シカマルが、木の葉を抜ける願いを綱手に伝えてから一年が経過した。
その一年間、綱手の補佐として自来也とシズネにみっちりと鍛えられたシカマルは、約束通り、木の葉を抜ける運びとなった。
そして今日、シカマルは木の葉を抜ける...
「綱手様...色々とお世話になりました。」
シカマルが最後の挨拶を告げる。
「シカマル、お前には出来る限りの補佐の仕事を教えた。向こうでナルトをしっかりと補佐してやれ。」
綱手がシカマルに言う。
「はい。」
頷くシカマル。
「それから、お前に頼んだ最後の任務...必ず果たせ...それがお前を木の葉から出す条件なのだからな。」
綱手はもう一度確認する。
「わかってます。」
シカマルは、再度頷いた。
その返事に満足した綱手は下がる。
シカマルに別れを告げたい者たちの為だ。
「シカマル...どうしても行っちゃうの?」
チョウジは、涙ぐみながら言った。
「すまねぇな...チョウジ...これでも悩み抜いて決めた結論なんだ。」
シカマルとて、チョウジと別れるのは辛い。
幼少期からの友人であり、最も信頼する戦友...
「チョウジ...俺は俺に出来ることをする。お前はお前に出来ることでいのや、他の同期の奴らを助けてやってくれ。」
チョウジの肩に手を置いて、シカマルが言った。
「僕に出来るかな...」
不安そうなチョウジ...
「大丈夫だ...お前は凄ぇ忍だってぇ事は、俺が一番知ってるんだ...一つだけ...お前に足りないとしたら、自信...それだけだ。」
「自信...」
「お前は俺なんかよりずっと凄ぇ忍になれる。」
チョウジの目を見て、しっかりと告げるシカマル。
「うん...僕...頑張るよ。」
シカマルの言葉に勇気付けられたチョウジは、強く頷いた。
「あーあ...シカマルには私が火影になった時、補佐になって欲しかったのに...」
いのが、言う。
「悪いな...いの。」
「まあ、いいわ...ナルトのこと...頼んだわよ...シカマル。」
いのは、サバサバとしていた。
いのはミーハーだが、相手の気持ちを思いやることの出来る女性だ。
そして、切り替えも早い。シカマルがナルトの補佐をするなら、それはそれで良いことだと考えていた。
「いの...火影になるのは大変だが、木の葉のナルトへの意識を変えるのはもっと厳しいぞ?」
「わかってる...私もあれから色々調べたし、今の里の状況も理解してるつもりよ...」
ナルトのために里を変える。その為に火影を目指す...
あの時誓った気持ちに嘘はない...
今も目指す目標としてはいるが、それがどれだけ困難な事か...
あの時の自分達は子供だった...
それでも...
「それでもシカマルが言ったように、私たちは私たちが出来ることをやっていくしかないのよ...最初から諦めて何もしないより、少しでも変える努力をしないとね...」
「いの...そうだな...」
いのは、変わった...
もしかしたら、自分達の中で一番成長したのかも知れない。
相変わらず、恋愛脳でイケメンに弱いところはあるが、理想と現実に折り合いを付けて、できることをしようと努力している。
シカマルの予想では、ネジが自分達の中で最も火影に近いと考えていたが、もしかしたらいのが本当に火影になるかも知れない...
シカマルは、そう感じた。
ちなみに、他の同期たちはこの場にはいなかった。
綱手がこの件に関して箝口令を敷いたのだ。
ナルトの同期たちは、それぞれ優秀な忍に育ってきている。
しかし、ナルトの件で木の葉に含む感情を持っている者たちでもある。
今のところ、彼らは火影になり木の葉を変えることを目標にしているが、いつシカマルのように里を抜けようとするかもわからない。
その為、同じ班員のいのとチョウジを除き、今日シカマルが木の葉を抜けることは知らされていなかった。
最後に、シカクがシカマルに声をかけた。
他の親族たちはいない...
シカマルの母は最後までシカマルが里を抜けるのに反対していた。見送りには来なかった。
シカクは、シカマルに話す。
「シカマル...男が決めたことだ...今更お前を止めはしない...母さんの事は、俺に任せておけ。その代わり、1つ言わせてくれ。」
「お前はナルトの話を聞いて、木の葉の負の面を見すぎた...だがな...決して木の葉はそれだけじゃない...木の葉の皆は、木の葉を...家族を守るために命を懸けて戦うことも出来るんだ...それだけは忘れないでくれ...」
「そんなことはわかってるさ...。けどな親父...そんな木の葉だからこそ、尚更許せねぇんだ...なんでその優しさをナルトには向けられないんだ?同じ木の葉の仲間だろ?あいつは何も...憎まれるようなことは何もしてねぇじゃねえか...親父は知ってたんだろ?ナルトの境遇もナルトに対する迫害も...」
「.........。ああ...」
シカクは当然知っていた...知っていて何もしなかった。
当時の上役たちの決定だ。シカクたちが内心反対したとしても決定が覆る事はない。
せめて、自分の子供たちには色眼鏡で見ることをしないよう教育する事が、せめてもの抵抗だった。
「すまねぇ...親父たちの立場は理解してるつもりだ...」
少し感情的になってしまった事を反省するシカマル。
「いや、良い。ナルトのフォローが出来なかったって意味じゃ、俺も同罪だからな。」
その結果、自分の息子を里抜けさせることになってしまった...
後悔するシカク。
「親父...そんな湿気た面するなよ。別に今生の別れになる訳じゃねぇ...」
「そうだな...」
「ああ、そうだ。最後に言っておきたい事があるんだけどよ。」
「うん?」
「親父の秘蔵コレクションの隠し場所...母ちゃんにバレてるぞ?」
それは、シカクにとって死刑宣告にも似た言葉だった...
