中忍試験の予選を突破して数日...
その日...ナルトはとある温泉街を歩いていた。
修行はヒナタやサクラとの修行時間以外にも行っている。しかしナルトの課題は全力戦闘に身体を慣らすこと...
一朝一夕でどうにかなるものでもない為、九喇嘛からも、無茶をしないようクギを刺されていた。
そのため、どのくらいの力までなら身体が保つのか...その辺を見極める事を当面の目標にしていた。
ちなみに、サスケは今回もカカシが連れていった。
おそらく、千鳥習得の為に特訓しているのだろう。
ふと、足を止めるナルト。
「ここは...(エロ仙人に初めてあった...)」
そこは、ナルトが初めて自来也と出会った場所であった。
ナルトは、特に目的があってここを訪れていた訳ではない。
自然と足が向かっていただけだ。
「エヘヘヘヘヘ...」
そこに、男はいた。男は、女風呂を覗きながらニヤけていた。
ナルトは、男を見ると嘆息する。
そして...大きく息を吸い込むと...
「覗きだ!覗きがいるってばよぉ!」
大声で叫んだ。
「「「「「キャアァァァァ」」」」」
「ち、違う...ワシは取材をしとっただけで...」
男は言い訳をするが、当然受け入れられる事はない。
色んな物が投げられてきて、仕方なくその場を退散することにした。
「坊主...何て事をしてくれるのかのぉ...お陰で取材が台無しだ。」
ナルトに文句を言う男。
「覗きなんてしてる方が悪いってばよ...エロ仙人...」
「取材だと言っとるのに...」
信じてもらえない男は、ナルトの言葉に一瞬驚いたが、直ぐに大袈裟に落ち込んだ様子を見せた。
だが、ナルトの様子を見た男は、気を取り直して、ナルトに声をかける。
「ところで坊主...」
「ん?なんだってばよ。」
「お主...なんで泣いておるのかのぉ...」
「え?」
男の指摘に、ナルトは、自分の頬を擦る...そこは涙で濡れていた。
ナルトは、別に泣いているつもりは無かった。
普段通り、話しているつもりだった。
男の...自来也の元気な姿を見て、自来也と会話をしている内に、自然と涙が出てきていたのだ。
「ハハ...なんだろうな...これ...止まらないってばよ...ハハハハハッ...」
ナルトにとって、自来也と言う人間は特別な存在だった。
イルカやカカシのように、ナルトを指導したものは他にもいたが、ナルトに師匠は誰かと聞かれれば、間違いなく自来也を挙げるだろう。
そして、自来也はナルトが生きてきた中で初めて、親の温もりをくれた人でもあった。
自来也と出会い、綱手の捜索や、その後の自来也と修行した3年間は、厳しくもあったがナルトにとっては宝物のような時間だった。
自来也と言う人物は、前世のナルトにとって、尊敬すべき師であり、目指すべき忍であり、そして...父であった。
「坊主...ホントに大丈夫かのぉ?」
「ハハ...わりぃ...本当になんでも無いってばよ...」
未だ涙を止めることはできず、ただ大丈夫だと繰り返すナルトに自来也は近付くと、
「そうか...なら今は何も聞かん...取り敢えず思い切り泣くと良いのぉ...」
そう言って、ナルトの頭を抱き寄せた。
「!?......くっ...うぅ...うぁぁぁぁぁぁぁぁ...」
その温もりに、遠き昔...自来也との日々を思い出したナルトは、我慢できず大声で泣いた...
それから少しして、ナルトが落ち着いた頃...
