本作戦に付随する陽動、すなわち西部戦線の連合王国や合州国への目くらましとして、哀れ海軍軍令部にもお声がかかったらしい。

 

『グラフ・ツェッペリンって出撃可能だよね?…うん、無理のない範囲で遊撃戦としゃれ込もうじゃないか』

 

それらすべてを、執務机の電話一つで決めてしまった皇帝陛下を目撃する羽目になった参謀総長閣下は、翌日、朋輩にこう呟いたという。

 

 

 

『あれほどお手軽に差配される三軍合同作戦が、未だかつてあっただろうか』と。

 

 

 

恐らく、いや絶対に教訓にならないだろうなあ、とターニャは思う。

少なくとも、スイッチ一つで床が抜け落ちる降下猟兵など二度とごめん被る。

セレブリャコーフ中尉を見て見ろ。床の仕掛けを知ってからというもの、椅子の上で縮こまっているじゃないか!

 

「大佐殿…。必ず、必ず押す前に一声かけてくださいね!」

「当たり前だろうヴィーシャ。いっそ貴官が押すかね?」

「!?ととと、とんでもありません!」

 

ちなみに、無線封鎖などと言う芸は一切使っていない。

どうせ見つかるだろうし、何しろぶっつけ本番だ。先行して航法誘導にあたる司令部偵察機との連絡の方が優先されるとガーランデ中将が即断した。

 

『さてさて、紳士淑女の諸君。もうそろそろ目標だ。準備は良いかね?』

「デグレチャフ了解。…意外ですな。もう少し熱烈な歓迎があるかと思っておりましたが」

『そこは空軍東方管区のお陰だろうさ』

 

空軍東方管区。

今ではすっかり日陰者になっているが、対連邦戦初頭ではターニャたちもしばしばお世話になったところである。

…聞くところによれば、こちらも電話一本で戦闘機隊全機発進を下令され、陽動がてらド派手な空中戦を繰り広げているらしい。

 

――そう。陽動である。

 

『東方管区が敵戦闘機を惹きつけている間に、高々度をカボチャの馬車と愉快な仲間たちが突破。…実にシンプルだ。やり易くて涙が出そうだよ』

 

単座戦闘機に700リットル入り落下増槽を四つぶら下げて高高度を飛ぶ羽目になった中将閣下の冗談に、無線越しにあちらこちらから笑い声が漏れる。

 

『…ところで隊長。尿瓶ってどこで捨てればいいですか?』

『…ハルトマン少佐。ツッコミどころしかないが、一つだけ言っておく。――絶対にキャノピーを開けようなどと思うなよ?ここは高度1万だ!』

『うげぇ…。あっ!それじゃあ地上攻撃を許可願いたく!!』

『却下だ馬鹿者!それで撃墜されたら目も当てられん。こいつは軍機の塊なんだぞ!?』

 

およそ敵地上空とは思えない無線のやり取りを聞きながら、ターニャは思う。

そうだよなぁ、と。

 

Ta262 シュワルベ

こいつは帝国空軍が培ってきた技術力の結晶であり、エンジンは勿論、与圧装置、武装、緊急脱出装置に至るまで、どれをとっても機密オブ機密。

ゆえに、鹵獲されるのを防ぐため、本来は帝国本土及び占領地上空より外には出してはならない防空戦闘機。

それが『鉄槌作戦』のため、緊急勅令を以て投入が許可されたというとんでもない代物。…いやまぁ、投入を決めたのが勅令を出す人なのだから当然ではあるのだが。

 

ちなみに、JV44も本来はこういう目的の航空部隊ではない。

聞いてみたら、なんとこの部隊の目的は『教導隊』。

各部隊の指揮官および副指揮官、教官クラスを集めてTa262への機種転換訓練を実施。訓練終了後、各指揮官は原隊に戻ってその機種転換を指導する。…と言うのが目的だったらしい。

