IS  復讐のデウス・マキナ   作:ぷらもん

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お久しぶりです。

今回から『あの世界』の住人達が襲ってくるようになります。

真季奈とデウスが暴れますがいろんな意味でご注意を。

それでは、どうぞ。


竜虎、胎動する 後編

プシュー、と空気の排出音とともに機体が開く。展開された胸部装甲の中から這い出でてくる少女。

 

彼女は言った。

 

「わたしの記憶を持っていたのは貴方だったんですね、デウス」

 

『そうだ。すまなかった、真季奈』

 

謝罪する鋼鉄の巨神と化したデウス。そう、それが原因だった。

 

あの夏の日の海中で。

 

頭部と腹部に大きく損傷を負った志波真季奈の肉体をなんとか修復しようとしたデウスは、『天蓋王』の機体を自分の肉体として進化させ、その性能を再生治療に特化したものにへと大きく割り振った。

 

そして『天蓋王』こと『テンガイオウ』の内部で行われた志波真季奈の治療。腹部を貫通した傷は医療用ナノマシンを総動員して塞いだが、頭部に関しては脳へのダメージが把握できるようなものではなかった。そこで、志波真季奈の脳波パターン、思考ルーチン、蓄積された内部記憶。それらを『テンガイオウ』内部へとバックアップをとり、治療の終わった志波真季奈へと再インストールした。

 

それはおよそ人間の治療とは言えないもの。まるで電子機器の修理で行われるようなその行為、それはその瞬間、志波真季奈が『テンガイオウ』の内部で生体部品として誤認されていたからである。そのことに気づかず、デウスは自身の一部として真季奈の再生を行い、その記憶を自身の内部へと保存してしまった。

 

そして生まれたのが『真っ白』な志波真季奈。

 

記憶喪失ではなく、記憶移行。それが彼女の本当の病名だった。

 

そのことにデウスが気づいたのは彼が自身の状態に慣れてきた頃。鋼鉄の肉体を存分に奮っている内の最中に見つけた、手つかずの記憶領域。そこには『彼女』がいた。

 

「まぁ、『わたし』では絶対に得難い体験をさせてもらいましたよ。えぇホント………あー死にてぇ」

 

『そこまでか!? そんなにあのキャラ苦痛だったのか!?』

 

「なにあの恋愛脳……沸いてんじゃねぇの? 脳味噌が湯だってよぉ?」

 

『止めて! お前だって恋に恋する女子高生でもいいじゃない!?』

 

「はっ、だとしても織斑一夏だけは無いです。あるとしたら……御手洗くん?」

 

『その人原作でも名前しかわかってないですよねぇ!? 好み以前の問題だと思うんですけど!!』

 

「はは、ワロス」

 

『お前実はどうでもいいんだろ!?』

 

「デウス、うるさい」

 

『ごめんなさい』

 

即座に頭を下げる機械人形。上下関係は健在だった。

 

結局、この『志波真季奈』は記憶喪失中の体験を元の彼女にプラスした人格となったようだ。

 

「さて、では行きましょうか。デウスはISとしてわたしが纏うことはできますか?」

 

『すまんがそれはできん。だからこれを持って行け』

 

そう言ってデウスは小さな小箱を真季奈の前に差し出す。その中を開けば、中に入っていたのはゴールドのリングにエメラルドの宝石をはめ込んだ指輪だった。

 

「これは?」

 

『お前の新しい専用機だ。名は、『暮桜 天(くれざくら アマツ)』。『天蓋王』に搭載予定だった開発中の装備を全て載せた』

 

「全載せ、というわけですか。しかもよくもまぁ……」

 

『苦労したんだぞ? バイトして資金を稼いだり、工具室から材料かっぱらったり、バレないようにひと騒動おこしたり……』

 

「……何やってるんですか」

 

夏休みの間、デウスが行なったそれらのことは全てこのため。志波真季奈が帰ってきた時のための準備。それは戦いのための準備だった。

 

IS学園への迷惑? そんなものはデウスにとっては二の次だった。

 

全ては志波真季奈の望みを叶えるために……。

 

その指輪を真季奈は指に通した。左手の、薬指に。

 

『……なんでまっ先にそこを選ぶ?』

 

「サイズぴったりで作っておいて何を? 男よけですよ」

 

自分にはめた指輪を、左手を表、裏とくるくる回しながら見る。二度、三度と繰り返し、満足したのか、そのまま拳を作って天にかざす。

 

「翔ぼう、アマツ」

 

そうして展開される新たな翼。背部に『非固定装備(アンロックユニット)』として滞空する三対六翼の大型スラスター、『禍ノ生太刀(マガノイクタチ)』を。両肩にも『非固定装備』として身の丈ほどの大きさがあり、刀身がピンク色のクリスタルでできた大剣、『十拳剣(トツカノツルギ)』を左右ひと振りずつで二本装備。手足のISアーマーは『展開装甲』を装備している。

 

その機体カラーは白地に薄いピンクの色をのせた桜色。それが彼女を新たに彩る色だった。

 

「では行きますか。デウスはどうします?」

 

『俺は港に行く。あちらにも『お客さん』が来ているみたいだ。多分アリーナで暴れている奴らの脱出を手引きするためだろう』

 

デウスがベンチで茶番という尋問を行なった結果、今回IS学園に襲撃してきた輩の居場所は既に割れていた。今から迎えば港に到着している敵勢力はこちらと合流する前に叩けるだろう。

 

「一人でやりきれるんです?」

 

『問題ない。今の俺なら、な』

 

そう言い切るデウスを真季奈は見る。

 

『自分』の知っているデウスは奇行が目立つ機械の柴犬だった。でも『夏からの自分』が見知るデウスは鋼鉄の、いや、今の彼は黄金の巨神だった。

 

「……大きく、成ったんですね。デウス」

 

『あぁ、自分でも驚いてるよ。と、いかんな。急ぐぞ真季奈。もうあまり時間がない』

 

デウスが遠く、その相貌を港へと向ける。真季奈も歓声が響くアリーナを見やる。確かに、早く向かった方がよさそうだ。

 

「では健闘を」

 

『了解した。真季奈、お前も思う存分暴れてやれ』

 

互いに背を向ける主従。いや、今の二人は『主従』という言葉で表せるような関係ではなかった。場所は違えど、共に背中を預け合う『戦友』。それはISとして纏い、纏われていた関係では有り得なかったもの。

 

故に。

 

「行ってきます」

 

『無事にまた会おう』

 

そう言って別れることができる。

 

戦火あふれる空を、二つの翼が飛び立っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうにも面白い状況ですね」

 

「ま、真季奈?」

 

目の前に降り立った少女、志波真季奈を織斑一夏は驚愕の眼差しで見る。

 

彼女が纏うISを彼は知らない。『打鉄』とも、その発展機であり彼女の専用機だった『天蓋王』とも違う。しかし機体のコンセプトは同じなのか、その背に広がる光の翼や手に持つ大剣という装備は同じだ。

 

しかし、

 

「あの無人機を一刀両断って……」

 

「ISの『絶対防御』はどうしたのよ……?」

 

「というか」

 

「うん。真季奈の雰囲気が」

 

「こ、この肌に突き刺さるプレッシャー!」

 

「「「まさか!?」」」

 

第4アリーナで戦う専用機持ちの六人が戦慄する。彼女たちはこれを知っている。

 

篠ノ之箒が、セシリア・オルコットが、凰鈴音が、シャルロット・デュノアが、ラウラ・ボーデヴィッヒが、そして織斑一夏は知っている。

 

この蛇に睨まれた蛙を想像させる存在感。

 

圧倒的強者への畏怖、恐怖を!

