ヒナタが気を失い、介抱するナルト。
しかしナルトは突然、ある場所に向かって話しかけた。
「いるんだろ?イルカ先生。出てきて良いってばよ。」
「.........。お前...いつから気づいてたんだ?」
ナルトの声かけに、罰の悪そうな表情を浮かべながらイルカが姿を現した。
実はイルカもまた、ナルトの様子を心配して探していたのだ。
ようやくナルトを見つけたイルカだったが、先にヒナタとの会話が始まってしまい、何となく出にくくなってしまった為、そのまま隠れていたのだ。
ナルトの話を聞いたイルカ...そしてその前世の凄絶な人生に胸を痛めていた。
「最初からだってばよ。まあ、イルカ先生に関しては信用してるから、特に何もせずにそのまま話を聞いてもらったんだけどな...」
「流石は、未来の火影ってところか。」
イルカはナルトの言葉に驚きながらも、やはりさっきの話は事実なんだと再確認した。
「ナルト...すまなかった...」
イルカは頭を下げた。
「なんで、イルカ先生が謝るんだってばよ?」
「俺は...ナルトが苦しんでいるのを知っていて助けられなかった...だから...」
「イルカ先生のせいじゃないってばよ...それに言ったろ?俺はイルカ先生を信用してるって...」
「なんで...俺を信用してくれるんだ?」
「イルカ先生はさ、俺を『うずまきナルト』として見てくれた初めての里の大人なんだってばよ。前世で...俺の行動が少しずつ認めてもらえる様になった。でも、俺が認めて貰えるような行動を起こす前から、俺を認めてくれたのはイルカ先生だけなんだってばよ。」
「ナルト...」
「イルカ先生は、俺が最も憧れる忍だ。だから俺はイルカ先生を信用するってばよ。」
イルカはナルトの言葉に、不覚にも泣きそうになっていた。
「ありがとな...ナルト。」
「それはこっちの台詞だってばよ。イルカ先生が認めてくれたから、諦めずに頑張れたんだからな。」
そう言ってナルトは笑顔を向けた。
その笑顔を見たイルカは、真剣な表情をして話す。
「ナルト...もし、お前がこれからどんな決断を下すのか...俺にはわからない。もしかしたら木の葉を敵に回すのかもしれない。それでも俺は、例え敵に回るのだとしても、お前の決断を応援するよ。こんな事しか言えないけど...」
「ありがとな...先生。」
「良いんだ。」
「イルカ先生。ヒナタの事頼めるかな?」
「それは良いけど...どこに行くんだ?」
「三代目のじいちゃんの所だってばよ...」
ヒナタをイルカに託したナルトは、一人火影室へ向かうのだった。
「じいちゃん...いるんだろ?入るってばよ。」
ナルトはノックもせずに火影室へと入っていった。
「おお...ナルトか。こんな遅くにどうかしたのか?」
そこに三代目火影...猿飛ヒルゼンはいた。
「白々しい真似は止めようぜ?じいちゃん...。覗いてたんだろ?全部。あの水晶玉で...」
「......目的は...お前を迫害してきた里へのフォローをしなかったワシヘの復讐かの?」
全てを察しているナルトに、苦々しくそう口にするヒルゼン。
「そんな事しねぇって...。」
自分への復讐に来たのかと問うヒルゼンに呆れながら否定の言葉を告げるナルト。
「ならば、何をしに来たのじゃ?」
「もちろん、これからの事を話しに来たんだってばよ...。っとその前に、暗部は下がらせてくれねぇか?一応、機密の話もあるかも知れねえし。」
「ふむ...わかった。お前たち下がってよいぞ?」
ヒルゼンは少し考えたのち、部屋に待機していた暗部に手で合図をして下がらせる。
「それで...今後の話とはなんじゃ?」
ヒルゼンは、ナルトを警戒しながら話の続きを促す。
「そんなに警戒しなくても、じいちゃんに何かするつもりはねぇってばよ。まあ...後ろめたい事があるから仕方ないんだろうけどな...。」
「それで?」
「俺が未来から逆行したのは聞いてたよな?その結末も。」
「.........ああ。」
ヒルゼンは目を伏せながら、肯定する。
「じいちゃんは、俺の事が怖いんだろ?」
はっきりと告げるナルト。
「......そうじゃな...尾獣の力と言うのは、嫌と言うほど理解しておる。お前が九尾と和解し、その力を存分に使えるなら、木の葉にとって、これほどの脅威も無かろうて...」
そんなナルトに、ヒルゼンも素直に頷いた。
「まあ...その気になれば、この里を壊滅させるのは簡単だってばよ?」
ヒルゼンは、里を壊滅させるのを簡単だと話すナルトに心底恐怖した。
