IS  復讐のデウス・マキナ   作:ぷらもん

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おひさしぶりです。

今回、あの畜生親父が出てきます。ご注意を。




竜虎、胎動する 中編

はーい、天災の束さんだよー! 今日はIS学園の文化祭。そのイベントの一つ、第4アリーナでの生徒会主催の「観劇」を見に来てるんだよ?

 

でもさー?

 

 

むかしむかーし、桃から生まれた世界唯一の男。桃太郎という者がおりました。(※更識楯無のナレーションでお送りします)

 

 

イテッ!? ちょっ、急に突き飛ばさないでくれません!? しかもなにこれ!? 劇!? 俺主役すんの!!?

 

 

…何故に『桃太郎』? しかもいっくん、舞台袖から無理矢理放り込まれたみたいだし。

 

第4アリーナの観客席で、銀髪の少女クロエ・クロニクルと共に座る篠ノ之束が当然の如くツッコンだ。というか、他の観客も同じようにツッコミを入れていた。

 

「……束様。この学園は何を考えているのでしょうか?」

 

「ゴメンくーちゃん。『天災』の束さんでもわかんないや。あと今は『おばーちゃん』って呼ばないとダメだよ?」

 

「あっ、申し訳ありません」

 

以前、志波真季奈によって光学迷彩による自身の姿の隠匿を見破られた経験から、今日の篠ノ之束は周りからは全くの別人に見えるようにその姿を変えていた。これも光学迷彩の応用で、姿を見えなくすることで起きていた『存在の違和感』。それを解消するための方法、それは自分の姿を別人に見せること。故に、今の彼女は隣に座るクロエ・クロニクルと同じ銀髪を持つ老婆、というていを装っていた。

 

まぁ、そもそも。

 

気配がするが姿が見えない、とか。

 

視線を感じるが姿が見えない、とか。

 

あれ? なんとなくおかしい? とか。

 

そんな。超常的な感覚と感性を持った人類など、余程の達人か人類の範疇を超えた規格外の化物でしかありえないのだが。そんな存在、彼女の『親友』である織斑千冬とその弟子、志波真季奈と各国の有数なIS国家代表ぐらいだろう。

 

 

さて、話しが逸れたね。

 

今、私たちがいるのはIS学園の第4アリーナの観客席。そこで行われている生徒会主催の『観劇』を見ているのだけれど。

 

……何故に第4アリーナ? ここ、IS用の訓練施設だよね? 普通こういう劇って体育館でやるもんじゃないの? わざわざフィールドの真ん中に舞台造っちゃってるし。

 

観客席から見えるフィールドの中心。そこには体育館にある壇上のような舞台が設置されていて、その上に二メートルくらいの小高い山などのセットが作られていた。セットが絵などの平面ではないのは、恐らく正面から舞台を見る体育館ではなく、四方からぐるっと劇を見ることができるアリーナだからだろう。

 

 

桃太郎は村人たちを苦しめる鬼達を退治するために単身、鬼ヶ島へと向かうことを決意しました。

 

 

「「「展開早いよ!!」」」

 

観客、総ツッコミだった。無理もない。だって主役が出てきたと思ったらすぐに鬼ヶ島だもん。レッツGo! だもん。

 

「あの、たば…おばーちゃん。『桃太郎』とはどういうお話なんですか?」

 

「日本の昔話で、大きな桃を拾ったお祖父さんとお祖母さんが、その桃を切ったらその中から男の子の赤ちゃんが出てきて、大きく育ったその子が鬼を退治するため鬼が住む鬼ヶ島に旅立つってお話なんだけど」

 

「お祖父さんとお祖母さんは?」

 

「出てないね」

 

「桃は?」

 

「どこだろう?」

 

「複数の鬼が生活しているであろう島に一人で向かうんですか?」

 

「途中で出会った仲間にきびだんごって食べ物をあげて家来になってもらうんだけど」

 

「……そのきびだんごは?」

 

「持ってるのかなぁ?」

 

ドイツ生まれのクロエに日本の昔話を説明する。してて正直ツッコミが尽きなかった。でもここからが本番だろうね。……ツッコミの。

 

 

鬼ヶ島に向かう桃太郎。その道中の山で、一匹のイヌに会いました。

 

なんで俺がこんなこと……。

 

『そうしょげるな一夏。いや、桃太郎』

 

お前はデウス!?

 

 

「「「ガチで犬キターー!! しかも喋ってる!!?」」」

 

おぉふ。イヌ役にデウスくんだよ。いや、確かに犬だけど……。

 

「デウスくんを初めて見る外部のお客さんはびっくりだろうねぇ」

 

「あの、おばーちゃん。家来ってイヌなんですか?」

 

「うん、凄いよねジャパニーズおとぎ話」

 

でもそれだけじゃないよ?

 

 

イヌを仲間にした桃太郎は次に立ち寄った山で、一匹のサルに出会いました。

 

<ドウモ>

 

お前あの時のサル!?

 

『ようジャバ。初仕事だな』

 

 

「「「猿もガチだと!?」」」

 

今度は文字を映したプラカードを持った灰色の毛並みをしたサルが現れた。なにこのリアル思考。本気でいっくん以外動物で行くのかなこの劇?

 

いっくんとデウスくんの前に現れたのは灰色の毛並みをしたサルだった。何あの子? まさか新しい「ALICE」?

 

「……おば-ちゃん。桃太郎の家来は動物だけなんですか?」

 

「うん。イヌ、サル、キジの三匹だけ。あ、キジっていうのは鳥のことで、日本の国鳥なんだよ?」

 

「鳥、ですか」

 

 

イヌ、サルを家来にした桃太郎。次に向かった山で出会ったのは一匹のキジでした。

 

『よく来たにゃ! 桃太郎!』

 

って、ベル!? お前もか!

 

『頑張ってるなベル』

 

<ベルさんはりきってましたからね>

 

 

「「「猫かよ! キジじゃないの!? ていうかまた喋ってるし!?」」」

 

『猫じゃないやい! 見た目は猫でも、心はキジにゃ!』

 

観客に反論しながら荒ぶるキジのポーズをする猫。結局は猫だった。

 

「キャーーー! 頑張ってベルー!! ちゃんとカメラに撮ってるからねーーーー!!」

 

………あれって確か『銀の福音』の待機状態の猫……ベルちゃんだよね? 

