あれは嘘だ
(意訳:書きたいもの書いてるときってビックリするほど筆が進むよね!)
大西洋海戦
統一歴1925年7月10日 午前7時
北大西洋上 第114輸送船団
連合王国貨客船『メルボルン』号
「おはよう航海長。調子はどうだね?」
「おはようございます船長。ごらんの通り、順調そのものでさぁ」
そう言って、航海長のオリバーから手渡された双眼鏡で周囲を見回し、スミス船長は微笑んだ。
「実に素晴らしい。被害は?」
「皆無です。船団護衛方式には帝国潜水艦も手出しできないようで」
『船団護衛方式』
それは開戦初頭、帝国軍潜水艦に悩まされた連合王国が先日から導入した護衛方式である。
当時の潜水艦は高価な魚雷を惜しみ、輸送船相手にはもっぱら「浮上砲撃」を行なっていた。だが、多数の船に船団を組まれるとこの方法は途端に通用しなくなる。
なにしろ潜水艦は予備浮力に乏しく、輸送船の体当たりでも普通に沈む脆弱な艦種なのである。一対一ならともかく、多数の船団に囲まれたらひとたまりもない。
ゆえに、こうなると唯一の利点であり長所たる『潜水』を活かして魚雷を使うしかない。
戦時国際法では民間船への攻撃は厳禁?それが軍事物資を運んでいない「真っ白」な民間船だと5分以内に証明出来るのかね?
「油断大敵だぞ航海長?なんでも帝国の魚雷は
「噂のモーター式魚雷ですか」
モーター式魚雷、正しくは電気魚雷『G7e』。
本来は酸素魚雷までの繋ぎとしてツェツィーリエが技術局に指示し、1924年に実用化された魚雷だったのが、モーター駆動ゆえに航跡がないことが潜水艦乗りから殊の外喜ばれ、『電気ウナギ』の愛称で長く使用されることとなった逸品である。
なお、『発射前に蓄電池室内を30度ほどに暖めておくと射程が6割ほど伸びる』のだが、これは寒がりのツェツィーリエが実験室に持ち込んでいたヒーターで試作品が
…余談だがこの余熱装備、統合作戦本部及び帝国最高指導会議の議長席足元に逆輸入されたという
「船長は心配性ですねえ。これだけの護衛付き大船団ですよ?心配いらんでしょう」
「そうなら良いんだがな。まったく、戦争は
「まったくでさぁ」
「ハッハッハッ…ん?」
「どうしました船長?」
「いや、今何かが光ったような――」
◇◇◇
同時刻
連合王国首都ロンディニウム
首相官邸 会議室
「…何か言いたげだな諸君」
今日も今日とて不機嫌なのを隠そうともしない連合王国チャーブル首相に、居並ぶ政治家たちは気まずそうに顔を逸らした。
「海軍としては正しい行動であったと考えます。メルセルケビークの成功で、我々は地中海での海上輸送路の安定を手にしました」
「同時に地中海艦隊を引き抜き、本国艦隊を増強することも可能となりました」
「…共和国国民の怒りと引き換えに、だがな」
「「「………」」」
ため息交じりにチャーブルは言った。
「ある程度は覚悟していたとも。だが帝国のあの声明が状態をさらに悪化させたと言わざるをえん。…ハーバーグラム少将、帝国はいつから『世論戦』を覚えたのだ?」
「予想外でした。以前の帝国ならば代わりの現物賠償を求め、あるいは共和国軍の弱体化に付け入り賠償額の引き上げもしている場面です」
「実際には正反対のようだが?」
「完全な誤算です。まさか代わりの賠償を求めるどころか、『哀悼の意を表する』ということで実質減額するとは…。今までならありえないことです」
「よくもまあ帝国国民が納得したものだ。暴動でも起きる気配は?」
「ありません。帝国は国内向けにも宣伝を行なっております」
ハーバーグラム少将率いる連合王国情報部は、帝国国内に情報網を張り巡らしていた。
また、暗号の解読にもある程度成功しており―― 唯一、謎の言語で帝国中枢と前線部隊が音声交信しているのだけは全く手も足も出ていないが ――、帝国軍の動静をある程度つかむことに成功していた。
それによれば帝国陸軍はフランソワ共和国北部、ドードーバード海峡を中心に再配置、再編を進めており、今すぐに連合王国本土上陸を企ててはいないという事だった。
