なのでシリアス回です。
ネタアニメと思わせておいて最終回付近で謎シリアスに入る例の現象ってやつです(笑)
結局のところ、バイトするかどうかは保留となった。
『MyGO!!!!!』のみんな(楽奈ちゃんは除く)に外出を阻止されたのもあったし、それが悪行としてガールズバンド界隈に広まったことで再び外出禁止令が下ってしまった。
最近は割と寛容だったのに、『MyGO!!!!!』のみんなと関わり始めてからまた縛りが強くなり始めた感がある。燈ちゃんたちが悪いとかそういうことじゃないと思う、多分僕のせい。みんなが心配しているのであれば心配をかけないようにするだけだ。
そんなこんなでここ数日はずっと家にいる。外に出る日々が続いていた時はそれはそれは新鮮で、引きこもってばかりの生活には戻れないと思っていた。だけどこうしてまた巣ごもりしていると、無意味に思春期を食いつぶしていた忌まわしき時期なのにも関わらず懐かしさを覚え、ほんの数日でまたこの環境に適合してしまった。やはり僕は元々ニート体質でそっち方向に適正があったのかもしれない。
ただ何もせずに暇を貪り食っているだけってのも抱く危機感が半端ない。もうすぐで大学生と言われる歳にもなるし、外に出ていた時間もそこそこあった影響で何か外的な刺激を欲している。
だから僕がやっていること。それは――――
「ようやくここは片付いたかな」
掃除だ。
大してお金もかからず、しかも外に出る必要もなく、それでいて身体を動かして運動もできれば時間も潰せるコスパ最強の作業。綺麗にすることなんて突き詰めれば青天井だし、終わりのない更新が断続的に入るソシャゲのようなものだ。これほど引きこもりに適した仕事も中々ない。掃除の技術なんてネットで調べればいくらでも出てくるし、特に練習いらずですぐに実践で試せるのも期待が膨らむ。今までダラダラするだけのニート生活だったけど、一時期外に出て刺激を受けた影響からか割とアグレッシブになっていた。
とは言いつつも、掃除は家に来てくれるガールズバンドのみんながほとんどやってくれている。だから掃除とは言っても散らかったモノを片付けるくらいしかなく、ぶっちゃけそれすらも整理整頓されるので毎日やるほどかというレベル。
ただそんな中でも突出してモノに溢れているのが押し入れの中。そこには女の子がドン引きするくらいのフィギュア、本、ゲーム等々、まだ僕の年齢で扱うことは許されない異物が大量に混入している。
ガールズバンドのみんなは恥ずかしがったり平気だったり人によって反応は様々だけど、そういうモノであろうとも片付けてはくれる。だけどやはりみんなは麗しき女の子、多少は抵抗があるのか異界の生物がたくさん飼育されているであろうこの押し入れに近づく子は少なかったりする。だから僕が不要なモノをこの中にどんどん押し込めても整理整頓される機会は少ないんだ。
そんな感じで男のロマンがたっぷり詰まった押し入れを整理することで、自分が怠惰であることから目を背けようとしていたんだけど――――
「これは……?」
押し入れの奥の奥。中をちょっと整理しただけでは見つかりそうもない端っこに、小汚いアルバムがひっそり鎮座していた。
埃を被っており、こんな奥の方にあってもこんな惨状になるんだと思った。まあ家主の僕が存在を知らないから当然と言えば当然か。
思い返してみると、僕にはアルバムに写真を残しておくような思い出はない。ガールズバンドのみんなとの出会いは思い出と言えば思い出だけど、今時は携帯の保存するのが主流なのでわざわざアルバムに実媒体として残すようなことはしていないはず。
そもそもの話、このアルバムにどんな写真があるのか全く記憶にない。思い出そうとするも記憶に靄がかかっているようで、いつの間にか昔のことは気にならなくなっていた。アルバムを元の場所に戻そうとする。
しかし、ふと何かの流れが変わったかのような気がした。何を思ったのか、僕はもう一度そのアルバムを引き出した。この中身を見たら何かが変わりそうな気がする。でも見なきゃいけない。そんな焦燥に駆られる。
そして、意を決して中を見る。
写真がたくさんあった。しかも僕の写真ばかり。
でも、何かがおかしい。写真の中に制服を着ている僕がいる。僕は中学の頃から引きこもりで学校には行っていなかったはずだ。
いなかったはず……だよね?
