今日も歌い、生きて行く   作:猫舌

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第3話

刹那サイド

 

 

とうとうこの日が来てしまった・・・。

あれからと言うもの、毎日の様に金髪の子とオレンジの髪の子との鬼ごっこに付き合わされた事で僕のストレスは限界に達していた。そんな状態でのライブハウスにお邪魔する日である。なにそれつらい。

 

 

「此処が《CiRCLE》か」

 

 

メモに書かれた場所に着いた僕は、CiRCLEと大きく看板の出ているライブハウスを見る。うん、場違い感半端ない。あんなオシャレなカフェテリア付いてるとか最早僕にとっては異世界だよもう。うわっ、コーヒー一杯でそんなにお金取るの?

 

 

「ごめん、待たせた?」

 

 

暫く値段の書かれたメニューを見ていた僕に後ろから声が掛けられた。黒髪に赤いメッシュを入れたその人物は、数日前にメモを(強制的に)渡してきた美竹さんだった。その後ろには彼女のバンドメンバーであろう四人の少女達が僕を興味深そうに見つめる。

僕は取り合えず首を横に振って、そんなに待ってないとの意思を示す。

 

 

「そう。じゃあ、着いて来て」

 

「・・・」

 

 

美竹さんにそう言われ、黙って着いて行く。美竹さんが話してたのかそれとも僕を見た事があったのか、残るメンバー達も僕が声を発さない事に特に追及せずに建物の中へと入って行く。

中に入ると、目の前の受付に女性が立っていた。真面目にこの町に男性は少なすぎるのではと思ってしまう。

 

 

「あ、蘭ちゃん。皆もいらっしゃい」

 

「こんにちは《まりな》さん。スタジオの鍵を貸して欲しいんだけど」

 

「それじゃあ此処に名前を書いてね。はい、どうぞ」

 

「ありがとう。行くからこっち来て」

 

「あれ?その子誰?」

 

「ちょっとね」

 

 

進んで行く美竹さんを追いながら、まりなさんとやらに軽く頭を下げる。相手は微笑みながら手を振ってくれた。良い人だ。そして進んだ先の一室の鍵を開け、中に入る。そこは広めの空間が広がっており、アンプ等の機材が置かれていた。

今までそんな物など触った事のない僕はそれらに近づき、眺める。

 

 

「・・・」

 

「そんなに珍しい?」

 

「・・・!」

 

「ふふっ。そっか」

 

 

頷く僕に美竹さんは何か懐かしむ様な目で僕に微笑む。だが、すぐに表情を戻してメンバー達を僕の前に立たせた。

四人の内、銀髪の少女が口を開く。

 

 

「《青葉 モカ》で~す。担当はギターやってま~す。よろしく~」

 

 

少し個性的な話し方をする少女にお辞儀をする。次に話し始めたのはピンクの髪をした少女だ。

 

 

「私は《上原 ひまり》!担当はベースだよ!よろしく!」

 

 

元気だなぁ。と年寄り臭い事を考えながらも先程と同じ返しをする。今度は赤い髪の少女だ。見た目からして元気そうだなこの子も・・・。

 

 

「アタシは《宇田川 巴》。担当はドラムだ。よろしくな!」

 

 

思った通りの元気の良さだ。同じくお辞儀をする。最後に茶髪の少女が頭を下げた。あれ?この子何処かで・・・。

 

 

「《羽沢 つぐみ》です。担当はキーボードをやってます。あの、この前はありがとうございました!」

 

「・・・?」

 

「えっと、この前に男の人達に連れてかれそうになってた・・・」

 

「・・・!」

 

「思い出してくれたんですね!良かったぁ」

 

 

そう言って羽沢さんは胸を撫で下ろした。あの時の子か。納得行った。だが、周りはこの会話に疑問を抱いたらしい。

 

 

「ねえ、つぐみ。その話どういう事?」

 

「あ・・・えっとね。実は」

 

 

