「ヒナタよ...目を覚ましたか。」
立ち上がったヒナタに、ハゴロモが声をかける。
「はい。ハゴロモ様。」
「今の状況は理解しておるな?」
「はい。わかっています。ナルト君は、必ず救ってみせます。」
ハゴロモの目を見て、そう断言するヒナタ。
「その眼!?...そうか...ついに覚醒したか。」
ヒナタの眼を見たハゴロモは、驚き、そして笑みを浮かべた。
ヒナタの眼は薄青く輝いていた...
それは『転生眼』の証...
有史以来、発現できたのは、ハゴロモの弟である大筒木ハムラ一人だった。
前史においては、トネリが発現させているが、この歴史上においては、トネリたちの侵攻はいまだ起こってはいなかった...
「はい。私はハムラの血族。前世では『白眼の姫』なんて呼ばれ方もされました。何よりもあの月で、ハムラ様の意識と会話もしています。彼は、この地上を消してはならないと訴えていました。」
「そうか...ハムラのヤツがのぉ...」
ハゴロモは、弟の名前を懐かしそうに口にする。
「その『転生眼』の使い方はわかっているのか?」
「はい。...ハムラ様の転生眼と同じ力かは、わかりませんが、私の転生眼の力は把握しています。そして、その力こそがナルト君を救う切り札になると思います。」
これまでにない...自信を持ったヒナタの言葉にハゴロモは一つ頷くと、
「そうか...ではヒナタよ...ナルトの事を頼んだぞ。」
そう言って姿を消した。
もともと、この世界に出てくるのはハゴロモにとっても困難なことだった。
特定の条件を満たした時、初めてこの世界に降臨できる。
そして、その力をヒナタの回復に全て費やしていたのだ。
全ては、ヒナタならばナルトを救えると信じて...
「はい。必ず。」
ハゴロモから思いを託されたヒナタは、しっかりと頷くと、意識を戦場に移す。そこではナルトを救おうと、懸命にナルトの仲間たちが戦っていた...
しかし...
「畜生...結局俺達にはナルトを救えないのか...俺達の戦いは...無駄だったのか...」
ナルトを救うことは叶わず、絶望がその場を支配する。
サスケが諦めの言葉を口にしたその時...
「そんな事無いよ...サスケ君や、皆の戦いは無駄なんかじゃない...皆が時間を稼いでくれたお陰で、私はこうしてここに立っている。後は...私が引き受けます!」
ヒナタの透き通った声が、戦場に響いた。
「ヒナタ!目を覚ましたのね?」
サクラが真っ先に声をかける。
「うん。ごめんなさい...サクラさん。でもここからは私がやります。」
「無理だ...いくらお前でも、あのナルトを止めることは出来ない...折角生き返ったのに無駄死にするだけだ。」
片膝を付いたサスケがヒナタを止める。
「大丈夫...皆が繋いでくれたこの時間...決して無駄にはしません。」
しかし、ヒナタはサスケの言葉を真っ向から否定すると、未だ暴走を続けるナルトを見上げる。
(ナルト君...今助けるからね...)
ヒナタは心の中でそう誓うと、転生眼の力を解放する。
「なっ!?」
その姿は、九尾チャクラを纏ったナルトの姿に少し似ていた。
転生眼と同じ...薄青く輝くチャクラの衣を纏ったヒナタ。
「な、なんだ...あの力は...」
初めて見るヒナタの力に驚くサスケ。
「アレはまさか...我が日向に伝わる伝説の転生眼...」
ヒアシは、日向の当主としてその存在を知っていた。
「皆さん...力を貸してください。」
その時...ヒナタがその場に集った忍たちに話しかける。
その言葉に、互いの顔を見合わせる忍たち。
「力を貸せと言われても...なあ...」
「ああ...俺たちのチャクラは、さっきほとんど使い切っちまった...」
「今さら、俺たちに出来ることなんて...」
困惑する忍たち...いや...その場は既に絶望に包まれていた。
ここに集う忍連合が総力を結集しても、ナルトを止めることは出来なかったのだ。
今さら一人増えた所で、どうなるものでもない...