 

銀色の毛並みをしたアメリカンショートヘアの子猫が山の上でふんぞり返っている。なんでイヌ、サルと続いてここで猫なの? あとさっき聞こえてきた声、子供の学芸会を見に来た保護者か! 

 

「おばーちゃん。日本では猫を鳥と呼ぶのですか?」

 

「そんなわけないよ!? この学園がおかしいだけだよ!」

 

 

イヌ、サル、キジ、を家来にした桃太郎は鬼ヶ島へとたどり着きました。そこには多くの鬼たちが立ちふさがります。

 

紅鬼、青鬼、橙鬼、赤紫鬼、黒鬼の五匹です。

 

「「「鬼って言うけど代表候補生たちですよね!!」」」

 

はいそうです。ISを纏った鬼のように恐ろしい五人の操縦者達です。

 

桃太郎こと織斑一夏の前に立ち塞がったのは一年生の代表候補生達である生徒たちであった。

 

『紅椿』を纏った篠ノ之箒。

 

『ブルー・ティアーズ』を纏ったセシリアオルコット。

 

『甲龍』を纏った凰 鈴音。

 

『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』を纏ったシャルロット・デュノア。

 

『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ったラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

この五人の鬼女達が織斑一夏の前に現れる。

 

「「「だれが鬼女(よ)だ!!」」」

 

おーこわ。

 

 

 

「………おばーちゃん。あれは……」

 

「私は何も見てない聞いてない」

 

あ、はい。

 

 

 

 

 

さて、織斑一夏です。ここまで大変お見苦しいものをお見せしました。

 

俺はなんの因果か、こうして『桃太郎』を演じる羽目になっております。目の前にはISを纏った五人の鬼女。仲間は三匹の動物。周りは観客の目。目。目。

 

今すぐ帰りてぇ!!! でも出来ない! だってこの劇、

 

脚本:デウス。 演出:志波真季奈。 監修:更識楯無。

 

なんだもん! 逃げたら後が怖いわ!! ならばすることはただ一つ! 完璧に演じきるしかねぇ!!

 

でも台本も何もないんだよなぁ……基本アドリブです。楯無さんのナレーションに沿って動いているけど、ほとんど出たとこ勝負なとこが多い。

 

で、だ。とりあえず俺が覚えている限りの『桃太郎』を演じていたら、仲間になったのはデウス達、機械仕掛けの動物たちで、目の前にいる鬼たちはクラスメイトたちだ。

 

つまり、このままISを展開して戦えばいいのか? 五対一? いや、デウスとベルも一緒ならこっちは三か? あのサルも戦えるのか?

 

「さて、一夏、いや桃太郎! 覚悟はできてるんだろうな!?」

 

「え、なんの!?」

 

「知らばっくれんな! ネタは上がってんのよ!」

 

箒と鈴が怒りをあらわにして怒鳴ってくる。なんのこっちゃ?

 

「はぁ!? 何言って……ん?」

 

ちょいちょいっと、目の前の鬼女たちが俺の後ろを指さす。それを追って振り返ると……。

 

プラカードに、<コイツ真季奈さんとラブラブデートしてましたよ> と表示して高々と見せびらかす猿の姿が!!

 

「おぉい!!?」

 

更に、

 

『一緒に遊ぼ~にゃん!!』ってやってましたにゃ! と、志波さんのネコ耳姿を真似るリアル猫のベル。

 

止めに、

 

『……こいつを倒してしまっても構わんだろう?』などとカッコイイことを言う犬の兄貴が。

 

「なに煽ってんのキミ等!?」

 

後ろにいる裏切り者たちに慌ててツッコムが時すでに遅し。

 

「「「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」」

 

「ほら来たよもぉおおおおおおおお!!!」

 

『白式』を展開して応戦する桃太郎こと織斑一夏。

 

鬼との戦いが始まった!

 

 

 

「始まりましたね、お嬢様」

 

「そうね虚ちゃん。でもお嬢様はやめて」

 

「はい会長」

 

第4アリーナの展望室。そこでは今回の「観劇」の主催者である生徒会メンバーが揃っていた。ナレーションを担当している生徒会長・更識楯無はもちろん、会計の布仏虚、書記であり虚の妹、布仏本音も当然いる。

 

「あ、会長~。デウスくん達、変身するよ~」

 

「……虚ちゃん。あなたはアレ、どう思う?」

 

「アレ、ですか」

 

布仏本音こと、のほほんさんがフィールドで戦う九機のIS達を見ていう。

 

 

『いくぞお前達!』 『わかったにゃ!』 <はい!>

 

『『< 変 ! 身 !! >』』

 

そこに現れたのは鋼鉄の巨人『テンガイオウ』。銀の輝きを放つ『銀の福音』。灰色に奇怪な姿をした『ゴーレム』。

 

「「「あぁ!? お、お前は!!」」」

 

現れる三体の『無人機』。その姿に驚くのは観客だけではなかった。その内の一体、『ゴーレム』と呼ばれる機体と交戦経験のある一夏、鈴、セシリア、箒の四人は驚き声を上げる。

 

<どうかお気にせず>

 

「す、するわ!」

 

「どういうことよ!」

 

「まさか修復を!?」

 

「いったい誰が!?」

 

『悪いが、話は劇が終わってからだ!』

 

そこに『テンガイオウ』、デウスの拳が割って入る。そのまま残り二機の『無人機』も攻撃に参加し、鬼女たちへと向かっていく。

 

 

「主役側についた歴代のボスキャラっていうのも感慨深いものね~」

 

「アレ、というのはあの三体の『無人機』のことですね? それはどういう……?」

 

虚の疑問。それは眼下で繰り広げられる戦いの模様を自分の主はどうとらえろと言っているかのもの。

 

「アレはこの先起こりうる最悪の事態の縮図よ」

 

「!?」

 

「デウスくんがこの「観劇」を脚本したのはそのためよ。役者に自分を含めた『無人機』を投入したのもそう。今のうちにあの子達代表候補生に『無人機』との戦闘経験を積ませてあげるため」

 

