IS  復讐のデウス・マキナ   作:ぷらもん

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お久しぶりです。

今回は夏休み中のお話です。

なので主人公は綺麗な真季奈です。

それではどうぞ。


五反田家の弾蘭模様

これはまだ夏休みだった頃のお話。

 

 

駅と一体化した巨大ショッピングモール、ではなく。その近くの商店街。その店舗が立ち並んで出来た裏路地でひとつの騒動があった。

 

「おいそっちに追い込め!」

 

「逃すなよ! 回り込め!!」

 

「捕まえてたっぷりと可愛がってやるよ!」

 

「こ、こないで~~~~!!!」

 

追う者と追われる者。数は三対一。圧倒的不利。助けは望めそうになく、追われる側もなぜ自分はこんな人気のない道を選んだのかと後悔しながら走っていた。

 

そもそも選択そのものが間違っていた。商店街の裏路地。近くに巨大なショッピングモールができたせいで客足をすっかり奪われ、衰退の一途をたどる商店街に人気などあるはずがなく、そんなところに逃げ込めば助けどころか事件があったことにすら誰も気づきようが無いではないか。

 

自分が生まれ育った街とはいえ、立ち並ぶ住居や店舗の間に生まれた隙間道など把握しきっているはずも無く慣れない道を走れば当然、

 

「い、行き止まり!?」

 

袋小路に追い込まれるのも時間の問題だろう。

 

「へへへ、悪いな。ここらはオレらの縄張りなんだよ」

 

「手間取らせやがって……さぁどうやって遊んでやろうかねぇ?」

 

「おい、先に俺にやらせろよ! もう我慢できねぇ!!」

 

「こ、来ないでください! 近寄ったら大声出しますよ!!」

 

ガラの悪い三人組に囲まれて声が上擦る。それでもと必死に抵抗するがそれもほぼ効果なし。どうしてこうなった? 自分はただ道を歩いていただけ。そして、その道に座り込んだこの男たちがあろうことか足を伸ばして道の上に投げ出すように座っていたのがそもそもの間違い。………余所見してたらちょっとぶつけちゃったんだよね。足を。だって、邪魔で歩きにくいったらなかったし。

 

三人は揃いも揃って同じ黒い革ジャンに破れまくったデニムを履いている。そういうこだわりでもあるのか、それともそういった同じ格好を好む団体でもあるのかは知らないがややこしい事このうえない。なので髪型で判別することにした。

 

まずは金髪。バサバサに伸ばした髪を染め、顔中にピアスを開けている。

 

次にドレッド。肌を焼いているのか浅黒く、ガタイは一番よくて大柄だ。

 

最後にハゲ、いやスキンヘッド。黒いサングラスをかけている。ちなみに自分の足が当たったのはこいつ。

 

「「「今日は無事に帰れると思うなよ!!!」」」

 

「いや~~~~!!!」

 

背中と左右を壁に囲まれた自分を金髪とドレッドとハゲが襲いかかる。それから逃れようと当たりを見回すが逃げばなし。

 

万事休すか、そのとき、

 

「ちょっと待ちなぁっ!!」

 

その場の全員が思わず動きを止めてしまう、大きな声がスラリと耳に入ってきた。

 

見ると、男たちの向こうに誰かいる。

 

そこから先はあっという間だった。突然の乱入者は三人をちぎっては投げ、殴っては吹き飛ばし、締めて落としていった。

 

制圧完了。僅か一行の仕事だった。

 

「あ、あの……ありがとうございます!!」

 

「へっ、いいってことよお嬢ちゃん。今日はさっさと帰って寝ちまいな」

 

「あ、おっ、お礼を」

 

「いらねぇよ!! あばよ!!」

 

ダッシュで走り去っていくその姿に、『漢』の背中を見たような気がした……。

 

 

 

 

 

「ということがあったんだが、どう思う?」

 

「妄想だな。お前とうとうモテるために自分すら偽るようになっちまったのか、弾?」

 

とまぁハイ。先程までのは全て、織斑一夏の友人。五反田弾の武勇伝でした。

 