どうやら心配を掛けさせまいと隠していた様で、買い出しの途中でアルバイトの子と一緒に例のチャラ男達に絡まれた所を僕がドロップキックでぶっ飛ばしたと渋々説明した。そして案の定、仲間達からお叱りの言葉を受ける。

 

 

「つぐみ、そう言う事はちゃんと言って」

 

「ごめんね蘭ちゃん」

 

 

最後に美竹さんに謝る羽沢さんを見て、仲が良いなと思う。僕は同年代の友達が居ない。いや、昔は居たけど。二人共、今は何をやってるのだろうか。どのみち、こんな姿を見せる訳にはいかない。というか僕が生きてる事がバレてはいけないのだ。

ハッキリ言えば僕は過去に色々あり、行方不明又は死亡扱いとされている。これがバレれば色んな問題が発生してしまう。そう考えるとかなり危ない橋を渡って生活しているなと感じた。

一人思考に耽る僕に、美竹さん達が礼を言って来た。ぶっちゃけた話、あの時の僕は彼女達を助ける事よりもあのチャラ男共を蹴り飛ばす事だけを考えていたので逆に考えなしに突っ込んですみませんでしたと頭を下げたくなる。

 

 

「つぐみ達を助けてくれてありがとう」

 

「・・・」

 

「少しは受け取ってよ・・・」

 

 

また首を横に振る、基本否定的な僕に美竹さんは溜息を吐いた。

 

 

「まあまあ。つぐも無事だったんだし、もう良いでしょ。それよりも練習しよ!あのゴーストに聴いてもらえるんだもん。張り切って行かなくちゃ!」

 

「ひまりの言う通りだぞ蘭。それに礼をするんだったらバンドらしくアタシ達の出来る最高の演奏をしてやろう!」

 

「そうだよ蘭~。ほらほらつぐも早く~」

 

「う、うん!蘭ちゃん」

 

「・・・わかった。それじゃあ準備するからそこ座ってて」

 

 

近くの椅子に座らされ、彼女達が準備する様子を遠巻きに眺める。エレキギターなんて触った事も無い。弦の交換の為に楽器店に訪れる事は何度かあったが、到底手を出せぬ値段の品々が並ぶコーナーを歩く度胸は僕にはない。もしも何かあって買い取りなんて事が起きたら死ねる。

そう思っていると、準備が終わった様だ。美竹さんが僕に言う。

 

 

「それじゃあ、あたし達Afterglowの演奏。しっかり聴いてて」

 

「・・・!」

 

 

目つきが変わった美竹さん達に僕も気合が入る。此処まで真剣なんだ。だったら僕も出来る限りの事をしてやらねばと集中する。

 

 

「一曲目、《That Is How I Roll!》」

 

 

その声と共に演奏が始まった。その瞬間、僕は今までに無いワクワクとドキドキを確かに感じた。今までずっと一人でやって来た僕にとって、多人数で行うバンドは未知の体験なのだ。機械越しに聴いていた曲とは違う。初めて聞いた生の演奏に何もかも忘れて夢中になって聴いていた。その後も一曲、また一曲と彼女達の音に聴き入る。

やがて全ての演奏が終わり、美竹さんはゆっくりと僕へ視線を向けた。

 

 

「・・・どうだった?」

 

「・・・!」

 

 

僕は立ち上がって拍手を送る。本当に凄い。出来る事なら声を大にしてもっと称賛の言葉を送りたいが、なんとか堪えて全力で拍手を送る。それに全員満足そうに笑みを浮かべる。

そんな中、宇田川さんが言った。

 

 

「そんなに喜んでくれるなら声出しても良いんだぞ?此処にはアタシ達しかいないし、誰かに情報をバラす気も無いしな」

 

「モカちゃんも聞きたいな~」

 

 

うぐっ。そう言われると確かに失礼に当たる気がする・・・。でもこれは商売の為だけじゃないんだよね。こうなったら最終手段を使うしかない。日々の努力で身に着けた僕の特技・・・見せてやる!

