ゴッド・スピード   作:8号機

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属性“捨て”

 「衰退」と「破壊」。シエラは生まれた時から自分に宿っている、二つ属性の事が嫌いであった。

 

 シエラは仄かに光を放つ魔法陣にゆっくりと足を踏み入れた。この世界に生きるほとんどの人間が持つ属性。それを奪い取る呪術の儀式が行われようとしていた。

 

「では、お願いします」

 

 壁も天井も崩れ、半分潰れかけた廃屋。その床面に描かれた真っ赤な魔法陣。シエラはその魔法陣の中心に立つと、ゆっくりと頭を下げた。

「衰退」と「破壊」。シエラは生まれた時から自分に宿っている、二つ属性の事が嫌いであった。優秀な属性を持っているものが正義とされるこの国において、マイナスな内容のこの二つの属性は、シエラの人生において枷にしかならなかった。シエラが道具などを使うと、すぐに痛んで壊れてしまう。こんな属性を持って生まれたシエラを両親は愛して育ててくれた。しかし属性の力によるものか、家にあるものをすぐに壊し、代わりの物を買う度に家の金が減っていくことにシエラ本人が耐えきれなかった。シエラは15の時に家を出て、今暮らしている街に住み着いた。親に迷惑をかけることはなくなったが、暮らしは貧しく、物を壊す属性を持つシエラに親しく接する人間もいなかった。

 

「これで、ようやくこの属性から解放される……」

 

 魔法陣の周囲で、複数の男たちが慌ただしく儀式を遂行している。その中央でシエラはため息交じりに呟いた。

 

「ああ、そうだ。お前の属性は俺が有効活用してやる。お前の破壊の属性があれば俺は無敵になれる。そして革命を起こすのだ!」

 

 男たちのリーダーが興奮した様子で答えるが、シエラはそれを無視した。シエラはこの男たちが唱える革命などに興味はなかった。属性によって優劣が決まるこの国を変える。男たちはそう言っていたが、それで自分の属性が消えてなくなるわけではない。ハズレの属性を引いた人間はハズレの人生を送る。国の仕組みが変わったとしても、世界の仕組みは変わらない。シエラには彼らの唱える革命は無意味なものとしか思えないのであった。

 

(革命なんてやる意味はない。でも、属性を捨ててしまえば……)

 

 属性を持たない人間。通称ノンマンになってしまえば、属性に振り回されることもなくなる。この世界においてノンマンは人間扱いされないほどの差別を受ける。だがそれは産まれてすぐに受ける洗礼でノンマンであることが発覚してしまうからだ。属性を手放したとしても、他人にそれがバレなければなにも問題はない。

 魔法陣が放つ光が強くなっていく。廃屋に風が吹き荒れる。そしてシエラの胸から光り輝く小さな宝玉が浮き出てくる。宝玉はゆっくりとシエラの体を離れる。

 

「やめろ」

 

 そして、唐突に現れた青年の手によって、シエラの体に還っていった。

 

 

 

 

 シエラの体に宝玉を戻した青年は深く息を吐くと、シエラの胸から手を離した。

 ぼろぼろに傷んだ服、手入れの行き届いていない長い長髪、真っ赤な瞳、そして「何でも屋」と書かれた幟。異様な風貌の青年は足でぐりぐりと魔法陣を乱すと、シエラを守るように男たちの前に立ちはだかった。

 

「貴様、何者だ!?」

 

 リーダーの男がナイフを抜きながら叫ぶ。周りの男たちもいっせいに武器を抜き、青年に向かって突きつける。

 

「俺の名前はジゾ。何でも屋のジゾだ」

 

 青年は武器を突きつけられても動じることなく名乗った。

 

「ここに来た理由は、儀式を止めに来たとか、お前たちを捕まえに来たとか、そんなところだ」

 

 ジゾと名乗る青年が答えると共に、場の空気が急速に殺気立つ。

 

「なんだぁテメェ!」

 