どうやらあの国は「制海権」というものも学習したらしく、ここ数年「艦隊決戦」思考から「艦隊現存主義」へと舵を切った節すらある。
そして驚くことに、大戦勃発直後から国内向けに「正直な」報道を行い、対外強硬論を「なだめる」方向で政策を進めているようだった。
「らしくない。ジャガイモはいつの間に『政治』を覚えたのだ?」
「協商連合との和平合意のころから帝国の外交施策、国内世論誘導は従来とは一線を画すものがあります。目下、その原因を調査中です」
「よろしく頼むよ。…どうも帝国は恐ろしい速さで『学習』し始めたらしい。ますますもって連邦の参戦を急がねばならん。…外務大臣、状況は?」
「秋津洲との講和交渉が遅れているようです。両者とも領有権で一歩も譲らないようで」
「…ルーシー連邦に譲歩させよう。代わりにオーデル川以東をくれてやると伝えるのだ」
「…ちなみに口頭で?」
「当たり前じゃないかハーバーグラム君」
「愚問でしたな。はっはっはっ」
フフフ…。ハハハ…。
英国政界。
それは魑魅魍魎の集まりである。
彼らにとって大事なのは、ルーシー連邦が帝国地上軍を引き受けてくれること。帝国軍がドーバーを越えてくる――可能性は低いが――のを防ぐためにも、北の赤熊には大いに頑張ってもらわねばならぬのだ。
そのためなら
だが、彼らの笑いは――
「首相!一大事です!!」
――駆け込んできた秘書官によってかき消される
◇◇◇
統一歴1925年7月10日 午後2時
北大西洋
「…凄まじいの一言だな」
「ええ、全くです」
ライプツィヒ艦長兼第一遊撃艦隊司令ミッターマイヤー中佐は呆れたような声をあげた。
その視線の先には空を飛び回り、船から船へと飛び移る(誤字ではない)魔導師たちの姿がある。
「…確かに魔導師ほど臨検にむいた連中もいなかったな」
「ええ、全くです」
考えてみれば道理である。
海兵魔導師は数が少なく、そのため主力艦隊にしか配属できなかったので考えすらなかったが、普通の水兵ならば「ボートを下ろす」「要員をボートで送り出す」「目的の船に接舷する」「縄梯子等でよじ登る」「臨検する」といった手順が必要なところ、魔導師ならば「空から突入する、臨検開始だァ!」で済むのである。そのためこちらが停船する必要もない。
「むしろ今までなぜ気づかなかったのだろうな。しかし、
「仕方ないでしょう。ウチの海兵魔導師は臨検の訓練を本作戦前に大急ぎでやっただけ。対して
「ふん、今後の課題だな…」
「そのための合同作戦でしょう。まぁ海兵魔導師が足りないという身も蓋もない理由もありますが」
「
「
「結構。逃走した船は?」
「『ケムニッツ』と『リューベック』が追撃しています。…しかし、停船に応じなかったとは言え、民間船を即時撃沈してよかったのですか?」
「臨検を受け入れない以上、やむをえまい。それに外交ルートを通じての警告はすでに行なっているのだ。問題はない。出撃前にそう通達されていただろう」
「失礼いたしました。ただ、船乗りとしてはどうも…」
「…気持ちは分かるよ副長。たしか君の家は代々船乗りだったな」
「ええ。親父も海軍の飯を食ってますが、祖父は貿易船でインドまで行ったそうで」
「俺の爺さんはニューギニアまで行ったそうだよ…。さて、感傷に浸るのはここまでだ。
砲術長!高角砲の射撃準備は!?」
「いつでも行けます!」
「よろしい。ただし、船員が確実に下船するまで撃ってくれるなよ?」
「了解!」
帝国海軍第一特別遊撃艦隊が行なった船団襲撃方法は以下のようなものである。
① 襲撃開始。護衛艦艇に集中砲火を浴びせる。
連合王国の護衛艦艇は対潜水艦を念頭に置き、駆逐艦やトロール船改造艦で構成されていた。帝国海軍の水上艦がアルビオン島より西で活動した事は殆どなかったから、巡洋艦以上の水上艦や航空機との交戦は想定してなかったのである。
