皇女戦記   作:ナレーさんの中の人

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お久しぶりです。

…と、言いつつ、次回は未定


バルテック海海戦

統一歴1926年4月15日 午後3時

バルテック海 ルーシー連邦海軍バルテック艦隊旗艦 戦艦レスプーブリカ

 

 

 

 

海が燃えている。

 

 

 

 

そう、表現するほかない光景が広がっていた。

 

「レボリーツィア、沈没!」

「ズラトウーストより入電!『我、操舵不能!』」

「残存友軍艦艇は!?」

「本艦のほか、巡洋艦4、駆逐艦7です!」

「半分も残っておらんか…」

「これ以上の戦闘は不可能です!撤退を!!」

「総司令部の命令を忘れたのか!?ラーゲリ送りになりたいのか!」

「畜生!どこが『帝国海軍は張子の虎』だクソッタレ!!」

 

続々と届けられる凶報に参謀たちが叫ぶ中、イグナチェフ司令長官は静かに艦長に問いかける。

 

「…本艦の火災の状況は?」

「…鎮火の見込みなし。各所で浸水が発生しております」

「そうか」

 

開戦劈頭に発生した前部上甲板での火災はいまだ鎮火せず、誘爆を防ぐために前部主砲の弾薬庫はとうの昔に海水で満たされていたが、にもかかわらず、レスプーブリカの命運は尽きようとしていた。

 

「航空支援を失った海軍がこうも脆いとはな…。艦長、艦を南に向けよ。浅瀬に擱座させるのだ」

「ハッ!」

「通信参謀。全艦に下令、『現刻を以て作戦を中止す。各艦は直ちに離脱せよ』だ」

「了解…上級司令部にはなんと?」

「ありのままを伝えよ。『完敗だ』とな」

「し、しかし、それでは!」

「なぁに、この皴首一つ出せば済む話だ」

 

提督はほろ苦く笑った。

そもそも、このルーシー海軍の司令長官に自分のような平民上がりがなれた(・・・・・・・・・)こと自体がおかしかったのだ、と。

 

 

思えば、ルーシー海軍はこの20年不運続きだった。

 

 

『秋津洲海海戦』

 

ケチの付き始めは間違いなくこれだろう。

当時のルーシー帝国は、秋津洲皇国との長きにわたる相克に決着をつけるべく、本国艦隊の一部を第2太平洋艦隊―― 後世バルテック艦隊と呼ばれることとなる ――と命名し、遥か地球の裏側、ウラジヴォストークへ向けて出航させた。

 

その数、戦艦級10隻、巡洋艦級10隻、その他艦艇合計36隻。

まさに空前絶後の大艦隊と言えた。

 

当時ルーシー帝国と友好関係にあったフランソワ共和国、ライヒ帝国の支援と協力を取り付けることで道中の補給を万全とし、当時劣勢にあったウラジヴォストークの第一太平洋艦隊と合流し、もしくは合流前に秋津洲皇国海軍を撃滅せんとしたこの大作戦。

 

結果はあまりにも悲惨であった。

 

参加艦艇の8割以上が失われ、特に戦艦部隊は全滅と言う歴史的大敗北。

これほど見事に勝ち負けがハッキリした海戦は、ほかにはトラファルガーくらいだろうと言われるほど。

 

 

そして、『ルーシー革命』。

 

 

19世紀末には高まっていた民衆の帝政への不満が、秋津洲皇国との『決戦』に向けた増税、搾取で爆発。一時は鎮圧したものの、秋津洲海海戦の結果を受けて再燃し、ついに帝国は崩壊。ルーシー連邦が成立し、それに伴って特権階級への弾圧が始まった。

当時、ルーシー海軍には貴族出身の士官、将官が多く―― 陸軍より海軍の方が待遇が良く、不凍港…つまり暖かいところに行く機会が多い ――、その一方で水兵の待遇は劣悪であった。陸上での革命に呼応して、水兵の反乱が多発したことからもそれは窺える。

結果、ルーシー革命の余波は陸軍のそれよりもすさまじく、当時の海軍士官の8割が海軍、もしくは現世から居なくなってしまった。

 

