IS  復讐のデウス・マキナ   作:ぷらもん

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後編です。

最近、小悪魔系女子という言葉を耳にしました。

じゃぁ真季奈は何系女子? 




金髪少女 (後編)

最悪である。

 

 

「でさー、駅前のゲーセンに新しい格闘ゲームが入ったんだって」

 

「それってまたISの対戦ゲームだろ? 今度家庭版に移植するって噂だぜ?」

 

 

最悪である。

 

 

「それよりさ。ハナさんはゲーセンでいいの? 俺達勝手に話進めてるけど」

 

「嫌です。ゲーセンって人、多いんでしょ? 五反田さんでしたっけ」

 

 

さいあ、いや、グッジョブだ赤髪バンダナ。特別に名前で呼んでやろう。

 

学校を出て制服のまま街へと遊びに向かう三人とわたし。真喜志花(志波真季奈)と鈴?とかいうツインテールと織斑一夏と五反田弾というチャラ男。歩きながら遊ぶ内容を相談しているようですが、このグループに混ざりきれない疎外感がほんと嫌です。四人いるのに実際は3人+一人。集団の中でぼっちですよ。あー何してるんだろわたし。

 

「ハナはゲーセン嫌? じゃ別のトコ行こっか。ねぇ一夏」

 

「……え? あー……うん。いいんじゃないか?」

 

「………そ、そう! それじゃぁ、えと、」

 

「バッティングセンターとかどうだ? 最近行ってなかったろ?」

 

「それよ! ナイスよ弾!」

 

………あれ? なんでしょう? 何か変な感じが……?

 

三人の会話を後ろから聞いていると何か違和感を感じます。主に喋っているのはツインテールと五反田さんで、織斑一夏はどこか上の空です。その反応にツインテールが戸惑いつつも食らいついて、五反田さんがフォローを入れている? さっきからこんな感じなんですよ。仲、いいんですよね?

 

この三人のよくわからない関係性はさておき、本当にバッティングセンターに来てしまいました。なにげに人生初ですよ。

 

初めて来て、まず驚いたのがビルの最上階にあったこと。こういうバットでボールを打って遠くへ飛ばすスポーツはもっと広く平たい土地に設備があると思っていたのですが。ビルの最上階の四方にネットを張ったり複数の打席をネットで仕切ることで安全性も考慮している。こういうところもあるんですね。

 

で、わたしは今。生まれて初めてバットを握っている。

 

「で、ハナさんは右打ちだからバットを持つときは右手を……」

 

「ふむふむ……あぁだから逆と、たしかにこの方が振りやすいですね」

 

何故か、五反田さんにバットの構え方を教わりながら。どうにも握り方とか構え方が滅茶苦茶だったようで。すいません。だって、

 

 

バットって人間を殴る以外の使い道があったんですね。真季奈ちゃんびっくり。

 

 

「こんなにへこんでいない綺麗な金属バット、初めて握りました」

 

「サラっと怖いこと言ってるけどスルーさせてもらうね」

 

世渡り上手ですね。

 

ちなみに、織斑一夏とツインテールはというと。

 

ブンッ! カキーン! ブンッ! カキーン! ブンッ! カキーン! ブンッ! カキーン! ブンッ! カキーン! ブンッ! カキーン! ブンッ! カキーン! ブンッ! カキーン! ブンッ! カキーン! ブンッ! カキーン! ブンッ! カキーン! 

 

一心不乱にバットを振ってボールを打ちまくっていました。え? 何事?!? 

 

「お前らー! 熱入りすぎだって! ハナさんドン引きだぞー!」

 

「………あ、うん」

 

「ご、ごめんハナ! 誘っといてほっぽっちゃって!!」

 

「はぁ……ていうかもう帰っていいっすか?」

 

なんなのこいつら? 人のこと誘っといてガン無視なんですけど? 織斑一夏は飛んでくるボール以外は何も見てないし、ツインテールは織斑一夏をチラチラ見ながらバットを振って空ぶったり偶にため息をついたり。わたしの相手をしてくれてるのは五反田さんだけではないですか。

 

「ごめんなハナさん」

 

「はぁ。なんだか大変そうですね」

 

「あ、わかる?」

 

うん、まぁ。この人、明らかに苦労してますよね? それで思ったのですが。実はこの三人組、主導権を握ってるのは彼なのではないでしょうか? ツインテールは一番行動的だと思うが周りが見えていない。織斑一夏は周りに流されてばかりで事故の意思が感じられない。

 

