ガールズバンドの子たちに甘やかされる日常【完結】   作:薮椿

1 / 28
Poppin'Partyに甘やかされる

 某月某日、土曜日の真昼間。

 

 今日も今日とてネットで逐次的欲求発散行為、いわゆるマスターベーションのネタ探しが始まる。外は雲1つない快晴なのに、部屋に籠ってオナネタの探求だなんて、自分が陰キャの中のド陰キャだって自覚はしているんだ。でも、オナネタを探している時の時間が何よりも至高だからやめられない。ベッドの上で1人で耽っている時もそりゃ気持ちいいけど、今日はどんなネタを使うか物漁りをしている時の背徳感に勝る快感はないよね。

 

 それに、偉い人がこう言っていた。美味しいモノを食べるのは楽しいが、一番楽しいのはそれを待っている間だって。さっき僕が言っていたことと少しニュアンスは違うかもしれないけど、自慰行為でも同じことが言えるんじゃないかな? 毎日同じ時間帯にPCの前に座り、目を皿にしてネタを探す。いいネタを見つけたらとりあえずブックマークし、ある程度集まったらブクマしたネタの中から今日のオカズに使用するモノを選定する。このサイクルを毎日やってるけど、決して飽きることがない。むしろ毎日のこの時間が楽しみすぎて、このためだけに生きているって感じがするよ。

 

 

 …………うん、分かってる。自分でも最底辺な人生を歩んでいるって。でも仕方ないじゃん、身体に迸る快感が気持ちいんだから!!

 

 

 ちなみに、さっき同じサイクルを毎日繰り返していると言ったけど、その言葉に偽りはなく1年中365日通してだ。平日も休日も休むことなく、昼間はベッドの上で1人格闘技を披露している。ここまで聞いてお察しの通り、僕は学校にも行っていなければ働いてもいない。まぁ、いわゆるニートってやつだ。自分でニート宣言するほど恥ずかしいことはないけど、事実は事実だし、それに隠していたとしてもこの後すぐにバレるだろうから……。

 

 

 とりあえず、その"すぐ"が来る前にやることはサッサとやっておかないと。

 僕が一番嫌いなのはニートである自分自身でも、僕を社会に適合させてくれないこの世の中でもない。オカズ探しから格闘技のフィニッシュまでのひと時を邪魔されることだ。ニートであることをどれだけ咎められてもいいけど、マスベの妨害だけは誰であろうとも許さないから。

 

 ……う~ん。今日は新しいオカズを探す予定だったけど、僕の目に敵うモノが見つからず時間を食っちゃったから、仕方ないけどお気に入りの時間停止モノのAVで我慢しよう。

 

 ティッシュの在庫はOK。ゴミ箱も近くに配置。イカ臭い匂いを誤魔化す用の消臭スプレーも準備完了。あとはベッドに寝転んで、スマホに保存してあるこの動画を再生するだけ。ダメだ、動画の内容を知っているだけに、想像しただけで下半身の一点に血の気が……!! 待て待て落ち着いて我が息子。もうすぐその興奮を解き放ってあげるからね。

 

 

 さぁ、今日も僕に最高の興奮を――――――

 

 

「おっはよーーーーっ!!」

 

 

「うわぁ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああ!?」

 

 

 ベッドに寝転がって動画を再生しようとした、まさにその時だった。僕の部屋のドアが壊れるくらいの勢いで開け放たれ、そこから5人の女の子たちが乱入してくる。

 

 どうやって鍵のかかっている僕の家に侵入したのか、どうしてノックもせずに部屋に入ってくるのか、もはやそんなことは()()()()()()だ。でも、今日に限って()()()()()早い時間に来るなんて……!!