いや、本当か? 昔のことを思い出そうとするといつもこうして疑いが走る。そしていつのまにか思い出そうとすることすら忘れてしまう。その感覚すら本当なのか分からないけど、今に限っては思い出す行為に対して忘却が襲ってこないので、いつもとは違う何かが起きているのだろう。
もしかして、このアルバムの写真って昔の僕だったりする? 引きこもりだったのに制服を着ているはずないだろって言われるかもしれないけど、この写真を見ていると懐かしさを感じてしまう。いつもとは違って記憶の軌跡を辿ることができているのも、こうして実際に自分の昔の姿を見ているからかもしれない。
真実が何かは分からない。
でも今のこの生活がおかしいことだってことは分かる。
分からないことは大きく2つ。僕はどうしてこんな生活をしている? どうしてガールズバンドのみんなは僕のお世話をしてくれる? 今まで何故か普通のことだと認識していたためか、根本的な疑問に気付かなかった。
いや違う、気付かないようにされていたのか……?
その時、背後から手が伸びてきてアルバムを奪われる。
後ろを振り返って見上げてみると、そこには弦巻家の黒服の女性が1人。
いつの間にか音もなく家に入って来た驚きよりも、どうしてアルバムを取り上げたのかが気になっていた。
「こちらは、
いつもはこころちゃんのために冷徹に職務を全うする黒服さん。
だけど今日は深刻そうな面持ちながらも、どこか悲しげな雰囲気を醸し出していた。
「何か、知ってるんだね……」
「…………はい」
「隠さないんだ」
「あなたは賢いお方です。ここまで踏み込んでしまった以上、全てを明らかにするまで私たちに接触し続けるでしょう。
救ってきたって、そんな大層なことはやっていない気がする。ただガールズバンドの子たちと出会って、普通に交流して、
だけど、よく考えてみれば普通に接していただけでは今のように男の世話なんてするはずがない。つまり、僕が女の子たちの心境に圧倒的な変化をもたらしたのだろう。ただその記憶は全くないし、今まで思い出そうとしてもすぐに忘れてしまっていた。
でも、黒服さんは知っている。僕の身に何が起こっているのかを。僕がこんな生活を送っている、その真相を。
「話して欲しい、知っていることを全部」
「その前に1つだけ。今のこの状況のことを全て忘れれば、あなたはいつもの生活に戻ることができます。たくさんの魅力的な女性が献身的にご奉仕してくれる、男性としては夢のような生活に。それでも聞きますか?」
重要な選択のような気がする。
僕が選ぶのは――――
~※~
「うん、聞くよ」
「そう、ですか……」
他人事じゃない、自分のことだ。知る必要があると思った。
それにガールズバンドのみんなが義務的に僕のお世話をしてくれているのであれば、そんな無生産な日々から解放してあげたいとも思っている。
黒服さんは相も変わらず表情の変化はない。というより職務柄そういった感情の類は見せないようにしているのだろう。
でも、僕の前向きな意気込みを受け取ったのか半ば諦めの雰囲気を感じた。話を聞かない選択肢の方を期待していたに違いない。
「承知しました。お話ししましょう」
僕の意向は受け入れてくれるようだ。無理矢理にでもこちらを捻じ伏せ、全てを忘れさせようなんて恐喝まがいなことはしないらしい。こころちゃんのところの黒服さんだし、そんなドメスティックではないと思うけどね。
お互いに向かい合うように座って仕切りなおす。
それでも口が重いのか中々喋り出さなかった黒服さんだけど、僕にじっと見つめられっぱなしで耐えられなくなったのかようやく口を開いた。
「秋人様は相当なお人好しで、ガールズバンドの皆様個々人の悩み事、グループ内の揉め事、その他諸々、様々な問題の解決に奔走されていました。しかし、その過程であなたは毎回大きく疲弊した。文字通り、身も心も削って……」
