そして、ようやくニートの秋人くんが外に……!?
「秋人くん秋人くん! 一緒にお出かけしようよ!」
「はい……?」
僕の部屋にいきなり転がり込んできた日菜ちゃんが、目を輝かせてとある提案をしてきた。
『お出かけ』って、あの『お出かけ』だよね? いや、言葉の意味は知ってるんだけど、ずっと引き籠りニートだったから外出をするってことがどういうことなのかを忘れていた。そうだよ、この世界は僕の家だけじゃないんだ。当たり前のことだけど、引き籠りのせいで『外出』をするという概念が存在すること自体を失念していたよ……。
でも、僕はガールズバンドのみんなからお出かけ禁止令を出されている。なのにどうしてこんなことを……?
「お出かけって、日菜ちゃん、この前パスパレのみんなと僕の外出を阻止しようとしてなかったっけ……?」
「前は前、今は今だよ! それに秋人くん、外に出たくないの?」
「別に用事がなければいいかなぁって……」
「用事ならあるよ! あたしとお姉ちゃんと秋人くんで、デートをするんだから!」
「デ、デート!?」
デートって、あのデート?? ヒキオタニートの僕にとって、デートなんて夢のまた夢だと思っていた。これまでは精々アニメや漫画で2次元キャラがイチャコラとデートしているのを眺める程度だったので、生の女の子からいきなり誘われて心臓の高鳴りが止まらない。遂に僕にも春が来たのか……!!
だけど、僕と日菜ちゃんから一歩引いたところにいる紗夜ちゃんが頭を抱えている。
厳格な紗夜ちゃんのことだから、デートどころかそもそも外に出ることを許してもらえるか分からない。あぁ、早速夢が潰えてしまうのか……。
「日菜、顔が近すぎて那須原さんが困っているでしょう。まずは離れなさい」
「えぇ~!? だって秋人くんっていい匂いがするんだもん! あたし、この匂い好きぃ~」
「ちょっ、日菜ちゃん!? いきなり抱きしめられると苦しいって!!」
「あたしだけ秋人くんを堪能するのは悪いから、秋人くんもあたしで楽しんでいいよ!」
「日菜ちゃんで楽しむ……? そ、それってどういう……」
「さぁ~て、どういう意味でしょ~?」
日菜ちゃんは口角を上げて、憎たらしい笑顔を向ける。
からかっているのか、それとも誘っているのか。どちらにせよ、人気アイドルにここまで誘惑されると童貞の僕は簡単に臆してしまう。こうして女の子に抱きしめられるのは日常茶飯事だけど、決して慣れることはない。もう僕に男の尊厳というものは残っていないのかも。いや、ニートの時点でプライドもへったくれもないけどさ……。
「そ、それよりも、日菜ちゃんはどうして僕とお出かけしたいの?」
「元々1人で出かける予定だったけど、秋人くんとお姉ちゃんが一緒の方が、るん♪ってくるでしょ? お姉ちゃんも一緒に出掛ける気満々だしね」
「え~と、よく分からないけど、楽しいから……なのかな? でも、紗夜ちゃんが僕と一緒に外出したいだなんて意外だね。てっきり僕が外出するのを禁止するかと思ったよ」
「別に私も鬼ではありません。外出を禁止しているのも、あなたの身を案じているからこそです。しかし、日菜も楽しみにしていますし、それに私もあなたと一緒にいられるなら……い、いえ、なんでもありません」
「紗夜ちゃん? 顔赤いよ?」
「つまり、お姉ちゃんも秋人くんとデートしたいってことだよ」
「ひ、日菜!? 余計なことを!?」
「えへへ。あまりグズグズしてると、あたしが秋人くんを独り占めにしちゃうよ?」
「そ、そんなこと、許されるはずがないわ!!」
日菜ちゃんは僕を抱き寄せて、紗夜ちゃんに我が物アピールをする。日菜ちゃんにとっては紗夜ちゃんをからかっているだけのようだが、紗夜ちゃんは顔を真っ赤にして僕と日菜ちゃんを必死に引き剥がす。
相変わらずモノみたいに扱われている僕だけど、女の子の抱擁リレーのバトンになる役目も慣れてきた。たまには僕から抱きしめて女の子の感触を味わってみたいけど、肉食系になるほどの度胸はない。薄い本ではヘタレ男が女の子に屈辱的な誘惑をされまくったが故に逆上して、性欲に身を任せその女の子を襲う展開も多い。さっきまでドMだった人がいきなりドSになるなんて、三次元ではあり得ないからね……。
「あはは、嘘だよお姉ちゃん。お姉ちゃんって、秋人くんのことになると本当に可愛くなるよね!」
「双子とはいえ、妹に可愛いと言われると微妙な気持ちだわ……」