「もう、大丈夫かのぉ...」
「ああ...思い切り泣いて、スッキリしたってばよ。」
ナルトは、照れながら答える。
それを聞いた自来也は、少し表情を引き締めると、
「さて、それなら坊主...お前さんに聞きたいことがある。」
そう切り出した。
「なんだってばよ?」
「ワシの事をどこで聞いたのかのぉ?」
「...なんの事だってばよ?」
自来也の問いに、しらばっくれるナルト。
「惚けても無駄だのぉ...お前さん...ワシの事をなんと呼んだ?『エロ仙人』...ワシは名乗った覚えは無いのぉ...ましてや仙人等と言った記憶もない...」
核心をつく自来也に、ナルトは自嘲した笑いを浮かべると、
「やっぱり、あれはマズかったってばよ...懐かしさから、つい呼んじまったけど、失敗したと思ったんだよな...」
ナルトは演技を止めた。このまま、変に誤解されるのは避けたかったし、何よりも自来也に嘘を吐きたくなかった...
「エロ仙人は、俺の事を少しは知ってるんだろうけど...改めて名乗らせて貰うってばよ。俺はうずまきナルト...四代目火影の息子にして、九尾の人柱力...」
「な!?」
ナルトが、そこまで事情を理解していると思わなかった自来也は、大きく動揺した。
「そして未来から魂だけで逆行してきた、自来也の弟子であり、長門の弟弟子...七代目火影の...うずまきナルトだってばよ...」
だが、更に続けられた言葉に、驚きを超えて固まってしまう。
「ど、どういう事かのぉ...」
堪らず、事情を尋ねる自来也...
(大蛇丸なら、すぐに察してくれるんだけどなぁ...やっぱり、俺の師匠だけあるってばよ...)
そんなことを思い、苦笑しつつもナルトは全てを話した。
自分の前世での出来事を...自来也との関係や、その死に別れ...第四次忍界大戦...そして、火影就任から自身の最後...
自来也は、その間茶々を入れることもなく静かに聞いていた。
全ての話を聞いた自来也は、
「そうか...随分と苦労したみたいだのぉ...ナルトよ。」
そう言って、ナルトを労った。
「大事な時に...側にいてやることが出来なくてスマンかったのぉ。」
そして、ナルトに謝罪した後、改めて話し始めた。
「お前さんの事情はわかった。三代目が何を危惧しているのかものぉ。お前さんの事だ...ワシがお前さんに接触した理由も、察しているんだろおのぉ...」
「ああ...三代目に頼まれたんだろ?俺の監視を...後は暁からの護衛も含めて...か?」
ナルトは、当然の事ながらわかっていた。
七代目火影として働いてきたナルトは、三代目の考えや行動を、なんとなく読むことが出来た。
自分がヒルゼンの立場なら、やはり監視をつけただろう...
例え、自分の意にそぐわなかったとしても...
「流石だのぉ...三代目は、お前さんが怖いのだろぉのぉ...これまで木の葉が、お前さんにしてきた仕打ちを考えれば、復讐されても仕方がないからのぉ...」
自来也は、そう言うと視線を下げた。
同じ木の葉の者として、ナルトに言い訳をすることも出来なかった。
「それで...お前さんはこれからどうするのかのぉ?」
だが、これだけは聞いておきたかった...
もし、ナルトが木の葉と敵対する道を選ぶなら、今の自分では無いが、未来の自分の弟子であるナルトを、師として...止めなければならない...そう考えていた。
「それは...いくらエロ仙人でも言えないってばよ...」
だが、ナルトはそれに関しては言えないと断る。
「ワシは信用出来んかのぉ...」
自来也は、そう言うが、
「エロ仙人個人なら信用するってばよ...でも...」
「でも?」
「エロ仙人は、木の葉の伝説の三忍...火影に最も近い立場の忍だってばよ...そして、エロ仙人...あんたは木の葉の忍としての立場を捨てられない...」
ナルトは断言した...
自来也は、木の葉を捨ててナルトの味方にはなれないと...
「.........そう...かもしれんのぉ...」
自来也は、ナルトの言葉を肯定した。
木の葉の忍として、何十年とやって来た自来也...
その間に、多くのしがらみも出来た。
自来也が、木の葉を抜ければ困る人物が多くいる。
それを考えれば、ナルトの為に木の葉を抜けるなどと軽々しく言えるハズも無かった...
