皇女戦記   作:ナレーさんの中の人

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親愛なる我が友人XXから
『キマシタワーの補充が無い。書き直せ』

更に横にいた友人XFからは
『肌色が無いやり直し』

と言われてしまったので頑張って書きました。
ええ、書きましたとも。だからイベントに集中させて!!


東部戦線(1926年3月末)

統一歴1926年3月28日深夜

東部方面 第203航空魔導大隊駐屯地

 

 

どうしてこうなった!

 

 

ターニャ・フォン・デグレチャフは心の中で声を上げた。

その視線の先には、険しい(・・・)表情のレルゲン中佐。

だが、それも無理からぬことであった。

 

「…殿下」

「ここにいるのは前線視察中の参謀本部コーデリア・フォン・アルレスハイム大佐だぞ中佐?」

「…失礼しました大佐殿」

「分かればよろしい」

「いえ、大佐殿。話は終わっておりません」

「何だい中佐?私としては早くこの(・・)可愛い妹分を存分に愛でたいところなのだが?」

 

 

「そこが問題なのです!!」

 

レルゲンは叫んだ。

 

 

「何故!

皇女殿下もとい大佐殿ともあろうお人が!!

デグレチャフ中佐を膝の上にのせておられるのですか!!!」

 

 

そう、ターニャは今、ツェツィーリエに抱きすくめられて、そのお膝の上で固まっていた。

おいそこの幼女場所代われ(まて

レルゲン中佐の叫びに対し、下手人はあっけらかんと答える。

 

「…まさか代わりたいのか?やらんぞ?」

「違います!」

「違う?…ハッ!?まさかこの私を膝に乗せたいと!?いかん、いかんぞレルゲン中佐!確かに貴官は良い男だが、陛下の赦しなしにそのような――」

「それも違いますから!!」

 

顔を真っ赤にして声を張り上げるレルゲン中佐のことを、ターニャは口に出さず応援した。いいぞもっとやれ、と。

 

「ふふっ、冗談さ。それにしても君は私の小姑かね?」

「こっ…!?」

「それに私にだって癒しは必要だよ。そうは思わんかね?」

「いや…し?…よりによってデグレチャフ中佐が…?」

「あのー…?それはどういう意味でしょうかー?」

「ターニャの言うとおりだ。

まったく、君はこんな可愛いちっこい()を、目がどぶ底に横たわる死んだ魚のようだからと言う理由で愛玩対象から外すのかね?」

「…殿下も大概小官のことディスってますよね?」

「…ディス?」

「気にするな。こっちの話だ」

 

思わずターニャの口から飛び出した『謎言語』に、レルゲン中佐が思わず目を白黒させたのを幸いとばかり、ツェツィーリエはにやりと笑って続ける。

 

 

 

 

「なにより、剥く(・・)ならむさ苦しい男よりこっちの方だと思わんかね?」

 

 

 

「なっ…!?」

「ちょっと何仰ってまモゴゴ!?」

「ターニャは暫し黙っていろ。…と、いう訳だからレルゲン中佐、すまんが一晩(・・)席を外してくれ」

「え、や、そ、そういう訳には…!」

 

 

「なに?まさか貴様、この私の柔肌が見たいと?

困ったなぁ。―プチッ―それならそうと予め言ってくれたまえよ。――プチップチッ――さすがに男相手ともなると、本来事前に陛下のお許しを得ておく必要が――」

 

――ハラリ――

 

 

 

 

 

「――し、失礼いたします!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「フン、肩を見せた(艶めかしく)だけで逃げ出すとは口ほどにもない奴め」

 

 

 

「いやいやいや何してくれちゃってんの貴女!?あれ絶対に誤解したぞ!?」

「おかげで密談がはかどる。よって問題なし」

「問題しかねえよ!?しかも下着見えてるし!?」

「ム?……しまった、黒にしときゃよかった」

「そう来るか!?」

 

 

 

ターニャは絶望した。

この時代、同性愛は絶対的なタブーである。

相手が相手だけに処分を食らう可能性は低いかもしれないが、少なくともターニャが夢見る「中央勤務のエリート」の未来はほぼほぼ消え去ってしまう。

それを知っているから、腹黒皇女はこう囁くのだ。

 

「まぁまぁ、もし何かあったら私が引き上げてやるから」

「…真面目に頼むぞ。一生前線勤務とか洒落にならん」

「オーケーオーケー。この戦争が終わったら中央勤務にしてやるとも」

 

この点において皇女は嘘をつかなかったのだが、それが実現するのはこのずっと先のことである。

 

 

「とまれ、余計な耳がいなくなったことだし、本題に入ろうか」

「やっとか…。と、言うよりそもそも貴様、統合作戦本部を離れていいのか?」

ターニャの問いかけに、ツェツィーリエはやたら扇情的にはだけた服をなおしながら答える。

 

「連邦相手に『侵攻作戦をしない』という大枠は決めた。あとは本職に任せた方が良いだろう。やたら介入すると碌なことにならんのはちょび髭閣下が証明済みだ」

「まぁ、それもそうか…。で、その上でなお、態々前線視察なんてなさるので?」

 

 

「無論、勝ち筋を探るためさ」

 

ツェツィーリエは言った。

 

「ルーシー相手に侵攻作戦なんて自殺行為だ。それは歴史が証明している。

じゃあどうやって勝つ?もしくは講和に持ち込む?」

 

「…帝国近くでの敵野戦軍の捕捉撃滅が必要になるだろうな」

 

物わかりの良い妹分に、ツェツィーリエはにっこり頷く。

 

「…やはり君との会話は話が早くて助かる。

…政府の連中と親愛なる皇帝陛下にそこを理解させるのにどれほど苦労したことか…」

「統合作戦本部の連中も分かるだろう?」

「それはそうだが、『バルバロッサ作戦』や『タイフーン作戦』を知っている分、理解度は君の方が上だろうよ」

「なるほど」

 

ターニャは思わず頷いた。

確かに理屈で分かっているのと、実例で分かっているのとでは実感がまるで異なる。

 

そう、この世界で参考となる「直近の対ルーシー戦争」は―― ルーシー革命に対する限定介入を除けば ――、『ボナパルトのモスクワ遠征』なのだ。

 

とてもじゃないが、装備も編成も違いすぎて参考にならない!!