代表候補生といっても所詮はセミプロのようなもの。『本当』の戦闘経験はもちろん、敵機の撃墜だって覚悟するのに時間がかかる。その最たる例が先日の二件の実戦だ。

 

「でも、あの『ゴーレム』にトドメを指したのは真季奈ちゃん。『福音』は撃墜というよりも機能停止。あの子達が直接堕としたことはまだ、ない」

 

「その必要があると? なぜです?」

 

「多分もう時期、大きな戦いがあるわ。『無人機』とのね」

 

「『この後』のことですか?」

 

それもあるけど、

 

「ねぇ虚ちゃん。話を変えるけど、『デウス・マキナ』って知ってる?」

 

「確か……『機械仕掛けから現れた神様』でしたっけ? でも、突然なんです?」

 

「本当の名前はラテン語で『デウス・エクス・マーキナー』。混乱した状況も、どんな悲劇すらも解決してくれる絶対の神。篠ノ之束がデウスくんのことをそう呼んだそうよ。ただし、そこにエクスという単語はなかったそうだけどね」

 

そう、『デウス・エクス・マーキナー』とはデウス(神)とエクス・マーキナー(機械仕掛け)が揃ってこそ意味を持つ。

 

「あの二人、デウスさんと真季奈さんを指して『デウス・ex・真季奈』と呼ぶのだとしたら………」

 

「謎よねー? 篠ノ之束にとって、『ex』って一体なんでしょうね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フハハハ! エルドラ・デウス参上! さぁ! かかってこい鬼ども!!』

 

「主役を食うなよおい!!」

 

「くっ、お前達! 雑魚は後回しだ! 先に大将首を取るぞ!!」

 

「「「おお!!」」」

 

「「「とうとう桃太郎を雑魚扱いしちゃった!!?」」」

 

 

舞台の声が放送で聞こえてくる。

 

ここは一年一組の教室。そこでわたし、メイド姿の志波真季奈とその父、志波蒔春が同じテーブルにへと座っていた。

 

そう、死んだはずの父、と。

 

目の前の父に尋ねる。

 

「この際、貴方が生きていたことはどうでもいいです。それで? 何をしにきたのですか?」

 

「『君』は本当に辛辣だねぇ。誰に似たんだい? ねぇ」

 

目の前の男性。自分と同じ金髪。自分と同じ青い目。血の繋がりを感じざるを得ないその姿に感じたのは僅かな苛立ち。

 

「質問に質問で返すのはやめてください。叩き潰すぞクソ親父」

 

「あぁ、今確信した。君はお母さん似だね。秋名そっくりだよその喋り方」

 

「へーそー」

 

知るか。わたしは自分の母親なんて覚えていない。目の前の父親もだ。知識はある。でもそれだけなんだから。

 

「さて、僕が君のところに来た理由だけどね。単純に興味があったからさ。今の君は以前の『志波真季奈』とは完全な別人だからね。君の新たな人格形成によって生まれた以前とは全く違うシナプスの伝達、その全く違う発想。これは同じ科学者として実に興味深い! そして羨ましくもある」

 

「なる、ほど。実にゲスい考えですね。クソ親父からゲス野郎に昇進させてあげましょう」

 

「それ、降格してない? まぁいいや。僕の研究は生物学、それも『進化』に関することでね。大好きなのは『成長過程』であって『完成品』なんてどうでもよくなっちゃうんだ。その点、真季奈は早熟すぎた。デウス君を完成してくれたのは嬉しいけど、その時点であの子への関心は無くなったよ。だからこそ君には楽しみかな?」

 

あぁ、嫌になる。なんです? この会話は。とても親子の会話じゃない。それも数年ぶりに再会した。

 

「まぁ、そもそも。君も含めて、僕たちの一族はその為に生まれた存在だからね」

 

「は?」

 

ゲスが何か良からぬことを言おうとしている。聞きたくないと本能が叫ぶ。しかし、それも叶わない。

 

「僕たちの先祖はこう考えた。最高の叡智を持つ人類を生み出して『神様』に到達しよう。そのためにはどうするか? 簡単だ。『その時代』の最も優れた人間と交配し、その血を取り込む。それを繰り返していけば必ず最高の人類が誕生するとね」

 

「……人類の品種改良、ということですか」

 

古来より、人類は様々な植物、生物を改造してきた。それはより良いモノを生み出すため。寒さに強い作物、今よりも沢山の実をつける種、足の速い馬、美味しい食用の肉。そのための努力の結果が溢れているのがこの世界だ。

 

それを『人類』で行なっていた者たちがいた? それがわたしの先祖だと?

 

「君は自分の性能に付いて疑問に思ったことはないかい? 人よりも遥かに優れた肉体に頭脳。周りの常人が三輪車なら、僕たちはレーシングカーだ。しかも様々な分野で活躍できる才能まである。これも、今まで何百年もかけて集めた血のなせる技というものさ」

 

「何、百年?」

 

「そうさ。その過程で優秀な遺伝子を多く取り入れることができた。発明王、革命家、大泥棒、名探偵、殺人貴、芸術家、スポーツ選手。優秀ならどんな才能にも手を付けた。その集大成が君だよ」

 

おかしい。なんだこいつは? 本当にわたしの親なのか? 話せば話すほどわからなくなる。ナニヲイッテイルンダ?

 

「それでも生まれてくるのが束くんのような人類の突然変異種だよ。僕たちが何世代にわたって作り上げてきたものを、たった一代で凌駕してしまう。そういう相手は悔しくもあり、嫉妬すら感じ、そして手に入れたくなる。自分達の血に取り込むためにね」

 

「……まさか」

 

「あぁ。束くんが愛らしい子で良かったよ。彼女のことは、子宮だけでなくその思想から行動まで全て抱きしめて離したくないものだよ」

 

………!? キモチワルイ。身の毛がよだつ。今自分はどんな顔をしているだろう。頭がグチャグチャで考えが纏まらない。ただ一つだけわかった。

 

この男はッ!

 

「できれば君には一夏君との間に子供を作って欲しいな。何せ世界唯一のISを扱える男性の遺伝子を持った彼だ。是非とも僕らの血に取り込みたい。それに、この先数十年で僕たち以上の才能ある人類が生まれなかった時のために保険として束くんと君の血も交配させたいからね。だから」

 

言うな。それ以上喋るな!

