なんとなく書いた。
反省と後悔しかしてないw
オラリオに戻ってきたクラネル兄弟。
一応知り合いにはお土産を持っていき、落ち着きを取り戻し始めた。
ある日のこと、ユウはロキファミリアに赴いていた。クノッソスで助け出したイケロスとタナトスの話をまだ聞いておらず、ずっとロキファミリアの空き部屋に押し込まれていたらしい。
ユウが帰ってきたことだし忘れられていた2神に話を聞くことになったのだ。
門番の青年に話かけ、ロキの部屋まで通してもらう。部屋に入るとロキファミリアの主力全員が集まっていた。
ユウを含めて全員が集まったところでロキとフィンが口を開く。空気がピンと張り詰める。
「ほな忘れとったけどアホ2人。とりあえずあんたらはウチらに協力するってことでええな?
そしたらはよあんたらの知っとること包み隠さんと全部話しや。」
イケロス、タナトスの二神は頷きながら自分達の闇派閥がクノッソスでどんなことをしていたか。
エニュオと呼ばれる者との会話など分かること、起こったこと、その全てを全員に話す。
ロキ、フィンはほぼ想像していた、いや。ユウが想定していた事と相違が無いことに驚いてしまう。
もう未来予知ができると言われても驚きはしないだろう。
それからは神々の予想なども踏まえた上で作戦を考えていく。絶対にオラリオ崩壊はさせるつもりは無い。
一方であれほどまでに類稀な頭脳をフル回転させていたユウといえば……。
話をそっちのけで久しぶりのレフィーヤを後ろから抱きしめて蕩けた顔でナデナデしまくっていた。
イケロス、タナトスは頬を引きつらせ、他のロキファミリアのメンバーはユウが帰ってきたなーと達観していた。死んだ目をしているとも言える。
「お、お兄ちゃん?話を聞かなくてもいいんですか??」
「我が最愛の妹よ。お兄ちゃんはどうせ見捨てられたタナトス様とイケロスのクソ野郎は大した情報を持ってないってわかってるんだ。
ならばやることは可愛い妹を愛でる以外無いだろう?
お、ティオネ。こっちおいで。
ふふふ。ティオネも可愛いなぁ〜( ´_ゝ`)クックック・・・( ´∀︎`)フハハハハ・・・( ゚∀゚︎)ハァーハッハッハッハ!」
ついにレフィーヤだけでなくティオネもナデナデし始め、高笑いし始めてしまう。
レフィーヤもティオネもナデナデが気持ちいいのか蕩けた笑顔でされるがままになっている。
ぶっちゃけて言えば見てる方はドン引き待った無しである。
そこでアイズがもじもじし始め、チラッチラッとユウとベートを見始めた。
リヴェリアはため息を吐いてしまう。やってほしいなら直接言えばあの2人ならやってくれるのに…と。
ユウとベート。2人のブラシスコンがどうやらアイズの態度に気づいたようだ。
「「アイズ?こっちおいで?」」
「「…………あ?」」
「「引っ込んでろこの野郎!!」」
喧嘩上等。鬼のブラシスコンの馬鹿二匹。胸ぐらをつかみ合って睨み合う。
睨み合っているのにお互い一言一句同じ事を同じタイミングで言うのは仲良しの証明ではないだろうか?とその場の全員が思ってしまうのも無理は無いだろう。
「おいおい。冗談はその顔のイレズミだけにしろよ友達いねぇボッチ狼。」
ユウの言葉で額に青筋を浮かべるベート。
ベートは爽やかな笑顔で折り返す。
「おお。そりゃ悪いな。どこぞの黒もやしと違って顔が良いから似合っちまうんだ。
男の嫉妬は美の女神の嫉妬より醜いぜ?女に告白させて返事もろくに出来ねぇヘタレ野郎。」
ベートの煽りに同じく額に青筋を浮かべるユウ。
2人は胸ぐらをつかみ合ったまま目を逸らさずに無言になる。お互い鬼の形相で周りも動けないが。
どのくらい時が過ぎただろう。周り、神々でさえもこの沈黙の時間は非常に長かった。
実際には五分程度だったが。
「「じ……上等だこの野郎!!テメェとはここらでどっちが真のお兄ちゃんか分からせる必要があるみたいだなっ!!
