逆行したナルトの物語 完結   作:アーク1

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黒ゼツの策謀

ダンゾウは、ゼツと出会った時の事を思い出していた。

 

それは、ナルトに屋敷を吹き飛ばされ、潜伏中の時だった。

 

ゼツは、ナルトたちによって暁を滅ぼされた後、なんとか自分だけは逃げ出すことに成功していた。

 

偶然、ダンゾウの潜伏場所に現れたゼツは、ダメージを負った身体を癒すため、自分の持つ情報を対価に、ダンゾウに保護を求めたのだ。

 

その後、ナルトを倒すという共通の目的のために二人は協力する事となった。

 

ダンゾウにとっては、ナルト率いる人柱力の集団は、木の葉にとって脅威以外の何者でも無い。

 

ましてや、ナルトは木の葉に恨みを持っているハズなのだ。いつ、ナルトが木の葉に仕掛けてくるかも知れない。

 

この後に及んでもまだ、ダンゾウは自身が木の葉の火影となり、木の葉を繁栄させるという夢を諦めてはいなかった。

 

幸い、ゼツもナルトに恨みがあるらしい。自身のいる組織を壊滅させられたのだから当然の事だろう。

 

この男を利用し、ナルトと言う木の葉の憂いを断つ。

その功を利用して、他の里に先んじる。

 

ダンゾウの方針は決まった。

 

それから、情報を集めつつ木の葉の上層部への不満を利用してクーデターに成功したダンゾウは、念願の火影となった。

 

しかし、その強引なクーデターのおかげで、里の主力たちは、綱手に付いていってしまった。

 

綱手がナルトと懇意なのは知っていたが、まさか、あっさりと光の里に保護を求めるのは計算外だった。

 

それは、ダンゾウと他の者たちの木の葉への思い入れの差から起こったものだった。

 

ダンゾウにとっては、木の葉こそ優先されるべきものだが、他の者にとっては、故郷としての思い入れはあっても家族や友人、自分の命に優先されるものではない。

 

長く火影として里に尽力してきたヒルゼンすら、孫の木の葉丸の為にと、木の葉から離れていった。

 

内心、苦々しく感じるダンゾウであったが、直ぐに気持ちを切り替えると、光の里侵攻に向けて準備を開始する。

 

大蛇丸との協力を取り付けたダンゾウは、更に白ゼツの兵団の戦力を確かめる。

 

木の葉の忍は、今回ほとんどは留守番だ。

 

正直、今木の葉に残っている忍は、そのほとんどが戦力としては微妙な者たちだ。

 

上層部の情報に踊らされ、自ら見た物を信じない様な者たちなのだから、それも当然と言える。

 

命令には忠実に従ってくれるだろうが、何かあれば直ぐに裏切る可能性を持った者たち。

 

それが、今の木の葉の民たちに対するダンゾウの評価だった。

 

しかし、ダンゾウはそれでも今の木の葉の民たちを愛している。

 

自分を支持して付いてきてくれているのだ。

 

そして何よりも、ダンゾウを火影とする木の葉の住人なのだ。

 

例え、今は役立たずでもここから成長してくれればそれで良い...

 

その思いから、戦場に連れていくのは控えた。

 

「戦力が足りないかも知れないよ?」

 

そんなダンゾウの決断に異を唱えたのはゼツ。

 

交換条件として持ちかけられたのが十尾復活のため、木の葉の人間のチャクラを吸い上げ、魔像に流す術式を里に施すと言うもの。

 

ダンゾウ自身、今回の戦争は賭けに近い事を理解していた。

 

勝てば夢の実現を目指せるが、負ければ全てを失う。

 

綱手たちが敵に回ったことで、状況は益々厳しい。

 

仕方なく、これを了承するダンゾウ。

尾獣たちの祖、十尾の力がどれ程の物かはわからないが、少なくとも現在の尾獣一匹二匹よりは強いハズ。

 

ダンゾウは、木の葉の民たちの命に関わらない範囲でという条件を付けて、里に術式を施す事に同意した。

 