何より、たった4隻からなる帝国側襲撃部隊に比べ、大小合わせて数十隻もの大船団が、最低速の油槽船に合わせてゆったり進んでいるのである。どちらが先に発見されるかは自明であった。
しかも――
② 魔導師による航空攻撃
最新鋭巡洋艦4隻に加え、そこから発艦した2個増強魔導大隊の襲撃である。
泣きっ面に蜂と言ってよい。
彼らは輸送船には一切攻撃せず、護衛艦艇を徹底して狙い撃ちした。戦艦や巡洋艦ならいざ知らず駆逐艦である。結果は火を見るより明らかであり、勇敢無比な連合王国海軍駆逐艦とて火達磨となるのは避けようがなかった。
③ 輸送船に停船命令を出し、従わぬ船には威嚇射撃。
そうして、丸裸になった哀れな輸送船団への停船命令。中にはこの場を突破し、連合王国を目指そうとする船もいたが相手が悪かった。
なにしろ帝国海軍最新鋭艦ライプツィヒ級は、当時としては破格の34ノットオーバーを叩き出す韋駄天である。逃走をあきらめるか、大西洋の底に進路を変更するしか彼らに道はなかった。
④ 魔導師による輸送船の拿捕、臨検。物資の接収、船員の退船
文字通り万策尽きた輸送船に続々と魔導師が着艦。船員を――緑色の帝国兵は素早く、濃紺色の帝国兵はもたもたと――拘束の上、船長を立ち会わせての積み荷の検査を行なった。
検査によって、戦略物資又は連合王国の国有財産と
―― 抗議する?結構、では海の底から告発できるか試してみるかね?ん? ――
これらが済んだら船員を救命ボートで下船させ、しかる後に砲撃で処分するのである。
なお、最初15.5センチ主砲でやろうとしたところ、俯角が足りないうえに貫通力過多―― 商船を突き抜けて向こうの空が見えた ――と判明。
8.8センチ高角砲で試したところ、近距離からうまい具合に喫水付近に大穴を空けて処分できることが分かった(おまけに弾代もお得)ので、先ほどから各艦の高角砲は大忙しである。
だが、ここで一つ問題が発覚する。
このような場合、原則「退船させた船員をきちんと救助、収容しないといけない」のだ。
何を馬鹿なことを言われるかもしれないが、実は戦時国際法では「そもそも民間船を沈めること自体、違法」なのである。
この点は事前に『通商破壊戦を実施することおよび対象海域を通告、宣言し、それでもなお当該海域を航行する船舶は、連合王国に協力する非民間船とみなす』ことでクリア(されることに)したが、脱出した船員を見殺しにするとなると、これはもう完全なアウトなのである。
実際、史実のカール・デーニッツはこの点をニュルンベルク裁判で最後まで訴追されている。
彼に言わせれば『連合国商船を沈めた際、救助を行なっていたわが海軍潜水艦に対し、その事実を無線発信していたにもかかわらず連合国側が攻撃してきたため、やむを得ず、以後救助活動を行うことを禁止した』のだが、連合国側は彼をこの点で死刑にしようとした。
無論、勝者の裁きゆえの訴追ではあるが、それだけの重大事だったのである。
だが、デーニッツの弁護人の方が一枚上手だった。
彼はアメリカ太平洋艦隊司令長官チェスター・ニミッツを法廷に呼ぶことに成功。
その口から『アメリカ海軍の潜水艦も太平洋で撃沈した日本商船の乗組員保護をしていなかった』との証言を引き出したのである。結果、司法取引が行われデーニッツは禁固10年で済んでいる。
話を戻そう。
ともかく、大西洋のど真ん中に脱出した船員を放置できない以上、収容するなり救命ボートを曳航するほかない。
だが、そもそも軍艦には余分なスペースなどない。なにしろ艦内ですれ違いながらできるように「海軍式の敬礼」なんてものがあるくらいなのだ。
しかも今回は獲物が『大船団』だったうえ、鹵獲物資も大量に詰め込まなければならない(本作戦後撮影された写真を見ると、ライプツィヒの羅針艦橋の天井にもソーセージとベーコンがぶら下がっている)。
加えて救難信号を受けて連合王国海軍が出張ってくるのは確実。そんな状況で、木の葉のような救命ボートを曳航して遁走など不可能である。
ではどうする?
