書きたいけど本編に関係ないギャグが多くて。
たまにこっちでもシリアスも書きます。
それでは。
更識楯無の転落人生
私が志波真季菜と出会ったのは十四歳の時だ。
更識家は何代も続く対暗部用暗部の一族。私はその次期党首として育てられた。その為の訓練、修行ともいうが、それは筆舌に値する内容だった。
それが始まったのは多分四歳くらいの頃。かぞえる程しかいなかった友達が習っていたお稽古とはあまりにもかけ離れた内容のそれを、幼心にどう疑問に感じろというのか。
それに気づいて親に文句でも言ってやろうかという年頃にはすでに立派な次期党首という肩書が出来上がっていた。
つまるところ、私には才能があったらしい。
もちろん努力もした。努力などと言うには呆れるほどの地獄を見ることになったが。
七歳の時、私の『お稽古』にある転機が訪れた。
『白騎士事件』が起きたのだ。
更識家の情報網すらかいくぐり、全世界の日本を射程内に捉えられるミサイル基地をハッキングし、二千三百四十一発以上ものミサイルが発射されたのだ。
そこからが恐ろしかった。
世界中がミサイルの目標が日本だとわかるまでの五分の間に何度『世界大戦』という言葉が脳裏をよぎったことか。
結果的に戦争は起きなかった。代わりに社会常識に革命が起きたが。
日本に向けられたミサイルの半数を阻止した存在、『白騎士』が現れたからだ。
『白騎士』は圧倒的だった。人型の姿で自在に空を飛び、ミサイルを薙ぎ払い、自らを捕えようとする各国の追撃から逃げ切って見せた。
その『白騎士』。彼女が纏っていた装備があの若き天才科学者と名の知れ始めた篠乃ノ博士により開発されたインフィニット・ストラトス……通称『IS』だと公表されたとき私達はやられた、そう思った。
全ては篠乃ノ博士の自作自演、茶番だったのだ。世界中の軍事施設に同時にハッキング? 都合よくそれを防ぐ為に現れた『白騎士』? そんなものはISの絶対的性能を世界に知らしめる為のプロパガンダに過ぎなかった。
そういう経緯もあってか、当然のごとくISは最強の『兵器』として世界に受け入れられた。
故に、私の『お稽古』の必修科目にも組み込まれることとなった。しかし、いくら国家公認の対暗部用暗部である更識の家とはいえ国家規模での保有数に限りのあるISコアを独占所有することなどできず、ISを使用した訓練を行うことは容易ではなかった。
それで、結局は当時の代表候補生達に混ざって訓練できるようになった。
ある条件付きで。
それが、
「ひきこもり少女との合同IS訓練?」
なにそれ?
そのひきこもり少女というのが、志波真季奈だった。
で、政府が指定した施設に来たわけだけど。
「想像以上に酷いところね」
数少ない貴重なISを使わせて貰う以上、あまり大きな声で文句は言えないけど。それにしても、ね?
