ナルトとヒナタが、里を抜ける辞令を受けて一週間が経過した。
そして、とうとうナルトとヒナタが、木の葉を抜ける日を迎えることになる。
木の葉の里の門には、ナルトやヒナタを慕って集まったものたちが、その別れを惜しみ集まっていた。
「ナルト...俺は必ず火影になる。そして木の葉を変えて見せる...だからその時は...もう一度木の葉を訪れてくれ...」
ナルトに向かってネジが宣言する。
「ああ...その時はきっと...友として酒を交わそう。頼んだってばよ?ネジ。」
ナルトはネジの宣言に頷き返答し、握手を交わす。
「いや。火影になるのは俺だー。ちょっ...聞けって、二人とも...」
その二人の会話に、キバが割って入る。
「なんだ...こっちは冗談に付き合ってる程、暇じゃ無いんだ。」
ネジが、鬱陶しそうに答える。
「つまり、私たちもあなたと同じように火影を目指して、ナルトの差別を無くそうと考えたって事。私たちの中で誰かが火影になれれば、きっと木の葉を変えられると思うわ。つまり私たちは同じ目標を持った同志って事ね。」
キバに代わり、いのが説明する。
「火影になっただけで、木の葉が変わると思っているのか?」
ネジが呆れた様に言う。
「ん?そりゃ、火影になれば思ったとおりにルールを作れるんだから、ナルトを差別するやつは罰する...とか作ったら良いんじゃねぇか?」
キバが楽観的に言うが、
「そんな訳が無いだろ...そんな法律を作ってみろ?たちまち木の葉でクーデターが起きるぞ?」
「じゃあどうしたら良いんだよ。」
「簡単に解決するなら、今こんな状況にはなってない...少しずつ、住民たちの意識を変えるようにするしか無いさ...こういう事はな...」
ネジが言う。キバ以外のメンバーはその意見に神妙に頷いた。
「しかし、俺たちが火影を目指す事は、悪いことではない...何故なら俺たちの中から火影に選ばれれば、少なくともその方針を打ち出す事ができる...足りない所は、なれなかったメンバーがフォローすれば良い。」
シノが、答える。
「そういう事だな...まあ、俺は今のところ火影を目指す気はねぇけどな...」
シカマルが面倒そうに言う。
「お前たちの言い分はわかった。まあ、競う相手がいるのは俺にとっても悪くは無いかもしれん。」
ネジはキバたちの提案を受け入れる事にする。
「じゃあ、これからはネジも私たちの同志ね。」
「ライバルだ!」
いのの言葉にキバが反発する。
それを見て笑う一同。
「じゃあ、皆...元気でな。」
笑いが収まると、ナルトは同期のメンバーやネジに挨拶した。
「あ、ナルト...これ...餞別に持っていってよ。」
別れ際、チョウジが両手に抱えた大量のポテチを差し出してきた。
最後までマイペースなチョウジに、苦笑しつつナルトはそれらを受け取った。
皆は少し寂しそうに、しかし笑ってナルトを送り出した。
次にナルトは日向の人間に挨拶をする。
そこにはヒナタがおり、ハナビやヒアシとの別れを惜しんでいた。
「ナルト君。」
近付くナルトに気付いたヒナタがナルトの名前を呼ぶ。
「ヒナタ。そろそろ...」
「うん...」
ナルトはヒナタに、そろそろ別れを告げる様に言った。
「父上...私は...」
「ヒナタ...ナルトの言うことを良く聞き、支え...そして助けなさい。それがお前が選んだ道なのだから...。」
ヒナタがなにも言えずにいると、ヒアシが先に声をかける。
「はい...」
震える声で返事をするヒナタ。
「別れは既に済ませた...しかしこれが今生の別れになるわけではない...必ずまた会いに来なさい。」
「はい。」
ヒアシの言葉に、大きく頷くヒナタ。
ヒアシはナルトを見ると、
「ナルト...ヒナタを頼む。色々と未熟な娘だが、きっと君の支えとなってくれるハズだ。」
ナルトにヒナタの事を頼む。
「必ずヒナタを幸せにしてみせます。」
「ふっ...お前には敬語は似合わんな...だが...よろしく頼むぞ。」
ナルトの宣言を軽く茶化すヒアシ。しかし、その目は真剣だった。
ヒアシの言葉にナルトはしっかりと頷いた。
「ナルトさん。必ずまた会いに来てくださいね。約束です。」
ハナビは、その小さな指を差し出す。
「ああ...その時はまた遊ぼうな。」
ナルトは笑って指切りを交わした。
日向家と別れ、次にナルトとヒナタは大人たちに、挨拶をする。
そこにはカカシや紅と言った担当上忍、自来也や綱手がいた。
「ナルト...守ってやれなくて済まない...」
カカシが悔しそうに告げる。
かつての自分の師の忘れ形見...何故もっと注意して見ておかなかったのか...
