皇女戦記   作:山本 奛

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【いままでのあらすじ】

悪魔巣●金愚に合わせてモスコーを蹂躙する、我らが203航空魔導大隊。
その雄姿を、銀幕でとくと御覧じろ! 
ボリウッド映画『ツェツィーリエ』、全国114514館にて、絶賛上映中!!

――その愛は、世界を壊す (ナレーター:若本●夫)


デグ「…なんだこれ」
ツェ「前話の感想で降りてきちゃったネタらしいよ」
デグ「…もう駄目だこの作者」


突入

 

 

「入電!臨時混成魔導連隊の通信を捉えました!」

 

「なんと言っておる!?」

 

陸軍参謀本部作戦部長クルト・フォン・ルーデルドルフの問いに、通信参謀は息も絶え絶えに、しかし満面の笑みを浮かべて、答えた。

 

 

 

『モスコーよ!私は帰ってきた!!』、繰り返します。

『モスコーよ!私は帰ってきた!!』であります!!」

 

 

 

統合作戦本部が、揺れた。

比喩表現なしに、その場に詰めていた陸海空軍首脳陣のどよめきで揺れたのである。

 

「本当にそう言ったのか!?」

「間違いありません!師団全員で唱和している模様!!」

「全員で唱和だと!?こいつは傑作だ!」

 

 

「だから言っただろう――」

 

居並ぶ面々が落ち着くのを待って、ツェツィーリエ・フォン・プロイツフェルンはニヤリと笑いながら、続ける。

 

 

 

「モスコーは二度焼きに限ると」

 

 

 

二度、統合作戦本部が揺れた。

 

「ま、全く…ふふっ…ですな!」

「首都襲撃を二度焼きとは…全く…陛下もお人が悪い!」

「いっそ何回でも焼きましょうか?」

「ククッ…それはどうかなルーデルドルフ」

「と、言うと?」

「燃やすものが残ってないだろう」

 

アレは首都襲撃が上手だからな、と常日頃は言わないような冗談を宣うゼートゥーアに全員が爆笑した。

 

「しかし…、正直なところ、成功はおぼつかないと思っていましたが…」

「今、この状況だから、だろうな」

「と、仰いますと?」

 

ヴェーファー空軍総参謀長の問いに、ツェツィーリエ・フォン・プロイツフェルンは答える。

 

「連邦軍が前のめりになっている今だから出来ることだ。連中、前線支援に糸目をつけんからな。羨ましいほどに」

「あれには毎回辟易しますな…。そう言えば、今回はあまり連中の襲撃機(IL-2)の話を聞きませんな」

「東部方面戦闘機隊が頑張っているからだろう」

「勿体なきお言葉」

「しかし陛下。だとしても、モスコーには防空部隊が居そうなものですが…」

「うむ。開戦劈頭にあれだけやったのだ。防空部隊が大勢いそうなものだが…」

「ああ、それは恐らくここ1年、かの地に対しての戦略爆撃はしていなかったからかと。

…いや、したくても出来なかったというのが正確でしょうか」

「――と、言うと?」

 

ゼートゥーアの問いに、ヴェーファー空軍総参謀長は答える。

連邦首都モスコーが、しかも2年前に一度やられたにもかかわらず、何故またも帝国空軍の侵入を許したのか、その一因を。

 

 

 

 

「この1年、爆撃機を新規製造しておりませんので」

 

 

 

◇――◇――◇ ◇――◇――◇

 

「…いま、なんと仰いましたか?」

 

遡ること、統一歴1927年11月某日。

その日、帝国空軍総参謀長にして、戦略爆撃の第一人者アルンスト・ヴェーファーは、空軍次官ネアハルト・モルヒ共々言葉を失った。

 

「聞こえなかったのかね?…爆撃機の製造を取りやめ、資材は全て戦闘機に回せと言ったんだ」

「理由を、お伺いしても?」

「これを見ろ」

 

そう言って放り投げられたのは、帝国外務省、そして情報機関が調べ上げた、『合州国航空機生産力予測』。

そこに記された天文学的数字にモルヒは卒倒した。

彼もまた帝国空軍の生産計画を差配している人間なれば、その非常識さを誰よりも理解できてしまえたから。

 

「まさか…、こんな…、本当に?…ハハ、ハハハハハハ…小官のこれまでの努力は一体……」

「モルヒ次官!?気を確かに!」

「気持ちはよく分かるぞ次官…。…さて、二人に問いたい。そのうち半分が重爆として――

 

 

 

――『ハンブルガー』を防げるかね?」

 

 

 

「「………」」

 

空軍の実務を司る二人が、揃ってうめき声を上げるしか無かった事が答えだった。

 