外界から完全に隔離された政府の息のかかった訓練施設、というだけならいいのだけど。その内部にも警備という名の監視が充満していた。
案内され、通路を進めば決して短くない等間隔での距離に配置された警備員。窓という窓には格子がされ、扉を開けるには常に鍵を携帯した門番の許可が必要。
ここ、訓練施設じゃなくて牢獄なんじゃないの? 志波真季奈って女の子はひきこもっているんじゃなくて閉じ込められているんでしょこれ。
志波真季奈という少女についてはすでに更識の力で調べてある。というよりも、『ある意味』で有名な少女だった。
幼き天才として有名な少女だ。もちろんテレビなどのマスメディアに現れたことは一度もない。だけど、彼女が非公式で発表した論文はいくつも評価され、彼女に博士号を授与される話しもあったらしい。
しかし、その当の本人が決して前に出てこないことでも有名であった。一部の話では、そんな天才少女は実際は存在しておらず、『彼女』はどこかの研究チームが創りだした架空の人物なのでは? と囁かれたほどだ。
でも彼女はここにいた。
なんともあっさりしたことに、学校でのIS適正検査でその才能を見いだされて政府の目にとまったらしい。
それからずっとここにいるらしい。十二、三歳の少女が。
「ここです」
「え、ここ?」
案内され、行き付いた一室。何の変哲もない、普通の部屋の前だった。まぁ、もちろん特殊な鍵で扉は施錠されているけど。
案内人の男性が暗証番号を入力する機械の付いた扉に十二桁の番号を打ち込み、すぐさまカードキーをスロットに通していた。なんでも、暗証番号を入力後五秒以内にカードをスロットに通さなければ暗証番号が自動で書き換わってしまうらしい。もしもそうなると、また来た道を引き返して更新された暗証番号を確認しなければならないという厳重ぶり。
勘弁してほしい。何気にこの部屋の前まで来るのに一時間近く歩いている。無事に開いてよかったわ。
「それではまた一時間後に迎えに来ます。ISの訓練はその時に」
「は、はい……え、ちょっ?」
扉を開けられ、促されるままに部屋の中へ入った私へと告げられた言葉。その意味を理解した時にはもう背にしていた扉は閉められていた。
扉を見る。驚いたことにドアノブが無かった。つまり、この部屋は中から出られないのだ。開けられないから。
「だからこれ閉じ込めてるんでしょう! ひきこもっているんじゃなくて!!」
「ひぃ!?」
ここに閉じ込められているであろう少女の境遇を思ってつい声を荒げて叫んでしまった。それに答えた声、いいや、怯えが聞こえた。
部屋の中を改めて見渡す。広い部屋だった。学校の教室くらいある。そこにベッドがあった。机があった。テレビがあった。冷蔵庫があった。部屋の奥に扉があったので、恐らくトイレやお風呂があるのだろう。
だけど、少女は、部屋の隅にいた。
広い部屋の隅に小さなノートパソコンを置いて、壁に向かいながら床に座り込んでいた。
「え、えっと、志波……真季奈ちゃん、よね?」
そこにいたのは金髪の貞子だった。うん、そうとしか表現のしようがない。膝下まで伸びた金髪は顔も背中も覆い隠し、サイズの合っていない大きな白いシャツをワンピースのように着ている。
というかアレ、ちゃんと下着着ているのかしら? シャツの上から下着のラインが見えないんだけど?
「だ、だれですか……また新しい先生ですか!? 帰ってください! 出て行ってください!!」
「ごめん。それ無理。知ってるでしょ? 迎えの人が開けてくれないと部屋から出れないから」
私だっていつ出れるかなんてわからない。一時間後って言ってたけど、そもそも私がここに来たのだってこの子をこの部屋から出すためだし……あれ?
「帰ってください! 帰ってください! お願いだから出て行ってーーーーー!!」
そう叫びながら辺りの物を手当たりしだい投げてくる。まぁ当たらないけど、避けるし。
「真季奈ちゃんはここから出たくないの?」
「当たり前です! 訓練なんてまっぴらごめんです!! もう家に帰して!! パパとママに会わせてよーーーー!!」
叫ぶ声に嗚咽が混じり始め、目には涙が溜まっていた。
そう、これが理由。
なんのことはない。要するにただをこねているのよ、この子は。だってまだ子供なんだもの。親に甘えたいだけの女の子。だから我儘を言って周りを困らせてひきこもっている。
でもそれは無理な話だ。少なくともこの国の事情では。
この子は『世界最強』、『ブリュンヒルデ』。最強のIS操縦者と称えられた織斑千冬の後釜として育てられなくてはならないのだ。
この国は、日本はISによって生み出された様々な『甘い汁』によって舌を肥やしすぎた。『インフィニット・ストラトス』という最強兵器を生み出した国ということで世界中からの注目を浴び、IS学園という巨大なIS専用の学び舎を造り、各国の才能ある若者を集め、教育し、また世界に送り返す。そして産業、経済、法律、ありとあらゆる社会を構成する事象をISを中心として動いている世界ではどの国よりも発言力が大きい。
なにせ、IS開発者である篠乃ノ束を保有しているのだ。その技術力、各国は頭を垂れてでもあやかりたいのだ。
そこに来て、追い打ちとばかりに打ち立てられた『第一回モンド・グロッソ』というISの世界大会優勝という栄光。
まさに時代は、世界は今、日本を中心として回っていると言ってもいい。
その栄光の時代を終わらせたくないのだ。この国の政治家どもは。
なのに、篠乃ノ束は最近では研究に非協力的らしい。織斑千冬も引退を考えているらしい。
それはまずい。非常にまずい。特に今の状況では。IS分野の切り札が同時にいなくなってしまう。
それを解決できるのが『志波真季奈』なのよ。
彼女は篠乃ノ束に匹敵する頭脳を持っている。彼女は織斑千冬並みのIS適正がある。しかもまだ十代だ。育てない理由がどこにある?