…道理でゲーリングもいないのに、化け物染みた連中が揃っている訳だ。

彼らが東部にいたのだって、合州国陸軍航空隊の空襲を避け。比較的安泰な東部の空で訓練するのが目的だったというから笑うほかない。

 

『…こうなれば仕方ありません。デグレチャフ大佐!』

「えっ…、コホン。何かねハルトマン中佐?」

 

この世界でもエースオブエース、帝国空軍最高の300機撃墜記録保持者、エーリカ・ハルトマンに呼びかけられて、ターニャは首を傾げる。

 

『万が一にもないと思いますが、もし私が撃墜されたら、機体を爆裂術式で吹き飛ばしてください』

「!?」

『これなら良いでしょう隊長!私だって乙女ですよ、尿瓶と一緒に数時間も飛びたくありません!!』

『『『『それ以前に乙女が尿瓶を連呼すな馬鹿!!』』』

 

全く酷い通信もあったものだ、とターニャをして苦笑するほかない。

断言しても良い。空軍は絶対、本作戦中の無線通信記録を破棄するに違いない。

 

『…はぁ、やむを得ん。実際問題、鹵獲されては困る。デグレチャフ大佐、頼まれてくれるか?』

「了解しました、閣下。確認ですが、宜しいので?」

『構わん。こいつは無駄に頑丈だからな。爆裂術式を()()()叩きこむぐらいで丁度良いだろう』

 

えっ、と言う表情になる大隊諸君の表情は実に滑稽だ。

しかし、ターニャは知っている。実際、シュワルベのベースになった機体は頑丈さに関する逸話の持ち主だということを。…いや、それくらい頑丈だから毎分3,000発とか言うふざけた機関砲を二つも積めるのか、と。

 

『ともあれ諸君、馬鹿をやっている間に予定時刻だ。――ミステル隊、増速。降下を開始せよ。第二、第三飛行隊は援護にあたれ!――喜べハルトマン少佐。その後だったら地上射撃でも何でも好きにやって良いぞ』

『よっしゃお任せあれ~!』

『護衛対象を置いていくな馬鹿者!…バルクホルン少佐、すまんが頼む』

『つまりいつも通りですな。お任せください』

『いつもすまん。…ゴホン。第一飛行隊はこのまま馬車の護衛だ。…お見苦しいところをお見せしたね、デグレチャフ大佐』

「JV44各位の腕があればこそ、でしょう。新兵共にも見習わせたいほどです」

 

尿瓶はともかく、と言いそうになるのをターニャはぐっとこらえた。

そして同時に思う。本当に天才となんとやらは紙一重だな、と。

自分は常識人であり、文明人であると自負する彼女だがしかし、気付かぬうちに十分毒されているのである。

 

例えば、こんな感じに。

 

『さて、いよいよ宴の始まりだ。…フム。ミステル隊は旨くやってくれたようだな』

「そのようですな」

 

前下方、目標付近で立ち上がる複数の黒煙に、ガーランデは満足そうにつぶやく。

投下を終えた母機とは先ほどすれ違い、報告も受けてはいたが、やはり自分の目で見るまでは判断できないというのが本音である。

 

『それではお嬢さん方、準備は宜しいかな?』

「ええ」

 

覚悟はできた。押したら最後、床が抜け落ちるスイッチ?上等だ。押してやろうじゃないか。腹をくくったターニャ・フォン・デグレチャフは、そこで仕事を一つ思い出す。

 

「おっと危ない。仕事を一つ頼まれていたのだった」

「大佐殿?」

「実は降下前に広域放送を頼まれていたのだよ」

「広域放送ですと?」

『妙な命令もあったものだ。…誰の命令かは見当がつくが』

 

ガーランデの声に、ヴィーシャやヴァイスは勿論、同じ機体に乗り込んでいる203全員が頷く。

 