「それに護衛の数も増やすだろうな」

「…道理ですな」

「そうなれば、迎撃はさらに困難となりましょうな…」

「その通りだ総参謀長。そして我らは昼間の帝都ですら出歩けなくなるだろう」

 

彼女のその言葉に、空軍最上位の将軍2名は揃って乾いた笑い声をあげた。

「冗談でも洒落にならない」と。

――しかし彼女は知っていた。

その洒落にならない事態が、冗談ではなく本当になってしまった第三帝国を。

国内の移動ですら危険が伴い、訓練機すら飛ばせぬ*1状況下、絶望的な戦いを続けた国防軍の最期を。

 

「である以上、爆撃機を造っている余裕はない。現在爆撃機を造っているラインは、全て『シュワルベ』に切り替えてくれ」

「承知いたしました。…ブリッツに振り分けずとも宜しいので?」

 

開戦以来改良を重ね、帝国空軍最多生産数を誇る戦闘機、ブリッツ。

単発機であるため、シュワルベ(異形の双発機)よりも生産数を増やせますが、と尋ねるモルヒに、ツェツィーリエは首を横に振る。

 

「爆撃機から戦闘機への切り替えは簡単ではあるまい。パイロットの養成もある。どうせ時間が掛かるのなら最初から『シュワルベ』の生産ラインにしたいが…どう思う?」

「そうですな…。エンジンの事もあります。今からブリッツの生産数を増やすとなると、エンジン(Wespe027)の調達が間に合わない恐れがあります。シュワルベならば、その量産準備の間にエンジン(Wespe037)も量産体制を拡充できるかと」

「では決まりだな」

「今ある重爆はどうしましょうか?」

「無理やりスクラップにする必要はあるまい。ギリギリまでバクー油田への爆撃を続行してくれ」

「モスコーと言う手もありますが?」

「うーむ。…いや、あそこへの爆撃は成果の割に損害が多い。やめておこう」

「承知しました。ところで、飛行爆弾は生産継続で宜しいでしょうか?」

「あれは生産ラインが根本から違うからな。予定通り月産6,000発を目指してくれ。通常の爆撃機がない分、とにかく数を作って撃ち込んでほしい」

「御意のままに。では月産10,000を目指すと致しましょう」

「…通常機の製造に差し障りが出ないようにしてくれ給えよ?……ところで先ほどから、総参謀長が一言も声を発しておらんのだが?」

 

「…ですか」

 

「ん?」

 

「それでよろしいのですか!殿()()!!」

 

ヴェーファー空軍総参謀長は叫んだ。

アルンスト・ヴェーファー。

空軍きっての戦略爆撃の信奉者である彼は、しかし、元々は陸軍人の一人に過ぎなかった。

人よりも飛行機に興味があり、まだ布張りの複葉機だった時代に、陸軍砲兵隊所属の弾着観測機の操縦桿を握っていた彼を空軍に引きずり込んだのは誰か?

それだけではない。

引きずり込んだ彼の胸にジュリオ(Giulio)ドゥーエ(Douhet)の『Il dominio dell'aria(制空)』を押し付け――

 

『これを読め!そして翻訳して私にも読ませてくれ!』

 

と言ったのはどこの皇女殿下だ?

…なんで翻訳前の時点でそんな命令をしてきたのかは考えるまい。そう言う人だと、ヴェーファーはその後の付き合いで学んだ。

 

『父上の裁可を取ったぞ。今日からここは帝国空軍レヒリン航空技術廠だ!』

『ここって確か、帝室伝来の御料牧場では?』

『ハッハッハッ!大丈夫、この通り御名御璽も賜っている!!』

『……自分で書いて自分で捺した、というオチじゃありませんよね?』

『……さて、滑走路と格納庫。それと管制室をどこに置こうか』

『殿下ァ!?』

 

――気が付けば、引きずり込まれた陸軍将校は空軍中将となり、空軍に所属する人間は皆、彼をこう呼ぶようになっていた。

 

 

『帝国空軍きっての戦略爆撃論者』と。

 

 

だが、それは全くの見当違いである。

そのことを、アルンスト・ヴェーファーは誰よりも知っている。

空軍を創ったのも。

技術廠を作ったのも。

戦略爆撃理論を持ち込んだのも。

SB-1、SB-2のラフスケッチを描いたのも。

全ては、今や志尊の座にいまします、目の前の『皇女殿下』なのだということを。

 

「…陛下が仰られた事です。『戦略爆撃により、敵の戦争継続能力を叩かねば、これからの戦争には勝てない』と」

「そうだな」

「ではなぜ!」

「…もはや、勝つことよりも生き残ることを優先せねばならんからだ」

「…それは」

「余は帝都を第二の『ハンブルガー』にはしたくない」

「なれば尚のこと、敵重爆の生産拠点を……。…あぁ、なるほど」

 

