木の葉でクーデターが勃発して、早くも半年が経過した。
木の葉でも、まずは政権の安定が急務なようで、特に国際的に何かを仕掛けてくるという様子は見られなかった。
光の里にとっても、木の葉からの難民の受け入れにより、それなりのトラブルがあった。
綱手からそれとなく諭され、事前に準備していてもなお、自身の里の人数よりも遥かに多い難民の受け入れだ...スムーズに進む方がおかしいだろう。
それも、一月もすると収まった。
もともと難民たちは綱手を慕って集まった者たちなのだ。綱手が間に入ることで、光の里の民たちとのトラブルは減っていった。
そして、ナルトとヒナタはと言うと...街を散策していた。
今日の仕事は休みだ。
前世で、ボルトやヒマワリ...そしてヒナタ...あれだけ欲していた家族に対して、火影としての責務、その忙しさを理由に寂しい思いをさせてしまった...その教訓から、この里では、例え長であっても休日を、他の皆も同じように必ず設けるようにしている。
幸い、この里は木の葉と違い、然程大きくは無い。木の葉の難民たちがいるとは言え、綱手と協力する事で、休日はしっかりと取れていた。
その休日は、ヒナタとの修行や里の視察に充てている。
今日の修行のノルマは終えて、今は二人で里の中を見て回っていた。
未だに修行を続けているのは、情勢が不安定と言うのもあるが、それ以上にカグヤの復活を警戒しているからだ。
魔像...十尾の脱け殻は、暁を壊滅させた時に地中に埋めた上、老紫の作った口寄せ封じの札を周りに張り、悪用されないように里で厳重に管理している。
尾獣は全て、人柱力と共に在る。それでも油断は出来ない...
この世界は既に、前世の世界とは乖離した歴史を歩み始めている。
前世と違う世界である以上、これからもカグヤの復活が絶対に無いとは言いきれないのだ。
ヒナタも、木の葉を出た時と比べ物にならないほどの力を付けている。
それでも、世の中に絶対などという言葉はない。
前世で...自身が治め、平和なハズの木の葉でさえ、あんな事が起こったのだ...油断は出来なかった。
「ナルト君?どうかしたの?」
急に暗い表情を見せたナルトに気付いたヒナタが声をかける。
「い、いや...何でも無いってばよ...」
慌てて誤魔化すナルト。しかしその内心は...
(あれから何年も経ったっていうのに...忘れられないもんだな...ヒナタ...ヒマワリ.........ボルト...)
前世で守れなかった最愛の家族...そしてたった一人...残してしまった息子...
今でも、時々こうして思い出してしまう...あのヒナタたちは、ちゃんと天国に行けたのか...ただ一人...生き残ったボルトはどうしているのか...
(俺がもっと...しっかりと家族を見ていれば...)
そして、思い出した時は決まって後悔が襲ってくる...
そして、そんな時...決まって慰めてくれるのが...
「大丈夫だよ...ナルト君。私はここにいる。貴方の隣にずっといるから...」
ヒナタは、ナルトの頭を抱えると自分の胸に抱き、そう言いながらナルトを安心させようとする。
ただし...
「...ありがとな...ヒナタ...俺は大丈夫だ。それより...皆が俺たちを見てるってばよ?」
「えっ!?キャア!!!」
そう...今回は場所が悪かった...
里の中を見回ってたのだ。当然周りには里の人間たちがいた。
ヒナタは、慌ててナルトを放すと顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「相変わらず初々しいですね。長。」
「私もいつか、ナルト様のような素敵な人を恋人にしたいわ。」
「仲が良くて羨ましいねぇ...」
しかし、周りの人間たちがナルトとヒナタに向ける感情は、好意...
微笑ましいものを見たといった感じだ。
それも当然、ナルトとヒナタは里の有名人である。
なにしろ、里の発起人とその思い人であり、最古参の二人。
そして、この里を作った理由がヒナタと安心して暮らして行ける場所を作りたかったからと、ナルト自らが公言しているのだ。
普通なら依怙贔屓と取られるような事だが、里の者たちから不満は出ない。
それはナルトがどれだけヒナタを大事にしているか、何度も目撃していること。
そして、そのお陰でこの里が出来たこと。
結果的には、自分たちも安心して生活できる場所になったのだ。不満なぞ出ようハズが無い。
「ハハハ...でも、本当...ありがとな...ヒナタ。お前がこうして、俺の隣で笑ってくれているから、俺はこうして今も生きていられるんだ...」
そう...九喇嘛によって強制的に逆行させられたナルトは目標を見失っていた。
あのままなら、自暴自棄になり既にその命を手放していただろう...
