今回は「剣の舞姫」さん著、『SAO帰還者のIS』とのコラボとなっております。お話をいただきありがとうございました。
織斑一夏たちはIS学園、そのグラウンドでIS操縦の実習を受けていた。クラスは一組と二組の合同授業。
一夏の周りには『いつも』のメンバーが。
そこに。
「あ! ワンちゃん!」
一匹の黒い柴犬が現れた。
『ワン!』
トタトタと地面を蹴りながら走ってくる迷い犬の姿に、グラウンドの教師含む生徒達全員はほっこりと笑みを浮かべる。
授業中に学校の敷地内に動物が紛れ込む。それはどこの学校でも起きる特に珍しくもないこと。なのに何故だろう? たったそれだけのことで教室には騒ぎが起こり、皆は窓に寄ってその姿を見ようと躍起になる。
故に、外での授業中という突然の来訪者に直接触れ合えるチャンスを逃すはずも無く、
「おいでおいで~」
「怖いくないよ~」
「どこから来たの~?」
生徒たちは歓迎ムード待ったナシだった。柴犬を複数人で囲み撫で回す。柴犬の方も慣れているのか特に暴れる様子もなく、大人しくされるがままであった。
「こらお前達! 授業に戻れ!! 山田先生! あの犬を追い出しま……って生徒と一緒に何をやっているんだ!?」
「え!? この子追い出しちゃうんですか!?」
既に陥落済みだった。山田真耶、モフモフしています。
「ええい! 織斑ッ! 手伝え!」
「あ、はい!」
姉の言葉に素直に従う弟、一夏。自分だってもう少しモフりたい、そうは思っても苛立った鬼教師に逆らう度胸もない。
なので、その黒い柴犬を確保しようと近づくと………、
『織斑一夏、ほか三名を確認した。これより連行する』
「「「え?」」」
イマダレガシャベッタノ?
とても低い位置から聞いたことのない声がした。気のせいか? 気のせいだろう。でないと、
「「「犬が喋った!!?」」」
そういうことになる。
次の瞬間、
「うわ!?」
「きゃっ!?」
「なに!?」
「うおっ!?」
『四人』の足元に円形の魔方陣が現れる。
『フハハハハハハッ!! 油断したな!! 小僧共!!』
完全に喋っている犬の姿に声も出ない生徒たち。その黒い柴犬は二足歩行で立ち上がり、両前足を組んで不敵に笑った。
「な、なんだお前は!?」
織斑一夏が叫ぶ。いくらなんでも理解不能の事態だ。
ていうかなにこれ?
『全ては主人の娯楽の為に!! おいでませ! 俺たちの世界に!!』
「ナツーーーッ!!」
「百合子ーーッ!!」
「キリト君!!」
「アスナ!!」
織斑一夏、桐ヶ谷和人、結城明日奈、宍戸百合子の四人を囲んだ魔方陣が輝きを増し、目をくらむ光を放った!
「「「きゃぁあああああああああ!!??」」」
その光の眩しさに皆が目を瞑る。そして光が収まり目を開けた時には、
「「「い、居ない!?」」」
四人は『この世界』から完全に姿を消していた。
「………う、ん?」
「おきたか」
「千冬姉? ここは?」
「IS学園の保健室だ」
目を覚ますと、姉である織斑千冬が椅子に座ってこちらを見下ろしていた。当たりを見回すと、確かにここは見慣れた保健室であり自分はそのベッドで寝ているようだった。
「お前は学園のグラウンドに倒れていたんだ。何か覚えていることはあるか?」
「? 何言っているんだよ? 千冬姉だってあの変な犬を見ただろう? そうだ! 百合子やキリトさんにアスナさんは無事ですか!?」
「あぁ、無事だ。もうおきて
「あぁそっか。よかった~。じゃぁ俺もそっち行ってもいい?」
「まぁ待て、その前に聞いておきたいことがある」
「ん? なに?」
早く百合子達の無事を確認しに行きたいところを千冬姉に止められる。今更聞きたいことってなんだ? あの場には千冬姉だって一緒にいたじゃないか……?
「お前は誰だ?」
「…………は?」
肉親から、まさかの言葉を聞かされたこの気持ちをどう表そうか? 俺が誰かなんて、俺以上に知っている筈だろ?
「何言ってるんだよ? 俺は千冬姉の弟の………」
「それならもういる。入ってこい一夏」
「よ、よぉ」
ガラッ、と保健室の扉が開く。廊下の先から入ってきたのはよく見知った顔。というか、毎朝鏡で見ている人物、俺だった。
「なぁっ!? え? え? えぇえぇぇええええええええ!!?」
「だよなぁ……俺もそうなった」
「はぁああああああああああ……あーもう、なんでこんなことに……」
『俺』が苦笑し、千冬姉が頭を抱えてため息をついた。
何がどうなっているんだ?
「はぁ……並行世界、ですか……」
「こいつらの話を纏めるとそうなった。なんとかしろ真季奈」
「「「すごい無茶ぶり言ってる!!?」」」
ここは宿直室。
志波真季奈が自室でゴロゴロしていたところ、織斑千冬が『四人』と織斑一夏を連れてやってきた。
なんとかしろと。んな無茶な。
「えーーと、もう一度伺いますが……まず宍戸百合子さん?」
「あ、はい! ナツ、いえ織斑一夏くんの彼女です!」
黒髪ストレートな大和撫子風な女の子がそう言う。織斑一夏の彼女? 頭痛い。
「で、織斑一夏が二人いる、と。うわぁ気持ち悪い……ちょっとお花摘みに行ってきてもいいですか? 街まで」
「バックれる気満々だよね!? えっ!? なんで俺そんなに嫌われてんの!?」
「はははっワロス」
わたしのめんどくさいんじゃオーラに焦った反応を見せるのが『もう一人』の織斑一夏。苦笑いしている方はこなれていてムカツク『わたしの』織斑一夏だ。並ぶな目が腐る。
「桐ヶ谷和人さんは一歳年上の十七歳で、結城明日奈さんはさらに上の十八歳。なのに同級生……かわいそうに、留年でもしました?」
「なんでよりによってそこを聞くかなぁ!?」
「うっ、面と向かって言われると結構来るわ……留年……」
黒い髪の男の娘……じゃない、中性的な顔をした男性、桐ヶ谷和人さんとその恋人という栗色ロングストレートの結城明日菜さん。どちらも美人ですね。
ようするに、二組のカポォが世界を超えてイチャイチャデートをしにきたと? それか愛の逃避行?
「「「いえ違います」」」
「冗談ですよ」
四人はIS学園の白い制服を着ている。発見されたときはISスーツを着ていたそうだが、今は保健室にあった予備を着てもらっている。数ないはずの男子制服? マッキー商会からの提供です。お買い上げありがとうございます。
「それじゃぁ、もう一度。ここに来た経緯を話してみてください」
自己紹介しかしてもらってませんので。
四人が互いに顔を見合わせると宍戸百合子さんが口を開いた。
「う、うん。私達がグラウンドで授業中にワンちゃんが迷い込んできて」
続いて結城明日奈さんが。
「その犬が立ち上がって喋り始めたと思ったら」
桐ヶ谷和人さん。
「足元に魔方陣が現れて」
で、織斑一夏。
「気がついたらこの世界にいたんだ」
成程。
「つまり、二足歩行する喋る犬が魔法を使って貴方たちを連れてきたと言うんですね!?」
「「「そ、そうなんだ(です)!!」」」
「病院行きますか?」
「「「ですよねーーーーーーーーーーーー!!!!」」」
そりゃ誰だって、『魔法を使う犬に異世界に連れてこられました』なんて言われたら頭の病気を疑いますよ。まぁ、
多分デウスの仕業でしょうけど(笑)? 間違いない。あの子なら可能だ。動機なんて知りませんが。
「魔法を使う犬ですか。いたら面白いですね」
「いやっ、たしかにALO…ゲームとかだったら魔法を使ったりできるし、現実じゃ無理だけど、本当なんだ!!」
「織斑先生もあなたならなんとかできるって言ってるの!」
「とても信じられる話しじゃないけど信じてくれ!!」
「お願い! 何でもするから!」
ん? 今なんでもって?
と、いけないいけない。ついネタに食いついてしまいそうになります。
桐ヶ谷さんに結城さん。織斑一夏と宍戸さんと続いてわたしに詰め寄ります。やめてくださいよ必死じゃないですか。
にしても、この人たちはよほど自分達の世界に執着があるんですねぇ? 別世界に行けるなんて楽しそうじゃないですか。わたしなら好き勝手遊んじゃいますよ? 帰る方法なんてその後ゆっくり考えればいいというのに……不思議です。
「まぁ、確かに学園の生徒だという貴方たちをわたしは知りませんし、嘘をついている可能性もありますが、信じましょう」
「「「本当!?」」」
営業スマイル全開のわたしの甘言に食いつく四人の姿に内心ほくそ笑む。あぁ、この藁にもすがりつこうとする姿、たまりません!! これだけでしばらくオカズに困りません! え? もちろん晩ご飯のですよ? ナニを想像したんですかこの変態。
「えぇ、本当ですよ。でも条件があります」
「な、なに?」
条件。その言葉に狼狽える『織斑一夏』の姿に懐かしさを感じつつも、やはりわたしの知っている織斑一夏ではないなぁと変な気持ちになります。
「さっき言ったALOってなんですか? わたしは貴方たちの世界に興味津々です」
「ふーむ、電脳世界へフルダイブが可能なVRMMOにそれが浸透した文化……ですか」
「あぁ。俺達はIS学園でVR研究部って部活を立ち上げて活動してるんだ」
「俺も将来は電子工学の勉強してその道で何かしたいと思っている」
「私もそのお手伝いがしたいって思ってるし」
「私はキリトくんの専業主婦♪」
「後半ノロケじゃないですかやだー」
桐ヶ谷さんが言うには、ヴァーチャル世界への憧れはいくらかの問題があったとしても抑えられないようで、批判の声に満ちていても研究を続けていくことをやめない世界。ISという兵器の開発と並行して進められるそれは民間へのためかあるいは軍事転用か? そうですね、その技術を使えば文字通り『脳に叩き込む』教育が可能。ならば軍にとっては訓練に使われる必要経費の削減に大いに助かることだろう。銃の扱い、作戦シミュレーション、仮想空間内での実践演習など全て機器の初期投資とプログラム開発だけで済む。あぁ、そうか。医療にも使えるな。脳へ直接信号を送れるのなら植物人間になった患者ともコンタクトが取れるし、未成年の長期入院による勉強の遅れも教育ソフトや通信教育による家庭教師で解決できるし、なにより入院中に仮想世界で過ごせればストレスの軽減にもなります。いや、待てよ? 逆に依存しすぎて現実に帰りたくなくなるのでは? こればかりは実際に臨床データが欲しいところですね。被験者を三百人ほど集めて実験したいなぁ。データ取るのに二十四時間体制でいろんな刺激を与えて、生活する姿をモニタリング、いや、いっそ自分も体験すればよりいいデータが……。
「……あの、なんか熟考しすぎて帰ってこなくなったんだけど?」
「あー、真季奈の悪い癖が……たまに考えすぎて周りが見えなくなるんだよ」
二人の一夏が顔を見合わせて喋る光景のなんとシュールなことか。それに構もせず真季奈の熟考は止まることはなかった。
「臨床……被験者……誘拐? いえむしろ騙し討ちしたほうが楽ですね。………ゲーム、あぁさっき話してたVRMMO……ログアウトボタンを消してしまえば……死ぬことへの恐怖という得難い実験も可能……ならいっそのことゲームオーバーで現実でも死ぬようにすればより良いデータが……」
「ちょっ!? この子何言ってるの!?」
「まずい!!? 止めてーーー!! みんなこの子止めてーーーーッ!!!!」
真季奈の物騒な発言に結城明日奈が声を上げて驚く。即座に『こちらの』一夏がストップをかけて周りに指示を飛ばした。あかん、急いで止めて、すぐ止めて!!