『頭脳』は何時いなくなるか分かったものじゃない。『最強』はもっても次の世界大会までだろう。
だから逃がさない。例え閉じ込めてでも。両親から引きはがして泣き叫んでいたとしても。
不憫な子だ。ある意味、私以上に。
私だって自分の生まれを呪ったことはある。でも、素直に受け入れることはできた。選ぶ権利は与えられていたから。もしも本気で家業が嫌だと叫べば周りの大人たちは別の者を次期党首に立てただろう。それは有能な部下だったかもしれないし、私の婿養子として更識家に入った誰かだったかもしれない。
最も最悪なケースは、妹の更識簪ちゃんを次期党首に育て上げられること。
あの子はこの仕事には向いていない。
才能はある。然るべき教育をし、実践を積めば立派な更識の後継者になれるだろう。
でも、あの子は優しすぎるし、自分から前に出るような性格じゃない。でもそうさせてしまったのは私だ。私と比較されて育った妹は劣等感を募らせてそうなってしまった。多分、私のことを恨んでいるだろう。
そういえば、この目の前にる少女は妹と同い年だ。どことなく似ているかもしれない。……虚ろな目とか。
「ねぇ真季奈ちゃん? 私のこと、お姉ちゃんって呼んでみない?」
「何でですか!?」
あれ? 言われてみればなんでかしら? この子が簪ちゃんとダブって見えたから? そういえば最近、簪ちゃんからお姉ちゃんって呼ばれるどころかまともに会話もできてないような……。
「それは、その……真季奈ちゃん見てると妹を思い出すというか……そうね、年頃の女の子に『お姉ちゃん』って呼ばれたいからよ!」
うん、これだ!
「………………………………………………変質者?」
あ、あれ?
「ち、近づかないでください!!!」
やばっ、やっちゃった!?
「ご、ごめん今のなし!! 今のはその、妹に似ている子が可愛いって意味で」
「!? そ、そうやって年頃の女の子を襲うんですね!? いやぁあああああああ!!! 変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!変態!!!!」
「あなたもうそれ被蓋妄想の域よね!?」
結局、迎えの者が部屋の扉を開けて現れるまでこの誤解を解くことに時間を費やしてしまった。この為、真季奈ちゃんのひきこもりも当然解消されることなく、この後の合同訓練も行われることはなかった。
さらに恐ろしいことに、私が変態だという誤解を解くことができなかったのよ!!!
………明日からどうしよう。
さて、どうしよう?
更識家の自室で真季奈ちゃんへの傾向と対策を考えているんだけど、流石にこれにはお手上げだ。だってこんな事態を想定した訓練なんて受けてないもん!!
