今日も歌い、生きて行く   作:猫舌

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令和一発目行くぞォ!


第5話

刹那サイド

 

 

あれから日数が経った。僕の生活も、ただ歌うだけの生活からかなりの変化があった。朝にパンの耳を貰い、昼間はギターの練習に費やし、夕方はコーチの無い日は歌い、金髪の少女とオレンジの髪の少女と夜まで鬼ごっこ。

毎日限界まで動き続ける生活は体に堪えるが、何処か心地の良い感じがした。いや、別に僕がどМとかそう言うのではなくて。

そんなある日、FWFの日程も近付いて来た頃。僕はコーチの為にCiRCLEへと向かっていると、何やら物陰に隠れる宇田川さんと白金さんを見つけた。

 

 

「あ、ゴーストさん!こっちです!」

 

「あこちゃん・・・静かに・・・」

 

 

何やら慌ててる二人に、近付くと向こうを見ろとジェスチャーされる。その先には、誰かと建物へと入って行く湊さんの姿があった。その表情は何処か真剣だった。

 

 

「行こう、りんりん、ゴーストさん」

 

「良いのかな・・・?」

 

「だってあんな表情の友希那さん見た事ないし・・・」

 

「・・・」

 

 

面倒なので一人ライブハウスへ向かおうとするが、引っ張られた。建物の中に入ると、中に隣接されたカフェスペースで会話する二人を見つける。こっそりとその近くの席へと座り、会話を聞く。そして僕達はこの会話を聞くべきでは無かったと後悔した。

これが、僕の生活を更に変える騒動の始まりだったのだから・・・。

 

 

~SiRCLE~

 

 

僕達がSiRCLEに到着すると、既に湊さんと今井さんと氷川さんが待っていた。

 

 

「・・・30分の遅刻よ。やる気はあるの?」

 

 

まあ、貴女にバレない為と宇田川さんを白金さんと宥めてたからですけどね。

 

 

「そういう友希那も、15分遅れたけどね~。珍しい事もあるもんだね~」

 

「いいから早く準備してください。ロスした分を取り戻さなくては」

 

 

氷川さんの鋭い声が上がる。何度か練習を見たり、会話したりして彼女がストイックな人間なのは分かっていたけど、今日は何時にも増して厳しい。というよりも・・・焦ってる?

それと、どうやら湊さんは二人にさっきの事は言ってない様だ。宇田川さん達も少し驚いた表情をしている。もしかしてコレ。本当に、非常にマズイのでは?

 

 

「なーに3人して辛気臭い顔してんの?紗夜先生が怒るなんて何時もの事じゃーん☆」

 

「今井さん!真面目にやって。コンテストは刻一刻と近付いてるのよ」

 

『氷川さん。少し強く言いすぎです』

 

「・・・すみません」

 

 

流石に八つ当たり気味に声を上げる氷川さんを宥める。自分の声で止められたのもあって、少しは冷静になってくれたらしい。でも、事態が収まった訳ではない。正直言って、今日のRoseliaはガタガタだ。傍から見てもちょっとした事で崩壊しそうな位には。湊さんもさっきから気まずそうにしている。

 

 

「・・・あこ、燐子。早くして」

 

「え、ちょっと何?どうしちゃったの、3人とも」

 

 

今井さんはそう言いながら湊さんにも視線を向ける。どうやらこのマズイ状況に気付き始めたらしい。湊さんもこれ以上隠すと間違いなく危険だ。

そして俯く宇田川さんに氷川さんが声を上げた。

 

 

「宇田川さん。やる気が無いのなら帰「あ、あの・・・!」」

 

「あ、あこちゃん・・・!」

 

「ごめん、りんりん、ゴーストさん。あこ、みちゃったの・・・友希那さんがスーツの女の人と、ホテルで・・・話してて・・・」

 

「それがどうしたって言うの。湊さんにだってプライベートはあるでしょう?」

 

「で、でも・・・」

 

「あこちゃん・・・今は練習を・・・」

 

『白金さん。多分今話さないと、もっと後が辛くなる』

 

 

白金さんを宇田川さんの声で止める。ぶっちゃけ今話すのもアレだけど、後に回して露呈する方がもっと危うい。それこそ、このバンドが解散の可能性が出る位には。

 

 

「だって・・・コンテストに出られないなんてぜったいイヤなんだもん!」

 

「・・・どういう事?」

 

「今日・・・りんりんと待ち合わせしてて、そしたら・・・」

 

 

そして宇田川さんは語りだした。今日、あのホテルで何があったのかを・・・。

 

 

「スーツの人が、友希那さんを、その・・・スカウトしてて」

 

「貴女達・・・!」

 

「隠し聞きしてたのはごめんなさい!でも、友希那さんの雰囲気が気になっちゃって・・・それにあの人がストーカーか何かかと思って」

 

 

え、そんな事思ってたの?あんな堂々としたストーカーいて堪るか。

それは些細な事で本題はその後である。宇田川さんもあまり精神状態が安定してないので、説明が曖昧な点があるが、要約すると湊さんにRoseliaを捨ててステージに立たないか?というものだった。つまり、スカウト側は湊さんにしか興味ないと。そしてそれに対する友希那さんの答えは、保留に近いものだった。