 

 

「か、香澄ちゃん!? いつも言ってるけどノックくらいしてよ!!」

「えへへ~ゴメンゴメン。早く秋人(あきと)くんに会いたくって!」

「会いに来てくれるのは嬉しいんだけど、事前に連絡するとか、せめて部屋の前で声をかけてくれると嬉しいんだけど……」

 

 

 こうして、こちらの事情なんてお構いなしに突撃してくるのが香澄ちゃんたちだ。本人たち曰く、『どうせニートなんだし、予定も何もないから暇でしょ』らしい。確かにニートで予定もないから何も言い返せないけど、親しき中にも礼儀ありだ。それに全く予定がない訳でもなく、僕だってほらそのぉ……マスベの予定がね?? だったらその時間をズラせばいいんじゃなかと思うかもしれないけど、僕は昼間のこの時間帯にやるのが好きなんだ。特に平日の昼間は学校や仕事に行っている人が大半で、その人たちが汗水垂らしている時間に自慰行為に耽るのがこれまた爽快感。それに香澄ちゃんたちに合わせて時間を変えちゃったら、それって負けた気分にならない? ニートでもゴミクズくらいのプライドはあるんだよ。

 

 

「そういや、今日はPoppin'Partyのみんなが勢揃いだね」

「ゴメンなさい秋人くん、突然押しかけちゃって。ビックリしちゃったよね……?」

「そう言ってもらえるだけでも嬉しいよ、りみちゃん」

「香澄が秋人に連絡を入れたって言ってたんだけど、その様子を見ると嘘だったみたいだね……」

「そうだったんだ。沙綾ちゃんに嘘をついてまで、僕にサプライズしたかったのかな……」

「あはは、香澄のことだからあり得そう」

 

 

 こうやって僕のことを考えてくれるのは、りみちゃんや沙綾ちゃんと言った真面目な子たちだけだ。現に香澄ちゃんと、同じバンドメンバーのたえちゃんは早速僕の部屋に山積みされてるゲームで遊ぼうとしている。アポなしで人の部屋に上がり込んで、しかも部屋のモノを勝手に物色するなんて失礼極まりないけど、これが日常になってるからもう慣れた。だからと言って、アポなし訪問が許されるとか、そういうことじゃないからね?

 

 

「全く、またこんなに散らかして……。洗濯物も溜めたままかよ」

「あっ、有咲ちゃん。掃除は僕がするからいいのに」

「しないから部屋が汚くなるんだろ? ほら、洗濯物貸して。部屋掃除のついでに洗濯もしてやるから」

「その優しさは嬉しいんだけどね……」

「べ、別にお前のためじゃねぇから! こうしないと他のみんながうるさいから仕方なく……」

 

 

 有咲ちゃんたちは僕の部屋に来るたびにこうして世話を焼いてくれる。正直に言って僕は掃除ができない人間なので、部屋をキレイにしたり洗濯をするには誰かの手を借りなければならない。だから有咲ちゃんたちの好意はとっても嬉しいんだけど、今はちょっとマズいことがあるんだよね……。

 

 

 とりあえず、この洗濯物だけは何とか死守しないと……!!

 

 

「……おい秋人、そこにいたら洗濯物が取れないんだけど?」

「い、いやぁ今日はまだ洗濯しなくてもいいかなぁ~って」

「その山積みの洗濯物を見てよくそんなことが言えるなお前……。どう見ても3日分くらいは溜まってるだろ」

「ま、まぁニートだから服くらいどうなっても……」

 

 

「あっ、これは2日前の服だ。そしてこれは昨日の服」

「うひゃぁ!? た、たえちゃん!? その服は――――って、どうしていつ着てた服なんて分かるの!?」

「何でも分かるよ、秋人のことなら。大好きだもん」

「あ、ありがとう――――って、そういうことじゃなくて!!」

 

 

 さっきまでゲームをしていたはずなのに、いつの間にか僕の後ろに忍び寄っていたたえちゃん。有咲ちゃんとの対決に集中し過ぎて、彼女が忍び寄っていることに気付かなかった。たえちゃんは既に僕の洗濯物を握りしめており、今にも僕の手から奪取しようとしている。そのことに気付いた時には時すでに遅く、僕が抵抗する前にたえちゃんに洗濯物をひったくられてしまった。

 

 

「私たちが洗濯してあげるから、秋人は休んでて……あれ?」

「ん? どうしたおたえ? 洗濯物なら早くこっちに……」

「あっ、そ、それを見たらダメ!」

 