でもこのままじゃまずい。だって政府が指定してきたのは『合同訓練』だ。真季奈ちゃんが一緒じゃないとISに触ることもできない。
「ねー虚ちゃん。どうしたらいいかなー?」
自分のそばで紅茶を入れてくれている幼馴染で代々我が家に仕えてくれている布仏家の長女、虚ちゃんに尋ねる。ちなみに彼女はメガネと大きなオパーイが特徴的だ。彼女の妹である本音ちゃんもなかなかのオパーイを持っており、布仏家の遺伝子は大変優秀なようである、いろんな意味で。
「私に聞かれましても。私だってまだ十五の小娘ですよ?」
まぁ確かにこれは子供の扱う事案じゃないような気も……だって育児相談みたいなものだし。
「でも虚ちゃんから溢れるお母さんオーラなら」
「……それは暗に私が老けていると?」
「ごめんなさい失言でした」
危ない危ない。虚ちゃんに年齢ネタはタブーだった。そういえば一昨年も本音ちゃんと一緒だった所を『元気なお嬢さんですね』なんて言われて落ち込んでたっけ。いや、怒ってたんだっけ?
「いっそのこと、更識家が持つ自由国籍の権利を使って他国でISの訓練をしては? ロシアから代表候補生の誘いもあるのでしょう?」
「それはダメ」
「何故です?」
確かに他国からの誘いもある。私のIS適正の高さと自由国籍という権利がある以上勧誘も引く手数多だし、こちらからも選び放題。
でも。
「いい虚ちゃん? 私は既に日本政府から条件付きとはいえISの使用許可と訓練指導の認可を貰っているの。しかもこちらからの要望でね。だからこそ、条件が難しいから余所を当たります、なんて国の暗部を受け持つ者が見せていい姿勢じゃないわ。そんな不義理な相手、信用もできないし背中も預けられない。最悪、更識の権威にも関わるわ」
「なら、やはり真季奈さんを攻略するしかないと?」
「そう。……でもあれを、かー。攻略、攻略ねー? ねぇ虚ちゃん。ギャルゲーでも買って勉強してみる? ひきこもり被蓋妄想キャラを落とせるやつ」
「何萌えジャンルのゲームですかそれ。というかギャルゲーって……お嬢様、まさか本当に……」
「違う違う。真季奈ちゃんがやってたPCゲームよ」
「……意外ですね。ちなみにどんな?」
「筆舌に堪えぬ十八禁ゲー。画面がモザイクでいっぱいになるレベル」
「……oh」
うん、あれにはびっくりした。視界の端に映ったときに自分の目が壊れたかと思ったもの。つまりあの子は、重度の………いやよそう。考えるのが怖い。
「あー、なんか予想以上の難物よね彼女。どこかに参考になりそうなモデルケースとかいないかしら?」
「………お嬢様」
「ううー、いないかなー?」
「ですからお嬢様?」
「いっそ児童書でも読む?」
「お嬢様っ!! いい加減目を逸らすのは止めましょうね!?」
……………………………………………………………………ダメ?
「被蓋妄想が激しくて、関係性が気まずくて、そういう趣味があって、なによりも! 妹キャラな人物ならこの屋敷にいるでしょう!!」
「………本音ちゃん?」
「簪様です!!」
うん、わかってるわよ!! 私の愛しの妹、簪ちゃんならピッタリでしょうよ!! 真季奈ちゃん対策の練習台に!
でもそういうこと目的に簪ちゃんと接するのは………抵抗あるなぁ。
「お嬢様、ただ普通に姉妹として接するだけでいいんですよ?」
「そ、それが出来たら……苦労は……」
「お家の為ですよ?」
「う、うぅぅ。わ、わかったわよ!!! やってやろうじゃない!! 簪ちゃんと仲良くなって、そのまま真季奈ちゃんとも友達になってやろうじゃないの!!」
というわけで、まさかの簪ちゃん攻略作戦が始まっちゃったわ。あぁ、胃が痛い。
「か、簪ちゃ~~~ん! げ、ゲンキー?」
「……………なに?」
(お、お嬢様ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!)
あぁ、どこかから虚ちゃんの心の叫びが聞こえてくる、ような気がするわ。
だって仕方ないじゃない! 挨拶よ!? 話しかけるのよ! 簪ちゃんに! 緊張して舌だって回らなくなるわよ!!