 

「僕の元に来ないかい? 歓迎するよ愛娘」

 

「黙れ。お前は『わたし』の敵だ!」

 

殺意を持って睨めつける。声も荒らげてしまった。周りのお客様にも迷惑をかけたことになる。

 

最悪だ。あぁ最悪だ。店の売上にどれだけ影響が出るだろう? 

 

だとしても、この男は確実に牢屋にぶちこめなくては。『志波真季奈』の大事な父親? 知るものか。

 

もしもこの世界に神様がいるとしたら。『わたし』が生まれたのはこの男と戦う為なんだろう。

 

それを今、確信した。

 

「父親を怖い目で見るね。傷つくよ。でも、本当に君は『別人』だ。僕の知る真季奈ならいまごろ目を泣き腫らしてそんな目で僕を見ることもできなかったろうに」

 

「? 想像できませんね。『志波真季奈』ならお前みたいなクズ、容赦なく殴り飛ばすと思いますが?」

 

「いいや。あの子の本質は淋しがりやの泣き虫だよ」

 

「それなのに一人ぼっちにしたんですか?」

 

「その方があの子の才能を伸ばせると思ったからね」

 

「外道」

 

こいつにとって実の娘も目的を果たすための道具でしかないのだろうか? 

 

……目的? なんだそれは?

 

「ん?」

 

目の前で呑気にコーヒーを飲むクズにイラついてしょうがない。考えが読めない。いや、理解したくない。

 

「君は僕を否定しているけど、その君自身が僕らの目的を完成してくれている。そのことを理解しているかい?」

 

「わたしが?」

 

「君はデウスくんを、「ALICE」を造った。それこそが僕ら一族の悲願。機械生命体の創造の素晴らしい第一歩さ」

 

『機械生命体』。確かに、プログラム「ALICE」を搭載したIS達は自我を持って自立行動をしてみせる一個の存在となっている。しかし、それだけでは『生命』とはいえない筈です。

 

「だからこそ進化する機能が必要だったんだよ。太古の昔、海中でしか生きられなかった生物が、酸素を取り込む術を身に付けることで陸上に上がってその姿を変えこの星で増えていったように、デウスくんもこれからどんどん進化していくことで『機械生命体』の頂点、神様に近づいていくはずだ」

 

「お前の目的は、新たな種族を生み出すことだと? 神様のくだりが意味不明ですが」

 

人類最高の叡智を持って『神様』に近づくことと、『機械生命体』という種族を生み出すこととがどう繋がる? 

 

理解できなこと。それを理解したい、探求し、解明し、そして何かを生み出したい。

 

そう考えてしまうのは科学者としての性なのか。それとも、この男の言う通り自分の遺伝子に刻まれた本能とでも?

 

それが、今すぐにでも取り押さえて牢屋にぶち込めなくてはいけない犯罪者と、長々と同じテーブルで話していることの『言い訳』だとでも言うのだろうか? いいや、そんなことはない。これは事情聴取。相手の目的を、行おうとしている犯罪の全貌を聞き出すために必要な処置だ。

 

そのはずだ。

 

「生命を創り出すこととでその種族にとっての神となる……じゃぁ弱いかな?」

 

「それらしいことを言って誤魔化すな」

 

「じゃぁ内緒」

 

「拷問がお望みですか?」

 

「それにもう決めているんだ。その種族名をね」

 

聞けよ。そう思いましたがこの手の人種は語りだしたら止まりませんね。あぁ殴りてぇ。

 

「Mkina Siba 。君の名前の頭文字からとって、『MS族』。そう名付けようと思うんだ。ISを母体にしているから雰囲気も似ているだろう?」

 

「本当は Mkiharu Siba と付けたかったんじゃないんですか?」

 

「バレたか」

 

ははは、と朗らかに笑うこの男の神経がわからない。わたしがこんなにも怒気を周囲に散りばめているのに、これでは仲のいい親子の会話に見えてしまうじゃないですか。

 

「もういいです。貴方には場所を変えてこれからじっくりと詳しい話を聞くことにします」

 

学園の施設内なら世界にとってここは治外法権、何をしても文句を言われない。尋問に拷問を取り入れようが告発するものも訴えるものもいない。ましてやそれを行うのが実の娘で唯一の肉親なのだ。誰に非難されようものなのか。

 

「それは困る。僕はまだ世界の変革を見ていないからね」

 

目の前のイカれた実父がそういった時。

 

「!?」

 

 

ドォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!

 

 

爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 

「おぉーーーっと!! 突然アリーナに乱入者だー!! 敵か味方か、どうする桃太郎!!」

 

「えぇ!? なにアレ!? IS? どこの専用機持ちだよ!」

 

『………。フン! いかなる敵だろうと! このエルドラ・デウスの敵ではない!』

 

「「「いやいやいやいや!!!」」」

 

 

 

教室に流れてきた「観劇」のライブ放送。それがさっきの爆発の原因を如実に語る。

 

仕掛けてきたのだ。、

 

この男の息のかかったものが。この学園に、文化祭に。

 

「へぇ? 君たちの生徒会長は、この事態を劇の一部として取り込むつもりなのかな? でもそれは悪手だ。観客の混乱を抑えられるのも一時的なものでしかない」

 

「お前は……何者なんです? どういう立場と権力を持ってこんなことを……」

 

織斑くんの声が言っていた。ISの専用機。その襲撃? どうやって? どういうコネクションを持っていればそんなことが可能なんです?

 

「そういえば名乗っていなかったね。僕は『亡国機業』現社長。志波蒔春。もう一度聞くよ? ウチに来ないかい? 今なら社長令嬢として迎えるよ、真季奈」

 

「お生憎ですが。わたしはマッキー商会会長、志波真季奈ですので」

 

「そうか。残念だよ。なら、早く一夏君のところへ行ってあげなさい。彼女等には君が向かうまで攻撃の手を止めるなと言ってあるからね」

 

「………外道」

 

複数の専用機持ちが在学し、『世界最強』の織斑千冬を初めとしたIS操縦に長けた教職員が控えているこのIS学園に部下を白昼堂々襲撃させる? ナンセンスだ。どんなに頑張っても最終的にはこちらの勝利は間違いない。つまりは捨て駒。それも自分が逃げるための。

 

しかし。

 

「どうしたんだい? 好きなんだろう? 彼のことが」

 

この男の思惑通り、今すぐ走り出したい自分がいる。

 

それすらも計算の内。娘の恋心すら利用する父親など、外道の言葉以外に言い表せる表現があろうことか。

 

「貴方は必ず捕まえてみせます。必ず!」

 

「いいや? 僕が迎える方が先だよ。待ってるよ真季奈」

 

戯言を!