「それは別に誇ってもいいんじゃないかな。今日の紗夜ちゃん、とっても可愛いよ。いや、いつもだけど今日は特に……」
「な゛っ!? な、那須原さん、あなたって人は……」
「あっ、お姉ちゃん照れてるぅ~。やっぱりあたしから言うより、秋人くんの口から言った方が効果は抜群かぁ~」
「うぅ……」
もう紗夜ちゃんの顔は今にも沸騰して蒸発してしまいそうなくらいだ。いつもは凛然とした態度で厳粛な風格すら感じられる彼女だが、今はもう単なる思春期の女の子。どちらかと言えば、余裕を見せつけて彼女を煽っている日菜ちゃんの方が大物に見えてしまう。いつもは日菜ちゃんが紗夜ちゃんに甘えに甘えているから、この立場の逆転は珍しい。
ちなみに、紗夜ちゃんが思春期女子っぽいのは表情だけでなく服装からでも分かる。普段は高校生の身の丈に合った無難なファッションしかしない彼女が、今日はなんとスカートだ。そもそもスカートなんて持っていたことにも驚きだけど、それ以上にビックリしたのは少し丈が短いこと。水着ですらひたすら露出を隠したがるのに、スカートを短くするなんて思春期男子の欲情を煽る格好をしていることに驚きを隠せない。
「秋人くん、お姉ちゃんのスカートを見てるの? やっぱり気になっちゃうよね、男の子だもん」
「ちょっ、日菜ちゃん何言ってるの!? ち、違うんだよ紗夜ちゃん! 決して卑猥な妄想をしていたとかじゃなくて、ただ単に珍しい格好をしているからビックリしたと言うか……」
「別に怒ってはいません! むしろ、普段との違いを見つけてくださって嬉しい……です」
「えっ、そうなの……?」
「そうだよ。だってお姉ちゃん昨日の夜、秋人くんとのデートで着る服を悩みに悩んで1人ファッションショーをしていたもんね」
「ひ、日菜!? あなた見ていたの!?」
「えへへ~」
紗夜ちゃん、もう完全に日菜ちゃんの手玉だね……。日菜ちゃんに振り回されるのはいつものことだろうけど、ここまでの恥辱を受けるのは初めてに違いない。紗夜ちゃんって地味に煽り耐性なさそうだからなぁ……。
それにしても丈の短いスカートは、僕とのデートのために選んでくれたものだったのか。てっきり日菜ちゃんのワガママに負けて半ば無理矢理着せられたのかと思っていたけど、自分で見繕ったファッションだとは意外だ。それだけ今日のお出かけが楽しみだった、ということかな?
「紗夜ちゃんもノリ気だったんだね。Roseliaのみんなでプールに行こうってなった時は、不服ばかり漏らしていたって聞いてたから。もしかしたら誰かとお出かけするのは好きじゃないのかなぁと思って」
「確かに何の生産性もない外出をするよりかは、バンドの練習をしていた方が効率的だと思っています。いや、思っていました。しかし、たまにはこうして羽を伸ばしてみるのも悪くないと知ったのです。それはRoseliaや日菜、そして、あなたが教えてくれました」
「え、僕? そんなことあったか――」
「お姉ちゃん」
「と、とにかく、意外かもしれませんが、私も日菜と同じくあなたとデートする気は満々ですから」
「そうなんだ……」
僕が特別何かをした記憶はないけど、こうして一緒に過ごしてきた時間こそが紗夜ちゃんを変えたのだろう。ヒキオタニートの僕でもみんなの役に立つことがあるなら、それほど嬉しいことはないよ。
「秋人くんは、あたしたちと一緒にお出かけしたくない?」
「そりゃしたいけど、外に出るのは怖いと言うか……。それに勝手に外へ出たら、みんなを心配させちゃうし……」
「大丈夫、あたしたちがしっかりエスコートしてあげるから!」
「男として、女の子にエスコートされるデートって情けない気が……」
「心配ありません。女性に手を引かれている那須原さんも素敵ですよ。抱きしめて守りたくなってしまうほどに……」
「さ、紗夜ちゃん? なんかトリップしてない……?」
「お堅いお姉ちゃんをここまで腑抜けにさせるなんて……。それにあの千聖ちゃんや薫くんですらメロメロにさせちゃうんだから、秋人くんって結構ヤり手だよね」
「言い方!! イントネーションが違うと別の意味になるから!!」
それだと僕があちこちの女の子に手を出して、無責任に篭絡させていると捉えられても仕方がない。それに僕がそこまでのプレイボーイだったら、童貞なんかとっくに卒業してるんだよなぁ……。そんな度胸があればどれだけ良かったことか、そのせいでニートな上に夜な夜な1人で自慰行為してるんだけどね……。これだけの美女美少女にデートに誘われるなんて人生勝ち組なのか、毎日猿のように自慰行為をしている負け組なのか、もうどっちか分かんないや。