気付いた時には既に手遅れだった...
(俺はいつもそうだ...気付いた時には遅すぎる...)
カカシは自責の念にかられる。
「カカシ先生...カカシ先生が悔やむ必要は無いってばよ。これは俺が決めた事だからな。」
ナルトはそんなカカシに笑いながら言った。
「その代わり、カカシ先生は俺が抜けた七班の二人を頼むってばよ。」
「...ああ。」
ナルトから頼まれたカカシは、せめてその頼み事を全力でやりきろうと決意する。
「まさか、ヒナタに先を越されるとはね...でも...これからは里の恩恵は無いんだからね...十分注意していくのよ?」
紅は、ヒナタに恋人が出来た事を少し羨ましそうにしながらも、アドバイスを贈る。
「はい。」
ヒナタはしっかりと頷いた。
「ナルト...木の葉は任せな。私たちがしっかりと守っていく。」
「ナルト...しっかりのぉ。だが...ワシを嵌めた事はずっと根に持つからのぉ...覚えて...ぎゃーっ」
自来也は、綱手に尻を掴まれて最後まで言うことは出来なかった。
「五代目...木の葉の事...よろしく頼むってばよ。それからエロ仙人は、ばあちゃんに押し付けようとしてたんだから、自業自得だってばよ。」
ナルトはそう言うと、別れの挨拶を告げて離れる。
「ナルト兄ちゃん...本当に行っちゃうのかコレ。」
木の葉丸が、ナルトに声をかける。
そこにはモエギたちもいた。
「木の葉丸...三代目のじいちゃんの事はすまなかった...俺のせいでじいちゃんが火影を辞めることになっちまって...」
「それは良いんだコレ。じじいが火影をやめたことで、俺に、修行をつける時間を取ってくれるようになったし...でも...」
「でも?」
「ナルト兄ちゃんは、これで良かったのかコレ?じじいは最近ナルト兄ちゃんに謝る言葉ばかり言ってるぞコレ...」
木の葉丸からヒルゼンの現状を知るナルト...
「そうだな...三代目を恨んでなかったって言ったら嘘になる...」
「やっぱり...」
ナルトの言葉に落ち込む木の葉丸...身内が、自分の尊敬する人に恨まれる...それは木の葉丸にとっては悲しい事だった...
しかし、ナルトの話には続きがあった。
「けどな...三代目のじいちゃんにも立場があった...決してじいちゃんが進んで、俺を迫害しようとしていた訳じゃないってことは理解してるってばよ。」
「じゃあ...」
「ただ、俺が許す...と言ってもじいちゃんが自分を責めることを辞めなければ意味がないんだってばよ...だから...木の葉丸...じいちゃんに伝言を頼みたいんだ。」
ナルトはそこで、言葉を切ると木の葉丸を見て言う。
「『木の葉丸を立派な忍に育てて欲しい』...そうしたら許すってな。」
「兄ちゃん...うん。必ず伝えるぞコレ。」
木の葉丸たちと別れたナルト。
最後にサスケとサクラが挨拶に来た。
「ナルト...色々と済まなかった...」
サスケは、あれ以来憑き物が落ちたかのように素直になった。
ただし、逆恨みからナルトを殺めようとしたことは、サスケにとって未だに凝りとなっており、事あるごとに謝ってくる。
「もう良いってばよ。それよりも、サクラちゃんの事...よろしくな...俺はもう、お前らを守ってやれないからな...」
「ああ...それと...お前に言われたこと...しっかりと考えてみる。俺にとって大事な物がなんなのか...そして、今度会うときは...もっと強くなって見せる。」
「私も...ナルトやヒナタに負けないように...しっかりと修行をして強くなるから。また必ず会いましょう?二人とも...」
その場に集った仲間たち...ナルトはもう一度見渡す。
そして少しガッカリする...ナルトにとって、とても大事な人がそこにはいなかった...