 ジゾに一番近い位置にいた男が手にしたナイフを振り上げ、ジゾに襲い掛かる。ナイフが迫っているというのにジゾは避ける気配がない。男はそのままジゾの首筋をめがけてナイフを振り下ろした。

 

「加速」

 

 ジゾの首にナイフが届く直前、ぽつりとジゾが呟く。その瞬間、ジゾの姿がぶれて、一瞬で数十センチ横に移動した。

 

「は?」

 

 何もない空間にナイフを振り下ろした男は、大きく体勢を崩す。そんな男に向けてジゾは目にも留まらないスピードで回し蹴りを放ち、男を廃屋の外まで吹き飛ばした。ジゾは男が飛んでいくのを見届けると、何事もなかったかのように歩き出す。

 

「貴様、調子に乗るなよ!」

 

 仲間を一人倒され、男たちがいっせいにジゾに襲い掛かる。ある者は短剣を振り上げ、またある者は魔法で炎を放ち、またある者は手にした銃から魔法の弾を撃ちだした。

 

「加速」

 

 ジゾの姿が再び掻き消え、呆然と立ち尽くすシエラのすぐ側に現れる。そしてシエラを抱え上げるとそのまま大きく横へ飛んだ。

 その横を炎と魔力弾が掠め、廃屋の壁を破壊する。

 

「危ねえ、コイツに当たったらどうするんだ」

 

 ジゾはシエラを床に降ろすと男たちを睨みつけた。そして右足のつま先でコンコンと地面を突くとスッと腰を落として構える。

 

「ちょっと荒っぽいが、全員蹴っ飛ばすしかないな」

 

 言い終わると同時にジゾの姿が消える。廃屋の中に強い風が吹き荒れ、鈍い音が連続して響いた。そして男たちが再びジゾの姿を捉えた時、既に立っている男の数は半分ほどに減っていた。 

 

「クソッ! なんだこいつ、どうなってるんだ!?」

 

 銃を持った男が叫びながら引き金を引く。彼が放った魔力弾も、やはりジゾを捉えることはできない。次の瞬間、銃を撃った男を含めた数人が宙を舞った。

 

「残りはアンタ一人だ」

 

 十数人いた男たちは、リーダーの男一人を除いて、全員伸びてしまっていた。リーダーの男はギリギリと歯ぎしりすると、くるりと後ろを向いて走り出した。

 

「逃がすか。加速」

 

 烈風を巻き起こしながら、ジゾが突撃する。廃屋に轟音が響き渡り、むき出しの柱や、わずかに残った壁の残骸が完全に崩れ落ちた。

 

 

 

 シエラは戦いの一部始終を呆然と眺めていた。ジゾと名乗る青年は目で追えないほどの速度で廃屋中を駆け回り、一瞬で数人の男を打ち倒してゆく。最後に逃げる男を追おうとしたジゾが転び、盛大に壁を壊しながら倒れたことで戦いは終わった。

 シエラは瓦礫に埋もれたジゾの元へゆっくりと近づいた。

 

「いてててて……。クソッ、新しいの買っておくんだった」

 

 ジゾが崩れ落ちた壁の残骸を押しのけて起き上がり、右足を高く掲げた。ジゾの靴は靴底が剥がれてベロンと開いていた。ジゾは舌打ちしながら立ち上がるとパンパンと服の埃を落とす。

 

「ま、アンタの属性が無事でよかったよ」

 

「よくないっ!」

 

 属性を捨てる儀式を、人生を変える瞬間を邪魔されたシエラは、怒りに震えながら叫ぶ。シエラはジゾの胸倉を掴み、グイっと引き寄せる。ジゾは先ほどの戦いのように避けず、またシエラの手を払うことも無かった。

 

「私は、自分の属性を捨てる為にここに来たのに! どうしてくれるの!」

 

 シエラはそうまくしたてると、ジゾを思い切り殴りつけた。

 ジゾはシエラが放った全力のパンチを頬に受け、大きくのけぞった。そしてジゾの服はシエラが掴んでいたところからビリビリと裂けていった。、

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