私はさっき虚ちゃんと話した通り、簪ちゃんとの姉妹仲を修復するために行動を始めた。
そもそも何故私たち姉妹の仲が悪いのか。それは言うなればそう、周囲の期待と私との比較を簪ちゃんがコンプレックスに感じてるからよ!!
ざっくり言うと、簪ちゃんは色々できる子! 私はもっっっっと色々できる子!! で、周りの大人は簪ちゃんに、えー? 姉ができるのになんで妹はできないのー? と、勝手な評価を付けて簪ちゃんはショック! そこから私に対しての劣等感と被蓋妄想と対抗意識とかが乱立しちゃってもう大変だぁい!!
………泣けてきたわ。どうしてこうなった。
私はただ、可愛い妹とキャッキャウフフしたいだけなのに!!
「お姉ちゃん………用がないなら私行くから」
「あぁ、ちょ、待って!!」
「だから……なに?」
ジト目頂きましたーーーーーーーーー!!!
「えっと、ちょっとお姉ちゃんとお話ししない?」
「話すことなんて、ない」
止めて!? 私のライフはもうゼロよ!!!
「そんなこと言わずにお願い、聞いて!!」
「? なに?」
なにって何!? 私だって聞きたいわよ! ていうかノープラン!? 何考えてるの私!?
なんでもいいから話題をっ!
「じ、実は昨日お姉ちゃん政府の依頼でISの訓練施設に行ったの!」
「……へー、流石お姉ちゃん。私なんかとは大違いだね……」
あれ!? ダメだこれ地雷だ!
「え、えっと、そこで簪ちゃんの同い年の凄い子がいてね! もうお姉ちゃん驚かされちゃったのよ!」
「お姉ちゃんは知り合いも凄い人なんだね。私と同い年ってなにそれ、あてつけ?」
ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
まずいまずいまずいったらまずい!!! なんだか見る見る機嫌が落ち込んでいるんですけど!? ガリガリ好感度が削れていってるんですけど!!
(お嬢様もう喋らないでください!!!!)
「こ、今度一緒にその子に会いに行かない!? もう私のことお姉ちゃんって呼んでってお願いするくらい可愛い子なのよ!!」
「っっ!? ダメですお嬢様!!!」
「あっ!」
いけない! 今のは完全に失言だったわ!!
「お姉ちゃん……私、いらない子なの? その凄い子のお姉ちゃんになりたいの?」
「ち、違うの簪ちゃん!! 話を聞いて!」
簪ちゃんの私を見る目が怖い! え、もしかして涙ぐんでない!?
「うるさい!!! お姉ちゃんなんて、大っ嫌い!!!!!!!!!」
「いやぁあああああああああああああ!!! 簪ちゃぁああああああああああああああん!!!」
「お嬢様! いけません、これ以上すると絶交されますよ!?」
待って! 行かないで! 簪ちゃん、カンバァアアアアアアアアアアアアアアアアック!!!
泣きながら走り去っていく簪ちゃんを追おうとする私を虚ちゃんが後ろから羽交い絞めにして止める。
ち、ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
「また来たんですかこの変態!!」
「……うん、きたのー」
簪ちゃんに大嫌いと言われて逃げられた後、私は再び真季奈ちゃんに会いに来た。……テンション低めで。
真季奈ちゃんは今日も部屋の隅にいた。しかし昨日と変わっている点が。
ダンボールハウスが出来てる!?
そう、真季奈ちゃんの『堕落スペース』を覆うように幾枚ものダンボールが鉄壁の(まぁ紙だけど)要塞を作っていた。
「ふん! さっさと帰れ変態! 私はこの部屋から出ませんからね!!」
ダンボールが喋る。にゃろめ。
「………ふんす!」
べりぃいいいいいいい!!!
