短いです。急いで書いたので出来の悪さは保証します。
もう十年以上節分してねぇ。
平日の朝。
授業が始まるのを待つ一年一組の生徒たちは皆、教室で席についていた。
……志波真季奈を除いて。
「? おい。真季奈は休みか?」
出席の点呼でそのことに気づいた担任教師、織斑千冬が誰ともなく声を上げる。しかし、それに答える者は居ない。
「(おい? まさか本当にやるのか?)」
「(しかし、現に姐さんは来てないぞ?)」
「(まさか本当にアレの準備をしているのか?)」
そして。その中でひっそりと会話をする者たちが。一夏とラウラ、箒である。
「おはようございます!!」
「「「!!?」」」
教室の扉が勢い良く開けられた。入ってきたのは空席だった志波真季奈だ。彼女は教室に入ると、満面の笑を浮かべてその腕を振りかぶり、
「む? 来たか真季奈。遅刻だ……」
「鬼はーーー外ッ!!」
豆を、投げた。
織斑千冬に。
「「「本当にやりやがったーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!???」」」
パラパラ、と音を立てて豆が床に落ちる。千冬の顔に思いっきりぶつけられた豆。その音の響きが耳にしっかりと聞こえてくるほど、教室は静かだった。いや、息を殺してるのだ。
その、目の前の恐ろしい光景に。
「………どういうつもりだ?」
額に青筋を浮かべ、身体を怒りに震わしながら千冬が尋ねる。真季奈のその行為にだ。彼女はそれを、
「節分ですよ! この鬼教師!」
とてもイイ笑顔で言い放った。
「補修送りになりたいようだなこんガキャーーーー!!」
「さぁ! 愉しい豆まきの始まりですよーーーっだ!!!」
今ここに、仁義なき生徒と鬼の豆まき対決が始まった。
事の始まりは前日、二月二日に起こった。
「セツブン? なんですのそれは?」
「あー」
「ですよねー」
イギリス人、セシリア・オルコットが口にしたその言葉。それはある意味この学園に通う国外からやってきた生徒たちの代弁でもあった。
授業が終わった放課後。一夏や真季奈、鈴、セシリアが学生寮の自室(今日は一夏の部屋)でまったりしている時に上がった話題。『あ、明日って節分じゃん』という誰だったかの呟きをセシリアが拾ったのだ。
「節分ってのは、毎年二月三日に日本で行われる伝統行事のことよ」
そう答えたのは中国人の鈴である。日本に長く暮らした経験のある彼女には当然、といった返事だった。
「伝統行事……何をするんですの?」
「豆を投げるのよ」
「は?」
「いやいや、豆をぶつけるんだよ」
「え?」
「豆を叩きつけて家から追い出すんですよ」
「…………豆を武器に戦う行事なのですの?」
そんなものである。
節分。
季節を分けると書き、今では二月三日と定められているが元々は雑節の一つで立春・立夏・立秋・立冬のその前日を指す。行事としては厄祓いの意味があり、厄災を持ってくると言われる鬼(邪気)を福豆(炒り大豆)を撒きぶつけることで撃退し祓うとするもの。
「まぁ、大雑把にいえばこんな感じですね。ちなみに何故『豆』かというと、魔力のこもった穀物で目潰しを狙い、鬼を滅することから
「はぁ。詳しいですのね」
「今ググりましたので」
「うわー便利」
いい時代になったものである。
「つまりまぁ……家内安全、無病息災を願って行う一種の願掛けですよ。スーパーで買ってきた豆を家の中で適当に投げるだけでもいいですし、本格的な家庭では鬼の面を付けたお父さんが子供から豆を投げられて家から追い出されたりとか」
「あー、鬼役ってなんか恥ずかしいんだよな。恐がらせようとして笑われたりするし」
「そりゃぁ織斑一夏は笑いものですからね」
「おーうちょっと話し合おうか真季奈さんよう?」
豆まきの鬼役は花役でもあり悲しい役でもある。笑顔で楽しく終わればいいが、役になりきれない者は場を白けさせるという苦行。
「もうアレですね。織斑一夏も鬼のパンツスタイルで街を徘徊すればいいんじゃないですか?」
「そこまでの練習をしろと!?」
「え? 普段着でしょ?」
「捕まれと!?」
「やった厄祓い!」
「家からも追い出されとるやないかーい!」
節分で厄祓いと思ったらまさかの家庭からの厄介払いである。
「なるほど。では一夏さん達も明日をのセツブンとやらを?」
そんな会話も切って捨てるセシリアも大概である。が、これくらいは一年一組で生きていくための必須スキルである。
「ん? うーん、どうだろ?」
日本の伝統行事。そう聞かされればセシリアもそうも思うだろう。しかし、一夏の返事は煮え切らないようにそうとも限らないのだ。
「子供の頃は学校とかでやった、よな?」
「う~ん、後は町内会の行事とかに参加したりとかだけど……そこまで本気でやらないわね」
「そうなんですか」
そんなものである。
撒いたた豆は床や地面に散乱して後始末も面倒。鬼のお面を付けて近所を走ればお巡りさんに職質に合う。安全に、合法的に行おうものならそれこそ大きなイベントに参加するか、周りに話を通して許可をとるか。
正直、面倒なのである。
「いえ、やりましょう!」
「「「はい?」」」
ところが、彼女はそうでもなかったようだ。
志波真季奈は悪巧みを思いついたようである。
で。
「待てやこの悪餓鬼!!!」
「やですよ鬼教師! オニババ!! いっきっおっくれ~~~!!」
「シャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「「「怖いから止めて! 煽らないで!!!」」」
教室は、いや学園は戦場と化した!!