「今の所、木の葉に復讐する気は無いって言っても、信じられないだろ?だから...ビジネスをしよう。じいちゃん。いや...三代目火影。」
「ビジネス...じゃと?」
ナルトの提案が理解できず、聞き返すヒルゼン。
「俺の言葉を信用できないのは、木の葉が俺に対して行ってきた事が原因だろ?復讐されても仕方ないと考える程度には、俺にして来た仕打ちに後ろめたさを持ってる...」
「.........。」
「だから、代価を用意するんだってばよ。俺の条件を飲んでいる間は、俺は里に手を出さない。」
「...なるほどの...そう言う事か。」
ようやくナルトの提案の意味を理解したヒルゼン。
確かに、ただ口で約束するよりも、お互いが納得するビジネスとしての契約の方が安心度は格段に違う。
「上手く考えてあるな。これはお前が考えたのか?」
「まさか...九喇痲...九尾の案だってばよ。」
「なんと...お前は自分の中の尾獣と会話できるのか。」
「俺にとって九喇痲は、相棒で、仲間で...戦友だってばよ。」
ヒルゼンは驚愕していた。九尾とは憎しみの塊であった。
その九尾と信頼関係を結べるとは思っていなかったのだ。
「さて...三代目...条件の擦り合わせをしようってばよ。」
「ああ...わかった。じゃが、その前に...」
ヒルゼンが目配せをすると、隠れていた残りの暗部が襲いかかった。
ヒルゼンは全ての暗部を下がらせてはいなかった。
万が一に備えて数名を残していたのだった。
「スマンの。お前を生かしておいては里の脅威となりそうなのでな。ここで死んでくれ...(ミナトよ...スマン。)」
ヒルゼンは、苦しそうな顔でナルトに謝罪する。
ヒルゼンはもともと、ナルトの事を気にかけていた。憎いわけでもない。
だが火影として、個人の感情で動く訳には行かなかった。
里の未来のために、ヒルゼンはナルトを始末する事にした。
責めて苦しまぬように...そう願いながら、暗部に隠れて指示を出していたのだ。
「謝る必要は無いってばよ?三代目。」
ヒルゼンが罪悪感に苛まれていると、不意に声が聞こえた。
暗部四人に囲まれ、襲撃されたハズのナルトの声...
見ると、ナルトを取り囲んでいた暗部4名の全員の腹部にチャクラが物質化したような腕が生えていた。
4名とも、一瞬で絶命していた。ナルトに傷一つ付けることも出来ずに。
「な...なんと...」
「化かし合いは、俺の勝ちだな?暗部が全員下がってないのなんて、わかってた。俺は...個人ならともかく、二度と木の葉を信用する気はねぇってばよ。」
「うっ...。」
ナルトの言葉に反論出来ないヒルゼン。
「さて...三代目。これは契約前の出来事だから見逃すけど...貸しだってばよ?」
ナルトは、木の葉に貸しを作る為にあえて、暗部を見逃していたのだった。
それから、契約はナルト主導で行われていった。
ナルトを襲撃したヒルゼンには条件を変更する立場も無く、一方的に突きつけられていった。
その内容は、
1、木の葉はナルトに対して、賠償金10億を支払うこと。
2、今後、ナルトが必要と判断した願いを三度まで聞き入れる事。
3、未来の事を聞かないこと。又、ナルトが未来から来たことを周りに話さないこと。ただし、ナルトが必要と判断した内容を聞くことは許可する。
4、ナルトの家の監視を解くこと。
5、ナルト本人、日向ヒナタ、海野イルカ、一楽の親子、そして現在の同期及びマイトガイの班のメンバーに手を出さないこと。
もしこれらの条件が守れない場合、契約は破棄されたものとする。
「ああ、それから...俺から木の葉に対して何かする気はねえけど、もし木の葉の里の人間が俺や...俺の大事な人たちに何かしたら、躊躇する気はねぇってばよ?そこの所を理解しといてくれ。無駄に死人を出したく無ければな。」
去り際に、ナルトはそう言うと火影室を退室していった。
火影室には、死体となった暗部四名とヒルゼンだけが残されていた。
「ワシらは...とてつもない怪物を育ててしまったのかも知れんな...ミナトよ...スマン...」
去り際に見せたナルトの冷たい眼差しを思い出し、ヒルゼンは疲れきった声で呟くのだった。
今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。
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希望する
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希望しない