 

「で? 貴方達はもうオシマイなんですか?」

 

何百人という衆人環視の中、志波真季奈は周りの者たちに尋ねる。

 

そこまでか? お前たちはもう、戦うことすらできないのか? と。

 

「ごめん真季奈。もうシールド・エネルギーが……」

 

「そうですか。箒ちゃん、『紅椿』の『絢爛舞踏』は?」

 

シャルロットの弱音はバッサリ切り捨て、『紅椿』を纏う箒へと伺う真季奈。『紅椿』の単一仕様能力、『絢爛舞踏』には自機だけでなく他のISのエネルギーを増幅させる能力。それさえあれば長期の戦闘などなんの問題ないのだが。……まぁ操縦者の体力や精神的消耗を度外視してしまえばであるが。

 

「……すまない。さっきから発動させようとしているんだが……うまくいかないんだ」

 

「なら引き続き頑張ってください。それまではわたしが駆逐しますので」

 

「く、駆逐って真季奈」

 

箒の言葉を受け、真季奈は単身で敵勢力と立ち向かうと宣言する。それに織斑一夏は待ったをかけようと、

 

「いつ名前で呼んでいいと許しましたか!!」

 

スッパァァァァァァァァン!!!! ISの推進力を載せた渾身のビンタ!! (ISの装甲付き)

 

強烈な一撃を頂戴いたしました。

 

「「「えぇえええええええええええええええええええええええええ!!?」」」

 

「ブボォォォ!? ありがとうございます!!!」

 

周りの観客の絶叫。織斑一夏の歓喜の賛辞。それら二つがアリーナに響きわたる。

 

「え、え、え? ま、真季奈? どうし、て?」

 

「あぁ? もう一発くらっときます?」

 

心底あなたを軽蔑しています。そう彼女の瞳が語っていた。そんな眼差しで見つめられ、ちょっとドキッとしたのは秘密である。

 

「………ひょっとして、記憶戻った?」

 

「えぇ。お陰様で、貴方なんて大嫌いですよ織斑一夏」

 

「は、はは」

 

それはもう、見る者を全て虜にしてしまいそうな笑顔だった。そんなイイ顔で『大嫌い』と言われてはもう苦笑いを浮かべるしかない。

 

やっと、やっとの思いで告白できたのにぃいイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!

 

泣いた。へこんだ。明日は……どっちだ?

 

「それでは………ほいっと」

 

ふわっ、と静かな動作で志波真季奈の身体が、『暮桜 天』の機体が空に浮かぶ。そのまま『禍ノ生太刀』を、エナジーウイングを展開させて飛翔する。翼から溢れ出るエネルギーの発光色は機体色と同じサクラ色。六枚の光の翼が真季奈の背から天地左右に広がって行った。

 

「な、何があったんだ?」

 

「わからん。姐さんの記憶が戻ったというのか?」

 

「つまり、一夏は……」

 

「「「好感度がマイナスに戻った!?」」」

 

ここで簡単な数学の話をしよう。正の値であるプラス値と、負の値であるマイナス値。これらは足し算をすると、プラスの値からマイナスの値分大きさが減ってマイナスの値へとその数を減らしてく。足し合わせているのに減っているのだ。

 

つまり。

 

織斑一夏が大嫌いな志波真季奈(-)と織斑一夏が大好きな志波真季奈(+)。二人の真季奈が合わさり、より想いの強い方へと彼への感情は高まっていたのだ!

 

結果は、まぁ見てのとおり。マイナスの感情が圧倒的だった。というよりも、実は足し算じゃなくて掛け算だったんじゃね? と思うほどに嫌われっぷりに拍車がかかっている。

 

やはり、チュー未遂が原因だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、腹立たしいですね!」

 

腹が立つ。腹が立つ。すこぶる腹が立つ。

 

なんだこの気持ち悪い胸のざわめきは!!

 

上昇していく機体の行く手を阻むように、『ゴーレムⅢ』が現れ進路を塞ぐ。右手に装備されて大型ブレードを振りかぶり、真季奈の『暮桜 天』を叩き落とそうとする。

 

それを、

 

「邪魔!!」

 

相手のブレードごと、纏めて斬り飛ばした。

 

手にした大剣、『十拳剣』を片手で振り上げて向かってくる敵機のブレードを下から上へ、跳ね上げるように吹き飛ばす。そして直ぐ様両手で柄を握り直し、降り下げる。

 

これで二体。それでもまだ有人機を含めて二十機いる。突出してきた自機に向かって無人機が襲い来る。

 

「面倒! 纏めて落とせばいいんでしょ!」

 

右手に持った大剣、左肩の周りで浮遊している大剣。名は二本合わせて『十拳剣』。それらが分割を始める。中心に一本、左右に一本。縦に割れてこれで三本。そして左右に分かれた二本が更に横に半分に割れてこれで五本。

 

これで二本の『十拳剣』が五本ずつに分割されて十本の剣となった。故に十握の剣。

 

それら十本の剣を自分の周りで円を描き、球面状に走らせ、クリスタル状の刀身へと供給したエネルギーがサクラ色の輝きを放ったその瞬間……開放する!

 

「逝けよビットォ!!!」

 

真季奈の号令。それを合図に十の下僕が空を翔る。それらの動きは不規則、予測不能。フィールド内を縦横無尽に駆け巡り、十八機の『ゴーレムⅢ』を取り囲む。

 

「速い!?」

 

「ビット? 真季奈が?」

 

「ピンク色の帯びを引いていますわよ?」

 

その光景を見たラウラ、シャルロット、セシリア達が頭上の光景からそうこぼす。真季奈が初めてビットを使ったこともそうだがその使い方が異様だった。

 

『?!%#*+‘”!?』

 

真っ先に混乱したのは取り囲まれた『ゴーレムⅢ』の方だろう。目障りな飛行物体を落としてやろうと大型ブレードを振るい、ビームを撃ち、ばら蒔き始める。が、ブレードを振るった腕は別のビットが弾き飛ばし、ビームはクリスタル状の刀身で受けられ吸収された。

 

「はぁ……状況判断能力、対応性、姿勢制御に照準誤差修正にコンマ五秒……なんですか、この稚拙なプログラムは?」

 