 

 たえちゃんが持っている洗濯物の中から雑誌が零れ落ち、近くにいたりみちゃんの足元に散らばる。

 やってしまった……と、僕は頭を抱えそうになった。だって、洗濯物から落ちた雑誌はただの雑誌ではなく―――――

 

 同じく近くにいた香澄ちゃんが、落ちた雑誌のタイトルを読み上げる。

 

 

「『猫耳少女をペットに堕とすまで』、『ツンデレの金髪ロリ巨乳を躾けたい!』、『天然少女を騙して玩具にしてみた』、『お姉ちゃんのような同級生を催眠指導』、『臆病で気弱な少女を時間停止してヤりまくり』……なんか、変わった漫画だね!」

「それだけで片付けんなお前!! 秋人、お前も何考えてんだ!?」

「あ、有咲ちゃん顔近いって!!」

 

 

 しまった……。ネタ探しに夢中になっていたせいで、薄い本を健全な雑誌の表紙でカモフラージュすることをすっかり忘れていた。彼女たちはいつもこの時間帯に来ると分かっていたはずなのに……。やっぱり人間って、性欲に憑りつかれると正気を失っちゃうよね。だからこそこの世に強姦事件が蔓延っているんだろう……な~んて、冗談を言ってる場合じゃないか。

 

 

「なるほどね。秋人は私たちにこんなことがしたかったんだねぇ~ふ~ん」

「さ、沙綾ちゃん? どうして笑ってるの……? それに私たちって、どういうことかなぁ……あはは」

「さぁ? どういうことだろうねぇ~?」

 

 

 バ、バレてる! 床に散らばった雑誌の内容のモチーフが、()()()()()()()に似ていることを。だけど沙綾ちゃんは真実を口にすることはなく、ただ悪戯な笑顔で僕を見つめるばかりだ。ちょっとばかりからかい癖があるのが沙綾ちゃんの悪い癖だよ……。

 

 そして、余裕そうな彼女とは対照的に、りみちゃんが顔を真っ赤にして震えている。

 

 

「えっ……ふえぇ!?」

 

 

 某幸せの国バンドにいるクラゲの先輩が発するような呻き声で、あまりの衝撃に生まれたてのヒヨコみたいな声しか出ていない。顔の沸騰は止まらず、今にも蒸発しきって気絶してしまいそうだ。

 

 ある子は怒ったり、ある子はからかってきたり、ある子は沸騰しそうになっていたりと、僕の部屋がてんやわんやしてきた。

 そんな慌ただしい状況に一石を投じたのは、さっき散らばった薄い本のタイトルを読み上げて場を滅茶苦茶にした香澄ちゃんだ。

 

 

「な~んだ、そんなことなら早く言ってくれればいいのに!」

「へ? な、なに!?」

「んっふっふ~そういうことだったんだねぇ~」

 

 

 香澄ちゃんは悪い笑顔を浮かべながら、僕の両肩に手を置く。女の子特有のいい匂いに思わず打ちのめされそうになるも、彼女がこの顔をする時は決まって碌でもないことが起きると知っているので、何とか正気を保って警戒態勢に入る。

 

 とは言うものの、僕はニートをやっているせいか力がなく、日々バンドの練習で自然と体力が鍛えられている香澄ちゃんたちは到底敵わないだろう。だから警戒態勢に入ると言っても、僕には彼女たちに抵抗できるほどのパワーはない。つまり、一度こうして捕まってしまったら、彼女たちのされるがままになってしまうんだ。まぁ、こうなるのもほぼ毎日のことだからもう慣れたけどね……。

 

 すると、香澄ちゃんに気を取られていたせいか、またしても背後に忍び寄る陰に気付かなかった。

 

 

「言ってくれれば、私たちが相手したのに」

「うわっ、ちょっ、何言ってるの!? って、たえちゃん!? 耳かじらないでよ!?」

「相変わらずウブだね。男の子なのに、とっても可愛い」

「耳元で囁かないで! くすぐったいから!!」

 

 