「あぁぁ!! 三時間もかけてつくったのにぃぃ!!!」
ダンボールをひん捕まえて力任せに剥ぎ取る。というか、こんなものに三時間って。
「真季奈ちゃん。外、出るわよ」
「い、嫌です!」
昨日と変わらない真季奈ちゃんが中にいた。その手を掴む。
「我儘言わない!! いいから来る!」
「きゃぁ!?」
もう容赦しないわよ! こっちは愛しの妹との関係性まで失いかけているんだからぁ(泣)!!!!!
強引に引っ張って部屋の外へと向かう。施錠された扉は監視カメラに向かって『開けなさい!』と一括して開けさせた。
「嫌です! 嫌っ、いやぁあああああ!!!」
「うるさい! こっちだって都合があるの! 黙ってついてきなさい!」
係員に案内させ、ISの訓練室へと歩いていく。真季奈ちゃんは嫌がって歩こうとしないので手を掴んだまま引きずっていく。
ISスーツへ着替える更衣室では女性のインストラクターの指示に従って着替えた。真季奈ちゃんもだ。というかこの子、シャツを脱いだら全裸なんだけど? やっぱり下着着てなかったわね。
「………なかなかね」
「ひぃ!? 見ないで!」
あ、怯えちゃった? でも十三歳にしては結構育ってる。体も細いから無駄な肉もついてないし、肌も白い……つまり綺麗な体をしていた。ひきこもり特有のやせ形体系だけど、食べてるものは管理されてるから太ることはなかったのだろう。皮肉なものだ。
「ほら、着替えたら訓練場行くわよ!」
「放して! 触らないで!」
暴れる彼女をどうにかして着替えさせたら、今度は訓練場まで首根っこを摑まえて連れて行く。ホント、往生際が悪い!!
「来たか」
「織斑千冬!?」
広いフィールドの闘技場のような訓練場にISを日本が誇る量産機『打鉄』を纏って立っていたのは、『世界最強』のIS操縦者、織斑千冬その人だった。なんて贅沢な、彼女が訓練管?
「訓練を頼まれて一度も来なかった相手が三ヵ月を過ぎてようやく、か。今日も待ちぼうけかと思ったぞ」
「そ、それはご苦労様です」
「ふんだ!」
さ、三ヶ月も待ちぼうけ? いつも訓練時間が過ぎるまで真季奈ちゃんが来るのを待っていたの? ここにも彼女に振り回されている人が……。
「さて、更識……楯無と志波真季奈だったな。さっそくだが今日はISを纏った歩行と飛行から武器の扱いまでやるぞ。遅れた分を取り返す」
「はい!」
「嫌!」
「「や・る・ぞ!!」」
「う~~~~~~」
それからが大変だった。織斑……先生の教えはまさに鬼教官のソレだったけど確かに有意義なものだった。一日で随分とISの操縦に慣れたのだ。
でも、真季奈ちゃんは………慣れたなんてものじゃなかった。彼女はもう代表候補生と遜色ないほどISを動かせることができるほど学習していた。
才能の化け物。
目の当たりにすると、更識の天才児なんて呼ばれた自分が惨めに思えてくる。そして思った。これでは無理だ。日本政府が志波真季奈を手放すことなど決してないだろう。彼女の意志など関係なしに。
ただ、
「どうした志波。何故攻撃しない?」
「…………うぅ」
「真季奈ちゃん」
彼女は構えた銃を撃とうとしない。私に向かっては一度も。射的なら全弾命中の腕前なのに。
「人は撃てない、か。よし、なら」
人が撃てない。その感覚なら私にも覚えがある。更識の『お稽古』で初めて実銃を握ったときに味わった。でもそれは……。
「お前ら、一度ISを解除して向き合え。それで志波。更識の顔を思いっきり殴れ!」
「え、ええええええ?」
「うわぁこの人鬼だ。でもいいわ真季奈ちゃん。殴りなさい!」
ようは慣れである。人を撃つ恐怖には人を殴ったという経験で薄れさせてしまえばいい。
暴論だが効果はある。他人を傷つけることに抵抗をなくすのだ。一歩間違えれば人間性まで失いかけるが……。
「「さぁ、殴れ!!」」
「いや、あの」
「「さぁ! さぁ! さぁ!」」
煽る。腰の引けて怯えた彼女を。逃げ腰どころか実際に逃げようとしたのでその手を掴んで私の顔の前まで近づける。
「さぁ殴りなさい!!!!!!!!!!」
「あ、あ、うわぁあああああああああああああああああああ!!!!」
バッチコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
「ぶべ!?」
と、私の腕を振り切って平手打ちが頬を叩いた。というか何この威力!?