そんな話を聞いて、氷川さんが湊さんを向いた。その目には明らかな怒りが見える。

 

 

「・・・宇田川さん達の言い分は分かったわ。湊さん、認識に相違は無いんですか?」

 

「・・・」

 

「・・・っ。私達とコンテストになんか出場せずに、自分一人本番のステージに立てれば良い。そういう事ですか?」

 

「私・・・は・・・」

 

 

湊さんにその気は無いのは何となく分かる。でも、本人の不器用な所と僕の知らない抱えたナニカの所為で言葉が出ないのだろう。だが、それは周りに大きな誤解を与えた。

沈黙は肯定、という最悪な誤解で。

 

 

「否定しないんですね。だったら・・・」

 

『待ってください。少し落ち着いて話し合いを』

 

「そ、そうだよ!友希那だってそう言った訳じゃないじゃん!友希那の言い分も、ね?」

 

『そうですよ。湊さんも・・・』

 

「・・・」

 

 

今黙んなでくれないかなぁ!?

僕と今井さんが折角タイミング作ったのに!

 

 

「ちょっと、何か・・・!」

 

「[私達なら、音楽の頂点を目指せる]なんて言って・・・[自分達の音楽を]なんて、メンバーを焚き付けて・・・フェスに出られれば、何でも、誰でも良かった。・・・そう言う事じゃないですか!」

 

『氷川さん!』

 

「メンバーの問題に口を出さないでください!」

 

「あ゛?」

 

「ひっ・・・失礼しました」

 

 

思わず地声で軽くキレてしまった。条件を最終的に受け入れたのは僕だが、そこまで部外者扱いされるとイラっと来る。あんなに頼んで来たから受け入れたのにその扱いマジで腹立つ。

 

 

「・・・え?それじゃあ・・・あこ達、その為だけに、集められたって事?」

 

「・・・あこちゃん、何も、そうとは・・・」

 

 

思ってたよりも事態は深刻だった。宇田川さんも疑問を持ち始めたし。白金さんがまだ理性的な人で助かった。

 

 

「あこ達の技術を認めてくれてたのも・・・Roseliaに全部掛けるって話も、みんな・・・嘘だったの・・・?----ッ!」

 

「あこちゃん・・・っ。待って・・・何処に・・・」

 

 

飛び出した宇田川さんを追って、白金さんもスタジオを出てしまった。その場に僕を含めて4人が取り残される。

 

 

「ちょっ、二人とも・・・!」

 

 

今井さんは呼び止めようとするが、もう遅い。そして当然、キレるのはもう一人。

 

 

「湊さん。私は本当に、貴女の信念を尊敬していました。だからこそ、私も・・・」

 

 

氷川さんは辛そうな表情を浮かべた後、無表情で冷たく言葉を発した。

 

 

「とても失望したわ」

 

『氷川さん、この場の全員も一旦落ち着いてください。無言イコール肯定と決めつけるのは早計です。取り合えずカフェテリアで何か飲んで・・・』

 

「ゴーストの言う通りだよ。お願い紗夜、少し待って。友希那の話を・・・」

 

「ならどうして目を合わせようともしないの!言葉に出せないのなら態度で示す位したらどうなの!」

 

「・・・」

 

「この行為が最大の答えじゃないっ!」

 

 

ダメだ。この人も、感情的になり過ぎてる。人間、一度キレると冷静な判断が出来なくなる。そしてその衝動に身を任せるともう止まらない。裏切られた’あの人’がそうだった様に・・・。

怒る氷川さんに今井さんは不安そうに聞いた。

 

 

「じゃあ、これから先、アタシ達、どうするつもり・・・?」

 

「貴女と湊さんは幼馴染。何も変わらないでしょうね」

 

「そう言う事じゃなくて・・・!」

 

『・・・これからRoseliaでどうするかと聞いているんです』

 

「私はまた時間を無駄にした事で、少し苛立っているの。申し訳ないけれど、失礼するわ」

 

「待ってよ紗夜!友希那っ。ねえ、今の話、全部本当なの?」

 

「本当だったら、何?」

 

 

なんでこの人はそんな言い方しか出来ないかなぁもう・・・!

このバンド中心的な人が不器用な奴らでしか構成されてないのか!?そんな僕の心配を余所に、二人の会話は進んで行く。

 

 

「・・・な、何って・・・このままじゃRoseliaは・・・それで良いの?」

 

『言いたいことがあるなら、細かい事考えずに言った方が良いですよ。でなきゃ本当に手遅れになります。今からなら追いかければ間に合います』

 

「----知らないっ!」

 

「----!友希那・・・」

 

「(・・・自分でも、どうしたら良いのか、分からない・・・)」

 

 

湊さんの表情が辛そうに歪む。そして、己の内に抱えるモノを一瞬だけ吐き出した。

 

 

「私は・・・っ、お父さんの為にフェスに出るの!昔からそれだけって、言って来たでしょ!」

 

「・・・友希那」

 

「・・・帰るわ」

 

「か、帰ってどうするつもり・・・?」

 