ここは五反田食堂。の、五反田弾の部屋。夏休みなので織斑一夏が遊びにきています。そこで聞かされたのが先程のお話。

 

「……百歩譲って、お前が三人相手に喧嘩売れても勝てるわけねぇだろ? せいぜい殴られながらその女の子を逃がしったてとこじゃないか?」

 

「なわけねぇだろ!!」

 

まだ食い下がるかこのもやし野郎。失礼な言い方だが織斑一夏の表現は正確だった。だって五反田弾。彼は自宅の中華鍋よりも重いものなど持ったことのない文系ボーイである。喧嘩? あっても小学生時代に数回程度である。それであんな話のような真似など……。

 

「俺を助けてくれたあの女の子は確かにいたんだ!!」

 

「被害者お前だったんかい!!」

 

しかも助けてくれたのは女の子。そういえば、どうりで被害者側の目線で話が進むと思ったんだよ!!

 

「弾……いや、あの、えーーー?」

 

「一夏よ。お前の言いたいことはよーっく! 分かる。でもな、あの女の子は本当にかっこよかったぞ?」

 

お前は格好悪いわ。そう思っても口に出さないのが最後の情けです。

 

「あぁまた会いたいなぁ……金髪でちっちゃくて鈴なんかよりも胸あったし……」

 

「お前鈴に殺されるぞ!? お、俺は関係ないからな!! ………ん? 金髪?」

 

織斑一夏の脳内メモリーを検索。金髪の女の子、三名該当。内二名はちっちゃくない。一人は該当。あと確かに鈴より胸ある。喧嘩の仲裁、というか横槍なうえに独壇場。『彼女』ならノリノリでやりそう。

 

結論。志波さんじゃね? 

 

「………なぁ弾。俺、その子知ってるかも」

 

「!? 紹介してくれ~~~~~~!!!!」

 

半泣きで抱きつかれた。やめて気持ち悪い。

 

「……………前に話したデートした子」

 

「ちょおまっ」

 

お前も洗礼を受けろ! マジで!!!

 

すぐに志波さんに電話した。

 

 

 

 

 

 

「志波真季奈です。先日ぶりですね!(にこっ!)」

 

「は、はい! 五反田弾って言います! この間はありがとうございました!! (か、かわえ~~!!)」

 

「ま、また美人が一夏さんの近くに……っ」」

 

「「(ちぃっ!! お外用笑顔か!!)」」

 

五反田食堂にお呼ばれした志波真季奈ちゃん。五反田弾と笑顔でご挨拶です。あと、一夏と一緒に毒づいているのは凰鈴音です。何故か来た。それと五反田家の長女にして弾の妹、五反田蘭。彼女は一夏の知り合いという真季奈を見て戦慄していた。なにせ、話しに聞くにこの少女。織斑家で一夏と一つ屋根の下で生活しているらしいのだ。

 

織斑一夏が自宅でくつろいでいた志波真季奈に携帯電話で連絡したところ、五反田食堂への道がわからないという事態に。迎えに行こうか? という提案に、それでは鈴ちゃんを誘ってみます。との真季奈。

 

「真季奈と近々遊ぼって話してたけどさぁ? なんで弾のやつが真季奈に用があんのよ?」

 

「なんか不良に絡まれてたのを助けてもらったらしい」

 

「………記憶喪失のついでに運動音痴になってなかったっけ?」

 

「それはISの操縦だけみたいなんだ。つい最近も家で空中コンボくらった」

 

「「く、空中コンボ!?」」

 

「………アンタ何したのよ?」

 

夏休み中の今、真季奈は織斑家で厄介になっている。するとまぁ、寝食を一つ屋根の下で過ごすわけでして………織斑一夏お得意のスケベハプニングがあったとさ。

 

それで、真季奈は昼食がてらに五反田食堂で食事をいただいている。弾を助けたということで料理はタダ、無料である。そのことで、真季奈の笑顔も弾にとっては不幸なことに三割増しだった。

 

