皇女戦記   作:山本 奛

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間が空きましたこと、お詫びします(詳細は活動報告にて)


四代皇帝
査閲官


統一歴1927年12月1日

東部戦線 セバスチャン・ト・ホリ基地司令部

 

 

 

「――なぜ私がここに? といった顔だなデグレチャフ大佐」

 

 

 

思わず目を白黒させる部下の表情に、帝国陸軍ハンス・フォン・ゼートゥーア大将は、その顔に悪戯が成功した悪童のような笑みを浮かべた。

 

「…は、ハッ!失礼いたしました」

「構わん。査察というのは抜き打ち、不意打ちが肝要。貴官の表情こそ、その成功を示すというもの」

「査察、でありますか?」

「然り」

 

そう言って、ゼートゥーアは手にした参謀行李から一枚の書面を取り出す。

そこに書かれた命令は実にシンプルで短く、端的にこの大将閣下の置かれた状況を示していた。

 

 

『12月1日付でハンス・フォン・ゼートゥーア大将を東部方面査閲官に任ず』

 

 

「要するに左遷だな。そういう訳でよろしく頼むよ、大佐」

「…な、なぜそのようなことに!?」

 

驚きに目を見開くデグレチャフという珍しいものを見ながら、大将閣下は出発前に友人から渡された『餞別』を一服。

 

「…ほぅ。ルーデルドルフの奴、まだこのような上物を隠し持っていたか。これは査閲官として見過ごせんな」

「閣下」

「佐官たるもの冷静沈着でなければならんぞ、デグレチャフ大佐」

 

貴官が成年なら、一服誘うところなのだがなぁ。と大将閣下は笑う。

 

「とは言え、説明は必要だろう。…ふむ、どこから話したものか」

 

紫煙を連邦軍から接収した司令室に漂わせてから、ゼートゥーアはちょっとだけ首を傾げた。

 

「そうだな、貴官は今の帝国本土の状況を知っているかね?」

「…閣下、その質問は含意が広すぎます」

「ではこう言い換えよう。今の帝都で、もっとも盛んに叫ばれていることは?」

 

その問いに、目の前の幼女は得心したような顔を一つ。

 

「『ハンブルガーの仇を討て』、この東部にも届いております」

「そのとおり、今や帝国市民の関心はその一点に尽きるだろう。『いつ、ロンディニウムに千機爆撃を敢行するのか?』とね」

「それはまた…、酷く物騒な世論ですな」

「全くだな。しかし、東部戦線にも届いていたか…」

「『人の口に戸は立てられぬ』と、東洋の諺にもありますから」

「至言だな」

 

そう言いながら、ゼートゥーア大将は再び参謀行李へ手を突っ込む。

 

「そして、さるやんごとなき方に曰く、『嘘が世界を半周したころ、真実はまだズボンを履こうとしている』だそうだ」

 

そう言って、ゼートゥーア閣下が机に放り投げたるは、中立国経由で入手したと思しき『ロンディニウム・タイムズ』。

そこには、こんなことが書かれていた。

 

 

 

 

先日のハンブルガー攻撃に関して、巷間様々な風説が流布している

その多くは、一言で言ってしまえば「市民を標的とした無差別爆撃は許容されるものなのか?」という一点に尽きるであろう。

 

しかし小生に言わせてもらえば、それは的外れな愚考、無知蒙昧な早とちりにほかならず、それどころか利敵行為である。

 

第一に、今回の攻撃は市民を標的にしたものでは無い。

複数の関係者、攻撃指揮官に確認したところ、今回の攻撃目標はハンブルガーにある「ブロームウント造船所」および「フォス鉄工所」であった。それらは我が国商船を無慈悲に虐殺し続けてきた、Uボートの造船所と魚雷製造工場であり、今回の攻撃は正当防衛に等しい。

なにより、それらの施設への攻撃が無差別攻撃だというならば、Uボートの攻撃はそれ以上の大量虐殺である。彼らは非武装の商船を、碌な臨検も無しに撃沈し、凍てつく冬の北大西洋の水底に送り続けてきたのである。

そのような極悪非道な兵器を製造する工場への攻撃が、なぜ疑問視されなければならないのか、小生にはまるで見当がつかない。

 

なるほど、()()()で市民に犠牲が出たとも報じられている。

では逆に問うが、先年のドードーバード航空戦、ロンディニウム防空戦で連合王国の一般市民に犠牲者が出ていないとでも言うのだろうか?