「あの二人の舵取りっていつもやっているんです?」

 

「まぁ、目を離すとトラブルばっかり起こしてたからなぁ」

 

五反田さんが二人の手綱を握っている。それは見ていて自然とそう思った。そもそも、このバッティングセンターに来ることだって提案したのは彼だ。聞けば彼らは幼馴染だそうだ。付き合いが長いということは苦労も多かったことでしょう。

 

「昔からさ、鈴の奴が何かを思いつくんだよ。それを一夏が一緒になってバカやって、俺がフォローして……でも、」

 

「………織斑一夏が変、と?」

 

「そ。だから鈴が必死になってる」

 

五反田さんが話しに比べては織斑一夏が大人しすぎます。ツインテールは空回っている感じですね。

 

「ひょっとして織斑一夏になにかありました? だからツインテールが『ソレ』をどうにかしようと?」

 

「………詳しく話せないけど、ね。一夏の奴はアレから塞ぎ込んじまって、こうして外に連れ出して遊ぶのも久しぶりなんだ。いんや、学校だって……」

 

「……………………………………」

 

あぁ、そっか。

 

ドイツで。モンド・グロッソで誘拐された織斑一夏。そのことがトラウマになっている? 友人との関係がこじれるほどに?

 

話しぶりからすると彼ら二人は誘拐云々の事情を本人から聞いているみたいですね。箝口令はどうした。いや、話さないと押しつぶされそうになった? 重圧や責任に?

 

「………卑怯者」

 

「え?」

 

つまり、今の織斑一夏は可哀想な被害者なのだ。周りにとっても………本人にとっても。誘拐されて、姉の栄光に泥を塗って。

 

しかし誘拐の事実は政府が隠した。織斑千冬の世界大会決勝の突然の棄権は彼女の気まぐれ、と世界は思っている。第三者の陰謀説。対戦相手への侮蔑、もしくは賄賂。王者の余裕。等と色々な噂が飛び交っているが、それが一番渦巻くのはこの街なのだろう。

 

だって、この街は織斑姉弟が生活する街。テレビ越しで彼女を知る他人よりも身近で手が届く場所。当然、批判の声は投げられただろう。姉にも、弟にも。それは『卑怯者』か、それとも『裏切り者』か? 

 

そんなことはどうでもいい。

 

問題なのは、そのことで織斑一夏が被害者面をしていることが癪にさわる。自分の落ち度で皆さんにご迷惑をおかけしましたとでも言いたいのか? だから可哀想な自分は落ち込んでいますって? はっ! ふざけんなよバカバカしい。

 

わたしの両親の命をなんだと思っている!! 無駄に消費してんじゃねぇ!!!

 

父と母は織斑一夏を助けるために犠牲になった。なのに、あの男はそれを台無しにしている。死んだ彼らはあんな作り笑いでへらへら笑ってのらりくらり周りに流されるようなクズを作るために死んだわけじゃない!!

 

そう、織斑一夏は笑わなければいけないのだ。それも心の底から。

 

わたしと、わたしの両親の為に。

 

これはわたしのエゴだ。

 

あぁそうとも。彼は知らない。わたしの両親の死も。わたしという存在も。それでも、わたしはこう叫ばずには居られない。

 

 

わたしはお前のせいで独りぼっちなんだ!!

 

 

ピッチングマシーンからボールが投球される。わたしは思いっきりバットを振った。

 

初めてのバッティングは、なんとも閉まらないボテボテのゴロ打球だった。

 

まるで今のわたしのように、無様だった。

 

 

 

 

 

 

 

あの後、わたしは逃げ出した。

 

そのまま彼らと一緒にいるのは心底嫌だった。適当に理由を付け、嘘八百を並べて走って帰った。それを散々邪魔、もとい引き止めて晩ご飯まで一緒に食べようと言い出すツインテールを振り切るのが一番苦労した。

 

どうやら、わたしはあのツインテールを『苦手』と分類したようだ。関わりたくない、めんどくさい相手だからだ。

 

人付き合いは苦手だ。手間が掛かり、疲労とそれにかけた時間の帳尻がつきにくい。

 

そもそもあのツインテールはわたしの為と言いながらその実、全ては織斑一夏の為に動いていたのだ。彼の気分転換。その為の口実に過ぎなかった。

 

………訂正しよう。わたしは凰鈴音が『大嫌い』だ。人を男のために振り回す。実に不愉快だ。

 

逃げ出したわたしが向かうところ。そこは住み慣れた訓練施設じゃない。

 