「よくやった。さぁもう一度だ!」
「い、意外と痛い……え。もう一度?」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁーーーーーーー。………あは☆」
………あれ?
「ん? どうした志波? もう一度殴っていいぞ?」
「はい!」
「あ、いや、ちょっと待ってぶべぼぉおおおおおおおおおおお!?」
バッチィイイイイイイイイイイイン!!
「あは☆」
「ちょ、真季奈ちゃバッ!?」
パァアアアアアアアアアアアン!!
「あはは☆」
ヤバイ、なんかスイッチ入ってる! これ、怒ったときの虚ちゃん並みに怖い!
お姉ちゃん、どういうつもりなんだろう。
私、更識簪はお姉ちゃんに黙ってこの訓練場に来ている。場所は虚お姉ちゃんから聞き出した。
お姉ちゃん、変だった。
いつもは私に対して一歩引いていて遠慮がちだったのに、無理して距離を縮めようとしてきたというかなんというか。
それにこの施設。セキュリティのレベルが普通じゃない。なんでこんなところでISの訓練なんか。一応迎えに来たて理由で中に入れてもらったけど、多分ここは一般には解放することは決してない軍の設備だ。私が今ここにいるのも更識の名前の力だろう。
係りの人に案内され、お姉ちゃんが訓練しているフィールドを覗ける展望室に通された。分厚い防弾ガラスごしに苦手な最愛の姉の姿を見る。
そこには、
「いいぞ! もっと、もっとだ真季奈!!」
「はい! あは、あははははははは☆」
「もう、もうやけよ! 殴りなさい! 殴ればいいじゃない!! もっと私を殴ってぇえええええええええ!!!」
…………うわぁ、気持ち悪い。
殴られて悦んでいる姉がそこにいた。(違うよ?)
あぁそうか、私のお姉ちゃんはとうとうおかしくなったのか。そうかそうか。うん、なんであんなの相手に負け犬根性を感じていたんだろう………はぁ。
帰ろう。なんか疲れた。
明日からお姉ちゃんに優しくしてあげよう。きっと仕事に疲れているんだよ、うん。でなきゃ受け入れられない。
あんな変態。
「よし、今日の訓練はここまでとする!」
「「「はい! ありがとうございます!!」」」
お、終わった……何もかもが……。
真季奈ちゃんとの初訓練、何か大切なものを色々と失った気がする。真季奈ちゃんの人間性とか私の中の何かとか……。
「どうだ真季奈? ちゃんと明日からも来るか?」
「う、は、はぁ……来ます。また殴ってもいですか?」
「そんな可愛いしぐさで頼んでもダメ! もう銃も撃てるし剣だって振るえるでしょう!?」
上目づかいに涙目ですって!? なにそれ萌える! でも負けない!
「チッ、そんなこと言って本当は殴られたいくせに、この変態」
「あなた随分とアグレッシブになったわね!? あとその変態呼ばわり止めてくれない!?」
「だけど殴られたいことについては否定しなかった、と」
「止めて! 私をソッチに連れてかないで!!」
「よいではないかよいではないか」
「よくない!!」
こ、この子性格が全然違っちゃってる! まさかこっちが素!?
とんでもないものを目覚めさせちゃったかもしれない!!
この合同訓練、早くISの操縦をマスターして抜け出さないとマズイ! でないと、私までナニかに染められちゃう!?