「とは言え、エロ仙人に嘘は吐きたくねぇ...だから『言えない』んだってばよ...」
ナルトも当然、自来也の立場は理解している。
味方になって欲しい等と言うつもりはない。
「ただ...信じてもらえないかも知れないけど...別に木の葉に復讐するとか...そんなつもりは一切無いってばよ...」
ただ、そう言うだけだった...
自来也にしてみれば、根拠もない...信じられないだろう言葉...
「いや...ワシは信じる...お前は、木の葉に復讐などせんとのぉ。」
だが、自来也は信じると言った。
「未来のワシがお前を信じて、弟子として取ったのだ...信じぬ訳にはいかんのぉ...」
自来也は、そう言って豪快に笑った。
ナルトも釣られて笑う。
しばらく二人で笑い合った。
気が付けば、かなりの時間が経過していた。
もうすぐ、ヒナタ達との待ち合わせの時間だ。
「エロ仙人...そろそろ俺は行くってばよ...」
名残り惜しいが、今の自分に取って最も大切な人を待たせる訳には行かない。
ナルトは、そう言ってその場を後にしようとする。
「ナルト、それなら...お前さんに餞別をやろうかのぉ...」
別れ際、自来也はそう言うと大きな巻物を取り出した。
「これは...口寄せの為の契約書...」
ナルトにとっては、懐かしい物だった。
この時代に来て...ガマとの契約は解除されていた...
「良いのか?俺に力を与える事になるってばよ?」
ナルトは、自来也にそう聞くが、
「ワシはお前を信じると決めたからのぉ。お前さんが何をするつもりかは知らんが...戦力は多いに越した事は無いからのぉ。」
「...ありがとう...エロ仙人...」
「そう思うなら、エロ仙人は止めてくれんかのぉ...まあ...良いか...さっさと契約を済ますかのぉ...やり方はわかるか?」
「ああ...」
ナルトは指を噛んで血を出すと、契約書に名前を書いた。
「どれ、試しに口寄せしてみてくれんかのぉ...」
自来也のリクエストにナルトは頷く。
「じゃあ、ガマ親分でも...」
「ちょっと待てナルト...ガマ親分ってぇのはもしかしてガマ文太の事かのぉ...」
ナルトが、何を呼び出そうとしてるのか察した自来也は、慌てて止める。
「ん?そうだってばよ?」
「あのな、ナルト...あの図体の文太を、ここで呼び出したら大変な事になるだろうのぉ...」
「あ...」
自来也の指摘に、冷や汗を流すナルト。
温泉街から離れたとは言え、ここは町中...そんな場所で巨大なカエルを召喚したら、とんでもない被害が出る...
「全く...うかつなヤツだのぉ...」
「ハハハ...」
自来也の言葉に笑って誤魔化すナルト。
普段のナルトなら、そんなミスは犯さない。
だが、自来也が信じてくれた事が嬉しかったのだろう...
ナルトは浮かれていた様だ...
「そうだな...じゃあアイツを呼ぶか...」
ナルトは、呼び出すガマを決めると
改めて指先を噛み血を流す。そして印を結ぶ...
『口寄せの術!』
ナルトの口寄せによって呼ばれたガマ...
「なんじゃ!ガキじゃがな...用があるならオヤツくれーや。じゃねぇと一緒に遊んでやらんで。」
「今は持ってねぇけど...俺と友達にならねぇか?」
ナルトはガマ吉を召喚した。
前世で、ナルトと最も縁が深かったガマは、恐らくガマ吉だろう。
ナルトの真剣な表情に何かを感じたガマ吉は、ナルトの友となることを了承した。
その様子を見守っていた自来也は、ふっと笑った。
(やはり、この子なら大丈夫だのぉ。)
自来也は、改めてナルトを信じることにした。
その後、自来也と別れたナルトは、急ぎヒナタ達の元へと向かったが、結局遅刻して二人に土下座することになるのだが...
それでも、その日...ナルトから笑顔が絶える事はなかった。
今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。
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希望する
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希望しない