大蛇丸の木の葉崩しから、数日が経った。
ヒルゼンは、木の葉崩しの被害の報告書で埋まった机を見て溜め息をつきながら、今後の事について考えていた。
あの時、ナルトを表彰することを決めたヒルゼン。
それは、ナルトを木の葉に繋ぎ止める為に考えた策であった。
今回の木の葉崩しの阻止に際し、ナルトの活躍が多大な貢献をしていた事は周知の事実である。
火影たる自分の救出...
そして、砂の尾獣を止め、その戦いにおいて木の葉の人々を守った...
それは、その戦いを目撃した里人からの報告で明らかになっている。
ナルトは、未来から逆行してきたのだ。
あの時、砂隠れの里が保有する尾獣が木の葉で暴れる事を知っていたのだろう。
火影を救い、里を救った...
まさに英雄と呼ぶに相応しい功績を残したのだ。
ヒルゼンは、この活躍を全ての木の葉の人々に伝え、ナルトへの悪感情を改善しようと考えた...
そのため、表彰は式典として後日行うこととした。
しかし、その後、木の葉崩しの予想以上の被害により、復興の為の予算決め等でもたつき、日取りを決められないでいた。
だが、こう言う事は事件が風化しない内に行わなければ、インパクトを残せない。
ナルトの為にも、出来るだけ早く実行する必要があった。
急ピッチで仕事を進め、そのおかげでようやく目処が立った。
一週間後に式典を行うことを決めたヒルゼン。
しかし、ナルトを表彰する事は、里の上役たちは最後まで反対していた。
ナルトを貶めてきたのは、里の上層部である。
もし、ナルトを表彰し...その事が明るみに出たら...
そうでなくとも、英雄となったナルトが、自分達に反旗を翻してきたら...
そうなれば、木の葉が内部分裂を起こしかねない。
そう主張してきたが、今回ばかりはヒルゼンは強硬だった。
今回の事件でナルトの重要性を再確認したヒルゼンは、里のために、なんとしてもナルトを木の葉に繋ぎ止めなければならないと改めて認識した。
何よりも、ヒルゼン自身...ナルトを救いたいと心から願っていた。
「思えば不憫な子じゃった...」
ヒルゼンは、当時の事を思い出していた。
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木の葉を襲った九尾の妖狐...
ミナトは、命どころか己の魂すら糧としてナルトに九尾を封印した。
ヒルゼンは、これを公表しナルトを里の英雄として敬うよう通達するつもりだった。
これを止めたのは、ダンゾウを始め木の葉の上役たちだった。
「なぜじゃ!ナルトは生まれながらに両親を失い、その身体に九尾を封印させられた...里のためにその身体を人柱として使われたのだぞ?それは、称えられるべき事じゃ!」
「わからぬのか?ヒルゼン...今回の件で里の犠牲者はかなりの数に上る。遺族の九尾に対する憎しみは相当のものだ...」
「だからなんじゃ?」
声を荒げるヒルゼン。
「もし、ナルトに九尾が封印されている事が知られてみよ?遺族の中から復讐を考えて、ナルトを殺そうとする者が出てきても不思議ではない。」
「むっ...」
「ましてや、人柱力が殺されたとき、中の尾獣の封印が解けて、再び暴れる可能性とてあるのだ...」
「ならば、どうしろと言うのじゃ...」
「里の者たちには、ナルトは九尾の生まれ変わりだと、噂を流す。」
「なんじゃと!」
ダンゾウの提案に驚くヒルゼン。
「四代目は、命を賭して九尾の力を封印し、赤子へと転生させた...木の葉はこれを保護し、監視することにした...とな...」
「それでは、ますますナルトに、憎しみが集まるではないか!」
「それが、狙いの一つだ。今回の件...本来ならワシら木の葉の上層部の落ち度を責められても仕方の無い失態だった。九尾の封印を解かれた上に、多くの犠牲者を出した...しかし、ワシらは責められてはおらん...何故だかわかるか?」
「.........。」
ヒルゼンには答えられなかった。