中略。
「いいですね! 作りましょうかVRMMORPG!」
「「「あんたにだけはやらせない!!!!」」」
全身をボロボロにさせながらもなんとか真季奈をロープでぐるぐるにふんじばり、床に転がすことで考えることをやめさせた面々。恐ろしいことに、最後の方では軍隊と協力して世界征服とかつぶやいていた。勘弁してください。
「そもそも、そんな簡単に作れないから」
と、桐ヶ谷和人が言うが。
「失礼な! 話に聞いた内容ぐらいなら三日もあれば作れますよ!!」
「うそん!?」
「というか、既にIS学園にも似たような施設があるのをご存じですか?」
「え、うん。地下一階にあるヴァーチャルルームだよね? 私たちもそこを部室にしているし」
宍戸百合子が言うのは、彼女たちの世界のIS学園のこと。彼女たちが立上げ、所属しているVR研究部はそこで活動しているのだ。
「いえ、そこではなく、もっと地下にある特別区域……あぁ、知らないんですね。とりあえず、IS学園にも電脳ダイブができる設備はあります。ついでに言うと、それを設計したのはわたしなのでゲームに改造するのなんて楽勝です。問題はハードの小型化ですが、まぁどうとでもなりますね」
「あの、もう一回聞くけど、この子なに?」
「一応、うちの世界で束さん以上の電子工学専攻のソフトプログラマーで、些細なハッキングからとんでも発明まで造っちゃう魔女ですハイ」
再び一夏同士の会話が始まる。どちらも疲れてる様子だ。
「束さん以上ってことは茅場か須郷レベルってこと? 勘弁してくれ………」
「その二人がどんな人かは知らないけど、気持ちはわかる。俺も避けられるトラブルは避けたいよ。それより真季奈? IS学園の設備の設計に関わっていたのか?」
「えぇ。だって世界最先端の技術の宝庫ですよ? IS学園は。なら、わたしに技術協力の話しが来るのは当然でしょう?」
「ちなみに何歳のときに?」
「えーと、七、八年前ですから七歳か八歳ぐらい? でしたっけね。いやぁ偉い人たちが小学生相手に菓子折り持って頼みに来たのには笑いをこらえるのに大変でしたよ」
「うん、さすが姐さん、いくつでもぶれないっすねホント」
IS学園が建設されたのはISが世界に発表された十年前。しかし、その広大な設備を一年やそこらで完成させることなどできず、数年の時間が掛かってしまっていた。その間にIS技術を文書にまとめ、教科書として書籍化し、教育者や技術者など人員の育成を行なっていたのだ。真季奈がISに初めて関わったのもこの時期である。
「その頃はいろいろ自漫がしたい年頃でしたからね。持ってる技術を惜しみなく提供しちゃいましたよ。後で後悔しましたが」
「なんで?」
「IS操縦者になったら今度は新兵装の開発までやらされました」
「もしかして第三世代?」
「勢い余って第四世代まで作りましたが何か?」
「お疲れ様っすいやホント」
「だったら肩を揉めぃ!!」
「はいッ! 悦んで!!」
などと、流れるようなコントが繰り広げられた。床に転がった真季奈を抱き上げ、ベッドに置いてロープを解き、自分の膝に座らせて彼女の肩を揉み始める織斑一夏。
その光景に。
「………君らどんな関係なの?」
疑問の声が。
「わたし専用のオモチャです」
「真季奈大好き愛の奴隷です」
揃ってとんでもない発言を聞いた四人が現実逃避を始めたのは無理もないことだろう。
「それではデウスを探しに行きますか」
「だな」
「「「ちょっと待って置いてかないで」」」
話が一気に進んでいた。進みすぎて俺達置いてかれてるよ。
「その前に、デウスってなに? 人の名前?」
「デウス( Deus)。ラテン語で『神』か……」
結城明日奈と桐ヶ谷和人が真季奈に聞く。彼女の言うデウスという言葉の意味。それを聞かされていなかった。
「あぁ、すみません。わたしが作った造った人口知能AIを搭載したISですよ」
「え、えぇ!?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! それって、こういうののことを言っているのか?」
真季奈の言葉に驚くのは一夏、いや、ナツ。二人も織斑一夏がいるのでややこしく、彼のゲームでのアカウント名である『ナツ』と呼ぶことにしたのだ。そしてもう一人は『キリト』。こちらも同様に桐ヶ谷和人のゲームでのアカウント名で、一夏のことをナツと呼ぶのなら自分も、と他の女子二名も同じ意見だった。まぁ、宍戸百合子はユリコ。結城明日奈はアスナと、彼女達の場合は本名と変わらなかったのだが。
真季奈の口にした言葉に驚いたのはキリトも同じで、彼は自分の携帯端末を取り出すと彼とアスナの『娘』を見せてみせた。
『は、初めまして! わたし、ユイっていいます』
「……初めまして。志波真季奈です、ユイちゃん」
キリトが取り出した携帯端末のディスプレイ。そこには黒いロングストレートの少女の姿が映し出されていた。そして自分の意志をもって喋っている。真季奈はこれにわずかばかりの動揺を見せたがそれをすぐに隠し挨拶をしてみせた。
「ふーむ、この子は別の端末からアクセスしている現実の少女、というわけではないのですよね?」
「あぁ。ユイはデータだ。でもちゃんと自分の意志をもった俺たちの娘だ」
『あ、あの……そんなにジロジロ見ないでくだ……さい』
「おっと失礼(バラして解析したいなぁ……どんなプロトコルで動いているんだろ?)」
キリトが取り出した端末の内部に存在するユイを食い入るように見る真季奈。彼女の科学者としての本能が自制できているうちに早く隠して欲しいものである。
「凄いですね彼女。誰がユイちゃんを組んだのです?」
真季奈はユイを差別したり奇異の目で見たりしない。あるのは純粋な好奇心。科学者としての危険な探究心のみ。特に、自分の得意分野である人口知能とかもう、ごちそうである。
「ユイの元になったプログラムを作ったのは茅場昌晶彦っていう科学者だよ。俺たちの世界じゃぁ間違いなく最高の量子物理学者で、VRMMORPGの開発者だった」
「(……だった?)そうですか。一度でもいいので会って話をしてみたかったですねぇ」
「どうしてだ?」
「とても話が合いそうだったので。きっと、彼はとてもリアリストなロマンチストだったんでしょうねぇ」
「なんでそう思うの?」
キリトの説明を聞き、真季奈は茅場晶彦という人物をそう評した。その意味を尋ねるのは、アスナだ。
「だって、科学でファンタジーを行おうと考えるなんて、現実を知り浪漫を求めた人間にしかできっこないですよ。わたしだってそうですし、あの篠ノ之束もそうでしょう?」
志波真季奈の尺度で語るなら、常軌を逸した科学者とはそういうものだった。現実のさなかに非現実を生み出す。それは不可能と言われたことを可能とする奇跡の顕現。それがファンタジーな世界を。ISを。新たな知的生命体を生み出した。
その人間性までもが常軌を逸しているのはご愛嬌である。
「ま、話がそれましたが。重要なのはデウスです。彼さえ確保できれば貴方たちは間違いなく元の世界に帰れますよ」
「「「本当!?」」」
突然の朗報。それに色めき立つ四人。まさかこんなにもあっさりと元の世界に帰れる手段が見つかるとは思ってもせず歓喜に打ちひしがれていた。
「そのデウスの特徴を教えますので、これからは二手に別れて捜索しましょう」
「わかった。それで? そのデウスっていうのはどんな端末に入っているんだ?」
「探すってことは移動しているの?」
「ISに搭載ってことは、誰かの専用機とか?」
「学園内にいる代表候補生ってこと? 私達の知っている人かな?」
真季奈の提案に各々意見を言うキリト、アスナ、ナツ、ユリコ。しかし驚くなかれ。
「デウスは独立してるんだ。ISに入っているのもそれを身体にして自由に『歩く』ためだし」
「独立して、歩いている!?」
『す、すごいです!!』
一夏の言葉に驚くのはキリトとユイだ。キリトの目標は娘であるユイに現実の世界で自由に生活できる身体を作ってあげること。それが実現していると聞かされれば驚きもひとしおだろう。
「それを造ったのもひょっとして……」
「勿論、わたしです。いい加減話を進めましょうよ。尺的にめんどい」
「あんた今何言った!? 尺!?」
気にしたら呑まれますよ?
「デウスの特徴ですが、まずひとつとして変身機能です」
「ヘンシン?」
「ISが待機状態として多種多様な姿に変えることができるのは知っていますね? それを利用してあの子は色んな姿に変身できるんです。なので、今彼がどんな格好で行動しているのかは会ってみないとわかりません」
「な、なるほど。でもそれじゃぁ俺たちもわからないんじゃ?」
二手に分かれる。しかし相手の姿が分からなければ探しようがない。そうキリトは思うが。
「ですのでデウスの姿を知るわたしと織斑一夏をリーダーとした二小隊に別れます。まずはわたし、キリトさん、アスナさんの第一小隊。次に織斑一夏、ナツさん、ユイさんの第二小隊です」
「え、いや、ナツと一夏を一緒にするのは問題なんじゃ? ……見た目的に」
同じ姿の人間が歩いている光景はなんと気味の悪いものか。初めて見れば双子かと納得するが、見慣れた人物だと流石に抵抗があった。
「いえ、むしろナツさんを単独で行動させるほうが危険です」
「あーそっか」
「「「危険ってなんで!?」」」
下手をすると学園内で出会い頭に殴られます。むしろ今すぐ真季奈から離れましょう。既に我慢の限界が近づいている模様。
「なので、わたし達第一小隊は校外のアリーナ近辺を。織斑一夏たち第二小隊は部活棟を含めた学園内を担当してください。何かあれば携帯で連絡を。間違ってもISのプライベート・チャンネルは使わないでください。というか、IS自体を使用しないでください」
「? なんで?」
「デウスは世界中のISの全在地をコア・ネットワークを介して把握する機能があるので逃げられます」
「……逃げるってなんで?」
真季奈の説明に疑問な点が増えていくキリト達。真季奈は構わず説明を続ける。
「それと、発見すれば見つからないように一気に飛びかかってください。追跡が知られれば瞬間移動で姿を消してしまいますので」
「瞬間移動!?」
「もしも敵対行動を取られればすかさず撤退を。アレが本気で戦闘モードに移行すればIS学園が焦土と化しますので」
「ねぇこの会話なんの話だっけ!? AIを探す話だよね!?」
「「? そうだけど?」」
「くぅっ! このナニ言ってんの? て顔がツライ!」
「ここにきて世界の壁を感じるわ!!」
真季奈と一夏が当然のように話すデウスのスペックは、ナツやキリト達別世界の住人が現時点での情報では全くの意味不明であった。
「あぁ! そういえば大事なことを話していませんでしたね!」
「そう! そうだよ! もっと詳しく……」
真季奈が手を叩いて状況を理解したふうに言う。そう、彼女はまだ彼らに伝えてないことが、
「デウスはですねぇ、アルバイトが趣味なんですよ!」
「「「んなことどうでもいいわーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」」」
深刻なツッコミ不足であった。
というわけで、探索開始です。
まずは真季奈、キリト、アスナの第一小隊から。
「アリーナを第1~第6まで見て回りましょう。その後は用務員のアルバイトをしてないかを確認して最後に学園寮を探索。それでダメなら第二小隊と合流してもう一度対策を考えましょう」
「わかった」
「それで、そのデウスってのはどんな姿をしているんだ?」
『あたし以外のAIと会えるなんてドキドキします!』
真季奈はは具体的な行動の指針を伝え、アスナは頷き、キリトやユイはデウスのことを尋ねた。そうしながらも彼女ら第一小隊はまずは第1アリーナへと向かっていく。
「まぁ想像もつきませんね。人間だったり全身装甲のISだったりドラゴンだったり犬だったりと、人機畜生なんでもござれですので。わたしが見つければその場でお伝えしますよ」
「そ、そうか。というより、ドラゴンってちょっと見てみたいなぁ」
「あ、うん、私も! ALOとかで出てくるモンスターみたいな感じなのかな?」
『喋るドラゴンさんですかー! 背中に乗ってみたいです!』
なまじゲームの知識があるからか、自分たちのドラゴン像を妄想で膨らませる三人。それに真季奈が説明を補足する。
「爬虫類のような生物的な姿ではなく、鋼鉄のドラゴンですけどね。首は三つあってボディ色は黄金。灼熱の翼で空を飛び、口から火を吐き爪で引き裂きます」
「それなんてキン○ギ○ラ!?」
『こ、こわいです~~~』
「じゃ、じゃぁ人間の姿は?」
「黒髪の成人男性、もしくはショタっ娘です」
「うん、ごめん。この話題はやめましょう」
アスナのストップがかかった。
そうこうするとアリーナが見え始める。真季奈はその入口へと入り、中にある係員呼び出し用の電話機の回線を引き抜くと持っていた端末のプラグを差し込んだ。
「なにをやっているんだ?」
「ここからアリーナ内の監視カメラの映像を確認して内部の人員を把握します。それらしい輩が見つかればそれで御の字です……………あ、いませんね」
「さらっと恐ろしいことしていた気もするけど、そうか居ないのか」
「それじゃぁ次に行きましょう。第2アリーナよね?」
そこで、
「あ、すいません。そういえば第2アリーナは今は無いんでした」
「はい?」
真季奈が言った言葉に度肝を抜くことになる。
「わたしが友達とISで模擬戦してたら倒壊させちゃって、今新しく建設中でした」
「アンタ何やってんの!?」
「てへ☆」
『あーーーーーーーっ!! ぱ、パパ! ママ! 第4アリーナも工事中です!!』
「ま、まさか……!?」
「てへ☆」
「「それもアンタかーーーーっ!!!!」」
こちらは第二小隊。
一夏とナツ、ユリコのチームはどうしているかというと。
「あれ? 織斑くんだ。二人いるけど……まぁいっか」
「織斑くんが二人? 姐さんがなんかしたのかな?」
「おりむらく……わたしは何も見なかった」
「うわ、きも」
心が折れそうになっていた。ナツが。
「? どうしたんだ暗い顔して?」
「むしろなんでお前は平然としているんだ!?」
「会う女の子みんなから家畜を見る目で見られてるのは何故!?」
日頃の行いです。
学園の廊下で既に心が折れそうになっているのは別世界のカップル二人だ。この世界の織斑一夏? いつも通りなのでへっちゃらです。
「なんだ、まだいたのかお前ら」
「「千冬姉ぇ(さん)!!」」
「織斑先生!」
そこへいろんな意味で彼らの姉である織斑千冬が通りかかる。
「正直いつまでもいられても面倒だ。帰るんならさっさと帰れ。帰らないんなら編入手続きをしてやるからさっさと決めろ」
「うわぁ暴君」
「な、なんか適当すぎない? 織斑先生ってこういう人だっけ?」
「い、いや……世界が違うからじゃないか? 並行世界ってちょっと違う可能性の世界っていうぐらいだし」
姉の自分たちの世界との性格の違い。それを感じて戸惑っていると、
「あ、千冬姉ぇ。デウス見なかった? もしかしてデートしてたとかないよね?」
「しとらんわ。というか、見かけたらむしろ教えろ。今日こそは………朝まで返さん」
「あ、俺できたら甥っ子がいいなぁ」
「ふふふ、吉報を待っていろ」
「あ、これ別人だわマジで! 何があったんだよこの世界!?」
「な、ナツ、落ち着いて」
酷い違いに気づいた。なにこれどゆこと!?
