それから、しばらく経った。
目指すべき目標を定めたナルトだったが、そこには大きな壁があった。
ナルトは、忍術がとてつもなく苦手だったのだ。
人よりも努力して...それでもなかなか上手く術を扱えない...
ナルトは、卒業試験を落第してしまう。
当然、やる気も無くなり、座学にも集中できず...
「火影になる!」
ただ、口で言うだけでどうすれば良いか、全くわからなかった...
それでも、諦めきれず忍術の修行を続けていた。
実のところ、ナルトが忍術...と言うよりチャクラの扱いが下手な事には理由があった。
内に封印された九尾の存在である。
チャクラを練る...それは多分に感覚的なものだ。
生まれつき持っているチャクラを感じとり、必要な分だけ取り出して使う。
だが、ナルトは生まれつき持っているチャクラの他に、九尾のチャクラを持っている。
しかも、そのチャクラはナルトのチャクラに還元出来るように封印されていた。
通常の状態でも、極小量の九尾のチャクラがナルトのチャクラに混じってしまっている。
それがナルトの感覚を狂わせ、チャクラの扱いをとてつもなく難しくしていた。
例えるなら、コップに水を汲むのにバケツを使っているようなものだ...
分身の術のように、必要なチャクラが少ないもの程ナルトにとっては、難しい術だった。
変化の術はまだ自分に掛けるものだから、何度も何度も修行して会得した。
それでも、普通の人にとっては神業のようなチャクラコントロールなのだが...
影分身の術をたった数時間で会得したのは、影分身の術の必要なチャクラ量が多かったからだ。
バケツでバケツの水を満杯にするのだから、ナルトにとっては、普通の分身の術よりも、むしろ影分身の方が遥かに簡単だったのだ。
ナルトがアカデミーに入って3期目...
ナルトにとって、転機が訪れる。
ナルトは二度卒業試験に落ちた...
それでもめげずに火影を目指す。
同期の仲間にも恵まれた。
今期の仲間は、ナルトを落ちこぼれとして見ることはあっても、"人じゃない何か"として見る者はいなかった。
授業をサボって一緒に叱られたり、一緒に遊んだり...
落ちこぼれと言う言葉に反発はしても、ナルトにとって今期の仲間といる時は楽しかった。
(ナルト...良かった...)
ミナトも、ホッとする。
そして、卒業試験...またも落ちることになるナルトだったが、ミズキの話を信じて禁術の書を盗む。
そこで影分身を会得し、ナルトにとって救いの言葉をイルカから聞く。
その言葉は後のナルトにとって、いつまでも消えないかがり火となる...
(イルカ先生...本当にありがとう...)
ミナトは、イルカの言葉に感謝の念が絶えなかった。
アカデミーを卒業し、第七班として正式に忍者として活動を始めるナルト。
その後、波の国の任務や、中忍試験、木の葉崩し...自来也との綱手捜索...
ナルトはその都度、諦めず努力を続けて強くなり、少しずつ里の人間に認められるようになっていった...
しかし、ナルトにとってまたも絶望が襲う。
ナルトが一番認めてもらいたかった相手...
うちはサスケが里を抜ける。
力及ばず、サスケの里抜けを許してしまうナルト。
「なんでだってばよ...サスケ...」
(サスケ君...どうして...)
ミナトも、サスケが里を抜けた理由が理解できなかった。
サスケは、波の国で命懸けでナルトを救った...
クールなふりをしているが、とても情に厚い人間に思えた。
だが、サスケはナルトの制止を振り切り、大蛇丸の元へと向かってしまった...
ナルトは暁から身を守るため、またサスケを取り戻すため、正式に自来也の弟子となる。
二年半、里を出て修行を続けたナルトは大きく成長した。
そしてナルトにとって、その二年半は家族の温もりを感じた宝物になった。
(自来也先生...)
自来也に複雑な思いを抱くミナト...
ナルトに家族の温もりを与えてくれたことに感謝はするが、同時に嫉妬もしてしまう。
本当なら、ナルトにその温もりを与えてやるのは自分やクシナのハズだったのに...
どうしようもないことだと理解しながらも、思わずにはいられなかった...
ナルトが木の葉に帰ってから、ナルトが関わる事件はどんどん大きくなっていった...
風影になった我愛羅...その我愛羅が暁に誘拐される。
我愛羅奪還任務...
サスケを取り戻すために、大蛇丸の元へ向かうナルト...
