ハァ...ハァ...ハァ...ハァ...ハァ...
息切れがする...自分の心臓の音がやけに大きく感じられる...
周りの喧騒が嘘の様に静かだった...
カカシが、目の前の男と対峙してから、まるで世界がその男と二人だけになったように、そして時が止まって感じられた...
「オビト...なのか...」
カカシは、震える唇からかろうじてその言葉を発した。
「ああ...久しぶりだな...カカシ...」
男は、カカシの言葉を肯定するかのように返事を返す。
「.........いや...そんなハズは無い。オビトは...アイツはあの時...俺を庇って死んだ...穢土転生って術は、そいつが死んだ時の姿でこの世界に口寄せされる...だからお前がオビトであるハズが無いんだ...」
カカシは、自らそれを否定する。
いや...自分に言い聞かせようとしての発言だった。
「くくくくくっ...否定したいのはわかるがな...わかっているハズだ...お前には...いや...お前だからこそわかるハズだ...『写輪眼のカカシ』...お前がそう呼ばれるようになった、その眼...そいつが俺を俺と認めているだろう?」
「くっ!」
カカシは左目を押さえる。まるで目の前の人物の視覚と繋がったかのように、自分を見る相手の感覚を捉える...
「じゃあ...本当に...」
「俺は、あの時...うちはマダラに助け出されていたのさ...」
「だったらなんで、木の葉に戻って来なかったんだ。お前が死んだと思って、俺やリンがどれだけ悲しんだと思ってる!」
たまらずにカカシは叫んだ。
「...助かった...と言っても、俺の半身が岩の下敷きになった事は変わらない。マダラの技術をもってしても、俺が動けるようになるには時間がかかったのさ...そして、ある程度動けるようになったとき...俺は地獄を見ることになった...俺が最も信頼していた友が...最も愛した女性を手に掛けた場面...」
「なっ!?...オビト...お前は...」
「ああ...あの時俺は...お前たちの近くにいた...お前たちの危機をあるヤツに聞いた俺は、お前たちを助けるために、現場へと向かった...そこで見たのはお前がリンを殺す所...その時に、俺は世界を見限った...」
「それで暁に入ったのか...」
オビトが纏う服は、暁のもの...当然カカシも気づいていた。
「と言うよりも、作ったのが俺でありマダラだ...俺たちの目的は、この世との完全なる決別...世界そのものに幻術をかける事...リンを見殺しにしたお前...そして死んでしまったリン...こんな世界に未練は無かった。例え幻の世界でも良い。いや...リンの生きる幻の世界こそが俺にとっての真の世界だ...」
「違う...そんなのは逃げだ。自分の都合の良い世界...都合の良いリン...それこそ偽物の証明じゃないか...お前は...リンの意思や心まで否定するつもりか...」
カカシはオビトの考えを否定する。
「ふっ...そうだな。その時は実際にそうするつもりだった...だが結局俺は...その目的を果たせずに殺された...あの九尾のガキにな...」
「お前は...俺やナルトを恨んでるのか?」
「はははっ...そうだな...そんな時もあった。けどな...今の俺はそんな気は無い。」
「なに?」
「俺を口寄せしたヤツが未熟なヤツで助かった...術の縛りが弱い...」
この軍における穢土転生部隊は大蛇丸とカブトで分担して口寄せされていた。
暁の担当は、カブト。
前の世界と違い、大蛇丸が健在なこの世界では、あの時の様に自分の身体を作り替えてはいない。
そのせいか術の縛りが弱く、口寄せした魂の自我を封印する事は出来なかったようだ。
流石に反乱を起こす様なことは無いが、かといって戦闘マシーンのように、ただ戦うだけの人形でも無かった。
「カカシ...俺はあのガキに殺された後、本当に会いたかった人に、あの世で再会することができたんだ。彼女はずっと...俺とカカシを見てくれていたんだ...再会して、そりゃあもう説教をされたけどな...お前と似たような事を言われたよ...そんな都合の良い自分を作って満足なのかってな...」
「!?...それはまさか...」
「俺は、別にお前らに復讐する気なんか無いさ...お前に、アイツの...リンからの言葉を伝える為にこうしてここにいる。」
「リンから!?」
オビトの言葉に驚くカカシ。
すると目の前のオビトがリンの姿を形作る。
『カカシ...』
「リン...」
恐らく幻術の類いだろう。しかしカカシは幻術を解こうとはしなかった。
今のオビトからは殺気を感じない。
何よりも自分の親友を信じたかった。
『カカシ...ゴメンね...私の命を背負わせてしまって...。貴方がどれだけ苦しんできたか...どれだけ後悔してきたか...あの世からずっと見てた。本当にごめんなさい。そして、いつまでも私の事を思ってくれてありがとう。』
「リン...俺は...」
『でも、そろそろ...貴方の幸せを見つけても良い頃だよ?私が貴方の手に自らかかったのは、貴方を不幸にするためじゃない。貴方に生きていて欲しかった...生きて幸せになって欲しかったからなんだよ?』
「.........。」
『私はもう...貴方の傍にはいられない...だから貴方の幸せを願うことしか出来ない。でももし、貴方が幸せになれない理由が私に引け目を感じているせいなら...それを取り除きたい。』
『カカシ...貴方が自分を許せなくても...私が貴方を許します。だからどうか...幸せになって下さい。忘れろなんて言わない...貴方はそんな器用な生き方が出来ないのはわかったから。貴方が幸せになることが、私の願いだと知って欲しいの。』
「!?」
『カカシ...いつまでも貴方を見守ってるわ。それから...来世では...きっと、一緒に幸せになりましょう?』
幻のリンはそう言うと、笑みを浮かべながら消えていった。
「リン...ああ...わかったよ...それが君の望みなら...俺は...」
カカシは、うつむいていた。その肩は心なし震えている。
「忍者が、簡単に涙を見せるな...カカシ。」
オビトがカカシに言う。それは自分が昔カカシに言われたセリフだった。
「フッ...俺は泣いてないさ。この左眼はお前の物だろう?」
涙を流しているのは左眼からだけだった。
「ははっ...そうかもな。俺は愚か者の泣き虫だ。だが、お前は違う。リンの思い...無駄にするなよ?」
「ああ...」
「これで、俺の役目は終わりだ。カカシ...俺に引導を渡してくれ...それできっと、成仏できる。」
オビトは、目を瞑る。
「任せろ...」
カカシは、雷切を発動した。
二人の身体が交錯する。
「なあ...カカシ...あの世でリンと二人...お前を見守ってるからな...必ず幸せになれよ。」
「ああ...きっと...俺が死んだら...沢山...話そう...」
「だからって、あんまり早く来るなよ?」
「わかってるさ。」
「さらばだ...カカシ...」
オビトは、それを最後に成仏していった。
穢土転生で作られた身体は、その魂が抜けると同時に崩れていく。
(オビト...リン...ありがとう...そして、これからの俺を...見守ってくれ。)
カカシは、決意を新たに戦場へと戻っていった。
今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。
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希望する
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希望しない