「次は...お前の番だってばよ?」
分身ナルトは、冷めた目をしてガトーに告げると右手にクナイを持ち、ガトーの首に当てた。
「ヒッ!」
自らの屋敷が破壊され、放心していたガトーだったが、その冷たい感触によって、現実に引き戻される。
「や、止めてくれ...殺さないで...金をやる...あの小僧が依頼主だと言うなら、私が小僧の倍...いや10倍出そう...だから...」
「お前はさっき、再不斬を裏切ったばかりだろう?」
「そ...それは...」
金で助命を求めるガトーだったが、再不斬を裏切った事実を指摘されて、何も言えなくなってしまう。
「もう良いか?だったら...これで終わりだってばよ!」
ナルトがガトーに止めを刺そうとクナイを動かした、その瞬間...
「ナルト兄ちゃん、止めてぇ!」
大声でイナリが、ナルトの動きを制止した。
イナリは、ナルトがガトーの部下たちを相手に無双する姿を見て、まるで英雄を見ているように興奮していた。
しかし、完勝しガトーを拘束した後のナルトの表情を見て、その考えは一変する...今のナルトは怖い...そう思った。
直後に大きな爆発音が響き、ナルトの言動から、ガトーの屋敷を破壊したのだと知った。
『ガトーと、ガトーコーポレーションを倒して...』
自分は、ナルトにそう依頼した。
その内の一つ、ガトーコーポレーションを終わらせたナルトは次にガトーを殺そうと動く。
ナルトの目は、完全に凍りついていた。
イナリは、思わず叫んでいた。
「何で、止めるんだってばよ?イナリ...こいつはお前のじいちゃんや母ちゃんの命を狙い、町の人達を苦しめ、お前から父ちゃんを奪った...死んで当然のヤツだってばよ?」
「それでも...(僕はナルト兄ちゃんに、こんな顔をして欲しくないんだ...だから)もう良いんだ...ガトーを拘束した所で依頼は達成したって事にするよ。だから...そんな冷たい目をしないでよ。いつもの兄ちゃんに戻って。」
「イナリ...」
分身ナルトは、イナリの叫びに苦笑すると、クナイを下げて、消えてしまう。
そして、
ポン...
イナリの頭に手が添えられる。
思わず振り向くイナリ...その手の主は、ナルトの本体だった。
ナルトは尾獣玉を撃ってすぐ、尾獣化を解き、戻ってきていたのだ。
「イナリ...お前は強ぇな。大事な人が殺されてるのに、そいつを助けようなんて...並の男には出来ないってばよ。」
ナルトは、イナリのよく知る笑みを浮かべて、イナリを称賛した。
「違うんだ...僕は...ただ...(ナルト兄ちゃんに笑っていて欲しかっただけなんだ。)」
二人がそんなやり取りを行っている時、なんとか命が助かったガトーは...
(クソ...バカにしやがって...私を怒らせたこと...必ず後悔させてやる...)
船に向かって、一人逃げようとしていた。
「どこに行くんだ?ガトー...」
だが、その進路を塞ぐものがいた。
「ヒッ!ざ...再不斬...」
「ナルトがお前を見逃しても...お前が俺達を裏切った事実は変わらねぇ。忍を裏切ったらどうなるか...教えてやる。」
自らが小鬼と揶揄した男...その形相は小鬼なんてものでは決して無かった...
「死ね...」
ガトーはあっさりと、その命を終わらせたのだった。
「ナルト兄ちゃん...ガトーが...」
それを見たイナリは、恐怖に震えた。
「気にすんな。お前のせいじゃ無い。あれは自分の行動の結果だ。全ての人が、イナリみたいに強い訳じゃ無ぇんだってばよ。」
ナルトは悲しそうに、そう話すのだった。
「再不斬さん...」
ガトーを殺した再不斬に、白が近寄ってくる。
「無事だったみたいだな。」
「ええ...はっきり言って、僕ではナルト君の相手にもならかったですよ。ずっと手加減されてましたから...」
「そこまでか...」
ナルトの力は、どうやら自分が想像しているよりも、遥かに上のようだ...
(あの爆発の時に感じた巨大なチャクラ...あれもヤツの力の一端...か...)
そこまで考えた再不斬は、
「白...俺はヤツの提案に乗ってみようと思う。ガトーのヤツも始末しちまったしな...お前はどうする?」
白に問いかける。
「僕は、再不斬さんの道具です。もちろん、一緒に行きますよ。」
白は、当然の事のように答えるのだった。
一方、ナルトに気絶させられたサスケは、ちょうど目を覚ました所だった。
「サスケ君!気が付いたのね。良かった。」
サクラが、声をかけるなり、
「俺は...痛っ」
一瞬、自分がなぜここにいるのか理解できなかったサスケ...だが全身の痛みが、記憶を呼び覚ます。
「そうか...俺は...(負けた...のか...あのお面野郎に...そしてナルトに...)」
「ちくしょおおおおおお...」
サスケは、悔し涙を浮かべていた。
こんなハズでは無かった...アカデミーを卒業し、順調に力を付けて、イタチを殺す...そんなビジョンがサスケにはあった。
しかし、現実はそんな甘いものではなかった...ナルトに...白に負けた事実が強くサスケを苦しめる。
「サスケ君...」
サクラは、どうやって声をかけたら良いのかわからなかった。
どんな慰めの言葉も、今のサスケには効果が無い...そう思えた。
「ま、お前はまだ忍になったばかりだ。まだまだ伸びる。ナルトが気になるのはわかる。同期だからな...だが、今敵わないからと言って、この先もそうとは限らんだろ?今回の戦いでも、強くなった実感はあったろ?その悩みはお前にはまだ早すぎる。」
「カカシ...そう...だな...」
カカシの言葉に少しだけ気持ちを切り替えられたサスケは、未だ暗い表情ながらも頷いた。
そして再不斬たちは...