そんなナルトの心情をヒナタも理解していた。
落ち込むナルトにヒナタが声をかけようとして何かに気付いた。
「ナルト君!あそこ...」
ヒナタが指差す方向...その木の上にイルカがいた。
イルカは、他の仲間たちと違い生徒を預かるアカデミーの講師だ...
立場上、危険とされているナルトに近寄る事が出来なかったのだ...
それでも、イルカはナルトの門出を祝うため駆けつけた。
例え近くまで行けずとも...せめて見届けてやりたい...
(ナルト...俺たちの別れは既に済ませているだろ?...俺はお前の選択を応援するよ...あの時誓ったように...)
イルカは、その時の事を思い返す。
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イルカは、ナルトが正式に里を抜ける辞令を受けた翌日...忙しい時間の中、会いに来ていた。
「ナルト...とうとう決まったんだな。」
「ああ、イルカ先生には...本当に感謝してるってばよ。」
「何言ってるんだ...俺なんか...何もお前にしてやれない...」
イルカは、自分の弱さに不甲斐なさを感じる。
そんなイルカに、ナルトはフッと笑うと、
「前にも言ったろ?イルカ先生は俺の心を救ってくれた...俺が今、こうして笑えているのは、イルカ先生のお陰なんだってばよ。だからイルカ先生は、そのままで良い...そのままのイルカ先生でいてくれ。」
「ナルトォ...」
ナルトの言葉に、涙を浮かべるイルカ。
そして、少ししてイルカが落ち着いた頃...
「ナルト...もうすぐ俺たちはお別れだ...何か、贈り物でも...って考えたんだけど...なかなか思い付かなくてな...」
イルカは照れながらそう言うと、自分の額当てを外し、
「だから...コイツを一緒に連れていってやってくれないか...」
そう言って、ナルトに自分の額当てを差し出す。
「イルカ先生?」
「ほら...里を抜けることになったら、お前のしてる額当ては、里に返却しなきゃならないだろ?」
確かにイルカの言う通りだ。勝手に里を抜けるのとは違い、今回は里の同意の元で里を抜ける。
そうである以上、木の葉から支給された装備品は、返却しなければならない。
何よりも、その里の一員である事を示す木の葉の額当てはその筆頭だろう。
木の葉を抜けた人間が、木の葉の額当てをして犯罪でも犯せば、それはそのまま里の評判にも響いてくるのだから...
数日後には、回収班が来るハズだ。
「その代わりにって訳じゃ無いけど...俺の...この額当てをお前にやる。俺の代わりに、一緒に連れていってくれ。」
イルカは、そう言ってナルトに額当てを手渡した。
「イルカ先生...」
ナルトは、手渡されたイルカの額当てから、イルカの包み込んでくれるような、暖かい心を感じた。
思わず、涙がこみあげる。
「ナルト...前にも言ったけど...改めて誓うよ。俺は、お前がどんな決断を下したとしても、それを応援する。俺は、一緒には行ってやれないけど...きっと...いつか...また会おうな。」
「イルカ先生ぇ...!」
「ナルト...!」
二人は泣きながら、抱き締めあった。
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その時の事を思い出し、苦笑するイルカ。
イルカは、今まさに、木の葉から去ろうとしているナルトをみる。
イルカはただ頷いた。
ナルトは、それだけで笑みを浮かべる...
(ありがとう...イルカ先生...俺...頑張るよ...)
ナルトも頷き返す。
ヒナタを伴い、とうとう門を出るナルト。
ナルトは最後にもう一度振り返り、木の葉を一望する。
そして、自ら故郷に別れを告げた。
「さよなら...木の葉の里...」
今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。
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希望する
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希望しない