桜ヶ丘中学競技かるた部の全国予選から数日が過ぎた。生徒玄関の昇降口の廊下のショーケースには、歴代の運動部が獲ったたくさんのトロフィーが置かれている。その中に金色に輝く真新しい一つのトロフィーと賞状と一枚の写真が置かれている。トロフィーには、こう書かれていた。
「第135回 全国中学競技かるた選手権予選大会優勝 桜ヶ丘中学校」
そう、桜ヶ丘中学競技かるた部は念願の予選大会突破を果たし全国の切符を勝ち取ったのだ。そして終業式の前最後の朝部活、部室では今、かるた部の部員達が夏休み中に行われる全国大会に向けて練習を重ねていた。練習を始めてから2時間ぐらいが経った頃だった。
「よし、今日の練習はここまでだ。明日は終業式で明後日からは夏休みだが羽目を外すなよ! 解散」
今日はいつもより早めの切り上げとなった。部員達は、くたびれたような様子で「ハァ〜。疲れた」などの声が周りから聞こえる。
更衣室に戻る途中、輝は静矢と七海に声をかけられた。
「お疲れ、輝」
「お疲れ、静矢、七海」
(あっ…)
輝は、練習で疲れてクタクタで足がフラついて静矢の前に倒れそうになってしまった。
「おい‼︎ 大丈夫か? 輝? 」
静矢は、なんとから輝の身体を受け止めた。輝は、相当疲れている様子だった。
「平気、平気。ちょっと練習に気合いを入れ過ぎただけだって」
輝は、くたびれたような表情を静矢に向け何とか立ち上がった。
次の日、終業式が終わり教室でのHRも終わった放課後、2組の教室に桜木先生が来た。
「神崎‼︎ 」
「はい! 」
「この後職員室来てくれないか? 」
輝は桜木先生に職員室に呼ばれてしまった。本当なら静矢と七海と一緒に帰る予定だった。2人は、終わるまで待つと言ってくれたが待たせるのも悪いと思ったので先に帰っててと2人に言い1人職員室に向かった。
職員室に入り桜木先生を訪ねると桜木先生は、輝を会議室につれていった。 会議室に向かう途中、輝はなぜ自分だけ放課後呼び出されたのかその理由を考えていた。
(俺、何か悪いことしたのかな? でも身に覚え全く無いし…。まさか誰かからの苦情⁈ いや、苦情言われる覚えないし…。まさかこの間の決勝戦、何かミスしたのか? 俺)
会議室に入ると桜木先生は、「とりあえず座れ」と親切に言ってきた。輝は、桜木先生が自分を呼んだ意図が全くわからない。
「あの、いったいなんなんですか? 」
「話があるから呼ぶんだ。いいから座れ。神崎、コーヒー飲むか? 」
「いえ…いいです。」
俺は、仕方なく桜木先生に言われるがままに椅子に座った。桜木先生は机を挟んで輝と向かい合う形で輝の目の前の席に座った。
「なんですか? 話って? 」
「神崎。お前、最近何かあったか? 」
桜木先生は、顎杖を両手で突いて輝に聞く。
「何かって何もないですよ」
「いや…。ここ最近お前変わったなぁ…と思ってな」
「何にも変わってないですって」
「いや、変わったよ。去年のお前は、あまり熱心に練習してなかった。最近練習に一生懸命にやってる。何かあったか? 」
(あっ…)
輝は、去年の自分を思い出していた。
「実は4月に久しぶりに会えた女の子がいるんです。その子と約束したんです。目指す場所が違うけどお互い頑張ろうって。俺、その子と一緒にいると頑張ろうって思えるんです。俺が変われたんだとしたらその子のおかげです」
「そうか…。フフッ」
桜木先生は、コーヒーを一口飲み優しく微笑む。
「人が真剣に話してるのに何がそんなにおかしいんですか? 」
「いや…お前もちゃんとした人間なんだなと思ってさ。ところでその女の子って何部? 同じクラスか? 」
目をキラキラさせながら桜木先生は、身体を前のめりにして興味津々な様子で輝に聞く。
「いや。言えないですって…」
「勿体ぶるなww。誰にも言わないから、神崎」
「絶対に教えませんww」
「よほどお前は、その子が大事なんだな。神崎」
「はい…。とても大事な人です」
それから桜木先生との話が終わった。帰り際、桜木先生は「夏休み中にハメ外すなよ。まぁお前なら心配ないか! 」と優しく輝に言ってきた。
