これからもこの作品を読んでいただけ
刹那サイド
----夢を見ていた。
『うぅ・・・』
目の前に蹲って泣く少年をただ眺めるだけのシンプルな夢だ。だが、風景は変わって行く。少年に近付く人影。そしてそれは幼い少年の体を・・・。
『ぃぎっ!?』
『本当の子でもない癖に・・・そんな目すんなっ!』
罵倒と共に蹴り飛ばした。その後も、支離滅裂な言葉を投げ掛けながら何度も暴力を振るい続ける。やがて少年が動かなくなると、フーッフーッ!と肩で息をしながらその場にへたり込んだ。そしてその顔から透明な雫が滴り落ちる。
『ごめんね・・・ごめんねぇ・・・!』
そして暫く泣き続けた後、何処からか響く赤ん坊の声の方へと向かって行った。
更に視界は暗転する。目の前に現れたのは、玄関の扉だ。気付けば少年は居なくなっていた。分かっている。これは何度も見て来た夢だ。体は自覚すると勝手に動き出し、ドアを開けた。目の前に広がったのは炎。一面を赤い炎が埋め尽くし、地面を雨が濡らしていた。その先に見えるのは火元と思われる乗用車。
この光景は実際に見たわけではない。だが、その光景は何故かリアルに見える。燃え盛る乗用車の中から覗くのは二つの人影。それは此方へと手を伸ばしたまま動く事なく、パチパチと音を立てる。そして一瞬、炎の威力が上がり、思わず目を瞑った僕の足にナニカがしがみ付く感覚があった。其処へ目を向けると、
『----Aaaaaaaaaaaaaaa!』
此方を見上げる燃えた赤ん坊の姿があった。それはゆっくりと体を這い上がって来る。でも僕は抵抗しない。だって僕は、守りたかったソレを守る事すら出来なかったのだから・・・。
「・・・!」
赤ん坊の手が僕の顔へ迫った所で目を覚ます。帽子の下でかいた汗を袖で拭いながら周りを見回すと、湊さんと共にSiRCLEへ訪れた四人の少女達がそれぞれ談笑していた。この情景を見て、経緯を思い出す。美竹さん達Afterglowと別れた後、すぐに湊達が来た。だが、まだスタジオの準備が終わっていないのでそれまでカフェテリアで待機していたのだ。どうやらその間に寝落ちしていたらしい。
まだコップに残ったカルピス(湊さんからの奢り)を飲み干して一息吐く。其処で、SiRCLEの方から月島さんが出て来た。
「遅くなってごめんね。準備出来たから」
「いえ。私達も予約した時間より早く来てしまいましたから」
「皆、行くわよ」
水色の髪をした少女が月島さんを庇護し、それをどうでも良いと言わんばかりに歩いて行く湊さん。それを茶髪の少女が苦笑いをし、水色の髪の少女と後を追って行く。それに続いて、紫の髪をした少女と黒髪の少女が歩き出した。僕も月島さんにお辞儀をしてから続いてカフェテリアを後にした。
〜スタジオ〜
「練習を始める前に、皆に紹介しておくわ」
「ええ。先程から誰なのかずっと気になっていましたから」
「友希那ってば、アタシ達が聞いてもスタジオで話すってそれっきりなんだから」
「ククク・・・我等の聖域へ踏み込む貴公は・・・《りんりん》!」
「・・・こ、此処は普通で良いんじゃないかな?」
まあ、いきなり見知らぬ奴が居て一緒にスタジオ入りしたらそりゃあ怪しみますよね。そして事前連絡してなかった湊さんェ・・・。そんな僕達を他所に、湊さんは続けた。
「この人は、前々から言っていたコーチになり得る人物よ」
「この人が・・・申し訳ありませんが、急にこの様な方を紹介されても素直に信じられません。それに先程から一言も話さないじゃないですか」
「演奏以外では声を出さない。不明な点が多いのが売りだからよ」
「友希那、それってまさか・・・!」
「ええ、紛れも無いあのゴースト本人よ」
「「「「えぇっ!?」」」」
「・・・!」
少女達の驚きの声に、近い距離にいた僕は思わず顔を顰める。それから全員が僕をジロジロと眺め始めた。特に水色の髪の少女からの視線が凄い。さっきまでのの警戒心マックスハザードな雰囲気は何処に行ったのか、珍しい生き物を見る目をしていた。
「今日は演奏を見てもらって、私達Roseliaをコーチする価値があるのか見極めてもらう為に呼んだのよ」
「あのゴーストに話し掛けるだけでなく、コーチの話まで・・・やはり貴女は違いますね湊さん」
「当然よ。私達は、頂点を目指すの。其処に妥協は許されない」
