ガールズバンドの子たちに甘やかされる日常【完結】   作:薮椿

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 短編集の中の短編集みたいな。
 基本的に一本の話にするには文字数が少なくなるネタや、特に甘やかされ要素がないときは閑話として投稿します。


閑話01:変態は現行犯逮捕

 

 最近、みんなに主導権を握られることが多くなってきた気がする。日常生活を全面的にお世話してもらっている都合上、あまり強く文句は言えないんだけど、やれ混浴だの、やれ婚姻届など、女性や恋愛に対して耐性が全くない僕からしてみれば刺激が凄まじ過ぎる。それに一番気がかりなのは、僕が知らないところで謎の会議が開かれていたり、僕の私物を勝手に持ち出して物々交換が行われていたりと、徐々に怪しい行動が浮き彫りになっていることだ。

 

 以上のことを踏まえ、みんなにちょっとした悪戯を仕掛けてみようと思う。

 

 その名も、寝たフリ大作戦。

 

 テーブルに腕を乗せて寝たフリをして、女の子たちがどんな行動を取るのかを薄目で観察しようという作戦だ。僕が見ていないと分かれば、みんなは本性を曝け出すはず。そこを咎めてやろうという算段だ。女の子の欲望ほど怖いモノはないって聞くけど、今日の僕は甘やかされてばかりの僕とは一味違う。ガールズバンドの子たちはどうも変態思考な面があるから、そろそろ僕がその変態から解き放ってあげよう。騙すような真似をするのは、少し心苦しいけどね。

 

 

 

【市ヶ谷有咲の場合】

 

 

「おーい秋人――って、寝てるのか」

 

 

 最初のターゲットは有咲ちゃんだ。彼女に気付かれないように薄目で観察してるけど、両手にスーパーの袋を持っている辺り、今晩の夕食のために買い込みをしてくれたのだろう。頼んでもいないのに僕に尽くしてくれている彼女を見ると、こうして寝たフリをして動向を探ろうとしていることに罪悪感を抱いちゃうよ……。

 

 でも、今日の僕は鬼と化している。変態的行動を取った子には容赦なく現行犯逮捕を叩き付け、羞恥心に駆られながら反省してもらうんだ。いつもはみんなの手玉にされてるんだから、たまには僕がマウントを取っても……いいよね?

 

 

「まさか、ゲームしながら寝ちまったのか? あれほど寝落ちには注意しろって言ったのに……。このままじゃ風邪引くぞ全く……」

 

 

 相変わらずの優しさに惚れ惚れして、早速だけど鬼から恋する純粋な思春期男子に戻ってしまいそうだ。もし僕が有咲ちゃんと同じ学校に通っていたら、間違いなくガチ惚れして悶々とした学校生活を送っていただろう。そういう意味では、こうして彼女がご奉仕してくれるこの生活に感謝するべきなのかもしれない。

 

 そうして有り得もしない学生姿を想像していると、僕の背中が突然暖かくなった。妄想に耽って彼女の行動を見ていなかったけど、背中の感触から有咲ちゃんが毛布を掛けてくれたらしい。この暖かさは毛布のものだけではなく、彼女の優しさも含まれているように感じた。やっぱり僕のお世話をしてくれる女の子を疑って、寝たフリをして騙すような真似をしたのは申し訳ないかな……。

 

 

「秋人、寝てるんだよな……? お~い、起きてるか~?―――――うん、やっぱり寝てるのか……そっか……」

 

 

 有咲ちゃんは僕の顔を覗き込むと、何故か納得した様子で僕のベッドに近づく。

 なんだろう、流れが変わったような気がするぞ……。

 

 そう思った矢先の出来事だった。有咲ちゃんは前のめりになりながら、僕のベッドに倒れ込んだ。

 いきなりどうしたんだろう……? ま、まさか、彼女の身に何か起こったとか!? 何もしていないのに突然気絶する人もいるらしいし、もしかしてその類かも!?