「...本当に?」
顔色を青くしながら聞き返すシカクに笑いながら頷くシカマル。
「じゃあ、元気でな親父。」
がっくりと四つん這いになって落ち込むシカクに声をかけながらシカマルは旅立った。
ちなみに、その後シカクは自来也が慰めたそうな...
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それから一月後...のんびりと観光をしながら目的の光の里へとやって来たシカマル。
「止まれ...ここに何の用だ?小僧!」
門番をしていたのは再不斬。
シカマルが忍...それもそれなりの実力者だと瞬時に見抜いた再不斬は警戒しながら用件を聞く。
「うずまきナルトに会いに来た。」
強烈な殺気を浴びながら、それでもしっかりと告げるシカマル。
「そいつは、ここの長の名前だ。...簡単に会わせる訳にはいかねぇなぁ...」
人斬り包丁を構えながら言う再不斬に、
「奈良シカマルが来たと伝えてくれ。そうすればわかる。」
そう言ったシカマル。
自分の殺気を受けて尚、構える様子さえ見せないシカマルに、感心した再不斬は、
「良いだろう...ここで少し待て...」
そう言って、もう一人の門番をしていたウタカタに目で合図を送る。
ウタカタは頷くと里の中へと入っていった。
ナルトに伝えに言ったのだろう。
それから数分...
「ナルトの許可は取った...入って良いぞ?ナルトの元へ案内する。」
ウタカタの案内のもと、里の中へと入るシカマル...
そこは里と呼ぶには、かなり小規模だった...
当然だ。人口は数百人程度なのだから。
元は暁のアジトだった場所...そこに集められた資金を使い改修しながら広げていった土地。
任務をこなし、資金を使い、少しずつ広げていっているが、まだまだその程度だ。
そこに集まったのは、ほとんどが事情があり、他に居場所を無くしてしまった者たちだった。
里の中を案内されながら、ナルトのいる執務室に到着するシカマル。
中に入ると...
「よぉ、久しぶりだってばよシカマル。」
そこに、ナルトはいた。
成長し、体格が大きくなっていたが、纏っている雰囲気も、シカマルに向ける笑顔も変わっていない。
「長?」
と、そこにナルトの側に控えた女性がナルトを窘める。
「と...悪い悪い。つい懐かしくってな。それじゃ改めて...よく来てくれたってばよ...木の葉の使者どの。俺がこの光の里の長の、うずまきナルトだ。」
今更ながらに、取り繕い対外的な対応をするナルト。
シカマルを木の葉の使者と考えているようだ。
「ああ...ナルト...俺は木の葉の使者としてここに来たんじゃ無えんだ。」
勘違いされているため、言いにくそうにシカマルが話す。
「?じゃあ、何をしに来たんだってばよ?」
「俺を...この里の忍として入れて貰いたい。」
ナルトの質問に、率直に答えるシカマル。
「なんだって?」
予想外の言葉に固まるナルト。
「木の葉は抜けてきた。俺はここで、お前の補佐として働きてぇんだ。」
「抜けてきたって...大丈夫だったのか?」
思わず立ち上がるナルト。
「ああ...綱手様からちゃんと許可は頂いたさ。」
「よく、ばあちゃんが認めたなぁ...今の木の葉の状況は、俺たちも把握してるってばよ。はっきり言ってシカマルみたいな優秀な人材を外に放出する余裕なんて無いだろ?」
「一応、条件はあるけどな。」
綱手から許可が出てるとの答えに、尚も驚きながら続けるナルト。
「ナルト君...いえ...長...彼をこの里に受け入れるなら...」
「ああ...そうだな。」
ナルトの言葉を遮り、また先程の女性がナルトに意見する。その言葉に頷くナルト。
「シカマル...お前の事は信用してるが、一応規則なんでな...この里のメンバーになるなら少し面接をさせて貰うってばよ。」
言いながら、ナルトは九尾モードになる。
ナルトが女性に頷く。
どうやら、この女性はナルトの補佐をしているようだ。
「それでは、こちらから質問をします...正直に答えてください。」
女性からの質問は普通の面接と変わらなかった。
何故、この里に入りたいのか...
特技、趣味、この里で何をしたいか...
その質問に答えるシカマル。
面接が終わる。
「さて、シカマル...結果を伝えるってばよ。」
九尾モードを解き、ナルトが厳かに言った...
「採用!」
「って軽いだろ!」
思わずツッコミを入れるシカマル。
「ふふ...心配いりませんよ。さっきの面接の時、ナルト君が九尾のチャクラを纏っていたでしょう?あの状態だと、ナルト君は人の悪意を感じとる事が出来るんですよ。僕からの質問の時、あなたにやましいことがあれば、ナルト君は直ぐに気付いてました。改めて...シカマル君...僕は白と言います。今はナルト君の秘書のようなものをやらせてもらっています。よろしくお願いします。」
シカマルは白と握手を交わした。
「ナルト...お前、こんな美人の秘書なんて付けて、ヒナタにヤキモチ焼かれたりしないのか?」
シカマルが笑いながらナルトをからかおうと声をかける。
「あ...僕は男ですよ?勘違いしないで下さい。」
ナルトが、なにか言う前に間髪入れずに白が答える。
「え?」
その言葉にシカマルは固まった...
シカマルが硬直から復帰したころ...
「そう言えばシカマル。木の葉を抜けるのに綱手のばあちゃんが出した条件ってなんなんだ?」
思い出したかのようにナルトが聞いた。
「ああ、それなんだけどな...」
言いにくそうにシカマルが頭をかく。
やがて意を決し、
「ナルト...綱手様と会談を開いて貰いたい。」
シカマルが木の葉を抜ける条件...それはナルトに綱手との会談を取り付けることだった。
今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。
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