「みんなと出会った頃のことはうっすらと覚えてる。だけど、その時の僕がどうだったのかは思い出せない。自分がそんなことになっていたのなら忘れるはずないのに……」
みんなとの思い出は確かに思い出せる。
しかし、考えてみればそれは楽しかったことや嬉しかったことのみであり、ネガティブ要素は一切思い出せない。思い出せないのは特に苦労がなかったのだと認識していたけど、今の話を聞くとその認識ですら人為的なものを感じてしまう。みんなとどうやって仲良くなったのか、そこまでの道筋とは一体……。
「秋人様は優しすぎました。それも100%の善意。他人に優しくすることで自己顕示欲を見たし、承認欲求の高ぶりで愉悦を味わう、まるで道具として他人を見る偽善者とは訳が違います。あなたは紛うことなき聖人です」
「そんな、僕はただの引きこもりで……。いや、こうなったのは僕の意志じゃないのか……」
「はい。あなたを縛り付けたのは皆様や私たちの意志です」
「でもどうして?」
「あなたの優しさは数えきれない人を救った。しかし、その優しさが故にあなたの心は繊細で、同時に人の気持ちに寄り添えすぎました。相手の心の痛みと同じ苦痛を自分も感じることでその人に寄り添う。それがあなたのやり方だった。その方法は相手の一番の理解者になって慰めてあげられるメリットはありますが、自分も相手と同様に精神を疲弊してしまうデメリットもあります。ただ1人や2人を救うだけであれば傷つきはしますが、特に大きな問題にはならないでしょう。しかし、何十人と救う場合は話が異なります」
淡々と説明を続ける黒服さん。
本当は僕に打ち明けたくない話なのだろう。話すと覚悟をしたものの、普段顔色1つ変えない人がずっと悲しそうな表情をしている。それでも真実を話してくれることに感謝しつつ、相手の話に聞き入っていた。
「何十人をも救うとあれば、それだけあなたは何回も大きく傷つく。女性の方は救われれば傷が癒えてそれで終わり。その後は真っ当な人生を歩むことができるでしょう。ただし、あなたは1人の救出を終えればまた次の誰かのSOSに応え、傷つく。前の傷が癒えていなかったとしても。そんなことを続ければ行きつく先は1つ。あなたの精神は――――崩壊してしまった」
「過去形……ってことは」
「はい、あなたは一度放心状態となって寝込んでしまいました。植物人間とまではいかないものの、意志疎通不能になる直前にまで追い込まれて……」
「そんなことが……」
「あなたがそんな状態になって、救われた側が黙って見ているわけがありません。それにあなたは意識朦朧となりながらも、それでも救った女性たちのことを心配していました。『そんな悲しい顔しないで』『笑っていて欲しい』と、自分が陥っている状況なんて目もくれずに相手のことを気遣うばかり」
自分が過去にそんな状況に陥っていたなんて……。
でも今の自分でもその時と同じ状況になった場合みんなを心配させまいとするように振舞うと思う。この気持ちももしかしたらその話に引っ張られているだけかもしれないけど……。
「自分たちのせいであなたがこうなってしまった。あなたに救われた女性たちはそう考えました。もうあなたに苦痛を感じて欲しくない。もうこれ以上あなたを傷つけたくない。だからあなたの記憶の中から精神汚染に関わる事柄を全て消しました。弦巻家の権力をフルに活用し、あなたのためだけに」
「わざわざそのために力を振りかざすなんて……」
「『そのため』とは言いますが、皆様にとっては救世主であるあなたこそ人生だったのです。多少行きすぎな愛情はありますが……」
「それは今とあまり変わらなかったんだ……」
「とにかく、皆様にとっては『そのため』というちっぽけな言葉で片付けられるほど小さな問題ではありませんでした。何十人をも救っておきながら自分だけ病に伏せるなど、当の本人たちからすれば重大な事だったのです。それだけあなたの無事とこれからの平穏を望んでいた。だから辛いことを忘れさせて家の中に引きこもらせ、救ってくれたお礼に自分たちがお世話をする。外界との接触を絶たせ、あなたがまた助けを求める誰かに寄り添って傷つくのを避けさせる。だから外へ出るのを禁じていた。学校へ行くことさえも……。以上が事の真相です」