「でも友希那。一体どんな条件を出したの?」
「ただ話をして、練習日のメモを渡した。それだけの事よ」
「それって無理矢理って言うんじゃ・・・」
茶髪の少女の言葉にスタジオの空気が凍った。どうやら気付いたらしい。僕はほぼ強引にこの日に呼ばれた事を。それから直ぐ、水色の髪の少女が湊さんを引き連れて謝って来た。
「本当に申し訳ありません!真面に許可も取らずに呼び出すなんて」
「《紗夜》、痛いわ」
「湊さん、何をやっているのですか!?貴女の話によれば、どう考えても相手の返答を聞いていないでは無いですか!」
「でも相手は来た・・・そう言う事よ」
「どう言う事ですか!?」
この人、間違いない。苦労人だ(確信
さっきからコントの様な何かを繰り広げている二人は何時の間にか僕をそっちのけで言い合いを始めた。取り残された僕に茶髪の少女を筆頭に、残りの二人が近付いて来た。
「ごめんね、ウチの友希那が。でも、音楽に全てを掛けてるのは本当だから出来れば聴いて行ってくれると嬉しいな。アタシは《今井 リサ》。ベースやってます、ヨロシク☆」
「・・・」
ああ、コミュ力高そうだな。取り敢えず無難に会釈で返す。会釈に関してはプロ並みの腕だと自負している。いや、プロってなんだよ・・・。
「我こそは漆黒の闇より現れし、混沌を司る魔王!」
「・・・」
「《宇田川 あこ》、さんじょー!ドーン!」
「・・・」
「あの・・・よろしくおねがいします」
何やらポーズを付けて挨拶して来た紫の髪の少女にお辞儀で返すとショボンとしながら話し方を戻した。いや、そのキャラの人と会話するの初めてだからどうしたら良いか分からないんだって。
「ほ、ほら!次、りんりん!」
「キーボードを担当してます・・・《白金 燐子》、です・・・」
「あこはドラムやってます!」
「・・・」
取り敢えず頷く。そして向こうで互いの頬を引っ張り始めたボーカルと恐らくギターであろう二人の少女のヒートアップして行く姿に今井さんが声を掛けて、正気に戻った二人が顔を真っ赤にして早足で近づいて来る。
「すみせんでした。ギターを担当しています、《氷川 紗夜》です」
「これが私達Roseliaのメンバーよ。此処にいる全員が頂点を目指す為に努力しているの。だからお願い。どうか正当な評価をちょうだい」
「私からもお願いします。今回は湊さんの不手際があったとはいえ、ゴーストであるあなたにコーチを受けてもらいたい気持ちは同じです。駄目だと思ったのならば即座に切り捨てて構いません。ですがもし、私達に可能性を感じたのならばどうかコーチを引き受けてはいただけませんか?」
「改めて、私からもお願いするわ」
こ、断りづらいーーーー!?
チラッと視界をずらせば他のメンバーも頭下げてるし・・・頷くしか無いじゃないか。
「・・・」
「ありがとう。それじゃあ、早速行くわよ」
湊さんの声を皮切りに全員が手早く準備を済ませる。そしてすぐに空気が変わった。美竹さん達とはまた違う気迫。不思議と口角が上がる。鼓動が早くなる。そして僕はその演奏に夢中になっていた。
気が付けば演奏は終わり、湊さん達が此方を見つめて来る。なんかデジャヴ感凄いが、僕は拍手を送った。
「どうだったかしら?・・・そう言えば声は出さない主義だったわね」
『地声はね。ええ、とても良い演奏を聴かせてもらったわ』
「友希那の声!?」
「声真似・・・いえ、声帯模写ですか」
『ご名答です。失礼ながら、この方向で話させていただきます』
「こ、今度は紗夜さんの声」
「・・・凄い」
宇田川さんと白金さんの言葉に満足感を覚えながら、会話を続ける。
『正直言って、全員のレベルは間違いなく高いわね。そこは考えるまでもない事実よ』
「そう。なら、私達のして来た事は無駄ではないわね」
『でも、だからといって完璧という訳でもない』
「・・・どう言う意味ですか?」
『細かいミスが所々にあるのよ。湊さんは最後の部分で音程が少し上だった。氷川さんは前奏で少し走り気味だし、今井さんはAメロで音程が僅かながらズレていたわ。宇田川さんは最後のサビで音が弱くなっていたし、白金さんも後半の音が弱目ね』
「・・・たった一曲で全体の音を見抜くだなんて」
『と言ってもあまり気付く人はいないでしょうね。でも、分かる人には分かってしまう。ゆっくりでも良いから確実に直しなさい』