「えっと、志波さんはIS学園の生徒なんだっけ? やっぱあんなに強いなんて、そういう授業もあるの? 護身術もみたいな」

 

「いえ、ISの授業とか以外はいたって普通ですよ? わたしのは織斑先生仕込み……らしいです」

 

ちなみに、弾のお客様ということで二人はカウンターに隣り合って座っている。一夏と鈴、蘭はその近くのテーブル席で対面して座って食事をしていた。座り方は一夏とテーブルを挟んで鈴と蘭が並んで座っている。何気に鈴と蘭が内心で舞い上っていたり隣同士でメンチ切っていたりするがそれについては置いておく。

 

「志波さんのトンデモって千冬姉ぇが絡むと酷いことになってるのは俺の気のせいか?」

 

「気のせいじゃないわよ多分。千冬さんの非常識を世間一般の常識として教わったんでしょアレ?」

 

例えば、一流のIS乗りは素手でISと戦えるようにできたりIS用のブレードを振り回せるようになったりとか。自分ができるからってそれを教えるかぁ? できるようになってる志波さんも大概常識はずれだけど。

 

「……でもわたし、実は今記憶喪失で昔のことあまり覚えてないんです」

 

「えぇ!? 記憶喪失?! いったいどうして!!」

 

「聞いた話では織斑くんに乱暴されちゃったとか………」

 

「うわーお、凄く誤解される無茶ぶりきたよ!?」

 

「まぁ事実だしねぇ」

 

真季奈の記憶喪失の原因。それは篠ノ之束の計略なのだが、実行したのは『雪片弍型』で真季奈の頭を叩き割った織斑一夏だ。つまり乱暴されてるね。一応は。

 

「一夏テメェ!! とうとうそこまで落ちぶれたか!?」

 

「おいこら『とうとう』ってどういう意味だよ!! てか誤解だ不慮の事故だいやすんませんでしたやっぱ俺が悪いです!!!」

 

弾に反論しようとして、よくよく考えてみればやっぱり自分が真季奈を傷つけたのは事実だと思い即座に土下座に移った織斑一夏。その流れるような無駄のない洗練された土下座には旧友たる弾も驚きだった。

 

「い、一夏お前……実に堂にいった土下座だな……」

 

「………ふ、これぞ日々の積み重ねってやつさ」

 

「お前ほんとIS学園で何勉強してんの?!」

 

「一夏さん……まさかそういう趣味が……?」

 

主にSMプレイ?を学んでいるような気がする。

 

「というかなんで志波さんは弾のこと『お嬢ちゃん』なんて呼んだのさ?」

 

「あぁ、それはアレですよ。不良に絡まれてる後ろ姿だけ見て乗り込んだので、長髪、体が細い、女々しい鳴き声の点から判断して女の子だと思ったんです」

 

「「「あぁ(納得)」」」

 

「俺泣いていいよな? な!?」

 

体の細いモヤシっ子が髪を伸ばしていると間違える人もいたりします性別を。わりと。(実話です)

 

「にしてもアレね。人助けなんて似合わないことするのねアンタ」

 

「………そうなんですか?」

 

「まぁ……『無償で』ってところが驚くけど、志波さんならおかしくないと思うよ?」

 

「それフォローになっていません」

 

鈴が言うのは真季奈の行動のおかしさについて。彼女の知る『志波真季奈』とはタダで人助けなどしない。無論、知人友人なら別だが初対面の通行人など論外だ。よほどいいことがあって気分が最高長だというのなら万に一つもありえなくもないが、それでも五反田弾を不良から助けた? などということは異例だろう。

 

それも仕方ない。なぜなら彼女は記憶喪失。夏休み以前の思い出も経験もなければ人格も違うのだから。

 

「まったく、困っている方がいたら助けようというのが人情というものでしょうが」

 

「「ないわー。ホントないわー」」

 

「なんなんですか!!」

 

だからその差異に戸惑う。織斑一夏と鳳鈴音という、『彼女』を知る二人なら。

 

「まぁ白状しますと、織斑先生の部屋で読んだ漫画に影響されたということもあるんですが」

 

