ヒナタはどこか夢を見ている様な...不思議な気分だった。
自分は今どうなっているのだろう...
上も下も右も左も何もわからない...
自分の感覚すらあやふな状態だった...
ふいに誰かの存在が感じられる。
誰かが、自分に声をかけている...
「...て...して...目を覚まして...」
!?
一気に意識が鮮明になるヒナタ。
「ここは...!?」
「ようやく目を覚ましたね?」
呆然と呟くヒナタに、先ほど声をかけてきた人物が優しい口調で尋ねた。
その人物を見るヒナタ。しかし、相変わらず周りは闇に閉ざされ、その人物の顔さえわからない。声から察するに女性のようだ。
「はい...えっと...ここはどこですか?私はどうなったんですか?ナルト君は?」
その時、先ほどまで戦争状態であったことを思い出したヒナタは、慌てて自分が置かれている状況を把握しようと、目の前の人物に問い質した。
「慌てないで?ここは、貴方の精神世界よ?まずは、自分の意識を内に...そうすれば私の姿も見えるハズ。」
精神世界...それはヒナタにとってそれほど珍しいものでは無い。
ナルトの尾獣空間やハゴロモとの邂逅...
既に何度か経験しているヒナタは、言われた通り内に意識を向ける。
ここは自分の心の世界...
すると、闇に包まれていた景色が明るくなる。
広く、白い空間...それがヒナタの世界だった。
「貴女は!?」
ふと、目の前の人物に目を向けると、その姿に驚くヒナタ。
あまりにも自分にそっくりだった。
いや...今の自分よりも、かなり年上だろうか...
髪は肩程の長さで揃えられ、落ち着いた雰囲気を纏っている。
そうだ...自分はこの姿の女性を、見たことがある...
ハゴロモに頼んで見せてもらった、ナルトの前世の記憶...
そこで見た...
「貴女はまさか...」
「そう...私は貴女...いえ...正確に言うならナルト君の前世の世界で、ナルト君と一緒になった『うずまきヒナタ』って言った方が正しいのかな?」
ヒナタの予想を肯定するように、目の前の人物...うずまきヒナタは頷いた。
「やっぱり...でも、なぜ貴女がこの世界にいるの?」
ナルトの記憶では、この世界にやってきているのはナルトと九喇嘛のみのハズである。
他の尾獣たちも記憶を持っているが、アレはあくまでハゴロモが記憶の一部を送っただけで、魂ごとこっちに来たナルトたちとは違う。
しかし、目の前のうずまきヒナタは、その世界から来たのだと言う。
「それは私にもわからないの...私が気が付いた時には、既にこの世界にいたから...。あの時...私が死んだあの時から、ここに来るまでの経緯を私は知らないの。」
「そう...」
「それよりも、まずは貴女の質問に答えないといけないね...」
うずまきヒナタはそう言うと、ヒナタの置かれた状況を語りだした。
操られたヒアシに、捕らえられたこと...
黒ゼツによって、自分が魂ごと死にかけているということ。
自分の手を見ると、存在が消えかかっているように、薄くなってきていた。
これが魂を傷つけられたと言うことかと、何処か他人事のように考えるヒナタ。
自分が死にかけていると言うのに、恐怖は感じない...
むしろ、感じるのは悔しさ。
前世のナルトが味わった喪失感...
二度とそんな目に遭わせたくない...
その思いで研鑽を続けて来たと言うのに...
結局、また同じ思いをさせてしまった...
ナルトが自分を守ってくれるように、自分がナルトの心を守ると誓ったのに...
悔しさから、思わず下を向くヒナタ。
「貴女の気持ちは良くわかるけど、今の状況はもっと深刻なのよ?」
うずまきヒナタは、ヒナタの気持ちを理解しつつも、更に続ける。
そう...ナルトの今の状況を...
「そんな!?」
その話を聞いたヒナタは、思わず膝を付く。
今のナルトの心境を考えると、涙が止まらなかった。
いや...いつまでも泣いている訳にはいかない。
ヒナタは立ち上がる。
その瞳には強い意思が宿っていた。
「どうするつもりなの?」
うずまきヒナタが声をかける。
「ナルト君の元へ...ナルト君を助けます。」
ヒナタは迷わずに答えた。
「言ったでしょ?今の貴女は魂を傷つけられ、それが原因で死にかけているの...ナルト君を助けるどころか、自分の存在すら危ういんだよ?」
「それでも、なんとかします。私が死ぬと言うのなら、それこそ魂になってでも...私と言う存在が消える最後の瞬間まで...私はナルト君を支える為に行動します。」
ヒナタの言葉を聞いたうずまきヒナタは、複雑な表情を浮かべた。
「一つだけ、手がないことも無いわ。」
「え?」
「私と一つになるの。私と貴女は同じ存在...傷つけられ、損傷した『貴女』の魂に『私』と言う魂を融合して補修するの。そうすれば助かるハズ。」
解決策を聞いたヒナタはにわかに目を輝かす。
「ただし...」
しかし、うずまきヒナタの話には続きがあった。
「私と貴女は同じ存在ではあるけれど、辿ってきた歴史は違うわ。」
その通りだ。ナルトがこの世界に干渉したことで、この世界はナルトの前史とは大きく異なる歴史を辿っている。
うずまきヒナタは、ずっと木の葉の忍であったし、ナルトと結婚して子供も二人授かっている。
対して自分はと言えば、ナルトと共に木の葉を抜けて新たな里を作った。ナルトとは、恋人ではあるがまだ結婚はしていないし、子供も当然いない。
何よりも、今、ナルトを残して消滅しようとしている。
「私と融合した時、傷付き、弱った魂の貴女がどうなるか...私にはわからない。私と貴女の記憶を持った新たな私になるのか...それとも完全な魂を持つ私に取り込まれて貴女が消えるのか...それでも貴女は融合を望むの?」
例え、ナルトを助ける事が出来ても、今のヒナタではいられない...