僕は深呼吸をして、遂に声を発した。

 

 

『うん、凄く良かった。本当に感動した』

 

「ええっ!?」

 

「ら、蘭ちゃんの声・・・?」

 

「あ、あたしこんな声なの?」

 

「間違いなく蘭だな。この声は」

 

「多分後ろ向いてたら気づかないね~」

 

 

どうやらウケは良かったらしい。声真似の応用で習得した僕の特技は声帯模写である。その場で聞いた声ならどんな声でも真似できる。これなら地声がバレる事無く堂々と話す事が出来る。

 

 

『ごめん。色々あって自分の声は出せないんだ。だからこの話し方で許してほしい』

 

「わ、分かった」

 

『それとあたしはバンドの演奏を聴いたの初めてだから、あんまり具体的な話は出来ない』

 

「そうなのか。でも初めての演奏がアタシ達なんて嬉しいな」

 

『そう言ってもらえるとありがたいね。じゃあ、まずはボーカルから』

 

「うん、お願い」

 

『力強い歌声と、熱い思いが伝わってくる良い声だった。聴いててこっちも熱くなって来る』

 

「・・・ありがと」

 

「蘭ったら照れちゃって~」

 

「モカ!」

 

「さ~せ~ん」

 

 

顔を紅くしてそっぽを向く美竹さんを揶揄った青葉さんは怒られても何処吹く風といった様子で笑う。本当に仲良いなこの子達。羨ましい。

 

 

「あ、良ければ欠点も言って。次に繋げたいから」

 

『分かった。正直に言えば、所々で先走ってる部分があったからそこは気を付けて』

 

「次は完璧にしてみせる」

 

『その意気だよ。じゃあ次は・・・』

 

 

言葉を止めて僕は青葉さんを向く。

 

 

『君だよ~』

 

「おお~、そっくり~」

 

「今度はモカまで・・・」

 

「これって全員のパターンかな!?」

 

「ちょっと緊張しちゃうかも」

 

「アタシも気になる・・・」

 

 

そんなに盛り上がってくれるのなら、やった甲斐がある。そして僕は続ける。

 

 

『基本的にミスも無くて良かったよ〜。後は、少しずつアレンジ入れてけば良いんじゃないかな〜』

 

「まあ、モカちゃんは天才ですから〜」

 

 

ニコニコして青葉さんは答える。実際に天才的だから何も言えない。さて、あと三人・・・。

ベースはともかく、キーボードとドラムに一切触れた事の無い僕に彼女達の評価とか無理な気がする。

 

 

『次、上原さん行ってみよー!』

 

「やった!私だー!」

 

「そっくり過ぎて分からなくなって来たぞ・・・」

 

 

宇田川さんの呟きに周りが頷く中、僕はなるべく冷静に評価を下した。

 

 

『君もちょっと走ってる部分があったかな?でも、全体的には出来てたから細かい所を直していけばもっといい音が出せるよ!頑張ろう!』

 

「うん!ありがとう!」

 

『元気でよろしい!』

 

 

元気なスマイル頂きました。そして少し緊張が増えた所で残りの二人を見る。

 

 

『じゃあ、キーボードから行こうかな?』

 

「は、はい!お願いします!」

 

『そんなに畏まらなくて良いよ。自分の話しやすい様にしてほしいな』

 

「う、うん」

 

『よし。羽沢さんはミスもなくて、リズムも正確だった。正直、この中で一番良かったと思うよ』

 

 

僕の言葉に羽沢さんは大きく息を吐いた。そんな彼女に上原さんが嬉しそうに声を掛ける。

 

 

「やったねつぐ!あのゴーストにベタ褒めだよ!」

 

「良かったぁ・・・」

 

「(畑違いなんだけどな僕)」

 

 

取り敢えず満足して頂けた所で、最後の一人に集中する。

 

 

『最後は宇田川さんだな』

 

「アタシの声ってこんな風に聞こえるのか・・・」

 

『感想はどうだ?中々なもんだろ?』

 

「なんか慣れないな、自分の声って・・・変な感じだ」

 

『そうか?アタシは好きだぜ、その声』

 

「お、おう」

 

「トモちん照れてる〜。いきなり口説くとはゴーちゃんもやりますな〜」

 