「お、おい一夏! ちょっと来い!!」
「え? どうしたんだよナツ?」
「いいから来て!!」
千冬と談笑中の一夏を捕まえて強引に引き離すナツとユリコ。そのさまは必死そのものであり、ある程度千冬と距離をとると彼女からは聞こえないように声を潜めて会話を始める。
「おい! なんで千冬姉はあんな……必死なんだよ!?」
「そもそもデウスって私達が探しているAIだよ、ね? 恋愛以前に甥っ子って無理じゃない?」
「あ、そゆこと。いいんだよ。デウスは俺の師匠でアニキで甲斐性ある大人だから」
「ごめんもう意味わからん!!」
「お願いだから最初から話してよぉ」
えー? と一夏は思うが無理もない。流石に姉がAI相手にお熱とか、婚期に焦るあまりに錯乱しているとか思えない。そもそも婚期に焦っている姿なんて見たくない。
「えーと、まずデウスが人間の男に変身できるだろ?」
「「うん」」
「で、千冬姉ぇと複数の大人の女性といい雰囲気になるだろ?」
「「う、うん?」」
「そんで、束さんが妊娠しただろ?」
「ちょっと待てーーーーーーーーッ!!!」
ストップがかかるが無視させていただきます。
「で、最近デウスの中に子供の元というか、精巣というか、とりあえずそういうのが出来てきたって真季奈が発見して」
「おいおいおいおいおいおいおい!!」
「だったら既成事実作ればいいじゃん! てなるだろ?」
「ならねぇよッ!!!」
「織斑先生ぇ……」
シリアスの住人を置いて行きっぱなしではあるが、ここでひとつ説明を。
進化に進化を重ね続けているデウスだが、先日とうとう人間と同じモノを『食事』するという機械である無機物では不可能なことが行えるようになった彼は、なんと身体の六割が有機物となるまで進化(変異?)を遂げていた。具体的に述べれば、子供を作れちゃうほどに。マジか。
そういう小話はさておき。
いくらか落ち着いた二人は改めて一夏の説明に補足を入れつつも聞き終わる。
「………ここって本当に違う世界なんだね」
「束さんが妊娠……相手は同級生のお父さん、というか、志波さんのお父さん……それで焦った千冬姉が機械に走った? ………帰りてぇ」
一人重傷である。
「ねぇ一夏くん。真季奈さんって何者なの?」
ユリコが一夏に聞く。自分たちとの世界との一番の違いを。
「うーん、この学園で一番逆らっちゃいけない人、かなぁ?」
「織斑先生じゃなくって?」
「千冬姉ぇならとっくに真季奈に降ってるよ」
「……おぉふ」
「そもそも、千冬姉ぇは真季奈の保護者みたいなものだからなぁ。基本、真季奈の言うことはなんでも聞いちゃうし」
「えー」
「あと真季奈を怒らせるなよ? 彼女はこの学園のボスにして姐さんだから。逆らったら死ぬよりひどい目に合うから」
「どうなってんのこの学園!?」
志波真季奈の面白可笑しい娯楽提供の場となっております。たまに真季奈もひどい目に合うが、大抵は自身の自業自得であり、彼女もそれは甘んじて受け入れている。
「ひ、ひどい目に合うって……真季奈さんって束さん並みの天才ってだけじゃないのか?」
「性格も束さん並みにエキセントリックっていえば分かる? あと千冬姉ぇレベルのIS操縦者で日本代表候補生」
「天は二物を与えた!?」
「ゲームでいうと製作者の調整ミス? うぅん……バグキャラ?」
「趣味は金儲けと娯楽全般。モットーは楽して儲ける。ニート万歳! わたしのために働け愚民ども! な性格だけどね」
「なんて残念なんだ……」
スペックは最高なのに中身が残念なのが惜しいところ。嫁の貰い手? 上手いこと猫を被れば簡単でしょうが夫婦生活はすぐに破綻することでしょうね。
「ひょっとして、ナツ達の世界じゃ真季奈はいないのか?」
「確実にいないと思う。いたら絶対に忘れねぇよ」
「そっかー。やっぱりそういうところが違うんだなー」
「おい、何時までくっちゃべっている?」
「「「「わっ!?」」」
三人が話し込んでいたときに織斑千冬が割り込んでくる。そろそろ内緒話もできそうになかった。
「ところで、そこの織斑弍号と宍戸」
「弍号って」
「は、はいっ!」
別世界のとはいえ弟を番号呼びとはあんまりである。しかし、愚弟と呼ばなかっただけ優しい方か?
「お前ら二人、付き合っているというのは本当か?」
「「うっ」」
「マジで!?」
これに驚いたのは彼女いない歴=年齢の、この世界の織斑一夏である。あ、千冬もそうでしたね。
「で? どの位の交際期間でどこまでヤったんだ? え?」
「ぐ、ぐいぐい聞いてくるなおい!?」
「私、織斑先生にこんなに歩み寄られたの初めてなのに……ッ」
「俺にも聞かせろおぉッ!! どうやった!? どうやって彼女を作ったんだよぉぉおぉ!!!」
迫る織斑姉弟に圧倒されるナツとユリコ。そこへ。
「「「一夏(さん)に彼女ができたと聞いて!!!」」」
箒、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、他数十人の女子一同が大挙して押しかけてきた!!
「き、貴様!! 真季奈だけでは飽き足らず、こんな大人しそうな少女にまで手をだしたか!?」
「一夏さんはドMでしょう!? その方にあなたの性癖が満たせるとお思いです!?」
「やっぱり乳か!? 乳なのか!?」
「一夏~? ちょっと御仕置きが必要かな~? 大丈夫~ちゃんと痛くしてあげるからね~?」
「姐さんがいながらその体たらく……万死に値する!!」
どこで聞きつけたのか。いや、愚問である。織斑一夏の話題があれば、例えそれがどんな些細なことでもにょきっ!と生えてくるのが彼女たち、いや。この世界の住人たちだった。
「ちょ、これ無理!!」
「この物量は……捌ききれない!!」
既に人数比は2:30、いやもっと増えつつある。もはや廊下には人、人、人。数が多すぎて先が見えない。
「に、逃げるぞ!」
「うん!」
異世界のカップルは手を取り合って走り出す。それを見て、
「きぃぃぃぃぃっ!! 逃すなぁあああああああ!!!」
血涙を流して追いかける独り身軍団。というか、その中にお前らの世界の織斑一夏がいるのに気づいてよ。一緒になって追いかけてるよ?
そしてデウスは探さなくていいのだろうか?
「何をやっているんですか?」
「「「ほんとすいませんでした!!!」」」
「「まったくだよ……」」
学園内が予想以上に騒がしくなっていたので、急遽予定を切り上げて合流した第一小隊と第二小隊の面々。流石の真季奈もこれには呆れ顔だった。それに全力で頭を下げる第二小隊と、キリト、アスナはどう言ってやればいいのやら、と言葉も出ない。
「とりあえずお腹も空きましたし、お昼ご飯にしましょうか」
「そうだな。収穫もなかったし、腹ごしらえでもしながら作戦を練るか」
「報告し合うこともあるかもしれないしね」
「「「何もできなくてすいませんでした」」」
ということで食堂へ。そこで彼らが見たものは、
「「「なんで一夏に馬乗りになっているの!?」」」
食券を買うための列に並ぶ間、四つん這いになった一夏の背に跨る真季奈の姿だった。
「は? 何を当たり前のことを聞いているんですか?」
「そっちでは常識でも俺たちにとっては意味不明なんだよ!!」
ナツの言葉にうんうんと首を縦に降る他の面子。どうやら彼らにはこの光景が異常に見えるらしい。不思議だなぁ。
「いいですか? ①列に並ぶ。②立ったまま待っているのは退屈だしツライ。③目の前に移動する椅子がある。④なら腰掛ければいいじゃない。……ほら!」
「その発想はおかしい」
「……まさか一夏くん、イジメられて……?」
真季奈の解答に頭を抱えるキリトや別世界の一夏を心配するユリコ。しかし、
「あぁ、真季奈の柔らかいお尻の感触と体温が背中に……この重みだけで最高だぜぇ」
「誰が重いですがこの愚図!!」
パァン! 織斑一夏の尻への真季奈のスパンキング!!
