火影室の前で、自来也たちと別れたナルト。
そのナルトは、帰還の挨拶を兼ねて日向の屋敷に向かっていた。
既にヒアシとの顔合わせは済ませており、ヒアシもナルトの事を気に入ってくれた。
その為、いつでも屋敷に入って構わないとお墨付きも貰っていたのだ。
「お邪魔します。」
「あなたは!」
日向家に足を踏み入れたナルト。
そのナルトを待っていたのはハナビとの遭遇であった。
「.........何かご用ですか?」
ハナビの表情は固かった...その表情のまま、挨拶も無く用件を聞くハナビに、苦笑するナルト。
前回の訪問時、もちろんヒナタの実妹であるハナビとも顔を合わせている。
しかし、前世では良好な関係を築いていた義妹のハナビも、この世界では初対面...
ましてや、ハナビからすれば、大好きな姉を木の葉から連れ去ろうとする憎い相手である。
この頃のハナビとヒナタは、決して良好な関係では無かった。
憧れていた姉を負かしてしまったハナビ...
その結果、父はヒナタを見捨てハナビもまた、跡目を継ぐために厳しい稽古を積んでいた。
年下の自分が、姉を負かしてしまった負い目...
跡目を継ぐことになってしまったプレッシャー...
そして、父の期待に応えようとする責任感...
全てが、ハナビからヒナタを遠ざける要因となっていた...
しかし、ハナビは決してヒナタを嫌いになったわけではない...
確かに直接試合をしたときに、ヒナタへの失望はあった。
それでも、昔は憧れ、目標として来た姉なのだ。
嫌いになれるハズなど無い。
その姉を、木の葉から連れ去ろうとする目の前の少年...
ハナビは、その少年が浮かべている苦笑に苛立つ。
「.........もう一度聞きます...何をしに来たのですか?」
「そりゃあ、もちろんヒナタに会いに来たんだってばよ。」
「生憎ですが、姉は父との稽古で忙しいんです。貴方と会う時間はありません。」
そう...ヒナタは今忙しい。
数週間前、ヒアシと和解したヒナタは現在、ヒアシ自らが指導をして日向流を極めようとしていた。
その稽古を間近で見たハナビは戦慄した。
自分が父と稽古していた時...当然厳しい稽古だった。
日向の跡目として恥じぬ様にと、過酷な修行を行ってきた自負もあった。
しかし、ヒアシとヒナタの修行はハナビのものとは別種である。
実戦を想定し、一歩間違えれば死ぬ可能性すらありえる組手...
倒れるまで続けられる八卦の型取り稽古...
ハナビは一度、二人を止めようとした...
しかし、ヒアシは勿論...ヒナタも辞めようとはしなかった。
「ナルト君の隣に立つ為に...私はもっと強くならないといけないの...」
ヒナタは、そう言って稽古を再開してしまった。
その時の事を思い出し、思わず唇を噛むハナビ。
「わかった。じゃあ挨拶だけさせて貰うってばよ。」
ナルトは、ハナビの言葉に頷いて言う。
「.........何故なんですか?」
そんなナルトに、ハナビが圧し殺した声で言った。
「ん?」
「何故...姉様が、あなたなんかを好きになったんですか?」
「.........。」
「以前、私はあなたを街で見掛けた事があります。その時のあなたは、街のお面屋に罵倒されてました。『疫病神』...と。その時、私の侍女のナツが貴方には関わるなと言いました...」
「.........。」
ハナビの言葉を黙って聞いているナルト...
「その通りでした...あなたに関わったせいで、姉様は木の葉から出て行くことになってしまった...何故...姉様はあなたなんかを...」
一度、爆発してしまった感情は、止めることが出来ない...
ハナビは、自身の思いを吐き出す...
そんなハナビに対し、ナルトが静かに口を開く。
「.........そうだな...俺はヒナタじゃ無いから、その問いには答えられない...」
「.........。」
「ハナビが言うように、俺と恋人になったことで、ヒナタが危険になったのは確かだってばよ...だからこそ木の葉にはいさせられない。ここには俺を憎む連中が多くいるからな...」
「やっぱり...だったら姉様の為に別れてくれれば良いじゃないですか。これじゃあ、姉様が不幸すぎます。」
ナルトの言葉に、激昂するハナビ。
「それは違うってばよ。」
だが、ナルトはそれを否定する。
「ヒナタは決して不幸にはさせない。」
「何故...そんなことが言えるんですか?」
ハナビが聞く。
すると、ナルトはニッと笑い、
「俺が、ヒナタを幸せにするからだってばよ。」
そう断言した。
その言葉に唖然とするハナビ。
「あなたは...何故、そんなことを言い切れるんですか...姉様は故郷を追われるんですよ?家族とも別れなければならない...あなたのせいで...それなのにどうして...」
大声で叫ぶハナビ。
その時、ハナビに声をかける人物がいた...