 みんなは自分たちをモチーフにした薄い本を見ても嫌悪せず、何故か卑しい桃色のオーラを放出させていた。妖艶な表情をしている子もいれば、頬を赤らめて如何にも恋する思春期女子のような表情をしている子もいる。例え高校生のガールズバンドと言えども、多くの人にその存在を知られている子たちだ。だからニートの男に対してそんな表情をするのはどうかと思う。だけど、またこれが()()()()()()なんだ。

 

 ガールズバンドのみんなは僕の部屋に来ている時だけ()()()()()()()()。バンドの映像を見る限りでは輝かしい清純な乙女たちなのに、どうして僕の部屋だと思考回路が逝っちゃうんだろうなぁ……。それに普通じゃないのが日常って、なんか矛盾してるような気もするけど……。

 

 するとその時、突然後ろから抱き着かれた。

 この母性を感じられるほどのふわっとした暖かい感触は――――――!!

 

 

「沙綾ちゃん!?」

「えへへ、あったりぃ~! ていうか、後ろを見てないのによく分かったね」

「そ、そりゃあ……ねぇ?」

「私の胸、気持ちいいでしょ?」

「そりゃもちろん――――って、あ゛っ!?」

 

 

 マズい、僕が変態だってバレてしまう!! と思ったけど、散らばった雑誌から余裕でバレバレか。

 沙綾ちゃんはしてやったりの顔で、僕をより強く抱きしめる。自分で胸を自ら僕に押し付けてるってことは、もはやその行為に恥など感じていないのだろう。同時に香澄ちゃんとたえちゃんにも囲まれ、女の子たちの甘い雰囲気に酔って今にも気絶してしまいそうだ。

 

 ふと有咲ちゃんとりみちゃんを見てみると、香澄ちゃんたちの異質な行動なんてさぞ当たり前かのように部屋の片付けをしていた。ガールズバンドとしてとか、華の女子高校生として慎みある行動を取るとか、そんなことは一切考えていないっぽい。特に有咲ちゃんなんてこの状況を見たら真っ先に怒りそうなのに、何食わぬ顔で散らばった薄い本を片付けているんだから、やっぱりこの部屋に来たみんなは異質だ。

 

 

「あ、有咲ちゃん? 無理してそれを片付けなくてもいいんだよ……?」

「お前に任せたら一生片付けないだろ。私のことは気にしないで、お前はゆっくりしてていいから。家事周りは私たちが全部やってやる」

「一生って……」

「それじゃあ私はゴミを出しに行ってくるね」

「そ、そんな! ゴミ出しなんて、りみちゃんの手を汚す訳には……」

「秋人くんを放っておいたら、一生ゴミ出しなんてしないって分かってるから。だから全部私たちに任せて……ね?」

「だから、一生って……」

 

 

 そりゃね、僕だってやる気さえあれば部屋の片づけもゴミ出しも1人でできるんだよ……多分。でもそのやる気を奮い立たせる前に、ガールズバンドのみんなが全部やっちゃうものだからどうしようもない。1人暮らしだと1日でそこまでゴミは溜まらず、かと言って2~3日置きくらいに掃除しようと思ったら、その間隔でガールズバンドのみんなが訪問してくる。だから詰みなんだよ詰み。だから一生、僕のやる気は湧き立たず仕舞いなんだ。

 

 自分自身の不幸さを嘆いていると、いつの間にか台所に移動した沙綾ちゃんがたえちゃんに声をかける。

 

 

「おたえ、私たちはお昼ご飯でも作ろうか」

「了解。秋人のために私、頑張るからね」

「お昼ご飯でそこまで全力にならなくても……」

「うぅん、秋人のためだから全力になるんだよ。それに、お世話に来たら秋人の服とか貰えるし……」

「おたえ」

「あっ、今の忘れて何でもないから」

「えぇ……」

 

 

 な~んか怪しいなこの2人。そういや最近、ちょいちょい僕の服がなくなっているような気がしたんだけど、まさかたえちゃんたちが……? 僕が着る服はみんなが自主的に買ってきてくれるので、自分でも服を何枚持っているのか、どんな種類があるのかは詳しく把握していない。だけど最近は目に見えて服が消えているので、もしかしたらこの2人以外にも犯人はいるかも……?

