IS  復讐のデウス・マキナ   作:ぷらもん

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夏といえばバイトですよね。


一夏、バイトする

「頼むデウス。バイト紹介して」

 

『なんだよ急に』

 

それは織斑一夏の自室、1025室での出来事だった。

 

時刻は夜。デウス(犬)がもう寝ようかというときにその言葉は発せられた。

 

発したのは部屋の主、織斑一夏だった。

 

「ちょっと金欠で……すぐにまとまった金が欲しいんだ」

 

『穏やかな理由じゃないな。借金でもこさえたか?』

 

学生が短期間で大金を欲しいという。その言葉にデウスは訝しむ。

 

「いや借金とかじゃなくて……単純にお金が足りないというか」

 

『? 何か買いたいものでもあるのか?』

 

「ほら、真季奈さ。デュノア社の社長になったりISがパワーアップしたりしたじゃん? だから何かお祝いをしたいなーと思ったんだけど」

 

『あぁ、確かにそれなら突貫で先立つものも欲しいわな』

 

多忙な真季奈は日本とフランスを何度も往復する生活をしている。今は日本にいるが、いつフランスに赴くかわかったものではない。

 

『確か、次にフランスに行くのは三日後だったな。なら、働けるのは実質二日ないし一日ちょっとか……』

 

「やっぱ厳しいかな?」

 

短期間で金を稼げるほど世の中そんなに甘くないものである。

 

しかし。

 

『よし、分かった。なんとかしてやろう』

 

「ホントか!? サンキューデウス!」

 

デウスは言った。任せろと。

 

しかし一夏は知らない。

 

これが彼の地獄の始まりだということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デウスに紹介された仕事。それは飲食店の臨時ウェイターだった。仕事内容はお客さんのところへ注文された品を運ぶこと。それはいい。

 

問題なのは。

 

「なんでメイド服!?」

 

「ダメだよいっちゃん! もっと可愛らしくしなきゃ☆」

 

黙れ女装ショタ!

 

ここは商店街の外れにあるバー。しかし、客層が一部マニア向けの特殊な店だった。

 

そう、男の娘ウェイターが沢山いる、そういった趣味の殿方向けのお店なのである!

 

………帰りてー。

 

「時給一万円だよ?」

 

「精一杯働かせていただきます」

 

世の中世知辛いのである。

 

ちなみに今日のバイト時間は四時間の予定なので、終われば一日で四万円が手に入る。デウスさんマジパネっす。こんなバイトよく見つけてきたな。

 

「わからないことはメッちゃんに聞いてね☆ 先輩が色々教えてあげるよ!」

 

「お前ここで働いてるの!?」

 

この女装ショタ、デウスである。体の小さいショタに変身し、声も少年のように高いものになっている。格好はミニスカートのメイド服で足は白いストッキングをピッチリと履いている。十人が女の子と言えば十人がそう信じてしまうような男の娘だ。店での名前は柴女黒ノ子。店での名前は『メッちゃん』。

 

俺のあだ名は『いっちゃん』だ。源氏名? なんのことでせうか?

 

「というか、いい加減働けバイト」

 

「あ、ゴメンナサイ。というか、急に素に戻るのな」

 

自分の姿にツッコミばかり入れてたら普通に怒られた。当たり前か。そういう時はデウスも普段通りの口調に戻るからややこしい。あのぶりっこが演技だということがよく分かる行動である。

 

「ほら。ホール行って、客の注文聞いて来い。ちょうど今新規の客が入ってきたから接客もかねて行け」

 

「………接客って何すればいいんだ?」

 

「……あー、しょうがねーな。じゃぁ手本見せてやるからちょっと見てろ」

 

そう言ってデウスことメッちゃんは厨房から客のいるホールへと歩いていく。

 

今更だが、この店はビルの二階にある。なので店の入口は客も店員も同じ一箇所のみ。席はお一人様用のカウンターと団体用のソファータイプがいくつかある。

 

あれ? ここってもしかしてバーていうよりクラブ? 

 

ということはまさか……。

 

「おかえりなさ~い! お姉ちゃーん♥」

 

「「「キャーーーー!! なにこの子カワイイーー!!」」」

 

メッちゃんが営業スマイル全開で向かったソファー席にいたのは四名のお姉さま方だった。成程、この店では女性のお客様はお姉ちゃんと呼ぶのか………大丈夫かオイ。

 

………あれ? よく見たらお客さんって女の人だけじゃないぞ? 向こうの席にはガチムチのオッサンもいるし、恰幅のいいハゲ頭のおじさんに髪の毛が貞子みたいに伸びまくった女の人もいる……客層が濃すぎる!! なんだこの魔窟は!?