「分かったわ。ありがとう」
『それで、本題なのだけれど・・・悪いけど、コーチの件は断らせてもらうわ』
僕の言葉に全員が分かりやすく落ち込む。
『勘違いしないで。貴女達の演奏は間違いなく高レベルよ。それこそバンドをしてる人なら誰もが憧れる《FUTURE WORLD FES.》への参加だって夢じゃない』
《FUTURE WORLD FES.》。略してFWFやフェスと呼ばれるそれは数々の実力派バンドが鎬を削る大会である。湊さん達はそこのトップを取るつもりらしい。僕の口からその単語が出たからか、睨み付ける様な表情で湊さんがガン飛ばして来た。怖い。
「なら何故・・・!」
『単純に、私に貴女達の気持ちに応える資格が無いからよ。私がどうして、路上アーティストをしているか分かるかしら?』
「大手企業のスカウト待ちとか?」
『生憎と芸能界には興味無いの。私が歌う理由はね。稼ぎが良いからよ』
その発言に部屋が凍り付いた。変に誤解されては溜まったモノでは無いので、事実と嘘を混ぜながら付け加える。
『訳あって私の家はお金が足りないの。日々の生活の為にも何とか稼ぐ必要があった。でもアルバイトも出来る環境じゃなくてね。その時、偶々利用出来たのが音楽だった。私だって音楽は好きよ。でも、稼がなければ満足に歌う事だって出来ない。だから、お金の為に歌う私と頂点を目指して音楽に全てを掛ける貴女達。例え同じ事をしていても思いの差は歴然でしょう?』
一旦区切って、湊さん達に頭を下げる。これが今の僕に出来る最大限の礼儀である。
『だから、ごめんなさい。貴女達に教える事は出来ません』
「そう・・・」
『きっと私よりも良いコーチになりえる人は沢山居るわ。だから・・・』
「なら、月謝を払えば満足かしら?」
『・・・なんと?』
「毎月必ず、望む額を月謝として払うわ。それならアナタは確実に纏まった金額が手に入る。私たちも上のステージに上がる事が出来る。利害の一致と言うものよ」
「ま、待ってよ友希那。もし、高額だったらどうするのさ?」
「その時はアルバイトをしてでも稼ぐわ。さっきの評価と断った理由を聞いて確信した。この人の音楽に対する思いもまた、本物よ。Roseliaのコーチは間違いなく彼しか在り得ない」
「友希那にアルバイトなんて無理でしょ!?音楽以外の日常生活はポンコツなのに!」
「リサ。一度此処の裏で話し合いましょう?」
青筋立てながらも此方へ視線を向ける湊さんに僕は何とか言葉を絞り出した。
『どうしてそこまで・・・』
「今言った通りよ。アナタの音楽に対する思いは本物。決して資格が無いなんて言わせないわ。それに、あの演奏以上の人材を探せと言う方が難しいわ」
「・・・そうですね。確かに湊さんの言う通りです」
「紗夜まで・・・あーもう!やっぱりこうなるよね。うん、私もそうは思ってたし・・・」
「あ、あこも幾らまで払えるか分からないけど!ゴーストさんに色々教わりたいです!」
「あ、あの・・・私も・・・お願いします」
あれ?本当に断れない状況になって来たぞ?恐る恐る後ろに下がると、五人は距離を詰めて来る。それが数回続き、部屋の隅に追い詰められた所で全員からの期待を込めた視線から一言。
「「「「「コーチ、引き受けてくれますか?」」」」」
『・・・ひゃい』
完全敗北でした。
それからトントン拍子で事態は進んで行く。取り合えずコーチするのは全員の予定を合わせつつ週に3~4回で次のFWFまでの間。月謝は流石に高額は申し訳ないので、話し合いの末、月に一人千円で計五千円となった。最初は二千円位貰えればと提案したのだが、逆に申し訳ないと全員に猛反対された。
こうして、僕のホームレス兼コーチ生活というハードどころか難易度ルナティックな生活が幕を開けたのだった。
~練習後、外にて~
「練習の日程を伝えたいから携帯の番号を教えてくれるかしら?」
「・・・」
「えっ!?携帯持ってないの!?」
「まさかそこまで困窮して・・・」
「やっぱり月謝安いんじゃ・・・」
「値上げ・・・しますか・・・?」
何故か携帯持ってないだけで全員から生暖かい目で見られた。しょーがねーだろホームレスなんだから。
やっぱり住所不定無職って人権無いんだなって思った。
刹那サイド終了