ガールズバンドの子たちに甘やかされる日常【完結】   作:薮椿

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 争うほど仲が良いってね!


Afterglowに甘やかされる

 僕の家はそこそこ広く、1人暮らしするには勿体ないくらいの大きさだ。それもこれも弦巻家の好意によるものだけど、結局僕の1日は自室に閉じこもってネットにのめり込むか自慰をするかのどちらかなので、この家がどれだけ広かろうが関係なかったりする。むしろ、みんなの掃除の手間が増えるだけだ。全く使わない部屋だから掃除しなくてもいいとは言ったんだけど、みんなは律儀だから僕の家に埃1つ許さない。みんなは僕が住みやすい快適な環境作りを心掛けてくれているのだ。

 

 だけど、僕の自室以外の部屋が全く使われないかと言われたら、一部はそうでもない。実はガールズバンドのみんなが泊りがけで僕のお世話をしてくれることもあるんだ。翌日が休日だったり、親から外泊の承諾を得た子たちが僕の家に集まることもある。その時のみ自室以外の部屋が寝室として使われる……かもしれない。

 

 かもしれないと言ったのは、大抵の場合こうなるからで――――――

 

 

「あ~ん! また負けたぁ……」

「ひーちゃん弱すぎ~」

「これで5連敗だな。ということで、ひまりは隣の部屋で寝ること」

「女なら、最初に交わした約束は守るべきだよね~」

「も~う! 巴もモカもヒドいよぉ……」

 

 

 巴ちゃんとモカちゃんがふんぞり返り、ひまりちゃんが2人に縋り付く、何とも分かりやすい上下関係が目の前で繰り広げられている。

 3人は某赤い帽子の髭オヤジが主人公のレースゲームで勝負していた。しかし、普段ゲームを嗜まないひまりちゃんにとって勝負事に強い2人に勝てるはずもなく、完膚なきまでにボコボコにされた。ていうか巴ちゃんもモカちゃんも、最初からひまりちゃんを敗北の底に突き落とすつもりで勝負を仕掛けたよねこれ……。

 

 ちなみにその様子は僕だけでなく、彼女たちと同じバンドメンバーの蘭ちゃんとつぐみちゃんも傍観していた。

 

 

「あはは、ひまりちゃんも必死だね……」

「仕方ないよ。秋人と一緒のベッドで寝られる権利なんて、死に物狂いでも奪いたくなるから」

「そ、そこまでして僕と……」

「当たり前でしょ。ま、あたしもつぐみも既にその権利を持ってるし、ゲームの結果がどうだろうが関係のないことだけど」

「なんだか嬉しそうだね、蘭ちゃん」

「べ、別にそんなことない!」

 

 

 地味なツンデレを発揮して頬を染める蘭ちゃんって、ずっと見ていたくなるよね。とは言っても僕のようなちんちくりんでは、誰かを煽っても煽り返されるだけだけど……。

 

 蘭ちゃんたちAfterglowは、誰が僕とベッドで一緒に寝るかの権利をかけてバトルをしている。最初はジャンケンだったけど、早々に蘭ちゃんとつぐみちゃんが勝ち抜け。だから巴ちゃんとモカちゃんは自分たちだけが勝利を掴もうと、非道にもゲームが苦手なひまりちゃんにテレビゲーム勝負を持ち掛けた。恐らくひまりちゃんの乗せられやすい性格を利用したんだろうけど、その作戦は見事に的中、自分たちが僕の部屋で寝る権利を掴み取ったんだ。

 

 ちなみの3人が行っていた勝負は何故か追加ルールが設けられており、負けた1人が隣の部屋へ隔離されるというものだった。ひまりちゃんもゲームと聞いて熱くなっていたためか、その提案にあっさり乗ってしまったのが運の尽き。あとは巴ちゃんとモカちゃんのシナリオ通りに事が運び、現在に至るという訳だ。

 

 ジャンケンで既に勝ち抜けた蘭ちゃんとつぐみちゃんは呆れた様子で3人を眺めるが、面持ちが余裕そうなあたり、どうやら高みの見物と洒落込んでいるようだった。

 

 

