逆行したナルトの物語 完結   作:アーク1

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父と娘と

足早に家に戻ったヒアシは、ヒナタを呼び出していた。

 

「お呼びでしょうか...父上。」

 

そこにヒナタが現れた。相変わらず親しみの籠らない声音である。

 

ナルトとの修行でのやりとりから、ヒナタとの関係は冷え込んでいた...

 

「うむ...此度のナルトの宣言はお前の耳にも入っていよう...」

 

「はい。」

 

ヒアシの言葉に頷くヒナタ。

 

「ナルトは、里を抜けるに当たり、お前を連れて行く事を要求しておる...これについてお前はどう考えているのか聞かせてくれ。」

 

「とても、嬉しく思っておりますが?」

 

特に悩むこともなく、答えるヒナタ。

 

当然だ...もうずっと前から決めていたのだから...

 

「な!?正気かヒナタ。ナルトの言う通りにするという事は、お前も木の葉を抜けねばならんのだぞ?」

 

「それが何か?別に構わないと思うのですが?日向の跡目はハナビが継ぐのですし...」

 

「それとこれとは話が違う!」

 

自分の思いが伝わらない...その苛立ちから声を荒げるヒアシ。

 

だが、それではとても説得などできない...

ヒアシは、深呼吸をして心を落ち着かせると、ヒナタを諭そうと木の葉を出るデメリットを話し始めた。

 

「良いかヒナタ...里を抜けるという事は、里の庇護を受ける事が出来ないということだ。白眼を持つお前は、他里の忍に只でさえ狙われやすい。これまで無事でいられたのは、お前が木の葉の庇護下にあったからなのだぞ?」

 

「.........父上......それは、もしかして私を心配なさっているのですか?」

 

「なっ!...」

 

ヒナタの痛烈な返しに思わず絶句するヒアシ...

 

だが、すぐ後に顔を真っ赤にして怒り出す。

 

「当たり前だ!子供を心配しない親がどこにいると言うのだ!」

 

「確か父上は、紅先生が挨拶に来たとき、五つも年下のハナビにすら負ける出来損ないなど...この日向にはいらぬ...と仰っていたハズですが?」

 

「そ、それは...」

 

思わず言葉に詰まるヒアシ...

 

「父上にとって、私は日向の跡目になれるかどうか...それ以外興味が無かったのでしょう?現に、それ以降私に干渉してきたのは、ナルト君と修行することを止めようとしたあの時だけ...それも私の為ではなく、日向の家の名に傷が付くという理由で......」

 

「.........。」

 

ヒアシは呆然としていた。

目の前のこの少女は本当にあのヒナタなのか...

 

ヒアシにとってヒナタとは、人の顔色ばかり気にし、優しすぎるが故に争いを好まず、臆病で、常に一歩下がって何かの影に隠れようとする...そんな人物だった。

 

それがどうだ...

 

目の前のヒナタは、自分の意思をはっきりと告げ、怒鳴る自分にも怯える様子はなく、それどころか皮肉まで言ってくる。

 

「確かに、父としてお前に辛く当たってきた事は認めよう...しかし聞いて欲しい。私は決してお前を愛していなかった訳ではないのだ。」

 

「............。」

 

「さっきも言ったが、日向の者はその特異な力を持つが故に、常に外敵から狙われる。だから、自分を守れる様、最低限の強さが必要なのだ...お前に辛く当たっていたのは、このまま弱いままではいずれ、お前が危険な目に遭うと考えての事...決して本心では無いのだ。」

 

ヒアシは、結局全てを話す事にした。

そうしなければ、娘との確執は決定的な物になる...そう感じたからだ。

 

「父上...私も、父上が私を愛していなかったなんて言うつもりはありません。ですが...それよりも日向家の存続が何よりも優先だった...そう思っています。」

 

「なっ!?そんなことは...」

 

「無いとでも?それなら、なぜ今の私を見て動揺されるのですか?」

 

ヒアシの言葉を遮り、ヒナタが強い口調で告げる。

 

「私の変化を...成長を...見ていなかったからじゃ無いんですか?父上の中で...私はハナビに負けたあの時のまま...時間が止まっているのではありませんか?」

 

「.........。」

 

そんなことはない...ヒアシは、そう否定したかったが何故か言葉が出て来なかった。

 

「もう、何もありませんか?では失礼します。」

 

ヒナタが席を立とうとする...

