今日も歌い、生きて行く   作:猫舌

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第2話

刹那サイド

 

 

さて皆さん、2話目にして唐突ですがもしも目の前で台風や現代の科学で理解できないヤベー自体が起こったらどうしますか?好奇心で飛び込む?それとも逃げますか?

 

 

「ゴーストさん!出て来てちょうだい!」

 

「もしかしたらこっちに行ったのかも!」

 

「(何!?何なのあの子達!?)」

 

 

僕は迷わず後者の方を選ぶ。そんな事を考えながら二人の少女から住宅街の塀と塀の隙間から息を殺して隠れてるこの状況に目を逸らしたくなるが踏ん張って現実と向き合う。思えば今日は厄日な気がする。話は今から少し前に遡る。

 

 

〜数時間前〜

 

 

「・・・」

 

 

あの五千円札事件から数日。今日は町の中にある大きめな公園の噴水の前で歌った僕は片付けを終えて帰ろうとしていた。だが僕の前に人影が一つ止まったので視線を向ける。そこには見知らぬ少女がこちらを見下ろしていた。なんか春になってから女の子と関わる頻度高い気がする。というか無表情が怖い。

 

 

「少し、良いかしら?」

 

「・・・?」

 

 

首を傾げながらも僕は近くのベンチに少女を座らせて、その前に立って話を聞く。小まめに風呂に入っているとはいえ暮らしはアウトドアもいい所だ。

言われる可能性があるのは分かるけど面と向かって臭いとか言われた日には僕のメンタルが確実にブレイクする自信がある。まあ、翌日には同じ生活に戻らざるを得ないが。考える自分を置き去りに少女は口を開いた。

 

 

「私は《湊 有希那》。演奏、よく聴かせてもらってるわ」

 

「・・・」

 

 

取り敢えず軽く会釈しておく。そして彼女は続ける。

 

 

「本題なのだけれど、私達のバンドのコーチをしてほしいの」

 

「・・・ほへ?」

 

「ほへ?」

 

「・・・!」

 

 

思わず声が出た僕は口を押さえる。やっべ、声出た。僕の心配をよそに湊さんとやらはガンガンと話して来る。

 

 

「私は《Roselia》というガールズバンドのボーカルをしているわ。そこで頂点に立つ為にメンバー達と真剣に練習してるの。でも私達だけだとどうしても行き詰まる部分が出て来る。そんな時、あなたの噂を耳にした」

 

「・・・」

 

 

いや、悪いけど僕はお金稼ぎメインで歌ってるんで。音楽は好きだけど、正直この人達の練習見るとか御門違い過ぎて無理です。僕は無言で首を振る。だが、湊さんはメモを取り出して何かを書くと僕に渡して来た。

 

 

「私達はそこのライブハウスで練習しているの。この日、私達の演奏を聴いて判断してもらえるかしら?」

 

「・・・」

 

「お願い。私達は決して遊びでバンドをしているわけではないわ」

 

 

そう言って目の前の少女は頭を下げて来た。その目に嘘が無い事は僕でも分かった。でも僕にそんな事をする資格なんてない。そもそもライブハウスなんて行った事も無いし、ギター以外の楽器なんて触った事も無い。

悪いけど改めてお断りさせてもらおうとした所で、僕達に向かって足音が近付いて来た。その正体は数日前に出会った少女のものだった。

 

 

「ま、間に合った・・・」

 

「美竹さん?」

 

「湊さん?」

 

 

美竹さんと呼ばれた少女と湊さんがお互いを見て固まる。同じ制服着てるし、どうやら同じ学校の知り合いの様だった。美竹さんと呼ばれた少女は呼吸を整えると僕に向かって唐突に千円札を二枚取り出して僕に差し出して来た。

なるほど分からん。

 

 

「この前払い損ねた分。ずっと渡したかったから」

 

「・・・!?」

 

「この前みたいに受け取らないのは無し。聴いた分はちゃんと払う。でないとあたしが納得出来ない」

 

「・・・」

 

 

そう言って来た彼女の目は有無も言わさぬ迫力で、僕は受け取らざるを得なかった。そして美竹さんは僕が片手に持っていたメモに目を向けて、驚いた顔で湊さんを向いた。何となくだが、二人の間に不穏な空気が漂い始める。

 

 

「湊さん、これはどういう事ですか?」

 

「見ての通りよ。ゴーストに私達のコーチをしてもらえないか交渉してたの」

 

 

交渉ではなく一方的に言われただけな気がするのですがねぇ・・・。何やら二人が勝手に始めた口論を傍観していると、美竹さんとやらもメモを渡して来た。見るとそこには湊さんのメモに載っていた同じライブハウスの名前や練習時間の日時と一緒に《美竹 蘭》と《Afterglow》の二つのワードが書かれていた。

 

 

「湊さんの前にあたし達のバンドがスタジオ借りてるから、見に来てほしい」

 

「・・・」

 

「それじゃあ、メモ通りに。待ってるから」

 

「私達のバンドの事も忘れないでちょうだい」

 

 

そう言って二人はその場から去って行った。誰も居なくなったベンチに腰掛けて過去最大の溜息を吐きながら手にある二枚のメモを改めて見る。

 

