セクハラ提督がいる鎮守府の日常   作:水羊羹

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天龍のパンチラを拝みたい

「天龍のパンチラを拝みたい」

 

 艦娘が使う室内訓練所。

 本来神聖なる場所の片隅で、そんな下劣な言葉を発する提督がいた。

 

「そんなに電のサンドバッグになりたかったのですか?」

 

 隣で休憩していた電が、イキイキとした顔でシャドーボクシングを始める。

 

「いやいや、なんでそうなるのよ。オレはただ、当たり前のことを言っただけなのに」

「その当たり前のことが非常識だといい加減理解するのです」

「え? 天龍のパンチラを見たいというのは世界の常識だろ?」

「勝手に常識を語るんじゃねーのです」

 

 拳圧がとても速い。

 提督の前髪を風が撫でた。

 

「ところで、さっきから殺意高くない?」

「安心して欲しいのです。殺す気で殴ってあげますから」

「それ安心できる要素ゼロじゃねーか!?」

「嫌いな人も、できれば助けたいのです」

「助けるどころかトドメを刺してる!」

「電の本気を見るのです!」

「嫌だよ!? 見たらオレ死ぬじゃん!」

 

 必死の説得により、渋々シャドーボクシングをやめた電。

 

「ちっ。仕留め損なったのです」

「マジでやる気だったのかよ……」

「それで、考えを改める気になったのですか?」

「え? そんなことないけど」

「……あのですね。司令官さんの心底くだらないセクハラに部下を巻き込まないでください」

「でも天龍ならなんだかんだ許してくれそうじゃない?」

「その代わり龍田さんに殺されるのです」

「…………ありえる」

 

 顔を青くする提督なのであった。

 

「考えていなかったのですか。バカなのです?」

「電って、時々凄い表情でこっちを見てくるよな」

「なんだかんだで?」

「そんな電が好き!」

「くたばれ」

「なんでそんなこと言われなきゃいけないの!?」

「ゴキブリから告白されて喜ぶ酔狂な人が世界にどれぐらいいると思いますか?」

「え? オレって電の中だとゴキブリと同レベルなの?」

「ふっ」

「哀れんだ!? オレを見て哀れんだだろ!?」

 

 散々喚いたあと、不意に真面目な顔に変わる提督。

 

「いきなり気持ち悪い顔になってどうしたのです?」

「だから辛辣……まあ、いいや。ということで、天龍のところに行ってくる」

「龍田さんに殺されそうですが?」

「それはまあ、その時考えるってことで」

「後先考えないクソ司令官さんなのですね……勝手にしてください」

「あれ? 今回は止めないのか」

 

 その言葉に、電は菩薩の笑みを浮かべる。

 

「骨は砕いて海に撒いてあげるのです」

「発想がやべーよ!?」

 

 恐ろしい想像に身が震える提督なのだった。

 

 

 


 

 

 訓練所の反対側で、天龍は訓練をしていた。

 

「天龍!」

「あん? げっ、提督かよ」

「え、なにその反応。オレって、天龍に嫌われていたっけ?」

「いやさ、オレは別に提督のことなんとも思ってねーけど、龍田がな?」

「なにそれこわい」

 

 龍田の根回しだと知り、ビビる提督。

 

「で? オレになんの用だよ。もしかして、出撃か!」

「違うちがう。ただ、天龍には重大なお願いがあって来たんだ。聞いてくれるか?」

「仕方ねぇな! 提督の頼みと来ちゃ、断る訳にはいかねーよな。よっしゃぁっ! なんでも来いや!」

「天龍のパンチラを見せてほしい」

「…………はっ?」

「パンチラを見せてほしい」

 

 二人は見つめ合う。

 しばらくして、ボンと顔色が真っ赤になる天龍。

 

「ば、ば、ば、バカじゃねーの!? 電にしばかれすぎて頭がおかしくなったか!?」

「俺は正常だ! 普通に天龍のパンチラを見たいだけだっ!」

「ぶっ飛ばすぞてめぇ!!」

「なんでそんな怒ってるんだよ!」

「たりめーだろ! なんでオレが提督にパ、パ……とにかく! それを見せなきゃいけねぇんだ!?」

「……照れてる天龍、可愛いな」

 