「はいやっぱり原因はウチの姉でしたー! ちょっと何読んだの? というか千冬姉ぇって漫画読むの!?」

 

織斑家の家事全般を一身に背負う弟、織斑一夏でさえ把握していなかった姉の漫画事情。いったいあの非常識の塊である『世界最強』にどんな趣味があるのか………想像するだけで恐ろしい。

 

「『今日から○は!』」

 

「いきなりハードなのきたな!?」

 

「『GT○』」

 

「グレート・ティーチャー・オリムラ!?」

 

「『RO○KIES - ルー○ーズ』」

 

「夢にときめけ 明日にきらめけ!」

 

「『魁!!男○』」

 

「さっきから嫌に男臭いのばっかだね!」

 

それと密かに学園モノだったり教育をテーマにした作品が多いのが少し腹立たしい。まさか姉の軍隊教育はそれが原因か? リスペクトしちゃってるのか?

 

「あ、それと『カー○キャ○ターさ○ら』」

 

「あー少女漫画があってよかったわー! だけど手遅れなうえにチョイスがなんとも言えない気まずさ!!」

 

「そろそろ帰っていいですか? この後バイトがあるんですよ」

 

「なにそれ初耳」

 

そうか、志波さんバイトなんてするのか。いつの間にそんな話しを。俺に言ってくれればよかったのに。

 

「……おい一夏。何今の怒涛のボケとツッコミ?」

 

「……言うな」

 

「これくらい出来なきゃIS学園でやってけないわよー」

 

「だからなにその基準!? IS学園ってお笑い養成学校かなんかか!??」

 

「……来年受けるのやめようかなー」

 

否定できないところが辛い。それと蘭よ、そうしときなさい。

 

弾や蘭が驚くのも無理はないと思う。IS学園は魔窟です。

 

「にしても志波さん。バイトなんていつの間に始めたの?」

 

「あぁ、いえ。今日が初めてですよ。一日だけの短期のものなので」

 

「へぇ? どんなことすんのよ?」

 

志波さんがバイトとは実に意外。小銭稼ぎを自分で汗水たらして働いて行うとは。

 

「もうすぐお盆なので、近所のお寺のお墓清掃を」

 

「「「……………………………………………………え?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは今日はよろしくお願いしますね、皆さん」

 

「はい。任せてください住職さん」

 

やってきました盛大寺という名前のお寺。そこの住職さんに挨拶して墓地へと向かいます。

 

この街で神道といえば篠ノ之神社。仏教と言えばこの盛大寺。らしいです。

 

わたし志波真季奈の本日のアルバイトはこのお寺の裏にある墓地の清掃です。どうやら最近ガラの悪い連中が夜中に荒らしに来るそうで、そのためゴミが散乱していたり墓石にカラースプレーで落書きなどと随分と罰当たりな被害が出ているのだそうな。

 

お盆前の墓地清掃はそれぞれ遺族が毎年行なっているそうですが、そういった事情のため住職さんがポケットマネーからわたしどものようなバイトを雇っての清掃兼見回りを募ったそうな。

 

しかし、

 

「? 変ですね? わたし達しかいませんね?」

 

てっきり十人くらいはいると思っていたのですが……? 少人数では相手が大勢だった場合すこし厳しいです。

 

何故でしょうか? 腑に落ちません。

 

「あああ当たり前よ!! お金もらったって誰も来たくないわよこんな幽霊墓地!!」

 

「はぁ?」

 

何故か着いてきた鈴さんがおかしなことを叫んでいます。幽霊墓地とな?

 

「あ、あのな志波さん! この墓地、マジで出るんだよ!!」

 

「そうです! 火の玉なんて当たり前! 白い影にすすり泣く声!」

 

「揺れ出す墓石に軽快に鳴り響くボルターガイスト! ここはこの街一番の心霊スポットでさぁ!!!」

 

揃って着いてきた地元四人衆が身体をガタガタと震わせながら声高に叫んでいます。どうやら地元ではここはそれほど恐ろしいお寺らしいですね。

 

「何を馬鹿な……幽霊なんて非科学的な」

 

「はっはっは! 化けて出るなんて騒ぐのもいかんが、仏様が天から見守ってくださることまで否定しちゃいけないよ真季奈さん」

 

住職さんが豪快に笑いながらそう言います。この住職さん。頭は禿げ上がって光沢を放ち、肉体は鍛え上げられた痩躯。今にもその肉体で法衣が弾き飛ぶのではという男だった。………住職なんてやめて格闘技の世界にでも進んだらどうだろうか?