飛び交う豆。逃げ惑う生徒。狂乱する鬼。節分である。まごうことなき節分である。
しかし。
ドドドドドドドドドドッ!!! チュインチュインチュインッ!!! ドーーンッ!! キャーーー!!! 衛生兵ーーーッ!! 豆が壁を貫通した!? 避けろォッ! 当たったら死ぬぞ!! 防災ヘルメット! 全員頭を低くして!!!
どこの紛争地域だ。
真季奈が取り出したるは自動小銃。豆を弾丸代わりにしたそれを鬼である千冬に向けて放つ。豆まき? いいえ。豆の乱射です。そしてそれを躱して近寄ろうとする千冬も大概おかしかった。床に溢れ、拾った豆を真季奈に投げ返す彼女。その豪腕で放たれた複数の豆はさながら散弾銃のようであり、着弾した場所は見るも無残なことになった。……豆?
「おい! なんだこれは!? なんだこれは!?」
「あわわわわわわ!!!!」
「豆まき? いいえ戦争です」
「学園の平和は私達風紀委員がッ! あ、無理!」
「諦めるな学園の良心ーーーーッ!!!」
机の下に隠れる者。床をほふく前進で逃げ惑う者。皆、慣れた様子で緊急避難を続けていた。多少の混乱はあるものの、まぁ……いつもどおりである。
「なんなのこの騒ぎは!!!」
「「「会長!!!」」」
そこへさっそうと現れたのは学園の生徒会長、更識楯無である。彼女は教室での授業中、突如騒がしくなった一年生の教室に嫌な予感が沸き上がり駆けつけたのだ。
「真季奈が節分で鬼が織斑先生!」
「分かったわ!!」
「「「スゲェ!!!」」」
シャルロットが涙混じりに叫んだその言葉で全てを理解した楯無。
そう、全てを。
「うん! 私には手が負えないから早めに被害額の見積もり増しましで作っとくね!」
「「「逃げんなぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!」」」
千冬と真季奈の、師と同門の暴走のタチの悪さは世界中で誰よりも知っているのだ。楯無は躊躇いもなくその場を立ち去った。何しにきたおい。
「というか、被害額を増し増しって」
「資金を稼ぐ気満々ですわ…」
万年金欠のIS学園ではビジネスチャンスは逃さないのだ。
しかし生徒会長が頼れない以上、取れる手段と言えば……。
「こうなりゃ……」
「……あぁ」
クラスメイト一同が互いに目配せを交わす。それだけで、皆の思いは一つになり決意は固まった!