その日の夜、喫茶店を閉めた後、輝は家の店の後片付けの手伝いをしていた。だが輝が片付けをしている中、舞はカウンターの前でぐっだりとしていた。
「舞少し手伝ってくんない? 」
舞は、そう輝に言うが輝は「私は委員会活動したり勉強したりしてクタクタなの〜」と言って全くやる気ゼロの様子だった。
「母さんに怒られるぞ。頼むから手伝ってくれ」
「お兄やっといて」
舞は全くやろうとしなくて困っていた時、明穂が「輝、舞‼︎ ちょっといい? 」と大きな声で言ってきた。「やばい、怒られるぞ…」と思いながら2人は明穂の方を向く。
「聞いてほしいの…」
母さんが両手を身体の前で組んでいる。
「母さん、どうしたの? まさか…喫茶店が」
「実は…」としばらくの間を置いてから明穂は「夏休みの来週の土曜日、梨子ちゃん家に旅行に誘われて一緒に静岡の内浦に旅行に行くことになりましたー! 」と満点の笑顔で輝と舞に言った。
舞は「やったー。梨子姉と旅行だー! 」と大喜びの様子だったが輝はあまり気乗りがしない様子だった。
片付けが終わり輝は、部屋に戻ってため息をついた。
(梨子と旅行か…。梨子の家族と一緒に出掛けるって小学校以来だな…)
ついに旅行当日がやって来た。当日、神崎家が車で梨子達が住むマンションまで向かっていった。車でマンションの駐車場に着くと梨子と梨子の父親と母親の梨沙子がマンションの入り口前で立っており車から降りてすぐにそれぞれの両親は挨拶を交わした。
「おはよう。明穂ちゃん」
「おはよう」
「おはよう。輝君」
今日の梨子は、白とピンクが基調の半袖のTシャツ、青のショートパンツを履いて長い髪が後ろで綺麗に束ねられていた。
「おう…おはよう」
梨子の弾けるような笑顔を見て輝は、梨子が今日の旅行を楽しみにしているのがわかった。
「輝君、大丈夫? 具合悪い? 」
「いや…大丈夫」
梨子が輝の顔を下から覗き込んで見てくる。輝は、恥ずかしくて顔を隠した。
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桜内家が荷物を自分達の車に積んだ後は、車での移動となった。それぞれ自分の家の車に乗った。乗る際、明穂と梨子のお母さんは、「高速道路を使うけど渋滞は覚悟してね」とのことだった。
「お兄、旅館の近くに海あるんだって! 遊ぼうよ。梨子姉と一緒にさ! 」
「え? あ、あぁ…」
輝は、外の景色を見ながら舞にそう言って適当に返した。
(はぁ…)
正直、あまり気分が乗らない。全国が決まって練習もしたいのに…。今頃、他の学校は練習してるのにな。
輝はそんな思いを抱えたまま車に乗って高速道路を走ること途中、お昼休憩も入れ2時間…。 今日、輝達が泊まる旅館に着いた。
「えーと…じっせんまん? なんて読むの? これ…」
輝は、旅館の入り口前の看板に目が止まった。
「とちまんって読むんだよ。このバカ兄‼︎ 」
神崎家、桜内家が旅館の入り口に入ると旅館の従業員ではなくオレンジ色の髪の輝と梨子とほぼ同い年の女の子が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。ようこそ十千万へ」
そう言い女の子は、お辞儀をした。
「えーと、2部屋予約した桜内なんですが…」
「はい! 桜内様ですね。すぐお部屋にご案内しますね」
それから神崎家、桜内家は、それぞれの部屋へ案内され部屋に着いた。舞と明穂、梨子と梨沙子はそれぞれ部屋に着くと水着やらなんやら持って海に向かっていった。輝も舞に誘われて海に向かっていった。ちなみに輝のお父さんと梨子のお父さんは移動で疲れたとのことで部屋で休んでる。
海には、海水浴に来た家族やカップルがたくさんいてとても暑くたくさんの観光客で賑わっている。輝は、1人先に水着に着替え終わり海で待っていた。
「遅いなー。何やってんだろ」
「輝、お待たせ」
しばらく待っていると舞、梨子、明穂、梨沙子の4人がやって来た。
「おう。お待たー」
振り返ってお待たせと言おうとした輝だったが目の前の梨子の水着姿に目を疑った。何故なら髪を束ねた梨子が、下にピンク色のフリフリがついているビキニ姿で現れたからだ。