ダンジョンでボコボコにしてやらぁ!!
逃げんじゃねぇぞ!?」」
2人はまた同じ事を言い合っている。もう周りは勝手にしろという心境だ。
しかしロキファミリア近接戦闘最強のベートと技術だけならオラリオ一とタケミカヅチが証言するユウ。
ぶっちゃけて言えばどっちが上なのか見てみたい。
妹軍団はあたふたしながらも見守る様子だ。しかしロキはダンジョンに入らないのでこの最強2人の喧嘩が見れないのは正直惜しい。
それに悪戯神の感が働く。これは絶対に面白くなる。なんならオラリオ全体を巻き込んでもいいレベルで。
ロキはニヤァと笑い声をかける。
「まぁまぁ2人共待ちーや。そないな個人同士の結果だけとかおもんないやん。
フィン。ギルド行って説明して怪物祭しとるコロシアム貸せって言うてきて。
ほんでギルドに貼り紙貼ってもらってきてや。
真のお兄ちゃんを決める闘い
ってな。
ユウたんVSベートで19時から開始な。
勝った方が真のお兄ちゃんでアイズの頭を撫でる最優先の権利を貰える。
2人共それでええか?
後殺し合いはあかんで?殺し無しの大喧嘩や。」
ユウとベートは共に頷きながらまだ睨み合っている。フィンも正直楽しみなので即座に行動に出る。
そして妹達は2人に近づかないようにロキに言われてしょんぼりしながら部屋に戻る。
リヴェリアも興味深いのかロキにしては妙案だなと呟き、ガレスは成長したベートとまだ見ていないユウの本当の実力が楽しみだと思う。
ーオラリオの街中ー
ギルドがロキの言葉により、迅速に動いた。理由は魔導具で金儲けに一つ噛まないかとウラノスに直接連絡したからだ。
1つ。
オラリオでもトップクラスの2人の戦闘を生で観れる。
1つ。
入場料を300ヴァリス取れる。
1つ。
コロシアムの修繕費はロキファミリアが持つ。
1つ。
屋台をヘスティアファミリアから出す。
イシュタル、ウィーネ、フィルヴィスがやって利益は折半。
ウラノス様は大歓喜。ギルドは場所を貸すだけで1つ足りとも損の無い儲け話である。
最初はロキの案だったので渋ったが、あのヘスティアファミリアを巻き込めると知って首を縦に振る。
あのファミリアは実は屋台の売上だけでオラリオでも上位の稼ぎなのだ。
それにユウ・クラネルとベート・ローガがぶつかれば確実に怪我は負う。
己の黒歴史を神会でバラされた恨みは深かった。少しでもユウにダメージが入れば良いと思ってしまう器の狭ーいウラノス君だった。
「おい!聞いたかよ!?雷帝と炎雷狼がガチでやり合うらしいぜ!?」
「おう!聞いた聞いた!そんなの絶対見に行かねえと絶対後悔すんぜ!?
俺はリヴィアにダッシュで行ってくるわ!