「ありがとうございます!!」
その扱いに恍惚の表情を浮かべる織斑一夏と、それを与えている志波真季奈の姿に確信する。
「ほっ……よかった。ただの変態な関係なんだね」
「いやよくねぇよ!?」
恋人の的確な判断に待ったをかけるナツ。あんな変態な姿の自分は正直見たくなかった。
「………まさかナツ君も百合子ちゃんにあんなことして欲しいと思っているんじゃ……?」
「………マジ勘弁してくださいよアスナさん」
心外である。頼むから別世界とか平行世界とか2Pキャラとか、なんでもいいので自分自身な他人の情事など見たくない。や、ホント。
そうやって見るに耐えない現実(かっこ悪い自分)から目を背けつつも列は進み、自分たちの順番になると、
「おばちゃん、A定食」
「はーい! でも次おばちゃんって言ったらフリルのスカート履かせてゲイバーに突っ込んでツッコんでもらいまーす!」
「ひぃっ!? すいません!」
「ていうか、誰?」
「また知らない人が……」
「あ、メッちゃん。食堂でバイト始めたんだ」
『A定食』の食券を厨房内の料理人に渡そうと声をかけるキリトに帰ったきたのは若い声の脅迫だった。まぁ、その相手が見たことのない美少女で、その相手に『おばちゃん』等と言い放ったのがそもそもの失言なので無理もない。
その女性の名は柴女黒ノ子。通称メッちゃん。黒髪サイドテールにメイド服を着た見た目美少女の………いや、うんよそう。
「………こんなところにいたのですか? どうりで見つからない筈です」
「あは♪ メッちゃん、バイトを増やしたんだぞ!☆ 名前と姿を変えれば給料だって複数名義で大儲け!」
「その分け前の半分を渡すのなら黙っていましょう」
「さっすがメッちゃんのご主人様! えげつなーい☆」
食堂のカウンター越しに広げられる後暗い取引。腹黒い笑を浮かべてほくそ笑む我らが姐さんと冗談はその格好だけにしてくれと叫びたいのをぐっと堪えるのに全力を出さないとどうにかなってしまいそうなメイド服野郎。
もうやだこのガメつい主従。
「貴方には今回の件で色々と聞きたいことがあります。さっさとそこを抜け出して来なさい。いいですね?」
「あいあいさー」
一番忙しいお昼のかきいれ時にそんなことができるのかと疑問に思うが、出来るんだろうなぁこいつなら。
そう思う一夏(ナツ)もいい具合に毒されている。
「さて、皆さんご飯は取りましたね? 席に座りましょうか」
「うん。えぇっと……」
真季奈が全員に促し百合子が席を探す。なにせ六人が座れるスペースだ。混雑するお昼の食堂では確保するのも難しい。ちなみに、すでにかなりの席が埋まっている模様である。
「座れなければ織斑一夏を椅子にするという手もありますが?」
「「「何がなんでも確保するのでお構いなく!!!」」」
真季奈の提案を全身全霊の思いを込めて丁重にお断りした面々。見知った他人とはいえ、椅子になった『織斑一夏』を眺めながらとる昼食など喉を通るはずもないのだ。
その甲斐あってか、必死に食堂内を見渡し、空いているスペースを確保し、それでも足りない席は頭を下げて隣に座っていた生徒たちに無理を言って詰めてもらって自分たち六人分の席を用意することができた。渋っている人? もちろんいたが真季奈の姿を見た瞬間に何かを察したのか酷くあっさりと移動してくれた。
「今更だけど、この学園を完全に支配してるよねこの子……」
「失礼な。それではまるでわたしが独裁者のようではありませんか。ぷんぷん」
「これほど下手くそなぶりっこ見たことない!」
「はは、は」
疲れたようにこぼすアスナの言葉に真季奈が頬を膨らませてあざとく抗議する。その姿に戦慄するのはナツだ。そんな光景に他の者は乾いた笑みを浮かべるしかない。
「それでは皆さん。ご飯を食べながらでいいので聞いてください」
「? なにかな志波さん?」
無事に席につき食事を始めた彼らに真季奈が言う。その内容とは。
「さっきそこにデウスがいましたよ?」
「「「もっと早く言えーーーーー!!!」」」
総ツッコミである。無理もない。彼らはそのデウスを探して奔走していたのだから。
「まさか食堂でバイトしていたとは……。こんなに簡単に見つかるならさっさとデウスに付けてた発信機を出しておけばよかったです」
「今なんつった!? 発信機?!」
「そんなのあるなら初めから使ってよ!!」
「え? やですよ。つまんない」
「そういう問題かーーッ!!」
可哀想に。真季奈が呟いた発信機という言葉。それにいち早く反応したのは午前中、真季奈と共に行動していたキリトとアスナである。
「そんな、そんなものがあるなら俺達は……用務員のおじさんにチェーンソーで追いかけられることも……」
「なぜか学園にいたナターシャさんに『リア充滅ぶべし!』って『銀の福音』の全弾発射から必死に逃げなくてもすんだのに……」
「お、おおぅ……」
「た、大変な目に合ってたんですね」
死んだ目で虚ろに話し始める二人。彼らが味わった地獄絵図はナツ達には想像できない。というか、ナニそれどゆこと?
「まぁ、よくあることです」
「あるのよ☆」
「え? だれ?」
と、そこへ割り込んでくる見知らぬ人物が一人。ナツが知らないその声の主は、
「柴女黒ノ子改め、デウスでーっす☆ よろしくーー!」
「頼むから止めろ馬鹿息子」
きゃるーん☆ と効果音がつきそうなポーズとメイド服で現れたのは、黒髪サイドテールの男の娘。源氏名『柴女黒ノ子』ことデウスである。
その姿に頭を痛めるのは開発者にして生みの親、真季奈である。心なしか顔に影が入っていた。
「………え? この子が、デウス?!」
「嘘だろ!? AI搭載ロボっていうからもっと……こんなっ!?」
「どう見ても普通の女の子……よね?」
「いや、アスナさん。さっき真季奈さんが馬鹿息子って、え? うそ、だよね?」
驚愕するキリトら異世界の面々。彼らは無意識にこう想像していたのだ。『デウス』という機械
まさに人間そのもの。
彼らにもユイという娘と呼ぶ人口知能搭載型AIの少女がいるが、彼女の行動できる範囲はデータ世界のみ。そこでなら同じように人と瓜二つの姿で行動できるがそれも所詮は高度なグラフィックでの姿だ。
これはおかしい。なんだこれは?
キリトがまっ先に考えたのは認めたくない技術か、それを欲する欲望か。
これさえあればユイだって……。
『その願いは流石に
「!?」
声が変わる。姿も。
そこに居たのはもはやメイド服の少女(?)ではない。長身、黒髪、黒いスーツ姿の成人男性。
その名は。
『デウスだ。さぁ、遊ぼうかガキ共』
「それじゃあ、『第一回! 真季奈ちゃんを楽しめさせたら勝っちゃねん選手権!!』始めるわよーー!!」
「「「イエェーーーーーーーーーーーーーーイッ!!!!」」」
「「「なにそれ!?」」」
ここは第1アリーナである。そこでは大勢の生徒が観客席に集まっておりその眼下、フィールド内には真季奈を筆頭に、デウス、一夏、ナツ、キリト、アスナ、ユリコ、更識楯無、簪が集まっていた。
ちなみに、更識姉妹は急遽設けられた『生徒会運営テント(臨時)』にて長机とパイプ椅子に座りマイクを掴んでこのイベントを進行している。
どうしてこうなった?
「細かいことは気にしない! それではルールを説明しまーす! 簪ちゃん!」
「はい。ルールを説明します時期生徒会長の更識簪です。次期生徒会長の簪です。皆さんも現会長のリコールにご協力ください。それでは説明します」
「うん、さらっとお姉ちゃんを追い詰める! 流石簪ちゃんは「ルールは簡単です。真季奈を楽しませてください。そうしたら勝ちです」言わせてよ!!」
ルール:真季奈を楽しませたら優勝。
実にざっくりした内容である。無理もない。彼女たちもつい今しがたこのイベントを聞かされたのだ。それ以上の内容などないのである。むしろ何故こんなことになったのか教えて欲しいものだ。
「それでは解説のデウスさん。何か一言どうぞ」
『うーん、そうですねぇ。やはり真季奈の趣味嗜好をを上手くつければ勝算があるかと』
「なるほど!」
おいお前、そこで何をしている? そう思ったのは誰だったか。
更識姉妹が並ぶテントの中になんのコスプレか、一匹の黒い毛皮の柴犬が伊達メガネをかけて座っていた。どうやら解説キャラのつもりらしい。
「なんでこんな事態に……」
「というか、デウスってあの柴犬のことだったの!?」
「道理で俺たちを元の世界に帰せるはずだよ!」
「………連れてきた本人だもんね」
彼らはテントの中の解説を見て我が目を疑った。
だって、自分たちを拉致したあんちくしょうがいるんだもん。おい今すぐ殴らせろ。
「まぁまぁ、落ち着いて。とりあえず遊んでれば帰れそうなんですから楽しみましょうよ」
「いや真季奈? 流石に本人たちからすればそうも言ってられないと思うぜ?」
デウスの姿を恨めしげに見つめる四人に何気なく話しかける真季奈に、こちらの世界の一夏がやんわりと気遣いをみせる。真季奈からすればただの娯楽だが、『帰還』がかかっている彼らからすれば何を楽しめというのだろうか。
「それでは始めましょう! まずはこの人! 宍戸百合子さんです!!」
「誰?」
『言わないであげて』
最初の挑戦者(?)として呼ばれたのは宍戸百合子。並行世界の織斑一夏の彼女である。なので、司会をしている更識姉妹にとっては「え? 誰? うちの学園にいないよね?」と言う状態なのである。一応、学園で発見されたときに生徒会に彼らの連絡は行っているがそれでもこれが初見である。
「ま、まさかこんなことになるなんて」
「まぁまぁ。いいじゃないですかオリキャラ同士仲良くしましょう」
「それどういう意味!?」
知らないほうが幸せなことがあるもんです世界って。
真季奈の前にビクビクと怯えた様子で立つユリコ。その彼女の背を励ますように仲間たちの声援が後押しする。
「それでは宍戸さん。用意はいいでしょうか!」
「は、はい!」
司会席から楯無がマイク片手に楽しそうに叫ぶ。それでは。
「さぁ! 何かしてください!」
「ざっくりすぎるだろおいぃッ!!!」
「酷い無茶ぶりだ!!」
「な、なにをすれば……」
ユリコと同郷の男子陣。キリトとナツがあまりにな進行に抗議を入れる。それ以上に戸惑っているのがユリコだ。
「なにをそんなに焦っているんですか?」
「だ、だって」
皆で帰る。そのための
「で、でも……頑張るから!」
「おぉ!」
だがしかし、宍戸百合子。決断すればどこまでも思い切る女である。腹を決めた女は強いのだ。
「じゃぁその、何をしよっか?」
「それをわたしに聞きますか」
「ご、ごめん」
挑戦者が挑戦内容を挑戦する相手に尋ねるとはこれいかに。急なことだし無理もない、か?
「それではわたしが決めさせていただきます。お題は、『織斑一夏のあんな事こんなこと100選! 赤裸々トーーーック!!』」
「「ちょっと待ってくんない!?」」
待たない。
「そ、それは!?」
「ふふふ、さぁ語ろうじゃないですか! お互いが知る、『織斑一夏』のあんなことやこんなことを!!」
「の、望むところです!!」
「「望まないで頼むからぁっ!!」」
二人の織斑一夏の制止も聞かぬまま、誰も得をしない戦いが始まった!