 

悔しさを胸に詰め込んで走ります。向かうは第4アリーナ。もちろん携帯電話を取り出して警備にあのクソ親父のことを報告することを忘れません。

 

ですが、果たしてあの男を捕らえることができるのでしょうか?

 

……やっぱり今すぐ戻ってわたしが自分で。

 

…………でも一夏が。

 

あのクソ親父を。

 

一夏。

 

クソ親父、一夏、クソ親父、一夏、クソ親父、一夏、クソ親父、一夏、クソ親父、一夏、クソ親父、一夏、クソ親父、一夏、クソ親父、一夏、クソ親父、一夏、クソ親父、一夏、クソ親父、一夏、クソ親父、一夏、クソ親父、一夏。

 

グダグダと悩みながら足を進める自分に嫌になります。

 

肉親としての義務感が父親を。恋心が一夏を。

 

どっちも気になって、頭から離れなくて、堂々巡りで。

 

それでも足は止まらなくて。

 

「あぁ、そっか………」

 

目の前にあるのは第4アリーナ。観客の歓声と戦闘の轟音が外まで届いてくるこの場所はアリーナの入口。

 

結局、そうなんだ。

 

どんなに迷っても自然と足が向かうのは好きな男の元。

 

あんな出来損ないの父親の言葉なんて関係ない。彼の遺伝子が欲しいとか優秀な子孫を残したいとか、そんな思いは……ない。

 

ただ一緒にいたいのだ。

 

それだけ。

 

『ようやく来たか、真季奈』

 

「デウス」

 

アリーナの入口でわたしを待っていたかのようにお座りをしている黒い毛並みの柴犬がいた。

 

なんでここに? という疑問は当然ある。

 

でも、この子がここで自分を待っていたのは、当然のことに思えた。

 

「戦況は?」

 

『こちらの戦力は一年の専用機持ち六人と無人機二機。控えに更識姉妹。敵は専用機持ち二人に無人機がおよそ二十機だ』

 

「二十二機のIS……」

 

なんだその大部隊は……? 戦争をふっかけて軽く一国を滅ぼせる戦力じゃないですか。

 

「控えと言いましたね? 何故更識会長とカッシーは出ないのです? 他の学年の専用機持ち達は?」

 

『待機だ』

 

は?

 

「何を考えているんですか!? 今すぐに全戦力をもって当たらないといけない状況でしょう?! それに貴方もこんなところでいないで戦線に参加しなさい!!」

 

『言ったろう真季奈。お前を待っていた。ほかの奴らもな』

 

デウスはただ淡々とそう言います。意味が分からない。わたし待つ? なんのために?

 

自慢ではないですが、『わたし』はISの操縦は不得意です。歩けば転び、飛べばきりもみして墜落します。射撃や格闘なんてもってのほか。

 

それでもここに来たのはただの恋慕の想い故。

 

自分が戦力になるなんてつゆとも思っていませんでした。

 

「………デウス?」

 

『真季奈。本当の君に戻る時が来た。……残念だが、な』

 

え?

 

『お前は自分が無力と知りつつもここに来た。それは一夏のためか?』

 

「……はい。人に任せてもいいことぐらいわかります。でも、それでもわたしは自分の手で一夏を守りたいんです!!」

 

『イイ答えだ』

 

デウスの身体が輝きます。全身を緑の粒子が包み、その全長を大きく膨らませ二メートルをゆうに超える大きさに。

 

瞬きの後、そこに現れたのは鋼鉄の巨人。箱のような手足に鳥が大きく広げたような翼をその背に二対はやし、ヘルメットを被ったような頭部に顔を覆い隠すフェイスガード。額には角。

 

全身を黄金に染めた『テンガイオウ』と呼ぶ全身装甲のISがそこに現れた。

 

『真季奈。俺の中に入れ』

 

「ちょっ!?」

 

『テンガイオウ』の胸部装甲が開く。中に詰まった配線チューブが飛び出し、真季奈の体に絡まって『テンガイオウ』の内部へと引っ張り込み格納した。

 

『さぁ、俺たちの反撃の時間だ。真季奈』

 

 

 

 

 

「………あれ? 真っ白?」

 

気がつくと、わたしは見渡す限り真っ白い空間にいました。

 

「? デウスに……あれ? なんでしたっけ?」

 

自分の駄犬に何かよからぬことをされたような気がしますが、うまく思い出せません。これはなんというか、記憶が混濁していうる? 何故?

 

……記憶?

 

 

 

『あ、やっと来んですね』

 

 

!? 

 

 

声がしました。聞き覚えがあり、聞いたことのない声。

 

普段は骨伝導によって違う声質のものとして自分の耳に入ってくる声。

 

志波真季奈の声。

 

『遅い。待ちくたびれて退屈でしたよ。どう責任を取ってくれるんですか?』

 

「わた……し?」

 

そこにいたのは金髪を腰まで伸ばした女の子。鏡を見ているのではと思うほどに同じ顔をした人物。

 

『貴方もわたしでしょう? わからないんです?』

 

「う」

 

グウも出ないことを平然と言う。この性格の悪さ、間違いなく志波真季奈だ。

 

「こ、こんなところで何をしているんです?」

 

『何って、退屈しのぎにゲームしながら漫画を読んで、プラモを作りながらアニメを観てポテチを食ってるんです』

 

「多趣味! ていうかダラけすぎでしょう!?」

 

よく見ると彼女の周りに複数台のテレビとゲーム機、漫画雑誌やプラモの箱などが山積みになって現れていた。というか、手の届く位置に。

 

うわぁ怠惰。

 

「これさっきまで無かったですよねぇ!?」

 

『はっはっは。アレですアレ。精神世界とかなんでも空間とか、願えばなんでも出てくる不思議空間です』

 

「ものすっごく満喫してる! 楽しそうですね!!」

 

『正直一生ここでダラダラしていたい!』

 

「ダメだこの子!? わりとガチで!!」

 

ダメ人間すぎる! なにこの子!? あ、わたしだ! ちくしょう!!