 

「待ちなさい!ヒナタ。」

 

呼び止めるヒアシ。

もう言葉では止められない...だからヒアシは、

 

「そこまで言うのなら、私にお前の力を見せてみなさい。」

 

ヒナタに向かい、そう言った。

 

「.........。」

 

「詳しくは話せんが、ナルトはお前以上に他里の忍から狙われる存在だ。生半可な実力ではナルトには着いていくことは叶わんだろう。」

 

ヒナタは、一度瞑目する。

 

そして目を開くと、

 

「わかりました...それで父上が納得すると言うのなら...私の力...覚悟を見てください。」

 

決意を込めた瞳でヒアシを見る。

 

「........着いてきなさい...」

 

ヒアシは、ヒナタの決意に何を思ったのか...

特に返すことは無く、ただそれだけを言うと稽古場へと向かった。

 

稽古場にて対峙する二人。

 

「さっきも言ったが、里を抜けた時から、ナルトは多くの忍に狙われるだろう。ナルトの力は知っているが...その時、お前が足枷となるのではないか?」

 

「そんなことは、父上に言われるまでも無くわかっています。その時...きっとナルト君は、命懸けで私を守ろうとすることも...今の私が、ナルト君の足手まといであることも理解しています。それでも...ナルト君は私が必要だと言ってくれました...」

 

「だから、私は強くなりたい...ナルト君の隣で...一緒に歩んで行きたいから...でも、今はその力が無い。ならせめて、自分の身を守れる程度の力は付けたい。その思いで、これまで努力してきました。」

 

ヒナタの独白を静かに聞き入るヒアシ。

 

「ならば、かかってきなさいお前の決意を...努力を...その力を...私に見せてみなさい。」

 

互いに白眼を発動させて構える。

 

「行きます!」

 

ヒナタが前に出る。

 

(確かに、私の力は上がっている...それでも、地力はまだ父上が遥かに上。正面からいけば返り討ちに合うだけ...だったら...)

 

ヒナタが、攻撃を繰り出す。

 

しかし、ヒアシはそれを簡単に受け流してしまう。

 

だが、ヒナタはそうなることを見越していた。

受け流され、しかしそのまま流れに乗って距離を取り、腰のホルスターから手裏剣を取り出し、ヒアシに向かって投擲した。

 

「むっ!」

 

この攻撃に驚くヒアシだったが、すんでの所で全て叩き伏せる。

 

「流石ですね...父上...」

 

「お前こそ...まさか、手裏剣を使用してくるとはな...以前のお前なら、これが訓練の体術勝負と考えて、体術一辺倒だっただろう。」

 

「忍者は裏の裏を読むべし...アカデミーで教わりました。」

 

「フ...アカデミーや下忍としての経験は、無駄になっていなかったようだな...」

 

互いに軽口を叩く二人...

 

「今度はこちらから行くぞ...凌いでみよ...」

 

「くっ!」

 

ヒアシの猛攻に防戦一方のヒナタ...

 

(大丈夫...父上はまだ本気になってない...チャンスは来る...)

 

既に布石は打ってある。後は虚を着く一瞬の隙を待つ。 

 

「どうした!お前の力はその程度か!」

 

ヒアシがヒナタを挑発する。

 

だが、その行為がヒアシの攻撃の手を緩ませる。

 

(今っ!)