『簡単な話だ』
『場所が無いなら借りればいい』
『船ならそこにあるじゃないか?』
◇◇◇
同時刻
連合王国貨客船『メルボルン』号
「ふざけるな!」
メルボルン号の
その顔は真っ赤であり、
茹蛸のようだな、と他人事のように
視線の先ではヴァイス大尉が船長とやり取りしているが、埒があきそうもない。
ほかの乗組員をさっさと船倉に押し込んだのは正解だった。そうでなかったら今頃船長と一緒になって鉄パイプで殴りかかってきたに違いない。
「ふざける?ハテサテ何のことやら。こちらは真面目に戦争しているだけですが?」
「黙れ黙れ黙れ!船の積み荷を全部没収された上、民間人数百人を乗せて引き返せだと!?そんな無茶苦茶な要求が飲めるか!」
「では、お仲間の船乗りを見捨てると?」
「貴様らが船を沈めなければいいだけの話だろう!」
「…困りましたなあ。我々は軍令に従っているだけなのですが…」
「だったら帝国軍が責任をもってポーツマスまで送り届ければいい!乗っていた船を沈めた以上、その責任がそちらさんにはある。違うかい?えぇ?」
しかも血が上っているように見えて、頭の回転も悪くないらしい。
いや、それほどの男だからこそ、戦時に船会社からこれほどの大型船の舵取りを任され、さらには船団長も務めていたのだろう。磯の香り漂う髭もじゃのおっさんとばかり思っていたが、これは厄介だ。
「…代われヴァイス大尉。時間が惜しい」
「ハッ!」
面目なさそうな大尉の表情は逆に滑稽ですらあったが、仕方あるまい。
ここからはビジネスの時間だ。
「なんだ?このガキは――」
ギロリ
前言撤回。こいつはド阿呆だ。
ビジネスマナーのビの字も知らんと見える。階級章はともかく、軍服が目に入らんのかね?まあ、殺気をぶつけたら即座に黙るあたり、鈍感ではないようだが。
「ガキで失礼しましたね。私は帝国軍で魔導中佐を拝命しております、ターニャ・フォン・デグレチャフと申します。加えて言うと、この部隊の指揮を預かっております」
「!?…これは失礼した。P&O所属、メルボルン号船長の…エドワード・スミスだ」
「エドワード・スミス?…それはまた。名前でご苦労されたでしょう?」
「よくご存じで。ですが、今が一番苦労していますよ」
「ハッハッハッ。それは申し訳ない。ですがこれも仕事でして」
「軍隊ってやつはろくでもありませんな」
「連合王国ご自慢の『強制徴募』のことですな。あれはひどい。じつにひどい」
「……ハァ。子供と思ったらトンでもねえ奴が出てきたな。それで?何を言いたいんだ軍人さんよ?」
第一段階はクリアー。
では、商談と行こうじゃないか。
「単純な話です。実は先ほど
「ッ!」
「あと第三船倉から
「…馬鹿な…」
「何故それが分かったのかって?フフ…、単純な話ですよ。『大事な商品は信頼できる運送業者に預ける』、商売の基本でしょう。今のご時世ならなおのこと」
「……」
まあ、半分は運だったが。
この大船団を見つけた時点で、船の乗組員を乗せるのに一隻残すことを海軍側が提案。
攻撃開始時の偵察で一番大きかったこの船を残したのだが、まさか船団長の船だったとは。
そして優秀な部下が『船長室から二重底まで虱潰しに探した』らなんとまあ。
ブリッジで押収した積み荷リストに無い、「本来ここにあるはずのない」ヤバイ物が出てくるわ出てくるわ。よほど信頼の篤い船長殿なのだろう。
巧妙に隠していたようだが、魔導師相手には分が悪かったとしか言いようがない。
ターニャとしても対応に困る代物ばかりで困っていたのだが、それなら取引に使ってしまえというもの。
「しかし困りましたなあ…。【アレ】らはどう見ても『中立法』違反。我々としても
「………」
「船長としても困るでしょう?【アレ】が見つかった事が知られれば、本国に帰れたとして数日後には…。お分かりでしょう?」
「……脅しているのか?」
「脅す?とんでもない!私はただ取引をしたいだけなのですよ」
「…取引だと?」
◇◇◇
統一歴1925年7月10日 午後4時
北大西洋 帝国海軍第一特別遊撃艦隊 旗艦『ライプツィヒ』防空指揮所
実に良い取引が出来た。
ターニャはほくそ笑んだ。
結局、船長はこちらの要求をのんだ。積荷は奪われ、大人数が乗り込んで狭くなってしまっただろうが、命と船は助かったのだ。
対してこちらは大勢の船員の収容スペースに悩まずに済み、その分色々なものを詰め込むことが出来た。今ターニャが口にしているコーヒーもその一つ。
帝都でもなかなか手に入りにくくなった逸品を「日持ちしない」という理由で全乗組員に配給したミッターマイヤー中佐は社員サービスというものをよく理解しておられる。
実に良い、大変良い、素晴らしい。
さすが『スマート』を誇る海軍軍人だ。
このあたり、あの鬼畜な上司にも是非見習ってほしいものである。
『休暇明けの訓練がてら、ラインで演習に参加してくれないかい?』
『合同訓練だから
『あ、夏だしついでに海水浴でもどう?