だが、サスケは想像以上に強くなっており、ナルトは自分の弱さを痛感する。
その後、サスケに追い付くため、更なる修行をして風遁螺旋手裏剣を会得し、暁の一人を仕留める。
そして仙術をものにするが、暁のペインによって木の葉は壊滅的な被害を受ける。
ペインとの戦いで、封印術に仕込んだミナトとの邂逅を果たすナルト。
この頃のナルトは、ミナトを父と認め...火影の息子だからと、それまでの苦労を許していた。
そして、ペインの正体である兄弟子...長門を説得し、なんとか里の人間の命だけは救われた。
ビーとの修行で、九尾のチャクラをコントロールする術を学ぶナルト。
その過程で、クシナとも再会するナルト。
(クシナ...ありがとう...)
ナルトが憎しみに飲まれそうになったとき...
クシナがナルトを助けた。
ナルトは望まれて生まれた...それを知れただけでも、ナルトにとっては救いだった...
そして、第4次忍界大戦が始まる。
仮面の男がオビトだと知ったミナトは、大きく動揺する。
オビトの糾弾には、心を抉られるようだった。
それでも折れず...諦めず...戦うナルトに勇気付けられる。
そして、ナルトは六道仙人に力を託され、世界を救い...友も、救った。
その後、ナルトはヒナタと結ばれ、二人の子供も生まれた。
そして、子供の頃からの夢だった火影となる。
火影として、忙しい毎日に子供...特に息子のボルトとは、ギクシャクした関係になってしまう。
ナルトは子供の頃から家族がいなかったために、家族との接し方が上手くなかった。
それでも、ボルトの中忍試験での事件をきっかけに、関係を修復するナルト。
ナルトは、火影として...そして父親として、それから一生懸命に生きていた。
(ナルト...良かった...本当に...)
ミナトは、ナルトの幸せな結末を思い描いていた。
そして、その事件は起こる...
(嘘だ...嘘だ...嘘だ...嘘だ...嘘だ...嘘だ...嘘だ...)
目の前に地獄が広がっていた...
愛する妻と...娘が死に、家は燃え、そして...
(あ...ああ...うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
『どうだった...ナルトの過去は...』
気が付くと、そこに九喇嘛がいた。
ミナトは、知らない内に膝を突き、両目からは止まることの無い涙が溢れ、息は荒くなっていた...
「これが...ナルトの結末...」
独り言のようにごちるミナト。
『そうだ...そしてその結末を引き起こした原因を作ったのは...ワシであり...ミナト...お前だ...』
「!?」
九喇嘛の指摘に、改めて自分の業の深さを思い知らされるミナト。
「まあ...九喇嘛の言葉はともかく...これで俺の過去は知ってもらったってばよ...」
だが肝心のナルトは、特に怒りも憎しみも感じない冷静な声で、淡々と話を続ける。
「ああ...よくわかったよ...こんなんじゃ...僕を憎むのは当然だ...僕が君に九尾を封印したせいで...」
「やっぱり...わかってねぇってばよ...」
「え?」
「俺は、何も俺を人柱力にしたこと...それ自体を憎んでる訳じゃねぇってばよ。」
ナルトの言葉を理解できないミナト。
そんなミナトを見て、ナルトは一つ嘆息すると、自分の思いを口にする。
「確かに、俺の結末はあんたが俺を人柱力にしたことが原因だ。だけど俺にとって苦しかったのは、俺自身のことより、とばっちりで殺されたヒナタやヒマワリ...それにボルトを独りにしちまった事...が...それは、俺が守れなかったのが悪いってばよ...」
「俺があんたを憎むとすれば...それは...あんたが親であることよりも火影であることを選んだ...その一点だけだってばよ...」
「え?」
「未来で...二人の子供に恵まれて...俺も親になった...そん時に思ったんだ...親が子供を戦いの道具にする...それだけはあっちゃいけねぇんだって...」
「な!?僕はそんなつもりは...」
ナルトの言葉を慌てて否定しようとするミナトだったが、ナルトがその言葉を遮り、話を続ける。
「あの時...あんたは、俺に九喇嘛の半身を封印した...あんたは知っていたよな?人柱力がどんな扱いを受けてきたか...」
「.........。」
「ましてや...封印が解かれて九尾が里で暴れた...犠牲者も多く出た...そんな事が起これば、里の人間がどう思うか...それまで以上に扱いが酷くなるのはわかるだろ?」
「あの時、あんたにはもう一つ選択肢があった。俺に封印した九喇嘛...それを死にかけてた母ちゃんに封印して、二人とも死鬼封尽に括られる。もちろん、そうした方が良かったって言ってる訳じゃねぇってばよ?」
「ただ、あんたはそれを選ばなかった...何故だ?」
「それは、ナルトがこの力をコントロールしてくれると信じたから...この力がいずれ必要だと思ったから...」
ミナトの言葉を聞いたナルトの目に冷たい色が浮かぶ。