 

その術式を今、ダンゾウは解放した。

 

木の葉の里を巨大な術式が包み込む。

 

「これは...ダンゾウ様が言っていた術式か...」

 

「向こうは、苦戦してるんだな。」

 

「ダンゾウ様は、あの化け物が作った里を倒そうと頑張って下さっているんだ。俺たちも力を貸すぞ。」

 

侵攻前、事前に術について話を聞いていた木の葉の人間たちは、自分たちの力が戦争の勝敗を決める力になることに誇りを抱いていた。

 

ナルトという憎悪の対象が、自分で里を興し、幸せに暮らしているのは許せなかった。

 

そのナルトを倒すと言うのだ。喜んで力を貸そう。

 

木の葉の人間たちの心は、そのほとんどが一つに纏まっていた。

 

奇しくも、ダンゾウたち上層部がナルトを化け物とすることで、里を纏めるという計画がここで役に立っていたのだ。

 

舞台は、戦場に戻る。

 

術式を発動させたダンゾウ。

 

魔像にチャクラが集まっていく。

 

(木の葉の民たちよ...力を貸してくれ...)

 

その光景を黙って見ているダンゾウ。

 

「くくくくくく...あっはっはっはっ...」

 

その時、ダンゾウの隣に立っていたゼツが、堪えきれないと言った風に腹を抱えて笑い出した。

 

「何がおかしいのだ?ゼツよ...」

 

「そりゃあ、勿論...君の道化っぷりが可笑しくてさ...ダンゾウ...本当にありがとう。君のおかげで、僕の本当の目的が果たせるよ。」

 

「本当の目的...だと?」

 

「そうだよ?君は僕の目的をナルトへの復讐と考えていたみたいだけど、それは過程に過ぎなかったのさ。」

 

ゼツの物言いに、不安を感じたダンゾウ。

 

「さて、ここまで踊ってくれた君に、良いものを見せて上げよう。」

 

そう言って取り出したのは一つの水晶玉。

 

「これは遠見の水晶...」

 

そう...かつてヒルゼンが良くナルトを監視するのに使っていたものだ。

 

「さてさて...今の木の葉の里は、どうなっているのかな?」

 

ニヤニヤと笑いながら、言うゼツ...

 

そこに移っていた光景...それは...

 

木の葉に存在する全ての生き物が絶えていた。

 

人がいない...動物もいない...植物も枯れていた...

 

木の葉だった形跡は、建物と顔岩...そして、その人間が着ていたと思われる服だけが地面に落ちていた...

 

「バカな...あの術式で命までは取らないと約束したではないか...」

 

呆然としながら、ゼツに言うダンゾウ。

 

「そんなの嘘に決まってるじゃないか...君が僕を利用しようとしたように、僕も君を利用していただけさ。」

 

「だが、あの術式はワシも調べた。確かにあの術式には、人の命を留める程度で吸収を止める様ストッパーがかかっていた。」

 

他人を信用しないダンゾウは、当然自分でも確認はしていた。

 

「うん。木の葉を発つ時まではそうだったよ?でも、僕には優秀な手駒がいるのを忘れたかい?」

 

「まさか...」

 

「そう...木の葉の防衛の為に残してきた白ゼツたちに、術式のストッパー部分を消すように指示していたんだ。十尾を復活させるには、木の葉の人間の身体ごとチャクラに変換させるくらいでないと、とても足りないだろうからね...ところで...」

 

ゼツは、そこで一旦言葉を止める。そしてダンゾウの顔を見て嫌らしく笑うと、

 

「自分の手で、木の葉を終わらせた気分はどうかな?志村ダンゾウ?」

 

「あ...ああ...あああああああああ...違う...ワシは...木の葉を...ワシは...ワシが...」

 

知らされた現実に、ダンゾウは膝を付き、焦点の定まらない目で否定の言葉をぶつぶつと呟いた。

 

ピシッ...