織斑家だ。

 

家の住所は知っている。他ならぬ、織斑先生から聞いている。その彼女も今はドイツだ。あの家には今織斑一夏は一人だけだ。

 

なんの為に行くのか。それはもちろん、織斑一夏の観察のため。

 

自宅というのは人間にとって大きな安心感を与える。長く離れれば恋しくなり、帰ってみれば落ち着くというものだ。まぁ、個人差もあるが。

 

例え周りにどう思われていようと、自宅の中なら本当の自分を出しているだろう。そこで織斑一夏がどんな生活をしているかを見極めたい。

 

家の前に着く。インターホンを鳴らして玄関から入る、なんて絶対しない。

 

窓の明かりが付いている部屋を確認する。時間は午後八時。これならまだ起きて……あれ?

 

「? 真っ暗? 寝ているにしてはずいぶんと早いですね……」

 

織斑家の照明は全て消えていた。留守か? それなら空振りだ。無駄足は避けたい。ならどうするか。

 

「忍び込んで間取りだけでも確認しておこうかな?」

 

家の前まで来たがわたしは織斑一夏の部屋の場所さえ知らないのだ。できれば誰にも知られることなく終わらせたい。

 

すると、

 

「あ……電気、付いた」

 

部屋の一つ。二階の窓に小さな明かりが灯った。本当に小さな、部屋全体を覆わない、一点のオレンジ色の光。

 

ひょっとしたら寝る前の夜間照明なのかもしれない。眠るとき、照明を全部消して部屋を真っ暗にする人と、オレンジ色の、かすかな光源だけを残す人がいる。奴は後者なのかもしれない。

 

今すぐ忍び込むのはとりあえず止めた。織斑一夏は起きている。ならば、家に侵入した物音で気づかれるだろう。

 

時間をおこう。

 

三時間ほど待ってから、わたしは織斑家に侵入することにした。

 

 

 

 

 

 

 

と、いうことで。

 

忍び込んだのですが、これ効率悪いですね。ご近所さんに怪しまれないように近くの公園で時間を潰したのですが……警察と不良の集団に絡まれました。もうね、逃げたり喧嘩になったりで最悪です。めんどくさかったとも言います。

 

しかも、どいつもこいつもストームなんちゃらと言っていたのでまた変な噂が流れそうです。やだなー。

 

それはさておき、織斑一夏です。

 

家の中に侵入し、彼の部屋の前です。抜き足差し足忍び足、うん。完璧でした。足音一つ無くここまで来ましたよ。わたし凄い。というか、

 

 

流石は更識家の諜報技術。習っといて良かったーなー。

 

 

更識楯無と一緒に特訓したのは無駄じゃなかった。うん。でも今度からはもっと安全に行こう。織斑一夏が留守の時とか家の中で何をしているのかを正確に把握する方法が必要だ。……普通に盗撮と盗聴でよくね? 

 

近いうち仕掛けよう。織斑一夏が学校に行っている間がベストでしょう。

 

では早速。部屋に入る前に扉に耳を当てて中の気配を探ります。

 

………音なーし。

 

………起きてる気配なーし。

 

………よし、問題なし。入ろう。

 

そもそも、わたしは玄関から入ったのだ。その時の音で気づかない時点で寝ているのだろう。え? 鍵? さてなんの事やら。

 

部屋の戸を開けて中に入る。中は綺麗に片付いていた。床には家具以外落ちているものもなく、ゴミが散らかってもいない。というか、綺麗にしすぎです。基本ゴミだらけのわたしの部屋とは大違いです。

 

なんか人間として負けているような……ムカつきます。帰ったら部屋の掃除しよ。

 

さて、ではベッドは……あれ? 

 

部屋を見渡しベッドを探す。あった。床に布団という可能性もありましたが、ベッドでした。しかし。

 

「布団のダンゴムシが……」

 

ベッドの上に布団のオバケがいた。いや、織斑一夏が布団をすっぽりと被って丸まっているだけなんですけどね?

 

なんと寝相が悪い。あ、いえ。そんなわけないですよね冗談ですよ。

 

音を立てずにベッドに近づく。すると布団の中から、

 

「ゴメンナサイ………ゴメンナサイ……ぐすっ、………ご、ごめんな、さっ……ぐすっ」

 

すすり泣きながら謝罪を繰り返す織斑一夏の、寝言が聞こえてきた。

 

………うわー、トラウマの根が深ーい。

 

はっきり言いましょう。イラッとした。

 

なんだこの負け犬っぷりは。見ていてイライラする。全部自分が悪いんですー。謝りますから許してくださーい、てか!? 