…思い出すだに腹が立つ。
ラインはラインでも『ライン演習作戦』ではないか!
コーヒーとチョコをどっさり持たされて油断した!
まったく、あの殿下には一言物申さねばなるまい。…効き目があるかはなはだ不安だが。
「ここに居られましたかデグレチャフ中佐」
背後からかけられた声に振り返れば。
「ハルトマン中佐殿」
そこには先ほどまで行動を共にしていた、第11海兵魔導大隊大隊長エーリッヒ・ハルトマン中佐の姿があった。
「ふふ、『殿』は結構ですよ中佐。海軍では『殿』は付けないのです」
「ああ、そうでした。これは失敬」
「いえ、こちらこそ僭越なことを申しました。ご放念いただけますと幸いです」
「ところで中佐はなぜここに?」
「そうでした。セレブリャコーフ中尉がお探しでしたよ。なんでも、分捕り品の中から結構な量の高級チョコが見つかったそうで」
「なんと!それは急がねばなりますまい。お手数をおかけしました」
「いえいえ、…ここだけの話、小官も甘いものに飢えておりまして」
「相伴にあずかりたいと?構いませんとも。では、案内を頼めますかな?」
「どうぞこちらへ、フロイライン」
やはりここでも海軍士官はスマートだ。
レディの扱いが実に素晴らしい。…いや、私は男なんだけども。
「しかし、先ほどの『交渉』は見事なものでしたな」
「何のことでしょうか中佐?我々は『リスト』以外のものは見なかったのですよ?」
そう、第一遊撃艦隊、ライプツィヒの「戦闘詳報」にも第203航空魔導大隊の「戦闘記録」にもそのようにしか記録されない。藪をつついて
帝都と長距離通信を開いて指示を仰ぐわけにもいかない以上、それがこの海域にいた全ての人間にとってベストな結論である。
スミス船長も今頃は安堵のため息をついてくれているに違いない。
なんと素晴らしい、皆が幸せになる理想のビジネスではないか!!
「おっとそうでした。…しかし『強制徴募』のこと、よくご存じでしたね」
「かの国のアレは有名ですから…と、言いたいところですが、実は先日
「そういう事でしたか」
『強制徴募』
それは女王陛下の海軍による、女王陛下の海軍のための、女王陛下の国民拉致(なお他国人も拉致る)である。
実に150年の伝統を誇るそれは、通常はラム酒でごまかされるが、誤魔化しきれなくなると
なお、連合王国公用語の「shanghai」は名詞だと『上海』のことになるが、動詞だと「船などに無理矢理連れて行く」「強制する、騙す」という意味になる。…どんだけ拉致ったのあんたら…、とツェツィーリエに教わった時、ターニャは呆れたものだ。
「それにこうも聞きました」
「ほう?」
―― 帆船の時代から、海賊に捕らえられた人間は身代金を支払わねばならない ――
「かの国の船員の扱いに、これほどぴったりなものもありますまい?」
「キャプテン・ドレイクの末裔ですからな。違いありません」
最終目的地のブレストはもう間もなく。
ターニャたちの「海水浴」もようやく終わるのだ。
「…ところで先ほどからヴァイス大尉の姿が見えないのですが?」
「…皆様、船べりにしがみ付いておられました」
「あぁ…空を飛んで船酔いが再発したか」
◇キャプテン・ドレイク
本名フランシス・ドレーク。
英国海軍のご先祖様、ただし海賊。
海賊行為をしながら世界一周し(なお、世界で二人目)、その過程でスペイン船から奪った金銀財宝を帰国後にエリザベス女王に献上。その額ざっと30万ポンド!当時の英国国庫歳入より多かったそうな!
それだけの利益をもたらしたものだから、海賊でありながらイギリス海軍の中将に任命されると同時に叙勲(サーの称号)。騎士になった海賊の誕生である。
その後イギリス艦隊副司令官となり、アルマダの海戦ではスペインの無敵艦隊相手に「いまだ、火を放て!」した。やっぱり火船の計が最強、ハッキリわかんだね!!