 

『でも、そうも言ってられないんですよねぇ』

 

「はい?」

 

え? 何が? ん? なにその残念な人を見る目?

 

『………織斑一夏』

 

「あ」

 

ああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 

「忘れてました! 一夏を助けにいかないと!」

 

『はぁ……わたしのくせに馬鹿ですねぇ。目的を忘れてちゃぁここに来た意味がないじゃないですか』

 

うぅ、なんですかこの残念臭漂ってる空気は……さっきまで駄目人間のポジションは彼女のものだったというのに……。

 

『そんなにあのファブリーズを携帯していなければ近寄るのも困難な異臭男が好きなんですか? ……うわぁ』

 

「一夏が臭いって言ってますよねぇ?! でも我慢できますよ! 多分!」

 

『理解できませんが、わたしだって見たいアニメと遊びたい友達もいます。一緒に行きましょうか』

 

「一夏が理由に入ってないところが流石! ……一緒に?」

 

『だってお互い、消えるつもりはありませんでしょう? 志波真季奈』

 

あぁそっか。

 

「そうですね。だったら一緒に行くしかないですね、志波真季奈」

 

じゃぁ、

 

「愛に生きましょうか。織斑一夏が大嫌いな志波真季奈」

 

『戦いに生きましょう。織斑一夏が大好きな志波真季奈』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ! なんだよこの数は!?」

 

「ちょっと、洒落になんないんだけど!!」

 

IS学園生徒会長、更識楯無は眼下の光景を見て歯ぎしりした。

 

第4アリーナのフィールド内で愛しい後輩たちが戦っている。それを見ていることしかできない自分がはがいなくて仕方ない。

 

全てが計画通りだったとしても。

 

「全く、デウス君には脚本家として絶対に責任とってもらうんだから。この「観劇」のキャスティング」

 

フィールド内に侵入してきた未確認のIS。そのうちの二機は先日『亡国機業』に奪取された機体だ。

 

アメリカの『アラクネ』。

 

イギリスの『サイレント・ゼフィルス』。

 

どちらも強力な機体だが問題はそこじゃない。

 

『二十機』の無人機。

 

それが意味するところは、量産体制が整ったということ。

 

篠ノ之博士と『亡国機業』が手を組んだということだ。

 

その事実の危険性を観客としてここにいる各国の要人に知らしめること。

 

そのような集団に襲撃されてもIS学園は単体で迎撃できる力をもっていること。

 

このような事態を『何事も無く』終わらせることができる政治力を持ち合わせていること。

 

この三点を示さなくてはならない。

 

それが今年の春からケチのつけっぱなしだったこのIS学園が独立組織として他国からちょっかいをかけられないために必要なことだった。

 

IS学園は度重なる襲撃によってその信用を失いかけている。本国である日本からもだ。特に、専用機を与えられて在学している他国からは生徒の帰国要請も出ている。

 

アラスカ条約によって今は抑えられているが、もしもこれ以上弁明のしようのないほどの失態を犯せばこの学園の利権は失墜し、他国の介入を許すことになるだろう。

 

この学園には様々な問題を抱えている。学園の施設にも、生徒にも。だから、それだけは避けなければならない。

 

本来なら今回の襲撃も絶対に避けるべきだった。そう、出来たのだ。

 

何故なら、今日『彼ら』が来ることは予想できていた。

 

世界唯一の男性IS操縦者、織斑一夏が狙われることは容易に想像がついていた。しかも、第四世代相当の新型ISも持っている。素人が最新鋭機を。これではカモがネギをしょっているようなものだ。当然、奪いに来るものもいるはずだった。

 

しかし、織斑一夏個人を狙っての襲撃者は来なかった。何故なら、隙がなかったのだ。なにせ、志波真季奈の構築した絶対監視網が二十四時間フルタイム体制で彼を見張っていたのだから。

 

………正直引いたなー。

 

だっておはようからおやすみまでまるっと一日監視してるんだものアノ子。そりゃ襲撃者もこないわよ。だってノコノコ乗り込んできたら、今から犯行に及びます。捕まえてくださいって言っているようなものだもの。

 

しかも、しかもよ? 夏休みに入ったらデウスくんと織斑先生が交代で警備しているし、新学期が始まったらそこに私の訓練と称した護衛まで付いちゃったんだから。そりゃ焦りも最高潮にまで高ぶるわよ。

 

そうしたらもう、警備の緩みそうなイベントを狙いに来るって仮定できる。それは何時か? 簡単だ。外部の人間に紛れて侵入しやすい『文化祭』だ。襲撃者が来るなら必ずこの日を狙うだろう。

 

ならばそれに備えて返り討ちにしてやればいい。それを見せつければIS学園の能力を疑うものも考えを改めるだろう。

 

でも問題もある。

 

IS学園最強が出張るわけにはいかないのだ。

 

私は暗部にも通じる更識の当主。しかもロシアの国家代表だ。その私が出撃するということはこの学園にもう後がない、追い込まれているという証明にほかならない。

 

だから、私を除いた戦力で敵機殲滅に望まなくてはいけない。

 

「でも、この戦力差は想定外ッ! なによあの数!!」

 

観客はまだ単なるイベントだと思ってくれている。彼らに被害らしい被害も出ていないからもあるが、なによりもこれだけの数のIS同士の戦闘なのだ。見てる側からすれば盛り上がってしょうがないだろう。

 

「お姉ちゃん。そろそろわたしも出る?」

 

「そうね。ピンチに颯爽と現れるヒーロー役ってことでよろしくね?」

 

「ヒーロー……フフフ、わたしが主役……」

 

私の妹、簪ちゃんの専用機にはマルチロックオン・システムを搭載した『山嵐』を装備している。最近まで開発中だったものだけど、真季奈ちゃんの協力であっという間に完成した。それを使えば複数の相手にだっ十分対抗できる。

 

でも、

 

「だ、大丈夫かしらあの子……」

 

最近真季奈ちゃんと一緒に遊ぶようになってから簪ちゃんの様子がおかしい……。き、気のせいよね!