「「「あの鬼共を叩きのめすぞ!!!」」」
本当の、節分が始まる。
「ははははっ! 愉しい! 愉しいですねぇ先生!! いえ、鬼バぁ!」
「こんちくしょーー!!!」
真季奈が豆を撃つ。千冬が豆を放つ。すると、学園が壊れる。
学園の、一年生の教室が並ぶ廊下。そこでなんとも高度で、みっともない戦いが繰り広げられていた。そんな様子を教室の中から見る者たちが、二組から四組までの生徒たちがいた。
「うわぁ、真季奈……マジか」
「マッキーには後で賠償金払ってもらわないと」
鈴と簪である。彼女達はこの騒ぎを遠巻きに見ていた。巻き込まれたくもないのだ。
「あれ?」
だが、見つけてしまった。
「何やってんの?」
「スナイパーですわ!」
ISの、ブルーティアーズのスターライトを廊下に伏せて構える友人、セシリアの姿を。ちなみに、豆は装填済みである。
他にも。
廊下の柱に隠れたシャルロットが。
「αリーダからβへ。こちら配置についたよ、どうぞ」
ラウラもだ。
「こちらβ。こちらも問題ない」
箒は。
「おい、マドカよ? 豆を食べるのは最後でだ」
マドカ、拾った豆に目を輝かせて。
「え!?」
一夏なんて。
「あの、俺ほんとにあれに突っ込むの? 死なない? 俺生きて帰れる?」
クラスメイトみーんな。
「「「大丈夫! 頑張れ生贄!」」」
作戦内容が察せられるというものである。
「織斑一夏! 行きまーーす!!」
「「!?」」
廊下で暴れる二人の鬼に突っ込む。特攻である。その姿に気づき、動きを止めたのは一瞬、本当に一瞬。
「え?」
「真季奈ちゃんキーック!」
「あべし!」
互いの戦闘行為の一切を瞬時に取りやめ、そこから素早く相手を切り替える。真季奈がまず距離を詰めた。向かってくる一夏の懐に潜り込み、そこから顎を狙って蹴り上げる。
「死ね愚弟!」
「ひでぶ!?」
宙を舞う弟を姉の非常なる拳が背中に突き刺さり、彼を冷たい廊下へと叩きつけた。
「「あんたらに情けはないのか!!!」」
それをすぐ側で見ていた鈴と簪は恐怖した。なんて容赦のない奴らなんだろう、と。
「今だよ!」
「撃て撃て撃て!!」
「全弾斉射!!」
「銃身が焼き付くまで打ち続けろ!!!!」
一夏が死んだ(笑)その瞬間を見計らい、隠れていた一組の面々が銃器(豆入り)を構えて突入する。無論、鬼を打ち取るために!
二人を取り囲むように廊下の両端に生徒が整列する。構えられた銃口は合わせて四十。全てが二人に向けられて、撃たれた。
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ!!!!!!!!!!
耳をつんざくような一斉射。飛び交う豆。逃げようがない面を制圧した銃撃の嵐。
しかし!
「「一夏バリアーーー!!!」」
「あだだだだだだっだだっっだだだだだ!!!!!!」
「「「この外道ーーーーーッ!!!」」」
真季奈が一夏の足を掴む。そして、乱舞。
「ヒャッハー!」
「いやぁああああああああああああああああ!!!」
「真季奈! パス!」
「ハイ!」
「やめてぇええええええええええええええええええ!!!」
投げ渡す。千冬は腕を掴んで振り回す。
廊下の、豆の嵐の中心で二人は舞う。一夏という小道具を介して、豆を叩き落としながら。
「そんな、一発も当たらないなんて!?」
「どんな反射神経してんのよ!」
「一夏君には全弾当たっているのにね!」
当たらないはずがない。なのに当たらない。常識とか物理法則を無視し、狭い廊下を自由に動き回りながらも振り回す織斑一夏で器物破損がおこることもなし。
Q.なんなのこいつら? A.人外です。
「あ、豆おいしー」
「ちゃんと年の数だよ?」
そんな騒ぎを無視して他のクラスの生徒たちは落ちた豆を食べ始める。ちゃんと食べる豆の量は年齢の数までに抑えましょう。
「くそう! 結局俺はこんな扱いなのかよ!」
真季奈に文字通り振り回される一夏。その言葉には憤りもあったが、どこか余裕すらある。
「おや? もうこの状況に慣れましたか。面白くもない」
「この状況で飽きが来るその感性に脱帽だよ! アンタ何がしたいの!?」
「無論、豆撒きですが!」
「撒いてねぇよ!? 撃ってるし振り払ってるよ!」
「いいじゃないですか!」
涙を流しながら叫ぶ一夏に真季奈は笑う。そしてこう一言言い放つ。
「楽しければなんでも」
「アンタって人はーーーー!!」
志波真季奈。彼女はこういったイベントを楽しんだ事はあまりないのである。幼い頃からの引きこもりも悪かったが、中学時代は監禁されてのIS訓練だ。
だからこそ。
「さぁさぁ! 皆さん! 節分を! 豆まきを楽しみましょうか!!」
「「「いいから大人しくしてぇえええええええええええええええええ!!!」」」
学園中から豆まきという銃撃戦が終わったのは……日付が変わる頃だったという。
豆……まき?
ちなみに出番の無かったデウスは恵方巻きを食ってました。