 

あれ、なんだろうこの思い。今すぐ殴りたい。踏みつけたい。もう布団剥いじゃって襲っちゃおうかな。泣き声を鳴き声に変えちゃうようなことをしてやって……いやいや何考えてるんだおい。

 

とにかくこいつをなんとかしよう。寝言でうなされてるって、まるで自分が助かったことが嬉しくないみたいじゃないですか。つまりわたしの両親に余計なことするんじゃねえよと言っているわけですか!?(ひどい曲解)

 

とりあえず布団を剥いで織斑一夏を発掘しよう。布団を掴んで声のする方からをめくります。すると出てきたのは体育座りのような体勢で小さく丸まって寝ている織斑一夏の姿でした。

 

このまま殴り飛ばして起こしてやろうかな? え? 駄目? うん駄目。なんて自問自答しちゃうくらい葛藤がありましたが、ぐっと堪えます。

 

「千冬ねぇ……帰ってきて……寂しいよぉ………恐い」

 

こんな事を言うから、卑怯なんだ。

 

それはわたしの言葉だ。願いだ。一人が嫌で、一生そうであるわたしの、口に出せない泣き言だ。それを吐き出すこの男の軟弱ぶりに腹が立つ。

 

でも、この弱さも人間だ。辛いことを嘆くことも出来ないことはそれだけで異常なんだ。強さも弱さも併せ持ち折り合いをつけて生きてゆく。それができる人間の心こそ面白く、見ていて飽きない。

 

だからこそ、わたしは『ALICE』を造ったのかもしれない。ココロを創るプログラムを。

 

ひとりは嫌で、友達が欲しい。その為の手段がこんな作り物だというのが滑稽で虚しい。でも、自分に出来るのはそれくらいだ。自分には技術しかない。考える頭。作り出す手。健康な体。両親が残してくれたもので出来ること。それ以外、わたしにあるものなんて……。

 

……………いや?

 

あるじゃないか。

 

ここに。

 

両親が、命懸けで、守った。

 

織斑一夏が。

 

ならばこれはわたしの財産だ。両親が残してくれた遺産。相続権はもちろんわたしにある。そうでしょ?

 

この弱くて情けなくて脆い同い年の男の子はわたしのモノ。

 

「あは、ははは、は」

 

うなされ、寝言で苦しみを訴える織斑一夏の頭を撫でる。起こさないように、安心するように。

 

すると不思議なことに彼は静かに眠り始めた。呼吸は規則正しく、寝息は静かに。

 

コレを傷つけるものは排除しよう。誰にも泣かせない。触らせない。だって、それは全てワタシノモノ。

 

「ふ、ふふ、ふふふふふ」

 

笑いが止まらない。口元がにやける。あぁ駄目だ。

 

愉しくて嗤わずにはいられない。

 

だって、

 

 

ようやく生きる意味を見つけることができたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからがわたしの、本当の意味での始まり。

 

一晩で決めて今も続けていること。

 

織斑一夏のベッドで今日もわたしは彼の寝顔を見る。もう、不安も涙も見せない穏やかな顔。

 

コレを壊してやりたくてゾクゾクする。

 

IS学園の織斑一夏の部屋。そのベッドの主を自分の膝を枕にして眠らせその頭を撫でる。

 

今日も今日とてこの男をいたぶれた。

 

あの日から色んなことがあったものだ。

 

織斑家に様々なものを仕掛けて織斑一夏の行動を監視した。私物を盗んだ。時には邪魔をし、または助けた。あのツインテール、鈴が織斑一夏に何かしらのことをする時は、人のモノに触れるなと苛立ちもしたがむしろ良かった。さすがに姿を隠したままだとできないことも多かったから、腐っていく織斑一夏を立ち直らせるのにわたしだけでは無理だった。それでもやはりむかついたが。

 

でも、そんな鈴が中国へと転校すると決まったときでも織斑一夏は今だにトラウマから立ち直っていなかった。だからその時はわたしが直接手を出した。

 

 

鈴の出国を見送るのを嫌がった織斑一夏を、無理矢理バイクに乗せて空港まで運んだのだ。

 

 

正直に言おう。やりすぎたと思う。下手をすればまたトラウマが刻まれるところだったと思う。

 

でも許せなかったのだ。

 

織斑一夏は自分の周りから誰かが去っていく行為に臆病になっていた。顔も知らない両親。家を空ける姉。自分たち姉弟を蔑む声。それらが全部彼を苦しめ、臆病にしていた。

 