「ふふふ、それではわたしから行きますよ!! 織斑一夏の朝から晩までの行動の全てをお話しましょう!」
「ちょ、ま」
真季奈の先制。それに焦るのは当然こちらの織斑一夏で。
「織斑一夏はまず朝六時に起きて軽く
「グハァッ!」
「お、おい! 気をしっかり持て一夏ーーーーーッ!!!」
「む、惨すぎる!!」
「「「うわぁ…………って、んん!?!?」」」
真季奈のぶっちゃけた発言に、まるで強烈なボディブローを食らったかのような衝撃を受けて倒れふす織斑一夏。それを支えるのはキリトとナツだ。特にナツはこのあとは自分もこうなるのかと恐怖でいっぱいである。
しかし女性陣は気づく。
あれ? なんかおかしい。いや、やばい内容の発言がなかったか!? と。
「今度はこっちの番です!」
「やめてくれ百合子!!」
だが遅い。
「私とナツは【SAO帰還者のISをご確認ください】で、知り合って【SAO帰還者のISをご確認ください】なこともたくさんあったけど恋人同士になって一緒に結婚もしたりしたの! ナツはいつも私のことを守ってくれて、かっこよくてそれから【SAO帰還者のISをご確認ください】【SAO帰還者のISをご確認ください】【SAO帰還者のISをご確認ください】【SAO帰還者のISをご確認ください】【SAO帰還者のISをご確認ください】【SAO帰還者のISをご確認ください】【SAO帰還者のISをご確認ください】【SAO帰還者のISをご確認ください】【SAO帰還者のISをご確認ください】【SAO帰還者のISをご確認ください】【SAO帰還者のISをご確認ください】【SAO帰還者のISをご確認ください】【SAO帰還者のISをご確認ください】【SAO帰還者のISをご確認ください】なの!!」
宍戸百合子は語った。彼女の織斑一夏(ナツ)との出会いとその後の生活。デートしたり一緒にした冒険の数々とその時に見た彼の勇姿を。人前で話せないような内容はさすがに省略していたが、それはまぁ【SAO帰還者のISをご確認ください】である。
それでも、彼女の語った内容は、甘く桃色な恋愛模様でその威力は凄まじく。
「「ぐふぅぉっ!!!」」
二名が倒れた。
「ナツ!?」
「ま、真季奈ーーーッ!?」
特に真季奈は重傷である。
「と、吐血!?」
「なんで志波さんがダメージを!? ナツは……まぁわかるけど」
「うぅぅ……く、まさかこれほどの惚気っぷりとは……想像以上でぇす……がはッ」
一夏の腕の中で息を引きと……る寸前の真季奈。血を吐き白目をむくその姿はまさに瀕死。なぜならば。
「真季奈はピュアい綺麗なことを聞くと拒絶反応を起こすんだよ!!」
「光属性に弱い魔物かよ!!!」
「完全に邪悪な一族じゃねーか!!」
似たようなものである。
「はい! 真季奈ちゃんノックアウト! それでは~~~っ!!」
「勝者、マッキー」
「なんで!?」
司会の更識姉妹がジャッジを告げる。が、それは予想外の宣告だった。
「え~、今回の企画は真季奈ちゃんを楽しませるところにありま~す。なので!」
「倒しちゃダメ!」
『結果よりも過程が重要というわけですねぇ~』
つまりはそういうこと。
例えるなら、誕生日会の主役をパーティゲームでボコボコにするようなものである。要するに、『空気読め』。
「そ、そんな……皆、ごめん」
「あ、いや。百合子が気にすることないよ、うん」
「うぅぅっ、リア充滅ぶべしぃ……」
「はいはい真季奈、いい加減機嫌直そうな。リア充とか、そんな……ホント滅びないかなぁ」
「「「うんうん!!」」」
勝負に勝って試合に負ける。落ち込む百合子を慰めるナツだが、真季奈や一夏、IS学園お生徒たちは概ね同じ意見のようだった。
「この世界のIS学園、なんでこんなにリア充を敵視するんだ?」
「色々あったんだよ」
主に、一夏に群がる女性関係を遠巻きに見ている者たちや、自分を差し置いてメガネ巨乳持ちの彼女をつくった親友とか、婚活に焦る教師陣とか主にそんな感じである。ひどい。
「それでは次行ってみましょう! お次の挑戦者はこちら! なんでもう一人いるんだと意見大多数! 織斑一夏ーーーッ!!」
「ひっこめー!」「この女の敵!」「変態!」「変態!」「ドスケベ魔人!」「志波さんを泣かせるなーー!」「人身御供!」「カ・エ・レ!」「カ・エ・レ!」「カ・エ・レ!」
「やる前に心折れるわ!!!」
平行世界の別人とか、そんな事情を知らない生徒たちから剛速球で投げかけられる罵声の嵐。それを苦しく思うのはやはり耐性がないからか。
「それでは真季奈ちゃん、準備を……できる?」
楯無がぐったりと倒れふす真季奈に尋ねる。勝負できる? と。
「あ、無理。選手交代でお願いします」
「いいんですか? 解説のデウスさん?」
『いいんじゃないでしょうか? ようは真季奈が楽しめればいいので』
「なるほど。それでは真季奈ちゃん! 代わりの選手を指名してください!!」
「もちろん、『わたしの』織斑一夏で!!」
「「「おお!!」」」
「マジで!?」
まさかの織斑一夏対決とあいなりました。二人の織斑一夏がフィールドの中央で向かい合って立つ。
「まさか自分と戦うことになるなんてな」
「あぁ。ちょっとやりづらいよな」
互いの同じ顔を見てそう言葉を交わす二人。無理もない。自分自身と戦え。よく聞く言葉だが実際やるとなると気味が悪い。
「それでは勝負の内容はどうしましょう!」
「あ、わたしが決めてもいいですか?」
楯無がの言葉に真季奈が答える。無論誰も文句はない。
真季奈は二人に近づき、
「あ、その前に二人ともいっちょ友好の証に握手でもしません? こんな機会めったにありませんし」
「めったにというか、まずありえない状況なんだけどな」
「まぁいいけどさ……何か企んでないか真季奈?」
「えー? そんなことないですよ? ほら、握手握手!」
そう言って強引に、二人の一夏の手と手を握って近づける真季奈。そうもされれば握手をする他なくなるわけで、二人はぎこちなく握手をした。
ガッチャンコ!
「「え?」」
手錠がはめられた。
「「えええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」」
「ルールは簡単! 殴り合って立っていたほうが勝ち! チェーンデスマッチ、ファイっ!」
「ハメやがったな真季奈!?」
「女の子に向かってハメるとかいうなこの変態が!!」
バチコーンッ! 真季奈のスナップの効いた強烈な平手打ち!
「ありがとうございます!!」
「さぁ試合開始のゴングがなりました。それでは殴り合ってください」
「簪!? なんでそんな淡々と進めてるんだ!? 何があったんだこの世界のお前に!?」
『おっと? 大変戸惑っているナツくんですが、そこへ一夏の右ストレートが迫ります』
「!?」
などと、グダグダな進行で状況は進んでいるが、一旦整理しよう。
現在、二人の一夏たちは鎖の長さが一メートルほどある手錠(なぜ真季奈が持っていたかは不明)を互いの左手にはめられて繋がっている。そんな状態で始まったチェーンデスマッチ。一夏は真季奈に先制攻撃をかけられて大きくダメージを受け、それを開始の合図と更識簪がゴングを鳴らす。その非情なまでの簪の行動力にナツは自分の知らない彼女の姿に混乱しその好きを一夏は見逃すことなく殴りかかる。デウスはジュース飲みながらのんきに実況してるよ?
何これカオス。
「ちぃ! よけられたか!!」
「お前躊躇なく殴りに来たな!? なんなの!?」
「バカヤロウ!! お前にはアレが見えないのか!?」
「アレ!?」
ナツを容赦なく殴ろうとする一夏。そのあまりにもな暴挙に混乱するが、一夏の指さす方を見ると、納得した。
そこには、
「な、なにあれ?」
「……ボイスレコーダー」
ニコニコの笑顔でボイスレコーダー(先程の赤裸々トーク録音済み)を握り締めた真季奈の姿があった。もちろん、全世界に配信する準備も万全である。
神は言った。
負ければ
「「……………」」
無言で拳を握り合う一夏たちがいた。
彼らはその時悟ったのだ。自分たちに、退路などないことを!
「「あんな恥しいもん晒されてたまるかーーーーーッ!!!」」
※大変お見苦しい殴り合いが繰り広げられています。デウスとユイちゃんのトークをお聞きください。
『デウスさんっておいくつなんですか?』
『俺? 完成してからだと二歳ちょっとかな?』
『わー! じゃぁユイよりもお兄さんですー!』
『ははは、自分以外にAIの知り合いは居ないのか? 俺の妹たちも紹介するぞ? 猫と猿だ』
『ネコさんとおさるさんですかー! お友達になりたいです!』
コンチクショー! ウオー! ガンバレナツー!! ソコダー! イケー!!
殴り合う男たちを尻目に、AI達がテントで談笑する。黒い柴犬の姿でデウスがユイのデータが入った端末を片手にする姿はどこぞの携帯会社のお父さんか。
『デウスさんってドラゴンになれるって本当ですか? わたし見てみたいです!』
『お? いいぞー。そーれ変身! そして変形!』
デウスはユイの望むまま、その姿を柴犬から『デウス EX ソーラレイカー』に変える。現れたのは黄金のボディに両肩が青いドラゴンショルダー。背に真紅に輝く翼を持った黄金の守護神。
それがさらに変わる。両肩を前方に九十度回転。手足をクローに変形させ、出現させた赤い盾を顔に装着する。そこに完成したのは赤と二つの青い頭部という三首竜。
その名は、
『デウス EX ソーラレイカー、トリニティドラゴンモード!!』
『わー! おっきいですーー!!』
『フハハハハハ!! そうだろうそうだろう!』
ハイッタ!ボディハイッタ! タタミカケロナツー!! コンジョウミセロイチカー!!
『怪獣さんですー!』
『え、いや。一応、神竜なんだけど……』
『やっぱり口からビームとか出せるんですか!?』
『出るぞ!』
『見たいです!』
『よっしゃぁ! はいどーん!』
ピカァッ! 三つの竜口から黄金の光の奔流が溢れ出し照射された!!
ギャーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! ナンカトンデキターーー!!?? ナツーーッ!?
『あ』
『俺しーらない』
中略!
「勝者! ナツくん! お疲れっしたぁっ!」
「お、お疲れっしたぁ……」
服がはボロボロ。体は黒く煤け。とても殴り合いでできた後には見えない様相でナツはふらふらと立つ。
どうしたんでしょうかねぇ?
「「「突然ビームの流れ弾が来たんだよ!!!!」」」
「織斑一夏がヤムチャってるんですけど」
そしてもう一人。フィールドに出来たクレーターの中心で倒れふす織斑一夏の姿があった。直撃である。
『いや、あれですね。やはり勝負を決めたのは二人の技能の差が命運を分けたといえるでしょう』
「ふんふん。それはどうゆうことでしょう? 解説のデウスさん?」
完全スルーでトークを始めやがったよ犯人と司会め。
『俺と真季奈が鍛えた織斑一夏は主に体力の向上と打たれ強さ、そしてISでの戦闘に重点を置いて鍛えてきました。しかし一方、ナツ君は『戦う身体』に鍛えあげていますね。全身の筋肉や繰り出す技の数々はしっかりと対人戦を想定した動きでした。これには異常なまでに打たれ強いだけの一夏には耐えることはできても反撃に転じる隙をつかめなかった。やられるがままダメージが身体に蓄積されていったのでしょう』
「つまり、肉体面での差はなかったが戦闘技能の差で負けた、と?」
『一言で言えば修行不足ですね。あー残念だった! もっと鍛えておけばよかったなー(棒)』
「「「やかましいわ!!!」」」
『ご、ごめんなさいです~~!!』
「ユイちゃんは悪くないよ~?」
『あ、ずるいぞ! これだから過保護な母親は!』
原因の一旦であるユイも慌てて謝るが、それを許すアスナ。デウスは抗議を入れるがその場の全員から「文句あんのか?」という視線に封殺される。
またもグタグタの結果であるが、勝者はナツに決まった。しかし、
「さてどうでしょう? 真季奈さん。楽しめたでしょうか!?」
「え? 織斑一夏の無様な姿なんて基本すぎて新鮮味ないじゃないですか」
「はい! 皆さん残念でした!!」
「「「ふざけんなーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」」」
一同大絶叫。当然である。しかしそれは真季奈にとっても同じこと。彼女の目的はどっちが勝つかではない。その後の罰ゲームである。
「というわけで、負けた織斑一夏の方の『録音データ』を全世界に投稿!」
真季奈が地面で気絶していた織斑一夏のそばで彼の耳に叫ぶ。それを虚ろな意識で聞いた一夏は、
「鬼! 悪魔!! 止めてくださいほんと勘弁してください!!!!」
一瞬で意識を覚醒させ跳ね上がるように起き上がる。そのまま土下座の体制に移行し、必死の弁明を始める。
「いや、たしかに俺負けましたけどね!? デウスの流れ弾が無ければもうちょっと粘れたと思うんですよ! だから一方的に俺ばかりを攻めるのはどうかと思わないでせうか?!」
「うーん、どうしましょうかねぇ~? やっぱり負けは負けですしそれ相応のペネルティは必要だと思いません? それと、その理屈だと結局負けるのは時間の問題だったんじゃないですかー」
「うぐっ! それはそうなんですけどね……せめてその録音データの流出だけはマジで勘弁してくださいお願いします!!!」
ちなみに、この会話の間中織斑一夏はずっと土下座の姿勢のままである。
「…………なんでアイツ、あんなに元気なんだ?」
「ビームの直撃受けてたよね?」
「完全に尻に敷かれてるわ」
「力関係がはっきりしてるなぁ」
一夏の異常なまでの回復力に戦慄を覚えるキリトたち。真季奈たちにとっては見慣れた変態性ではあるが彼らには耐性がなかったらしい。
織斑一夏の必死の土下座など真季奈にとっては娯楽である。相手の要求に心を傾ける気など欠片も沸き上がることはない。むしろ、このままどこまで織斑一夏の痴態を継続させることができるか、そちらを考えるほうが需要なのである。
「三回回ってワン……は見飽きてるし、お手や伏せなんて指示もつまらないですねぇ。ならこの場で全裸で裸踊り? それはまだ早い、か。あ、そうだ。いっそこのまま放置して土下座模様を撮影するというのはどうでしょう!」
「どうでしょうじゃねぇよ!! アンタどんだけドS!?」
「そうですその顔! いい絶望っぷりです!!」
涙目で一夏が叫ぶ。その顔を見て、真季奈は恍惚の笑を浮かべた。
あまりに酷いので織斑一夏への罰ゲームは後日、デウス立会いの下でくだされることとなりました。
「はい! それではこれで最後と行きましょう!」
「尺的にもそろそろ辛いしね」
「簪ちゃんダメ!」
司会が進行を進める中、簪が触れてはいけないことに触れそうになったが楯無がすかさず止める。そういうわけで、次が最後の対決となるようである。
「それで、何をするの?」
『うーん、残ってるのは桐ヶ谷和人と結城明日奈か………好きに決めてもらえばいいんじゃね?』
「うわーなんという適当な解説でしょう! じゃぁ桐ヶ谷君! ビシっと決めちゃってください!」
「だから無茶ぶりが過ぎませんかねぇ!?」
ガンバレ男の子!