 このように、僕の家でお泊り会をすると言っても、他の部屋はほとんど使用されず僕の部屋でみんな一緒に寝ることが大半だ。だから他の部屋が使用されるのは、今回のように罰ゲームか何かで隔離される他ない。宝の持ち腐れっていうのはこのことなんだろうね……。

 

 

「ひまりちゃんたちはひまりちゃんたちで楽しんでるみたいだし、私たちはそろそろ寝よっか」

「えっ、流石に早くない?」

「健康第一だよ。毎日決まった時間に寝て決まった時間に起きないと、体内時計ってすぐに狂っちゃうからね。それに秋人くん、朝遅く起きると朝食と昼食を一緒に取ろうとするでしょ? しっかり3食取らないと、胃腸の調子が整わなくなってお腹を壊しやすくもなるんだよ。そうならないためにも、秋人くんの健康は私が守ってあげるからね」

「あ、ありがとう……」

「つぐみがいつも以上にツグってる……」

「そうと決まったら――――ちょっとゴメンね」

「えっ……わっ!?」

 

 

 つぐみちゃんはベッドに上がり込み、背後から僕の頭を自分の胸に抱き寄せてきた。その直後、僕の頭を胸から下ろし、そのまま膝の上に置いた。そう、これぞ紛うことなき膝枕だ。つぐみちゃんの膝はとても柔らかく、まるで自分が赤ちゃんになってあやされている気分だ。でも、こんな心地良い感覚を味わえるのなら、赤ちゃんになってもいいかなぁと思ってしまう。ここまで献身的に尽くしてくれるところを見ると、やっぱりつぐみちゃんっていいお嫁さんになりそうだよね。

 

 ベッドの上で女の子に膝枕されるこの構図。いきなり過ぎて驚いたけど、夢のようなシチュエーションに興奮して眠れなさそう……。

 

 

「つ、つぐみ……」

「ん? 蘭ちゃんもやる?」

「あ、あたしは別にいい……」

「あはは、顔赤くなってるよ? 秋人くんと添い寝できる権利を勝ち取ったんだから、せっかくだし堪能しちゃおうよ!」

「あのぉ、蘭ちゃん? イヤならあまり無理しなくてもいいんだよ……?」

「いや、むしろこれはチャンスだと思ってるから。つぐみが秋人の枕になるのなら、私は掛布団になってあげる」

「ふぇっ!? そ、それって蘭ちゃんが僕に覆い被さるってこと?」

「流石にそれだと苦しくて寝れないだろうから、添い寝しながら抱きしめてあげる」

「そ、そう……」

 

 

 あの堅物でもあり恥ずかしがり屋でもある蘭ちゃんが、まさか自ら添い寝をしてくれるなんて……。ここまでキャラが違うってことは、もしかしてここはパラレルワールドかどこか?? 蘭ちゃんは割とクーデレなところがあるけど、これほどデレの感情を表に出すのは初めて見たかもしれない。それほどまでに僕との添い寝の権利が嬉しかったのかな?

 

 そして、蘭ちゃんも僕のベッドに上がり込んできた。つぐみちゃんに膝枕をされながら、蘭ちゃんが布団になってくれる最高のシチュエーション。どうして女の子ってここまで柔らかいんだろう……? この感覚を知っちゃうと、もう普通の布団では寝られなくなっちゃいそうだよ。

 

 

「ちょっ、ちょっと蘭! 何してるの!?」

「ひまり……。いや、秋人と一緒に寝ようかと……」

「こっちがピンチなのに、見捨てて自分だけ寝る気!?」

「だって、秋人と添い寝する権利があるのは私だし」

「そうだよ~。往生際が悪いね~ひーちゃん」

「6連敗もしてるんだから、もう諦めろって」

「うぅ~~~~!!」

 

 

 さっき5連敗って言ってた気がするけど、僕たちがベッドの上で色々やっている(意味深ではない)間に連敗記録を更新したみたいだ。ゲームでは大敗を喫し、蘭ちゃんからは見捨てられたから、ひまりちゃんっていつも損な役回りだよね……。もうそれが普通の光景となっているアフグロの日常って、意外とブラックな一面があるのかも? もちろんイジりイジられの関係は仲が良いとできないから、会話を聞いてるだけでもみんなの仲の良さが伝わってくるよ。

