ナルトの宣言から少し前のこと...
ヒルゼンが、ナルトの功績を一つ一つ観衆に伝えるのを横目に見ながら、ナルトはシカマルの授けてくれた策について思い返していた...
(まさか、ここまで想定通りに事が進むなんてな...本当...シカマルの頭の中はどうなってるんだってばよ...)
ナルトが、シカマルに自分の事を打ち明け、今後の行動について相談した時のこと...
「はぁ...まあ、ここから出ろなんて軽はずみな事を言っちまったのは俺だから、協力はするけどよ...」
「サンキュー...シカマル。」
「とりあえず、お前の経験した出来事をわかる範囲で、時系列に合わせて教えてくれ。」
「え?そりゃ良いけど...ただ、俺ってば...あまり昔のことは覚えてねぇってばよ?」
「わかる範囲でいいって。何も、お前にそこまで求めてねぇからよ...」
「............それはそれで傷つくってばよ...」
「いいから、早く教えろ...」
「りょ...了解...」
ナルトは、所々九喇嘛に確認しながら、あった出来事を話す。
オビトによる九尾暴走事件から始まり、アカデミー卒業の経緯、波の国での出来事、中忍試験、木の葉崩し、綱手捜索、そしてサスケの里抜け...
時々、シカマルが質問をするためそれだけで、一日を要した。
二日目も、ナルトの話は続く。
自来也に正式に弟子入した二年半に渡る修行...
暁の胎動...風影となった我愛羅の誘拐...これの救出任務。
サイを班に加えてのサスケの奪還任務。
アスマの死...
ペインによる木の葉襲撃。
ビーとの尾獣チャクラコントロールの為の修行。
そして、第四次忍界大戦。
六道仙人との邂逅。
カグヤを封印し、平和が訪れた。
トネリによるハナビ、ヒナタの誘拐や、モモシキの襲来など、その後も世界を脅かすような事件は何度もあったが、ナルトたちは協力してこれを退ける。
そして...
「...改めて聞くと...とんでもなく濃い人生送ってるのな...お前...」
ナルトの説明を聞いて若干引き気味のシカマル。
「そんな濃い俺の補佐をしてくれたのがシカマルだったんだってばよ。」
ナルトは意に介さず反撃する。
「ハァ...未来の俺は、なんでそんな面倒臭い事引き受けちまったんだろうな...」
当たり障りの無い人生を送ることが目標の、今のシカマルには考えられなかった...
「お前が良いヤツだからだろうな。今も、こうやって何だかんだと言いながらも協力してくれてる...」
ナルトは、当然の事のように言った。
「...真顔でそういう事を言うな。」
その言葉に照れるシカマル。
(きっと...お前がそういうヤツだから、未来の俺も協力したくなったんだろうな...)
どこか、納得するシカマルだった。
それから...
「.........。」
改めて全てを聞き終えたシカマルは、暫くの間沈黙し、考える。
そして目を開けた。
「どうだ?シカマル...」
「まあ、待てって。一応考えてみたけどよ...事は、お前らの将来に関わる重要な事だ。もう少し煮詰めてから説明する。」
シカマルは、そう言うと立ち上がり帰っていった。
翌日...
「さて、昨日の続きだ。」
シカマルの言葉に頷くナルト。
「まず、お前の最初の目的は木の葉を抜けること...これは良いな?」
「ああ。」
「だが、里抜けってのはもちろん重罪だ。追い忍はもちろん、手配書も発行されて賞金稼ぎにも対応しなきゃならねぇ。さらにだ...」
「お前...って言うか人柱力ってのは木の葉の重要な戦力だ...当然、お前の里抜けは他のヤツよりも遥かにハードルが高い。」
「サスケが里抜けしても無事だったのは、大蛇丸の存在と音隠れの里が、巧妙に隠していたからだな。」
「.........。」
シカマルの説明は、理路整然としている。
反論のしようもなく、沈黙するナルト。
しかし、シカマルはそれを踏まえた上で、ナルトが里を抜けるための道を用意していた。
「それでだ、お前が比較的に安全に里を抜けられるタイミングは二つある。一つは、サスケの里抜けに便乗すること...大蛇丸に力を見せれば、簡単に受け入れてくれそうだしな...恐らく一番安全な里抜けだろう。」
シカマルの提案にしかしナルトは、
「それは...あまりやりたくねぇな...出来るなら今回は、サスケに里抜けさせたくねぇんだってばよ...」
そう言って首を振った。
(未来ではサスケは家族を省みずに、贖罪を続けてたし、サクラちゃんやサラダも寂しがってたしな...)
