特訓をしよう。
しかし問題が一つあった。それは、
『時間が足りねぇ』
デウスは今後の予定から逆算して考えている。
キャノンボール・ファストの開催日。オータム達と出張。戦闘準備。IS強化後の慣熟訓練。ISの強化。今がここだ。
ISの強化でつまづいている………あと一週間程しかないのに……。
デウスが渡した『お土産』を使ったISの強化。その具合はというと……芳しくはなかった。
訓練の参加者は五人。
更識楯無。更識簪。凰鈴音。セシリア・オルコット。ラウラ・ボーデヴィッヒだ。
デウスは彼女らを昨日の放課後にフルボッコ、もとい、鍛えた。しかし、誰一人としてIS強化には至らなかった。
このままでは間に合わない、かもしれない
『どうにか時間を作れんかなぁ? 一夏の時は三日ちょっとで終わったのになぁ』
デウスが織斑一夏に渡した『エクスワイバリオン』という黄金の翼竜。アレも大まかな分類でくくればあの『お土産』と同種のものだ。
では、織斑一夏にできたことが彼女たちにできない理由は?
やはり彼がIS操縦者として未熟だったからだろうか? だからこそ、機械のような、生物のような曖昧な『追加装備』を違和感なく受け入れ適合してみせた。
しかし彼女達はもはやルーキーではない。プロだ。渡されたものが『IS用装備』と言われればそう受け止めてしまい、そこで思考は止まる。そして使いこなそうとするだろう。
『あ、じゃぁ初めっから間違えてたのか……じゃぁその辺から教育し直して……ってそんな暇ねぇよッ!』
アレは『神器』。黄金神の中にあった力の欠片をこの世界の神秘と混ぜ合わせて造ったもの。それに込められている神秘を引き出すのは所有者の想いの力。
IS風に言うならば『
『なんにせよ、今欲しいのは時間だ……なんかないかなー? 短い時間で特訓が終わるような方法……ないかー。いっそ時間が伸びてくれればなぁ』
そんな都合のいい方法など……。
『……あっ。あるわ』
なんですと?
昨日の特訓以来、何かがおかしい。
更識楯無は朝のHRを受けながらそう感じていた。
何かとは、自分の専用機『ミステリアス・レイディ』のことだ。
自分の席に座ったまま、両手の人差し指を少し離した距離で合わせてみる。
すると、
バチバチバチッ!
「………(放電、よねぇ? これ)」
彼女は電気を発せられるようになっていた。なんで?
例えば、だ。
彼女のISは『アクア・クリスタル』というパーツからナノマシンで構成された水を媒介に装甲を造り、それを用いて様々な攻撃を行うことができる。
『
そして、霧状になった水の集合体が雲のような役割をし、内部で放電するナノマシンが静電気を溜めて溜めて溜め続けて……それが溢れれば、それはもう雷なのではないだろうか?
水を操る『ミステリアス・レイディ』に雷属性が付与された。つまりはそういうことだろうか?
考えられる原因は、やはりデウスに渡された『雷龍剣』。名前に『サンダー』と付く時点で確定だろう。アレが『アクア・クリスタル』と干渉、もしくは融合した結果だとしたら……?
「……はぁ。これは、デウス君に詳しい話を聞かなきゃね……」
そう結論づけたところで、
『よぉ』
トラブルはのこのことやってくる。
「今、授業中なんだけど?」
『朝のSHRは授業と言わんだろう。ま、どのみち今日は早退してもらうが』
教室に、足の爪をカシャカシャと床で鳴らしながら入ってきた一匹の黒い柴犬。ご存じ、デウスという中身が機械と竜が詰まった犬が自分の席の近くにまで歩いてきた。
「早退? お姉さんをお持ち帰りなんて、デウス君のスケベー」
『お前だけじゃないわアホ。それと、時間がない。この意味がわかるな?』
私だけじゃないということは他の専用機持ち、それもデウス君にあの『お土産』を渡された子達も呼び出されているということ。
そして、時間がない。これは『キャノンボール・ファスト』まで、いいえ。それに備える準備期間そのものが、もうそれ程ないということ、か。
「……わかったわ。ついて行くわよ」
『すまんな、とは言わんよ。お前は学園『最強』の生徒会長だからな』
生意気ね。そんなこと言われたら断ることなんてできないじゃない。
だって私は、学園の『
教師に早退する旨を告げ、デウス君に連れてこられたのは第4アリーナだった。ここは先日のデウス君と真季奈ちゃんの私闘により半壊し、現在封鎖中の場所だ。
「ここだとフィールドバリアが使えないじゃない」
『必要ない。もっといいものがる』
デウス君が自信満々にそう言うので、大人しく後に続く。
中に入ると、フィールドに三つの大きな花がつぼみをつけていた。
…………え? なによこれ?
見た目で一番近いのはチューリップの花だろうか? しかしそれは機械でできた鋼鉄の花だった。それも花弁だけで茎も葉もない。金のフレームに赤いパーツで形作られた鋼鉄のチューリップ。
これで何をするというの?