ボールス達も絶対観てぇはずだからな!」
良い意味でも悪い意味でも2人はオラリオで有名だった。そしてファンもかなり多かった。
勝負事といえばやはり賭博が始まる。ユウとベートがよく利用する豊穣の女主人でも同じだった。
だがお互いがレベルの高すぎるし、戦闘面に関して言えばレベルが1つ下のユウだがオラリオ全土に化物みたいな技術があるのは知れ渡っている。
その為、オッズがほぼ均一となっていた。だがレベルの低い新人冒険者はレベル差は覆らないと思ってベートに賭ける奴等が多かった。
リヴィアの街の連中はノータイムでユウに賭けて新人冒険者にレベルは覆らないと囁きまくっていたが……。
ちなみにヘスティアファミリアと妹達、そして事の発端であるアイズまでユウに賭けていたのはご愛嬌。
審判はフレイヤファミリア最強のオッタル。この2人を止められる可能性があるのはこの最強ただ1人だったから。
実況はイブリー・アチャー。
喋る火炎魔法と呼ばれるガネーシャファミリアの冒険者だ。
解説はロキファミリアの団長で話術も素晴らしいフィンとユウの弟でベートの弟子であるヘスティアファミリア団長のベルの2人だ。
入場料を取っているのにコロシアムは満員御礼。さすがにここまで集まると思っていなかったのでロキとウラノスは慌てて神の鏡を各居酒屋店舗に出す。
ヘスティアファミリアの屋台は半端では無いくらい忙しかったが、リューも助っ人として参戦したおかげでどうにか捌けていた。
2人の控え室へロキとリヴェリアは決戦前に赴く。
正直言えば2人共らしくなかった。何が?と問われると答えられないが、らしくなかったのはロキもリヴェリアも同意見であったのだ。
その何かを聞いてみたくて2人の控え室に突撃してみたのだった。
「おーベート。めっちゃ気合い入っとんな!ウチらはアンタならユウたんに勝てると思っとるから頑張りや?」
リヴェリアは背中の冷汗が止まらない。
なんだこの威圧感は……。これがあのベートか?同レベルの私ですら今のベートの前に立つのは嫌だぞ。
ロキは気づいていないみたいだがリヴェリア程の冒険者がこう思うのは異常事態だ。
冒険者として培った第六感のようなものが働いているのだから。
リヴェリアの様子がおかしい事に気づいてロキは口を閉ざす。そして当人であるベートはまるで睨みつけるようにコロシアムの方向を見続けている。
「……ロキ。こんな機会を作ってくれて感謝するぜ。俺はアイツとガチでやり合ったことが出会ってから一度もなかった。
俺は……。いやなんでもねぇ。」
それだけを呟いたベートはまた口を閉じる。そしてロキにも分かるほどのプレッシャーを発し始める。
リヴェリアはマズイと思い、ロキを連れて部屋をでる。
ユウの控え室に行く間はお互い無言だった。無理もない。あんな鬼気迫るベートは今まで、家族である自分達ですら始めて見たのだから。
ユウの部屋に着いてノックをするといつも通りのユウが笑顔で迎え入れてくれた。
正直肩透かしを食らったロキだったがベートとはえらい違いやなーと思って、それを口にする。
「あはは。やっぱベートさんは気合い入ってますか。まぁ俺もやる気は漲ってるんですけどね。
ここで解放しちゃうと気持ちが抑えれなくなっちゃうんで。
……ロキ様。ありがとうございます。今回の喧嘩なんて俺らからすれば本当に些細なキッカケだったんですよ。
俺は……。いえ。なんでもないです。忘れてください。」
ニヘラッと笑って誤魔化すユウをジッと静かに見ているリヴェリア。
いつも通りの笑顔なのに何故だろう。寒気が止まらないのは。それにベートもユウも最後に何を言おうとしてたのか気になる。
それも戦闘を見れば分かるだろう。そう思ってリヴェリアはロキを連れて席に戻ることにした。
「さてさてさて!!みんな待ちきれないでしょうがもうすぐオラリオトップの戦闘が見れますよ!!
実況は喋る火炎魔法ことガネーシャファミリアのイブリー・アチャー!
解説はロキファミリアの団長で二股疑惑の勇者!フィン・ディムナ氏と今一番オラリオを沸かせているユウ・クラネルの弟のベル・クラネルだー!!」
「ちょっと待って!!その紹介本当にやめてくれないかい?二股なんてしてないよっ!!」
「よ、よ、よろしくお願いしましゅ!!あう。噛んじゃったよー。」
え?二股?フィン様なら何股でもいいから遊ばれたいっ!!