『ゴーレムⅢ』をピンク色に輝く光の鳥籠に閉じ込めてその性能を把握する。その間にも絶え間なく攻撃の手は降り注いでいた。『サイレント・ゼフィルス』のビットによるビーム攻撃だ。

 

「この、なんで当たらない!?」

 

「………いい加減ウザくなってきましたね」

 

 

 

『サイレント・ゼフィルス』。イギリスで開発された、セシリア・オルコットが駆る『ブルー・ティアーズ』と同じのBT兵器搭載型の二号機。それを『亡国機業』が強奪し運用していた。

 

その機体の現在の搭乗者、エム。肩口まで伸ばされた黒髪に小柄な体格の少女。彼女のBT適正は異常だった。通常の射撃ビットに加えて新型のシールド・ビットを難なく使いこなし、高速起動時でも高い精密射撃が可能。それどころか、BT兵器の高稼働時にのみ可能な偏光制御射撃、つまるところの『曲がるビーム』も苦もなく扱ってみせる彼女は間違いなく最高値のBT兵器搭乗者だった。

 

なのに。

 

「くそ! くそ! くそぉ! なんなんだあの機動は!?」

 

六基のビットが放火を浴びせ、偏光したビームが躱されたあとも死角から狙う。しかし、『当たらない』。

 

目の前に存在するは六翼のエネルギーウイングを拡げて飛び回る怨敵。志波真季奈。彼女は織斑一夏の次に彼女が憎む相手だった。織斑千冬の秘蔵っ子。手ずからに育てられた愛弟子。溺愛の対象。様々な報告が起業からの調査であがってきておりそれを確認するたびに、『織斑千冬』にある特別な想いを抱く彼女、エムは心をかき乱されていた。

 

その結果がこれか。この様か。

 

六基のビットから放たれる六本のビームは志波真季奈を追う。しかし彼女はそれをなんなく躱す。もはや網と表してもいいほどの密度のビーム。それを身を捻り、バク転し、気が付けば背後まで取られていた。信じられない機動性。これが噂の高速機動に特化した機体の性能か? 

 

それも、ビットでの攻撃を継続したままでだと?!

 

自分が執拗に追う中でも、志波真季奈の『ゴーレムⅢ』に対する攻撃は止まることはない。視線はこちらを向いているのに別のところで行われている攻撃も健在。どんな脳の作りをしているんだ! と叫びたくなる。

 

そうしていると、志波真季奈の姿が徐々に増え始めていた。目の錯覚? いや、ISを展開している自分の視覚情報はハイパーセンサーが拾ったモノを直接脳内に送り込まれたもの。つまりこれは、相手の機動がこちらの情報処理能力を超え、センサーにその姿を焼き付けていった結果だ。

 

「残、像?」

 

資料で見たはずだった。しかし実際に体験するのとは話が違う。『サイレント・ゼフィルス』が相手の最新の位置情報を伝えてくる。それを狙うが既にそれも残像。気が付けば、手当たりしだいにとにかく目に映る相手の姿を撃って撃って撃ちまくるしかなかった。

 

それでも当たらない。

 

「ほーら! 鬼さんこちら♪ 手の鳴る方へ!」

 

しまいにはパンパンと手を打ち鳴らしながら歌いだした。笑顔で。なんという余裕。なんという侮蔑。もう、もう………!

 

「う、うぅぅぅぅぅぅ!!」

 

目頭が熱くなる。頬が紅潮し、耳まで熱い。視界は濡れてブレ始め、手に持つライフル、『星を砕く者(スターブレイカー)』を握る手も震え始める。

 

と、

 

「おや? ひょっとして泣いちゃってます?」

 

目の前が志波真季奈の顔でいっぱいになる。ほんの目と鼻の先。そのままの意味のとおり、あと少し近づければ互いの鼻と鼻が当たりそうなところに彼女はいた。

 

志波真季奈は嗤う。

 

「ごめんなさいねぇ? 仕方ないじゃありませんか。だって貴方、弱すぎですんで」

 

「な!? 泣いてなんか!!」

 

「ほざけ」

 

ドカッ! 

 

「ぎゃ!」

 

脇腹への蹴り。残像すら残すほどの機動力での加速を加えて放たれた志波真季奈の回転蹴り。それがエムへと放たれ吹き飛ばす。彼女はその勢いに飛ばされ空中から一気に下降する。痛みにこらえ、どうにか機体を安定させて静止した自分の立ち位置から見た。

 

自分を遥か頭上から見下ろす、『最凶』の操縦者の姿を。

 

「ッ! 高いところから見下すなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

「あん? エムの奴どうしたぁ?」

 

『アラクネ』。アメリカから強奪された第二世代型のISを纏うオータムという女性は自分の同僚であり後輩の彼女の姿を見て少なからずの動揺を見せた。

 

「……あれ? 私って確か……妖精さんにアリーナで頑張って戦えって……でもスコールには極秘に動けって、え? あれ? じゃぁなんでこんなところに? ん?」

 

記憶が混濁し、頭が回らない。アルコールの入った彼女は飲酒運転でのIS起動となっていた。高速機動は容赦なく体内のアルコールをシェイクし、脳内で暴れる。思考はほわほわ、気分はふわふわ。細かいことはどうでもいい。結果さえ出せればいいのだ。そうだ、そうだった。そうすれば、スコールも喜ぶ。褒めてくれる。

 

「しょーがねーなぁ。いけ好かない後輩でも助けてやるかー」

 

にへらと笑うその顔はどこまでもしまらなかった。酒の入ったことで表情筋が緩み意味も無く笑ってしまうのだ。

 

「させないわよ!」

 

そこへ。

 

「あん?」

 

「その機体は母国、アメリカで奪われたもの! 『アラクネ』を返してもらうわよ!!」

 

全身装甲のIS。『銀の福音』を纏ったアメリカのISのテスト操縦者。ナターシャ・ファイルがオータムの前に立ちふさがった。彼女は第4アリーナへの襲撃者の中にアメリカから強奪された『アラクネ』の姿を見つけるとすぐさま観客席から飛び出して独立稼働する自分の専用機と合流を果たした。戦闘の最中、合流には時間が掛かったが志波真季奈の登場により攻撃の手がほとんど彼女へと向けられたことでできたスキのなせることだった。

 

「は! おもしれぇ!! でもワリィがこっちにだって負けられない理由があるんだよ!」

 

「なんですって!?」

 

IS同士の戦闘の前に行われるのは舌戦。それは挑発であり先制攻撃だ。

 

「私の惚れた相手に、勝って土産を持っていきゃぁ褒めてもらえるんだよぉ!!」

 

「こっちだって、最愛の人に抱きしめてもらうんだから~~!!」

 

互いの機体がぶつかり合う。ビームが飛び交い、蜘蛛の糸のような粘着質の物体が宙を舞う。

 

デウスさん!

 

スコール!