当時、私はたまたま爆弾が直撃した教会の近くにおり、救助活動にも参加した。肉片が真っ赤に染まった壁の至る所に張り付き、瓦礫の下からやっとのことで助け出したと思ったのが分断された人間の下半身だったことを、私は昨日のことのように覚えている。

 

もう一度問う。

 

あの惨劇を、あなた方は忘れたと言うのか?

もしそうだとするならば、もはや言うことはない。そのような薄情者に人道を説く資格があるのだろうか?

 

 

加えて、多くの犠牲が出たというが、それは本当だろうか?

 

 

思い出していただきたい。数年前、協商連合が帝国に対し越境侵犯を行った際、帝国は「突然の軍事行動」「事前通告なき騙し討ち」と喧伝した。

――もし本当にそうだったなら、どうして帝国は数時間も立たぬうちに反撃を開始し、最終的に勝利を収められたのだろうか?

同様のことはフランソワ、ルーシー連邦の参戦に際しても言えるだろう。

このことが示すのは、「帝国は万全の態勢を整えていた」、そう考えるのが自然である。そうでなければそのような「不意打ち」を受けたにも関わらず、協商連合にダキア、フランソワを屈服させ、今なお我が国と連邦相手に互角、いや、有利に戦況を進めている状況に説明がつかない。

 

その上で考えていただきたいのは、今回の「被害」とやらも帝国側発表であるということである。

交戦中ゆえ当然だが、実際の被害を我々が確認するすべはない。

 

――つまり、今回もまた「帝国は万全の態勢を整えていた」可能性に留意しなければならない。

 

事実、今回の攻撃において我が空軍航空隊の被った被害は発表されていない。小生も連絡の付く空軍関係者全員に取材を申し込んだが、その全員が口を噤んだ。

一方で、空軍基地に喪服に身を包んだ参加将兵の家族が多数入っていくのを見たという地元住民の証言を得た。

このことから、帝国の被害を心配する前にわが空軍の損耗を危惧すべきではないかと思慮するところである。

 

加えて、先日ハンブルガーでなされた帝国宰相ツェツィーリエ・フォン・プロイツフェルンの演説は、我が空軍の攻撃を蛮行と断じ、「正義の鉄槌を下す」と宣言している。

そのことを考えたとき、帝国側の被害発表は我が国に対する「報復」を正当化するための「大義名分」だと考えるのが適切である。

すなわち、彼らには自分たちの攻撃を正当化するため、被害を誇張する動機がある。

 

以上のことから、まず懸念すべきは大義名分を得た帝国軍による我が国への攻撃であって、実際にいるかどうかわからない「被害者」のことではないと考えるが、いかがだろうか?

 

 

 

 

「…これはまた」

「その記事は複数あったのだが、残っているのはそれだけだ。理由は分かるかね?」

「察するに、どなたかが破り捨てましたか?」

「正解だ。私が知る限り、ルーデルドルフの奴は一つをこれでもかとばかりに引き裂き、一つを暖炉に投げ込んでいたな」

 

自分とて、それが最後の一つでなければ引き裂いていただろう、と大将閣下。

 

「しかし、これが連合王国の見解でしょう」

「そのとおり。全くもって度し難いことに!」

 

 

気を落ち着かせるためか、そこで作戦参謀次長は葉巻を咥えて一服。

それを――ターニャの年齢を思い出したのか、反対方向に――吐き出して、続ける。

 

 

「――話が脱線したな。

ともあれ、帝国の世論は今や『打倒連合王国』一色に染まったといって良いだろう。

…ちなみに大佐、もし仮に連合王国本土への都市爆撃を行った場合、何が考えられる?」

 

「合州国の参戦が不可避かと」

 

「ふむ、その心は?」

「夜間爆撃、都市爆撃という時点で民間人への被害が避けられません。となると――」

「『無辜の民間人への爆撃』を大義名分に、合州国が参戦してくると?」

「かの国の『最後通牒』を思えば、確実かと」

「全く同感だな」

 

しかし、である。

 

「…今や帝国世論は煮えたぎる大鍋のようなものだ、合州国の参戦を招くといったところで、市民も政治家連中も聞く耳を持たんだろう」

 