秋津洲海海戦、そして革命で数多の将兵を失ったルーシー海軍にとってその補充は急務であり、なりふり構わぬ採用と昇進が行われた。平民の、それも貧しい農家の末っ子として産まれたイグナチェフが将官に、そしてバルテック艦隊司令長官になれたのはそのためである。

 

こうして、数の上では、ルーシー海軍は将兵の補充に成功。

だが、秋津洲海海戦で失った艦艇の補充については遅々として進まなかった。

 

何せ軍隊と言うのは金食い虫である。

ただでさえその広大な国土を、そして革命を防衛するため、ルーシー連邦はその成立直後から陸軍の増強に注力せざるをえなかった。

良くも悪くもルーシー海軍は「大陸国家の海軍」である。結果として、予算削減と言うしわ寄せは海軍に向かった。

気付けば、ルーシー海軍は前ド級戦艦しか持たない、世代遅れの海軍に―― この時期の艦艇技術の進歩が目覚ましかったと言うのもある ――成り下がってしまったのである。

 

 

それでも、4月15日までルーシー海軍は健在だった。

 

 

理由は単純。

 

 

帝国海軍にもルーシー海軍にもやる気が無かったから、ただそれだけのことである。

 

 

 

◇◇◇

 

同時刻 同海域

帝国海軍第2遊撃艦隊旗艦 巡洋艦マクデブルク

 

 

「敵艦隊、反転しつつあり!離脱を図る模様!」

「逃がすな!第7駆逐隊に追撃命令を!!」

「了解!」

 

帝国海軍第2遊撃艦隊司令、リンデマン准将は部下に指示を出すと、溜息を洩らした。

 

「…まさか、本当に勝てるとは」

「だから戦艦なしでも問題ないと言っただろう?」

「ハッ、殿…大佐の仰る通りでした」

「んんっ!…そうでしょう?それと、陸軍からの連絡要員にそう畏まらずとも良いのですが」

「…ハッキリ申し上げましょう。敬語が壊滅的に似合っておられませんので早急におやめください」

「酷いな!?」

 

そう言いながらもカラカラと笑う皇女殿下に、もはや呆れ顔を隠そうともせずリンデマンは続ける。

 

「そもそも、こんな所におられて宜しいのですか?」

「大枠は決めた。あとは本職に任せるのが一番さ。…それに、時々忘れられているけれども、私はまだ18歳。これ以上の口出しはお偉方の機嫌を損ねるだけだろう」

「…小官はよろしいので?」

「今更だな。海軍本部に入り浸っていた私を『ここは子供の遊び場じゃない』って摘み出したのはどこの誰だったっけ?」

「それはミッターマイヤーの方ですな。小官は気付いて止めた方です」

「そうだったかな?」

「そうだったのです」

 

ハラハラしている周囲をよそに、二人は揃って笑い声をあげる。

実際幼少期の、もとい海軍入り浸り時代の皇女を知る海軍将官は少なくなく、その中でも当時の新人尉官、より直截的な物言いをしてしまうと『皇女殿下が何かしでかさないように見張る係を押し付けられた可哀そうな新人』連中―― ミッターマイヤーやリンデマンがこれにあたる ――と、ツェツィーリエは今でも仲が良かった。

 

 

 

「ま、正直なところ、前線を見ておきたいと思ってな。イロイロとテコ入れはしたがその結果がどうなっているのか?こればかりは報告書だけでは不安でね」

「なるほど」

 

リンデマンは頷いた。

確かに、この皇女殿下のテコ入れで帝国軍の兵装は様変わりしており、それに伴って戦術も変化を余儀なくされつつある。その際たるものがこのライプツィヒ級だろう、世界広しと言えど、駆逐艦より足が速く、戦艦より射程の長い巡洋艦がいるだろうか?