おいおいなんだあの可愛い生き物!?ありゃ雷帝が死ぬほど可愛がるのも無理はねぇな。
ベル…。すごく可愛い。さすが私の旦那さん!!ふんすっ
観客もざわざわし始める。絶好調の実況に仕事前に心が折れかかっている解説とみんなのハートを鷲掴みの解説陣だった。
「さてさてぇぇぇ!!お前らぁぁぁ!!今から始まる戦闘は世紀の一戦と言っても過言ではないっ!!
実況席から見て右側から入場してくるのはロキファミリアが誇るスピードスター!!
一度でも後手に回ったら二度と自分のターンはやってこないっ!
炎雷狼の2つ名を持つ狼人!ロキファミリアのレベル6!!
ベーーーート・ローーーーーガ!!」
ゆっくりと入場してくるベートの雰囲気にコロシアム全員の顔が強張る。
それほどまでにベートの醸し出す威圧感が凄まじい。
フィンは団長としても家族としてもあんなベートは見たことがなかった。フィンとてレベル6になるまでに様々な冒険をしてきた。
だが、このベートの前には絶対に1人では立ちたくなかった。
それほどまでに圧倒的な雰囲気だ。
ベルはそんなベートを見てイブリー、フィンが固まる中笑いながら拍手をする。
「さすが僕の師匠であり、お兄ちゃんの親友ですね。ふふっ。お兄ちゃんが羨ましいです。
僕も今のベートさんと戦いたい。」
ベルの言葉に何も言えない実況席の2人。その言葉はオラリオ中に放送されている。
同じコロシアムに居るロキファミリアの面々はもちろん、レベルの低い冒険者、一般人。その全員が同じ事を思う。
【これが本物の冒険者か】
全員が全員ベルのおかげでベートの雰囲気にのまれつつも気持ちを新たにこの一戦を見届けると心に思う。
しかし、そんな心を折るどころか砕いて粉々にする男がまだ控えていた……。
「つ、続いて入場するのは、解説席に座っているベル・クラネルと共に新興ファミリアであるヘスティアファミリアを一挙にオラリオ1有名なファミリアに登らせた男!!
やることなすこと全てが規格外中の規格外!!暴走したモンスター?そんなもん殴って直せでガネーシャファミリアのプライドを粉々にした狂気の天才!!
雷帝の2つ名を持つ正に帝王!!ヘスティアファミリアのレベル5!!
ユーーーーーウ・クラネーーーーール!!」
ザッザッザッと足音が聞こえてくる。それと同時にコロシアムで観戦している全員が疑問を覚える。
あれ?何で身体が震えてるんだ?
別に寒くもないのに……。
ズンッッッッッッッ!!
ユウが入場したと同時に重力がおかしくなったのかと思うほどの圧力が全員にかかる。
あのオッタル、フィン、ベルですら冷汗を垂らし、少し震えてしまう。
その中で唯一。ただ1人。ベート・ローガだけは笑みを深め、犬歯を剥き出しにしていた。
「な、なんだ。あの2人は……。僕はレベル6になるまでに冒険をし続けてきた…。
だが……あの2人はもはや別格だ……!」
「フィ、フィンさん……!ぼ、僕はやっぱり憧れは永遠にお兄ちゃんです。
この一戦は何か大切な事が分かる気がします!!