 

 

「蘭もつぐも秋人くんを堪能しちゃってぇ~~!! こうなったら、例の秘策で対抗しちゃうんだから!」

「あぁ、なんだか嫌な予感が……」

「秋人くんは男の子だからね。つまり、秋人くんに選ばれた女こそベッドに上がる資格があるんだよ!」

「あぁやっぱり、ひまりちゃんの悪い癖が……」

 

 

 ひまりちゃんって追い詰められると、香澄ちゃんやはぐみちゃん並にぶっ飛んだ発言をすることがある。そして、今まさにその性格が遺憾なく発揮されていた。蘭ちゃんたちは『何言ってんのコイツ……』みたいな面持ちでひまりちゃんを見つめてるけど、当の本人は何故か勝ち誇った様子。なんだかこれからとんでもないことに巻き込まれそうで、少し怖いんだけど……。

 

 そう思って僅かに冷汗をかいていると、つぐみちゃんが微笑みながら僕の頭を撫でてくれた。膝枕されながら頭を撫でられるなんてお母さんに甘える子供のような気分になるけど、それが気持ちいいんだから仕方ない。もう一生このままでいいかも……? ひまりちゃんには悪いけど、余計なことはせずにこのまま就寝でいいんじゃないかな?

 

 

「ベッドに上がる資格って、それはジャンケンで既に決まったじゃん。あたしとつぐみに」

「私たちは華の女子高生なんだよ? ジャンケンなんて運の要素だけで決まるような戦いで満足しちゃダメだよ!」

「おぉっ、ひまりもたまには良いこと言うじゃん! そうだよな、もっと熱くなれよ!!」

「たまにって……」

「モカちゃんもひーちゃんとトモちんにさんせ~い。ということは、多数決でさっきのジャンケン勝負はなかったってことで可決されました~」

「それ女子高生関係ないじゃん。それに、ただ秋人と一緒に寝たいだけでしょ……」

「「「「もちろん」」」」

「もう我儘を言ってることを隠さなくなったね3人共……」

 

 

 一度決着がついた勝負を、我儘を言って無効にしてまで僕に添い寝をしたいのか……。いや、もちろんこちらから頼みたいくらいには嬉しいんだけど、プライドってものがないのかな……? 蘭ちゃんもつぐみちゃんも呆れた様子だが、この3人が暴走したら止められないと分かっているのだろう。2人がここまで潔いのは幼馴染の性格を熟知しているが故なのか。そう考えると、蘭ちゃんとつぐみちゃんって普段から苦労してそうだね……。

 

 すると、僕の頭に再び暖かい感触が伝わってきた。

 お相手はまたしても僕に膝枕をしてくれているつぐみちゃんで、完全に蘭ちゃんにひまりちゃんの応対を任せていた。

 

 

「つ、つぐみちゃん!? いきなりどうしたの……?」

「ゴメンね、秋人くん。ひまりちゃんたちが騒がしくて寝られないよね? どうせなら、私たちだけ別の部屋に移動しちゃおっか?」

「つぐ! そこだけイチャイチャしない!!」

「ひまりちゃん、夜に大声を出すと近所迷惑だよ」

「つ、冷たい!!」

「なんか今日のつぐ、やけに淡々としてるよな……」

「いつもはひーちゃんを慰める役なのに、今日はあまりにも冷酷だよね~」

「私も添い寝する権利を獲得したんだけど、サラッとハブられてるし……」

 

 

 つぐみちゃんは僕にとって聖母のような存在で、今もこうして膝枕をしてもらっていることで軽いバブみを感じているところだ。

 だけど、彼女は僕が絡むと少々幼馴染たちに毒舌になる節がある。現にこうしてひまりちゃんに対しても冷酷であり、普段彼女のフォローをしているつぐみちゃんだとは思えない。でも、多少Sっ気にあるつぐみちゃんかぁ……うん、ちょっといいかも。

 

 