会場の視線が全てキリトへと集まる。全員が彼の行動、発言に注目しているのだ。
さぁどうする? 何をするんだ? と。
「……うぅ、胃が痛くなってきた」
「意外とメンタル弱いですね彼」
「キリト君、人前に出るの苦手だから……それでも大分慣れてきたんだよ?」
「あぁ。いわゆるコミュ症というやつですか。そんなもの、周りの人間全てを豚だと思えばいいだけですよ」
「カボチャの間違いじゃないかな!?」
例えは酷いが食料と言う意味では同じである。しかし彼と彼女では比較するというのは酷だと思う。真季奈の場合、その周りの豚共を鳴かせるまでが入っているからだ。
話を戻そう。
キリトこと、桐ヶ谷和人は悩んでいた。
これが最後。つまり、これが自分たちの世界に帰還するための最後のチャンスだということ。失敗は許されない。何故なら、自分には、いや。自分たちにはやらなくてはならないことがあるのだから。
ならばどうすればいい? 真季奈を楽しませるような、自分にとって得意とする方法とは?
桐ヶ谷和人からすれば、志波真季奈は自分が夢の到達点に既に足を踏み入れた存在だと思う。自分の愛娘、『ユイ』と同等かそれ以上の人口知能搭載型AI、デウスを独力で開発。いつかユイに造ってあげたいと思っている機械による生体ボディまでも造り上げそれをデウスに与えている。
つまり、彼女なら今すぐにでもユイに『身体』を与えてやることができるのだ。
だから自分ではそういった分野で勝ち目などなく、楽しませる要素などない。むしろ、何かをしようものなら教師が生徒を見守るような、生暖かい目で見られること間違いない。
ということは、だ。自分に残されたのはゲームの、SAOやALOで培った技術。その発展としてのISでのソードスキルを用いた戦闘。
そうだ、今の俺は『黒の剣士』というIS操縦者だ。ならば、
『剣で語れというのなら望むところです』
あの時のように、戦うのみ!
「志波さん! 俺とISで勝負だ!」
「……ほう?」
「「『ちょまッ!?』」」
ある意味、全ての観客の度肝を抜く言葉が飛び出してきた。数百人分の驚愕の叫びがアリーナに響く。
「「「?」」」
その様子に疑問を浮かべる三つの反応。知らぬは別世界の当事者たちのみである。
アリーナのピットである。ここでは現在、真季奈を除いた全ておメンバーがキリトが勝つために試合の作戦会議が行われていた。
「ハンデをつけてもらおう」
「おいこら」
真顔で開口一番にそんなふざけたことを言い出したのは織斑一夏、この世界で志波真季奈に詳しい方の男である。
「……キリトさんの機体って近接・遠距離型どっち?」
「えっと、ブレードを主体とした近接型だけど……射撃武器はなくて投擲武器ならある」
「………oh」
その言葉に頭を抱える一夏。彼だけでない。その場にいた他のIS操縦者もそうだ。
「え? な、なに? どうしたのみんな!?」
その光景にアスナが戸惑う。その言葉に
「真季奈ちゃんね………私達全員で同時にかかっても勝てないの……」
「はぁ!?」
「…………この間は何分で負けたっけ?」
「三十分ですわ……ブルーティアーズを乗っ取られて、シャルロットさんとラウラさんが操られてフレンドリーファイヤを連発して……」
「私なんてナノマシンの制御プログラムを戦闘中に書き換えられて元に戻すので精一杯だったわ」
「ふふふ……私の『紅椿』はエネルギー回復係として利用されたなぁ(泣)。『単一能力』で回復して、それを搾取され続けた、な」
「山嵐の全弾が明後日の方向に飛んでいったのはいい思い出」
「俺と鈴は気を失うまでボコられ続けたんだけど……」
「「散々利用された挙句、最後はエネルギーを全部奪われましたが何か?」」
「「「ちょっとまってどういうこと!?!?」」」
全員が死んだ目で語る中、平行世界組の四名が口を揃えて待ったをかける。
なんだその化物は? と。
「真季奈のIS『暮桜
「えぇ、超加速ウイング『
「それもう反則だよな!? 相手の機体を乗っ取る!?」
キリトは自分がこれから戦う相手の思いがけない能力に驚くが、それだけではなかった。
「他にも単一能力で『天下騒乱』があるの。これは接触した敵機からシールド・エネルギーを直接奪うことができるわ」
「はぁ!?」
「それと、ビットも扱えますの。わたくしのティアーズのようにビームを撃つのではなく、実体剣による飛行する斬撃ですが」
「BT特性も持ってんの!?」
「他にもビームガトリング、曲射ビームボウ、光雷球、仕込みナイフにアンカーワイヤー……あとなんだっけ?」
「ミラージュビットと『獣王武神』モードに『邪黒覇道爆滅波』でしょ?」
あぁ~~あったなぁ。と真季奈をよく知る面々が引きつった笑みを浮かべながら談笑するが、キリトたちからすればとんでもない話だった。
「で、でも、そんなオーバースペック、人間に扱いきれるの?」
アスナがそう尋ねるのも無理はない。ISは空を翔る高速戦闘が主流。そんな状態で機械制御、それも敵機のものも同時に行うなど出来るのか? と。
「真季奈は同時に二十機の無人ISを相手にして操ってみせた。しかも最後は全機自爆させたし」
「 」
「『暮桜 天マキナ』を真季奈は使いこなせる。なにせ、束さん並みの頭脳と千冬姉ぇが鍛え上げたんだぜ?」
言うなれば人類が産み落としたバグのような存在。人を超えた脳髄と細胞。志波一族が何百年とかけて品種改良を重ねた結果生まれた、人類の亜種とも呼べる少女。
彼女の機体に自らの名を刻み込んだのは唯の誇張でも飾りでもない。それはまさしく自分にしか扱えないという文字通り、専用機の証なのだ。
「……おもしれぇ」
「え?」
しかしこの男は怯まなかった。
「つまり、志波さんがこの学園最強ってことだろ? だったら戦わない方が損だぜ!!」
「最強っていうか最凶だけどね」
一夏がしっかりと訂正するがそんな言葉はこのバトルジャンキーには届かなかった。
「明日奈、ナツ、百合子! 俺は絶対に勝つ! だからみんなで一緒に、俺たちの世界に帰るぞ!」
「うん!」
「それじゃぁ早く作戦会議といこうぜ!」
「真季奈さん攻略会議だね!」
かつてのSAO時代の階層ボスの攻略会議のように、真季奈を倒すための会議が始まる。そして、その十分後。
『黒の剣士』による魔王討伐戦が始まる。
アリーナのフィールド内。大地で対峙する二つの『黒』がいた。
志波真季奈の『暮桜 天マキナ』と桐ヶ谷和人の『黒鐡』である。互いの専用機を身に纏い、視線の火花をぶつけ合い睨み合う。
「それで? お勉強の方は無事に終わりましたか?」
「あぁ、バッチシさ!」
真季奈の軽い挑発。それを真っ向から受けるキリト。
「じゃぁ、あとでわたし手製の宿題でも出しましょうかね? 機械工学と生体工学、二つの分野においての融和におけるメリットとその問題点についての論文をレポート用紙十枚でまとめて提出してください」
「え!? いや、それはまだちょっと……」
「冗談です」
「分かりづらい冗談はやめてくれないかな!!」
「……でも、わたしに勝てれば昔書いた論文くらいなら差し上げますよ」
「俄然やる気でた!!」
『それでは試合開始!!』
更識楯無によるアナウンスが響く。試合が始まり、二人は冗談を言い合っていたことなど忘れ、戦闘を始める。
「あれが『黒織』。どことなく『白式』に似ているな」
「あぁ、元は同じ機体だからな。それよりもなんだよあの志波さんの機体! 千冬姉の『暮桜』の原型が全くねぇぞ!!」
「魔改造を重ねてきたからなぁ」
ナツが驚くのも無理はない。真季奈の今の機体。『暮桜』は元々は織斑千冬の専用機、それを真季奈専用に仕立て上げ、何度も改造した機体。もはや元の面影など見当たらず、その姿は一種の禍々しさすら感じる。
「ん? あれ!? 一夏! 真季奈の機体、また変わってない!?」
「!? ホ、ホントだ……頭の装備が変わってる。また弄ったのか……」
シャルロットが気づいたこと。それは真季奈の装備、頭部に装着されたセンサーが大きく変貌してた。
ISの装備は、全身のの装甲、背部のウイング、頭部や装甲に散りばめられたのセンサー類に各種武装となっている。中でも頭部の装備は機体の特徴をよく表しているとも言える。見た目もそうだが、遠距離武装がメインの機体は高性能な視覚拡張機能を有しているし、複雑な演算が必要な武装を有していればその補助となる機能を持つもの、または単なる飾りということも、まぁ稀にだがある。
真季奈の場合はというと、頭部の装備はナノマシンの制御を行うカチューシャタイプのものだった。それが今見ると、その形状はまるでロードバイクの選手がかぶるヘルメットのようなモノになっている。色は黒。そして、前頭葉に位置する部分に青く輝く単眼のレンズが存在していた。
「視野を広げるためにセンサーを強化したのかな?」
「そうかもしれなけど、真季奈のやることだから他にも目的があるかもいれない。作戦の障害にならなければいいけど……」
そんな不安の中、両者はついにぶつかり合う。
キリトの『黒織』は右手に片手用直剣「ユナイティウォークス」。左手に片手用直剣「フェイトリレイター」を装備し距離を詰め、真季奈に斬りかかる。
「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
「はッ! 貴方も二刀流ですか!? どうも縁がありますねぇ!!」
対する真季奈は腕を組み、正面からキリトに向いたまま後方に下がる。そして命ずる。
「行け! ソードビットォッ!!」
両肩にマウントされた大剣、右肩の「十拳剣R」、左肩の「十拳剣B」が向かってくるキリトへと射出された。
「く、のぉっ!!」
二本の大剣が自分に向かって飛び込んでくる。それを理解したとき、キリトは身を小さくし更に加速して突っ込んだ。迫る巨大な刀身は手に持つ二本の剣で滑らせるようにして回避し安全な空間を生み出す。そのときの摩擦で火花が起こるが折れるほどのものではない。そうして躱した大剣はキリトの後方へと飛んで行き、彼は無手の真季奈の懐へと接近する。
「ゲイル・スライサー!!」
キリトやナツたち。SAOというデスゲームから帰還した彼らの機体には当時に使用していたソードスキルが再現できるように組み込まれている。彼らはこれにより、現実世界においてでもかつてゲームの世界で鍛え上げ、練り上げた戦術を駆使して戦うことができるのだ。
そのキリトが放ったソードスキル。それは加速中のすれ違い様に2連撃を与える斬撃。それを常時加速のまま真季奈に迫り繰り出す。
が、その斬撃は真季奈の霞のような身体を通過することで不発に終わる。
「な!?」
『パパ! 後方二メートル!! よけて!!』
「まさか!?」
『黒織』のシステムに組み込まれている彼の愛娘、ユイが警報を告げる。その指示の先、言われた方向に彼女はいた。
「残像だ」
振り向いたときに見えたのは黒い塊。真季奈のISの脚部だ。迫り来る回転蹴りを、二本の剣をクロスさせて受け止め、大きく弾き飛ばされる。
「クソっ! あそこまで完璧に姿を残せる残像があるのかよ!!」
『加速時の瞬発力からして常時加速による移動です! でも、全くのノーモーションで行えるなんて!?』
それこそが『暮桜 天マキナ』の禍ノ生太刀の効果。全方向への無動作連続常時加速が可能な超加速エネルギーウイング。
しかし、それゆえ欠点もある。
「ユイ! 相手のエネルギー残量は!?」
『今の加速で二割も削られています! このまま畳み掛けてください!!』
使用には莫大なエネルギーが必要なのだ。最大活動時間は、およそ五分もないだろう。
「……なるほど、わたしのシールド・エネルギーを喰いに来ましたか」
真季奈の額の目がキリトの口の動きを見てその会話の内容を把握する。天上より見下ろすその第三の目は彼の一挙手一投足を見逃さない。
「ならば、その浅はかさを思い知らせてあげましょう」
「な!?」
禍ノ生太刀が翼を大きく展開する。六枚の広げられたエネルギービームで作られた翼は桜色の輝きを放ち、周囲を輝かせる。
「マズイ! キリトさん急げ!! ナノマシンがフィールドにバラ撒かれ始めたぞ!!!」
観戦していた織斑一夏がキリトに向けて叫ぶ。それはタイムリミットの警告。このままナノマシンの散布を許せばキリトは海に溺れる黒鳥となる。
「わかってる! おぉっ!!」
キリトは加速を最大にして真季奈に向かう。大地にいる自分を、空中から見下ろす真季奈に向かって上昇し接近する。しかし、その道程に罠が仕掛けられていた。
「囲めビット!」
『下がってくださいパパ!!』
「なに!?」
真季奈のソードビットが分解し、合計十本の大中小、三種の剣となる。そのうちの三本が大きく広がり三角形を形成する。その頂点、剣先からナノマシンを含んだ桜色のビーム・フィールドの膜を作り出す。キリトはユイの警告に間に合わずその空間を通過してしまった。
「なんだ!?」
『わ、わかりません!!』
「お喋りはここまでですよ!」
真季奈も距離を詰める。両手には中サイズのソードビットを持って斬りかかる。
始まる二刀流と二刀を使う者の剣戟。ここで違うのは、キリトは二刀での剣術を繰り出すのに対し、真季奈は二刀での乱舞であること。キリトは二刀流による様々なソードスキル、『技』を繰り出し、挑むが、真季奈は『断つ』為の技法を力任せに両腕で振るうだけ。技の剣と力の剣。ぶつかり合えば冴えたる剣技の数々が真季奈を押していくはずが、不可解なことに全て防がれていた。
キリトと真季奈が既に十数回以上切り結んだころ、キリトはソードスキルを何度も多用していた。しかし、決定的な一撃が入らない。それどころか紙一重で避けられたものもある。
「くぅっ、まただ! なんで、」
今彼が放ったのはソードスキル、「デプス・インパクト」。重い一撃の多い真季奈の斬撃を打ち破るため、こちらもパワー重視の五連撃のモーション技を発動したのだが、それを五回の斬撃をきっちりと始めから終わりまで防御される。それどころか、モーションが終わったその直後に反撃の一撃を入れてくるのだ。
これはまさか?