 

「「「愛ゆえに!!」」」

 

戦場で、女二人の譲れない戦いがあった。

 

 

 

 

 

 

 

「……束様、なんですかあの性能は? 束様?」

 

「ごめんくーちゃん、ちょっと黙って」

 

ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!!!

 

観客席から志波真季奈の『暮桜 天』の圧倒ぶりを見て、くーちゃんことクロエ・クロニクルは隣に座る篠ノ之束へと疑問を口にする。しかし、そこには目の前に空中ディスプレイとコンソールを展開させ、一心不乱に格闘する科学者の姿があった。

 

「……駄目だ、今のでまた障壁を三つ突破された。ならこれで……あぁ、ちょっとしか効果がない、やっぱ今更ウィルスなんて間に合わない……当然か……あとはもう自壊プログラムを……拒否された!? あーーーー、もう!! 負けた!!!!」

 

「た、束様?」

 

「あ、うんごめんねくーちゃん。負けちゃったー。で、なんだっけ?」

 

「その、なにを?」

 

先ほどの鬼気迫るタイピングはなんですか? その一言が言えなかった。それほどの必死さがあったのだ。

 

この『天災』には珍しすぎてありえないほどに。

 

「マッキーと『ゴーレムⅢ』の奪い合いをしてたんだ。それで負けちゃった。もうあの子達は全部マッキーの支配下だよ」

 

「な!?」

 

その瞬間、アリーナでひときわ大きな爆発が上がった。

 

!!? 慌ててフィールド内を見る。クロエの目に飛び込んできたのはピンク色の爆炎。それはまさに満開に咲いた桜の様にフィールドを覆い、その花びらを散らしていた。

 

「……自爆させたかー。まぁその方が手っ取り早いよね」

 

「束様! 今のは一体!?」

 

爆発したのは十八機の無人機。真季奈の造った鳥籠に捕らわれていた『ゴーレムⅢ』だった

 

「あの機体、『暮桜 天』はその名の通り『暮桜』、ちーちゃんが昔乗っていた機体をマッキーの専用機に仕立て直した機体なんだよ。しかも、空っぽになったコアに『天蓋王』を移植してね」

 

「そ、それがどういう?」

 

『暮桜』。かつて世界の頂きに君臨した『世界最強』の織斑千冬の機体。彼女が一線を退いてからその所在も不確かなものとなった機体が何故? 

 

「『あの子』は日本の馬鹿な科学者が更なる性能向上を狙って「ALICE」搭載機としての実験機にされて暴走、凍結された機体なんだ。『天蓋王』とデウス君の例を見て欲を出しちゃった末路だよ」

 

「『暮桜』に「ALICE」が!?」

 

「でも失敗した。あの銀色同様、二つの人格が対立して対消滅をおこして動かなくなった。そこに『天蓋王』の意識データをインストールさせてコアの中核としたんだろうね。だからあの機体は『天蓋王』なんだよ。エネルギー吸収能力を持ち、その応用として敵機とのバイパスを構築してシステムを乗っ取る」

 

「システムを……乗っ取る? どうやって?」

 

「ナノマシン」

 

ナノマシンで有名なのはロシア代表である更識楯無の『ミステリアス・レイディ』だろう。しかし、そもそもナノマシンの技術は彼女の機体だけのものではなく、もっと一般的なものだ。なにせ、全てのISにも使われているどころか、医療用、交通機関、宇宙衛星など多くの分野で扱われているのだ。その応用には際限がない。

 

『天蓋王』、そして『暮桜 天』。この二機には共通してエナジーウイングが搭載されている。これはただ高速機動を行うためだけの装備ではなかった。この装備の本当の仕様は、ナノマシンを散布して電子ジャック可能領域を拡大させることにあった。『光の翼』の発光や手足の『展開装甲』、装備した大剣から漏れる発光現象。そららは全て散布されたナノマシンの輝き。

 

「ナノマシン? それがどうやって?」

 

「多分、エナジーウイングは未完成だったんだね。だから散布したナノマシンを力場にして高速機動のための加速領域にする性能しか行使できなかった。でもそれだけじゃエネルギーを無駄食いするだけのただの自滅用装備。きっと散布したナノマシンを敵機内部で活動させるシステムの開発が遅れていたんだね? でも、あぁして散布したナノマシンのプールでフィールドを満たしてしまえば後はもう溺れるだけさ」

 

そう、それこそが志波真季奈の専用機となる機体に求められた本来の機能。電子戦特化の機体、とりわけ『人間』という異物が存在しない無人機のISなどにとっては天敵とも言える存在。意思も、命すらプログラムを基盤とするシステムで生み出された『ゴーレムⅢ』という無人機など、彼女にとっては唯のちょっとよく動く重機でしかない。

 

「それほどのことを戦闘中に行なったというのですか?!」

 

「そこが怖いところだよねぇ? だってあれ、テレビ観ながらゲームして、漫画読みながらお菓子食べて他人と会話しつつ脳は数式を組立るのにフル稼働ってくらいのことを同時進行でおこなって居るってことだもんね」

 

「か、可能なのですか?」

 

「私も頑張れば多分できるよ? でも流石にマッキーの方がIS戦闘では一日の長があるよ。戦いながら、なんて少なくとも私はやりたくない」

 

やっぱり、蒔春さんが言うとおり。マッキーの肉体スペックは人類のそれを超えているね。これが優良種への挑戦の結果ってやつなのかな?

 

「ま、マッキーはそれをいっくんをイジリ倒すために使い潰しちゃってるんだけどね」

 

それこそが一番の問題にして美点。人間、いくら進化しようとも結局はできることなんて本人次第。

 

「マッキーは敵対するISを命令一つで滅ぼせる力を手に入れた。でも、それを使うかは彼女の自由だ」

 

ほんと、怖い子になっちゃったねぇ?

 

ね? 蒔春さん?

 

 

 

 

 

 

「すげぇ……あの無人機が本当に全部まとめて……」

 

爆発四散した無人機たちを呆然と見ていた織斑一夏らはそう呟くしか出来なかった。

 

自分たちの苦労はなんだったんだ?

 

それを考えることは自分達のプライドを傷つけること。しかし、

 

「箒、まだか!?」

 

「待て! もう少し……来た!」

 

彼らにはただ指をくわえてみているなど、到底出来やしなかった。S.Eが切れかかっていようが、それを回復する手はある。ならばそれをしない理由などない。箒が『紅椿』の能力、『絢爛舞踏』を発動させるのを待つしかないとしても。全てを真季奈に任せてさっさとピットに戻って機体のS.Eを回復に行けばいいだけなのだとしても。

 

それでもその場を離れたくも無く、彼女から一刻も目を離したくなかった。もう、置いてかれるのは嫌だったのだ。

 

「一夏! 手を!」

 

「おう! 皆も!!」

 

「「「えぇ!!」」」

 

箒が一夏の手を取り、一夏はセシリア達へと手を伸ばす。手を繋ぐ六人。すると『紅椿』を包む金色の光が『白式』や他の機体へと広がっていき、一際大きな輝きとなった。

 

「よし、エネルギーが回復していく!」

 

「あぁ! …………ん?」

 

……………………………………………………オオォ。

 

「なんだ?」

 

「箒?」

 

……………………………オオオオオォ!