 

 ちなみに、服以外にもみんなが買ってきてくれたモノがある。生活必需品はもちろん、食品や飲料、漫画やゲームなどの嗜好品まで、僕の好みに合わせて持ち込んでくれる。そもそもこの家自体が弦巻家の会社の系列で、家賃や電気代など、その辺諸々はこころちゃんのお気遣いで全部タダだ。部屋の片付けも料理も作ってくれるし、そこまでされたらニートにもなるよねぇ……。

 

 

「そういえば、この前私たち海に行ったんだよ! その時の写真、見てくれた?」

「え゛っ!? み、見たよ……一応ね」

 

 

 さっきからずっと僕を抱きしめている香澄ちゃんが、何故か目を輝かせながら質問をしてくる。

 海に行ったということは、送られてきた写真はもちろん香澄ちゃんたちの水着写真。うん、確かに携帯に送られてきたよ。どうやら最近ポピパのみんなで海合宿をしたようで、その時に撮ったであろう写真を僕にたくさん送り付けてきたんだ。集合写真を始めとして、個人の写真まで送られてきたんだけど、それらを集めたらPoppin'Partyの写真集として売りに出してしまえるほどの代物だった。

 

 しかし、問題はそこではなく、かなり際どいポーズの写真もあったってことだ。肩紐の片方を外したり、オイルを塗っている姿など、アダルティックな写真に思わず度肝を抜かされてしまった。現代の女子高生は、高度な情報化社会の煽りで性知識が豊富だと聞く。でもそれを考慮したとしても、思春期の女の子が男にそんな写真を送り付けるなんて正気の沙汰じゃない。

 

 だけど悲しいかな、その写真を見た瞬間に不覚にも下半身が反応してしまった事実は揉み消せない。知り合いの女の子の際どい姿を、ガールズバンドとして活躍する女の子の扇情的な姿をこの目に焼き付けているという背徳感が、より一層僕の興奮を煽るのだ。もちろん、このことはみんなには内緒だけどね。バレたら最後、悪夢のようなからかい地獄が待ってるだろうから……。

 

 その時だった。突然僕の耳元が吐息が吹き掛けられる。

 

 

「ふぁあああんっ!! な、なに!? 香澄ちゃん??」

「わっ! 思ったより可愛い悲鳴で、私の方がビックリしちゃったよ!」

「もう脅かさないでよ! いきなり息を吹きかけてきて何を企んでるの!?」

「そんなことよりも。何回やったの?」

「う゛っ!? や、やったって……何を?」

「本当は意味分かってるんでしょ? だったらイントネーションを変えてみようか? 何回……ヤったの?」

「そ、それはぁ……」

 

 

 バレてる!? 香澄ちゃんって普段は何も考えてなさそうな天真爛漫キャラなのに、有咲ちゃんや僕をからかう時だけはどうしてここまで小悪魔になるんだろう……?

 とにかく、みんなの尋問に負けちゃダメだ。さっきも言ったけど、ニートにだってプライドはある。陰キャのニートだからって陽キャにされるがままだなんて我慢できない。ここからなんとか逆転の策を考えないと。逆にこちらがみんなを赤面させて追い込むような、決定的な一手を。

 

 しかし、追い打ちをかけるかのように、香澄ちゃんが僕の耳元で囁く。

 しかも頭を撫でられて……。

 

 

「もっと素直になっていいんだよ。だって私たち、秋人くんに使ってもらうために水着写真を撮ったんだから。あんな姿、秋人くんにしか見せないんだよ?」

「つ、使うって……どうやって?」

「もうっ、女の子に言わせる気?」

「あっ、いやゴメン、そんなつもりじゃ……あ、あれ、どうして僕が謝ってるんだ……?」

 

 

 さっきまで僕を尋問する気満々だったのに、突然優しくなったので気が動転してしまった。

 でも頭を撫でられながら抱き着かれているせいで、みんなを追い込む一手を打たなければならないのに強く言い返せないのが事実。女の子の腕の中はまさに魔性で、抱きしめられているだけでも安心しちゃうんだ。