皆さんも見える見えないは別にして絶対に目を逸らさないでくださいっ!!」
ベルの言葉は観客、オラリオ中の観ている人に勇気を与えた。だが愛する弟と言い続けて来たユウにはその愛する弟の声すらも、もう届かない。
ベートとユウは静かに、しかし眼光は鋭く見つめ合っていた。そして互いにふっと笑って背を向ける。
もう何も言わなくてもお互いの心は良くわかる。最初は最悪の出会いだった。だがそれからずっと友として一緒に切磋琢磨して来た。
互いの手の内は分かっている?そんなわけがない。2人共理由はどうであれ始めて会った日からこの瞬間を待ちに待ったのだから……。
「「……審判。開始の合図したらすぐに端に行ってくれ。悪いが邪魔になる。」」
オラリオ最強のオッタルにこの不遜な物言い。だがオッタルは笑いながら頷き一言だけ告げる。
「お前達の実力。そしてその魂。俺も邪魔はしたくない。存分に楽しめ。
では……開始っ!!!」
オッタルは試合開始を勝手に言ってしまう。アドバイス通りにレベル7、頂点と呼べる身体能力で場内の端に行く。
そして壁際に着いて冷汗を流しながら荒い息づかいで肩を上下させる。
開始の合図と共に2人は縮地を使い、ベートは上段蹴りを、ユウは刀での刺突、横薙ぎをお互いの攻撃を避けながら連続で5発繰り出していた。
オッタルはその速度に対応出来ず、余波をくらっていた。そしてその攻撃も決して軽くない。耐久に優れたオッタルがダメージを負っているのだから。
その場からほぼ動いて無いように見える両者だが、足捌き、身体の使い方を駆使して互いの動きを牽制しながらレベル5以下の前衛では見えない速度で戦っていた。
「なんじゃあの速度は…。儂でもブレてしか見えんぞ。それに一撃一撃の威力。
あの小僧め。儂と戦った時は手加減しておったな?」
「なんだと!?ガレス!!それは本当か!?手加減した上でお前に勝ったというのか!?
それに……威力など互いに当たってないのだから分からんだろう。」
ガレスは髭をさすりながらも一時たりとも見逃さないように戦いを見続ける。
そして指を2人の場所ではなく壁に向ける。
「「「……え?」」」
ヒリュテ姉妹とリヴェリアは顔を真っ青にする。何故なら壁に刀傷と打撃跡がどんどんついて行くからだ。
どんな攻撃力があればあんなことになるのだろう。ガレスのパワーでも不可能に近い。
ベートとユウの2人は身体の使い方をひたすら一から鍛えていた。その為、逃げる衝撃やパワーを余すことなく伝えれるようになった。
膠着状態から2人は戦闘開始から初めて距離を取る。
それを観た観客は自分が息をしていなかったことに今気づいたのか深く深呼吸をする。
それからの湧き上がる大歓声。
「っっっは!!お、オラリオの皆さん申し訳ありません!!実況なのに実況を忘れてしまいました!!
これが!これがトップのレベルなのかぁぁぁ!!」
「い、いや。イブリーさん。解説に呼ばれたけどちょっと僕らもそんな余裕は無いよ…。
オッタルでさえ避けきれない速度だなんて……。」
「いえ。違います。あの速度は慣らしです。これからもっと速度は桁違いに上がりますよ。」
ベルの言葉を聞いてオラリオ中が愕然とする。だが、ベルの言葉が正しかったと言わんばかりに2人は魔力を纏い、速度を上げる。
もうフィンやガレスにすら灰色の線と黒の線がぶつかっているようにしか見えない。
「「ククク。カハッ!!あーはっはっは!!」」
2人は笑いながら戦っていた。
そう。これだよこれ!!やっぱりベートさんは最高だよ!!本気を出しても倒せるかわからない人。
それも同じようなタイプで相性もクソも存在しない世界。
でも……。
ククッ。やっぱりこいつしかいねぇな。ユウは俺の永遠のライバルだ。
ガレスと戦った時ですらユウとの戦いに比べたら物足りなくなっちまう。
だが……。
「「勝つのは俺だっ!!」」
もはやいつも一緒に鍛錬をしているベルですらはっきりとは見えない速度になっている。
観客は俯瞰視点なのに2人がどこにいるかすらわからない状態になってしまった。
「ほ、ほんとに……?私でも全く見えないんだけど……。ユウお、お兄ちゃんは速いのは知ってたけどベートがこんな速度に足を突っ込んでるなんて……。」
「正直、私は知ってたんです。本当に危険になるまではベートさんが遠征でも手を抜いていた事を。
何故かわからなくって問い詰めた事があるんですが……。私達に少しでも強くなって欲しいかららしいです。」
レフィーヤはティオネの言葉に涙を流しながらベートの本心を皆に伝える。
「ベートさんは言っていました。勘違いされても良い。嫌われても良い。それだけで家族の命が助かるならそれで良いと……!