 

 

そして今回は――

 

 

彼が羅針艦橋の窓越しに見上げた先、そこには投弾を終え、基地へと引き返していく空軍爆撃隊の姿があった。

 

 

「…予想以上に当たりますな。急降下爆撃」

「動目標には当たらない、と?キィエールや帝都の上層部の言い草だぞ、それは。

確かに、数年前ならそうだっただろうが、今や我が帝国の急降下爆撃隊は世界最強。洋上の軍艦に当てる事など造作もないことさ」

「頼もしい限りですな」

「ああ。そして、これからの海戦は制空権を確保していることが大前提となる。アレを見ればよく分かるだろう?」

「ええ、誠に」

 

 

そう言ってリンデマン、いや、艦橋にいる全員が頷きつつ見る先、そこには炎上しながら漂流する、ルーシー海軍『だったもの』が浮かんでいた…。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

帝国とルーシー連邦の開戦後、双方の海軍は『奇妙な戦争』状態に突入した。

ルーシー連邦海軍は、文字通り戦える状態では無かったから。

帝国側は、行動を活発化させた連合王国海軍に釘付けされていたから。

 

 

当時、連合王国が誇るロイヤルネイビーは、戦艦の半数近くが大改装―― 先の『ブレスト襲撃』の戦訓反映のため ――のためにドック入りしていたが、それでも多数の戦艦を擁しており、帝国海軍はその動向に気が抜けない状況を強いられていた。

 

当然、連合王国もそのことを知っているから、実にいやらしい方法でルーシー連邦への援護射撃としたのである。

 

即ち、スカパ・フローを早朝に全力出撃してみたり。

あるいは、通信量を激増させてみたり。

 

現時点ではその全てがブラフなのだが―― これほど贅沢な重油の使い方があるだろうか、と皇女殿下が嘆いたと言う ――、それがいつ「本当」になるやもしれぬ以上、帝国海軍はそれに即応できるよう、本国艦隊を温存せざるをえず、ルーシー連邦相手の出撃が難しい状態となっていたのである。

ちなみに、陸軍からは対地支援要請が幾度となく上がっていたが、その様な事情から全て断られており、陸軍の不興を買っていた。

 

 

だが、『クロム計画』の発動にあたり、海軍の支援は絶対不可欠である。

 

 

陸軍の要請により、統合作戦本部で陸海軍合同作戦会議――大揉めに揉めた、とだけ記しておく――が開かれ、摂政宮ツェツィーリエが断を下した。

 

 

 

『第1、第2遊撃艦隊による通商破壊戦を中断し、ルーシー連邦戦に投入する』

 

 

 

この決定に海軍は猛反発し、再考を求めた。

 

なにせ『大戦』で目立っているのは陸軍ばかり。

主戦場が大陸だから仕方ないとは言え、強大な連合王国海軍が相手であるがゆえに、慎重な用兵、主力艦温存にならざるを得ない…言い換えれば『現存主義』に走らざるを得ない海軍の戦果は「地味」の一言に尽きた。

その中で遊撃艦隊による通商破壊は数少ない活躍の場だったのである。それを取り上げられるとあっては立つ瀬がない。

 

だが、それに対し皇女はこう告げた。

 

 

『これ以上の水上通商破壊は困難だ』

 

 

この時期、連合王国は船団護衛に戦艦は勿論のこと、ついに新艦種、航空母艦まで投入し始めた。これらは帝国海軍が通商破壊艦艇に海兵魔導師を積んでいることへの対抗措置であり、極めて有効な方法だった。

現時点で巡洋戦艦を改造した『フューリアス』、『カレイジャス』、『グローリアス』が投入されており、これらはその搭載主砲が「イロモノ」過ぎて運用方法が定まらなかったことから、建造途中から空母に変更されたらしかった。

――余談だがこの情報に接したとき、帝国の情報部員は「殿下みたいな人があちらにもいるんだな」と言う失礼極まりない、しかし至極ごもっともな感想を漏らした――

さらに、引き続き外国向けに建造中の戦艦複数を買収の上、空母に改造しつつあるとの情報、更には最初から空母として設計した新型艦も建造中である、との情報を帝国軍は掴んでいた。

 

これらが非常に厄介なシロモノとして、帝国海軍の行動に掣肘を加え始めた。

 

何故なら、10年前ならいざ知らず、現在では戦闘機と魔導師では――格闘戦能力や汎用性を除けば――、戦闘機の方に軍配が上がる。

第203航空魔導大隊が時々戦闘機や爆撃機を墜としている?