「こうなったら、とっておきの秘策を発動させちゃうんだから!」

「そういえばひまりちゃん、さっきもそんなこと言ってたよね? 秘策ってなに?」

「秋人くん、それは愚問だよ。秋人くんはきっとこう思ってるはず。『どうせ女の子に添い寝されるなら、肉付きが良くて身体が柔らかい子がいいなぁ~』ってね」

「え゛っ!? そ、それは……」

「さっきも言ったけど、秋人くんと添い寝をするなら秋人くんに選ばれた人がベッドに上がるべきだよ。それはつまり、Afterglowで一番胸が大きい私ってこと!!」

「「「「「……!?!?」」」」」

 

 

 僕とひまりちゃん以外の子たちが衝撃を受ける。みんな唖然として、しばらく彼女に何も言い返せないでいた。

 確かに、その勝負ならバストサイズを測るまでもなくひまりちゃんの圧勝だ。Afterglow内だけでなくガールズバンド内でも圧倒的なボリュームがあるその胸。ひまりちゃんの言う通り、その胸を枕にして寝られたらどれだけの快眠が得られるのか、想像するに余りある。ダメだ、想像するだけで鼓動が高鳴ってきた……!!

 

 

「秋人くん!? おっぱいお化けの誘惑に負けちゃダメ!!」

「もうつぐったら、負け惜しみは良くないよ」

「そうだぞ」

「ほらね? 巴も私に賛成だって――――」

「ただの脂肪の塊なんかに屈するな秋人!」

「えぇっ!? 巴はこっち側じゃなかったの!? さっきは私に同調してくれたよね??」

「そもそも、最初からひまりの味方をするとは一言も言ってないけど?」

「ぐぅ……」

 

 

 巴ちゃんの気持ちは分からなくもない。こんなことを本人に直接言えないけど、彼女は胸が小さいタイプだ。それはつぐみちゃんも同じで、2人は恐らくガールズバンド内で争っても下位に位置するだろう。ひまりちゃんが規格外のデカさだから、彼女と同じバンドメンバーの胸が小さいと余計に目立っちゃうんだよね。

 

 対して、モカちゃんは年相応、蘭ちゃんは高校生の基準値よりもちょっと高めと見立てている。特に蘭ちゃんに至っては添い寝の最中にも何度か胸が当たり、その大きさと感触がモロに伝わってきてた――――って、僕は何を真剣に女の子の胸を測ってるんだ!? 変態じゃん僕!? いや、変態だったか……。

 

 

「ふふん、何と言われようと、私はおっぱいお化け、秋人くんはおっぱい魔人だから、2人は引き合う運命なんだよ。ね、秋人くん?」

「ここで僕に振るの!? そりゃあ好きか嫌いかで問われたら好きだけどさぁ……」

「秋人くん、私の膝枕じゃ……ダメ? やっぱり生の太ももを味わいたい? 下を脱いだら満足してくれる??」

「ちょ、ちょっと落ち着いてつぐみちゃん! やけになりすぎだから!」

「アタシだって脚には自信があるぞ! ダンスや和太鼓で引き締まった脚なら、秋人もきっと興奮できるから。な??」

「な? って言われても……。まぁ興味がない訳じゃないけど……」

 

 

 ひまりちゃんもつぐみちゃんも巴ちゃんも、もはや我を忘れて僕に自分の艶めかしいと思う部位をこれでもかとアピールしてくる。思春期女子がここまでの痴態を晒すなんて、本当なら悶えるほどに恥ずかしいはずだ。だけど、誰も羞恥の色など一切見せない。

 

 しかも、みんなは寝間着を少し開けさせ自分の素肌まで晒している。深夜、同じ部屋、同じベッドで女の子たちが脱いでいるその光景は、もはや芸術的。沸々と滾る情欲に、この先の1週間はもうオナネタに困ることはなさそうだ。思春期女子の身体って、熟された大人の身体へ発達している最中だけど、その発達過程こそ至高なんだよ。もうこの妄想だけで1日を潰せそうだ。

 

 

 みんなが臨戦態勢に入っている最中、後ろから頬を突っつかれた。

 振り向いてみると、その犯人はモカちゃんで、物珍しいモノを見るように僕にちょっかいを出している。

 