「信じる...か?随分と無責任な言葉だと思わないか?四代目...あの時...何もわからねぇ赤子の俺の...何をあんたは信じたんだってばよ...」
「それは...僕とクシナの子だから...」
「子供に苦難を背負わせようとした親が言う台詞じゃあねぇってばよ...それは...」
「.........。」
「誤魔化すなよ?四代目...確かにその考えは少しはあったんだろうが...あんたがあの時一番に考えていたのは違うだろ?」
「な、何を誤魔化すって言うんだい?」
ミナトはナルトが何を言おうとしているのかわからなかった...いや...わからないフリをした。
「この里から人柱力がいなくなるのは、里にとって大きな損失だ...だからあんたは考えた...自分の子供に人柱力になってもらおうと...」
「火影として、里の全体の利益を考えなきゃならないあんたは...親として子供の幸せを願うよりも、里の幸せを優先した...それが...何よりも許せねぇんだってばよ...」
「ナルト...オレは...」
そんなことを考えていた訳ではない...そう言いたかったが、何故かそれを言葉にする事が出来なかった。
「俺は、あんたを父親と呼ぶことは...もう二度と無いってばよ...ヒナタとヒマワリを死なせて、ボルトには俺と同じ孤独を味合わせる事になっちまった...それは俺のせいだが...それでもその原因を作ったのは...やっぱり...親としてよりも...火影としての立場を選んだあんただから...」
ナルトの言葉に、ミナトはとうとう膝を崩し泣き崩れてしまった。
「ナルト...ごめん...本当にごめんよ...」
泣き崩れるミナトにナルトは話しかける。
「四代目...もう良いんだ...あんたは確かに間違ってばかりだった...でもだからって、あんたに悪意があったなんて思ってる訳でもねぇんだってばよ...」
「ナルト...オレは...」
「俺はもう...親が必要な子供じゃねぇんだ...俺は俺の夢のために、今を精一杯生きるつもりだ...だから、あんたは安心して休んでくれってばよ...」
ナルトの声には、既に憎悪も嫌悪も感じられなかった。
ただただ...透明な声音で話しかけるナルト...
ナルトはただ、ミナトに知って欲しかっただけだった。
憎しみ...それは確かに無いわけではない。
だがそれよりも、あの時の選択...それは親として正当化されるべきものではないのだと。
あの選択は、ナルトのためではなく里の為であったのだと、気付いて欲しかった...
「オレに...出来ることはもう...無いのかい?」
ミナトが、せめて何かナルトの役に立ちたいと声をかける。
「一つだけある。このタイミングで、わざわざ会いに来た理由...九喇嘛の半身を返してやってくれってばよ...」
「...わかったよ...ナルト...」
ナルトは木の葉の敵となるかもしれない...
本来なら渡すべきではないのだろう...
しかし、ミナトにはナルトの願いを聞く以外の選択肢は無かった。
過去に間違ってしまったからこそ、今度こそ親として...
例えナルトにそう見てもらえないとしても...
自分の中の九喇嘛を解放するミナト。
九喇嘛は、この世界での自分を完全に取り戻した。
「...ありがとな...(父ちゃん)」
「ナルト...」
ナルトが自分を父と呼んだように聞こえた。
それだけで、ミナトは満足だった。
その瞬間、ミナトの身体が俄に発光する。
未練の解消されたミナトは、穢土転生から解放されようとしていた。
魂が空に浮き上がるのを感じるミナト...
「クシナ...オレたちのナルトは...とても強い子に育っていたよ...失敗ばかりしてたオレなんかとは...比べられないくらいに。」
『そうね...ずっと見てたから...知ってるってばね...』
ふと気が付くと、そこにクシナがいた。
「クシナ...やっと会えた...そこにいたんだね。」
ミナトは、死鬼封尽で魂を封じられ...二度とクシナに会うことは出来ないと覚悟していた...
だが、今...死鬼封尽から解放され、穢土転生からも解放された。
ようやく、クシナの元に帰ってこれたのだ。
『お帰りなさい...ミナト...』
「ただいま...クシナ...」
二人は、ナルトの方を見る。
『私たちは、もうあの子を抱き締めてあげる事が出来ないってばね...だからせめて...見守ってあげましょう?あの子が作る未来を...』
「そうだね...見守って行こう...二人で...」
ミナトは、ようやく心安らげる場所に辿り着くことが出来たのだった。
今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。
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希望する
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希望しない