あれは例外中の例外である。参考にはならない。

 

それゆえ、空母艦載機が上空警戒を実施している船団への攻撃は、それまでの船団攻撃に比べ、難易度が桁違いに跳ね上がった。

 

なにせ、空母が周囲および船団の進路に向けて偵察機を出しているから、船団に近づこうとすると、ほとんどの場合気付かれてしまう。

気付かれたら最後、船団は進路を変更してしまい、場所によっては陸上爆撃機が飛んでくる。

水平爆撃はほぼ当たらないとは言っても、万一と言うこともある。結果、回避行動を余儀なくされ、更にその間に目標船団との間を塞ぐ形で、連合王国ご自慢の戦艦部隊や巡洋艦部隊が待ち構えるのである。

 

仮に運良く気づかれずに近づけたとしても、遠距離射撃はほぼ不可能。

 

何故なら戦闘機によって着弾観測が妨害されてしまうため、折角の長射程が意味を為さなくなるのだ。

じゃあ近付いたらどうなるかと言うと、こちらが連合王国海軍の戦艦の射程圏内に入ってしまう。

 

『これ以上これに拘っていては、貴重な水上戦力を喪失するのみだ』

『お言葉ですが殿下、海軍はまだやれます』

 

実際、帝国海軍もその状況に手を拱いていたわけでは無い。

潜水艦隊との共同作戦に切り替え、水上艦隊が連合王国海軍の目を引いている隙に潜水艦隊―― この時期になると、全艦がシュノーケルを標準装備していた ――が襲撃する、と言うのが常套手段となっていた。

 

 

『とは言え、現場からもこれ以上は厳しいという報告が上がっているのだろう。

 

 

 

何故か、どこかで報告が(君たちのところで)止まっているようだがね』

 

 

 

『ッ!?』

『ああ、気にしなくていい。単純に報告が遅れているだけだろうからね?

私の場合、単純に昔馴染みがたまたまその艦隊にいる(司令長官をやっている)から耳にしただけだよ。そうだろう、海軍長官?』

『は、ハッ。仰る通り、単に遅れているだけであります!』

『そうだろう、そうだろう。

 

 

 

――まさか、上層部が戦果欲しさに現場からの報告を無視する…なんて言語道断の所業を、誇り高き帝国軍人がする筈が無いからねえ?』

 

 

 

『も、勿論であります!』

『じゃあ、決まりだ。現時刻を以てライン演習計画は終了。艦隊は直ちにバルテック海方面に転進せよ。

 

――イイネ? 』

 

『『ハッ!!』』

 

目を細め、にっこり微笑む皇女であったが、海軍上層部の顔は真っ青であったと、同席していたゼートゥーアは後に語っている。

 

ちなみにツェツィーリエは何も言わなかったが、これが理由で彼女は遊撃艦隊に乗り込んだ節がある。いつの世も内部告発者はいろいろと不利益を被りやすいものであり、『皇女殿下のお気に入り』とでもしておかないと危険なのは目に見えていた。

 

『無論、根本的な対処策、即ち現在艤装中の航空母艦の就役を待って再開することもを検討しよう。…連合王国相手に勝つには、通商破壊戦は不可欠だからな。

海軍には少しの間、辛抱してもらいたい』

『承知しました!』

『良い返事だ。…他に意見は無いかね?…よろしい。では、解散としよう』

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

かくして、帝国海軍遊撃艦隊は大西洋を後にし、バルテック海に進出。

『クロムB計画』にあたり、前路警戒及び制海権の確保を目的として出撃した。速度の関係から、戦艦部隊と上陸船団はそのあとに続く形となった。

 

 

 

 

 

そして、統一歴1927年4月15日早朝。

悪天候に阻まれ、数日ぶりとなってしまったルーシー連邦海軍基地への航空偵察。その持ち帰った写真を見て、帝国軍統合作戦本部は警報を発した。

 

 

 

 

『ルーシー海軍出撃の模様。なお、戦艦4を含む可能性大』

 

 

 

帝国海軍は慌てた。

何故なら、このときバルテック海方面で作戦可能な帝国海軍戦艦は、上陸船団の前方を進む2隻のみ。他はドックで改装を受けているか、連合王国への備えとして大西洋方面に展開していたのである。

 

『連中、練度不足で出撃出来ないんじゃなかったのか!?』

 