 

「と、その前に。君たち、ちょっと一列に並びなさい」

 

「「「? はい」」」

 

墓地へと入る直前。住職さんがわたし達を呼び止めて横一列に並ぶように言います。

 

すると、

 

「………南無阿弥陀仏… 般若波羅蜜多心経………喝ッッッ!!!」

 

住職さんが手を合わせて何やらブツブツ唱えたと思うと、一括したのちに手にした数珠を盛大にこちらに向かって振り払ってきた。

 

バチン!!!!

 

オォォォォォォォォォ………。

 

「ふーーーー、これで二時間は大丈夫だろう」

 

「「「何が!?!!???」」」

 

「また大げさな」

 

また二時間したら払いに来るよ。そう言ってほがらかに住職さんは去って行きました。残されたわたし達、というか地元組の四人はまだ身体を震わせています。心なしか顔も青ざめています。

 

「さ、それじゃぁお掃除始めましょうか」

 

「「「ゴメンちょっと待ってお願いだから!!!」」」

 

何を情けない。

 

「あのですね。何を本気にしているのですか。あんなの真に受けてたらきりがないですよ?」

 

「いやいやいやいや! 見たろ聞いたろ今のをさぁ!!」

 

「変な破裂音とか!」

 

「変な、こう、呻き声のような叫び声というか……」

 

「やっぱり幽霊……」

 

「お黙りなさいっ!!」

 

ビクッ! 真季奈の一括。それによって皆恐れを吐く口を閉じた。

 

「幽霊なんて居るはずがないでしょう! もしも先程のものが気になるというのなら、それはきっと別のものでしょう!」

 

「……べ、別の物って?」

 

「そうですね……………()()(ンド)?」

 

「ジョジョかよ!? しかもじゃあさっきのは誰の!?」

 

「そりゃあ住職さんのじゃないです?」

 

「なんでお寺の住職さんがスタンド使うの?! 必要ないよね??」

 

「使っているじゃないですか。お経唱えるときに木魚をオラオラと叩いて……」

 

「ポクポクだよ! スタンドでオラオラ叩いたらお経唱え終わる前に砕けるわ!!」

 

「そもそもなんでスタンドが必要なのよ!!」

 

「そりゃぁなかなか成仏しない仏様をスタンドでノックアウトして」

 

「この罰当たり! てか結局今認めたよね!? 幽霊をスタンドで殴ってるって言ったようなものだよね!?」

 

「チッ!」

 

「「この子ったらもぉぉぉぉぉぉ!!!!」」

 

真季奈の屁理屈に翻弄され地団駄を踏む一夏と鈴。それだけ騒げれば大丈夫だろう。

 

「やばいこの会話についていけない」

 

「お兄ちゃん。一夏さんと鈴さんが知らない人みたいなんだけどどうなってるの?」

 

「ほら! そこの二人!! 何をぼさっとしてるんですか! さっさと雑巾を持っていきなさい!」

 

「「は、はい!!」」

 

弾と蘭。五反田兄妹の二人に真季奈は雑巾と墓石に塗りたくられた塗料を落とす溶剤の入った容器を渡して掃除を始めるように促した。見ると、すでに一夏と鈴も箒を手にしてゴミを集めていた。

 

「さて、わたしも始めましょうか」

 

真季奈も大きなゴミ袋を手にして周りのゴミを火鉢で掴んで集め始める。するとどうだ。もう落ちてるわ落ちてるわゴミの山。空き缶に菓子類の袋にタバコの吸殻など、明らかにお墓にお参りに来たとは思えない宴会のようなあと。

 