 

「おぉ~秋人の頬っぺ柔らか~い。これだけスベスベぷにぷにだと、女の子として嫉妬しちゃうなぁ~」

「そ、そりゃどうも……」

「頬っぺを堪能させてもらった代わりに、秋人もモカちゃんの超スペシャルボディを堪能していいよ~」

「それってどういう意味――――って、うわぁ!?」

 

 

 質問を投げかける前に、モカちゃんは僕をつぐみちゃんの膝枕から引き剥がして自分の身体に抱き寄せてきた。

 いきなり頭を胸元に押し付けられて驚いたけど、こうして密着してみると、モカちゃんも意外とサイズあるんだな……。それに彼女のふんわりとした雰囲気は体温にも表れており、こうして軽く抱きしめられているだけでもとても暖かい。

 更に、彼女の甘い香りが僕の鼻孔をくすぐってくる。パン好きのモカちゃんのことだから、抱きしめたらきっと甘い匂いがするんだろうなぁと思っていた時期があった。でも、まさかこのタイミングでその事実を確認できるなんて……。もう程よい暖かさと甘い香りでこのまま眠っちゃいそうだ。

 

 

 ちなみに、当たり前だけどモカちゃんの抜け駆けをみんなが許すはずもなく――――

 

 

「モカちゃん!? なんで私の秋人くんを取っちゃうの!?」

「いやいや~。秋人はあたしたちの共有財産ですから~」

「でも、つぐの膝枕よりも気持ちよさそうな表情してるぞ。つまり、秋人は脚フェチじゃなかったと……」

「うぅ……お化けと魔人のおっぱい同盟がぁ~」

「ふっふっふ。おっぱいだけで男の子を釣ろうだなんて、女の子は全身で語るものなのですよ~。所詮は脂肪の塊お化けってことだね~」

「ヒ、ヒドい!?」

 

 

 なんか、このままだと僕が異常性癖者扱いされそうなんだけど……。みんなを擁護しておくと、僕は女の子の胸は大小問わず好みだし、引き締まった艶めかしい脚も食いつきたくなるくらいに好きだ。だから、みんなの身体に魅力がないってことは絶対にない。相手が誰であろうとも、その子の魅力的な部分に興奮できる自信がある――――って、僕、どうしてこんなことを力説してるんだろ……。ひまりちゃんが秘策を発動させた時から、僕もヒートアップしてしまっているらしい。こんなことをみんなの前で言ったら、今よりももっと騒がしい暴走の引き金を引いてしまうだろう。

 

 だが、このままでもAfterglowの戦争は更に苛烈を極めかねない。ここは穏便に『みんな良くて、みんな良い』作戦で、この場を宥めた方が良さそうだ。

 

 

「と、とりあえず落ち着こう、ね? みんなが僕と一緒に寝てくれるのは嬉しいけど、お泊り会は今日だけじゃないんだし、毎回交代すればいいと思うんだ。添い寝してもらっている僕が言えた立場じゃないけど……」

 

 

 女の子に代わる代わる添い寝してもらえるなんて、いい立場のくせに制度まで決めて図々しい奴だと自分でも思う。

 だけど、僕の言葉に場の雰囲気は自然と落ち着いた。多少ピリついていた空気も静まり、緊張の糸も解れたようだ。

 

 

「確かに、ちょっと熱くなり過ぎたかもな。思い返せば、この前はアタシが秋人と一緒に寝たから、今日はみんなに譲るよ」

「そうだね。私も口が悪くなってたかも……」

「モカちゃんも反省かな~」

「うん。私も大人気なかったよ……」

 

 

 突如として始まった反省会。でも、そのおかげで場が和んだし、僕の選択は間違っていなかったのだろう。

 こうして自分の非を認めてすぐに仲直りできるのも、やっぱり幼馴染同士だからなのかもしれない。僕のために争わないで! という女の子から求められて調子に乗る気持ちがあったことはあったけど、やはりこうしてみんなが仲良くしてくれている方が居心地がいい。それに、どうせ添い寝をしてもらえるならみんな一斉にとか思ったり思わなかったり……。

 