そこまで言って、ヴェーファーは気付いてしまった。

 

「…そう、叩けないんだよ。遠すぎて」

 

 

――敵策源地を戦略爆撃で殲滅し、以て敵国を屈服せしめる。

空軍人ならば誰もが夢見る理想の形。しかしそれは、帝国空軍には逆立ちしても果たせぬ夢。

 

「合州国は言うに及ばず、連邦もウラールに生産拠点を移してしまった…。これではSB-2でも届かん。届いたとしても護衛が付けられんしなぁ…」

 

ゆえに、飛んできた敵を戦闘機で叩き落とすしかない、と皇帝はつぶやく。

 

「さすがに連中も、飛ばした重爆の()()()()()()()()()()()()()になれば諦めるだろうて」

「…『シュワルベ』ですな」

「うむ。そのためだけにアレはある。――そうでなければグスト式を2門など積まんよ」

「…記憶違いでなければ、最初は30ミリグスト式にしようとしておられましたな」

「…若気の至りと言う奴だ。許せ」

「陛下、恐れながら小官は陛下の歳が分からなくなる時がございます」

「ハッハッハッ!ヴェーファー、私以外の皇帝だったら今頃君は不敬罪だぞ」

「陛下なれば、申しております」

「こ奴め、よく分かっているじゃないか。まぁ良い、私としては『シュワルベ』が大量生産できればそれでよい」

 

…本心からそう思っているんだろうなぁ…、ヴェーファーは思う。

何しろあのゲテモノ(シュワルベ)、どこを切っても皇帝陛下の浪漫が溢れ出すこと必定なのだから。それでいて性能が良いので始末に負えない。

本当にこの陛下は何者なのだろうか?

間違いなく帝国始まって以来最大の謎なのは疑いの余地がない。

 

「まぁ、陛下がそう仰るのであれば…」

「…すまんな。折角君を空軍に引き込んだのに」

「状況が状況です。勝ったところで、帝国が焦土となっては意味がありませんからな」

 

空軍生みの親と、戦略爆撃の父はそう言って、乾いた笑い声をあげた。

 

かくして、世界に先駆けて戦略爆撃に先鞭をつけ、実行してきた帝国空軍は、この日を以て『防空軍』へと転職を余儀なくされたのだった。

 

◇――◇――◇ ◇――◇――◇

 

「――とまぁ、そう言う次第ですので、東部の制空権はお任せください。常時1,000機の戦闘機で連中をお出迎え致しますとも」

「…道理で最近、空襲警報が鳴らない訳だ…」

「爆撃機一機分で、5機くらいは戦闘機が作れるからな。連中の重爆に対抗するにはこれしかあるまい」

 

パイロットに至っては10機分になる、と宣う陛下に、ヴェーファーはふと思ったことを問いかける。

 

「…陛下。まさか、それもこのための(モスコー襲撃)仕込みだったのですか?」

「いいや?さすがに偶然だとも。怪我の功名と言う奴だな」

 

――本当に?

 

その場の全員が思わず顔を見合わせる。

ツェツィーリエ・フォン・プロイツフェルン。

人を振り回すことにかけて右に出るものが無く、しかも、それで苦労する人の歪んだ表情が三度の飯より好物と宣う恐ろしい暴君。

――が、それで振り回された人間が必ず栄達するので文句も言えないという厄介な御仁。

そして『たまたま』やら『偶然』などと言ってはいるが、後から見れば上手い手を打っているのだ。今のように。

思えば先日フランソワで惹起した『三時間戦争』もそうだ。

――この方は、裏でどれほどの仕込みを(完全に誤解である)しているのやら……

 

「そのシュワルベだが、もはや隠す必要もあるまい。現時刻を以て、全戦闘空域での使用を許可する。ただし、原則敵地上空での使用は禁止だ」

「承知いたしました。ガーランデの奴は例外中の例外という訳ですな」

「それはそうだ。中将にもなって操縦桿を握る将軍など、世界広しと言えどあいつくらいなものだろう」

「違いありません」

 

 

――と、そこへ。

 

 

「第44戦闘航空団、ガーランデ中将より入電!」

「噂をすればなんとやら、ですな」

「全くだ。それで?なんと言ってきた?」

 

笑いながら通信参謀を促すツェツィーリエだったが、しかし数秒後、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして固まることとなる。

 

 

 

「『第203大隊、クレムリンに突入!』」

 

 

 

「…なんて?」

 

*1
故に国民戦闘機なる構想が生まれた…が、出来たモノはどう見ても初心者向きではない




【あとがきのようなもの】
ボリウッド版は強烈でしたねえ…。
未だに脳内再生されてて困っております(真顔

仕方ないので『いままでのあらすじ』エンドレスリピート再生して中和を試みております(何故それを選んだ
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