 

「ね、ねぇ貴方名前はなんて言うの?」

 

「メッちゃんだよ?」

 

「ハァッ、ハァッ、メッちゃんは何歳なのかな~?」

 

「メッちゃんは三歳でーす」

 

「こ、この子男の子なのに身体細ッ!? 本当に女の子みたい!?」

 

「リアル男の娘キターーーーーッ!!!!」

 

「お姉ちゃんたちぃ、メッちゃん可愛い?」

 

「「「カワイィーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」

 

「メッちゃんジュース飲みたいなー?」

 

「「「ジャンジャン頼んじゃうーーーッ!!!」」」

 

アイツやべぇ!!!

 

とんでもないぶりっ子だよ! 媚売りまくってるよ!! 手馴れてて怖いよ!! あと確信した! この店に来る客は間違いなく頭に『腐』がつく奴らだよ!! 違うとしても取り返しつかない性癖してるよアレ!

 

「というか、俺もあの魔窟に行かなきゃならないのか?」

 

こえぇぇぇ。俺あんなの無理! メイド服を着てたって中身は男だもん! いっちゃんわかんない! 

 

「いっちゃん、ご指名だよー」

 

ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!

 

来てしまった。とうとうこの瞬間が訪れてしまった。

 

俺は重い足取りで指名されたお客様の席に向かう。果たしてそこにいるのはお姉様か、それともお兄様か……。どちらにせよ、俺の中で大事なものが失われること間違いなしだった。

 

案内されたのはソファー席だ。そうか、団体様か。大勢によってたかってもみくちゃにされちゃうのか俺……。

 

「ど、どうも……ご指名いただいたいっちゃんで~す」

 

席の前で頭を下げて挨拶する俺。そして頭をあげる。お相手はお姉様かそれともお兄様、どっちだ!?

 

「ぶふぉwwwww!! ほwwんwwとwwにメイドやってるしwwwwマジうけるwwww!!」

 

愛しの真季奈ちゃん登場です。

 

「きゃぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

あんたなんでいるの!?

 

 

 

 

 

 

 

どうもー。真季奈ちゃんです☆!

 

今日は夜のクラブに遊びにきてまーす。

 

え? 高校生がそんなとこ来てちゃダメだって? わたしにお説教とは十年早いです。顔洗って出直してきやがれ!

 

「えっと~? わたしいっちゃんの可愛いとこ見てみたいな~?」

 

「ど、どうしろと?」

 

今わたしの横ではいっちゃんこと織斑一夏がメイド服を来てジュースを注いでいるところです。ホントこの男はわたしを愉しませてくれるものです。マジメシウマテラワロスというやつですね。

 

何故わたしがここにいるのか? そんなのは至極簡単です。というか、疑問にすらなりません。

 

 

織斑一夏の日常は、わたしの監視下にあるのですよ?

 

 

1025室に仕掛けられた盗聴器や監視カメラも全て問題なく稼働している以上、わたしがそれらを駆使して織斑一夏の行動をチェックしていないとでも? こんな面白そうなこと見逃すわけないじゃないですか。

 

しかも。取り付けた発信機がこんなマニアックなお店で反応を示していたら突撃しないなんてありえません!! こんな美味しいネタほっといて腐らせるなんて言語道断なのです!

 

「カラオケでラブソング歌って欲しいな~? もちろん甘甘のやつをひ、と、り、で」

 

「え、い…いやぁそれはちょっと……」

 

「え~? 見たい見たい~! いっちゃんのいけず~」

 

わたしはマイクを持って織斑一夏……いっちゃんの胸板でしなを作ります。そして、

 

「いっちゃんが歌ってくれなかったら~………クラスの皆に愚痴っちゃうかもね~?」

 

「今すぐ歌わせてもらいます!!!」

 

「ちゃんと振り付けもしっかり踊ってくださいよ~」

 

涙目で女の子ですらドン引きするような歌詞のラブソングを踊りながら歌い始めるいっちゃん。それにつられて店の中は大変な盛り上がりを見せますがわたしはおかしくてたまりません。

 

「動画撮影開始~~っと。あとカメラで写真撮って、歌も録音して~~♥ いや~こりゃいいわ~。高く売れるよね~」

 

いっちゃんを辱めてわたしの懐も潤う。なんと素晴らしいWin Winな関係なのでしょう。あぁ、神様ありがとう! 