ため息交じりに葉巻をぷかり。

 

「…仮にその声を無視した場合、暴動に発展するだろう。我々は火薬庫の上で踊ることとなる」

「…憲兵隊による鎮圧は不可能なのですか?」

「貴官も大概、武断派だな。憲兵隊一人あたり何十人の市民を拘束することになると思うかね?」

「…つまらぬ妄言を申しました。ご放念いただけると幸いです」

「構わんよ。実際、なかなか反撃を行わない軍にしびれを切らした一部市民が暴徒化してな。つい先週、憲兵隊が鎮圧したところだよ」

「!…それは真ですか?小官は初耳なのですが…」

「厳重な緘口令が敷かれた。戦時下の、それも陛下の御膝元で暴動など、あってはならん醜態だからな」

 

嘆息しながらゼートゥーアは続ける。

 

「実のところ、連合王国への反撃に関しては一部知識人が指摘したのだ。『先だっての最後通告を思えば、連合王国への都市爆撃は、合州国の参戦を招く可能性大』と」

「それに対する反応は?」

「反応以前の問題だな、デグレチャフ大佐」

「と、仰いますと?」

 

首を傾げるターニャに、ゼートゥーアは続ける。

 

「その指摘には続きがある。『――合州国の参戦はむしろ好機である。連合王国、連邦が屈服しないのは合州国の援助があるからだ。それを叩き潰せば彼らも諦めるだろう』」

「……まさか。ご冗談でしょう?」

「冗談ならばよかったのだがな。特に威勢のいい連中など、『この機に合州国も叩き潰し、帝国が世界の覇者となるのだ!』などと気勢を上げて居る始末だ」

「…まさか、帝都の知識レベルがそれほどのものとは思いませんでした」

「それが、内地の感覚なのだよ」

 

 

 

ゼートゥーアの脳裏に浮かぶは、査閲官として赴任する直前のこと。

 

 

 

 

 

『…すまん、ゼートゥーア。連中を抑えきれなかった』

『いやいや、()()()()()()()()()()()の左遷で、お歴々も多少は落ち着くでしょう。そう思えば安いものです』

『だと良いのだが…。いや、失うものを思えば割に合わんな』

『有難いお言葉ですが、勝手に殺さないでいただきたい』

 

それに…、とゼートゥーアは続けた。

 

『戦務になって大分経ちますが、小官も元は作戦屋。久しぶりに戦場の空気を浴びてみたいと思っていたところですとも』

『…しかし査閲官の肩書では大した権限もあるまい』

『まぁ、そこはどうにかしますとも。東部には知った顔も多い』

『私からも一筆認めておくか…』

『それもご無用に願います。()()()()がまたぞろうるさく騒ぎましょうから』

『…ハァ。分かった、だが無理はしてくれるなよ?』

『ハッハッハッ、誰にものを申されますかな?』

『ふっ、それもそうか。わが教官殿は煮ても焼いても食えない御仁と、その同期生から言われているのだった』

『…ルーデルドルフですな。次に会ったらとっちめてやるとしましょう』

『その意気だ』

 

他に見送る者のない――そんな時間のある人間など、もはや参謀本部にはいない――、帝都中央駅のホームで恩師と教え子はニヤリと笑う。

 

『心配すべきは小官よりもむしろ殿下でしょう』

『私?…案ずるな、寝るときも枕元に拳銃をおいて――』

『そちらについては何も心配はしておりません。むしろ杞憂でしょう』

『おい』

『小官の懸念は、連合王国への反撃です』

 

その指摘に、ツェツィーリエは表情を引き締める。

 

『…分かっているとも。作戦局の連中が書庫から『ゼーレーヴェ』を引っ張り出して再検討していることも』

『馬鹿な…。ルーデルドルフの奴、本気で上陸作戦を?』

『半分はポーズと言っていたがね。強硬派を宥めるための』

『殿下、それはつまり半分は本気と言うことですぞ』

『そうなんだよなぁ…。困ったことに、ルーデルドルフ自身、能動的なやり方を好む傾向がある』

『…防戦一方の防空戦よりも敵飛行場の破壊、敵本土上陸の方を志向していると?』

『攻撃は最大の防御というからね、間違っちゃいないんだが――』

 