 

「行くしか、無いのかなぁ」

 

 

正直な話。いきなり練習見てくれと言われて、そのライブハウスでの使用料金は割り勘でとか言われた日には僕の所持金が死ぬ。行ったことのない施設だから料金が幾らかも分からないしあまり無駄遣いしたくない。普通のホームレスよりは稼ぎが良いが、困窮している事に変わりはない。

改めて溜息を吐いていると、再び足音が近付いて来た。嫌な予感がしたのですぐに帰ろうとしたが、相手が速かった。金髪とオレンジの髪をした二人の少女が僕の前に立ちはだかる。この町には女子しか居ないのだろうか。

 

 

「やっと見つけたわ!あなたが噂のゴーストね!」

 

「きっとそうだよ!だってギター持ってるもん!」

 

 

金髪の少女の後にオレンジの髪の少女が答える。出来る事なら今すぐダッシュで帰りたい僕など御構い無しに二人は話し掛けてくる。

 

 

「私達とバンドをやりましょう!」

 

「《はぐみ》も一緒にやりたーい!」

 

「・・・!」

 

 

脳の許容量が限界を超えた僕はその場から全力で駆け出した。そんな僕に対し、少女達は・・・。

 

 

「捕まえたらOKという事かしら?行くわよはぐみ!」

 

「うん!頑張ろ《こころん》!」

 

 

何故か僕のメンバー入りを賭けた鬼ごっこがスタートした。気分は飢えた獣に追いかけられる草食動物。しかも相手の身体能力がイカレてる。人が本気で走ってるのに笑顔で追い掛けて来るし、その辺をピョンピョン飛び回る姿は一種の恐怖を感じざるを得ない。

最終的に僕は、住宅街の細道を駆使して何とか隠たのだった。

 

 

〜現在〜

 

 

「ねえこころん。そろそろ帰んないと怒られちゃうよ」

 

「もうそんな時間?今日は帰りましょっか。ゴーストさん!明日は必ず捕まえに行くから、一緒にバンドしましょう!」

 

「ゴーストさんまたねー!」

 

 

そう言って二人は何処からともなく走って来たリムジンに乗って帰って行った。情報過多過ぎてお手上げの僕はその場に蹲る。いや、ホント今日の出来事は何だったのだろうか?マジで知り合いに貰った猫道マップを覚えてなかったら即死だった。

疲労困憊の体を無理やり動かして歩き出す。そして僕はある事に気付いた。

 

 

「・・・あれ?まさか鬼ごっこ継続!?」

 

 

それと同時にゲンさん達が待ってる事を思い出してその場を走り出す。住宅街を抜けて街中を走る。帰宅ラッシュの波が通り過ぎ始めた頃で人は少なめだった。なので全力疾走で街中を駆け抜ける。すると目の前の道を塞ぐ集団があった。

またまた見知らぬ少女二人とそれに近付くチャラい男が二人。何やら話しているが、二人の表情からして明らかに碌でもない会話であろう。ナンパの類いだと感じた。そして近付いて行くとチャラ男AとBの顔が更に見える様になった瞬間、頭に血が昇った。

あのチャラ男達は前に僕が演奏してる時に水風船を投げつけて来た奴らだった。こうして歌っていると悪戯して来る連中は少なからず居る。チップ代わりに石を投げる奴も居れば、文句ばかり言って金を払わない奴だって居る。ホームレスである以上下手に騒げないので我慢するしかなかった僕だが、目の前の他人にも迷惑かけてる馬鹿共が少女達の腕を掴んだのを見た瞬間、何かがキレた。

 

 

「何女の子に乱暴してんだこのボケ共がぁ!」

 

「「ゲブラッ!?」」

 

 

僕の全速力の助走によるドロップキックが直撃した二人は、吹っ飛んで地面に仲良くダイブした。それを見て満足した僕は、再び走り出す。途中に声を掛けられたが、今日はもう誰かと関わりたくなかった僕はそれを無視して走り出した。

 

 

刹那サイド終了

 

 

三人称サイド

 

 

先程まで派手な二人組に言い寄られていた二人の少女。一人は茶髪の少女《羽沢 つぐみ》。もう一人は銀髪の少女《若宮 イヴ》。この二人は目の前の出来事に困惑していた。

いきなり目の前の二人組が吹っ飛んだと思ったら、それを蹴り飛ばした人物。偶に駅前などで見かけるゴーストと呼ばれる人物が目の前に映る。そして此方の声を聞く事なくギターを背負って走り去って行ってしまった。

 

 

「び、ビックリした・・・ねえ、イヴちゃ・・・ん」

 

 

何とか落ち着いて隣に居る少女に声を掛けるが、相手は此方の方へ見向きもせずに顔を紅く染めていた。

 

 

「何も言わずに悪を挫く・・・まさにブシドーです!」

 

「えぇ・・・」

 

 

ただ無視されただけなのではと言いたいつぐみだったが、疲れていたのもあってその言葉を飲み込んだ。だが彼女は知らない。近いうちにゴーストと呼ばれる少年と再会する事を・・・。

 

 

三人称サイド終了

 

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