「ナルト君...」
「ヒナタ...」
結局、周りそっちのけで自分たちの世界に入ってしまう二人だった。
この里では良くある事。その空気を察知した周りの人間たちは既に退散していた。
二人が現実に戻ったのは、実に5分と言う時間が過ぎた頃だった。
正気に戻った(笑)...二人は、散策を続ける。
途中で、カカシとイルカに遭遇した。
「イルカ先生...それにカカシ先生も...こんなところで何やってるんだってばよ?」
「ん?なんだナルトか...俺はもう先生じゃ無いよ?」
カカシが、だらけながら言う。
「良いんだってばよ。俺にとっては先生なんだから。」
ナルトは笑いながら返した。
「なに、イルカ先生とナルトについて話してたのさ...この里は良い所だ。まさか、こんな里を教え子が作るなんて...ってな。」
「そう言ってくれると、俺としても嬉しいってばよ。それより...今更だけど、カカシ先生は木の葉を出て良かったのか?」
ナルトは、ちょうど良いとばかりに、カカシに聞いた。
カカシが木の葉を、何よりも大事にしていたのは知っている。
彼の父や師が...親友が...最愛の人が、そして仲間たちが...命を懸けて守った里なのだから...
「.........そりゃ、もちろん悩んださ...でもな...俺はダンゾウのやり口は認めたく無かった...前に言ったよな...『忍の世界でルールを守れない奴はクズだ...しかし仲間を大事にしない奴は、それ以上のクズだ』って...俺が守りたかったものがなんなのか...もう一度考えた時...木の葉と言う『場所』ではなく...木の葉の『仲間たち』それに、託してくれた『想い』だ...そう思ったのさ...」
「.........カカシ先生...」
「ん?」
ナルトはカカシの言葉を受けて、オビトの事を話すべきかと一瞬迷う...しかし、カカシにとってオビトは彼を庇い、英雄として死んだ親友...
ならば、このまま知らない方が良いだろうと思った。
知らない方が幸せな事もある...
「いや...何でも無いってばよ...」
だから、ナルトは何も言わないことにした。
「二人はデートか?」
今度はイルカが、ナルトたちに声をかける。
「ま、そんなような物だってばよ。」
「里の視察も兼ねてますけど、休日の日課みたいなものです。」
二人はあっさりと答える。
「ナルト...お前は今、幸せか?」
イルカは、これだけは聞いておきたかった。
里を出て数年...これだけの里を一から作ったのだ。
苦労もあったろう。笑ってすまされない事も勿論あったと思う。
その価値が、今本当にあるのか...
「ああ。勿論だってばよ。」
その問いに対し、ナルトはとびきりの笑顔で答えた。
「...そうか。(良かったな。ナルト。)」
ナルトの笑顔に、あの時送り出したのは、間違いではなかったと、改めてイルカは思うのだった。
イルカたちと別れた二人は、里の散策を続ける。
途中で、同期のメンバーたちや、ガイ班のメンバー、それにヒアシやハナビとも会い、世間話をした。
そして...
「ふふっ...」
「ん?どうしたんだ?ヒナタ。」
突然笑い出したヒナタに、ナルトは不思議そうに尋ねた。
「なんだか、昔の事を思い出しちゃって...昔の私は、ナルト君に声をかけるのも恥ずかしくて出来なかった...それが生まれ育った里を捨てて...ナルト君と新しい里を作る事になって...始めは十人位しかいなかったのに...今ではこんなに大勢の人がこの里に住んでる...皆、笑顔で過ごしてくれてる...弱虫だった私が、こんな大きな事に関わるなんて...そう思ったら、可笑しくって...」
「...ヒナタは弱虫なんかじゃねえってばよ。ただ...優しすぎたんだ...人を傷付ける事に戸惑う...忍としては弱点だった。でもな...」
「俺はヒナタのその優しさに救われたんだってばよ。」
「ナルト君...」
「今更だけど...ありがとうな...ここまで俺に付いてきてくれて。」
「そんなの当たり前だよ。それに、これからもずっと一緒にいるからね?」
いつまでも...こんな平和な時間が続けば良い...
二人はそう思った。
しかし...
その平和な日々は、唐突に終わりを告げる。
木の葉が光の里に対し、宣戦布告をしたのだった。
今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。
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希望する
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希望しない