「それじゃあ、早く着替えて外出しようよ! ほら、秋人くんの洋服を持ってきたから!」
「わざわざ!? 確かに僕は外に着ていく用の服は持ってないけど、もしかして、この時のために買ってくれたの?」
「そうだよ。お姉ちゃんと2人で選んだんだけど、秋人くんに着せたい服がたくさんあって何時間も悩んじゃった」
「そ、そこまで気遣ってくれなくてもいいのに! あっ、お金を渡すよ」
「いえ、私たちが勝手に買ってきたのですから、あなたが気兼ねする必要はありません。私たちはあなたが望むモノだけでなく、これから望むであろうモノを先取りして買ってきますので、あなたは私たちのことを都合のいい財布として見ていれば良いのです」
「な゛っ!? 見れる訳ないよそんなの!!」
「当然のことです、これくらい」
豊かに生活できるのは嬉しいことなんだけど、女の子のヒモになっている現状はニートのちっぽけなプライドを歪ませる。とは言っても、僕は自分で使えるお金がほとんどないので、生活必需品から食事までを女の子に頼らないといけないというこの状況だ。うん、いつか絶対にアルバイトでも何でもしてお金を稼ごう。もう手遅れかもしれないけど、このままだと本当のダメ人間になってしまいそうだから。
でも、今だけは……許されてもいいよね? 紗夜ちゃんと日菜ちゃんが時間をかけて選んでくれた服なんだから、受け取らない選択肢はないだろう。
「よ~し、早速着替えちゃおうよ! あたしたちも手伝うから!」
「えっ!? 着替えくらい1人でできるから――――って、このやり取り何回やってるんだろう……」
「いえ、手伝います。あなたがもしボタンをかけ間違えてしまったら、外出先で色んな人に笑われることになるでしょう。あなたの屈辱は私たちの屈辱。到底耐えられるものではありません」
「いや赤ちゃんじゃないんだし、それくらいできるよ流石に……。現にこの部屋着もボタンがあって、自分で着られてるし……」
「もしあなたがズボンのチャックを閉めていなかったら、あなたの逞しい剛直が社会の窓から外へ……」
「顔が赤くなってるよ。ていうか、恥ずかしいのなら言わなきゃいいのに……。ちなみにパンツは履くからその心配はいらないからね」
「もしそうなったら、あたしが口で閉まってあげるから大丈夫」
「さっき心配いらないって言ったよね!?」
思春期男子からしてみれば夢のようなシチュエーションなのだが、流石に野外でそんなプレイをする勇気はない。いくら数多の薄い本やAVを探ってきたニートと言えども、現実世界で望むのは健全な純愛。決して野外プレイで喜ぶような変態じゃないから、そこのところは勘違いしないで欲しいな。
~※~
「おぉ~!」
「これは……」
「あ、あのぉ……そんなにまじまじと見つめられると恥ずかしいんだけど……」
日菜ちゃんは目を輝かせながら、紗夜ちゃんは情熱的な目で僕を凝視する。
その理由は僕自身も分かっており、それは自分が自分でないみたいだからだ。2人が買ってくれた服に着替えてみたんだけど、最初の感想として、服に着られている感が半端ない。これまでオシャレをしてこなかったためか、陽キャっぽい服を着ている自分に違和感しかない。鏡の向こうの自分が他人のようだ。
「はっ、思わず秋人くんに見惚れちゃった。いつもは小っちゃくて可愛いから、別人かと思ったよ」
「僕もだよ……。変じゃないかな?」
「いいえ。むしろ、あなたの魅力がより一層引き出されていますよ」
「あ、ありがとう」
2人から貰った服はそこそこいいブランドモノのようで、背の低い僕でも服に着られることによってカッコよく仕立て上げられてしまう。正直に言ってしまうと陽キャっぽい服は全然落ち着かないんだけど、女の子に褒められると悪い気はしない。こうして見ると、いい服を着ると外出したくなっちゃうね。
「しかし、那須原さんが魅力的過ぎると、道行く女性たちを虜にしてしまう危険性がありますね。私たちの那須原さんが如何に素晴らしい人なのかを世の女性たちに知らしめたいのは事実ですが、あちこちで惚れられても困りますから」
「いやいや、催眠や洗脳モノじゃないんだから、そんなことある訳ないでしょ……」