「輝ー。どう? 梨子ちゃんの水着? 」
明穂が満点の笑みで輝に感想を聞いてくる。
「いや…どうって言われても…」
(正直戸惑いしかない。てっきりスクール水着だと思ってたのに。普段恥ずかしがりで奥手な梨子が肌が露出した水着を着るなんて…。胸はあまり大きくないけどおへそがなんだかeー。って何考えてるんだよ! 俺‼︎ )
あまりにも恥ずかしくて輝は、梨子から目をそらした。
「どう…かな? 去年買ったんだけど恥ずかしくて着れなくて…」
梨子は、身体の前で手を組んで恥ずかしそうにしながら輝に聞いてくる。
「え…。あーうん。すごくいい。似合ってるよ」
とりあえず適当に輝は、流すことにした。
それから皆でレジャーシートを敷き場所を取ったら舞は、直ぐにビーチボールを、両手に海に駆け足で向かった。
「梨子姉、遊ぼうよー」
「待って。舞ちゃん、走ると危ないよ」
梨子は、日焼け止めを塗り終わり舞の所に向かう。
「輝君も行こ? 」
「俺は、いいよ。ここで見てるから」
流石に女子2人の中に男子が入るのは抵抗があるので輝は遠慮してレジャーシートで休むことにした。
だが梨子が輝の所に来て輝の右手を優しく掴み、「行こうよ、輝君。ねっ? 」と言い輝を海に連れて行った。それから3人は、ビーチボールで遊んだり水鉄砲で水を掛け合って遊んだり海で思い切り遊んで楽しんだ。明穂が記念に輝、梨子、舞の3人を写真に撮ってくれた。また海にいる全員で記念写真も撮った。
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それから楽しい時間はあっという間に終わり6時過ぎ誰もいない海。梨子と輝は、私服に着替え2人で砂浜の上に座り沈む夕陽を眺めていた。
「はぁー。今日は、楽しかったな〜。いつも大抵家の手伝いばっかだからこんな風に遊んだの久しぶりだよ〜。こうやってのんびりする日々を忘れてたよ」
「フフッ。私も、今日楽しかった」
梨子は、優しく微笑み輝にそう言った。
「おう。そう言えば、梨子。コンクールで金賞を取ったんだよな。母さんから聞いた。おめでとう」
「うん。輝君のおかげだよ」
「いや、俺は何もしてないって。梨子が自分の力で取ったんだから」
(ただ俺は、梨子に自分の気持ちに嘘をついて後悔してほしくなかっただけだ。俺は、何もしてない)
「うん…」
梨子は、少し下を向く。輝は、沈もうとする夕陽に染まる彼女の横顔に何故かドキドキしてしまっていた。
「合唱コンクールって夏休み中にあるんだよな? 梨子」
「うん。輝君も全国大会、夏休み中でしょ? 」
「うん。お互い頑張ろうな」
砂浜で2人が手を合わせる姿が夕陽をバックに照らされていた。
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夕食は、旅館の食事処で豪華な刺身の盛り合わせだった。神崎家、桜内家で主に輝と梨子が最近学校どんな感じなのか等いろいろ会話しながら食べてその日の夕食は賑やかだった。
夕食を食べ終え、輝は一人先に着替え終わりお風呂から出た。ちなみに輝のお父さんと梨子のお父さんはまだ入っている。輝は、部屋に向かうが途中で道がわからなくなってしまった。
「あれ? どっち行けばいいんだっけ? 」
輝は、誰かに聞こうと思ったが輝の近くには誰もいない。
悩んでると輝は、さっき旅館に入る際部屋まで案内してくれた女の子を見かけた。こっちに気づいたみたいで輝の方へとやって来た。
「こんばんは! どうかなさいましたか? あっ私、この旅館の娘で高海千歌っていいます。何かお探しですか? 」
輝は、千歌に用件を話すと千歌は部屋まで案内してくれた。案内中、いろいろおしゃべりをした。
「へぇー。千歌ちゃんってこの辺の中学通っているんだ」
「はい。ちなみに輝さんは、どちらからいらしたんですか? 」
「俺? 東京からだよ」
「東京かー。いいな〜。私のお母さんも東京でお仕事してるんですよ〜」
2人で会話しながら喋っていると廊下の曲がり角に着いた。
「ここの角を右に曲がったらすぐお部屋ですよ」
「ありがとう」
別れる際、千歌は「ごゆっくりしていってください」と言ってくれた。