 思わず心の声が漏れると、天龍の額に青筋が立つ。

 

「よっしゃぁっ! 天龍様の攻撃だっ! うっしゃぁっ!」

「待てまてまて! なんでいきなり攻撃してくるんだよ!?」

「クソがっ! 逃げんじゃねぇ!」

「艦娘の艤装に当たったら死ぬでしょーがっ!」

「オラオラ! 天龍様のお通りだぞ!」

「うわあああっ!」

 

 なんだかんだ避けている提督だった。

 

「ちっ。逃げ足が速い野郎だ」

「だから、うちの艦娘殺意ある子が多すぎる!」

「当然だろ。いつもそんなふざけたことを言ってるんだったらな」

「くっ……せめて、さっきの動きでパンチラしてくれれば」

「もう一回ぶっぱなしてやろうか?」

「ごめんなさい!」

 

 イイ笑顔の天龍が怖かった。めちゃくちゃ。

 

「ふぅ……そ、それによ。提督はオレのなんかより、もっと見たい艦娘がいるだろ?」

「そんなことないと思うけど」

「え?」

「え?」

 

 顔を見合わす。

 

「……提督はオレをからかってんのか?」

「いやいや、天龍の可愛さは世界水準を軽く超えてるから、普通のことだろ?」

「バ、バカヤロー! そんなくだらにゃいことを言ってんじゃねぇ!」

「……噛んだな」

「……噛んでない」

「いや、噛んだ」

「噛んでねえ!」

「噛んだだろ! くだらないをくだらにゃいって言っただろ!」

「言ってねぇ! オレが噛むわけねーだろ! ぶっ飛ばすぞ!」

「フフフ、認めるのが怖いか」

 

 ブチン、となにかが切れる音がした。

 

「……ぶち殺す!」

「わあああ待ってからかったのは悪かったからその艤装をしまってお願いだから」

「そうよ〜? 提督を殺すのは私の役目なんだから」

「ちょっ!?」

 

 間近で聞こえた風を切る音。

 提督が間一髪避けなければ、首がおさらばしていただろう。

 

「龍田!? お前、どうしてここに」

「もちろん、天龍ちゃんを守るためよ?」

「別に、オレはお前に守られるほど落ちぶれちゃいねーよ」

「うふふ、さっきまで顔を赤くしていたのに〜?」

「見てたのかよっ!?」

「可愛かったわよ〜?」

「からかうんじゃねぇっ!」

 

 ひとしきり天龍をいじったあと、冷たい笑顔で提督を見やる龍田。

 

「どうしましたか〜?」

「どうしたかじゃないよ! 危うくオレ死にかけたんですけど!?」

「あらあら。まだ生きているなんてしぶといわね〜」

「マジで殺す気だったの!?」

「死にたい提督はどこかしら?」

「そんなのはいません」

「私の魚雷、うずうずしているの」

「だからやめてね!?」

 

 提督と話す龍田を見て、合点がいった顔で天龍が、

 

「提督と龍田は仲が良いな」

「え? どこを見たらそういう風に取れるわけ?」

「そうよ? 天龍ちゃんったら、疲れで目がおかしくなっちゃったのかしら」

「いやだってよ、提督と話す龍田が楽しそうだったからさ」

「……うふふ、アハハ、アハハハハッ!」

「お、おい、龍田? いきなり怖い顔で笑ってどうした?」

「天龍が変なこと言うから龍田がおかしくなっちゃったじゃん!」

「オレのせーかよ!?」

 

 ヒソヒソと話していると、据わった目の龍田が艤装展開。

 

「提督を殺すわ」

「なんでぇ!? オレなにもしてないじゃん!」

「あはははっ♪」

「笑って誤魔化さないで!?」

「龍田? さすがに提督を殺すのはやめておこうぜ?」

「大丈夫よ〜。私、天龍ちゃんより攻撃が上手だから。ヘマはしないわよ?」

「……なんだと?」

 

