志波真季奈が布団で寝静まった頃。他二人の同居者はまだ起きていた。
「なぁ一夏。今日は真季奈とずっと一緒だったようだが、そ、そのどう思った?」
「どうって?」
どうって、なんて答えたが正直思うところはいくらでもある。
いきなり睨まれたり罵倒されたり、正直怖かった。そう思ったら今度はすっごく面倒見が良くてずいぶんと助けられた。……だ、抱きつかれたのはど、ドキドキしたが、って何考えてんだ俺!!?
「一夏?」
「え!? いやなんでもないぞ! なんでも!」
「そ、そうか」
あ、あぶねぇ。何考えてんだ俺は。これじゃぁ本当に変態じゃねぇか!?
「多分、根はすごくいいやつなんだと思うよ。ちょっと不器用なだけなんじゃないかな?」
「それは、……わたしも思った。人との接し方に慣れてないような、昔の自分を見ているようだった」
そういや箒も小学校のころは不器用でクラスでも浮いていたっけ。
「仲良くなれたらいいよな」
「あぁ、そうだな」
そこで会話を切り上げて俺たちは寝ることにした。先に就寝していた志波さんを起こさないよう静かに。
「うぁーーーー?」
なんか柔らかい感触が。
「ん、うう……」
おお、目の前にあるのはまごうことなきオパーイ枕。いつの間にか箒ちゃんに抱きついて眠っていたようです。
「デウス、今何時ー?」
『早朝五時といったところだな。二度寝するか?』
「んにゃ、オパーイ枕で目が覚めちゃった。もう起きるよ」
『そうか』
とりあえず箒ちゃんを起こさないように布団から抜け出します。顔でも洗いに行きましょうか。
ベッドから降りて敷居板を抜けると、反対側のベッドに眠る織斑一夏を発見しました。まぁ当たり前ですね。同じ部屋なのですから。
「…………」
足音を立てずに織斑一夏のベッドに忍び寄ります。顔の近くで座り込んで観察とします。首までしっかりと布団を被っておりとっさの身動きは取れなさそうですね。
「間抜けづら」
ほっぺをプニプニしても耳を引っ張っても起きる気配はありません。なんと油断し切った生物なのでしょう。やはり虫けら以下か。
とりあえず間抜けづらを何枚か撮っておいて保存しておきます。額に肉とでも書いてやりたいところですが初日からやるのは流石に空気読めてないみたいなのでやめときましょう。
……やるのなら模擬戦当日がいいですね。
さて、早く起きたにしてもすることがないのも面倒ですね。
織斑一夏の私物も少なすぎてコレクション性にかけますし、どうしましょう?
そういえば織斑先生は一年生寮の寮長だそうな。確か宿直室にいるはずですね。
「ふむ、ちょっと保護者に甘えに行っても罰はあたりませんよね?」
『真季奈? ひょっとして寝ぼけてるんじゃないのか? 真季奈~~! おーーい!?』
デウスの声が聞こえるようですが多分気のせいですね。
「……織斑先生」
「こんな朝早くにどうした真季奈?」
ごめんなさい。甘えに来ました。
ふらふらとした足取りで織斑先生に近づいてそのまま抱きつきます。先生も慣れたもので、戸惑うことなくそのままわたしの頭を撫でてくれます。
日本政府に訓練施設に送り込まれたばかりの頃、わたしは家族に会えない寂しさと不安でいつも泣いていました。それで訓練に身が入ってないと思われると家族の安全がどうなるか怖くていつも怯えてました。
だからわたしは誰にも見つからないよう一人でこっそり泣いていました。……織斑先生に見つかるまでは。
それからというもの、訓練以外のプライベートな時間では先生はわたしのお姉さんのような人になりました。それに甘えて辛いときはいつも弱音を吐かせてもらってます。我ながら情けないですね。
「先生~、わたし……」
「真季奈?」
「……先生、なんですかこの部屋は?」
「な、なんだ?」
抱きついたまま織斑先生の顔を見ようと上を向いた時に視界にはいった『それ』。
それはもう見事な汚部屋でした。一瞬で頭が覚醒しましたよ。眠気? なにそれ。
「片付けますよ? 十分以内!!」
「りょ、了解!!」
きっかり十分後、織斑先生の部屋はどうにか人類の生活できる環境というものを取り戻しました。……つまりここで生活していた織斑先生は人類の枠を超えた存在だったと? 何か納得。
「先生が家事できないのはなんとなく思っていましたがここまでだったとは……」
「す、すまん。ところで真季奈、こんな朝早くにどうしたんだ一体?」
おっとそうでした。実は寝ぼけてただけなんですが一応用はあったのですよ。
