「ナルト...綱手様と会談を開いて貰いたい。」
シカマルが木の葉を抜ける条件...それはナルトに綱手との会談を取り付けることだった。
「おう。良いってばよ。」
シカマルの言葉を受けたナルトは、あっさりと了承の返事をした。
「って、軽すぎだろ!」
思わずツッコむシカマル。
「ははは。何驚いてるんだってばよ。綱手のばあちゃんと話し合いの場を作れば良いんだろ?御安いご用だってばよ。」
ナルトは笑いながら答える。
「ハァ...あのなナルト。里のトップ同士の会談となれば、里の方針にも影響を与える重大な話し合いになる。ましてや相手はお前を迫害した木の葉のトップだ...普通は警戒するもんだろ...」
シカマルはナルトの楽観的な態度に頭痛を覚えながら、説明する。
「ナルト君。シカマル君をからかうのは、その辺にしませんか?話が先に進みません。」
白がナルトを窘める。シカマルが里の一員になったことで、すでにナルトへの態度は、身内に見せるものとなっていた。
「元々、近いうちに五大国の隠れ里...つまり五影と会談を設ける予定だったんですよ。」
白が、ナルトがシカマルの要請をあっさりと受け入れた理由を説明する。
「うちの里もだいぶ安定してきたしな。依頼のリピーターも増えてるし、そろそろ他の里と交渉する時期だったんだってばよ。」
ナルトが後を引き継ぐ。
「近い内に、五影をこの里に招待する手紙を出すつもりだ。綱手のばあちゃんには、他の影を招待する日の一週間前に来てもらう。そこで個別の会談を設けるってことでどうだ?」
「さすがに、木の葉にナルト君を向かわせる程、僕たちは木の葉を信用してはいませんよ。」
「俺を恨んでる連中も多いだろうしな...」
ナルトが寂しそうに呟いた。
「...ああ。木の葉の連中は、今の不況がお前のせいだと考えているからな。そもそも、自分達が木の葉からお前を追い出したようなもんなのにな。自分達の行動を省みず、悪いことは他人のせいにして...いつまでもそんなだから俺は...」
(木の葉を見限ったんだ...)
シカマルとて、自分の故郷に思い入れはあった。
同期の友人たちが、必死に木の葉を変えようと頑張っている姿も見てきた。
ましてや、恩師や家族もいるのだ。そう簡単に木の葉を抜けようなどと考えた訳ではない。
シカマルの苦悩を理解したナルトは、フッと笑うとシカマルに声をかけた。
「まあ、とにかく綱手ばあちゃんとの会談は受ける。それでシカマルは正式にこの光の里の一員だってばよ。ガンガンこき使ってやるから覚悟しておけってばよ。」
「おいっ!こき使うの前提かよ。俺が面倒くさがりなの知ってるだろ。」
ナルトの言葉に抗議の声をあげるシカマル。
その顔は笑っていた。ナルトが重い空気を変えようと言い出したのを理解したのだろう。
「そんな余裕がうちにあるわけ無いってばよ。何しろ、うちは新興の里なんだ。有能な人材を遊ばせておくわけ無いだろ。」
「ぐっ...」
「ふふ...と言うわけで貴方にはナルト君の補佐をしてもらいます。」
白がシカマルに言った。
「???...あんたがナルトの補佐をしてるんじゃ無いのか?」
少なくとも、シカマルにはそう見えた。
白は有能な補佐だと感じていた。
「僕は、ナルト君の正式な補佐ではないですよ。暫定的にナルト君の補佐の仕事もしていますが、本来は再不斬さんの部下です。」
「言ったろ?うちは人材不足だって。特に、うちは戦闘に特化したようなのばっかでな。白やシカマルみたいに文官も出来るような忍は少ない。」
「要するに脳筋の武闘派集団ですね。まあトップがナルト君ですから。」
「おいっ!」
白の辛辣な評価に抗議するナルト。
「と言うわけで、ナルト君の補佐はシカマル君にお願いします。もちろん、引き継ぎはしっかりやるので安心してください。」
ナルトの抗議を華麗にスルーして白が続ける。
「そりゃあ良いけどよ...新参者の俺がそんな地位に付いて、この里の連中は面白く無いんじゃねぇか?」
シカマルの不安は最もだ。
「この里の人達は、ほとんどが他に居場所を無くした人達です。ナルト君に感謝こそしても、恨むような人はいませんよ。ナルト君の決定には素直に従います。」
しかし、白は笑ってそれを否定する。
「だけどな...新興の里なら当然、それを探ろうと各国からスパイが潜り込んでるハズだ。そいつらが扇動したら、あっという間に内戦になっちまうぞ?」
「この里にスパイはいませんよ。貴方もさっき受けた面接。あれはこの里のメンバーになるにあたって、必ず受けて貰うものです。さっきも言いましたが、九尾モードになったナルト君は、相手の悪意を感じ取る事が出来ます。嘘を付けば、当然後ろめたさを感じます。仮に貴方が木の葉のスパイとしてここにやって来ても、あの面接で貴方の悪意を感じ取ったナルト君が不採用にしてましたよ。」
白の説明に一度は納得するシカマルだったが、
「それでもだ...後から里に反感を覚える場合もあるハズだ。」
「勿論、それは考えられますが...さっきも言いましたがこの里の人達は、ナルト君に感謝しています。ちょっとやそっとの事で里に反旗を翻すことはありませんよ。まあ、この里の特殊性と言うべきものかも知れませんが...」
シカマルは、ようやく納得した。
この白と言う人物は、かなり頭が良い...