これはもう、

 

「ちょっと許せませんね」

 

真季奈はゴミを集めながら、静かに怒っていた。

 

 

 

 

 

掃除を始めてから一時間ほどたった頃。

 

時刻は夕刻。日が落ちかけた頃に爆音を轟かせながら()()()らは来た。

 

それは数台のバイクのエンジンとマフラーからの音だった。

 

「………これは」

 

「来たわねぇ」

 

真季奈と鈴がそちらを見やる。五、六人の集団がゾロゾロと歩いてくる。どいつもこいつも、革ジャンだったりモヒカンだったりと、俺達世紀末から来ましたと言わんばかりの男たちだった。

 

「オラァッ! 今日も騒ぐぞ野郎ども!!」

 

「「「ヒョッホーッ! 祭りの始まりだーー!!」」」

 

ドカドカと足音を立てながらガラの悪い集団が墓地へと入ってきます。手にもっているのは菓子やお弁当等の食料の入ったビニール袋。あぁ、間違いなくこいつらだ。

 

「どうするの真季奈?」

 

「1.ボコボコにして病院送り。2.ボコボコにして警察に通報。3.ボコボコにしてバイクをスクラップにして病院送りにした後に警察に通報」

 

「選択肢が過激なのしかないっすね!?」

 

「しかも完勝なのは決定なんです!?」

 

「志波さんは優しいなー」

 

「「どの辺が!?」」

 

「そうよダメに決まってるじゃない真季奈」

 

「? なぜです?」

 

この中で最も好戦的な鈴による制止。意外と思うがそれは、

 

「警察に通報したら過剰防衛になって言い訳がめんどくさいじゃない。別の手考えましょ」

 

「確かにそうですね。では弱みを握って飼い殺しましょう」

 

逆に警察に通報されそうな彼女たちだった。

 

「どうすんの?」

 

「携帯電話一つ奪えればそれでおしまいですよ。家族親戚友人恋人、全て人質に取れます。それどころか住所も特定できますし契約している銀行も分かりますからそこから勤め先もわかりますしね。芋づる式です」

 

「さすが情報世界の魔女はやることがえぐいわー」

 

おいこらやめろばか。

 

「逃げてーー! みなさん逃げてー!!」

 

五反田蘭、必死の叫び。敢えて言おう。今この場で一番危ない目にあっているのは間違いなく不良たちである。

 

「あぁっ!? なんだテメェらは!?」

 

「さっさと消えろ! ぶっ飛ばされてぇか?!」

 

「それと金置いてけや」

 

などと罵声と脅しをかけてくる集団。で、あるが。

 

「へーい! ばっちこーい正当防衛」

 

「きゃー(棒)。怖ーい。乱暴しないでー(棒)」

 

「えーと、バイクのナンバープレートは……ちぇっ、ここからじゃ見えないなぁ」

 

「なんでお前らそんなに余裕なの!? IS学園ってなに!?」

 

IS学園に通う変わり果てた友人に戸惑いを隠せない弾。特に真季奈に関しては恐怖しか感じない。この子、絶対に敵に回せない!!

 

「あん? 誰かと思えばテメェ!! この間のモヤシ野郎じゃねぇか!!」

 

「ホントだ! お前のせいでオレらはなぁ!!」

 

「し、しばらく歩くこともできなかったんだぞ!? なんなんだあのアマは!? 化け物か!!」

 

なんとまぁ。この不良ども。そのうちの三人は冒頭で弾が話してみせた彼らだった。つまり、真季奈にボコボコにされた者たちである。

 

「お前らかよ!? だったらこの人見ろよ!! そんではよ帰れ!!」

 

「「「げぇっ!!!」」」

 

「どもー。みんな大好き真季奈ちゃんです」

 

弾が指差し、不良たちが見る。そこにはピースしながら笑顔を向ける志波真季奈の姿が。

 

「ななななんでこの女がここに!?」

 

「おおお落ち着け!! 今日はアニキもいるんだ大丈夫だだ!!」

 

「そ、そうだ! アニキ、この女です!! こいつが例のイカれたグラップラーでさぁ!!!」

 

膝が生まれたての小鹿のようにガクブルな三人。彼らがアニキと呼ぶ人物に助けを呼ぶ。するとのっそりと体格が一回り大きい男が奥から出てきた。背が高く、筋骨隆々とした男。髪は短く刈り上げていて目は細い。あれ? 世紀末覇者?