 

……神様と言えば、デウスは……?

 

「真季奈~……う、歌い終わったよ?」

 

「あ、ごめんなさい。聞いてませんでした」

 

「ちょっともおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!??」

 

「安心してください! ちゃんと撮影済みです!」

 

「何一つ安心できねぇよ! むしろ不安の種でしかないから!!」

 

「え? 心配しなくてもちゃんと学園の皆さんと一緒に視聴しますよ?」

 

「どこに安心する要素があると!? それもう公開処刑だよね!?」

 

「はは、マジうけるww」

 

「ホント止めてください! 勘弁してください!!!!」

 

涙目でわたしの足に縋り付いてきてますよコイツ。必死ですねぇ。

 

ちなみに、わたしは一人で五人がけのソファーを占領してます。ウェイターというか、コンパニオンというか。それもいっちゃんだけを専属で付けています。他の変態女装野郎なんてお呼びじゃないんですよ。

 

「まぁまぁ、座ってくださいな。というかコップが空ですよ。注げ」

 

「うわ暴君。わかりましたよご主人様」

 

足にへばりついていたいっちゃんを蹴飛ばしてひっぺがします。ソフォーにいっちゃんを座らせて空のコップを差し出して新しいジュースを注がせます。あ、言っておきますけど、ジュースですからね。アルコールなんて一切入っていませんよ? これは未成年が飲んでも問題ないジュースですハイ。

 

「あ、そうだ。織斑先生も来てますよ?」

 

「ちょっ!?」

 

「身内バレ、それも高校の担任にバレるとかすっごい羞恥プレイですご馳走様」

 

「貴方すっごい笑顔ですね!? そんなに楽しいか!?」

 

「はいとっても! ほら、先生はあちら……に?」

 

真季奈がどや顔で向いた方向に織斑千冬がいる、筈なのだが。少し彼女の想定と違う事態が起きていた。

 

「おいデウス。酒が足らんぞもっと注げぇい!!」

 

「デウスさ~ん♥ か~わい~!」

 

「もうボスったら……可愛い格好するなんていけないヒ、ト」

 

「          」

 

なにあの羨ましくないハーレム。

 

メッちゃん、というかデウスは。ナターシャさんの膝の上に座らされた状態で抱きしめられ。右側を織斑先生に、左側をスコールさんにがっちり掴まれて、ほっぺをプニプニされながら身動きが取れない状態になっている。

 

「………アレなんでされるがままなんだろう?」

 

「多分、あまりのショックに思考回路がフリーズしているんじゃないでしょうか?」

 

最近忘れがちになるが、デウスは機械だ。処理が追いつかない事態が起きればエラーが溜まってフリーズもすることもある。アレは酔っぱらい三人の絡みに対処しきれなくなっているようである。

 

「……目が完全に死んでるね」

 

「……きっと先にいたお客さんを押しのけて居座ったんでしょうね」

 

……………………………………………………………………。

 

「飲もうか」

 

「あぁはなりたくないですね」

 

独り身が長すぎて己のエゴを押し通すことに何の躊躇いもない息遅れたちがそこに居た。それも三人も。デウスはその生贄だった。

 

「タスケテー」

 

「何か聞こえました?」

 

「いやぁ空耳じゃない?」

 

この薄情者が!

 

「お客様、そろそろ交代の時間「延長で」……かしこまりました」

 

店員さんがいっちゃんをわたしから取り上げようと訪れましたが、諭吉さんを一人トレードして事なきを得ました。

 

「え~っと、他にも色々してくれるオプションがあるんですね~」

 

「満喫する気満々ですね! ありがとうございます!!」

 

売上は上がりますしね~。

 

「ほう、『男の娘に耳かき』オプションに『肩もみマッサージ』とか『頭なでなでいい子ちゃん』なんてものもあるんですねぇ」

 

「あの、…………真季奈さん?」

 

「とりあえず、メニュー表の頭から逝ってみましょうか?」

 

そう言った真季奈の顔にはとてもイイ笑顔が張り付いていたという。

 

 

 

 

 

 

 

その日のバイトはどうにか乗り切ることができた。

 

結局、俺のバイト時間が終わるまでの間ずっと真季奈に指名されっぱなしだった。俺としては変な客の相手をしなくて良かったけど、俺のバイト代を真季奈が稼いでくれたみたいでなんだかなぁ?と言った気分だった。

 

「ほら、いっちゃん。学園に帰りますよ?」

 

「すいません。バイト終わったんでそれ止めてくれませんかねぇ!?」

 

正直いっちゃんは封印したいです。二度と名乗りません!

