それから、一月が経った。
その間、ヒナタはナルトとの修行により、着実に腕を上げていた。
しかし、ある夜...
「うずまきナルトと修行をしているそうだな。あんな落ちこぼれと修行をしたところで得る物など無い。そんな時間があるなら、早めに家に戻り、家で稽古をしなさい。」
ヒアシより呼び出されたヒナタは、ヒアシから、そんな事を言われた。
実は、ナルトとの修行を妹のハナビが目撃しており、父であるヒアシに報告していたのだ。
「うずまきナルトと言う少年の事は知っている。アカデミーで何度も卒業試験に落ち、問題ばかり起こす、典型的な落ちこぼれだそうじゃないか。」
「そんな人間と修行をしたところで成長などできはしない。自重しなさい。」
その言葉を聞いたヒナタは、自分の中で、何かが切れたのを感じた。
「お話はそれだけですか?失礼します。」
ヒナタは、ヒアシに答える事なく席を立った。
「待ちなさい。ヒナタ。ヒナタ!...お前には失望した。」
去り際に、ヒアシの言葉が聞こえたが、ヒナタは何も感じなかった。
(失望したのは私です...)
ヒナタに落ちこぼれと言うレッテルを貼り、ヒナタ自身を...その成長を見ようとしないヒアシに、ナルトを化け物として...ナルト自身を見ない里の大人達が重なって見えたのだ。
(ナルト君...私はこの里に未練なんて無いよ。貴方のいる場所が、私の居場所です。)
日向家での出来事から、更に時間が経ち、
現在、ナルトは卒業試験に挑んでいた。
「分身の術!」
ナルトの掛け声に術が発動する。
煙が晴れ、そこにあったのは...ナルトを模した謎の物体だった。
イルカは驚きながら、ナルトに失格を告げる。
同僚のミズキが取り成すが、結果が覆ることは無かった。
「ナルト。一体何があったんだ?」
試験が終わった後、イルカは分身の術を失敗したナルトを問い詰める。
「ん?ああ、試験の事か。実はこのあと...ちょっと厄介な事件が起きるんだってばよ。ここで俺が落ちないと、犯人がどう動くかわからないんでな。わざと落ちたんだってばよ。」
「厄介な事件?」
イルカの問いに、ナルトは前世であった出来事をかいつまんで話した。
「そんな...ミズキが?」
同僚の犯行に、驚きを隠せないイルカ。
「まあ、俺にとっては思い出深い事件なんだけどな...とりあえず、今回は俺に任せてくれってばよ。」
ナルトはそう言うと、去っていった。
イルカは、その後ろ姿をじっと見つめながら、何かを考えていた。
その後、予定通りミズキがナルトに接触し禁術の巻物を盗むように唆した。
ナルトは、了承したフリをして偽物の巻物(三代目に事情を話して用意した)を持参すると、ミズキに合流する。
ミズキは、本性を現してナルトに迫った。
「ミズキ、悪いがここまでだってばよ。」
ナルトもこの世界に来て初めて、少しだけ力を出して応戦する。
この時、ナルトに誤算があった。
一つは、命がけの戦闘を久しく行っていなかったこと。
一つは、この世界に来て、自身の子供の身体に、まだ馴染んでいなかったこと。
一つは、ミズキと言う忍を嘗めすぎていたこと...戦闘訓練のつもりで、影分身やチャクラモード、仙人モードを使わないつもりで戦った。
結果、ミズキの予想を超える拳がミズキを襲うが、急所を狙ったつもりが、自分の間合いやリーチが自分の感覚と違い、体勢が微妙にズレてしまい、ミズキにガードされてしまう。
しかも、予想よりもナルトが強いと感じたミズキは、迷わず煙玉を投げて目眩ましをすると、気配を消して逃げ出した。
「クソッ...ミスったってばよ。」
慌てて辺りを見回すも、ミズキは巻物を持って逃走していた。
『バカ野郎...何やってやがる。』
九喇嘛の叱咤がとぶ。
「スマン。油断した...」
ナルトは仙人モードを使い、ミズキのチャクラを探す。