 

「ほう? どんなゴリラ女かと思ってみれば、随分とちいせえガキじゃねぇ……か」

 

「「でか!!?」」

 

「三、いえ、五分掛かりそうですね」

 

あくまでも余裕の姿勢を崩さない真季奈。が、対照的に。

 

「ま、まさか……お前は!!?」

 

「はい?」

 

アニキと呼ばれた人物が真季奈を見て震え始めた。視線は泳ぎ、足は自然と後退を始める。

 

「貴様、『(スト)(ーム)(・キ)(ング)』か!?」

 

「……はい?」

 

「そうよ」

 

「……あー」

 

真季奈ちゃんの厨学二年生のころの通り名です。当然、今の『志波真季奈』は知らないことですが、覚えている人は覚えているものです。主に、被害に遭った方とかは。

 

「……一夏、どゆこと?」

 

「お前も覚えてるだろ弾。二年くらい前、この辺で有名だった伝説の走り屋、『嵐の王者』を」

 

「警官隊二百名を振り払い、パトカー五十台を潰し、ビルの壁を走って空に消えたあの伝説……忘れるわけないじゃない」

 

「ま、まさか……全国の暴走族を壊滅させてバイク千台をスクラップにしたあの!?」

 

「街でお祖母さんに乱暴した不良をシめて泣きながら土下座するまで市中引き回しにしたあの!?」

 

トンデモなーなおい。でもそうです。

 

真季奈がその『あの』人です。

 

「お、お前らなんで気付かなかったんだ!? 絶対に逆らっちゃいけない危険人物としてブラックリストに載っていただろうが!!」

 

「いや、でも、こんな可愛いかったですか!?」

 

「髪の長さも違うし!!」

 

「木刀も特攻服も持ってなくてハーレーにも乗っていないんですよ!?」

 

「畜生……死にたくねぇ……死にたくねぇよぉぉ!!」

 

「……あの、何がどうなっているんですこれ?」

 

先程の倍、いやそれ以上の動きで体を震わせる五人組。涙を浮かべて命乞いをする者までいる。

 

真季奈は思う。『わたし』、なにかしましたか? と。

 

「まぁ、『前』のアンタがね。つーわけで、真季奈ちょっと耳貸して」

 

「はい? ………ふんふん、成程」

 

鈴が真季奈を呼んで耳打ちをする。それで真季奈は事態を把握した。

 

「えー、こほん。では………テメェらッッッ!!! 舐めてんのかアァァッッ!!? アァッ!?」

 

「「「ヒィッ!?!?」」」

 

突然、墓地に響く怒声。あ、泣いちゃダメだよ五反田兄妹。

 

「誰に断り入れてココで騒いでんだッ!! 今すぐ適当なとこに埋めて仲間入りさせようかボケ共ッッ!!!」

 

「「「すいません! すいません!! すいません!!」」」

 

泣きながら揃って土下座する五人の不良。何度も石畳に頭を打ち付けて血すら流れている。まさしく必死である。

 

「それが嫌なら二度とここに近つくんじゃねぇ!! 分かったらさっさと消えろゴラァッ!!!」

 

「ひっ、ひぃ!! ひぎゃぁあああああああああああああああ!!!」

 

「お助けぇえええええ!!!」

 

「おかぁちゃぁぁぁぁぁん!!!」

 

「こええええええよぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「命だけはぁああ!!!」

 

脱兎。まさしくライオンに睨まれる兎のごとく逃げ出す不良五人だった。

 

「これでもうここには来ないわよ」

 

「だな」

 

「……何か大事なものを失った気がします……鈴、後で何か奢ってもらわないと割に合わないんですが」

 