 

って、ん?

 

「………あれは」

 

ようやく来た。

 

学園『最凶』の女の子が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいオータム! なんだこれは!! こんな襲撃、作戦にないぞ!?」

 

「うるっせぇっ!!!」

 

「ひぃっ!?」

 

アリーナの上空で滞空する二機のIS。

 

『アラクネ』の操縦者、巻紙礼子ことオータムと、『サイレント・ゼフィルス』の操縦者、エム。

 

二人は言い争いを行なっていた。なにせ、この襲撃はオータムの命令違反だからである。

 

本来なら、織斑一夏が一人になったとき、例えばこの観劇の後にでも更衣室で襲えば人目につかずに奴のISを奪えるはずだった。

 

なのにこれはなんだ?

 

白昼堂々、衆人環視の中での襲撃など道化でしかない。まさしく茶番だ。このまま続ければこちらの消耗負け。勝てたとしても『どこまで』暴れるつもりなのか?

 

この無能な先輩はその辺のことを考えているのか? そう思っての制止を兼ねた追求だったのだが、返ってきたのは罵声だった。

 

「妖精さんが言うんだよぉ! ここで頑張れば有給使って休める! サービス残業もしなくて済む!! 盆も正月も実家に帰れるってなぁ!!」

 

「お前何言ってるんだ!? おい!!」

 

本気で意味が分からなかった。妖精さん? 何それ?

 

エム。彼女は『亡国機業』に中途採用で入った新人だった。年齢もまだ十六歳。高校に通う歳だ。それでも身よりも帰る場所もない彼女は必死に働いていた。生活と目的の為に。

 

その結果が優秀な業務成績と同僚との隔絶。

 

優秀な後輩ほど、仕事の出来ない先輩にとって鬱陶しいものはない。特に、その相手を見下すような態度をとるのなら尚更だ。

 

自覚はしている。だけどどうでもいい。

 

自分に必要なのは円滑な職場環境ではない。目的を達成するための地位と力だ。そのためならばなんだってする。

 

だけどこれは不味い。本当に。

 

このままでは……。

 

「(ク、クビ!?)」

 

それだけは何としても避けたかった。絶対に。

 

ならばすることはただ一つ。

 

目の前の敵をすべて排除し、そのISを奪って逃亡する。その為に今も二十機の無人ISを使って戦闘を続けている。

 

無人のIS。『ゴーレムⅢ』。

 

女性的なフォルムを持った『亡国機業』の新商品。装備は大型ブレードとシールドビットを搭載し、絶対防御システムを阻害するジャミング装置までもが搭載されていて、操縦者へ直接ダメージを与えることまでできる。

 

なぜこれほどの機体を自社が開発できたのか? それは開発部のオブザーバーとしてあの篠ノ之博士を招き入れることができたことが大きい。

 

なのに、これだけの戦力を投入しているのに一向に敵機の戦力を削ることができず、まだ一機も撃墜できていない。

 

おかしい。それほどの練度がこんな平和ボケした学園の生徒にあるはずがない。もしあるとすれば、それは血反吐をすするような訓練と生き方を強いられてきた自分への侮辱だ。

 

特にあの男。『織斑一夏』の存在が気に食わない。弱いくせに、邪魔者のくせに、自分の居場所を奪ったくせに、なぜそうまでして抗う!? 戦える!?

 

「もう面倒だ……いい加減殺したくなってきた」

 

『ゴーレムⅢ』を全機、あの男に向かわせてなぶり殺してやろうか? そう思ったとき。

 

 

「それはいけませんねぇ。アレは、わたしのオモチャですので」

 

 

自分よりも遥か天空の彼方から『声』が聞こえてきた。

 

そう脳が理解した瞬間。

 

一閃の軌跡と共に何かが降下し、地上で織斑一夏と戦闘していた『ゴーレムⅢ』を真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

「チクショー! デウスのやつどこ行ったんだ!?」

 

「野暮用って抜け出してから随分経つわよ!」

 

「帰ってきたらぶん殴ってやる!」

 

「「「いいなそれ!!!」」」

 

一夏たち一年生の専用機持ちが戦いながら姿を消したデウスへと罵声を浴びせる。

 

正直、もう余裕がなかった。

 

一夏こと桃太郎と五人の鬼女たちとの戦いも佳境というところでの突然の襲撃。それをデウスは『予定通りだから時間を稼げ』とその場をボイコットした。

 

だから必死に時間稼ぎ……勝つためでなく生き残ろための戦いを始めることになってしまった。そして、IS学園側からの救助どころか観客への避難の指示も出ていない。

 

予定通り。デウスのその言葉が頭の中でこだまする。

 

デウスは、あの機械犬たるアニキは信用できる男だ。嘘を言うはずがない。だけど何時まで耐えればいい? こちらのシールド・エネルギーも残り少ない。敵機の装備も驚異的だ。自分たちがまだ生きていることの方が不思議でならない。

 

それもこれも、こちら側の二機の無人機。『銀の福音』とあの『倒したはずの灰色の無人機』が奮戦してくれているところが大きい。特に多対一の戦闘を得意とする『銀の福音』の援護射撃には大いに助けられている。ほんと、昨日の敵は今日の友ってのはこのことだな、うん。

 

「!? 一夏ぁ!!」

 

「! しまっ」

 

そんな考え事をしていたツケが回ってきたのか。一瞬の油断、注意が散漫になっているところに隙ができた。

 

今まで必死に防御に徹していた相手の攻撃が突然やみ、機体が一気に後退していく。それによって前方からの過負荷がなくなり姿勢を崩した。

 

そこへ襲いかかってくる別の敵機の攻撃。正面から大型ブレードを振りかぶったその一撃になすすべもなく受けてしまい……いや、攻撃はこなかった。

 

 

目の前の謎の『無人機』が突然縦に割れた。

 

 

そう理解したとき、織斑一夏には目の前の光景が信じられなかった。

 

そこに居たのは三対六翼の大型スラスターを背に装備し、両肩に大型の大剣をひと振りずつマウントした見たこともないIS。色は白を基調とし、薄い桃色で縁どられたサクラ色の機体。

 