「それはな...全ての憎しみを九尾が背負ってくれたからよ...木の葉を存続させるためにも、ワシらの権威を失墜させる訳にはイカン。それはそのまま内戦に発展しかねない程の問題になりかねんからな...」
「しかし...ならばナルトはどうするのじゃ...ダンゾウ...お主が言った通り、木の葉にとって九尾は必要な抑止力...失うわけにはいかんのだぞ?」
ダンゾウの説明に、納得せざるを得ないヒルゼンだったが、ナルトの命は救わねばと、食い下がる。
「うむ...それはもう一つ情報を流せば良かろう...ナルトを害した場合、封印が解かれて九尾が再び里を襲うことになる...とな。こうすればナルトを襲うものは、そうは現れんだろうて...今回の憎しみは九尾に集め、九尾を守ることにもなる...そして、ワシらの権威を守り、里を守るためでもある...三代目...お主が情に厚いことは重々理解しているが、今回は納得して貰おう...」
「くっ!...それしか無いのか...」
「実際には、ナルトにも護衛と監視は付ける。何かあればナルトを守るように指示は出す。それで、納得しろ...ヒルゼン。」
「.........わかった...」
それから、ヒルゼンはナルトの事を出来るだけ気にかけて来た。
ミナトへの負い目...そしてナルト自身への負い目もあったが、何よりも里のために憎まれ役をさせねばならなくなった自分の、ナルトへの懺悔の念あった。
ナルトが木の葉で、過酷な目に遭っていることを知って心を痛めた...
何も出来ない自分が歯痒かった...
未来から、逆行してきたと言うナルトの話を聞いたときは、心底絶望した。
挫けず、火影になったナルトを待っていたのは、自分が残した業による悲劇...
ナルトの自分を見る目が恐ろしく冷たいのも、受け入れるしか無かった。
しかし、今回...ようやくナルトの環境を改善する機会が巡ってきたのだ。
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「ようやくじゃ...ナルト...これでお前を救ってやれる...」
ヒルゼンは、式典までに仕事を片付けなければと、再び机に向かうのだった。
そして一週間後...
式典には、多くの人間が集まった。
ただし、集まったのは事情をよく知らない一般人がほとんどである。
今回の事件を解決した立役者を表彰する...
その、情報だけで集まった者たちだった。
それは、ナルトを表彰すると発表しても、誰も集まらないだろうと考えたヒルゼンが敢えて、表彰する人間を伏せた為だ。
そして、式典は始まった。
今回の趣旨を説明し終えたヒルゼンは、改めてナルトを壇上へと招き、紹介する。
「今回...大蛇丸から木の葉を救った、我が里の下忍...うずまきナルトじゃ...」
ザワッ...!?
登壇したナルトを見た観衆は、一斉にざわめき出す。
ヒルゼンは、構わずに続ける。
「ナルト...お主は、今回の戦争で多大な活躍をしてのけた...ワシを救い、人々を救った...お主の活躍はまさに、英雄と呼ぶにふさわしいものじゃろう...よって、ここにお主を称え表彰するものとする。」
ヒルゼンの宣言...
しかし、そこに歓声が上がる事は無かった...
静寂が辺りを支配する中、
「ナルト...お主の活躍に対し、三代目火影の名の元に、お主を木の葉隠れの里の中忍に任命する。...本当は上忍にしてやりたいのじゃが...上役の連中が納得せんでのぉ...代わりに他に褒美を取らそうと思う。何か願いはあるか?可能な範囲で叶えようと思う。」
またも、ざわめきが大きくなる...
そんな中、ナルトが口を開いた。
「じゃあ、一つ...俺を木の葉の里から抜けさせて欲しいってばよ...」
今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。
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希望する
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希望しない