 流石にそんなことは言えないので、ここは適当にまとめて今日は寝よっかな。

 

 

「せっかくだし、今日はみんな同じ部屋で寝ようよ。少し狭くなるけど、ポピパやRoseliaのみんなもよく川の字で寝てるから多分大丈夫だよ」

「この部屋で6人か……。結構というか、かなり窮屈だな」

「そうなんだよね。だから友希那ちゃんとか、いつの間に僕を抱き枕にして――――」

「湊さん……?」

「蘭ちゃんどうしたの? あっ……い、いや何でもないよ何でも!!」

「あちゃ~。秋人くんやっちゃった……」

 

 

 今まで騒ぎを静観していた蘭ちゃんが、遂に口を開いた。それは蘭ちゃんの前では禁句とされている言葉で、僕もみんなも一触即発の危険性は熟知している。だからこそ、僕の失言に空気が再び凍り付いたのだ。

 

 

「湊さん、いつも秋人にそうしてるの?」

「そ、それはぁ……」

「答えて」

「友希那ちゃんは友希那ちゃんで、蘭ちゃんは蘭ちゃんだから気にするほどでも……」

「答えて」

「うっ、い、いつもされてます……」

「あっそ。別にどうでもいいけど」

「えぇ……聞いてきたのそっちじゃん」

「何か言った?」

「いえ、何も……」

 

 

 蘭ちゃんはいつもはクールで冷静だけど、友希那ちゃんが絡むと途端に戦闘狂になる。さっきまで蘭ちゃん以外の4人が作り出していた空気よりも更に重い空気を、しかも1人で作り出せるから、彼女が抱く友希那ちゃんへの闘志の度合いが感じられた。

 でも、その度合いはかなり斜め上。今回のように友希那ちゃんに添い寝をされてるかされてないかって話題で食いつくこともあれば、アンプのコードを友希那ちゃんより先に巻き終わることでマウントを取ったこともある。つまり、闘争心を出す方向を間違えているんだけど、普段以上に硬派になった蘭ちゃんに対して口出しできる者は誰もいない。それが例え幼馴染たちであっても……。

 

 だけど、ここで助けを呼ばないと蘭ちゃんのペースに飲まれてしまう。

 ここはみんなの力を借りたいので、何故か僕と蘭ちゃんと距離を取っている4人にアイコンタクトを送ろう。

 

 

(蘭ちゃんが怖いんだけど、みんな助けて!!)

(いや、自分の失言は自分で尻拭いしないとダメだろ)

(蘭はこうなったら自分がマウントを取り返すまで収まらないから、秋人くんよろしくね!)

(あはは……ゴメンね、秋人くん)

(いやはや、剣闘士の戦いを見ながら食べるパンは美味しいですな~。部外者の余裕サイコー)

(はぁ? ここで裏切るの!?)

 

 

 誰のおかげでさっき仲直りができたと思っているのやら。いくらなんでも恩知らずにも程があるよ!!

 いくら眼力を強くしてアイコンタクトを送ろうが、みんなは苦笑いで傍観しているだけだ。モカちゃんに至っては夜食のパンを嗜んでるし、もはや他人の不幸は蜜の味と言わんばかりに無関係を装っている。確かにこうなった蘭ちゃんに関わりたくない気持ちは分からなくもないけどさぁ……。

 

 

「蘭ちゃん? 顔強張ってるよ……?」

「別に強張ってないし。湊さんのことなんて何とも思ってないし」

「いや、そこまでは言ってないけどさ……」

「湊さんよりあたしの方が秋人を気持ちよくできるし。朝までとは言わず、秋人が望む限り添い寝し続けられるし。なんならこれから一生、あたしを好きに使ってもらってもいいし」

「蘭ちゃん!? 段々発言が過激になってるから!?」

「湊さんは一晩中添い寝してたんでしょ? だったらあたしは1日中してあげるから」

「何の勝負してるの!?」

 

 