「そろそろ気づかないですか?」
「志波さん、アンタまさか……ユイ!」
キリトがユイに自分の機体をチェックさせる。すると、恐ろしい答えが返ったきた。
『パ、パパ……ソードスキルの全モーションがコピーされた跡があります……多分さっきの……』
「格闘ゲームの攻略法って知ってます? 全キャラの技の出掛かりを把握すれば避けることもカウンターも入れることも楽にできるんですよ」
「なんてヤツだ!!」
先ほど、キリトが潜ってしまったナノマシン・フィールド。その時に『黒織』内のデータをスキャンされたのだ。勿論、あの一瞬で全データを解析できたわけではない。ウイルスを仕込み、戦闘中に解析を進めソードスキルを覚えていたのだ。
「通りで、途中からこっちの攻撃を紙一重でかわせていた訳だぜ。アンタ、俺の技の範囲も見切っていたのか」
「スキルが組まれたモーション通りに発動するというのなら、その攻撃範囲も想定できるのは当然です」
まるで茅場と戦った時のようだとキリトは思った。あのSAO最後の戦いの時も自分は全てのソードスキルを知り尽くした男に技を封じられた苦い経験がある。
ならばやはり。またもソードスキルを封じて戦うしかないのか? いや、
「まだ戦いは終わってないぜ!」
「あまりがっかりさせないでくださいね?」
再び両者はぶつかり合う。
真季奈はソードビットを呼び戻し、十拳剣Rを右肩にマウント、十拳剣Bを両手持ちに構える。そこへキリトが真っ向から斬り込む。大剣の重い一撃がキリトを襲い、それを受けるのに二本の剣で無ければ防ぎきれなかった。
「重いのに速い!? どんな筋力してるんだ!」
「はははッ! わたしとこうも長く斬り結べるなんて織斑先生以来ですよ!! ほら! ご褒美にもっと速度を上げてあげましょう!!」
「嘘だろ!?」
キリトの視界の中、真季奈の姿がぶれ始める。一人が二人に、三人、四人と増えていき、その全てが自分に斬り込んでくる。しかしそれはただの残像。本物の斬撃はひとつだけだ。
『一番左の真季奈さんに熱源があります!』
「サンキュー! ユイ!!」
「邪魔だなぁ……そのガキィ……」
「『え?』」
一瞬、真季奈の目が紅く光ったようにキリトには見えた。
「(い、いや…まさかな?)」
「考え事とは余裕ですね!」
一瞬の思考の空白。そこへ虚を付く形でキリトに襲い来る影があった。
「!?」
真季奈の右肩にマウントされた十拳剣Rがクローに変形して迫ってきたのだ。右腕を狙っている! そう判断したとき、咄嗟に身体を捻って躱そうと動いた。人間、自分よりも大きいモノが突然迫ってくると身を大きく躱してよけようとする。その時に視線の先もその物体に釘付けになるものだが、キリトは勇敢にも真季奈から目を離さなかった。
それが彼の命運を救った。
真季奈の右手に輝く、光雷球を見逃さなかったのだから。
「弾けろぉッ!!!!」
「う、おぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
巨大なクローを躱しながら、自分に向かって放たれたバスケットボール大のエネルギーの塊を見る。それはまさしく自分の胸を狙っていた。IS稼働時に操縦者を守るためのシールドバリアー。それは生命への危険度が高いほどエネルギーを消費し、『絶対防御』と呼べれるほどの守りを発動する。そう、生命への危険度が高い攻撃ほど!!
胸には装甲がない! 喰らえば、『絶対防御』は確実に発動する!!
そんなわけにはいかない。
クローからの回避行動をそのままにスラスターを加速。迫る光雷球をユナイティウォークスで弾き飛ばす。ビームを斬って弾く
あれ? そういえば、待てよ?
キリトはここでようやく気づく。真季奈は正面からの攻撃を好んでいるように思えた。長く続いた剣戟。不意を付き、腕を狙うクロー。胸を狙う攻撃。それは全て、装甲の少ない生身を狙っていたのでは? 『絶対防御』を発動させ、こちらのエネルギー消費に大打撃を与えるために。
それは互いのシールド・エネルギーの削り合いであるIS戦においては基本の戦術。しかし、真季奈にとっては死活問題とも言えた。
なぜならば。
『真季奈さんのエネルギー残量、五割を切りました!!』
「畳み掛けるぞ、ユイ!!」
『はいパパ!!』
キリト達、一般的なISなら問題ない稼働時間。それの半分以下のわずかな稼働時間しか『暮桜 天マキナ』には許されていないのだから。
長期戦になればナノマシンウィルスで不利になる。
近接戦だとウィルスに確実に感染する。
短期戦で削るには圧倒的火力が必要で。
相手は装備の稼働時間が極端に短いという欠点があるので長期戦に持ち込めば勝てる。
それが試合前の攻略会議で挙げられた真季奈の弱点と特徴。そのことから立ち上げられた作戦。それは、
『超接近戦で相手の武装をフルに稼働させることでエネルギーを消費させ、ウィルスにはユイが対応する』
というものだった。
真季奈を休ませることも反撃もさせない。
キリトの剣にライトエフェクトの光が灯る。ソードスキルが発動したのだ。
「はっ! こりもせずにまたですか!」
真季奈はその動きでキリトが繰り出すスキルを看破した。そのスキルの名は「ダブルサーキュラー」。左右の剣による突進突刺の技。右の剣が一撃の後、左の剣による二段構えの剣。故に、真季奈はまずスキルが発動する右からの攻撃を潰しに掛かった。しかしその時、彼女は信じられないものを見た。
キリトが右手で持つ、ユナイティウォークスの刀身で輝くライトエフェクトが消えたのだ。
「!? スキルをキャンセルした!?」
しかし、キリトの攻撃は止まらない。「ダブルサーキュラー」に似ていてそれでいて違う軌道の二段攻撃。それに戸惑いつつも真季奈はそれをしっかりと防いでみせた。右の剣は十古拳剣Rの腹を全面に出して防ぎ、左の二撃目は手刀で払った。そこで十拳剣Bのソードビットを射出し、基部に内蔵したビームガトリングを撃ち込む。それでキリトが回避行動で離れるように仕向けるが、彼は食らいついて離れない。
「おぉっ!!」
ビームの雨を二刀を振り続けることで何度も何度も斬り払う。ほぼゼロ距離での連続光線破壊。それを見て真季奈は驚愕し、自身のエネルギー残量を考え次の手段に出る。これではタダでこちら稼働時間をバラ撒いているようである。
「ビットよ!!」
射出させたソードビットがキリトの後方から狙いをつけて接近する。しかし、
「遅ぇ!!」
「!?」
それよりも速く、キリトの斬撃が灯火を上げる。二刀で輝くライトエフェクト。
ソードスキル、「ジ・イクリプス」。二刀流最上位のソードスキルであるそれは、超高速の27連撃を行う。真季奈の全身を、剣尖が全方位から吹き上がる太陽のコロナのごとく殺到するのだ。これによって真季奈の動きが一瞬止まる。防御の姿勢をとり、その攻撃を一心に受けたのだ。スキルが終了するまで凌ぐつもりか、しかし、キリトは止まらない。
止むことなく途切れない連続攻撃。その反動にキリトの腕が軋む音を立てる。しかし、真季奈の機体、『暮桜 天マキナ』のエネルギー残量がみるみる削れていくのが分かった。
これで削りきる!!!
そうキリトが決意したとき、それは起きた。
真季奈が、『キレた』のだ。
「(潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す潰す!!!!! ひき肉にしてやるぅぅぅ!!!!)」
大剣を、五本に分割したビットを、背面のウイングを、。まるでマントを纏うかのようにして全身への攻撃を防ぐ真季奈。その彼女の内に、怒りが、憎しみが、恨みが……ドス黒い暗黒の感情が膨れ上がる。そして……弾けた!!
『………変ですパパ!! 真季奈さんのシールド・エネルギーが全く減っていません! いえ、むしろ増えてます!!』
「まさか!?」
気づいた瞬間、それは起こった。フィールドを覆う、バリアーの膜が消失したのだ。そして、フィ-ルド・バリア発生装置から紫電が溢れ、エネルギーが『暮桜 天マキナ』へと流れ込み始めた!!!
「ざけんじゃねぇぞテメェエエエエエエエエエ!!!!」
全身の装甲を展開させ、キリトの連続攻撃を弾き飛ばす。スキル終了後のIS機能低下のタイミングを狙われたのだ。閉じられていた防御のマントは展開され、巨大な翼が再び広がる。ビットのうち、大刀にの二本が両腕に一本ずつ装着されクローとなりビームのエネルギーを纏う。そして、頭部に装着されたヘルメット型バイザーが180°回転した。単眼のレンズが後頭部に回り込み、別の顔が鍔として現れる。それは金色のウルフヘッド。
『暮桜 天マキナ 闇獣装の陣』。禍々しさを放つその姿はまさに暗黒の魔王。天は十拳剣Rを変形させた「天剣絶刀」を。脚部の仕込みナイフは展開させて屹立させている。
全身これすなわち凶器なり。真季奈は今、まさしく全てを斬り裂く者のとなった。
「アハハハハハ!!!」
真季奈が動く。その加速は後方に残像を発生し続け、幾重にも真季奈の姿を生み出していく。禍ノ生太刀の常時稼働。全ての動きが常時加速の状態となり、彼女の全身を軋ませる。それを、真季奈は自身の肉体内部に医療用ナノマシンを浸透させて無理矢理緩衝材とする。二つの眼は赤く染まり、全身の血管や神経が膨れ上がる。超加速で皮膚が裂ければそれを瞬時に回復させて放置し、痛みは自身の神経を操作してカットする。
相手を殲滅するまで止まらない生体兵器。今の真季奈はまさにそれだった。
「動きが早すぎて捉えられない!?」
『こんな動き、機体は耐えられても肉体が耐えられるはずが無いです! なのに、なんで!?』
真季奈の攻撃は先ほどキリトが放った連続攻撃にもまさる物だった。ダメージが知覚するよりも早く届く。気づいた頃には次の攻撃が来る斬撃の嵐。それになすすべもなくされるがままダメージによりエネルギーを削られる中、キリトの顔に生暖かいものが飛び散った。
「これは……血? 誰の!?」
『真季奈さんです! 動くたびに肉体が裂けてッ』
「なんだって!?」
強大な力の代償か、そのツケは真季奈自身が支払うこととなる。超過負荷の連続軌道は彼女の全身の筋肉を引きちぎり、血管を破裂させる。しかしそれを、ISが持つ自己修復機能で肉体を再生させて無理やり持たせている。
確実に彼女の寿命は縮むだろう。
「な……、キリトさんが押されている? そんな馬鹿な」
「……キリト君」
その戦闘に息を呑むのはキリトをよく知る者たちだ。SAOプレイヤー開放の英雄とまで呼ばれた尊敬する義兄が遅れを取るはずがない。まして負けることなど……。
『準備しろ一夏。真季奈を止めるぞ』
「あぁ。これ以上は真季奈が危ない」
柴犬姿のデウスと織斑一夏が立ち並ぶ。彼らはこの戦いを止めることを選択した。
「簪ちゃん、会場の生徒たちを全員避難させて。もうフィールド・バリアーは機能していないでしょ?」
「大丈夫。その時点でみんな自主的に避難を始めたし呼び掛けも始めている。……みんな慣れてるから」
そこで動くのはデウスたちだけではない。更識姉妹。生徒を守る長たちも行動を始める。
「みんな……どうして?」
『お前らも来い。全員総掛かりで真季奈を止める。でないと、お前んとこの大将は死ぬことになりかねん』
「……な!?」
戦いで死ぬ。それはナツ達SAOからの帰還者からすれば忘れることのできない忌まわしい経験。それが起ころうとしている?