「そこまでだよ。ハナビ...」
「!?姉様...」
ヒナタだった。
そこにはヒアシもいる。
玄関先で、大声で話していれば当然目立つ。
「ナルト君...帰ってきたんだね...おかえりなさい。」
ヒナタはまず、ナルトに挨拶をした。
「...ただいま。」
ヒナタの挨拶に、答えるナルト。
その表情には苦笑が浮かんでいた。
「ナルト...帰ってきたと言うことは、首尾よく綱手様に会えたのだな。」
ヒアシが聞く。
「はい。今は火影室で三代目に報告をしていると思います。」
「そうか...取り敢えずあがりなさい。」
ヒアシが言うが、
「いえ。今日は挨拶だけで帰ります。」
しかしナルトは、やんわりとその誘いを断る。
「ナルト君...ごめんね?」
「良いってばよ。」
「ハナビの事は、任せてくれる?」
「ああ。頼むってばよ。俺も...未来の義妹に憎まれていたく無いしな...」
「それじゃあ、失礼します。」
「うむ...すまんな。また明日、来てくれ。」
「はい。」
ナルトは、日向家を後にする。
「父上...今日はこのまま稽古を終えても構いませんか?」
その後姿を見届けたヒナタが、ヒアシに聞いた。
「うむ...ハナビの説得はお前にしかできまい。」
ヒアシはすぐに頷くと、邪魔にならぬようにと、自室へと戻っていった。
「.........。」
ヒナタと二人きりになったハナビは、ばつの悪そうな顔をしていた。
「ねぇ...ハナビ...」
「私は...間違ったことは言ってない。」
ヒナタがハナビに声をかけると、それに被せるようにハナビが言った。
「だってそうでしょ?あの人と関わったせいで、姉様は木の葉を出ていかなきゃならなくなったんだよ?それに家族とも離ればなれになって...」
「.........ねぇ...ハナビ...確かに、木の葉を出ることになったし、父上やハナビとなかなか会えなくなる...それは確かだよ?でもね...私は不幸なんかじゃないよ?」
「どうして?」
ハナビが聞くと、ヒナタはとても幸せそうな顔で、
「だって...大好きな人と一緒にいられるんだもん...私は今...凄く幸せなんだ。」
そう言った。
「なんで、姉様はあの人を好きになったの?」
ハナビは、どうしても知りたかった。
ハナビの問いに口を開くヒナタ。
「.........それはね、ナルト君が人に勇気を与えてくれる人だからだよ。」
「勇気?」
「ハナビも知ってるよね?昔の私は引っ込み思案で、自分に自信がなくて、争いも嫌いだった...」
頷くハナビ。
「勿論、私だってそんな自分が嫌いだった...そんなある日、ナルト君が一人で修行する姿を見掛けたんだ...」
「.........。」
「ナルト君は、アカデミーでは落ちこぼれで手裏剣術もなかなか上達しなかったわ...皆、そんなナルト君をバカにしてた...でも、私はそんなナルト君に共感した...私も日向の落ちこぼれ...きっとこの人も同じだ...そう思ってた...」
「でもね...ナルト君はそこで諦めたりしなかった。一人で...いつも遅くになるまで修行して...そんなナルト君を見ていたら、自分も変われるんじゃないかって...こんな私でも変われるんじゃないかって...そう思えたの...」
「.........。」
「私にとってナルト君は、私に勇気を...光をくれる人...太陽みたいな人なの...」
「だから、私はナルト君が大好きなのよ。」
ヒナタは、ハナビの目をしっかりと見つめて断言した。
「姉様は...今...本当に幸せなの?」
ハナビは、それでももう一度訊ねる。
「幸せだよ。」
-俺がヒナタを、幸せにする-
その時、ハナビは先程ナルトが言ったことを思い出していた。
(...口先だけじゃ無いんですね...ナルトさん...)
「姉様...明日...あの人が来たら、もう一度話してみるよ...今度はちゃんと...」
ハナビはそう言った。
「うん。」
ヒナタは、その言葉に満足し頷くのだった。
次の日、姉の事を含めしっかりとナルトと話をしたハナビはいつのまにか、ナルトと打ち解けていた。
それどころか、前日の事が嘘のようにナルトになつくようになっていた。
その様はとても仲睦まじく、ちょっとだけヤキモチを焼くヒナタであった。
今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。
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希望する
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希望しない