 

 

 

 

 

 

「――閣下?」

「ム」

 

ゼートゥーアを思考の海から引き戻したのは、自分の孫ほどの年齢でしかない大佐の声だった。

 

「すまんな、大佐。

ともあれ、現状は合州国という火薬庫に火を投げ込むか、国民の声を無視して火薬庫にしてしまうか、究極の二択と言えるだろう」

「…いずれにせよ、碌な未来が見えませんな」

「そのとおり。なによりも問題なのは、そのことが分かっていない連中が多すぎることだ」

 

盛大な溜息を洩らす上司の姿に、ターニャは暗澹たる思いに囚われつつも、その脳裏には一方で「無理もあるまい」という諦観があった。

 

「建国以来、かの国は欧州には一切手を出しておりません。その実力を実感している人間はさほど多くはありますまい」

「…全く、貴官と話していると殿下のことを思い出す」

「…と、仰いますと?」

「全く同じことを仰っていたよ」

 

 

 

『ルーシー連邦も大概だが、合州国はそれ以上の怪物だ。しかし、それを実感している国民は皆無に等しい』

『…先日、情報部のレポートを見ましたが、あれは事実なのですかな?』

『気持ちは分かるよ』

 

 

 

『航空機、戦車ともに年産2万以上。なお、これらはその他の武器弾薬、艦艇製造を阻害せずに実現可能と見込まれる数値であり、実際はこれ以上となる可能性すらある』

 

 

『とても一国の能力とは思えませんな』

『ま、それが普通の感想だろうね』

 

 

何しろ、桁が違い過ぎるのだ。

 

『そんな馬鹿な』となるのが普通なのであって、西暦1941年から45年の間だけで航空機を29万5959機*1

船舶では戦艦10隻、正規空母27隻、巡洋艦48隻、艦隊用駆逐艦349隻、護衛用駆逐艦440隻、上陸用舟艇7万9308隻、戦時標準船(リバティー船)2,710隻。

陸に目を転じれば、戦車を8万8410輌、軍用トラック270万輌、蒸気機関車7,500輌、貨車9万5千輌、榴弾砲・加農砲40万門、銃火器類1760万挺を製造、供給している方が異常なのである*2

 

 

そのレポートの複写をターニャに手渡して、ゼートゥーアは問いかける。

 

「ちなみに、大佐はそのレポートの数字を信じられるかね?」

「合州国は、いわば大陸一つを領土とする巨大な国家です。資源、産業、労働人口とも連合王国はおろか、我が国の数倍と言わないものがあるでしょう。

それこそ、ルールゥ工業地帯を複数抱えているような国家です。戦時体制に移行すれば、武器弾薬を100万単位で供給することも不可能ではないかと」

「…やれやれ、ここでも殿下と同じことを言われるとは。殿下が貴官を高く買うも道理だろう」

「過分な評価であります」

「…過分、か……」

「閣下?」

 

 

首を傾げるデグレチャフ大佐をじっと見据えて、戦務参謀次長はしばし沈黙。

 

――容姿はさほど似ていないが、思考は非常に酷似…。

――あるいは…。いや、これ以上は詮無き事、か…

 

 

「いや、何でもないよ大佐」

「はぁ…」

「ちなみに、殿下はこうも仰った」

 

 

 

『まぁ、識者連中の言うことも間違いではない』

 

 

「…と、仰いますと」

「レルゲン大佐からの報告だ。『合州国が例の宣言をした後、連邦も連合王国も交渉のテーブルに見向きもしなくなった』と」

「…合州国ある限り、連中は諦めない、と?」

「それより質が悪いやもしれん」

「と、仰いますと?」

 

首を傾げるターニャを見て、ゼートゥーアは机の上に置きっぱなしになっていた『ロンディニウム・タイムズ』を手に取って、一言。

 

 

「――意図的なリーク」

「!」

 

それは『大西洋上の不幸な事故』以前から続く、不自然な情報の流れ。「攻撃するのにちょうどよさそうな船団情報が、どこからともなく舞い込んでくる」というそれは、明らかに帝国海軍に「何か」を沈めさせる事を目論んでいた。

 

 