「世話になったな。ナルト...」
「ナルト君、本当にありがとうございました。」
ナルトに挨拶に来ていた。
「行くのか?」
「ああ...俺達は雇われていたとは言え、ガトーの一味だったからな。ここにはいられないさ。」
「そうか...」
「それと...お前の提案だが...受けてやる。」
「本当か!」
再不斬の言葉に喜ぶナルト。
「ええ...君の力は十分見せて貰いました。僕達は、君の夢に賭けてみようと思います。」
「落ち着いたら連絡をする。」
「本当にありがとうございます。」
二人はそう言うと、姿を消すのだった。
こうして、波の国の事件は幕を閉じた。
その後、またも写輪眼の反動で倒れたカカシの回復を待ち、とうとう木の葉に帰ることになった。
挨拶を交わすカカシとタズナ。
そしてナルトも...
「ナルト兄ちゃん...行っちゃうの?」
イナリは、寂しそうに言った。
「ああ。俺にも帰りを待っていてくれる人がいるからな。それに、またいつか...会えるってばよ。」
「本当?」
「もちろん。じいちゃんの後を継いで大工になるんだろ?そうだな...今回の依頼の報酬...まだ考えてなかったな。よし、じゃあお前が一人前の大工になったら、お前に家を作って貰うかな。」
ナルトはイナリを励まそうと、そんな提案をした。
「うん!その時は、任せて。橋作りだけじゃなくて、家作りも勉強するから。約束だよ。」
その提案を聞いて元気になるイナリ。
「イナリ...お前の行動は町の人達に勇気を取り戻した。きっとそれは、この町をまた賑やかにする。お前は父ちゃんと同じ...この町の英雄だってばよ。」
「ナルト兄ちゃん...」
ナルトの言葉に、嬉しさのあまり、涙を浮かべるイナリ。
「僕...きっと立派な大工になるから...だから...」
「ああ。さよならは言わないってばよ。またな。イナリ。」
「うん。きっとまた。元気でね。ナルト兄ちゃん。」
そうして、ナルト達は木の葉へと帰っていった。
イナリは、この時の約束を果たすため、努力を重ね、後に波の国一番の名工と呼ばれることになるが、それは別の話である。
「それはそうとナルト...勝手に依頼を受けた罰は受けてもらうから...」
「げっ!」
帰還の途中、良い笑顔でカカシはナルトに宣告した。
その罰により、全員の荷物を背負って帰るハメになるナルトだった。
「あ、木の葉の門が見えてきたわよ。」
初めての他国での長期任務...やはりサクラもひさしぶりの故郷に嬉しそうな声を上げた。
「ふぅ...大変な任務だったな...」
ほっと一息付くカカシ。
「.........。」
無言のサスケ。
そしてナルトは、門の前に待っていた人物を見て、駆け出していた。
門で待っていたのは、ヒナタだった。
ヒナタは、ナルトから貰った九尾のチャクラを覚え、ナルトが木の葉の近くまで来ていることを察したのだった。
「ナルト君。おかえりなさい。」
「ただいま。ヒナタ。」
ナルトは、ヒナタの笑顔での出迎えに、やはり自分の帰るべき場所はヒナタの所だと再確認した。
「え?何あれ?」
「?」
二人の様子を見たサクラとサスケは、驚いていた。
「あー...付き合ってるらしいよ?あの二人。」
カカシがさらっと真実を告げる。
「えええええええええええええええええ!」
サクラは驚愕して叫ぶのだった。
解散したあと、サクラの追及をかわしつつ、二人きりになったナルトとヒナタ。
「久しぶりだね。ナルト君。」
「本当にな。そうだ...ヒナタ、弁当ありがとうな。美味しかったってばよ。」
「本当?」
「もちろんだってばよ。」
「少し不安だったんだ...ナルト君の口に合わなかったらどうしようって。」
「そんなことあるわけ無いってばよ。すっげえ旨かったってばよ。」
「本当!?じゃあ、また作ってくるね?」
「ああ。楽しみにしてるってばよ。」
「.........。」
会話が途切れる。
ナルトは、ヒナタの手を握る。
そして...
「ヒナタ...会いたかったってばよ。」
「うん。私も...会いたかった...とっても...」
「ナルト君...本当に無事で良かった...改めて、おかえりなさい。」
「心配かけたな。ただいま...ヒナタ。」
二人はお互いに見つめ合うと、唇を重ねた。
今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。
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希望する
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希望しない