そう思っていたからこその思い切った配置であり、事実、この時のルーシー海軍は装備練度共にボロボロで、彼ら自身出撃する気はなく、『現存主義』を徹底する腹積もりであった。

 

 

 

だが、悲しいかな。

ルーシー連邦において優先されるのは、軍事的合理性ではなく、党からの命令なのである。

 

 

『ティゲンホーフ総攻撃を支援するため、全艦ただちに出撃せよ』

 

 

この時、ティゲンホーフ攻防戦は48時間を超え、流石のルーシー連邦も重砲のない総攻撃の難しさを痛感し始めていた。

だが、後方からの輸送路は帝国空軍に扼され、重砲は特に狙い撃ちされている。

頭を抱える彼らであったが、一人の参謀が気付く。

 

『ティゲンホーフは海に面している。海軍の戦艦に艦砲射撃を頼むのはどうだろう』

 

その閃きは、党中央から急かされていた―― 何時になったらティゲンホーフは落ちるのだね? ――司令官によって即時採用。同じように成果を迫られていた政治将校からの口添えもあって即座にモスコーに上申された。

そして、とある目的のためならば何でもする覚悟を固めていた、とある内務人民委員の猛烈な推薦によって、驚くほどの速さでゴーサインが出された。

急な命令であったため、対地支援任務のはずなのに搭載弾薬の比率は通常のままと言う、あまりにも慌ただしい出撃であり、ルーシー海軍の人間は皆、悲壮な覚悟を固めていた。

 

 

だが、そんな事情を帝国側が知る由もない。

 

 

艦隊を温存すると思われていたルーシー連邦が、それも保有している戦艦のほぼすべてを出撃させた。その事実に帝国軍は恐怖した。

 

そしてタイミングも悪かった。

 

このとき、『クロムB計画』のため、先遣10個師団を満載した上陸船団が、ティゲンホーフに向けて航行中であった。これだけの規模の船団ともなると、万一の場合、散開して離脱するだけでも一苦労である。

なにより、帝国軍が恐れたのは――

 

『揚陸中の海岸に敵戦艦が突入し、艦砲射撃を行う』

 

それこそ悪夢である。あるいはそれがルーシー連邦の狙いではないか、それまではどこかの港に退避するなりしてやり過ごす腹積もりなのではないか、と。

 

 

 

 

この当時、『戦艦を撃沈できるのは戦艦のみ』と言うのが常識であった。

 

 

如何に帝国が誇るライプツィヒ級が優秀で、その中でも特に実戦経験豊富な2個遊撃艦隊があると言えども、後退が許されない状況では―― 連合王国の戦艦を相手にしていた時は、遠距離を維持しての嫌がらせに終始していた ――苦戦を免れない、と。

 

ならば、輸送船団前方にあった戦艦部隊を増速、前進させ、ルーシー海軍に対処するのは?

 

残念だが、帝国海軍の戦艦は2隻のみ。

ルーシー海軍の戦艦が、どうも秋津洲海海戦直後に建造された旧型艦らしいとは言え、4対2では分が悪い。

 

では作戦を中止して、引き返すのは?

 

論外である。もしそうなれば、ルーシー海軍戦艦部隊はティゲンホーフへの艦砲射撃を開始するだろう。総攻撃を1度跳ねのけたとはいえ、そうなれば同市の陥落は時間の問題。

 

 

 

じゃあ、どうすればいいんだ!?

 

 

 

「君たち、何を怖れているのだね?」

「お言葉ながら殿下、敵戦艦4に対し、こちらの戦艦は2。しかも後退は許されない。この状態は危険です!」

「なるほど。それで?」

「それで、とは…」

 

 

動揺する海軍参謀たちを見回して、ツェツィーリエはため息を一つこぼした。固定概念と言うのはかくも厄介なものなのか、と。

 

 

 

「…宜しい。教育の時間だ。諸君らの常識を書き換えてやろう」

 

 

 




次回、あの男が登場(ちら見せの可能性あり


ちなみに明日は『盧溝橋事件の日』だったりします。

ツ「…貴様、風流と言うものを解さないのか?」

文句はこの日にドンパチ始めた人に言ってくれたまえ。あ、ちなみに英語だと

『マルコ・ポーロ橋でのインシデント』

になります。

デ「マジで?」
マジで。

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