もはや諦めるしかない...そんな空気に場は包まれていた。
「皆さんに貸して欲しいのはチャクラでも、ましてや状況を覆す忍術でもありません。」
ヒナタは懸命に語りかける。
「なら、何をすれば良いってんだ!」
自暴自棄した忍の一人が怒鳴る。
「心を...ナルト君を助けたいと強く願う想いを...」
「想い?」
「平和を願う皆の祈りを...」
「祈り...」
「皆さんの心を束ね力に変える...それが私の転生眼の力...だからどうか...力を貸してください。ナルト君を助けるために...」
ヒナタは再度呼び掛ける...
忍たちは、動揺していた。
想いを力に変える...そんなことを言われても、そんな力聞いたことも無い。
今さら足掻いたところで...
ダメ元でも協力すべきでは...
迷う忍たち...
そんな中一人の男が立ち上がった。
「俺はやるぞ!どうせ、このままなら世界は終わりだ...だったら自分のやれる事をやる。それにナルトには恩がある...アイツは世界の破滅を望むようなヤツじゃないんだ。こんな俺でも、アイツの役に立てるなら本望だ。」
それは、木の葉から光の里に亡命してきた男だった。
ナルトへの憎しみから、一度は里に入ることを断られながらも、家族の絆を信じたナルトに受け入れられた男。
彼はその後、光の里を見て心を入れ換えた。
憎しみの目で見てきたナルトを、改めて冷静な目で見た時...自分の視野の狭さを恥じた。
ナルトはナルト...あの時、木の葉で暴れた九尾とは別の存在だと素直に受け入れられた。
その九尾にしても、あの時別の忍によって操られていたことも知った。
上からの情報を鵜呑みにして、何も知らない子供を迫害したことに、心底後悔していた。
だから、この戦争に志願したのだ。
彼はそれほど、戦闘力が高いわけではない。
それでも、出来ることがあると補給係を担当していた。
そんな彼が真っ先に立ち上がった。
自分たちよりも遥かに弱い存在の彼が真っ先に立ち上がったのだ。
他の忍たちも寝ている訳にはいかない。
何よりも、ここに集った忍たちはナルトの生き様を尊敬していた。
いわれの無い迫害を受けて、それでも復讐をするのではなく、救える人達を救い、自分たちが人として、自分らしく生きられる場所を作った。
時にはその力で持って、その存在を誇示してきたが、それは忍であれば当然の事。
それでも、その力を悪用して他里を侵略するような事はしなかった。
その力は、世の安定のため。
そして、それは全て家族を幸せにしたいと言う、ささやかな...しかし人として当然の想いからの行動。
誰もがその想いには共感する。
「ナルト」
「ナルト」
「ナルト」
「ナルト」
「ナルト」
「ナルト」
「ナルト...」
その場の全ての人間が、ナルトに元に戻って欲しいと願った。
その場の全ての人間が、世の中が平和であることを祈った。
その想いが...ヒナタの中に流れ込んでくる。
ヒナタの纏った衣がどんどんと大きくなっていった。
今や、その大きさはスサノオに対抗して巨大化したナルトとほぼ同じ大きさだ。
さらに、纏った衣...その背中から大きな翼が広げられる。
その姿は、全てを慈しみ、その愛で包み込む...女神のような神々しさ放っていた。
「ありがとう...皆...皆の想い...確かに受け取りました。」
ヒナタはナルトを正面から見つめる。
「グルルルルルルルル...」
ナルトは、ヒナタの力が自分に限りなく近い事を本能で察した様子で、迂闊に攻める様なことはせず、唸りをあげて威嚇する。
「ナルト君...待ってて...皆の想いが貴方を救います。」
破滅の魔獣と慈愛の女神が相対した。
今回、逆行したナルトの物語は完結です。他にpixivに幾つか投稿してる作品があるのですが、投稿を希望させるかどうか聞かせて下さい。
-
希望する
-
希望しない