だから、遠くへの幼馴染の引越し。別れが嫌でそれに目を背け、当日に家にひきこもっていた。

 

それをわたしが無理やり連れ出した。部屋に押し入り、首根っこ掴んで愛車であるバイクに乗せて空港まで走った。

 

その時の織斑一夏は酷かった。わたしの背中で文句と言い訳と泣き言を繰り返し、体に回した腕は震えていた。別れが怖かったのだろう。その瞬間から逃げ出したかったのだろう。

 

だけどわたしは許さなかった。

 

わたしが欲しかった友達を持ち、その別れから目を背けるなんて贅沢をさせるつもりはない。自分が持ってないものを捨てるような行為、それが許せなかった。だから実力行使に出て怒鳴りつけた。

 

 

「お前ふざけんなよ!? 散々世話になって迷惑かけて、それで最後は知らんぷりってどんな恥知らずだ!! その根性叩き直してやるからさっさと来いこの愚図!!」

 

 

一発殴ってそのまま、だ。我ながら酷い。

 

でも、バイクに二ケツ。運転手は未成年。それを警察が見逃すはずも無く、地元の暴走族にも目を付けられたのは傑作だった。空港に向かう道すがら追いかけっこがあったのだ。その最中の織斑一夏の怯えっぷり。必死にわたしの体にしがみつく様は嗤いしかなかった。

 

もっとも。そのおかげでわたしの髪は織斑一夏の涙とヨダレと汗でぐちゃぐちゃになって酷いことになってしまったが。

 

………だから切った。バッサリと。おかげで腰まであった髪は今では肩口までしかない。まぁそれでいい。おかげで今でも織斑一夏にはその時の金髪少女がわたしだとバレていない。

 

あれ? そもそも、家宅侵入した謎の少女に暴行されて空港まで拉致される、なんてことがあったのに件の被害者である織斑一夏はよくもまぁその後平気で過ごしたものだ。

 

そう。どういう理屈か走らないが、その時から織斑一夏は『今の』織斑一夏になったのだ。鈴や五反田からすれば元に戻ったと言ってもいい。何が彼を立ち直らせたのか、それはわたしにもわからない。ずっと見てきたのにそうなのだから、やはり人間の心というものは面白い。

 

「ほんと、飽きさせないですねぇ」

 

「うぅ……真季奈ぁ……すきだぁ……」

 

おや。

 

最近、また新しい寝言が増えた。でも知らない。誰にも教えてあげない。

 

織斑一夏はわたしのモノだ。

 

血も肉も骨も。髪の毛も全身のうぶ毛も切った爪までも、ぜーんぶ。当然、そこには子種も含んでもいい。

 

この男を傷つけるのはわたしだ。苦しめるのもわたしだ。追い詰めるのもわたしだ。彼を不幸にし、幸福にし、人生を弄ぶ。それら全てがわたしの所有物であり権利。

 

誰にも邪魔させない。だれにも渡さない。これは一生、わたしが死ぬまで続き、わたしの許可なく死ぬことも許さない。

 

この男を殺すのはわたしだ。いじめていじめて、ずーーーーっと、飼い殺してあげる。

 

だからわたしは今日もこう言ってやるのだ。

 

「この変態。ばーか」

 

 

 

 

 

 




今回書いたのは真季奈視点での過去ですが、この話しの一夏視点も書いてみたいですね。

後半の一夏と鈴の別れ、真季奈のお節介は真季奈の独白という形で全部カットしました。これだけで一話作れる濃さだったので。上記のように、いつか一夏視点で書いてみようかなと思います。

今回、真季奈が五反田弾と仲良さげですが、実はこれ、ある裏設定があったんです。

なんと、当初の真季奈の恋人候補は五反田弾でした! これはその名残です。

いやね? 好きな女の子が親友に取られる展開で織斑一夏に大ダメージを、という案があったのですが、もうその時点で色々終わるな、とボツになったんですハイ。

真季奈がロングヘアーからセミロングになった訳。ズボラな引きこもりが部屋の掃除だけはするようになった訳。織斑一夏をいじめる理由など、色々書きました。

でも何よりこれが書きたかったんです。

織斑一夏のトラウマ。

や、ね? 誘拐されたり姉に迷惑かけたりで、なんで原作の一夏は平然としてるの? と疑問でして。神経が図太いのか、そんなところまで鈍感なのか? と。

だからこの作品では思いっきり心を折ってやりました。


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