それに助けられるのでは無く、自分の実力で助かればまた強くなろうとするだろうって!!!
あの人はお兄ちゃんとそっくりです!!誇り高く、自分の確固たる信念を持ってそれを貫く!!
そんな、そんなベートさんを私は尊敬していますっ!!」
レフィーヤの涙を流しながらの言葉とベートの本心を聞いてロキファミリアの面々、そして主神であるロキですらも涙を流す。
ベートはユウと出会う前から口は悪いがそんな誇り高い狼だった。その孤高の狼が友を得て今もなお上に登ろうとしている。
ロキは2人の戦いに呑まれ、静かな観客席で1人立ち上がり大声で叫ぶ。
「やったれベートォォォォォ!!アンタはうちの最高の子供やー!!!
ユウ・クラネルに負けんなぁぁぁぁ!!勝って帰って来い!!!」
ロキの大声に驚いたのか2人は距離を取って立ち止まる。ユウはベートにどうぞとジェスチャーをする。
ベートはニヤッと笑ってロキの方、ロキファミリアの全員の方を向く。
「あったりまえだ!!俺は天下のロキファミリアのベート・ローガだぞ!?
ロキをNo.1の座につかせるまで負けてられっかよぉぉぉ!!
テメェ等!!良く観とけ!!これがお前等の家族の力だ!!」
手を挙げて大声で叫ぶベート。ロキもロキファミリアもみんな涙を流しながらベートに応援を送る。
「ユウ君っ!!!君だって1人じゃないんだ!!ユウ君は僕の自慢の息子なんだ!!
それに君が負けるところなんて想像がつかないよ!!
ヘスティアファミリアのみんなもユウ君を信頼して信用してるんだ!!
絶対に負けちゃダメだよっ!!」
ヘスティアが見に来ていた。屋台の手伝いをしているはずなのに…。その後ろにはヘスティアファミリアがベル以外全員集まっていて泣いている人は1人も居ないが誰1人として心配している顔をしていない。
それほどまでにユウ・クラネルという人物は信頼されている。ユウはダンまちの世界に来て、自分は異物だと思っていた。
だが積み重ねて来た歴史が異物などではないと証明してくれた。
ベートはユウにお前も何か言ってやれと手をフリフリする。
「ヘスティア母さんっ!!アンタの息子の実力を存分に見せてやるよっ!!
テメェ等も長男の力をよーく見とけっ!!」
言葉少なにそれだけを告げる。ベートもユウも上に登り続けている。だが本当の孤独にはならないだろう。
だってこんなに暖かい家族がいるんだから……。
そしてこんなにライバルと友に恵まれているんだから……!
ユウは笑う。ベートも笑う。
その2人とファミリアの人達を見ていた観客は心から湧き上がる感動に包まれる。
みんな涙を流しながら拍手や歓声を上げる。
冒険者だろうと一般市民だろうと生きていれば辛い事や悲しい事も多々あるだろう。
自分だけではどうしようもない事もあるだろう。
だがこの2人の様に……、この2人のファミリアの様になれれば……!!