「見つけたってばよ...って...マズイ...イルカ先生がミズキと接触してるってばよ。」
ミズキのチャクラを捕捉したナルト。しかし、そこにはナルトがよく知る人物のチャクラも一緒に感知していた。
ナルトから、今回の話を聞いていたイルカは、ミズキの後をつけていたのだ。
すぐに、その場へ向かうナルト。
「イルカ...あんな化け狐の言うことを真に受けるのか?俺は、あの化け物から巻物を取り返しただけだ。俺を信じてくれ。」
ナルトが現場に着いたとき、ミズキは手傷を負ったイルカと対峙しながら、イルカを説得していた。
「ふざけるな。アイツは...ナルトは化け物なんかじゃない。ナルトは誰よりも人の苦しみや痛みを理解している。里の大人達に白い目で見られ続けて...それでも木の葉の里への復讐を考えるんじゃなく、火影を目指して、皆に認めて貰うことを選んだ。アイツは...この里の誰よりも強くて立派な...忍だ。」
「もう...良いってばよ...イルカ先生。わかってるから...」
その時、間にナルトが割って入った。
怪我をしたイルカを庇うように、ミズキとの間に立つナルト。
その後ろ姿を見ながら、イルカはあまりの悔しさに涙を流した。
(俺にもっと力があれば...アイツを助けてやれるのに...)
ナルトの前世の話を聞いたイルカは、その悲しい生涯に、ナルトを支えてやりたい...そう考えていた。
今回の話も、ナルトから聞いたイルカは少しでもナルトの助けになればと考え、ミズキを尾行したのだ。
しかし、実際は返り討ちに会い、負傷した挙げ句、あろうことかナルトに庇われてしまう。
そんな自分の弱さが悔しかった。
「イルカ先生...俺はイルカ先生を尊敬してる...。例え、戦闘能力が弱くても、俺はイルカ先生の心の強さにずっと救われてきた。九尾に両親を殺されて...里の皆が俺を九尾の化け物として見る中で、俺を『うずまきナルト』として初めて見てくれた...憎しみに捕らわれる事なく、俺を俺として見てくれたイルカ先生がいたから、全てを憎まずにいられたんだ。イルカ先生は、俺が憧れ尊敬する、強い忍だってばよ。」
「だから...ここは俺に任せてくれ...」
ナルトの決意の籠った言葉に、頷くイルカ。
「はっ...お涙頂戴の師弟ごっこは終わりか?下忍にもなっていないガキに、何が出来る。」
ミズキの軽口には答えずナルトは印を結ぶ。
そして...
『多重影分身の術』
そこに、数えきれない数の分身をしたナルトがいた。
「な、な、な、な、な、な...」
あまりの状況に、言葉が出ないミズキ。
「「「「「「「イルカ先生が受けた傷の礼はきっちり受けて貰うってばよ。ミズキ。」」」」」」」
実態を持った影分身の猛攻に成すすべもなくミズキはボロボロにされた挙げ句、拘束されるのだった。
「イルカ先生。大丈夫か?」
「ああ。すまないな。結局助けられちまった。」
「言ったろ?イルカ先生はそのままで良いってばよ。」
ナルトの言葉に、イルカは自分の額当てを外すと、ナルトに差し出した。
「俺には、こんなこと位しかしてやれない。でも、こんな俺でもお前は尊敬してくれるって言ってくれた。だから俺は、俺にできる事でお前を支える事にするよ。」
「.........。」
ナルトは、無言でイルカの額当てを受けとると、自分の額に巻いた。
「卒業...おめでとう。」
イルカが祝いの言葉を口にする。
「ありがとう。イルカ先生。」
ナルトは、アカデミーを卒業した。
今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。
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希望する
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希望しない