 

 

「すぅ~~はぁ~~」

 

 

 …………うん、心配は杞憂だったみたいだ。

 有咲ちゃんは僕のベッドに置いてあった枕に顔を埋め、大きく深呼吸をしていた。その表情は良く見えないが、背中を見つめているだけでも満足そうな雰囲気を漂わせている。もうどこからどう見ても変態。このような変態的行為を現行犯で裁くために寝たフリをしていたけど、いざ目の前にしてみると、ここで飛び出すのが逆に怖い。このまま様子を窺うしかないのか……。

 

 

「すぅ~~はぁ~~。どうしてコイツ、こんなにいい匂いがするんだろ。香澄やおたえが秋人の服や下着を勝手に持ち帰る理由も分かるよ。これは癖になるよなぁ……」

 

 

 なにその事実!? 初耳も初耳なんですけど!? しかも盗みの情報を堂々と仲間内で共有しているあたり、悪気があるとは思ってなさそうで怖いよ!!

 あぁ、聞きたくなかったそんな情報。いや、その情報を得るためにこのシチュエーションをセッティングしたんだけど、想像以上の取れ高でもうこのまま本当に寝て全てを忘れ去ってしまいたいと思うくらいだ。

 

 もうね、ドッキリ大成功をバラさずこのまま静観した方がいいのかな……?

 まぁ、真面目な有咲ちゃんなら盗みを働くなんてことは――――――

 

 

「あぁもう我慢できねぇ。秋人には悪いけど、この枕は頂いていこう。普段からお世話してやってるんだ、このくらいの対価は貰ってもいいだろ」

「アウトォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!? あ、秋人!? お前まさか起きてたのか!?」

「はい、現行犯逮捕ね……」

 

 

 見事なフラグ回収で、さっきまで渋ってたのに勢いで飛び出しちゃったよ。真面目な子だと思っていたけど、やっぱり脳内お花畑の香澄ちゃんやたえちゃんと一緒のグループメンバーなだけのことはある。そのお花畑の花に種を巻き散らされ、彼女も脳内にお花畑を広げていたようだ。

 

 

「こ、これは違うんだ!! 枕に変な匂いが付いていたから掃除してやろうと思ってさ……」

「じゃあ、どうして自分のカバンに入れようとしたの……?」

「そ、それは、私がこの枕から秋人の匂いを吸い出してやろうと思っただけだ! 文句あるか!?」

「開き直らないでよ!? ていうか、サラッと性癖を暴露したね……」

 

 

 このあと、有咲ちゃんの弁解は1時間以上続いた。

 初っ端からこれって、他の子の動向を探るのが億劫になってきたよ……。

 

 

《調査結果》

 僕の匂いが付着しているモノを盗もうとする。

 

 

 

 

【奥沢美咲の場合】

 

 

「秋人、寝てるの……?」

 

 

 次のターゲットは美咲ちゃんだ。

 美咲ちゃんの問題点は何食わぬ顔でえげつないこと、例えば婚姻届にあの手この手で僕にサインさせようとしてきたりするから、今回の動向調査対象としては持ってこいの子だ。僕が眠りこけていたらどんな行動を取るのか、薄目ながらに監視させてもらおう。

 

 

「寝てるんだ。ふ~ん……」

 

 

 美咲ちゃんは僕をじっと見つめてくる。そうやってまじまじと観察されると恥ずかしいというか、どうして寝ているだけの僕にここまで興味津々なんだろう……?