『お前にはこれに入って貰う。で、特訓が終わるまで出ることは許さん』
「この中で特訓って……それは」
無理だろう。
このチューリップの大きさは、直系十メートル程、高さは二十メートル位だ。この中でISを動かすなど狭くてしょうがない。
『大丈夫だ。あの中は異空間になっていて、内部の広さは無限にある』
「……えぇー?」
あれ、なんか………これは、
『更に時間の流れも狂っていてな。こちらでの一時間が、内部では一日になる。今日一日籠ってれば、二週間くらい特訓できるぞやったね!』
あかん。これ、ヤバイ奴だわ!!
「そ、そういえば私、生徒会の仕事が残ってたんだった!! それじゃッ!」
『逃がすかぁ!!』
背を向けて走り出す楯無の肩を、にょんっ! と伸ばした前足で掴み拘束するデウス。
更識楯無に逃げ場なし!!
「きゃーーッ! いやーーー!! 離して人さらいーーー!!!」
『フハハハハッ!! 観念せいやぁっ!!』
伸びた前足が楯無に絡みつく。捕獲された楯無はそのままデウスと一緒にチューリップの中へと入っていった。
ちなみに、鋼鉄のチューリップの名は『ブッド・キャリアー』という。
それと、他の二つには。
「り、鈴さん! 気をしっかり!」
「セシリア! だって、だって上も下も右も左もわかんないのよ!?」
鈴とセシリアが。
「補給のない戦いか……厳しいな」
「アニメが見れない……帰りたい」
ラウラと簪が。
それぞれが既に特訓中だった。
彼女らは一体、あと(内部時間で)何日で帰って来れるのだろうか?
一方その頃。
生徒指導室にて。
「……で?」
「志波真季奈の部屋で何をしていた?」
「な、長いこと部屋を開けるみたいなんで掃除でもと……」
織斑一夏が篠ノ之箒、織斑マドカの風紀委員二名に尋問という名の拷問を受けていた。
ちなみに石抱きの刑である。
「だったらポケットに入っていたこの女物のパンツはなんだッ!?」
「貴様とうとう下着ドロにまで落ちたかこの変態がぁッ!!!」
「違うんです! アレは千冬姉ぇので!」
「どっからどう見てもサイズが違うわボケェッ!!!」
「ねぇさんの下着を盗んでいたらそれはそれで極刑だゴラァ!!」
足に乗せる石を追加する。
「ぎゃぁあああああああああああああああああ!!!」
こっちはこっちで死闘だった。
強くなれ! いろんな意味で!!
で、フランスでは。
「……あー……米食いてぇ………」
「真季奈……頑張って!」
デュノア社の社長室で書類の山に埋もれながら、志波真季奈は判子とサインの毎日を送っていた。
彼女もキャノンボール・ファストには出場する予定なので、帰りも考えると納期は三日の予定である。
「でもそうだね。明日の朝食は日本食を用意するよ」
真季奈の傍で、秘書のような役割をしているシャルロットが言う。深夜一時ごろ。時差があるので、日本では朝だがパリでは深夜である。
「うーん、そういえばなんですけどぉ」
「ん? なに?」
真季奈が書類にサインをする手を止めてシャルロットを見た。シャルロットは仕事の手を止めてまで話そうとする真季奈の言葉を聞き漏らすまいと耳を傾けて、
「なんか、お兄さんに食事に誘われたんですけど?」
「ファッ!?」
自分の耳を疑った。何してやがるあのバカ兄貴。
「まぁ、わたしも多忙ですから、食事時位しか打ち合わせもできないですし……流石、仕事人は時間の使い方が違いますねぇ」
「(違うよ真季奈! それ多分ただの下心!!!)」
兄の別の思惑に、全く気づいてない真季奈にシャルロットは戦慄する。
「じゃ、じゃぁ真季奈。明日は兄さんとご飯食べるの……?」
「? はい。ちょうど我が社の商品のプロモーションの打ち合わせもしたかったですし」
「じゃぁ僕も行くよ! 僕、テストパイロットだし!!!」
「え、あ、はい。勿論お願いします」
こっちはこっちで、気の抜けない戦いが沸き起こっていた。
ブッド・キャリアー。
いわゆる精神と時の部屋。当時、ちょうどDBが流行ってたからなぁ。
『黄金神話』に登場。元ネタはGガンダムのネオジャパンコロニーのガンダム郵送ポッド。
書いている内容は同じなのに文章が全く違うんですよね。ある意味消えた文章は幻のボツ回ですハイ。
ギャグも消えた。更識楯無の命綱なしの空中ランデブーも、織斑千冬や山田真耶の出番も消えた。書き直すと何故か消えるネタ。そして新たに生まれるネタ。
特に一夏、ゴメン。
君の拷問は消えた文章には無かったんだ。気づいたら自然と拷問してた。後悔はない。
それでは次回でまたお会いしましょう!