「那須原さんは自分のことが分かっていないんですね。那須原さんが外を歩けば、幼児から大人の女性まであなたの魅力に憑りつかれて、もはやあなたなしでは生きていけない身体になってしまいます」
「百歩譲って大人の女性はありとしても、明らかに含んではいけない年代の子がいたよね……」
「それどころか、道行く夫婦や恋人たちから女性を奪ってしまうかもしれません。いくら心に決めた男性がいるとは言えども、那須原さんを前にしたらどんな女性でも堕ちてしまいます」
「寝取りモノじゃんそれ!? もしかして紗夜ちゃんってそういうのが趣味なの!?」
「いいえ、事実を語っているまでです」
「それだったら僕、出掛けない方がいいよね……」
道を歩くだけで寝取りハーレムが作れるって、昨今の同人誌でも見かけないようなクズ展開すぎるよ……。女性とすれ違うたびに惚れられたら、それはそれで生活しにくいとは思うけど……。
「まぁ、嘘ですけどね」
「そうだろうね……。紗夜ちゃんのテンションが高いことだけは分かったよ」
「うん! お姉ちゃん、今とってもウキウキしてるでしょ? だって声が弾んでるもん」
「そ、そう? 自分では平静を保ってるつもりだけれど……」
あんな長ったらしいジョークを挟んでおいて、平静を保っているとはよく言ったもんだ。ジョークの設定があまりにも練り込まれているから、一瞬だけ自分には催眠の特殊能力があると勘違いしちゃいそうだったよ。いつもは淡々と会話をする紗夜ちゃんが、話の中でここまで遊びを入れるのは珍しい。だから彼女のテンションが上がっていると分かったんだけどね。
「外出するのはいいけど、麻弥ちゃんが作った監視カメラがあるかもしれないんだよね。この前パスパレのみんながここに駆け付けたのも、そのカメラで僕の行動を観察していたからでしょ? それを突破しないと、とてもじゃないけど外出できないよ」
「安心して、その対策も考えてあるから。秋人くん、ちょっと後ろ向いて」
「こ、こう? ――――って、うわぁぁああっ!?」
「あはは、暴れない暴れない♪」
日菜ちゃんは僕を自分の身体で包み込むように抱きしめる。僕の背丈は一般の女子高校生よりも一回りか二回りも小さいため、彼女の身体に僕の身体がすっぽりと入ってしまう。そうなればもちろん彼女の胸も僕の背中に押し付けられる訳で、それがとても柔らかくて、それがアイドルのおっぱいだと悟った瞬間に昇天しそうになる訳で――――――
「ひ、日菜? あなた一体何をしようとしているの?」
「こうやってあたしの身体で秋人くんを隠せば、監視カメラにも見つからないでしょ? この体勢で外に出れば完璧だよ! それともこの役、お姉ちゃんがやりたかった?」
「ふぇっ!? そ、そんなこと……ある訳ないじゃない。男女の交際は健全であるべきであって、そんな密着しなくても……」
「目が泳いでるよお姉ちゃ~ん」
「さっき催眠や寝取りモノのシチュエーションを平然と語っていた人の発言とは思えないね……」
「それはそれ、これはこれです!!」
もはや言い訳にすらなってないけど、僕たちから目を逸らしながらもこちらをチラチラと覗き見するあたり、紗夜ちゃんも同じことがしたいのかな……? 今は恥ずかしがってるけど、さっき僕にジョークとを飛ばしていた時は澄ました顔をしていたし、紗夜ちゃんの表情変化を見ていると面白い。本人にこれを言うと怒られそうだから絶対に言わないけど……。
そんな感じで、僕と氷川姉妹のデートが始まった。
今はとても和気藹々としているけど、これから修羅場が待ち構えているとは、この時の僕は夢にも思わなかった――――――
To Be Continued……
やめて! 外出先でガールズバンドのみんなに見つかったら、ただちに強制連行されて自宅に連れ戻されちゃう!
お願い、見つからないで秋人! あんたが今ここでみんなに見つかったら、紗夜ちゃんと日菜ちゃんとのデートはどうなっちゃうの? みんなはまだこちらに気付いていない。ここを耐えれば、デートを続行できるんだから!
次回、「秋人死す」。デュエルスタンバイ!
この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、評価をよろしくお願いします!
小説を執筆するモチベーションに繋がります!
新たに☆9以上をくださった
仮面ライダー4:21さん、ナモさん、黒い阿修羅さん、黒セツさん、リゾートさん、夜名赤さん、ponkichiさん、川崎ノラネコさん、カリュクスさん
ありがとうございました!