「フェスに向けた準備をするだけよ」

 

『それは、Roseliaを捨てると言う事ですか?幼馴染とやらの今井さんの思いを、氷川さん達の貴女を信じて共に此処まで来た思いも、全て踏みにじって一人で歌うつもりですか?それに・・・僕はこれからどうすれば良いんですか?』

 

「それは・・・ごめんなさい」

 

「友希那・・・っ!」

 

 

今井さんの声も虚しくスタジオの中へ消えて行った。そしてその場に僕達だけが残る。

 

 

「どうしよう・・・このままじゃRoseliaがバラバラに・・・」

 

『今井さん、取り合えず外に出ましょう。時間です』

 

 

僕は立ちすくむ今井さんを連れてSiRCLEを後にした。そして近くの公園のベンチに今井さんを座らせて自販機でカルピスを二本買い、その一本を渡す。

 

 

「ありがと・・・」

 

『いえ。別に、これ位・・・』

 

 

二人で缶を開けて中身を飲んで一息。無言の時間が流れる・・・。静寂を打ち消したのは今井さんだった。

 

 

「ごめんね、その、今日は」

 

『お気になさらず。それで?これからどうしますか?』

 

「うん、必ずアタシがなんとかするから心配しないで」

 

『・・・どうやって?』

 

「それは・・・」

 

 

黙り込んでしまう今井さんに、僕は溜息を吐きながら聞いた。

 

 

『何があったか、教えてもらえますか?湊さんに何があったのか。でないと何も出来ませんし』

 

「手伝ってくれるの?」

 

『コーチですから。バンドを見る責任はありますし。それに・・・目の前でそんなに辛そうな顔されたら、放っておけないですよ』

 

「・・・ありがと。あのね」

 

 

今井さんは一呼吸おいて、話し始めた。昔の湊さんはもっと明るい子だった事。中学の頃に湊さんのお父さんがミュージシャンをしていて、所属してた事務所から本来の路線とは違う歌でフェスに出場させられた事。そしてそれが原因で誹謗中傷を喰らってバンドが解散した事。その無念を晴らす為に湊さんはRoseliaを作った事。

段々と話し声が嗚咽混じりになって行く。やがて話し終えた今井さんは僕に抱き着いて本格的に泣き出した。僕よりも高い背をしてる筈の目の前の彼女は、小さく見えた。

今まで一人でずっと皆を支えて来たのだろう。それは並大抵の精神では無理な事だ。このバンドの精神的支柱は彼女にある。

 

 

「・・・大丈夫」

 

「あ・・・」

 

「Roseliaは、この青い五つの薔薇は絶対に散らない。散らさせない」

 

 

今だけは、声を隠す事なく今井さんを優しく抱きしめる。今の彼女を放っておいたら間違いなく壊れる。そんな事があれば絶対にこのバンドは終わる。それどころか、メンバー全員の今後の人生が滅びかねない。

それ以前に放置とか無理。ゲンさんにも言われたけど、やっぱり僕ってお人好しなのだろうか?

 

 

「今井さん、貴女の知るRoseliaのメンバーはこんな事で躓くと思いますか?」

 

「・・・思わない。だって、最高のメンバーだもん」

 

「ですね、僕もそう思います。じゃあ、いつまでも泣いてられませんよ。明日から忙しくなりますから」

 

「そう、だね」

 

「それに、今度は僕もいますから。今井さん。今まで一人でお疲れ様でした」

 

「うん・・・!うん・・・!」

 

「今度は、今井さんが皆を支える分、僕が今井さんを支えますから」

 

「・・・!」

 

 

再び泣き出した今井さんを抱きしめて撫で続ける。それから10分後位にようやく収まった・・・。

 

 

「ごめんね・・・濡らしちゃって」

 

「今井さんの心が少しは安らいだのなら、これ位良いですよ」

 

「・・・それが君の本当の声、なんだね」

 

「ええ。湊さんの過去とか、今井さんの抱えてたモノとか聞いてしまったのでこれ位は、まあ」

 

「ちょっとは君との距離が縮まったって事かな?だったら嬉しい」

 

「・・・」

 

「お?もしかして、照れちゃったのかな~?うりうり~☆」

 

「止めてくださいよ・・・」

 

 

憑き物が取れた表情で今井さんは僕の頬を突く。それを僕は甘んじて受け入れる。なにはともあれ、今井さんが安定して良かった。一番危なかったからね。

 

 

「今井さん、明日からの事なんですけど」

 

「うん。朝からって時間空いてる?」

 

「はい」

 

「じゃあ、九時にSiRCLEのカフェテリアに集合ね」

 

「分かりました。んじゃあ、一発説教かましに行きますか」

 

「説教・・・?」

 

「はい!」

 

 

今井さんに向かって僕は微笑む。

 

 

「人の事無理やり引っ張ってコーチにした癖に口出しするなとか、謝るだけで帰った二名にちょっとお話しがあるんで、ね?」

 

「そ、そっかぁ(友希那、紗夜・・・頑張って☆)」

 

 

後日聞いたが、この時の僕の後ろには阿修羅が見えたと言う・・・。

 

 

刹那サイド終了

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