「よし、明日からもやるぞ、お前ら!」
「はーい」
「はいっ!!!!!」
「どうした更識?」
「なんでもありません! 気合を入れただけです!!」
「? そうか。いいことだ」
こうしてISの操縦法を短時間で習得した私は、真季奈ちゃんよりも先にこの合同訓練を切り上げることができた。それからというもの、私は真季奈ちゃんと直接会ってはいない。
ただ、彼女の噂だけは更識の情報網によって耳に入ってきていた。
例えば、ISでの模擬戦で無敗を誇っているとか。独自のAIを作成してるとか。施設を壊して担当者が予算に困っているとか。専用機を貰ったとか。
でも、やっぱり一番驚いたのが……二年目の、彼女が十四歳の頃、グレちゃったとか。
うん、グレた。びっくりするくらいに。
言葉使いは『俺』、『このアマ』、『だまれババァ』、『殺すぞ』とまぁ不良というか反抗期の中学生そのままで。織斑先生が泣いていた。
しかも施設からの脱走癖がついたようで、時折街中をバイクでヒャッハーと暴走していたらしい。免許? 当然持っているわけがない。
その後、織斑先生と河原で殴りあったりしちゃったりしなかったりしたとかで更生したらしい。どこの青春ドラマか。
それと、もうう一つ。
簪ちゃんの態度が急変した。心当たりは……ない。なにがあったんだろう?
この間も。
「あ、簪ちゃん! おはよう!」
「あ、お姉ちゃん……おはよう、仕事大丈夫だった? 疲れてない?」
「うん、バッチリよ! ありがと」
「そう、良かった。ところでお姉ちゃん、この『妹大全』って本……なに?」
そう言って簪ちゃんが取り出したのは、私がこっそり買った秘蔵本!? 馬鹿な、あれは厳重に隠していたはず!!
「い、いやそれは、可愛い妹に癒されたくて、その」
その本に書かれている妹達、それはいろんなアニメやゲーム、小説に登場する妹キャラが特集され凝縮された本だった。そこにはヤンデレクーデレツンデレ清純系正統系おてんばおっちょこちょいお嬢様僕っ娘洋装和装ロりとありとあらゆる『妹』が乗った桃源郷!
それを見たというの?! 私の可愛い『実妹』が!? やだ、興奮しちゃう!!
「へー、お姉ちゃん、こんな妹達が大好きなんだー……うわぁ変態だ」
「おーけー簪ちゃん、ゆっくり話し合いましょう」
「大丈夫」
ニコ、と慈愛に満ちた目で私に笑いかけてくれる簪ちゃん。おぉ天使よ、天使がいるわ!
「お姉ちゃんは私の自慢だからー(棒)」
「簪ちゃぁああああああああああああん!?」
私は、志波真季奈との出会いによって。彼女と同年代の『妹』、つまり女の子に癒しを求めるようになってしまっていた。
でも、簪ちゃんという『本命』から距離をとられちゃってる! そんな、そんなの、
興ーーーーーーー奮するじゃないのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
あぁ、ままならないなぁ私の人生、私の大好きな簪ちゃん!
ほんと、どうしてこうなった。
はい、更識会長ファンの皆様ゴメンナサイ。
うちの主人公に関わるとみんなこうなります。
この話は時期的にまだ真季奈がISに関わったばかりの頃の話です。
実は更識姉と以前から面識のあった真季奈です。
一緒にマイクで歌ったり商売したりと、微妙に仲が良かったのはこういうことだったりします。
……ごめんなさい。若干後付要素多いです。
以前から面識があった設定は作っていましたがここまで深い中ではありませんでした。せいぜい政府主導の顔見せがあった程度のつもりでしたが。真季奈のドS度が初期と比べて上がったせいかと(汗)
ちなみに、真季奈が親関係で脅されるのも、真季奈の才能にいよいよ政府が放っておけなくなったこの後のことです。
この短編では時系列無視のギャグ回、もしくはシリアスを載っけていきますのでご容赦を。
それではまた。