「参謀本部に届いた時点で、記事の日付から1週間も経っていなかった。いかにイルドアが中立国とは言え、ロンディニウム・タイムズがこれほど早く参謀本部に届くものか」

「…我々にわざと見せようとした、と?」

「厳密には帝国人の目に入るように、だろう。今の一般的帝国人がこれを見て、どんな反応をするか…、分かるかね?」

「…ええ、考えたくない程度には」

「おや、その年で現実逃避とは感心せんな、大佐。

ちなみに憲兵隊、警察の出動件数はその前後から急増した」

「…ここまであからさまですと、いっそ清々しいほどですな」

「全くもって同感だよ、大佐」

 

 

――しかし、分かっていてもどうとなるものでは無かった。

 

 

「そして、それが連合王国の狙いだろう」

 

 

それは、つまり。

 

 

「…何が何でも、我が国に報復爆撃を敢行させ、以て合州国の参戦を引き出す……」

「参謀本部もそう見ている。連中、よほど合州国を頼みにしていると見える」

「情報部のレポートが正しければさもありなん、でしょう。いかなる苦境だろうと一発逆転できる、規格外のジョーカーですから」

「うむ」

 

査閲官は重々しく頷く。

 

「そして連中の夜間都市爆撃は断続的に続いている。空軍も頑張ってはいるのだが、如何せん相手の数が多すぎるようだ」

「帝国が我慢できなくなるのを狙っているのでしょう」

「実際、邀撃だけでは爆撃機を防げないという意見が中央では日増しに高まっている。

『敵飛行場を叩け』『都市爆撃で連合王国人の戦意を削ぐべし』とな」

「それが出来れば苦労はしないでしょう、西部の空軍にそんな戦力があるのですか?」

「無いな」

 

ゼートゥーアの言うとおり、当時の帝国空軍にそんな能力はなかった。

防空用戦闘機を除けば、空軍はその総力を東部戦線に傾けており、特に打撃力のある爆撃機隊はモスコー方面への出撃を繰り返し、じわりじわりと消耗していた。

 

 

 

――では、どうすれば?

 

 

 

「…そして、殿下はこう仰った『連中の策に乗ってやるのも悪くはない』」

「まさか、正気ですか!?」

「大佐、さすがに言葉が過ぎるぞ…、と言いたいところだが気持ちは分かる」

 

 

 

『識者連中の言うとおり、合州国が背後にある限り連中は諦めない。で、ある以上――』

 

 

皇女は言った。

 

 

『結局は合州国が諦めない限り、この戦争は終わらないと言うことになる。

逆に合州国が『もう散々だ!』といったならば、連合王国も連邦もこの戦争をやめざるを得ない。違うかな?』

『…つまり、いずれは合州国と雌雄を決する必要がある、と?』

『然り。…問題は、我々には合州国本土にダメージを与える手段がないことだ。大西洋はあまりに広い』

 

 

今次大戦における、合州国の、そして同盟諸国最大の強みはそこだろう。

帝国からは逆立ちしても攻撃不可能なところにある、同盟諸国の需要を賄って余りある巨大な策源地。

それが合州国なのだった。

 

 

「情報部によれば、合州国の連中、『民間人向け暖房用』と称して連邦に石油を送るらしい」

「何ですと!?」

「無論、バクー油田で産出していた量ほどは難しいだろうが」

「…それでは連邦は諦めないでしょう」

「そして連合王国には沈められた量の倍の貨物船とタンカーが贈られるわけだ。いやはや、恐ろしい生産量だな」

 

 

どうりで海軍の連中が嘆くわけだよ、とゼートゥーア。

『沈めても沈めてもキリがない』と

 

 

「つまり、合州国をどうにかしない限り――」

「――この戦争は終わらない、確かにそのとおりだろう」

 

 

そして、問題はやはり次の一点に収斂される。

 

『帝国に、合州国本土を叩く手段がない』

 

 

 

 

 

 

 

この問題に対する皇女殿下の答えは至ってシンプル。

木枯らしの舞う帝都中央駅で、彼女はこう宣ったのだ。

 

 

 

 

 

 

『こちらから届かないなら、あちらからお越し頂くほかあるまい?』

 

 

 

 

 

 

*1
内訳:戦闘機10万、爆撃機・雷撃機9万7800、輸送機2万3900など

*2
「第2次大戦期におけるアメリカ戦時生産の実態について」ほか

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