ナルトから否定を受けたシカマルだったが、それは予想できた。ナルトは底抜けのお人好しだ。
サスケを救いたいと考えるのは目に見えていた。
そんなお人好しにすら見捨てられる木の葉を憐れに思いながら、もう一つの案を話し始める。
「なら、もう一つ...木の葉崩しを利用する。」
「それは?」
「お前はアカデミーでは、落ちこぼれで通ってる...内外通してな。」
「ああ...」
「そんなお前がある日突然、火影様すら凌ぐ程の力を見せつける...さて...お前を迫害してきた里の人間たちはどう思うだろうな...」
「つまり、木の葉崩しで俺の全力を見せるってことか?」
「そうだ...火影様すら殺した大蛇丸...これを退ける...それと、できれば同時に砂の尾獣との戦いも里の人間に目撃させたいんだが...出来るか?」
「.........。」
少し考えるナルト。九喇嘛とも相談して可能だと伝える。
「よし。それでだ...木の葉崩しで活躍したお前を、火影様はどうするか...お前に聞いた火影様の性格を考えれば、これを機に里の人たちの...お前に対する感情を改善させようと、お前の功績をなんらかの手段で大々的に発表すると思う。一番簡単なのはみんなの前で表彰する事だな...」
「功績には褒美を与えるのが常識だ。そこで、褒美の代わりに宣言するんだ。」
ヒルゼンが、シカマルの予想通りに褒美を与えたいと言ってきた。
ナルトは、シカマルの言った通りにヒルゼンに向けて...いや木の葉に向けて宣言した。
「じゃあ、一つ...俺を木の葉の里から抜けさせて欲しいってばよ...」
ナルトの予想外の言葉に固まるヒルゼン。
だが、すぐに再起動すると顔を赤くして怒鳴る。
「な、何を言っておる。こんな目出度い場で、そんな事を言うとは...イタズラが過ぎるぞ。ナルト。」
ヒルゼンが、これを否定することはナルトでも予想できた。
だから、シカマルに質問した。
「でも、そんなことしても、じいちゃんは拒否するんじゃねぇか?」
しかし、シカマルは苦笑しながらそれを否定する。
「その時には、もう手遅れだな。」
-何故なら-
「三代目...里の連中の目を見てみるってばよ...」
「なんじゃと?」
言われるまま、木の葉の人々に目を向けるヒルゼンは、その目をみて絶句する。
恐怖、憎悪、猜疑心...ナルトを称賛する人間は、その場にはほとんどいなかった。
「な、何故じゃ...」
ヒルゼンが考えたように、ナルトを称賛する顔は見当たらない...
「俺が...力を見せたからだってばよ...」
「しかし、お前はその力で里を守ったではないか...」
「それが...木の葉がやって来たことの結果だってばよ。木の葉は俺を得体の知れない化け物として扱ってきただろ?」
「信用があるからこそ力を持っていても怖がられないんだ...例えばじいちゃんが、この力を持っていても誰も怖がったりしないんだろうけどな...でも、俺の場合はそうじゃねぇ。何しろ俺は『化け狐』だからな...」
「.........ナルト...ワシは...」
ヒルゼンは、今更ながらにようやく、里の人間の感情を理解した。
強者であるが故に、力を持たぬ者たちの気持ちを理解できなかったのだ。
もう、何をしてもナルトに対する里の人間の感情が上向く事はない...
(上役たちは、理解しておったのだな...じゃからあれほど反対したのじゃろう...)
それを理解したヒルゼンは、
「少し...時間をくれ...こんな事をワシ一人で決めることは出来ぬのでな...」
力なく、ナルトにそう言うのだった。
それを見たナルトは、もう一つ付け加える。
「それとじいちゃん...契約の三つ目の願いで、日向ヒナタを一緒に連れていくから、それも伝えてくれってばよ...」
「なんじゃと!」
それを聞き驚くヒルゼンだったが、未来で夫婦だったと言っていた事を思い出し、ヒナタが了承するならばと条件を付けた上で、それも含めて相談すると伝えた。
うやむやのまま式典は閉幕した。
ヒルゼンは緊急に上層部を招集して会議を開くことを決めたのだった。
今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。
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希望する
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希望しない