 

「無論、ボナパルトもそこは分かっていた。だが彼は結局ルーシー帝国軍の捕捉に失敗し、ずるずるとモスコーまで行ってしまったのさ。西暦世界と同様にね」

「おい、そうなると帝国も同じ結末に…。いや…、まて、なるほど。そういう事か」

「おや?何かわかったのかね?」

ツェツィーリエの問いかけに、ターニャは自信を持って頷く。

 

 

「モスコー襲撃をあっさり認めたのはそういう事だな?」

 

 

そう、連邦軍の圧力緩和が急務だったとはいえ、進言から15分でゴーサインが出る時点で不自然なのだ。それこそ『もとからそのつもりだった』のでない限りは。

ターニャの答えに、皇女は満足そうににやりと笑い、手を叩いた。

 

「ご名答。その通り、もともとモスコーへの戦略爆撃は『可能であるならば』実施するつもりだった。結局君たちの力を借りることになったが、最悪の場合、損害度外視で決行していただろうよ」

 

それはなぜか?

理由は単純。

 

「あの国は、『イデオロギー』が『国家』の皮を被ったキメラだ。

その行動原理は指導者の写真やバッジを崇め奉る西暦世界の『あの国()』を見ていれば想像がつく。つまり――」

「――メンツをつぶされることに対し、ヒステリックな反応を示す。だな?」

「大正解。やはり君との会話は実に楽しいよ。打てば響くとはこのことか」

「その言葉、そっくりそのまま返させてもらうぞ」

 

クックックッ

ハッハッハッ

 

幼女と皇女はひとしきり嗤う。

 

 

「…さて、話を戻そうか。案の定、連邦軍は巣穴から出てきた状態だ。……数がちと想像以上なのだが」

「ああ、おかげで我々は敵を求めてモスコーへ進撃すると言う愚を犯さずに済む。……数が多すぎるのが玉に瑕だが」

 

さっきとは打って変わり、二人は揃ってため息をつく。

 

「…まさに『見るのと聞くのとでは大違い』だな。前線視察に来て正解だったと思うよ。あの人間の津波は見てみないと実感がわかん。撮った写真は政府、軍部に回覧するつもりだ」

「ああ、是非ともそうしてくれ…。まったく、『畑で兵士が取れる』とはよく言ったものだ」

「そこでだターニャ」

「なんだ?」

 

 

 

 

「203には自由裁量権を与える。ざっと半月ほど、『なるべく目立つように』戦線を搔き乱してくれ」

「…その心は?」

 

 

 

「『能く敵人をして自ら至らしむるは、これを利すればなり』」

 

 

「…孫子か?」

「その通り。現代語訳すると『敵を上手くおびき寄せることができるのは、利益を見せて釣るからである』だ」

 

 

その意味するところは。

 

 

「…つまり、モスコーを襲撃して奴らの面子を潰した我々(203)で敵を釣ると?」

「言葉を飾らずに言えば、そうなる」

「囮になれと?」

「いいや、そこまでする必要は毛頭ない。今の状態ならそれこそ『顔見せ』するだけで十分釣れるだろうよ」

「なるほど、了解した。正式な命令文はどこに?」

 

 

 

「そんなものはない」

 

 

 

「…は?」

ターニャはポカンとした。命令文が無い?どういう事だ、と。

 

「正確には私の持ってきた参謀行李に『機動遊撃戦』の命令文は入っている。

だが、今言ったような具体的な文言はないし、今後も無いものと思ってもらいたい」

「…スパイ対策か?」

「しかり。大丈夫だろうとは思うが、罠が罠だとばれる可能性は徹底的に潰しておきたい」

「…貴様も大概悪辣だな。思わず連邦に同情してしまいそうだ…ククッ」

「しかりしかり。立派な墓標を用意して差し上げねばなるまい…フフッ」

 

 

 

幼女と皇女は再び嗤う。

 

 

「とはいえ、君の大隊はあの状態(どんちゃん騒ぎ)だ。数日後からで十分だとも」

「やけにお優しい命令だな?参謀本部の大佐殿とは思えんぞ?」

「何を言ってるんだい。私は部下にやさしい、皆の皇女殿下だよ」

 

 

「嘘だな」

 

 

「即答!?

…フフフ。よろしい、貴様がそのつもりなら――」

「待て、服を脱がすな脱ぐなベッドに連れ込もうとするな私が悪かったからおいバカまじでやめ――」

 

 

 

 

 

後年、セレブリャコーフ中尉は語る。

 

中座するための方便かと思っていたが、翌朝の中佐殿は本当にお辛そうでした、と。

 

 

 

なお、レルゲン中佐の報告書はこの前日の動静が丸ごと抜け落ちていたらしい。

 

 

 




どこまで行ったかは読者の皆様のご想像にお任せします(ニッコリ

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