 

「いや、何か………聞こえないか?」

 

「え? 何がだ?」

 

ガオォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

「!?」

 

虎の、咆哮!?

 

その声を箒がはっきりと聞き取ったとき、彼らを包む金色の光は一条の光となってアリーナから飛び立った。

 

「な、なんだ?」

 

「『紅椿』? ………何が?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IS学園が設立された人工島。その港口で戦闘が『あった』。

 

「そ、そんな………全滅だなんて」

 

『所詮はこの程度か』

 

コンテナや積まれ、クレーンが立ち並ぶ中、黒煙を上げる残骸の山があった。十三機の無人機IS、『ゴーレムⅢ』である。

 

その無人機の成れの果ての中心に、その惨状を作り上げた黄金の機体があった。

 

人型の機体、ツインアイの瞳とヘルメットのような頭部に額の角、顔を覆うフェイスガードに箱のような手足に黄金のボディ。両肩はドラゴンの頭部を模した装甲をしていて色は真紅。背中には同じく真紅の色をした翼と尻尾が生えていた。

 

その名は『デウス EX』。志波真季奈が創り、進化した黄金竜である。

 

『後はお前だけだな』

 

「全て一撃でなんて……もうISの性能じゃないわね」

 

スコール・ミューゼル。この場に十三機の無人機を持ち込んだ張本人で『亡国機業』の社員。第4アリーナで戦闘を繰り広げているエムとオータムの直接の上司である。

 

その彼女の目の前でとても信じられない事態が起こった。虎の子とも言うべき新商品である『ゴーレムⅢ』が全滅したのだ。この、黄金竜によって。

 

どうやってか? それはとてもシンプルで至極単純な方法だった。

 

拳で、殴る。

 

ただそれだけのこと。たったその一言で片付くような攻撃で『ゴーレムⅢ』はことごとく破壊され尽くした。シールド・バリアー? 絶対防御? シールド・ビット? そんなものは紙切れでしかなかった。最初の一機は回避行動を取る暇もなく拳を食らい機体に風穴を開けて沈黙した。その次の機体は防御を取ろうとしてシールド毎拳が貫通した。その次も、その次も……気が付けば、全滅していた。

 

「(報告にあった性能とはまるで違う……姿が変わっただけじゃない……なんなのこいつは?!)」

 

目の前の化物に恐怖を覚え始めた彼女は撤退することも考え始めた。しかし、IS学園では部下が戦っており、その離脱の手引きもしなくてはならない。だが、逃げられそうもない。

 

なぜなら。

 

『ゴールデン・ドーン』。スコール・ミューゼルの専用機。この機体は黄金の装甲と手足、自在に操作可能な尻尾で構成されたIS。特に脚部は巨大で彼女の身の丈ほどの長さがあり、その全長を大きくせている。そして炎を操る機能があり、熱線を張りバリアとする機能、火球を作り出す機能がある。

 

炎を操る黄金の機体。そう、同じなのだ。この竜と。

 

「喰らいなさい!!」

 

スコールの手のひらに火の粉が集まる。それが凝縮していき、超高熱火炎球へとなって大きくなっていく。『ソリッド・フレア』。これを放って相手にぶつけて大爆発を引き起こして焼き尽くす。

 

なのに、

 

「また、吸収したっていうの!?」

 

放った火球は黄金竜に衝突する寸前で霧散してしまう。真紅に染まった鎧が火炎の熱を奪い、吸い取っていた。そして両の手が燃え上がり、その拳は火炎に包まれる。

 

あれだ、あの拳に全て溶かされた!!

 

自分が操る炎の熱量などはるかに凌駕する大火炎。その燃え盛る拳は触れただけでISの装甲をいともたやすく融解させる。まるで、熱したナイフで切り取られたバターのように。絶対防御? そんなもの、発動した瞬間に蒸発してしまった。

 

こちらの手札は全て効かない……逃げようにも機動力でも負けている……なら、降伏して虜囚としての待遇を交渉すべきか?

 

そう思考を巡らせたところで、

 

 

一条の金色の光が、

 

 

降ってきた。

 

 

『なんだ!?』

 

「なに!?」

 

光はその場全域を包み込み、広範囲に広がっていく。するとどうだろう? 光を浴びた無人機の残骸たちが徐々にパチパチとエネルギーを放出させ帯電しているではないか。

 

「う、動いている?」

 

バラバラになった無人機が動き始める。地を這いずり、宙に浮き、徐々に集まっていく。そららは大きく分けて三つの塊になった。互いに密集し、どんどん密着・圧縮していく。するとどうだろう? 球体になっていくその集合体が別の形を生み出そうとしているではないか。

 

『これは……邪気が来たか!?』

 

「え?」

 

デウスは見た。密集する無人機、そのISコアに刻まれた刻印を。それはトランプのクローバーのマーク。今までの篠ノ之束の行動から、「不思議の国」に存在するトランプ兵をモチーフにしていると想像にたやすいそれが、上下逆に『反転』したのを。

 

その紋章を持つものの名をデウスは、黄金竜は知っている。

 

『近衛騎士団<ゾディロック>か!!!』

 

三つの球体が変貌を遂げる。その内、紋章が現れなかった二つは赤い外殻と大きなハサミを、足は四本の多脚。エビ目の甲殻類、それもロブスターに瓜二つな姿に。その名を知る者はこう呼ぶだろう古代モンスター『L.Oブースター』と。

 

『『ロロロローッ!』』

 

二匹の化け物が産声を上げる。その巨体は全高三メートルに及び、二つのハサミは人間の胴体など簡単意まっぷたつにできる程の大きさがあった。

 

それらが向かってくる。

 

『ぬぅ!?』

 

巨大なエビの突進。それは言葉にする以上の驚異だった。突進され、二つのハサミがデウスを襲う。それを両手で刃の根元、赤い甲殻部分を掴んで抑えるがいかんせん馬力が違った。

 

「あの黄金竜が、押されている!?」

 

正面からの突進を受け止めた竜はその足を大地に陥没させ、軋みをあげていた。先程までの圧倒ぶりが嘘のようだった。

 

これなら勝てる! そう思った。いや、思ってしまったのは勘違いだった。

 

『ロロロローッ!』

 

「え? きゃぁ!!!」

 

ブンッ! と巨大なハサミが自分にも降りかかってきたことをスコールは知った。慌てて躱すがそれで気づいた。

 

自分も狙われている?!

 

「そんな……? 味方じゃないですって!?」

 

ダメ出しで、持っていた無人機のコントローラを使ってみたが効かなかった。完全にこちらの制御を離れてる。いや、そもそも『アレ』はなんなんだろう?