輝は、部屋に着き入ると既に舞が梨子と机の上でトランプをして遊んでいた。梨子と舞は、それぞれ旅館の浴衣に身を包んでいた。梨子は、髪を束ねている。
「あ、輝君。今トランプしてたんだ。輝君もやる? 」
梨子がそう言ってくれ輝は、舞と梨子の3人で一緒にトランプを使ってババ抜きやいろいろなことをしてあそんだ。
楽しい時間もあっという間に終わりいよいよ寝る時間。明日は、旅館を出たら水族館に行くらしく朝9時にはここを出る。輝達は、早く布団に入った。
布団に入って22時頃…。
(ダメだ…‼︎ 全然寝れねぇ‼︎ )
輝は、ただ1人寝ることができず布団から出てしまった。すると突然、輝のスマホからLINEの着信音が鳴った。
「誰からだろう? 」そう思いながら輝は、スマホのLINEのアプリを開いた。開くと梨子からで「輝君、起きてる? 」と書かれていた。
輝は、直ぐに「うん。よく寝れなくて」とLINEを打った。 数分経って梨子から「部屋…もし良かったら…来る? 」と返信が来た。
驚いて輝は「いいの? 来て」と打った。梨子は、「来て欲しいかな…」と返信が来た。
輝は、直ぐに旅館のスリッパを履いて扉を開けて隣の梨子の部屋に向かった。
梨子の部屋の扉の前に来てトントンと扉を優しく叩いた後「梨子、俺だよ」と小声で言ったら梨子は、扉をゆっくり開けて「入っていいよ」と言い部屋に入れてくれた。
梨子は、ピンク色のシュシュで髪をまとめていた。
梨子の部屋に上がった輝は梨子と2人で、窓際に置かれた小さな椅子に座り外を眺めていた。
「空、綺麗だね。月が見えるよ、輝君」
「あぁ…」
(月よりも梨子の方が綺麗だよなんて言ったら絶対、梨子恥ずかしがるだろうな…)
輝は、そんなことを考えていた。
「私、もう寝ちゃうかな…。明日早いし」
「俺も部屋に戻るよ」
椅子から離れ2人は、それぞれの寝床に戻り始めようとしたその時だった。
「きゃっ⁈ 」
そんな声を出して前に転んでしまいそうになる梨子を輝は、支えようとするが支えきれず前のめりになり梨子が下に輝が上に来る形で床に倒れこんだ。 倒れ込む際ドサッという音がしたが梨子の両親は寝ていて誰も起きなかった。
「ごめんね…。輝君、私転んじゃって…」
「大丈夫…。平気」
(平気…なんだけど俺の二の腕がなんだか生暖かいんだけど…)
輝は、起き上がったが目の前の梨子の姿に目を疑った。何故なら梨子の浴衣がはだけて彼女の下着が見えてしまっているからだ。また肩と頰と唇は紅く紅潮し彼女の色白の肌は、夜空の光で淡白く見えた。
「梨子って…」
(肩と頰が紅くなってる…それに色白の肌が夜空で淡白く見えるし桜色の唇が綺麗で浴衣がはだけててなんだか…)
「何? 」
(いたたた…)
「下着…白なんだな」
輝は、つい思ったことを口に出してしまった。その瞬間、梨子は両手で胸を隠し「えっち」と言い輝の頰に梨子の平手打ちが飛んだ。平手打ちの際、パシーンという良い音が響いた。
そのあと輝は、梨子に何回も謝ったが許してもらえず「今晩、一緒の布団で寝てくれたら許してあげる」と言われ結局梨子の部屋で寝ることになった。一枚の布団で一緒に寝る際、輝が右側に梨子が左側にくる形になった。
「梨子…さっきはごめんな」
「いいよ。私の方こそごめんね。急に叩いたりして…」
「ねぇ…、輝君」
「? 何? 梨子」
「私の手、私がちゃんと寝れるまで握ってて欲しい…」
そう言い梨子は、掛け布団から自分の右手を出して輝に差し出してきた。
「こうでいい…のか? 」
と輝は、左手で梨子の右手を優しく握ってあげた。すると梨子は、「ありがとう」と優しく言い目を瞑った。
(これが梨子の手…)
輝は、梨子の手を右手で優しく握り爪や肌を見た。爪は綺麗で肌はとてもサラサラだった。しばらくして「梨子の手、凄く綺麗だね」と言おうとしたが梨子は、「スー、スー」静かに寝息を立てていてもう眠ってしまっていた。
「寝ちゃったか…」
2人で一緒に入る布団は暖かく輝は梨子の隣で深い眠りについてしまった。その日の夜、布団の中で手を握り合って寝る輝と梨子の姿があった。
次回は、後編です。また