白との会話を通じて、目の前の人物をそう評価したシカマル。
元より、この里についてあまり知らない自分だ...
白が言うならきっとそうなのだろうと思ったのだ。
「さて。話は纏まったな。じゃあうちの里の幹部を紹介するってばよ。」
シカマルが白と会話をしている間に尾獣空間を通じて、他の人柱力に連絡を入れていたナルト。
執務室に幹部が集まっていた。
経理を統括しているヒナタ。
「し、シカマル君!どうしてここへ?!」
シカマルを見て驚くが、これからナルトの補佐に就くと知ると、笑いながら握手を交わした。
ヒナタの補佐をしているのはテマリだ。
シカマルに対しては、今のところ含む所はない。
中忍試験で少し見た程度だ。
本来の歴史では既に惹かれ合っていた両者だが、まだこの世界ではお互い知り合いの知り合い程度の認識だった。
営業面を統括しているユギト。
彼女はナルトの前世と同じように逆境にめげず、里の信頼を勝ち取った者だ。人当たりも良く、幾つもの依頼を勝ち取っていた。
ユギトの補佐をしているのはフウ。
彼女は、人懐っこく快活であり、ユギトとはまた違ったアプローチで依頼を得ていた。
戦闘隊長の再不斬。
戦争が起きれば、部隊を預かることになっているが、生憎とこの里に仕掛けようとする者がいないため、出番がない。
シカマルの補佐就任に驚きつつも、自分の殺気に反応しながらも、悠然としていた態度を気に入っていた為、特に何も言うことは無かった。
再不斬の補佐に白。
今のところ平和なため、ナルトの補佐も兼任していた。
当然忙しく、シカマルが来て、一番ありがたかったのは彼かも知れない。
守備隊長に老紫。
里で最も年が上の彼は戦闘経験が最も豊富なため、有事の際には彼が里を守る要となる。
その補佐として我愛羅。
彼の能力は、守る時にこそその真価を発揮する。
戦闘経験の豊富な老紫の指示のもと、その力を振るえば、里の守りは磐石と言えるだろう。
そして警備隊長のウタカタ。
真面目な彼は、補佐で弟子のホタルと共に犯罪を取り締まる部署に所属している。
「で、里長をやらせてもらってるのが俺。うずまきナルト。以上。説明終わり!」
「ってちょっと待て。再不斬ってのとウタカタだったか?確か門番をやってたよな。戦闘隊長と警備隊長って...」
そんな人間がなぜ門番なんぞやってるのか...
「そんなの決まってるだろ...暇だからだ。」
再不斬が当然の如く答える。
今のところ、任務外で忙しいのは事務や営業と言った部門。
平和なこの里では、再不斬たちの活躍の場は無い。有事の際ならともかく、任務も無ければ暇なのだ...
「有能な人材を遊ばせておく余裕は無いんじゃ無かったのか?」
呆れたようにシカマルが言った。
「事務方の方はな...」
嘆息してナルトが答える。
「ま、これからよろしくなシカマル。」
ナルトが笑って言った。
「ああ!」
気持ちを切り替えて頷くシカマル。
その晩...
シカマルに用意された部屋で荷物の整理をしていたシカマルはリュックからあるものを取り出した。
それはアスマがシカマルに渡した餞別だった。
あの日...シカマルの旅立ちの日にアスマは現れなかった。
しかし、数日前にひょっこりと顔を出して挨拶に来ていたのだ。
「もうすぐこの里を出ていくんだってな...シカマル...」
「ああ...」
「餞別代わりと言っちゃあなんだが...コレを持っていけ...」
そう言って差し出してきたのは将棋の盤と駒。
それは、シカマルが良くアスマと勝負しているときに使っていたものだった。
「自分の子供と遊んだら良いじゃねえか。」
この時、アスマと紅との間に子供が出来ていた。木の葉を辞める自分は受け取れない...そう思った。
「良いんだよ...その時は、また新しいものを用意するさ...コレはお前が持っていけ...」
「アスマ...」
「まあ...その...なんだ...今更、俺が何か言っても仕方ない。だが一つだけ...お前の師としてアドバイスを贈ろうと思う。」
そのあと、アスマは言いにくそうにしながらも、口を開いた。
「.........。」
「お前はお前が信じた道を突き進め。迷うのも良い。立ち止まるのも悪くない。だが後戻りだけはするな...そこには後悔しかないからな...」
かつては、里のやり方に反発し、守護忍十二士にまでなった男。彼が何を思いその言葉を贈ったのかシカマルにはわからなかった。
それでも、アスマがアスマなりにシカマルを気遣っているのだけは理解できた。
「元気でな...」
アスマはそれだけ言うと、後ろを向き去っていった...
その後ろ姿を思い返しながら...
「ああ...わかってるよアスマ...俺は俺のやりたいようにやるだけさ...」
シカマルは、思い返したアスマの言葉に返事をするように、自分の思いを口にするのだった。
今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。
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