 

完全にこちらの理解の範疇を超えた存在だった。

 

『……ISを依代に、異界の存在を召喚して憑依させたか…ッ! おのれ『    』!!』

 

「貴方……アレを知っているの!!?」

 

『いいや知らん! 初めて見る!!』

 

「えぇ!!?」

 

自信満々に断言しておいて何を言うのか? しかしその言葉には一切迷いがなかった。

 

『だが、何故か知らんが『アレ』がなんなのかの知識だけはある。気味の悪いことになぁっ!』

 

最後の言葉には渾身の力がこもっていた。なんと、膝を織り、大地に突き立てた脚部を更に穿つとその両腕に宿ったあらん限りの腕力を持ってエビの化物が持ち上げられたのだ。

 

『ぬうぅぅん!! どぅりゃあ!!!』

 

それを投げ捨て、もう一匹のエビへと叩きつける。エビの化け物たちは悲鳴を上げ転げまわる。しかしすぐさま起き上がり、そのハサミを開いてこちらに向ける。すると、刃と刃の間にエネルギーの放電現象が見て取れた。

 

あれは、まさか!?

 

『ちぃ! よけろ女! 撃ってくるぞ!』

 

「やっぱり!」

 

慌てて射線上から飛び去る。一瞬の明滅。その後に轟くはビームの轟音だった。

 

ビカァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

ハサミの間から放たれたビームは荷電粒子砲の威力のそれだった。コンテナは融解し、クレーンは根元が消失して倒れた。そして、着弾点である港口の地面には巨大なクレーターが四つ出来た。

 

「こんな、これほどの威力なんて……」

 

『……やるしかないか』

 

デウスは背中の翼に固定していた装備を両腰に移動させマウントさせる。それは真紅の鞘に収められたソード。その二本のソードを両手で掴み抜き放つ。

 

そのソードの名は、

 

『炎 龍 剣 !!』

 

真紅の柄に金色の十字星。刀身は白金の輝きを放つそれが抜かれた瞬間、大気が焼け付いた。刀身から炎が吹き出したのだ。

 

「なんて熱量!?」

 

ISを纏い、スキン・シールドに守られているスコールですらあまりの火炎に熱いと感じていた。完全に『ゴールデン・ドーン』の扱う炎とは桁が違う。

 

『でぃりゃぁぁあああああ!!』

 

正面で刀身をクロスさせ一気に振り抜く。×の字に広がった火炎はエビの化物へと命中し、その身を炎に包んだ。

 

『ロロロローーーーーーッ!!!!!』

 

全身が燃え上がり、甲殻が溶け始める。その激痛に耐えられずその場でじたばたと暴れて身悶えていた。そこへ背部のスラスターを全開にして近づき、炎龍剣を突き立てた。

 

突き立てられらたのは頭部、それも顔にあたる位置だった。全身が赤一色でありながらそこだけ白かった。口と思わしき二本のへの字があり、その一点へとソードを突き刺す。

 

『ギャエェエエエエエエエエエエエエエ!!!!』

 

『燃えつきろ!!』

 

ソードから炎が放出され、『L.Oブースター』の内部から燃やし尽くす。数秒後、炎の噴出が収まった頃にはそこには何も『無かった』。

 

『ロロっ!?』

 

仲間の焼失を見て、もう一匹の化物が逃げ腰になった。両のハサミで顔を隠すように、四脚を縮めて自分を小さくするように、必死に眼前の天敵から隠れようとする。

 

しかし無駄だった。燃えさかる炎が黄金の機体に照り返し、姿を隠そうとする者を見つけ出す。頭部で輝く緑の双眸が向き、狙いをつけた。

 

『ロロロロローーーーーッ!!!』

 

『逃がさんよ』

 

背を向けて逃げ出す『L.Oブースター』をデウスは最大加速で追う。一瞬にして正面に周りこみ、ソードを振るう。

 

『ギョッ!?』

 

『…………失せろ』

 

閃光一線。振り払われたソードの奇跡に沿って火炎がほとばしる。正面から縦に切り裂かれ、火炎に覆われた巨体はそのまま蒸発した。

 

「終わったの?」

 

『いいや、まだだ!!』

 

そう、無人機の残骸の集合体は三つあった。今倒したのはその二つ。

 

残り一つ。それはあの紋章があったISコアのもの。

 

『……オ、……ゴ……ン、……シ……』

 

空中で真っ赤に染まった球体が変貌を続けていた。先程の二体の化け物よりはゆっくりと、しかしその分強力に。それも、デウスが二体の化物を倒していた間に終わっていた。

 

『オウゴンシン!!!』

 

『人型タイプか!』

 

現れたのは真っ赤なボディを持つ人型の機体。しかし頭部には目も鼻も口もない。あるのは正方形の緑色のディスプレイのみ。頭頂部にはサソリの尻尾のような装飾があり、両頬には金色の突起物。右手は巨大なソードと一体型となっておりそれもハサミのように刀身が二つに分かれるようになっていた。左手は円形のシールドと一体化していてその中心にはクローバーを逆さまにした紋章が。背中には紫色のマントを付けていた。

 

『我が名は近衛騎士団<ゾディロック>が一人、スコーピオ!!』

 

「喋った!?」

 

『厄介な相手か!』

 

先程の化け物と違い知性がある。それは戦闘が行えるということ。

 

『我らが神復活の贄となれ! 黄金神!!』

 

『訳が分からん!!』

 

姿を表すや、突如として襲いかかってくる赤い騎士。名はスコーピオ。咄嗟に、炎龍剣を振るい炎をぶつけるが、

 

『きかん!』

 

『なんだと!?』

 

左手の丸いシールドで防がれた。あの、全てを融解させた熱量に耐えたのだ。

 

『今度はこちらから行くぞ!』

 

スコーピオが右手の大剣を振るう。すると、その剣先から真空波が吐き出され、辺り一面を吹き飛ばす。

 

『ぐぅっ!』

 

「きゃぁああああ!!」

 

デウスはそれに耐えることができたがスコールはそうはいかなかった。吹き飛ばされ、宙に投げ飛ばされる。

 

それと同じく、スコーピオから先ほどの金色の光と同じ波動が当たりへと広がっていく。無人機の残骸たちが見せた変異現象と同じ現象がまた起こり始めた。その中には。

 

「きゃぁあああああああああ!!!?」

 

『女!? まさか!』

 

スコール・ミューゼルが悲鳴を上げる。彼女の肉体が変貌を始めたのだ。

 

『まさか、お前!?』

 

「いやっ、なによこれは!?」

 

スコールの腕が、顔が膨れ上がり異形の者となっていく。放っておけば、彼女も先程の化け物たちのようになるのだろう。

 

それを、デウスは良しとしなかった。

 

『おい、来い!』

 

「な、なにを!?」

 

徐々に異形の者に変貌していくスコールという女性はそれでも気丈な姿勢を崩さない。そこにデウスは賭けるだけのものがあると確信した。

 

『俺の中に入れ! あいつの邪気を遮断できるかもしれん!』

 