「変な事言うなモカ!」

 

『ご、ゴーちゃん?』

 

「ゴーストだから、ゴーちゃんだよ〜」

 

 

どうやら僕のあだ名が勝手に決まったらしい。まあ、良いか。

 

 

『さて、本題に戻るけぞ。お前のドラムは美竹さんと同じく、熱意が伝わって来る素晴らしい演奏だった。ただし!熱くなり過ぎて走ってる部分もあったから気を付けろよ』

 

「おう!分かった!」

 

『これで全員の評価終わりィ!ああもう、ギター以外は専門外なんだって』

 

「お疲れ。悪かったからあたしの声でその話し方やめて」

 

 

美竹さんの声で愚痴ると引き攣った顔で言われた。それから暫く彼女達の練習を椅子に座って遠目から眺める。もし、僕が普通の生活を送っていたらあんな風に友達と楽しく過ごせたのだろうか?いや、たらればの話をしたところでどうにもならない。

嘗て、二人の幼馴染と過ごした日々が脳裏に蘇る。僕も昔はせっちゃんって呼ばれてたな。

そんな事を考えていると、美竹さん達が練習を終えたのか僕の方へと向かって来た。

 

 

「できれば最後に一曲聴かせてほしいんだけど」

 

『いきなり練習見てって言われた後に一曲とは中々に強欲だね君は。まあ、コーチしてくれなんて言われるよりはマシか』

 

 

僕は立ち上がって相棒のギターを構える。どうせなら盛大にやってやろう。

 

 

『それじゃあ行くよ。《アイスクリーム シンドローム》』

 

 

最近覚えたての歌をギターの音と共に歌う。そこからはもう夢中だった。自分の全てを持って歌い切る。自分に出来る最大限の演奏を奏でる。彼女達は全力で歌ったんだ。僕も本気でやらなきゃ失礼ってもんだろう?

 

 

『君とならどんな一瞬だって煌めいて見える』

 

 

最後まで歌い切り、目の前の彼女達を見ると何故か目を潤ませていた。

 

 

「・・・?」

 

「ごめん、思った以上に上手くて」

 

「凄く切なくなっちゃったよ・・・」

 

 

美竹さんと上原さんに続く様に周りも頷く。何というか、感受性良過ぎませんかお宅ら?

ギターをしまいながら思っていると、部屋の壁に取り付けられた受話器から音が鳴った。どうやら時間らしい。僕達は、荷物を纏めてスタジオを後にした。因みに支払いは彼女達の奢りだった。ゴチになります。

 

 

「じゃあ、あたし達は帰るから。その、頑張って」

 

「・・・」

 

「そんなに嫌なの湊さん達の演奏?」

 

 

いやね?聴くだけなら良いんだよ別に。音楽好きだし、人の演奏生で聴くのって中々無いし。でも、それを評価してコーチするかどうかとか困るんだよ。僕なんかより良い人なんてわんさかいるだろうに。

 

 

「あの、さ」

 

「・・・?」

 

「もし次に会えるなら、またあたし達の演奏聴いてくれない?」

 

「モカちゃんもさんせ〜い」

 

「私も!今日は最後に一番良い演奏出来たし!」

 

「私もお願いしても良いかな?」

 

「無理にとは言わないから、暇な時にでも頼む」

 

 

全員にお願いされるが、正直なところもう関わりたく無い。演奏は良かったが、ぶっちゃけ格差を見せつけられてる様で辛い。当の本人達は自覚無いだろうけど、最初に声を掛けられた時に恵まれた環境の中にいる癖にホームレスで戸籍もない僕に何を求めるのだろう?とか黒い気持ちが生まれた。湊さんの時も同様だ。

これ以上何も考えない様に、適当に手を振りながら彼女達に背を向けて歩き出す。僕の気持ちを何となく察したのか、後ろから足音が遠のいて行くのが聞こえる。

僕は、カフェテリアの椅子に腰掛けて、憂鬱な気持ちで湊さんを待ち始めた・・・。

 

 

刹那サイド終了

 

 

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