それを纏っていたのは、『いつも』は後頭部で纏めていた金髪をほどき、肩よりも下くらいにまで伸ばした少女。

 

自分は知っている。

 

彼女の名は、

 

「さぁさぁ! 皆さんお立会いぃ!! これより志波真季奈! 鬼退治と参りましょうか!!」

 

自分が恋した最凶の少女だった。

 

「さぁ、行きましょうか! 『暮桜 天(アマツ)』!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園のある人工島、その港口。海路からの物資を搬入するためのここにはIS学園文化祭の真っ最中ということもあり、今や人の目も少なくなっていた。

 

そこに人知れず上陸する影が一つ。

 

『亡国機業』の社員、スコール。流れるような金髪に豊かなバスト。潜入任務だろうとなんだろうとお構いなしと派手な胸元のあいたドレスを纏った女性だ。

 

彼女は海路からボート(経費削減)で上陸すると、バッグの中に待機状態で入れておいた『ゴーレムⅢ』を取り出し展開させる。その数は十三。

 

「こういう時は無人機って便利ね。これだけの部隊をたった一人の手荷物の中に忍ばせることができるなんて」

 

それこそが無人ISの大きな強みのひとつだった。

 

操縦者がいらない。それは人件費だけでなく、移動手段にでも大きな強みとなる。

 

なにせ、待機状態にすれば手のひらに収まる程度の大きさにまで小さくできるのがISだ。それが纏う操縦者が必要せずに運用できる? 素晴らしいの一言だ。

 

これなら、たった一人で他国へと侵入して戦争を起こすことも夢じゃない。アタッシュケースに何百個のそれを詰めて移動するだけでいいのだ。

 

これは、売れる!

 

その性能を大々的に、恐怖を持って世に知らしめればアンダーグラウンドでの買い手はもちろん、秘密裏に『表』の公的機関からの取引の話だってくるはず!

 

「ふふっ。早いところプレゼンの準備をしなくちゃ……そのためにもまずは実践データと戦闘の映像を資料として集めないと。エムとオータムにも今日は無理しないで早めに帰ってきてもらわないといけないわね」

 

新商品の売り込みのための構想を練りつつも、気にかかるのは二名の部下のこと。

 

一人は自分に気のあるレズっ気の強い、仕事は遅いがベテランに育ってくれた後輩。もう一人は鼻持ちならない態度が目に付くが、非常に優秀な新人。

 

あの二人には織斑一夏の持つ最新鋭のISを強奪してくるよう命令しているが、無理ならば別に失敗してもいいと考えていた。

 

なぜならここに、『白式』よりも価値のある商品があるのだから!

 

 

な、の、に。

 

 

「アリーナで襲撃!? 何やってるののあの子達は!!」

 

とんでもない想定外の事態となっていた。

 

そこへ、

 

『すまんな。こちらの都合で動いてもらったんだ。まぁ許せ』

 

「誰!?」

 

突然話しかけられたことにも驚いたが、すぐに気づいた。自分は確かにこの場所の『安全』を確認してから上陸したはずだ。今この場に、自分以外の生体反応はなかったはず。

 

しかしそれこそが誤算。

 

目の前、貨物コンテナの上に立つをの物体には生体反応など有りもせず、そもそも人間など乗っていないのだから。

 

「お前は……まさか、『テンガイオウ』? いえ、そんな」

 

スコールは目の前の機体に戸惑いを隠せなかった。そこに居たのは最重要捕獲機体の内の一体。しかし、報告にあった姿とは変貌していた。

 

まず機体色。これは全身が黄金色になっていた。IS学園が夏季休暇に入っている間に金色に塗り変わったと聞いたが、それよりも遥かに眩い輝きを放っていた。そしてその時に取り付けられた様々な装飾、胸の鳥やらなんやら、エルドラ的要素のあるものは全て取り除かれていた。元の形状に戻ったと言ってもいい。

 

そして最も変わっていたのが両肩と背中。背中のバックパックから生えたウイングはまるでアルファベットの X を縦に二つに割ったかのように形状が変化し燃え上がるような真紅に染まっていた。そしてその二つのウイングの間からは爬虫類を思わせる尻尾が生えていた。

 

そして両肩には竜の頭部を模したかのような形状のショルダーが装着され、その色はウイングと同じ真紅。

 

黄金と真紅の二色で彩られたその機体は、さながら地上に落ちてきた太陽のごとく輝きを放っていた。

 

 

「黄金の竜? あ、貴方は一体、何者?」

 

『そうだな』

 

太陽の化身。そう思わせる鋼鉄の巨人は高らかに叫ぶ。

 

『敢えて名乗ろう! 『デウス EX』と!!』

 

 

 

 

 




Deus ex machina と書いて、デウス EX 真季奈 と書きます。

今回からタグを追加したとおり。この作品、実は IS×ナイトガンダム ものだったのです。

元ネタがわからないという皆様には申し訳ありません。なるだけ原作知識の必要ないように物語を進めて行こうと思います。

元ネタがわかるという皆様、とりあえずここまで隠していた伏線を。

真季奈の記憶喪失ネタ。これは『ナイトガンダム物語』からです。つまり、記憶を失って生まれた人格がナイトガンダム(善)。記憶を失う前と潜在意識として残っていたドSな正確がサタンガンダム(悪)でした。

デウス(犬)は『SDガンダム聖伝』から。主人公エックスの愛犬であり、その正体が守護竜だったジーファルコンがモチーフでした。

あと本作に出てくる「ALICE」は『ガンダムセンチネル』からです。

あのスペリオル繋がりであの竜神様も登場しました。デウスEX はまんまあの御方です。

途中、エルドラ仕様になったのもそのためです。機体カラーが金色の勇者ロボ、という条件でそこから進化させようと思っていました。

ちなみに第二候補は黄金竜繋がりで『黄金勇者 ゴルドラン』でした。

これからもナイトガンダムの作中に出てきたキャラを出す予定ですが、そう多くは出しません。大体、4、5体くらいです。

文化祭で登場させる! と決めていたため、作中に出てこない以上タグをつけるのは詐欺じゃないか? と今までSDガンダムのタグを付けてきませんでした。申し訳ありません。

それではまた次回、後編をよろしくお願いします。
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