 

その時、全てのチャクラの吸収が終わった魔像に罅が入る...

 

そして、そこから巨大な樹が表れた。

 

「これはこれは...まさか十尾を通り越して、いきなり最終形態の神樹になるとはね...予想以上にチャクラが集まったのかな...さて...」

 

黒ゼツは、一人言の様に呟くと、未だにぶつぶつと呟いているダンゾウを見ると、自分の身体を捨ててダンゾウに取りついた。

 

「ぐおっ...」

 

ダンゾウは抵抗する気も起きないのか、為す術なく同化されてしまう。

 

「マダラを使った計画は、ナルトのせいで邪魔されちゃったけど、結果的にはもっと操りやすい道化が手に入ったし、目的も果たせたから良かったかな。」

 

「黒ゼツ...てめぇ。」

 

ナルトがダンゾウの身体を覆った黒ゼツを睨む。

 

「さて、母さん復活前にもう一仕事しないとね。」

 

黒ゼツが呟く。

 

「きゃあああ...」

 

すると、後ろから悲鳴が聞こえた。

 

「ヒナタ!!!」

 

その悲鳴はヒナタのものだった。

 

気を失ったヒナタを抱えて男が黒ゼツの前に表れた。

 

「黒ゼツ様...ヒナタを連れてまいりました。」

 

「ヒアシさん...どうして...」

 

そう、それはヒナタの実父であるヒアシであった。

 

「何を言う。ダンゾウ様や黒ゼツ様の命令に従うのはお前たちの為なのだぞ。」

 

ヒアシは当然のことという風に言った。まるで疑問を感じていない。

 

「まさか...」

 

「さっきダンゾウが説明してたね。『別天神』で協力員を作ったって...紹介するよ。僕たちの協力員の『日向ヒアシ』だ。彼にはダンゾウと僕の指示に従うようにと術をかけてあったのさ。その一つが日向ヒナタの捕獲。前の戦いで気付いたけど、君たち...ハゴロモの力を継いでいるね?」

 

暁殲滅の折り、ナルトたちの戦いを見た黒ゼツは、確信していた。

 

「それは...」

 

「わざわざ力を二つに分けるなんて非効率な事をするのは理解できないけど、僕としては助かったよ。おかげでこうして片割れを簡単に捕えられたんだからね。君たちの内どちらかさえ殺せば、母さんを阻む者はもういない。この女の子も、流石にハゴロモの力を継ぐだけあって強いけど、実の父親のヒアシ相手には油断したみたいだね。」

 

「くっ...」

 

ヒナタを人質にとられ、動きを封じられらるナルト。

 

そんな、ナルトを尻目に黒ゼツは、不思議な形の刀を取り出した。

 

「これは、魂喰いと呼ばれる刀でね。これで傷つけられた人間は、その魂をも傷つけられる。魂の傷は癒される事はなく、やがてその人間の魂はあの世に行くことも出来ず消滅する。魂が無くなれば穢土転生も使えないよね。」

 

そして、気を失ったヒナタを見る黒ゼツ...

 

「まさか...」

 

「僕の計画を潰してくれたお礼だよ。君の大事な人は、僕自身が殺して上げよう...」

 

「や、やめろおおおおおおおおおお...」

 

グサッ...

 

黒ゼツは戸惑う事なく魂喰いをヒナタの身体に向かって突き刺した...

 

ビクン...

 

ヒナタの身体が一瞬跳ねたかと思うと、その場に血溜まりが出来る。

 

「あはははははははははは...これで母さんの復活を阻む者はいない。さあダンゾウ...神樹を取り込め。」

 

黒ゼツは、ダンゾウの身体を操り神樹を取り込ませる。

 

「さあ...母さんの復活だ...」

 

万感の思いを込めて、嬉しそうに黒ゼツが言った。

 

しかしその声とは対象的に、まさに絶望を形にしたらこんな感じの声が出るのではないか...そんな声が辺りに響き渡る。

 

「こんな世界.....................『消えちまえ』...」

今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。

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