「なんで!? 志波さんはどうしてそんなこと!!」
彼女はそういう人物なのだろうか? あの殺人ギルドの連中のように人を殺すことを楽しむような……?
『今の真季奈はマキナであって真季奈ではない。暗黒の魂に飲み込まれ、その起源を再現するまま闇を膨らまし続けている。放っておけば、世界に広がったソレにより太陽の光は遮られてしまうだろう』
「ごめん、もうちょっとわかりやすく」
黄金神であるデウスの言い回しに理解でいない言葉が多くあり、ナツは簡潔な説明を求めた。それに応えたのは、以外にも自身と違う同じ人物、織斑一夏だった。
「このままだと真季奈が魔王から魔神にクラスアップ。で、おk?」
「あぁなるほど。………てどゆこと!?」
訳が分からない。しかし、真剣な彼らの姿を見る以上、それは本当なのだろう。
………ファンタジーなゲームに結構毒されている感があると自覚している自分たちであるが、どうやらこの世界ではそれすら現実であるようだ。
「なぁナツ。お前、人を殺しそうになったことってあるか?」
「え?」
それはナツにとって、SAOを生き抜いた織斑一夏にとって一番尋ねられたくなかった質問だろう。彼は既にその世界で十人を殺している。そしてそれは、一生消えない十字架となって彼を苦しみ続けていた。
「俺さ、真季奈を殺しかけたことがあるんだ」
「…………………………」
「真季奈の頭を零落白夜を発動させた雪片で思い切り殴りつけてさ………守りたいって思ってた、好きな女の子を」
その言葉にナツも思うところは大いにある。守りたいと今でも想い続けている少女、恋人の百合子を守るために、自分もあの世界で戦い続けてきて今もそうなのだ。しかし、その彼女を自分が殺しかけるなんて、そんなことを考えたらゾッとする。自分が生命を奪ったのは犯罪者の集団だった。彼らをとしたことには後悔はないが、その罪からは逃げたことはない。それでも、手にかける対象が想い人になるだけで胸を締め付ける苦しみは比較などできるものではなかった。
「血で真っ赤に染まって海に落ちていく真季奈を見て、俺は絶望したよ。自分を許せなかったし怖かった」
それはそうだ。もしも自分が、事故とはいえ百合子に手をかけることになったら……俺は自分を一生許せない。
「真季奈は奇跡的に助かったけど、俺は今でもあの時振った雪片の感触を覚えている。絶対に忘れない。だって俺は」
織斑一夏が『白式』を纏う。そして一緒に黄金のワイバーン、エクスワイバリオンが現れ合体し『白騎士』となる。
「真季奈を守る騎士だから」
真季奈を守るために生まれたバーサルナイトが戦場に飛び込む。そしてソーラレイカーとなったデウスも。その時、彼はナツたちを一度だけ見た。その緑に輝くツインアイはどうする? と語りかけたいた様な気がしてならなかった。
「俺たちも行こう! 百合子、明日菜さん!」
「うん!」
「キリト君と真季奈さんを助けなくちゃね!」
ナツの『白式・聖月』が。百合子の『槍陣』が。明日奈の『瞬光』が。各々が専用機を展開させて戦場へと飛ぶ。
大切な者たちを守って一緒に帰るために。
彼らの剣が世界を救うと信じて!!
「うぉおおおおおおおおお!! 真季奈ーーーーッ!!!」
「来い! 織斑一夏!!」
「って、打ち切りかーーーーーい!!!」
「ど、どうしたんだナツ!?」
ALOをプレイ中の風妖精族の少年、ナツは馴染みのメンバーが集まる酒場で突然叫びを上げた。
「あ、すいませんキリトさん。あの時のことを思い出しちゃって」
「………あれか? 酷かったなぁアレは……」
「………うん」
「……ひどい事件、だったね」
影妖精族のキリト、水妖精族のアスナ、風妖精族のユリコも同意する。
本当に、ひどい事件だった。
あの後、暴走する真季奈を止めるために専用機持ちのIS操縦者が総出で対処にあたり、その殆どが撃墜されたのだ。『暮桜 天マキナ』のISアリーナから直接供給され続ける無尽蔵のエネルギー。操られる仲間たち。突如機能を停止する自分達のソードスキル。魔法のような攻撃を当たり前のように使うデウスと織斑一夏。まるでALOでの状態異常を仕掛けてくるボス相手にレイド戦をしているようなそんな気分だった。
「もしも真季奈さんがALOのボスキャラとして存在していたら……」
「駄目だユリコ! それ以上はいけない!!」
恐ろしいことを言わないで欲しい……もしも本当にそんなことになったらそれ相応のクリアボーナスがなければ割に合わない。
「そ、それでクラインにシリカ。今日は俺たちを呼び出してどうしたんだ?」
キリトさんが強引に話を切り替える。やはり彼もあまり思い出したくないのだろう。
あの後俺達は、志波真季奈さんをどうにかして鎮圧し、その功績を報酬に自分たちの世界に帰ってこれた。
『機会があれば遊びに行くから!』
なんてあの犬っころは言っていたが勘弁して欲しい。いやホント。
……もうよそう。
今日、俺達はゲーム仲間である火妖精族のクラインに猫妖精族のシリカ、工匠妖精族のリズ、土妖精族のエギルたちを含めた何時ものメンバーで集まっていた。募ったのはクラインだが、用があるのはシリカなのらしい。
「それがよう……とんでもない高難度のクエスト見つけてな? それに協力してほしいんだよ」
「……へぇ? いいけど、どんなクエストなんだ? シリカがってことは猫妖精族関係なのか?」
「い、いえ! 正確にはモンスターティムっていうか……クリア報酬が魅力的で」
猫妖精族のシリカはその頭についたネコ耳を垂れさして申し訳なさげに言う。自分の都合でみんなを呼びつけたのを気にしているのかもしれない。そんなことないのに。
「どんなクエなんだ?」
キリトさんがシリカに尋ねる。このメンバーを集めなければならな程の高難度クエストなんだ。クリア報酬もかなりのものだと思うし、ひょっとしたらレア装備が手に入るかもしれなくてワクワクしている。あれはそんな目だった。
「討伐系のクエストなんですけど、ボスが倒すたびに強くなって復活するんで大変なんです」
「それはまた……何回くらい倒さないといけないんだ?」
「一度目は単体で、二回目は仲間の長大型モンスターを呼んできて、三回目は合体してくるんです」
「しかも全部無茶苦茶強くてよ? 一回目で初見殺しは当たり前、二回目で心折れる奴が続出で、三回目の合体巨人には全く歯が立たないって有様でさ」
「それは酷い」
「ん? てことはもう結構なプレイヤーが挑戦しているのか?」
クラインさんの話のとおりなら、そこまでの情報が出回っているということはすでにかなりのプレイヤーが挑戦しているっていうことだ。つまり、それ程に高難度でもクリア報酬が魅力的ということなのだろう。
「あぁ、もう毎日挑戦者が途切れないって状態でさ。むしろなんでお前らが知らないんだってくらいさ」
「それは確かに。で? なんなんだ? その魅力的なクリア報酬は?」
「それが聞いて驚けよ? 全ステータスが50%UPのレア装備と称号。そのボスモンスターをティムして召喚して移動手段にする権利に戦闘に参加させることもできるらしい」
「………嘘だろ?」
とんでもない破格の報酬だった。それ、明らかにゲームバランスが崩壊しているだろ?
「それを信じて参加する奴らがいるのは確かでよぉ? 流石にほっとくのも目覚めが悪いだろ?」
「それにわたしも、ピナの為に頑張りたいんです!」
「? なんでピナが?」
ピナとはシリカのペットモンスターで、猫妖精族はティムしたモンスターを使役して戦闘させることができる。ひょっとしたら、そのクエスト報酬はティムしたモンスターも対象になるのかもしれない。
「それでそのクエストはなんて言うんだ?」
キリトさんが尋ねる。受ける気満々だ。
「あぁ『黄金竜への挑戦』っていうんだけどよ」
「「「んん!?」」」
あれ? 何か嫌な予感。
「人型したロボットみたいなドラゴンと、それに従う馬鹿でっかい双頭のワイバーンが相手なんだ。ドラゴン使いがティムしたくて興奮しっぱなしってわけなんだよ」
「へ、へぇ……なぁクライン? その人型のドラゴンって変形しないか? その、三首竜に……?」
「お? なんだ、知ってんのかキリト! するする! これがまた厄介なんだよな~~~」
…………嘘だと言ってくれぇぇ。
え? まさか来てるのか? 本当に遊びにきちゃったの? えぇぇぇぇぇ?
「それに最近攻略メンバーにとんでもない凄腕の闇妖精のキナって名前の女の子と金色のワイバーンを連れた猫妖精族の下僕サマーってガキンチョが台頭してきたって話で」
「……キナ」
「………下僕サマー」
一瞬、高笑いする女の子に踏みつけられている自分と瓜二つな変態の姿が脳裏に浮かんだ気がした。
お 前 ら も か !
………面白い。向こうの世界では散々な目に合わされたんだ。今度は俺たちがこの世界のルールを教えてやる!
とりあえず、自分たちが驚かされたように俺たちもこの世界の『そっくりさん』たちを連れていって驚かせてやろう。大人数でのレイド戦になりそうだ。
ただ、
「タチ悪そうだなぁ」
「ハハッ、同感」
これから出会うであろう女の子に得体の知れない恐怖を感じつつも、どこかそれを楽しみにしている自分たちがいた気がした。
どうでしょうか? ここまでガッツリとしたコラボは初めてだったのでドキドキです。
「SAO帰還者のIS」ファンの皆さん! ぷらもんを後ろから刺さないでね!
真季奈はもうボスモンスター扱いでも通用すると思う今日このごろ。
うちの作品のキャラたちに純真無垢な奴はいないのか。どうしてこうなった。
などとありますが、やはり戦闘描写が上手くならないなぁボク。真季奈が強すぎるんじゃないか? と思うかもしれませんがラスボス扱いのキャラの名でご容赦ください。
最後に、「SAO帰還者のIS」世界のALOに突如として出現した謎のクエスト(笑)。勿論デウスの仕業です。彼を倒すと、「シャッフルの紋章」(先着五名)。「ホーリーメテオ」(先着十名)。「アディションパーツ(竜爪・兜・ナックル・胸部鎧)」。「シャッフルの武具(クラブハルバート・ダイヤソード・スペードアーチ・ジョーカーランス)」。各種装備も限定一つずつドロップ。ティムすると、全フィールド内を瞬間移動可能となり、ボス戦では頼もしすぎる味方となって出番を奪われます。
真季奈等のALOアバターとかは詳しい設定はありません。それもその筈、ぷらもんはSAOの知識をアニメしか持っていません! おいこら! なのでプレイヤーネームと種族のみです。MA KINA→KINA(キナ)と一夏→そのままの意味で下僕の一夏ですね(笑)
それではまた次回でお会いしましょう。