 

 

「私も抱きしめても……いいかな?」

「りみちゃん!? どうしたのいきなり!?」

「香澄ちゃんに抱きしめられてる秋人くんがその、とっても愛おしくなっちゃって……。そんな可愛い顔を見せられたら、私も……悪い子になっちゃいそう」

「ちょっ!? りみちゃんはポピパの良心なんだから、そんなこと言ったらダメだって!」

 

 

 どちらかと言えば、りみちゃんは愛でるより愛でられる立場の子だ。そんな健気な子が今は肉食系女子と化しており、目がいつもと違って少し怖い。まるで獲物を狙う獣のような、そんな眼光をしている。ポピパのマスコットであるりみちゃんが、まさかここまでSっ気を醸し出すとは……。

 

 すると、ゴミ捨てのためにゴミをまとめていた有咲ちゃんが、包まれたティッシュを手に持って僕に見せつけてきた。

 

 

「あ、有咲ちゃん? それ僕のゴミ箱に入ってたやつだよね……? ばっちぃから捨てなさい」

「これ、匂いと香りの残量的に、捨てられたのは2日前と推測できる。そして、その2日前は私たちの水着写真が秋人に送信された日。つまり、このティッシュの使い道は……。さぁ、白状してもらおうか。今自白すれば罪は軽くなるぞ?」

「どうしてそんなこと分かるのさ!? 今までみんなを傷付けると思って敢えて言わなかったけどもう言うよ? 変態だよ!!」

「それがどうした? 秋人に奉仕できるなら、どんな罵倒でも受け入れる覚悟くらいあるから」

「開き直らないでよ!! ねぇ沙綾ちゃんはどう思う??」

「私たちの水着でやったにしては、出してる量がちょ~っと少ないかな?」

「僕に何を期待してるのさ!?」

 

 

 もうみんなの水着写真でやっちゃったことを自白したようなものだけど、みんなも思考回路がぶっ飛んでいるせいで僕の失言に気付いていない。さっきまでは純粋な反応を見せていた子が多いのに、話が猥談に切り替わった途端にこれだよ。みんなの脳内が突然ピンク色になるのは今に始まったことではなく、この部屋に来て話題がそっち方面に乱れると、全員キャラが変貌する。どうしてだかは知らないし、知りたくもないけどね。

 

 女の子にお世話をされるのは確かに嬉しいよ? 嬉しいけど性欲の管理までしてもらおうとは思わない。これはニートの意地ではなく、男としての最低限のプライドだ。自分の性のコントロールは自分でしたい。このまま性処理まで香澄ちゃんたちに任せてしまうと、本当に彼女たちの身体でないと満足できなくなりそうだから……。

 

 しかし、僕には抵抗しようにもその力はない。ニート生活をしてるしてない以前にそもそも僕自身の身体が小さいので、年頃の女の子でも僕を簡単に組み伏せられてしまう。例えガールズバンド内で小柄なりみちゃんや有咲ちゃんであったとしてもだ。

 

 

 こんな状況を、何て言うのか知ってるよ。

 

 

 …………詰み。

 

 

 そんな背水の陣の僕に、前から抱き着いている香澄ちゃんは囁くように呟く。もちろん、頭を撫でながらだ。

 

 

「別に隠さなくてもいいのに。私たちの写真でたくさん白いのを出しちゃったって。私たちはね、秋人くんのすることはなんだってさせてあげたいの。だから、秋人くんは自分のやりたいことを好きなだけやればいいんだよ。身の回りのお世話は私たちが全部やってあげるから……ね?」

「うぅ……確かに香澄ちゃんたちの好意はありがたいし、もうみんなのお世話がないと生きていけないようになってるかもしれない。でも、穢すことはできないよ! 例え写真であろうとも、大好きなみんなを汚すことなんて絶対!!」

 

 

 とは言っても、実際にやっちゃったから言葉に説得力がない。でも、みんなを穢したくないというのは事実なんだ。だから、みんなの写真を自慰のネタにするのは今回だけ。2日前に賢者モードに入った時、そう誓った。

 

 

 その時、みんなの様子が一変していることに気が付く。

 さっきまではピンク色の雰囲気が部屋を支配していたのに、今はすっかり元通り。それどころか、部屋の温度が少し上がっているような……? 見ればみんなの顔が真っ赤なので、部屋の冷房が切れちゃったのかな……って、切れてないじゃん。散々僕を弄って遊んでいた香澄ちゃんもおとなしくなり、沙綾ちゃんたちは覚束ない手付きで家事をしている。

 

 

 ど、どうしようこの空気?? 女心に触れるデリカシーのない発言をしちゃったとか……?