 もはや音楽で勝負せず、とりあえず何かしらでマウントを取れば勝ちだと思っているらしい。普段は硬派で大人っぽく見える蘭ちゃんだけど、こうやって子供っぽい性格も持ち合わせてるのが可愛いよね。初見で彼女を見た人は不良と思われがちだが、負けず嫌いで必死になっている様子を見てると微笑ましくなってくる。だけど、こうして友希那ちゃんに対抗せんとする勢いは凄まじく、僕も身体が震え上がっちゃうけど……。

 

 

「そういうことで、今日秋人に添い寝するのは私だから」

「えぇっ!? そんな勝手に決めないでよ!?」

「あのね蘭ちゃん。さっき決めたんだけど、今日はみんなで一緒に……」

「なんか言った……?」

「「い、いぇ……」」

「今日の蘭、いつも以上に秋人にお熱だねぇ~」

「秋人と湊さんが両方絡んでるからな。ま、今日は蘭に譲った方が身のためか……」

 

 

 これにてアフグロの添い寝番騒動は、蘭ちゃんの圧力により無理矢理幕を閉じた。

 傍から見ると喧嘩っぽく見えたけど、これも争うほど仲が良いってやつなのかな? でも、ようやくゆっくり寝られそうだ。

 

 

「蘭!? 秋人くんにくっ付きすぎだって!」

「湊さんの匂いを消さないと――――い、いや、こっちの方が秋人が気持ちよくなれると思っただけ」

「さっき、思いっきり本音漏れてたよね……」

 

 

 ゆっくり、寝られるかなぁ……?

 




 バンドリに出てくるキャラの仲は誰を見ても良好だとは思いますが、アフグロの5人の仲の良さが一番好きだったりします。4年半以上も小説を執筆してきてるのに上手く表現できないのですが、こう幼馴染同士で相手を尊重し合っているところが見ていて微笑ましくなるんですよね。
 今までの話は『秋人←女の子たち』の描写が多かったのですが、今回はそれを含めメンバー間の掛け合いが多かったのはアフグロの仲の良さが好きってことが影響していたりします。


 次回は問題児が多いハロハピ編です。
 次でグループが1周して一区切りなので、小説を続行するかどうかは投稿後の動向を見て決めようと思います。


この小説が気に入られましたら、是非お気に入り、感想、評価をよろしくお願いします! 
 小説を執筆するモチベーションに繋がります!



新たに☆9以上の高評価をくださった

航空戦艦山城さん、おばふぐさん、諸月さん、悪魔っぽい堕天使さん、岬サナさん、桜鈴さん、ウィンドさん、猫鮪さん、白クロエさん、Neo-aspectさん、ムーりゃんさん、Yolkさん、モモたんだにょんさん、叢井朝月さん、KRリバイブさん、ねむネコさん、グデ猫さん、ahoさん、 α さん、ティアナ000782さん、宵兎さん、syouyanさん、ゆっくりランサーさん、蓮零さん、nesutoさん、ひかりなさん、SKNさん、夏白菊さん、エドナさん、リュウ@ハチナイ琴葉夕姫推しさん、つきたいようさん、Raven1210さん、積木さん伊咲濤さん璃瑠巴さん、シフォンケーキさん、ジャングル追い詰め太郎さん、レイドラさん、際涯さん、ソレイユ0606さん、ジャンヌ・オルタさん、琴葉 紫さん、ブルーランナーさん、咲菜さん、ダウルダブラさん、SCI石さん、じゃどあさん、kanata1513さん、アリサキさん、Moritaさん


ありがとうございました!



【よくある質問】
Q.作者さんの推しキャラは誰ですか?
A.全員が好きと言ってしまうと元も子もないので、バンドグループ別で。

 ホピパ:有咲
 Roselia:リサ
 パスパレ:千聖
 アフグロ:蘭
 ハロハピ:美咲

Q.どうして主人公は甘やかされる立場になったのですか?
A.その理由や前日単のストーリーを考えてはいるのですが、そこそこ真面目な話になります。なので、まずは私の小説の雰囲気を皆さんに知ってもらったうえで、もしこの小説が軌道に乗ってきたらそのストーリーも進めていこうと思っています。



更新予定等は以下のTwitterにて
https://twitter.com/CamelliaDahlia
Twitterアカウント名「薮椿」(@CamelliaDahlia)で活動しています。

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