どや顔の鈴と納得顔の一夏が頷いている。鈴の作戦にのった真季奈は少し後悔。

 

「まったく、ああいう言葉使いは自分にもグサッときますよ……ねぇ蘭ちゃん?」

 

「ははははい!!」

 

「? 妹さんはどうしたんです弾くん?」

 

「なんでもありません姐さん!!」

 

「「あ、服従した」」

 

五反田兄妹。どちらもまっすぐ気を付けをして真季奈に答えます。これが犬なら完全にお腹を見せて地面に転がっているところです。

 

「なぁ弾よ」

 

「な、なんだよ一夏!?」

 

そこで一夏は、

 

「な! 志波さんは最高だろ!?」

 

「ほんとに何があったんだよお前!!?」

 

調教の結果です。

 

こうして、盛大寺の墓地を荒らす者たちはもう二度と現れることはなかった。清掃も無事に終わり住職さんにもバイト代を貰った。墓地を荒らしていた連中を追い払ったことを言うと更にバイト代を上乗せてくれた。

 

どうやら、

 

「いやぁ、ありがとうね。あいつらどうもワシに仕返しに来ていたみたいなんだよ」

 

住職さんはにこやかに言う。おいこら。

 

「と、言うと?」

 

「街で道ふさいで騒いでいたから捻ってやった」

 

「わーお」

 

武闘派僧侶ここにあり。

 

「だけどそんなこと他の人、特に檀家さんたちに話せないからねぇ。だから君にバイトを頼んだんだよ」

 

「ようするに後始末をさせられたということですか……でも、何故わたしに?」

 

これは別に真季奈でなくとも良かった筈。それこそ織斑千冬や警察でもよかった筈だ。なのに何故、いたいけな少女(!?)な真季奈に頼むのか? 

 

「君が何も覚えちゃいないということは聞いているよ。でも、この街でワシと殴りあえるのは君と千冬くんくらいなものだからねぇ」

 

「え」

 

それはつまり、

 

「記憶が戻ったらまた川原で語り合おうや、拳で」

 

「oh」

 

そんな因縁もあったんだねというお話で。

 

もうやだこの街。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ。

 

『真季奈かえったぞー』

 

「おやデウス。今回は完全に出番なかったですね?」

 

織斑家、深夜。

 

もう寝ようかという時間に飼い犬であり人工AI搭載型ISであるデウスが帰宅した。犬の姿で。

 

「こんな時間まで何をしてきたんです?」

 

『いやー、バイトの帰り道で宴会やってる人たちに会ってさぁ。楽しそうだったんで混ぜてもらってきた』

 

「夜遊びは感心しませんよ?」

 

なんという自由な輩なんでしょう。飼い主様が苦労していたというのに遊び呆けていたとは……明日はおやつ抜きにしてやろう。

 

『にしてもあの人たちはなんで墓地で宴会をしていたんだ? しかも白装束なんか着て、体も透けてたような……まぁ気のせいか』

 

「え?」

 

 

それは神様を宿した機械犬にだけ『視えた』歓喜の祭りだっという。

 

 

 

 

 

「え?」

 




はい、お疲れ様です。

どうでしたか今回の話?

ほんとは夏にお送りするつもりで書いていたのですが、まさかの年末に。全部定時で帰れずに休日も動く体力を残してくれない仕事が悪いんだい(ひどい言い訳)。

僕の実家でもお盆前の墓地清掃はあります。これは町内会でやっているボランティアなのですが、なにせ参加者はお年寄り八割、大人二割、時々子供の参加率で、もし今話に出てきたような不埒な連中がいれば町内会総出で懲らしめてやりたいところです。

あ、ちなみにボクは参加者に配られる百円のカップカキ氷に釣られて参加していました。

僕は幽霊というものは見たことがありません。

友達は金縛りにあったり、家の裏の墓地でひと玉を見たりしたそうですがそういった機会はありませんでした。ないほうがいいと思います。うん。

あ、でも誰もいない山で背中を押されて崖から落ちかけたことがあったような……気のせいだよね!


それでは次回もまた。感想待ってます。
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