 

 

「し、仕方ないなぁ~! 秋人くんのために、私も家事手伝っちゃおうかなぁ~なんて」

「香澄ちゃん急にどうしたの!? いつもは僕に抱き着いてばかりで、あまり家事はしないのに」

「ちゃんと歯磨きしてる? 私が後ろからやってあげようか……?」

「沙綾ちゃん!? そこまで不清潔じゃないから大丈夫!」

「今日はお風呂まだだよね? だったら私が背中を……ダメ?」

「そ、そんな目で見ないでりみちゃん……。流されそうになる」

「私は何をすればいい? この雑誌では、私に似た女の子が男の子の命令を何でも聞く玩具みたいになってるけど……」

「たえちゃん、丁寧に解説しなくていいからそれは忘れて……」

「服、洗濯するからな。ま、まぁお前の服なんて汚くて触りたくもないけど、溜め込んでたら服の方が可哀想だと思っただけだから! そう、だからこれは私の家でしっかり洗ってやる」

「ちょっと有咲ちゃん!? カバンに僕の服入れようとしてない!?」

 

 

 なんだろう、急にみんなが僕を甘やかしてる気がする……。いや、いつも甘やかされてるんだけど、今この瞬間がこれまでよりも一番甘々だ。

 

 しかし、そんな彼女たちの誘惑に乗せられてしまうのが僕だ。自分でやらなきゃとは思うけど、香澄ちゃんたちの優しさに触れると途端に身体の力が抜けちゃうんだよね。自分がどんどんダメ人間になっていくのが目に見えて分かるよ。まぁ、その背徳感が快感でもあるんだけどさ。

 

 こうして、今後もガールズバンドのみんなに甘やかされる日々が続くんだろうなぁと思う反面、みんなと一緒に生活できることに嬉しさを感じてる僕がいた。

 

 でも、人生は楽しんだもの勝ちだから、この日常はこの日常でいいの……かも??

 




 初めましての方は初めまして、薮椿と申します。
 普段は『ラブライブ!』で『ラブライブ!~μ's&Aqoursとの新たなる日常~』という小説を投稿しているのですが、あちらの執筆の息抜きとして『BanG Dream!』の小説を投稿してみました。

 私自身ハーレムというジャンルが大好きなのですが、皆さんは今回のお話どうでしたでしょうか?
 『ラブライブ!』の方では肉食系の主人公でハーレムを描いていたので、こちらでは草食系の主人公として物語を展開してみました。男の方からガッツリ攻めるハーレムも好きですが、こうして見ると女の子から甘やかされるくらい攻められるシチュエーションも悪くないですね(笑)

 バンドリはアニメやアプリのストーリーを見るくらいですが、どのキャラも非常に魅力的なので、この小説で1人でも多くキャラの魅力を伝えられたらと思います。まあその過程で少々キャラ崩壊しちゃうのは、もう『ラブライブ!』小説時代からのお決まりなので許してください(笑)
 もちろん考えもなしにキャラを改変するのではなく、公式の設定を踏襲しつつ、更にその子が魅力的に映るようにしていくつもりです。

 先程もお伝えした通り、『ラブライブ!』小説の執筆の息抜きとして執筆しているので、次回の投稿日は未定です。皆さんからの反響が高ければ早まるかも……?

 それでは、今後ともよろしくお願い致します!


更新予定等は以下のTwitterにて
https://twitter.com/CamelliaDahlia
Twitterアカウント名「薮椿」(@CamelliaDahlia)で活動しています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。