「……え?」

 

デウスの言っていることを完全に理解できたわけではない。その言葉の意味を飲み込むよりも先に、デウスはスコールの手を強引に掴むと開放した自身の胸部装甲の内部へと彼女を押し込んだ。

 

そして、内包したエネルギーを開放した。

 

『オォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』

 

デウスの全身を黄金の輝きが包む。二本の炎龍剣を鞘に納刀し、真紅の竜の頭部を模した巨大なシールド、光の盾を召喚する。

 

その時、デウスは内部に格納したスコール・ミューゼルという女性の全てを見知った。彼女の特殊な肉体構造がデウスとのリンクを可能とし情報交換が行なわれた結果だった。

 

『スコール・ミューゼル。元アメリカ軍空軍少尉。十二年前、新型戦闘機のテスト飛行中に事故で重傷を負うも、その責任の所在を逃れたい上層部によって存在ごと抹消されサイボーグとされる……了解した』

 

『何をごちゃごちゃと!! 死ねぇい!!!』

 

『でぇえええい!!』

 

スコーピオが右腕の大剣を振り下ろすことで真空波を放つ。それをデウスは盾で受け、背部スラスターを全開にし前進する。盾に降り注ぐ真空波を払いのけ、スコーピオを押しのける。

 

『ぐぉ!』

 

『これで止めだ!』

 

そして、デウスは変身する!

 

真紅の竜を模した光の盾を頭部に装着、両肩のドラゴンショルダーも九十度回転させて前方に向け、両手は椀部に格納し、代わりに三本爪のクローが展開される。

 

そして現れたのは黄金の体に赤い頭部の三首竜。

 

その名も、『超龍皇』!!

 

『GYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!』

 

『!? やはり貴様がぁあああああ!!!』

 

スコーピオが大剣を振るい再び真空波を放とうとするが時すでに遅し。超龍皇と化したその身体は黄金の輝きに包まれ何者も寄せ付けない光の化身となっていた。その黄金竜が突撃する。

 

『ぐああぁああああああああああ!!!』

 

スコーピオを『通過』した光の球はその半身を喰らっていた。体の右半分を失い、もはや回避も攻撃もできぬ体でその敵を見る。そこには、三つの龍の顎を閃かせ、エネルギーの塊をチャージする龍の姿があった。

 

『おのれ、おのれぇえ!! 覇界神さまぁあああああああああああああ!!!!』

 

『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!』

 

ゴォオッ!!!

 

三つの龍の顎から放たれた輝きは放射状に広がり、その範囲内の全てを消し去った。

 

スコーピオは完全に『この世界』からその姿を消したのだ。

 

 

 

 

『はぁっ、はぁっ、はぁっ!!』

 

「私が言うのもおかしな話だけど……貴方、大丈夫?」

 

戦闘が終わり、残されたのは男女二人。デウスの内部から排出され、身体、義肢の変異も収まったスコール・ミューゼルと、黄金竜の姿から戻ったら人間の成人男性の姿になっていたデウスである。

 

『問題ない、少し疲れただけだ』

 

「あぁ、そう。ところで、私たちはこれからどうすればいいのかしらね? 仕切り直して戦う?」

 

『そうしたければ付きやってやらんこともないが、もっと建設的な話をしようか』

 

「ふふっ、いいわ。その方がこちらとしても助かるし。……ところで」

 

『ん?』

 

「………貴方、なんでメイド服なの?」

 

『あ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所を戻して第4アリーナ。ここでは別の場所で起こっていたような化け物が織り成す戦闘ではなく、まっとうなIS同士の戦闘、もとい、一方的な蹂躙が行われていた。

 

「フハハハハ!! どうした? どうしましたこの雑魚共がぁっ!!」

 

「「「あんたどっちの味方だよ!!!」」」

 

まぁ問題なのは、志波真季奈 VS その他のIS操縦者(オータム VS ナターシャ除く)なんだけどね。

 

ISのエネルギーを回復させることに成功した織斑一夏以下その他専用機持ち達は真季奈に加勢しようと戦場に突入したが………したんだけど全部終わってました。

 

だって、無人機は全滅、有人機の内一体はナターシャとバトル中。真季奈が戦っていたBT兵器運用機なんて………この有様だ。

 

「びぇええええええええん!!! もうやだぁ! おウチ帰るーーー! おねぇちゃぁぁん!!!」

 

「あぁもう! いい加減泣き止みなさいよ! 子供じゃあるまいし!!」

 

「言ってやるなよ鈴! 相手はあの真季奈だぞ! 泣かない方がおかしいだろう!!」

 

「一夏! お前そんなこと言ったら!!」

 

「行けよビット!!」

 

「「「ギャァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」

 

「なんで私たちもですのーーーーーー!!!」

 

「完全にとばっちりだよこれーーーーー!!!」

 

「姐さんマジ尊敬しまーーす!!」

 

エムこと『サイレント・ゼフィルス』の操縦者。彼女はもう完全に心が折れていた。何があった? え? 聞いちゃう?

 

それは、

 

 

「落としてやる! 行けビット!!」

 

「は、返り討ちにしてやんよ! 堕ちろカトンボ!!」

 

エムの放った六基の射撃ビットとシールドビット。それに対するは真季奈の十基のソード・ビット。ビット同士の攻防は、単純に操れるビットの数の優劣ではない。互いの空間認識能力の高さが勝敗を決めるのだ。

 

結果だけ見れば、その軍配は真季奈に上がった。射撃ビットの攻撃を全てソード・ビットで受け吸収し、いかなる攻撃も決定打になるどころかハッキングを受けて何度も振り回された。機体が勝手に謎の旋回行動をとり始めるという意味で。

 

そして決め手となったのが、

 

「行けビット! ………? どうしたビット!? なぜ動かん!」

 

「残念! そこはわたしのテリトリーです!」

 

ビット同士が追い追われの攻防を繰り広げる中、もちろん真季奈やエムもフィールドを飛び交っていた。すると、エナジーウイングによるナノマシンの散布も広範囲にわたり、気が付けばエムが自由に活動できる領域がなくなっていた。つまり、ビットが奪われたのである。

 

「!? どうしたビット達! わたしが分からないのか!!」

 

「ざ・ん・ね・ん! さぁ襲いかかれ! ビット達!!」

 

こうして、十六基のビットがエムを襲った。これで彼女の武装はライフルである『星を砕く者(スターブレイカー)』のみ。

 

いや、それも今、無くなった。

 

「くっ!」

 

ビットの射撃でライフルが撃ち抜かれる。皮肉にも、元は自分の物だったビットでだ。しかも今のは偏光制御射撃だ。奪ったモノをもう使いこなすか!

 

こちらに武装はもうない。ならばもうこの場から逃げ惑うのみ。

 

……できるか? いいややるしかない。やるし……か!?

 

ビッ!ビッ!ビッ!ビッ!ビッ!ビッ!ビッ!ビッ!ビッ!ビッ!ビッ!ビッ!ビッ!ビッ!ビッ!ビッ!ビッ!