そして、助けたナルトがその後に愛してくれるのも自分ではないかも知れない...
うずまきヒナタの問いに、しかし
ヒナタは、少しも迷いを見せず...
「構いません。」
そう答えた。
その答えを聞いたうずまきヒナタは、またも複雑な表情を浮かべ、
「貴女は強いね...同じ『ヒナタ』のハズなのに...どうしてこうも違うんだろう...」
そう言った。
「私は、ナルト君を助けたい。その可能性があるなら、どんなことでもする...そう誓ったの。」
「...敵わないなぁ...本当に...」
「え?」
うずまきヒナタは泣いていた。
「本当はね...もっと...ずっと前に、私の魂はこの世界に来てたの。」
「.........。」
「ごめんなさい...ナルト君がこの世界に来た時、すぐにこの世界のナルト君と融合したように...その時に融合していれば、こんな危険な事になってはいなかったかも知れない...」
そう言って、うずまきヒナタは、これまでの事について語りだした。
「私がこの世界に来たのは、多分...ナルト君や九喇嘛より少し後だったと思う...私がそれを認識したのは、丁度ナルト君が貴女に自分の境遇を話していた所だった。」
「.........。」
うずまきヒナタの話は続く。
「一目見てすぐにわかったよ。ナルト君がどれ程傷ついているか...どれ程自分を責めているか...私は直ぐに貴女と融合してナルト君を癒してあげたい...そう思った...あの頃の私は、ナルト君を眺める事しか出来ない弱虫だったから...そして、貴女はナルト君が愛した私ではないから...そう思っていた...でも...」
「私の予想を覆して、貴女は一歩前に踏み込んだ...昔の私に出来なかった事を貴女はして見せた...貴女のお陰でナルト君は立ち直ってくれた...。貴女には感謝してるよ?でも...それと同時に思ってしまったの...」
「何故、貴女は前に踏み込めたのだろう...何故ナルト君を慰めるのが私では無いのだろう...何故ナルト君は、貴女を愛したのだろう...」
「気が付いたら、私は貴女に...この世界の自分に嫉妬していた...」
「私の醜い心が、貴女との融合を拒んでしまった...その結果、またナルト君を苦しめることになってしまった...本当にごめんなさい...」
自分の思いを告げたうずまきヒナタは、最後の謝罪の言葉を口にする。
その表情にははっきりと後悔の念が窺えた。
ヒナタはうずまきヒナタの言葉を聞くと、ゆっくりと首を横に振る。
「謝る必要なんてないよ...貴女は私...私も貴女も同じ『ヒナタ』だよ...私が一歩踏み込んだのもナルト君のお陰...貴女と私ではナルト君と心を通わせるのが早かったか遅かったか...ただそれだけだよ?」
ヒナタは、うずまきヒナタを慰めるように、優しく語りかける。
「それに、ナルト君が私を求めてくれたのは、貴女がいたからだよ?ずっとナルト君を見てきたからわかる...ナルト君は、今でも貴女や...子供たちの事を大切に思ってるって...」
「.........。」
「ねえ...もう一人の私...私が消えたら...ナルト君の事をお願いします。きっと、あの人は悲しむだろうけど...私は幸せでしたって伝えて?」
ヒナタの言葉に、うずまきヒナタは涙を流しながら、それを否定する。
「貴女は消させない...貴女も私だもの...きっと、今なら大丈夫だよ...私たちは一つになるの...貴女も私も...ナルト君への思いは一緒...その思いを中心に融合すれば、決して消えたりなんかしない。いえ...貴女は消させない...ナルト君のためにも。」
「そうだね...一緒に助けましょう...ナルト君を...」
「ええ...私たちで救いましょう...ナルト君を...」
二人の思いが重なる。
そして...
ヒナタは立ち上がった...
ヒナタとヒナタ...二人の想いと記憶を受け継いだ...本当の意味で、この世界のナルトと共にある存在として...ヒナタは覚醒する。
(ナルト君は必ず助けて見せる...見ていて...
目を開いたヒナタの瞳は、薄青く輝いていた。
今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。
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希望する
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希望しない