 そんなことを考えている間に、美咲ちゃんは僕へと近づいて来る。そして、なんと僕の隣に座り込んできた。

 

 

「普段も可愛いけど、寝顔は格別だね。毎日の3食のおかずにしたいくらいだよ。あわよくば夜のオカズにも――――なんてね」

 

 

 ちょっ、一体何言っちゃってるの!? と声を上げそうだったけど、己の職務を全うするためにここは何とか堪える。

 全く、冗談だとしてもジョークが重いよ……。それ以前に、僕なんかを夜のオカズに使うなんて趣味が悪いって。いや、僕の下着を盗んでいる子もいるくらいだから、ガールズバンド界隈では当然のことなのかもしれない。できることであれば、僕の汚い下着が女の子の夜の情事を捗らせているなんて想像したくもなかったけどね。

 

 

「あぁ、秋人の寝顔を見てたら我慢できなくなってきちゃった。どうせ寝てるんだし、いいよね?」

 

 

 誰に聞いてるの!? ていうか、何するつもり!?

 婚姻届にサインをさせるためにはどんな手でも使う彼女のこと、このまま静観していたら何をされるのか想像もできない。でもここで寝たフリをしていたことをバラしてしまうと、彼女が何かをやらかす前に行動を止めてしまう。それすなわち、現行犯逮捕ができないということだ。

 

 ちょっと怖いけど、ここは我慢するしかない。

 

 

 ――――と思っていた矢先、美咲ちゃんの顔が僕の顔にどんどん近づいてきた。僕の眼前に彼女の顔、いや、綺麗な唇が接近してくる。

 こ、これってもしかして……!? うぅん、もしかしなくてもこれは……!!

 

 

「付き合ってもないのに、こんなことをするのはダメだ!!」

 

 

 さっき我慢するって言ったばかりなのに、唇が奪われそうになる寸前で僕は座りながら後退りした。

 対して美咲ちゃんは寸止めされて残念そうな表情をするのかと思っていたら、呆れたような表情を見せていた。

 

 

「やっぱり起きてたんだ」

「えっ、し、知ってたの!?」

「まぁね。あたし、秋人のストーキングが趣味――――じゃなくて、秋人のことなら何でも分かるから」

「言い直しても無駄だけど、恐ろしい言葉が聞こえたような気がするから聞かなかったことにしてあげるよ……」

 

 

《調査結果》

 キスしようとしてくる。

 余罪として、ストーキングしているらしい。

 

 

 

 

【青葉モカの場合】

 

 

「あれぇ~? せっかく遊びに来たのに、寝ちゃってる?」

 

 

 次なるターゲットはモカちゃんだ。

 ガールズバンド界隈において、思考回路が読めないランキングに間違いなく上位に食い込む彼女。そんな彼女がこの状況でどんな行動を起こすのか、もちろん僕には予想が付かない。有咲ちゃんや美咲ちゃんの時も予想はできなかったけど、彼女は別のベクトルで変人ちゃんだからなぁ……。

 

 

「気持ちよくお昼寝しているところを起こすのも申し訳ないし、モカちゃんは何をしようかなぁ~?」

 

 

 うん、ここまではまだ予想できる範囲だ。最初はみんなそうだったんだよ。寝ている僕を起こさないよう足音を最小限に留めてくれたり、自分たちのワガママで僕を無理矢理起こしたりはしない。そう言った優しさを垣間見ることができたんだ。まぁ、その後の展開はお察しだけどさ……。

 

 すると、モカちゃんは僕が寝込んでいるテーブルに近づいてきた。

 あれ? これって美咲ちゃんの時と同じ展開では?? ということはまさか、また僕が寝ていることにつけ込んでキスをされる……!? 彼女からは美咲ちゃんのような理不尽な積極性を感じたことはないけど、ガールズバンドきっての変人ちゃんだから油断はできない。

 

 そして間もなく、モカちゃんは僕の隣に座り込む。

 来る……そろそろ来るぞ。キスをしてもいい男として認識されているのは嬉しいんだけど、口付けはやっぱり愛を確かめ合ってからじゃないとダメなんだ!