全てが繋がった。たくさんの情報が一気に流れてきたので整理するだけでいっぱいっぱいだけど、とりあえず納得はできた。提示された情報と情報の間にも不整合はなさそうだ。
ただ、1つ気になることがある。
「こんな大切な話、今しても良かったの? みんながいる前とかタイミングは選べたと思うけど」
「記憶操作も完璧ではないのです。このアルバムを見た時の様に、秋人様が自身の忘却された記憶に触れた際に思い出してしまう可能性がある。疑問に思ってもその疑念が消えるようにあなたの脳を操作するようにしていますが、一度で全て思い出さなくても、思い出す細かいきっかけが積み重なればいつか疑念が消えなくなる。なので、万が一そういった状況になった際は事情を話しても良いと皆様の中での取り決めがあったのです。何食わぬ顔でまた記憶を消せばいつもの生活に戻すことはできますが、ガールズバンドの皆様も流石にそこまであなたの尊厳を奪うことはできなかったようです。あなたが自力で気付いた時、というのがトリガーでした」
「でも、まだ思い出せるかどうか分からない状況だった。放置することもできたんじゃ……」
「最初に言ったではありませんか。あなたは全てを明らかにするまで私たちに接触し続けるでしょう、と。皆様を助ける時もそうでした。時には鬱陶しいと拒絶されながらも、絶望へ至ろうとする彼女たちを見捨てずに追いかけ続けた。その1から10まで知りたいという執念はもうあなたの性格であり、信念なのでしょう。あなたのそんなアイデンティティに救われた人ばかりなのです、誰がそれを壊そうと思うでしょうか」
拒絶されても追い続けた、か。僕にそこまでの執念深さがあるとは思わなかったな。今の僕からすると別人みたいだけど、実際に誰かが塞ぎ込んじゃったら多分同じことをするのだろう。
「そういえば、みんな僕に外出禁止令を出してたよね。でも最近は許可が出たりまた禁止になったり、入れ替わり立ち代わりしてるみたいだけどどうして?」
「さっきも言った通り、あなたの尊厳に関わります。ずっとこのまま監禁しておいて良いのかと疑問視する声も出ていました。その意見を汲み取った故の外出許可でしたが、その後に出会ったので『MyGO!!!!!』です」
「あぁ、なるほど。今までのどのユニットよりもドロドロしてたあのグループと出会ってしまったことで、また僕の精神が崩壊すると思って外出禁止にしたんだね。あれ、でもあの子たちは僕に救われたって言ってたような……」
「出会って関わってしまった以上、途中であなたの姿を消すのはあの人たちに申し訳ないと皆様は考えたようです」
「だから最後まで関わらせて、救われたのを見届けてまた辛い記憶は消したと」
「そういうことです」
完全に僕を縛り付けるつもりはなく、これはあくまで僕をもう辛い目に遭わせないようにするためのみんなの優しさなんだ。僕がまた誰かを救おうとした時は無理に引きはがそうとしない。自分たちが助けてもらってどれだけ救われたのか知っているからだろう。
ここまでの話を聞いてこれからどうするのか、これからみんなとどう接していくのか、僕は考えていた。
しばらく無言の時間が続いた後、黒服さんはおもむろに立ち上がる。
「これが真実です」
「…………」
「そして、これが最後の問いかけです。まだ戻れます、夢のような生活に。このままのあなたでいる限り、あなたはいつかまた誰かを助けて自分を傷つけるでしょう。そうなるといずれ行きつく先は……」
「また倒れる……」
「あなたの選択は2つに1つ。記憶を消してあの生活に戻るのか、それとも苦痛を受け入れてでもあの頃の自分に戻るのか」
これもまた、重要な選択のような気がする。
僕が選ぶのは――――
次回はマジの最終回にします。
2月のどこかで投稿予定です。