そんな気持ちにさせてくれる、自分も頑張らなければ……と勇気をもらった。
「「よし、決着つけるか。負けられない理由がもう一つ増えたしな……」」
ユウは雷を纏う。バチバチと身体の周りが帯電する。正に雷神。雷帝。雷の神、雷の王の名を冠するだけはあると誰もが納得する。
ベートは魔剣を取り出して己の右手に2度振り下ろす。ベートの身体は炎と雷に包まれる。
正に炎雷狼。炎と雷に包まれる狼そのものだ。
目を合わせて2人は頷き動く。
「電磁砲!!」
「炎雷狼の咆哮!!」
雷の砲撃と雷を纏った炎がぶつかり合い、コロシアムが揺れる。
エルフはその魔法の威力の高さに身震いしてしまう。前衛の威力では決して無い。
それからは魔法を使い、お互いがボロボロになるほど殴ったり蹴ったり魔法をお見舞いしたりと大喧嘩もここに極まれりだ。
もうフラフラの2人。最初の方の速度など1ミリたりとも出せやしない。
だがこの2人の戦いはフラフラになってなおも何か惹きつけるものがあった。
観客は誰も出て行かず、誰一人として目を逸らしたりしなかった。
なぁユウ。俺はお前と出会えて本当に良かったぜ。お前が居なけりゃ今頃勘違いされたままロキファミリアにも居られなかったかもしれねぇ。
そりゃこっちのセリフですよベートさん。俺はオラリオで出来た最初の友達がベートさんで本当に良かった。
慢心する事もなく上を目指すキッカケになってくれたんですもん。
お互いもうボロボロだな……。
……そうですね。
とりあえずケリつけるか。
ですねぇ。
2人は右拳を握りしめて歩いてお互い手が届く位置に立って止まる。
ドコッッッッッッッッ
2人の顔に互いの拳が突き刺さっていた。
ドサッ
1つだけ倒れる音がした。
「しょ、勝者は……グスッ。勝者ば!!
ユヴ・グラネルでずっ!!!」
ユウは気を失いながらも立って居た。それはベートの親友としての意地だった。
ほぼ互いに実力差はない状態で勝敗がついた理由は何と問われればユウはベートを親友と思い、親友に恥はかかせれないという意地があった。
一方ベートもユウを親友と思ってはいたが最初の出来事があって有耶無耶で友達になったのではないかとシコリがあった。
ユウもベートの気持ちに気づいていたので今回の喧嘩は渡りに船だった。
2人はすぐに意識を取り戻す。そしてユウはロキファミリアに囲まれているベートに告げる。
「ベート。過去を引きずるのはやめよう。俺はベートを親友だと思ってるしベートを誇りに思ってる。
もう敬語も使わん!!ベートも遠慮なんかするなよ!!俺達は親友だろっ!!」
泣きながら言うユウにベートも涙を流しながら答える。
「すまねぇ。負い目があったんだ。でもスッキリしたぜ。ユウ。お前は最高の親友だ!!
そんで俺の最大のライバルだ!!」
2人は笑いながら拳をぶつける。
そんな2人を互いのファミリアの面々は泣いたり笑ったりしながら見守っている。
「ちなみにこの半壊したコロシアムはロキファミリアが払うみたいだけど大丈夫なの?
これを2人でやったって言うのが恐ろしいけどね。」
ヘスティアの空気を読まない発言でロキは顔を真っ青にする。そしてその半壊させた2人の居た場所を見ると2人はスタコラとダッシュで逃げて居た。
こらー!まてぇぇぇぇぇい!!
という声を聞きながら2人は身体が痛いのを我慢してダッシュで逃げる。
「ほら親友!アミッドさんのとこ行こうぜ!怪我治して次はボコボコにできるように鍛錬だ!」
「はっ。次は俺がボコボコにしてやるよ!まぁ今後ともよろしくな親友!」
この2人は永遠に仲の良い親友。そしてライバルとして切磋琢磨していくだろう。
2人の仲の良い背中を見てその場にいた全員が笑って見守っていた……。
そーいえばベートとガチンコしてねーなーと思って戦わせて見ました。
まぁ戦闘描写が微妙なんでもう少し頑張りたいとこではあったんですが…!!
とりあえずこれで許してくだせぇ!