 

ヒナタは、その一瞬の隙に六道の入れ換えの力を発動する。

 

先程投擲し、打ち落とされた手裏剣...それは今もヒアシの足元に転がっていた。

 

「何っ!」

 

ヒアシの足元の手裏剣と自分を入れ換えたヒナタ...

 

突如目の前のヒナタ...次の瞬間、自分の真横に現れる。

驚くヒアシ。

 

「これが、今の私の全力です!」

 

ヒナタは、ヒアシの点穴を突くべく抜き手を繰り出す。

 

その攻撃がヒアシに当たる、その瞬間...

それまでとは比べ物にならない早さで動いたヒアシに腕を掴まれる。

 

「あっ...」

 

「勝負あったな...」

 

ヒアシの無情な言葉がヒナタに突き刺さる...

 

精一杯やった...それでも力不足という現実がヒナタを襲う...

 

唇を噛むヒナタ...その端からは血が滲んでいた...

 

「はい...私の...」

 

ヒナタが敗北を宣言しようとした、その時...

 

「私の負けだな...」

 

ヒアシが自分の負けを認めた...

 

「えっ?でも...」

 

どう考えても今の勝負は自分の完敗だった。

 

「なんだ...わからぬのか?私は何も今の勝負で私を倒せ...などと言った覚えは無いぞ?」

 

-お前の力を見せてみよ-

 

「あっ...」

 

「うぬぼれるな...これでも私は日向の当主。まだまだ、お前やネジに負けるほど落ちぶれてはおらん。それでも...今の一撃...本気で動かねばやられていたのは私であっただろう...強くなったなヒナタ...」

 

「父上...」

 

ヒアシがヒナタをほめる...

ヒナタは、知らず知らずの内に涙を流していた。

 

ヒアシが優しくヒナタに語りかけるのはどれくらいぶりだろう...少なくともハナビに負けて以来初めてだった。

 

「私の目は節穴だったのかもしれぬな...お前がここまで強くなろうとは...自分を守るだけの強さ...今のお前には十分あるだろう...」

 

「それじゃあ...」

 

「うむ...ナルトと一緒に里を抜ける事...認めよう...」

 

ヒアシが認めてくれた...それがどうしようもなく嬉しい。

 

「ありがとう...父上!」

 

ヒナタがヒアシに抱きつく。

 

「こ、こら!止めなさい。まだ話は途中だ。」

 

久方ぶりの親子の会話...ヒアシとて満更でもない。それでも優先しなければならないことがある。

 

「ヒナタ...確かにお前は強くなった...それは私も認める...しかし、お前自身理解している様に、まだまだ力不足な事も事実...そこでだ...これからナルトが里を抜ける...その時までの間...私がお前を鍛える。」

 

「え?」

 

「どの道、ナルトが里を抜けるのはもう少し後だ...三代目は此度の責を取り、辞任されるだろう...その場合、次の火影が選出されねば、許可も出せぬだろうからな...それまでの間...お前を徹底的に鍛える。ナルトの足手まといでいたくは無いのだろう?」

 

「はい!よろしくお願いします父上!」

 

ヒナタは、力強く頷いた。

 

その返事を満足気にうなずくヒアシ...

だが、もう一つ言わねばならぬ事がある。

 

「それと...近い内にナルトを連れてきなさい。お前を変えたナルトと、直接話をしてみたい...それに、娘を嫁にやるのだから、小言の一つ位言ってやらねばならぬしな...」

 

「ち...父上...」

 

顔を真っ赤にして沈黙するヒナタ。

 

「フ...ハッハッハ...」

 

それを見て笑うヒアシ...

 

ようやくヒナタとヒアシは、親子としての関係を取り戻すことが出来たのだ。

 

後日...ヒナタに連れられ日向家を訪れたナルトは、子供とは思えない落ち着いた雰囲気を纏い、ヒアシを前にして堂々とヒナタを嫁にくれと告げた。

 

その度胸をたいそう気に入ったヒアシは、二つ返事で了承するのだった。

今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。

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