「ええ、お察しのとおりです閣下。曰く、『連邦を恐懼させ、東部の友軍を鼓舞し、何より世界に帝国ここにありと知らしめる放送を』と」

「それはまた、なかなか難しい注文ですね」

「大佐殿の腕の見せ所でありましょう」

 

ヴァイス少佐が気楽に言うが、実際のところ、難しい命令ではない

何しろターニャ・フォン・デグレチャフは知っているのだ。こういう時に最適な、とっておきの名台詞を。

そしてそれは命令してきた彼女も分かっていたのだろう。電話越しでも笑いを抑えているのが分かるほどだったから。

 

ゆえに、副長と副官、その両名を側に呼び、耳元でその言葉をささやいてみれば――。

 

 

「良いですね、それ!私たちにピッタリです!!」

「ヴィーシャの言うとおりですな。こいつは痛快だ!」

『…もったいぶらずに教えてくれ。気になって夜しか寝れない!』

「まぁまぁ閣下。今からお聞かせしますから」

「しかし大佐殿。宜しいのですか?」

「何がだねヴァイス少佐?」

「それは我々203だから言える発言かと。…406、507大隊は如何いたしましょう?」

 

確かにそうだ。

『コレ』は203だからぴったりなのであって、他の2大隊には適用されない。

しかし、である。

 

「この際だ。堅いことは無しにしようじゃないか少佐」

「仰るとおりですな。失礼いたしました」

「構わんよ。楽しいことは分かち合ってこそだ。そうは思わんかね?」

 

そう、これはとてもとても楽しいことなのだ。

実益があって、楽しめて、何より査定にも上乗せされることが確実!

これを203大隊だけで独占するほど、ターニャ・フォン・デグレチャフは狭量な人間ではないし、大隊各員だってそれは同じだろう。

その証拠に、見よ!大隊全員が立ち上がり、中には肩を組んで今や遅しと掛け声を、通信に乗せる言葉を発声せんと待っているではないか!

 

「では親愛なる203大隊の諸君。私と一緒に唱和してくれたまえ。

 

そして親愛なる406、507大隊諸君。――お裾分けだ。賑々しくやろうではないか」

 

 

――それでは皆さんご一緒に。

 

 

時に、統一歴1928年12月12日

午後5時15分丁度。

 

 

ターニャ・フォン・デグレチャフは歌うように、舞うように告げる。

 

 

全世界に響き渡るその声を、航空魔導師諸君の調べに乗せて。

 

 

 

再びこの地に舞い降りたことを記念するために…!

 

 

東部方面軍の、否、帝国の命運を救うために…!

 

 

なにより全資本主義者の夢、成就のために…!

 

 

 

 

 

『モスコーよ!私は帰ってきた!!』

 

 

 




【重要事項】
察しの言い方はシュワルベの正体に気付いたでしょうが、コメント欄での指摘はお控えください。ネタを準備中ですので。

【以下、通常のあとがき】
>あら淑女もいるのよ
クィディッチ万歳

>エーリカ・ハルトマン
好きなキャラなので名前だけでも登場させた。●乳は正義!

>モスコーよ!私は帰ってきた!!
温泉に浸かっているときに降ってきた聖句(CV悠木碧
温泉って偉大だよね。のぼせて居た可能性は否定しない。
なお、今月の執筆投稿は、すべてこのセリフのために書き上げたと言って過言ではない
ツェ「…過言だったら良かったんだけど、本当なんだよなあ」
デグ「こいつ、本当は温泉じゃなくて違法な何か決めたんじゃないのか…?」

>ミステルによるモスクワ攻撃計画
史実準拠(白目
信じられますか?自国の首都攻防戦(ガチムチの地上戦)が始まろうかって時に敵国首都攻撃(with珍兵器)を本気で考えていた軍隊があるんですよ!ドイツ空軍っていうんですけどね!!
なお、本作では雷電+銀河と言う、筆者が何より好きな機体の組み合わせになった模様。……いや、やっぱりキモイわ(プラモを上下に重ねてみた
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