 

 

「すぅ……」

「えっ……?」

 

 

 モカちゃんは僕の肩に頭を乗せると、そのまま眠ってしまった。ていうか、寝るの早くない!? 僕の家に来る前から眠たかったんだとしても、この早さはニートの僕でも流石に追いつけない。それにてっきりキスされるものとばかり思っていたから、ただ眠りこけたことに対して余計に驚きだ。

 

 あっ、もしかしてモカちゃんも僕を試しているのかも? 彼女も美咲ちゃんと同じく僕が寝たフリをしていることに気付いて、それで自分も敢えて寝たフリをして逆に僕の反応を見ているのかもしれない。さっきは睡眠に入る爆速さに驚いちゃったけど、よく考えてみれば人間こんなに早く寝られる訳ないし、これはもう僕を試しているとみて間違いないだろう。

 

 僕は軽いジャブとして、モカちゃんの頬を人差し指で軽く突っついてみる。

 

 

「う、ぅん……」

 

 

 柔らかい、可愛い。だけど、モカちゃんが起きる気配は全くない。ここでドッキリ大成功とか言って目を覚ましそうなのに……。

 その後も何度か頬を突っついてみたけど、可愛い反応を見せるだけで特に現状は変わらなかった。

 

 こうなったら最終手段だ。女の子の象徴であり、異性に触られると凄まじい羞恥心を感じられるであろう『胸』を攻めてみよう。もし彼女が寝たフリをして僕を観察しているのであれば、僕のこの行動は流石に咎めてくるはず。いくら天然な彼女と言えども、乙女の羞恥心には逆らえないだろう。

 

 僕は人差し指の矛先を彼女の頬から胸に変える。改めて見てみると、今日の彼女は薄着のためかいつも以上に胸が強調されているように思える。普段は着痩せするタイプなのかは分からないけど、想像以上に大きかった胸に僕の興奮が煮えたぎり始めていた。こんなの、絶対に柔らかいに決まってるじゃん……。

 

 でもいいのか? さっきは向こうからキスをしてくる行為を咎めたのに、今度は僕から攻めてしまっても……。しかもよくよく考えてみれば、眠っている女の子の胸を触るなんて強姦と何ら相違がないんじゃないだろうか。ニートをやっている時点で自分はクズ人間だって認めてるけど、ここで無抵抗の女の子を攻めたらもう戻れない気がする。

 

 こ、ここは……!!

 

 

「ゴメン、モカちゃん。一瞬の気の迷いだったよ……」

「すぅ……」

「えっ……? ここまでして起きないってことは、本当に寝てるんだね。変なことをしようとしてるのがバレなくて、一応良かったかな」

 

 

(秋人、意外と意気地なしだねぇ~。でも、そういう優しいところが好きなんだけど……)

 

 

《調査結果》

 添い寝する。

 実は起きていた。

 

 

 

 

【湊友希那の場合】

 

 

「秋人が寝てる? なるほど、目を覚ます前にお持ち帰りしないと……。とりあえず、抵抗されないようにこのロープで手だけは縛らせてもらおうかしら」

「行動が早いし、何がなるほど!? ていうか、目の瞳孔が開いて怖いんだけど!? 飢えた獣の目じゃん!!」

 

 

《調査結果》

 犯罪に走るまでが早すぎる。

 そして、誘拐する。

 




 小説の内容を甘やかされる系のネタに縛るとマンネリ化するので、必然的に奇行に走る女の子に惑わされる秋人くんネタが増えるかもしれません。甘やかされる時代もそんな感じだったかもしれませんが……。

 ちなみに私のラブライブ小説を読んでくださっている方なら知っているかもしれませんが、変態思考の女の子キャラが大好きなので、この小説でもその毛色がどんどん強くなる予定です。
 公式でガルパピコとかいう電波アニメを出しているので、バンドリキャラのキャラ崩壊には慣れている方も多いのは私としても安心ですね(笑)


この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、評価をよろしくお願いします! 
小説を執筆するモチベーションに繋がります!

新たに☆9以上をくださった

ミラノさん、鋼のムーンサルトさん、AinScarletさん、神操機さん、Azure Plumさん、 SUPERNOVAさん

ありがとうございました!

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