 

「え! でも学園に作った『真季奈ちゃん掲示板』でいっちゃんが大フィーバーなんですよ!?」

 

「あんたなんちゅうことしてくれとんじゃぁあああああああああああああああ!!!!」

 

え? もう学園中に広まってんの!? いっちゃんが!? つまり俺の女装メイドが!? ……帰りたくねぇぇ。

 

「なんですかもう。貴方のメイド姿なんて文化祭で披露済みじゃないですか!」

 

「そうだったねちくしょう!!」

 

そうじゃん。俺、思い違いをしていたよ。真季奈にメイド服姿を見られたことじゃない。男の娘専門店で働いてたことがバレたのが問題なんじゃないか!!

 

「ま、まさか……店で働いてたことまでバラしたの?」

 

だとしたらますます帰りたくない。なんかもう、部屋の隣人とかにも変な目で見られそうというか、それ以前にクラス奴らからも余計に変な目で見られそうだ。

 

「失礼な。そんなことするわけないじゃないですか」

 

「へ?」

 

それはとても意外な答えで。

 

「織斑一夏の一番の秘密は、ぜーんぶわたしだけの物なんですよ!」

 

それはとても真季奈らしい答えだった。

 

「よーし、それじゃぁとっとと帰りますか! 『風雲再起』!!」

 

「え?」

 

真季奈が呼ぶ声に応えて、一頭の白馬が現れる。しかしそれは鋼鉄の馬。一角を持つ頭部に背から翼を生やした幻獣。

 

真季奈の専用機のサポートメカ『風雲再起』である。

 

「バイクモード!」

 

それが変形を始める。馬の四肢を折りたたまれ、代わりにタイヤが二つ現れる。バイクだ。白馬は変形して二輪バイクになった。

 

「さ、乗ってください。送りますよ?」

 

「ウワー。姐さんカッケー……」

 

情けないことに、バイクに跨る俺の愛しき人はとても格好よかった。

 

ヘルメットを受け取って彼女の後ろに乗る。振り落とされないように腰に腕を巻いて。なんか、普通逆じゃないか? と思わないこともないが、だって俺免許持ってないし。

 

「………二度目ですね」

 

「え? なんて?」

 

バイクの排気音で真季奈が何か言ったのを聞き漏らした。なんでもない、と彼女が言って『風雲再起』を走らせていく。

 

夜景が溶けていくように過ぎていくのを見ながら、真季奈の背にしがみついていると思い出す。

 

昔、自分が腐っていた中学時代。

 

ある少女の運転するバイクに乗って鈴の待つ空港まで送ってもらったことを。

 

「……二度目だな」

 

あの時の少女が誰だったのかを今なら知っている。

 

そのことをいつか少女に話そうと思うけど、それはまた今度にしたい。

 

今は稼いだバイト代で、その少女のお祝いをすることが最優先だ。

 

その為に何をするのか。今はそれを考えるだけで俺の気持ちは一杯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お客様。もう閉店時間ですが……」

 

「うるせー! もっと酒持ってこーい!」

 

「デウスたーん! ネコ耳でお揃いでしゅねー!!」

 

「ほーらボスゥー? スカート捲っちゃいますよー? それとも、私のスカート捲っちゃいます?」

 

「ダレカ、タスケテー」

 

ネコ耳とキスマークと脱がされかけたメイド服を着て、メッちゃんことデウスは酔っ払いの海で泣いていたという。




真季奈の風雲再起はバイクに変形します。ギミックは三国伝の呂布トールギスが乗っていた赤兎馬と同じです。

いつか一夏の中学時代の話も書きたいですね。


今回書いたクラブのお話。

僕が会社の上司に連れられて入ったクラブを元にしています。アニメオタのメイドさんが一杯のお店でした。なのに、アニメの話題がわかるのは僕だけで、メイドさんと楽しくおしゃべりできるのは僕だけという珍しい構図が出来上がったという事態に。

真季奈は彼氏ができないとホストにハマるタイプの女性です。でも金を持っているから余計にタチが悪いです。誰か貰ってあげて。

千冬達は真季奈に誘われてついて行ったらあのざまです。

やっぱりシリアスない方が書きやすい。

それではまた次回!
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