 

シュバババババババババババババババババババババババババババババ!!!!

 

「で、できるかぁああああああああああああ!!」

 

高速で飛び交うソード・ビットが自分の周囲で旋回し鳥籠を構成する。奪われた射撃ビットはその隙間を刺すようにしてビームを撃ってくる。

 

ありえない精度の射撃だった。高速移動を繰り返し、もはや点ではなく線となった軌道を見せる動きのわずかな空間を狙ってこちらに攻撃してくる? どうしたらそんなことができるんだ!!

 

「うわ!」

 

ビシッ! ソード・ビットの一つが顔のすぐそばを通過する。それが顔を隠すマスクを弾き飛ばし自分の素顔を晒してしまう。

 

「し、しまっ!?」

 

「ん? ん~~~~~?」

 

エムの素顔を見て真季奈は訝しんだ。

 

あれ? どっかで見た顔?

 

「貴方、誰ですか?」

 

それは真季奈がよく知った顔。自分の恩師と瓜二つで少し幼い、そんな顔。

 

「わたしは、わたしは! エムだ!!」

 

「え?! まさかのドM発言!? なんでいま性癖をバラシたんです!?」

 

「違うわーーーーー!!!」

 

「えーー? ワガママな。いい加減怒りますよわたし。ドMちゃん?」

 

「ドM言うなーーーー!!」

 

「じゃぁなんと呼べば?」

 

「い、いや、わたしの名前は」

 

言えない。わたしの正体も名前も目的も。こんなことで知られたらこれから先動きにくくなる! あいつらに復讐だってできなk

 

「皆さーーーーン! この子の名前はドMちゃんですってーーー!! しかも性癖も一緒! 今日ここには皆さんの前で公開ズタボロショーを見せに来たんだそうでーーす!! ワァーオ、チャレンジャー!! さぁ!盛大な握手を!!!」

 

「わー! わー! 織斑マドカ! 織斑マドカが名前だ!!!」

 

涙目で待ったをかけるエムこと織斑マドカ。だが残念遅かった!

 

キャァアアアアアアアアアアアアアアア!!! ガンバレドMちゃーーん!! 負けんなよ! 自分名前に自信を持てよーー! 応援してるぞドM!! ド・エ・ム! ド・エ・ム! ド・エ・ム!

 

「なんなんだこの学園はーーー!!!?」

 

「あなたの理解を超えているのは確かですね。……ところで」

 

「ひう!?」

 

「織斑、マドカちゃんですかー」

 

にやぁぁぁぁぁぁぁ!!!! と不気味な笑みを貼り付けて真季奈が迫る。

 

「じゃぁちょっと、遊 び ま し ょ う か 」

 

「ひぃぃ!!」

 

ここからがまさに地獄だった。

 

 

 

 

 

「オラオラオラ!! 根性見せろよマドカチャンよぉ!! それとも誘ってんのかぁ? えぇ? ORIMURAのMはドMのMってかぁ?」

 

「いやぁぁぁぁ!!! こないで! きちゃやーーーー!!!」

 

「アウトー!! 真季奈アウトーーー!!! やりすぎだからーー!!」

 

「あぁ? 織斑一夏! だったらテメェも仲良く腰振って逃げなぁ!! ドMの織斑ーズはよぉ!!」

 

「「こっちに来たァァァ!!!」」

 

ビットがフィールド内で暴れ周り、それから逃げ惑う死屍累々の代表候補生たち。すでにセシリアや鈴は撃墜された。箒やラウラ、シャルロットは狙われないよう必死に身を隠している。『アラクネ』の操縦者、オータムと『銀の福音』の操縦者ナターシャは今も愛だの恋いだの独身だのと叫びながら戦いを繰り広げ、逃げ惑う織斑の性を持つ二人は……やっぱり必死に逃げていた。

 

「頑張れよ織斑一夏ぁ!? こういう時のために中学時代にテロリスト無双大☆活☆躍! な妄想を毎日してたんだろう!!」

 

「ぷっ!」

 

「今なんでそれ言った!? 必要ないよねぇ!! ていうかなんで知ってるんですかぁ!!?」

 

アイタタタタタタ!!!!

 

「やめてぇ! そんな生暖かい目で見ないでぇ!!!」

 

「やーい! 観客に痛い目で見られてやんのー!」

 

「お前も敵か!! あ、敵だよ!! そもそもなんなのお前!? その顔に織斑って、何者だよ!!」

 

「うううううるさい!! お前が全部悪いんだー!!」

 

「だから何が!?」

 

織斑一夏と織斑マドカ。いろんな因縁とか複雑な事情とかがありそうな二人だったが……色々と残念だった。うん。

 

「楽しそうですねぇ? わたしは仲間外れですか?」

 

「「ひぃぃぃぃぃ!!!」」

 

そんな二人を常につきまとっていたぶる悪魔の姿。おいコラ、主人公。

 

「ムッと来たので罰ゲーム! ハイ! 会場の皆さんの前でチューチュートレインダンス!!!」

 

「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!! 機体が勝手にぃいいいいいいいいいい!!???」」

 

 

『さて皆さん! 「裏切りの鬼ヶ島! 鬼姫 VS 桃太郎と鬼の反乱軍!!」。結果は見てのとおり鬼姫の勝利でした!! これにて観劇は終了となります!! ありがとうございました!! 足元にお気を付けてお帰りくださーーい!!!』

 

高らかな生徒会長による閉会の合図が第4アリーナに放送される。

 

これにて、生徒会主催の観劇? は終了した。

 

「「「内容が酷すぎるわーーーーーーーーー!!!!!」」」

 

 

※苦情は文化祭運営委員会までお願いします。

 

 

 

 

 

 

久々の復讐!! : アリーナの中心でダンシング!!

 

   結果   : 会場中の笑いものにしてやりました。

 

   備考   : なんかオマケがいるよ?

 

 




はいすみません。シリアス? 持ちませんでした。

真季奈、完全復活です。うん酷い。

『暮桜 天』はアマツと呼びます。面倒だし。気づいている方もいらっしゃると思いますが、元ネタの機体はガンダムSEED ASTRY に登場するゴールドフレーム天ミナだったりします。「天」、「エネルギー奪う」、「なんか偉そう」という条件で考えてたらこうなりました。

デウスというか黄金竜というか、スペドラ様。戦闘シーンがほとんど存在しない方ですので結構作者の妄想入った戦いとなりました。へんなところがあったらご指摘ください。

今回登場したナイトガンダムの敵キャラ。

L.Oブースター。その名の通りロブスター。信じられるか? こいつ、元はガンダムなんだぜ?

スコーピオ。カードダス見てね。ガンダムW外伝では変形までしてたロマンあふれるサソリ。


次回で文化祭も終わり、ギャグが復活です!ようやくギャグ枯渇禁断症状ともおさらばです!

それではまた!
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