 雲行きが怪しくなってきた。

 

「うふふっ。そんなに睨んじゃって怖いわね〜」

「はっ。オレの方が上手いに決まってるだろ? なんたって、オレは天龍様なんだからな!」

「……私と練度が同じくせに」

「じゃあ、試してみるか? どっちが強いか」

「いいわよ〜? まあ、勝つのは私だけどね?」

 

 提督そっちのけで、二人は睨み合っている。

 

「あ、あのー?」

「後悔するなよ?」

「天龍ちゃんの方こそね?」

「うわ、マジで喧嘩を始めたよ……え、どうしよう」

 

 隅に避難した提督は、揺れる天龍のスカートを見つめた。

 もう少しでパンツが見えそうだ。

 

「おおっ! 棚からぼたもち!」

「怖くて声も出ねぇか? オラオラ!」

「な〜に〜? 痛いじゃない……お返しよっ!」

「ぐうっ! やるじゃねえか」

「天龍ちゃんも!」

「見え、見え、見え……! もう少し、もう少しだ! あ、くそ! そこでジャンプだ! よし! そのまま、そのまま……!」

 

 天龍が一際激しく動いた瞬間、微かに見える聖なる布──

 

「ぐああああっ!?」

「あん? なんだ……うぉっ」

 

 吹っ飛ばされ、天龍達の間に落ちた提督。

 ぐしゃりと倒れ、そのまま気絶してしまう。

 

「あらあら? どうやらおいたがすぎたようね」

 

 お仕置きしたのは龍田達ではない。

 回転式の壁からドロップキックを放った、電の仕業だった。

 

「ふぅ……悪は成敗、なのです」

「い、電? お前、なんでそんなところから、というか提督を蹴ってもいいのかよ?」

「問題ないのです。いつものことなので」

「そ、そうか。本当に、容赦がないんだな」

「それで、どうしてこのタイミングで止めたのかしら〜?」

「もう少しで、司令官さんが天龍さんのパンツを見るところだったからなのです」

「パッ!?」

 

 顔を真っ赤にして、スカートを押さえる天龍。

 

「うふふっ。可愛かったわよ〜、天龍ちゃんのパンツ」

「な、見たのか!?」

「ばっちりと♪」

「わ、わ、わ、忘れろぉ!」

「あら〜、天龍ちゃんがこわーい」

 

 じゃれ始めた二人をよそに、電は提督を肩に担ぐ。

 

「それじゃあ、電はこれを運ばなきゃいけないので」

「う、うぅん……熊さん?」

「なっ!?」

「提督の寝言に反応して、どうしたの〜?」

「べ、別になんでもねぇよ!」

「そういうことにしておくわね〜」

「ぶっ飛ばすッ!」

 

 再び艤装を構えた天龍を見て、呆れた顔で肩をすくめた電。

 

「龍田さんも猫さんですのに、人のことは言えないのです」

「……アハハ、なんのことかしら?」

「ですから、龍田さんのパンツが──」

「出撃します。死にたい船はどこかしら?」

「──おっと」

 

 電は提督を放り投げ、龍田の攻撃を避けた。

 

「うふふっ。追撃するね〜♪ 絶対逃がさないから」

「なんだ。龍田も同じだったのか」

「アハハ、アハハハハッ!」

「よいしょっと……天龍さん、あとはお願いするのです」

「は? お、おい、ちょっと待て!? オレ一人で龍田を止めろってか!?」

 

 提督を抱え直して、回転式の壁を押す電。

 

「逃がさないわよ!」

「待てってオレを置いていくなよ!」

「頑張ってください、なのです!」

「ちょ──」

 

 飛びかかってきたが、壁が閉められて激突する音が二つ響いた。

 こちら側からロックをかけたため、開くことはない。

 

「さて。司令官さんを運ぶのです」

 

 苦笑いを浮かべた電は、この場をあとにするのだった。

 

 

 

 

 




ひとまず書きたい艦娘は書き終えたので、完結とします。
以降は書きたい艦娘が思いついた時に気まぐれ更新します。
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