「あの部屋割りはなんの嫌がらせでしょうかね?」
「正直すまないと思っている」
その言いよう、織斑先生が決めたわけではなさそうですね。
「政府の決定ですね。 ならわたしの役目は二人の護衛ですか? それとも監視ですか?」
「両方だ。お前には一夏の護衛と篠ノ之の監視をしてもらうことになった」
「嫌だと言ったら?」
御免こうむりますね。何が楽しくて復讐対象を。
「どうもしないさ。デウスを取り上げるようなこともないし、代表候補生を止めさせられることもない。ただ、日本政府も何もしないがな」
「なにかあったら全部わたしの責任と?」
「……あいつらはお前に新しい首輪を付けたがってるのさ。胸糞の悪いことにな」
あぁ、前の首輪(両親)がいなくなったから、か。本当、胸糞悪い。
「わかりました。今はとりあえず従っておきましょう」
「今は?」
「はい。首輪をつけられてるのはどちらなのか、後で嫌というほど思い知らせてやりますので」
アハハ、馬鹿な奴ら。自分たちがとっくに虎の尾も龍の逆鱗も踏んだり触ったりしていることにまるで気づいていない。
お前らはわたしを舐めすぎだ。
(というわけでデウス。日本政府の高官たちのIS関係に関する汚職と、海外にバレちゃまずいこととか全部まとめておくよ。相手の方がゴマすってくるくらいエグイ奴)
(『了解した。全員逮捕されるか、日本経済が傾くレベルの情報でいいのだな?』)
(ついでにもっと色もつけようか?)
(『うちのご主人様は鬼畜だな』)
(ありがと)
わたしがお前たちに何もしていないと本気で思っているのか? 『あの日』からすでに世界中のコンピュータに情報収集型のウィルスをバラ撒いているんだ。お前らの行動は全て逐一記録している。
「何を考えているんだ真季奈?」
「問題ありません。ノープログレムです。ところで来週の模擬戦のことですが」
「なんだ?」
露骨に話をそらしたのですがあっさり乗っかってくれます。そういところ好きですよ先生。
「わたしのISの出力を四割減にしようと思います。舐めプです。全開だと素人の織斑一夏の命に関わりますし、それ以上落とすと『ブルー・ティアーズ』に遅れをとりますから」
「織斑はともかく、セシリア相手にそれでいいのか?」
「かまいません。こんなお遊び、勝ち負けとかはどうでもいいので。ビットの動きをデータ取りできれば十分ですよ」
そうか、と織斑先生はため息を付きながら肩を落としています。先生がそんな気を遣うことはないのですよ?
「真季奈はその、一夏に対してずいぶんと気を使ってくれるんだな」
「なんですか藪から棒に?」
「いや、お前は一夏のことをそうとう恨んでいただろ? だが、昨日はずいぶんとあいつの世話をかって出てくれてたからさ」
あぁ、そのことですか。
「わたしは織斑一夏を殺したいほど恨んでますよ? でもそれはやらないと決めてるんです。せいぜい八つ当たりで嫌がらせぐらいはやらせてもらいますが」
「どういうことだ?」
だって。
「織斑一夏の命はわたしの両親の犠牲によってあるんです。もし織斑一夏が誰かに殺されたりしたらパパとママの死はなんの意味もなくなるじゃないですか。そんなのはゴメンです」
「そう、か」
「はいそうです。ですので織斑一夏の人生は、一生わたしが監視させていただきます。どこぞで野垂れ死にされても困りますので」
「ん?」
「はい?」
なんでしょう? 織斑先生がとても愉快な顔で固まっていますが?
「真季奈、ちょっとデウスを借りていいか?」
「はぁ……? いいですけど」
待機状態のISを『デウス』にして織斑先生に渡します。うん、黒柴と織斑先生って何か似合いますね。
(おい、デウス。真季奈は自分が何を言っているのかちゃんと理解しているのかアレ?)
(『わからん。だがこのままだと真季奈の人生は織斑一夏に捧げしまうことになりかねん。どうにかできんか?』)
(どうにかって、どうするんだこれ!?)
「どうしたんです?」
「『いや別に!?』」
むう、二人でコソコソと何を話しているんでしょう。いつのまに仲良くなったのか、ちょっと妬けますね。
「あ、そうそう。それとベッドの件なんですが……」
その後はもうそのまま食堂でご飯を食べて部屋に戻りました。格好? パジャマのままでしたが何か?
さぁ今日もこれから授業です。
寝てる人にイタズラしたことはありませんか?
僕はケツソバットならあります(笑)